年下の彼 恋も2度目なら |
年下の彼・恋も2度目なら(ヨザケン) 夕暮れの公園で、有利はコンラートにキャッチボールを教えていた。 「ボールの握り方は・・こうやって人差し指と中指を縫い目に対して垂直に掛けて、間は指一本分な。 親指は軽く曲げてその中心に来るように・・うんそう!コンラッドは指が長いからいいよな。しっかり三本とも 縫い目の上に乗ってるし、後の指は軽く曲げで、後は掴む感じで・。」 コンラートの手を握り、正しいボールの握り方から伝授だ。大好きな野球を少しでも布教(?)しようと教える 有利と、大好きな有利から教えてもらうことなら何でも吸収しようとするコンラート。二人ともお互いの事以外 気にならないようで、よくもこの熱い中できるものだ。 村田は、塾へ行くまで時間が有るので、そんな二人の様子を木陰のベンチから眺めていた。 「で・キミは、いいの?参加しなくてさ〜。」 村田は同じくベンチで二人の様子を眺める、この夕焼け空と同じ色の髪をもった年下の少年に聞いてみる。 「俺はとっくに、坊っちゃんから教わっているんですよ。だから、健さんとここで会った時に、坊ちゃんにキャッチ ボールの相手をせがまれていたんですから。」 そう言われてみればそうだった。じゃぁ、何で今頃コンラートの方は教わっているのだろう?あの有利大好き 少年が、彼のキャッチボールの相手をしていなかったことが不思議だ。 「アイツは、別の習い事をしているんですよ。俺は週一回なんですが、あいつは早く強くなりたいって、2回 通っているわ、日曜日は試合だわで、予定が詰まっていて、中々きちんと教わることがなかったんです。」 なんと、ヨザックもコンラートも武道を習いにわざわざ横浜まで、通っていると言う。なんでも、そこの先生が 渋谷のお母さんの師匠で、中々の好人物らしい。この癖のある二人が素直に教えを請うのだから、 それは本当なんだろう。僕らがそんな事を話しているうちに、二人は正しい投げ方の指導に入ったらしい。 それを、大切なものを見守るようにに眺めるヨザック。その横顔は穏やかで、・・だから僕は前々から気に なっていた事を聞いてしまった。 ー ヨザックってさ、コンラートが好きなんだろ? 一瞬、ヨザックの表情が固まったように見えた。でも、それは一瞬で、僕の方を向いた時には、いつもの おちゃらけ彼だった。 「いや〜〜ん、わかります?」 「うん、いつも目が追っているもん。」 だから、僕もいつもと変わらない調子で答えた。 「やっぱ、健さんはスルドイお人っすね〜。」 「でも、彼は渋谷しか見ていないよ。」 「えぇ、わかっています。」 「そう、それでも好きなんだね・・。」 それに対する答えは、とても綺麗な笑みだった。彼の青空色の瞳が、深くなる。それに、思わずどきりと 鼓動が一つなった。 「ねぇ、君は彼を振り向かそうとは思わないの?」 それが意外だったのか?ヨザックは驚いた表情で僕を見た。ややあって・・。 「えぇ、思いませんね〜。グリエわぁ〜、坊っちゃんも好きだし〜ぃ?」 いきなりグリエちゃんになるなよ〜。それとも、ごまかしたのかな? 「それって偽善?」 だもんで、ついついまた余計な事を言ってしまった。だが、返って来たのは即答で、まったく揺ぎ無い 答だった。まるで、太陽は東から昇るなんていう、当たり前で不変なモノのように。 「いいえ、解っているだけですよ。コンラートの相手は、坊っちゃんしかいないんです。」 それに、俺・・最初にに間違えちゃったし・・ ポツリと、苦い過去を思い出すように、ヨザックが言った。珍しい、彼は自分が親に捨てられた 過去でさえ、こんな表情はしない。 「はぁ?間違えたって何を?」 「うーん、コンラートへの対応の仕方とか??」 何で疑問系で僕に聞くの? 「だから、俺、奴を追い込んじゃったんですよ。それを救ってくれたのが、あの坊っちゃん、 あぁ、敵わないな〜って、最初に思っちまったんで。 俺負けたー!って・・あ、健さん 知らなかったっすよね?アイツ・・コンラッド一回壊れかけたんですよ、ここが。」 といって、ヨザックが胸に手を当てる。 って・・もしかして、心!? ヨザックは、心底後悔しているのだろう、苦りきった笑みが口元を飾る。 「俺わかっていて、追い込んじまって、マジ情けない・・。」 「ヨザ・・」 「ってことでぇ〜、聞いてくれますぅ?ちょっと、奥さん〜。」 オイ待て!さっきまでの暗い表情から、こうも何で切り替えが早いんだい?君はっ!? 「俺ね、施設で育ったって言ったでしょう?ドイツ系アメリカ人の父とイタリア系アメリカ人の母の間に 生まれたんですが、母があばずれでね〜お堅い父の家族と上手くいかなくって離婚。その母も 5つの時に男と蒸発しちゃいましたけどね。それで、近くの教会の施設に入れられていたんですが そこで、変なオッサンと出会いましてね〜。」 ヨザックが、ダンヒーリー・ウェラーに出会ったのは、NYの教会でであった。会社が近くだと言って、 昼休みになると、ランチを取った後、一番前のベンチに昼寝に来るとういう、信心の欠片もない ような、とんでもないオッサンだった。 だが、離婚した妻の元に同い年の息子がいるからか、ヨザックの事をよく気にかけてくれて、 いつしか本当の父親のように感じていた。そんなある日、一週間ほど彼は教会に来なかった。 久々に現れた彼は、ボストンに息子を引き取りに行っていたという。そして、一ヵ月後には 仕事で息子共々、遠い異国へと渡ると言った。 「あぁ、この人も俺を置いていくんだ…って、実の息子が現れたら、俺なんてどうなったって良いんだって…。 他人だから当たり前なのに、裏切られたように感じていたら、あのおっさん!だから、お前も来いって言うん ですよ。若いうちに見識を広めるのは良い事だとか言って、本当は俺の事も心配してくれたんでしょうね。 まったく、素直じゃ無いんですよ〜。あのオッサン!」 それでも、うれしくて・・二つ返事でくっついてきてしまった。そして、いよいよ、日本に渡る半月前に、 施設を出た自分は、コンラートに出会った。 「最初に見た時じは、お人形さんみたいで、これが自分の弟になるのかと思ったら嬉しかったんですが・・ 1日も経たないうちに夢はもろくも去ったつーか・・・。」 何を話しかけても、彼は一切の反応をよこさない。まるで空気のように自分を無視した。 コンラートは、その時既に、心に変調をきたしていたが、ニューヨークで数年ぶりに父親と濃密な 親子関係を築いていく内に落ち着いてきたと聞いていた。最初は、まだ心の調子が悪いだけだと 思っていたが、そのうちに彼が敵意を持って自分を見ている事に気付いてしまった。 「コンラート、アンタな〜いいかげん話くらいしてくれよ。俺達、兄弟になるんだし〜。」 「俺に兄弟なんていない!」 初めて聞いた口がそれだった。 「いや〜カワイクナイーー!とか、おもいましたよ!えぇ、奥さん、マジで!」 「あのコンラートがね〜。意外だな〜。」 「おれも、あの可愛い容姿から、きつい言葉が出た時はヘコミましたよ。」 「あははは、君でもね〜。^^;」 「今思えば、アイツ父親の違う兄弟がいるんですが、どちらとも疎遠になってしまって、ボストンにいた時に かなり辛い目に合わされたみたいで・・やっと唯一の味方である父親の所で落ち着いたって時に新しい兄弟 として俺が現れたもんだから、父親までとられると思ったら、本当に自分が独りになると怖かったんでしょうね。」 しかも、俺とダンパパ仲良しだし〜ぃ♪ でも、当事はそんな事、思いもしなかったし、とにかく可愛くネー奴なんで、そっちがその気なら俺だって!と 思って、大体・・・父親と俺が仲良いからって、そんなヤキモチやいてさ〜。精神に不調たって、良い所の お坊っちゃんだし、きっとちやほやされて育ったお幸せな坊ちゃんが、母親の再婚や弟の誕生で、自分中心じゃ なくなって、それが嫌だとかいう、ガキ臭い我が儘だと思ったんです。ダンパパも、コンラートがどうして心を 壊したか何て、その時は教えてくれてなかったもんでね。むかついて、色々厭味とか言って、そしたらアイツ 無視できなくなったのか、口答えしてくるもんだから・・。 「ほら、反応有ると楽しいじゃない?それまで無視一辺倒だった奴が、結構口悪くてね〜。父親の前と 俺の前じゃ、全然違うんですよ。そうなると、ついつい弄りたくなるんですよね〜。」 「あぁ、わかるよ、コンラートとって、また渋谷と違ったイジリが出来て楽しいよね!」 「いや〜、健さんったら、よく解ってらっしゃる〜♪」 「僕はこの道のプロを目指しているからね〜あっはっはっは!」 ゾクゾクッ!!! 「うわっ!!コンラッド・・今悪寒がしなかった?」 「えぇ!?ユーリもですか?」 「「・・・・。」」 「・・・・・・・深く追求はよそう・・大体出所はわかるから・・。」 と、有利は悪寒の発生源と思われる木陰のベンチにいる二人を眺めた。なにやら、楽しそうに 意気投合している。コンラートもそちらを見て、ブルッと体を震わせると、そのほうが良さそうだと 再び、有利に白球を投げ始めた。 でも、見ちゃったんですよね〜。夜中、泣きながら夢の中で必死で手を伸ばすアイツを、それでいて 昼間なんて、父親の前では何でもないフリして、あぁ、コイツも必死で自分の中に抱えた何かと戦って いるんだな〜ッて思ったら、なんかね〜、助けになれないかな〜なんて・・でも、もう時既に遅し?って 言うんですか?中々煩がられちゃって〜。もう、あの時は、グリエ悲しかったわ〜。くすん。 「とりあえず、腹に溜め込むタイプみたいだったので、怒らしてガス抜きしてやるつもりが、逆効果だったり して。どうしようかと考えあぐねているうちに、あの馬鹿、日本に来て間もないって言うのに、フラフラ外に でて、迷子になっちまって、心配で心配で、見つかって戻って来た時には、思わず殴っちまいましたよ。」 殴ったと言うか、張り倒した後、思いっきり抱きついて泣いてしまった。だって、彼が出て行ったのは 自分のせいだと思っていたから。張り詰めていたのが、コンラートの顔を見たら決壊してしまったようだ。 わんわん泣いていたら、コンラートが困った顔をして『ごめん』なんて、初めて素直に言うものだから驚いて 涙が引っ込んでしまった。その後、いきなり落ち着いたコンラートに自分のほうが、面食らって調子を 崩されてしまったけど・・まぁ、この辺りは、話さなくていいだろう、恥ずかしいから。 「その時、偶然コンラートを見つけてくれたのが、有利坊っちゃんで、保護してくれたのが渋谷家の皆さん だったわけですよ。」 その頃、やつは一杯一杯だったんでしょうね。そこに、言葉も通じない異国で迷子になって、相当の ストレスが掛かちまったみたいで、そこに優しくされて箍が緩んじまって、あいつ坊っちゃん達の前で 静かに壊れていったそうです。それを真正面からぶつかって、食い止めてくれたのが、あの有利坊っちゃんです。 その話を聞いた時、コンラートには、ただ、素直に純粋な好意を向けてやるんだけで良かったんだってね。 真正面から全て受け入れてくれる人が必要だったんだって、事にやっと気付きましてね。俺みたいに、 斜め横からちょっかい出すんじゃなくてね。 「もし、あの時、坊っちゃんではなく俺がいたとしたら、コンラッドは永遠に失われていたでしょう。」 目を細めて、キャッチボールを楽しむ二人を見やるヨザック。その横顔は真剣で、目には強い意志が 宿っていた。 あぁ、だからか・・。 「だから、今・・彼ら二人を守ろうとしているの?君は?」 「うーん、できれば・・ですが。」 苦笑と共に返ってきた肯定。 「君って、ケッコウ馬鹿だよね?」 「ひどーーい!グリエ泣いちゃうぅ!」 「褒めてるんだよ、お人よしってねっ♪」 軽く、年下の癖に自分よりも上背のある額を小突いてやる。すると、今度こそ本当に意外だったの だろうか?目をまん丸にするヨザック。 「プッ!!君、そういう顔するとかわいいよ〜。あははは!」 笑い出した僕に、ヨザックはふくれっ面で、『笑いながら言われても、説得力が無い』と、文句を言う。 だって、おかしいん、だから仕方ないじゃん! 「初恋は、気付いた時に終わりましたけどね。」 あの手を結局、捕ったのは、自分ではなく、有利だった。 「・・でも、そろそろ、次の恋をしようかな〜なんて思っているんですけど〜♪」 次の恋?まぁ、コンラートは、完全に渋谷しか見てないからそうなるか?でも、次って・・。一年以上 思い続けていたのに、そう割り切れるんだろうか?結構、ヨザックは一途だし、だから僕も・・。 「・・・・・・。」 いや、それは置いておいてっ!今はヨザックだ。 「なに?アテでもあるの?」 何気なくを装い聞いた僕に、アテ?と呟くと、ニヤリ・・と笑って、僕に向き直る。 「はい、ここに。」 といって、指したのは・・・僕?? 「健さん、俺のアテになってくださいよ。」 にこにこと、上機嫌な顔で言われても・・。 「今の、本気じゃないよね?」 つい、恐る恐る聞いてしまったら、 「いや、マジですよ。」 って、あっさり返ってくるし〜。 でも、なんとなく、くすぐったい気がする。つい緩みそうな口元を叱咤して引き締める。 何が楽しいのか?ヨザックは、にこにこと僕の顔を見て、笑っているし・・。 「・い・・言っとくけどね!僕は、コンラートより手強いよ。途中で諦めるくらいなら、 最初から止めとくんだね!」 「え・・・それって?」 「じゃぁ、僕、塾に行くからっ!」 紅くなった顔を隠すように、かばんを持って背を向けると。 「いやーん!健さん可愛いぃ〜、グリエ2度惚れしちゃう〜!」 「うるさーい!」 バタバタと遠ざかる背中を見送ると。ヨザックは小さく呟いた。 「もちろん、途中でなんて諦めませんよ。」 Fin 7月8日UP ヨザケンですね。コンユには、もれなくついてくるヨザケン。うちではセットです。W主従コンビです。 |