年下の彼 彼女の宝箱 |
ここは宝箱・・彼女が守る小さな空間。 ツェリは、自分宛に来た封書を抱えて、その扉の前に立つ、首から提げたチェーンの先には つる薔薇の意匠を模した、銀色の鍵。 そっと、扉の鍵穴に差し込むと、ガチャリ・・と意外に大きな音がして、その部屋の扉は開かれた。 淡いグリーンの子供部屋。この屋敷の中ではさして大きくもない部屋だ。ツェリは、窓を大きく開け 中の空気を入替える。窓辺に有る机。そこに封書をおくと、引き出しを開けてはさみを取り出す。 ふと、手が止まり、昔この部屋の主がいたときに使っていたスケッチブック取り出す、そこにはかつて 色とりどりのパステルで、色々な絵が描かれていた。よく、末の息子と一緒にラグに寝転んで 二人で絵を描いていたっけ。できあがると、嬉しそうに二人で走ってきて自分に見せたものだ。 だが、今めくっても・・そこに描かれていた筈の絵はなく、全て黒いパステルで塗潰されていた。 どんな気持ちで、この絵を塗潰したのだろう。この絵は、彼の心・・当事の彼は真っ暗な闇の中にいた。 パタン・・と、スケッチブックを閉じ、元の場所に戻すと、はさみを取り封書を開けた。 中から出てきたのは、異国の文字が並ぶ雑誌。付箋が付いている場所を開けると、10歳の少年が 真っ白な民族衣装であるKIMONOのようなコスチュームをつけて笑っていた。 中に折り挟んであった便箋には、彼がKENDOUというスポーツの大会で、小学生の部で見事優勝 したことが書かれてあった。 写真の中の彼は、同年代の少年達と、優しく見守る大人達に囲まれ、幸せそうだった。 少年達の後ろで見守っている大人達の中に、見知った男性がいた。 ダンヒーリー・ウェラー。彼女の2番目の夫であり、彼女が唯一自分の意思で結婚した相手だ。 3年前、離婚した後、初めて彼に連絡をいれ、二人の間にできてた息子を彼に託した。 正直、手元におきたかった。だけど新しい父親や伯父に疎まれながら生きねばならない此処は、 小さな息子にとって監獄のような場所であったにちがいない。 手放したことへの、胸の痛みは消えないが、そのことは結果的には良かったと思う。 ここにいたら、今度塗潰されるのは絵ではなく、彼自身の心だったろうから。 彼は今、光の中にいるのだろう。 「コンラート・・・貴方、今・・幸せに暮らしているのね?」 彼女がそっと呟いた願いのような、その言葉は風に流されて、淡い空へと溶けていった。 この空はきっと、息子達のいる異国にまで繋がっているのだろう。ならばどうかーーー。 どうか、この願いを彼に届けて欲しい。 幸せに・・・ただ願う母の祈りをーーー。 8月2日UP 彼女の宝箱・・ツェリ様の独白?ですね。ツェリさまは、今でもコンの事を想っています。 お母さんだからね。 |