なぜだ?なぜ コンナコトに? アーーハハハハハハ!!! 狂気に彩られた笑い声を上げるのは、誰よりも大切にしていた少年。 飛び散る血痕・充満する異臭・蹲る大人たちは、その中心にいる 狂気そのものと化した少年を、畏怖と共に凝視していた。 血塗れて異形と化しても、美しくも狂った少年 彼であって彼でない者が、―― そこ に いた。 その少年の名は ―――― 狂気 さぁ、我を恐れよ! 年下の彼・少年との別離編 9-1 「はなせ!あにうえ〜!コンラート兄上ぇ!!」 自分を小脇に抱えて足早に歩く父親に、何度も止まるように頼んだ。離してくれるように頼んだ。 真っ青になって男を凝視していた兄の顔。何か嫌な感じがする。あそこに、兄を置いていってはいけないと。 「ヴォルフラム、いい加減にしなさい、ここから帰るんだ!」 息子の抵抗に手を焼きつつも、父親はこの場所から遠ざかろうとする。 「父上!なぜです、なぜあそこにコンラート兄上が来るんです。なんで、置いてくるんですか!?」 「それがお前のためだからだ!お前のためなんだ、聞き分けてくれっヴォルフラム」 必死に言い聞かせたのは、息子にだろうか?それとも、己にだろうか? 「ぼ・・僕のため?僕のためって何?父上!一体貴方は、兄上をどうするおつもりなんですか!?」 「それはお前が知ることではない、私が知ることではないんだ!」 そう、自分達が知ることはない。4年前にあったことも、今から起きることも―― 「う〜〜ん、そういわれても、教えてもらわなくちゃいけないんですよ?なにせ、彼は僕の患者なんで」 突然割り込んだ第三者の声に、ぎょっとしてその歩みが止まる。 入居者用のエントランスから出ようとしたところを、押し戻される。驚いて見上げた先には、 ひょろりとしたドレッドヘアーのやけに細い男。 「お・・おまえは、いったい!?」 「コンラート君は、僕の患者(予定)なんです。勝手に連れ出されては困りますね〜?」 「こ・・コンラートなど知らない」 「うそだ、兄上はこのビルの上だ」 「ほぅ?」 咄嗟に嘘をつく父親に対して、ヴォルフラムは真実を口にする。それを聞き届けた男の様子が変わる。 ぐいっと、その腕を取ると、まずはヴォルフラムを解放する。そのまま、後ろ手に締め上げる。 人なっつこい笑みは消え、ひどく酷薄な笑みをうかべた男に、ビーレフェルトは戦慄を覚えた。 ― 何だこの男は!? 「ヴォルフラム君といったね?お父さんの携帯電話を、出してくれないかな?」 「は、はい!」 背広の胸元から出された電話を片手で操作して通信記録を見る。履歴には、ムラタケンから聞いていた ウェラー家の電話番号がのこっている。 「これ?コンラート君の家の電話ですね?貴方ですね?彼を自宅から呼び出したのは?」 「くっ・・・」 「呼び出した?呼び出して、兄上をあの男の下においてきたのですか?」 「あの男?」 「おじさん、兄上の味方なんですよね?兄上を連れ出してください!嫌な感じがするんです!」 「どういうことなんだい?」 すると、それに答えたのは、ビーレフェルト氏であった。 「ムリだ……あの男は、表向きは軍事産業のCEOだが・・軍との繋がりはもちろん、裏では政治やマフィア との繋がりも強い、警察もあてにはならない・・我々が どうにも あがなえる相手ではない」 がっくりと、床に座り込むすがたは、巨大財閥を手中にする男とは思えない。 「第一この先は、専用エレベーターを使わなければならないが、それにはパスワードが必要だが それも毎回ランダムに変わる。私に与えられたのは、行きと帰りの2回分・・・それも今使ってしまった」 「・・・わかりました。貴方にはもう少しお付き合いしていただきますよ。聞きたいこともありますし」 そういうと、ドレッドヘアーのやせた男は、携帯電話を取り出した。 待つこと30分という所だろうか?駆けつけたのは、長兄グウェンダル。 そこに崩れている義父と、見たこともない男にすがり付いている弟を見つけ、慌てて駆け寄ってくる。 「失礼、貴方がドクターロドリゲス?」 グウェンダルが ここに駆けつけたのは、勝利からの指示であった。そこに村田の知り合いの医者がいて、 ヴォルフラムとその父を保護しているから、彼らの身元を引き受けて欲しいということだった。 「えぇ、そうです。ムラタケンから依頼されて、弟さん・コンラート君の診察をすることになっています」 もっとも、診察をする前に、患者予定の少年は攫われてしまったようですが。 そう、肩をすくめた痩せ過ぎた男は、ムラタケンの元主治医で、その縁から一度コンラートの診察を 頼むと依頼されていたのだ。それへ、丁度いいからと日本観光がてらに来日にしてみれば、今回の 騒動に巻き込まれたわけであった。 「それで弟は?」 そう尋ねた彼に、ロドリゲスは神妙な顔で首を振った。 「専用エレベーターのセキュリティーを破る必要があります。その為に、今は待つしかないんです」 何を?と、いうグウェンダルの疑問は、遅れてすまない!という駆け込んできた少年達の声に遮られる。 「ムラタさん、こっち!」 すかさずヴォルフラムが、エントランスをかけはじめた。それにだまってムラタが後を追う。 ヨザックがその隣にピッタリと寄り添う、その目は油断なく周りを見つめる。手にはいつの間にか 木刀が握られていた。 村田は、手にした携帯パソコンを扉に取り付けて、なにやら操作している。 「5分だ!それまで待って」 画面には、彼が作り上げた独自のプログラムが動いて、セキュリティーシステムをハッキングしているのだ。 「僕はこのまま、このビルのシステムに介入する。グウェンダルさんは、その人、あぁ、貴方に とっては義父ですね、その人を捕まえていてください。色々問いたださなくてはなりませんから、 有利・ヨザック、勝利兄さんは突入してください。ドクター、三人では大人相手では不安ですから、 援護してくださいね」 「はいはい、人使い荒いね〜、健ちゃんは、僕は観光していただけなんだけどね?」 「立っているのは、親でも使えといいますからね?」 「Oh〜、ジャパニーズ格言ってやつかい?」 「と、いうわけでお願いします、ドクター?」 軽口の応酬ではあるが、村田健が医者というには些か(?)怪しげな男を信頼している様子が うかがえるのを、こんな時ではあるが勝利とヨザックは軽い驚きを覚えた。 渋谷夫妻とダンヒーリー以外に、彼が大人に対して、こんな態度を見せるのは めずらしいのだ。 やがてすべらかな動きでエレベーターの扉が開いた。すぐに、突入隊の4人が乗り込む。 ヴォルフラムも乗り込もうとするのを、村田が有無を言わさずに首根っこを捕まえた。無情にも扉は 閉まり、後は目的の階につくまではあく事はない。 「何をする!?」 「足手まといをする気?」 「なぜ僕が行ってはいけないんだ!?」 「それは、君にも罪があるからだ。彼は君の変わりに差し出されたんだよ。君のお父さんにね?」 「なんっ・・・!?」 「感謝してよ。有利達に言わなかったんだから」 もしも知られたら、君は二度とコンラートとの接触なんて許されないからね。 そう冷たく言い放った村田は、再びパソコンを操作し始める。背後でグウェンダルが息を飲む気配がした。 どういうことだ?そういって、義父である男に詰めよるのも、最早 彼にとっては どうでもいいこと だったのだ。すでに、彼の中で かの一族への対応は決まっているのだから―――― 大切なのは、キミ ――― 僕に未来をくれたあの友人 そして、彼を中心とした温かい居場所だけであった。 そこに最初に飛び込んだのは、有利であった。 「コンラッド!無事かァーー!!!」 勢いよく室内に飛び込んだ足は、その異常な匂いに動きを止めた。それは、本能が彼に命令を 下したのか?それ以上、この奥に踏みこんではいけないと告げたからなのか? おくれて飛び込んできた、勝利・ヨザック・ロドリゲスも、その異変にすぐに気がついた。 専用エレベーターが運んでくれたそこは、ワンフロアーが丸々個人の邸宅であり、それ以上の進入を 拒むべく玄関という厚い扉があったというのにそこは閉鍵もされず、容易に彼らをその内側へと 侵入させてくれた。村田がビルのシステムに介入して、鍵を初めとするセキュリティーを解除して くれたのだろう。 広い玄関ホール、その奥に続く長い廊下、そして奥の扉を開ければ、そこには広々としたリビングが あった。豪華な家具、中央に一見して高級だと知れる柔らかい革に包まれた応接セットが用意されて いて、先程まで客に振舞っていただろう、紅茶のカップが置いてあった。 綺麗な部屋、だからこそ違和感が襲う。漂ってくる匂いは、異臭・・・錆びた匂いとすえた匂い?それに アンモニア臭が混ざっているのか?はっきりいって不快だ。 「坊ちゃん、ここから動かないで」 奥からかすかに聞こえるうめき声に、木刀を持ったヨザックが構えつつ、リビングの奥へと続く ドアを開けた。 「うっ!??」 瞬間に目に入ってきた光景に、咄嗟にヨザックは口を押えた。勝利は、咄嗟に有利に駆け寄り、 見るな!と短く叫んで、その目を覆った。 だが、有利はその漆黒の瞳を大きく見開いて、そこに転がる物を見てしまった後だった。 脳裏に焼きついたもの ―― それは人間だった。 黒い服を纏い、いかにも屈強な男達が有り得ない姿で転がっていた。腕が、足が、曲がるわけがない 方向に曲がっている。なかには、内出血なのか?手が以上に膨らんでいる者もいた。 匂いの元は、男たちの流した血、吐き戻した胃の中身、体液、それと尿だろうか? それらが混ざって、つづく廊下をテラテラと光らせていた。 「コレは一体?」 呟く勝利の声に、有利がハッとした。 そうだ! 「コンラッドーーー!!」 有利は、兄の手を振りほどくと、その恐ろしい光景の中に飛び込んでいった!頭の中にあるのは、 大事な大事な幼馴染。二つ下の可愛くも、最近 男らしくなった少年。 「坊ちゃん!だめです!行ったら危ない」 咄嗟にヨザックがその腕を掴もうとした。だが、衝撃な光景を見てしまい、しびれた手では上手く 有利をつかめない。彼の横を通り過ぎる有利に、勝利の待てという叫びがぶつかる。 だが、有利の頭には、この先にいるだろう大切な彼の事しかない。その足を赤い液体がすくって ゆくが、足をとられながらも踏ん張って転ばずに先に進む。何個かの部屋と廊下、そこに横たわる 人間達を経て、その一番奥にある開け放たれた部屋。 そこは奇妙な空間だった。四方を鏡張りにした部屋。ガラス張りの浴室、中央に置かれた人が5人は 乗れそうなベット。何に使うのか?カメラなどの機材まである。一体ここは何に使う部屋なんだ? その寝室とも言うべき空間で、奇妙に落とされた照明の中、その 白 は、あった。 ベットの上に、俯いて佇む白い影。 ぞくりと、走り抜けたのは恐怖か?なにか? 最初は幽霊かと思った。その影からは生気が感じられず、佇む姿もどこか幽玄を思わせた。 だが、よくよく見ればそれは――― 「コンラ・・・ッ?」 その問いかけに、初めて影が反応した。 ゆらり―― 身体が揺らめいて、ゆっくりとその影は声のした方に、有利の方へと向く。 「!!」 その姿は間違いなくコンラートで、有利は弾かれたように彼へと走った! だが、4・5歩前進した時、彼がゆっくりと有利を見た。 ―― そのガラスのような瞳で 「コン???」 瞬間、有利は違うと思った。コンラートだ、今目の前にいるのはっ!だけれど、彼ではないと、 彼と過した日々が有利に教えていた。 「だ……れ?」 その問いかけに、ニィィィーーっと、少年の口元が上がった。 禍々しい笑みに、有利は硬直した!それは、肉食獣の笑み。 どくん!! 有利の心臓が嫌な風に跳ねた。 にげ‥なくちゃ…… 無意識にそう思った。逃げなくては、コレは良くないモノ。 ちがう、コレはコンラッド! 無意識がそう告げた。なぜ逃げるのだと?コレは大切な者。 彼がベットから降りて、一歩有利の元へと足を進めた。また一歩。また一歩と。薄暗い照明の中で、 イヤに眩しく彼の肌が灯る。白磁の肌に、真紅のシャツの対比が艶めかしい。 あ・・・れ?コンラッド、あんな派手なシャツなんて持っていたっけ? 場違いな感想が、有利の脳内で構成されてゆく。彼は青やモノクロを基調とした服を好んで着る。 たまに、淡いピンクや茶色なども着るが、真っ赤という色は見たことが無かった。 妙に冷静な脳の片隅でそんなことを思う。 コンラートが、あと5歩ほどの距離まで近づいてきた時、有利は唐突に気がついた! 真っ赤なシャツなどではない!?それは、そのシャツは、コンラートが気に入っている白いシャツだった。 それが、彼によく似合っていたはずのそのシャツが・・・・ 今は真っ赤に、染まっていたのだ。 おびただしい返り血で――― 「坊ちゃん!」 「ゆーちゃん!」 「ユーリ君!?」 遅れて飛び込んできた三人も、この異様な部屋に飛び込む。そして、彼らも有利に近づくその影に 気がついた。 なぜ、影だと思ったのだろう?だって、よくみれば、それは間違いなく自分達が良く知っている 彼だというのに? そして、その影が有利に向かって、腕を伸ばした。 「――――っ!!」 声にならない悲鳴が有利から漏れた! 全身を悪寒であわだたせながら、有利はこみ上げる吐き気のために、口を咄嗟に押えた。 コンラートの手が・・・有利の大好きなあの優しい手が・・・赤い雫を滴らせて、彼に向かって 伸ばされたのだった。 それはまるで、悪夢がその手を伸ばしたような、おぞましいほどの美しい手だった。 「―――――…っっっ!!??…や・・やぁぁああ!!!!」 有利の、悲鳴がその部屋に響き渡った!拒絶の悲鳴が ――― 2009年 9月10日UP 今回は、9を二つに分けます。ここからは急展開予定(←おい)。なんか調子が出てきた。 そして皆様はじめまして、黒チビコンさま御降臨〜♪よもや、チビコンで黒が出るとは思うまい。 うふ、当初からの予定通りなんで、けっこう最初からプロットに合った割には、出てくるのに 一年以上掛かった。すまないな、チビブラックコンラート様、しばしご出演予定です。 うう〜ん、コレでいいのか?ご感想お待ちしています。 |