現代パラレル・年下の彼
SAYONARA 5




-- コンラート、兄弟に会う気はあるか?

「俺の兄弟は、ヨザックだけだ!」

ガターーン!と コンラートが立ち上がった拍子 に椅子が倒れた。それを直してやりながら、勝利が落ち着けと
その小さな肩に手を置く。促されるままに、彼は椅子に座ったが、唇をかみ締めて 俯いてしまっている。

渋谷家のリビングには、昼になってダンヒーリーが現れ、渋谷夫妻と勝利と 当事者であるコンラートを交えて、
何故、ヴォルフラムが突然現れたのか、グウェンダルが末弟を迎えに来たことも、二人がコンラートと会いた
がっている事などを話した。

だが、予想どおりというか?コンラートは、反射的にそう叫ぶと、全身で拒否を表した。

有利・ヨザック・村田は、ソファーで待機だ。話を聞くのはいいが、終わるまで口出しはしない約束だ。
「コンラッド・・・・。」
心配そうな有利は、今にも コンラートの元へと行きそうな感じだった。
「有利、こらえるんだ。まずは きちんと大人達との話合いが先だ。僕らの出番はその後・・だから、二人とも
オトナたちの話をよく聞いておくんだよ。特にヨザック、君は唯一のコンラートの兄弟だ純粋な意味で
彼を守れる兄弟は君だけなんだから、感情を抜きにしてきちんと把握するんだ。」
「健さん・・・・はい、わかりました。」
情報は客観的に仕入れろと、村田は言いたいのだろう?ヨザックは、彼の言葉に素直に従うと、一生懸命
話しに聞き耳を立てた。


「いいから聞け、それから良く考えて悩んで答えを出すんだ。否定は簡単だ。でも、今は話をよく聞いて
話をきちんと消化するんだ?大丈夫だ、誰もお前に無理をさせようとはしていないし、一人で背負えとも
言わない、コンラッドお前は俺の弟だ。一人にはしないから安心しろ。」
勝利に頭を撫でられると、コンラートは大人しくなった。

そこで、ダンヒーリーから 昨日のことを、詳しく聞いたのだった。


「父上は、・・・・俺をシュピッツヴェーグに返すの?」
「馬鹿か!可愛い息子を、誰があんなところに戻すか!お前は俺の息子だ。何があってもやらん!!」
「だったら、どうして そんなことを言うんです!」
「お前が大切な息子だからだ。・・・コンラートお前が望まなければ、私がお前の盾になって彼らとは
会わないようにしよう。だが、お前は咄嗟とはいえ、ヴォルフラム君を助けた。それはお前の中に、
まだ彼が弟として息づいているからだ。 だから、もし、彼らとの仲を修復できるチャンスが今なら、
俺は お前がチャンスを掴む妨げには なりたくはない。」

これでも、お前の父親だからな?

「父上・・・ごめんなさい。」
しゅんっと、コンラートが謝る。それをダンヒーリーが腕を伸ばして、その柔らかい茶色の髪を撫でる。
「お前は、俺の宝物だ。」

コクンと我が子が頷くと、ダンヒーリーは よしよしと、笑う。その顔はヤッパリお父さんなんだなーと、
有利は改めて思った。




「さて、これからは、お前が自分で考えるのだけれど、一人で考えても グルグルするだろう?ヨザック!
相談相手になってやれ。なにせ、コンラートの兄弟は、お前だけだそうだからな。いや〜、四年前に比べると
仲良くなったなお前たち!あーははははは!」

そういえば、四年前の出遭った頃は、二人とも険悪そのものであったんだっけ?

当時を思い出して、二人揃ってしかめっ面を作った。その様子が見事に一緒なものだから、大人達は
大爆笑してくれたのであった。



その後、コンラートと勝利が ソファーに戻って、子供会議をすることとなった。
勝利がテーブルにきれいな青い花を置いた。そして、美子が子供たちに おやつを持ってくる。
コーヒーと一緒に持ってこられたのは、恐竜の型のチョコレート。

「うわぁ、これすっげーー!リアル!」
「・・・・これ・・・・ジェニファー、このチョコ誰が持ってきたんですか?これは、ボストンにしかないはずです!」
「だったら解かるでしょう?これが誰が、貴方のために持ってきたのかは?」
「まさか・・・・グウェン‥ですか?」

コンラートが このチョコを好きなのを知っているのは、あの兄くらいである。なぜなら、元々彼がコンラートに
与えたチョコレートだからだ。そうだ・・まだ小さい頃、ウサギだネコだと色々な形のチョコレートを彼に
買い与えて、そのリアルな形にコンラートが喜ぶとそれを静かに見ていた。とくに、お気に入りだったのが
恐竜シリーズやライオンなどのアフリカの動物シリーズだ。

覚えていてくれたのか?当の自分でさえ、忘れていたものを・・・。

「そしてこの花が、大地立つコンラート・・お前の母親が品種改良した花だ。」
「母上が!」
「これをもってきたのは誰か覚えているか?」
「あ・・・・たしか、ヴォルフが・・こんな色の花を持っていたような?」
鉢植えの花を持ってくるには、検疫などが大変なのだ。土の中に病気や虫はいないか?根には?茎には?葉には?
花には?細かく調べられ、数週間かけて許可が下りるのだ。

それを、アメリカから一人で持ってきた後も、日本でも持ち歩いて、いつコンラートに会えても渡せるようにと・・。

「ヴォルフは、家出をしてきたと?」
「あぁ、そうだ。お前と同じ年になって、大きいと思っていた兄が、実際は年端も行かないような子供であったと
気がついたそうだ。それで、お前に謝りに来たみたいだな。」
「なんで、俺の居場所が?…母上ですか?」
「いいや、雑誌を・・・うちのお袋が送ったのを、グウェンダルさんが見て、その情報がヴォルフラム君に
渡ったらしい。」
「雑誌って?-- あぁ、剣道?」
「で、ヴォルフラム君は、横浜に訪ねて行って、兄弟ということで大師匠たちがこの住所を教えたんだと。」
「「大師匠が!?」」
「あんの、おやじぃぃ〜〜!」
「まぁ、まて。ということは、弟君は大師匠のお眼鏡にかなったということだ。アノヒトが、コンラートに
会わせても大丈夫だと判断したなら、俺も大丈夫だと思う。」

たしかに、大師匠の人を見る目は確かだ。
なにせ、渋谷家で一番勘の鋭い美子の師匠なのだ。信頼にあたいする人物である。


「で・・も・・・・。」
きゅっと、コンラートが、隣の有利の服を掴んだ。その手が僅かに震えていることを、有利は見逃さなかった。

「コンラッド、躊躇するってことは、会いたい気持ちはあるの?」
「ユーリ・・・。」
「スッげー可愛がっていたんだって?逢いに来たって事は、コンラッドの心がちゃんと弟に伝わって
いたって事だろう?とりあえず、それは良かったよな?」
「そう・・・でしょうか?」
「コンラッドの真心を、その子が受け止めて覚えてくれていたって事だろう?うれしくない?」
「・・・でも、ヴォルフは・・・。」
いつもは、有利の言うことは素直に受け止めるコンラートが、珍しく異を唱えている。村田がヤレヤレと、
肩をすくめた。何を恐れているのだろうか?

「あのね?コンラート、理解できるようになるまで、多少時間が掛かるのは仕方ないんだ。そもそも、経験値が
大人に比べて圧倒的に少ないんだよ?子供って奴は。でも、君の弟は4年かけて理解して、自分が悪いからって
君に謝りに ここまで探してきた。7歳の子供にしては、よく出来ましたって所じゃないのかい?」

すべては、君が好きだからだと思うよ。

「すき・・・?おれのこと?」
村田の言葉に、コンラートが恐る恐るといった風情で顔を上げた。その顔には、まだ信じられないという
気持ちがありありと出ていた。

認めるのが怖いのだろう、一度信じていた弟との絆を、当人に引き裂かれてしまったのだ。
もう一度信じるのは怖い。・・・失った時の心の痛みを まだ覚えているから。

「今更だよなっ!俺は、お前の母親方の兄弟って奴は嫌いだ!!すッげー気に食わない!!」
ヨザックは、ダン!!とテーブルを叩いて抗議する。
「だって、コンラッドの一番大変な時に見離して、やっと回復してきた時に今更心配していましたって、
そんな都合がいいの許せねーよ!お前もそう思うだろう?ふざけんなって、文句もいいたいよなっ!?」
ヨザックは、怒りをあらわにすると、コンラートの肩をばんっ!と力強く叩く。

「怒りたい気持ち・・・?」
あるんだろうか?あったんだろうか?当時を思い出しても、怒りたい気持ちがなかったような気がする。

「怒りたい・・・ふざけんなっていう気持ちはなかったのか?」
ふるふると、コンラートは首を振った。

おや?と、四人は思った。普通は怒らないか?そう思って、ヨザックが わざと怒ってみせたのだろう?
そうして、コンラートが心に鍵をかけている当時の感情を解放しようというのだ。そして、例え文句で
あっても、兄弟にぶつけてみれば、そこからやり直す道が開けるのではないのかと思ったのだ。
しかし、コンラートは、そもそも怒りをもっていないという。 村田は考える……何かが引っかかると。


「では、どんな気持ちがあったんだい?」
「どんな?」
「悲しかったとか?」
コンラートは、村田に聞かれて考える。余り覚えてはいないけど・・。

-- カナシイ? は、あった。 悲しかった。あの時・・とても悲しかった。

だから、こくんと頷いた。

「どう悲しかった?何が悲しかった?」
「ヴォルフが・・・・。」

そうだあの時、汚いって・・・おれは汚いっていったんだ。

『そうだ、オマエハ汚イ 穢れた 存在ナンダ --- 』

「あ・・・・?」

頭に、声が響く・・罵る声が!!!

迫り来る大きな手、それから逃れようとするが、逃れらる場所なんてなかった!

『サァ、コッチニ イイジャナイカ オ前ハ スデニ……』


「いや・・・いやだ・・・やめっ!!」
ガタガタと震え始めたコンラートは、必死に耳をふさぐ!

「いや、聞きたくない!!いやだ!!」
必死に逃れようと、コンラートが蹲るのを、勝利が引き起こす!

「コンラート!大丈夫だ。ここには、お前を責めるものも、虐めるものもいない。有利!」

そのまま、弟にコンラートを渡す。有利はコンラートを受け取ると、膝の上に座らせて抱きしめる。
同じくらいの体格のはずだ。多少は、コンラートのほうが小さいが、それでもほぼ同じくらいの体格なのに、
今有利の腕の中にいる少年は、とても小さい。ぎゅっと、体を小さくて必死に何かから逃げようと もがく。

「うん、大丈夫。コンラッド落ち着いて。」
すがりつく年下の彼を、有利は穏やかに受け止める。昔は狼狽した事もあったけど、受け止めてあげることが
一番彼が落ちつくのだとわかってからは、いつもしっかりと抱き込んであげるのだ。

すると、段々とコンラートが落ち着いてきて、ぎゅーーっと有利に抱きついて彼の香りを吸い込む。
それでやっと、ここが一番安全な場所だと認識するのだろう?スリリと擦り寄ると、それで大人しくなった。

-- やはり、おかしい?

村田は、その様子に違和感を覚えた。これが、弟に拒絶されただけで起こる症状なのだろうか?と・・・。

コンラートは普段から有利にベッタリなところがあるが、それは有利を好きだから一緒にいたいという
意思表示だ。同時に、年下である自分を気にしており、有利に頼ってもらえるような男になると、日々鍛錬を
かかさない。なおかつ元々の性質のあるのだろうが、しっかりとしていて小学校では生徒会をこなすなど、
リーダー気質を発揮している。 はっきりいって、こんなに赤ちゃんのように甘えるような子供ではない。

どちらかといえば、有利に甘えてもらいたい願望が強く、有利が子ども扱いすると怒るのだ。
なのに、こんなに全てをゆだねて、赤子のように無防備でいられるのだろうか?

「ヨザック、なんか?コンラート・・・。」
「あぁ、健さん初めて見ました?そういえば、ここまで酷いのは無かったか?でも、最初の頃は割合こうなる
事が多かったっすね?坊ちゃんが側にいなくては、怖くて眠れないとか?」
「・・・・・それ・・は?」

「有利、今日は もう無理だな?コンラートは、お前の部屋に連れて行こうか?」
「うーん、だな?コンラッド、二階に行こう?自分で歩けるか?」

ぎゅむ〜〜〜〜!!!

「・・・だめみたい。」
「こーら、コンラーート?ゆーちゃんから、ちょーっと離れろ。」
「う〜〜。」
「唸るな!お前は犬か!!」
仕方ないと、勝利はコンラートをべりっと弟から離し、肩に担ぐと荷物のようにさっさと2階へと運んでしまった。
その後を、有利も普通についていく。なれているな〜〜と、思わず感心した村田であった。

弟の部屋につくと、肩の荷物をベットに下ろす。そして、後は頼むと、弟を残して兄は階下へと戻った。
有利がベットに近づくと、すぐにコンラートが手を伸ばす。

うるうると瞳が潤み、頼りなげな様子で有利を求めるコンラートに、なにやらムズムズとしたものを感じた。
コンラートの細い腕が首に巻きついて、有利を引き寄せると、二人してベットに沈む。
鼻腔をくすぐるコンラートの匂い。ぴったりと体を密着させているせいか、妙にドキドキするのは何故だ!?

-- くっつきすぎているせいだよな?

有利は少しだけ、体を離そうとした。すると、なに?という風に、コンラートが見上げてきた。超至近距離での
お星様キラキラの瞳は・・・破壊力絶大だっ!!

-- ばっくんばっくん!!心臓がなるぅぅ〜〜。

やばい、おれ変!おれ変ですよー!なんでコンラッド相手に、今更ドキドキするんだ。落ち着け!
渋谷有利原宿不利って、原宿つけた時点で落ち着いてないーーぃ!

「ユーリ、なんかバクバクいっているよ?」
そっと、コンラートが、有利の胸を触った。

どっきーーん!!

「う・・・うん、ちょっと・・おかしいかも・・なんだろう?」
「ユーリが、おれと一緒にいることで、ドキドキしてくれたら・・うれしいな。」
「コンラッド?」
少しだけ体を浮かしたコンラートが、有利を上から見つめる。

「一緒にいて・・・。」
じ・・・と見つめる目が、有利の心を波立てた。

「うん。コンラッドも、おれから離れるなよ。」
「俺が貴方から離れるわけがない・・。」

「約束…だったもんな、ずっと守れよ。」
「はい、もちろんです。」

コンラートの顔がゆっくりと近づいて、誓いの印のように・・・有利の唇に己の唇を重ねた。





勝利が降りてくると、村田が なにやら考え込んでいた。

「どうした?」
「えぇ、何か おかしいと思いませんか?」
「なにがだ?」
「コンラートです。あのコンラートが、弟の拒絶だけで壊れるでしょうか?何かまだあるのでは?」
「何か?」
「はい、もしかして、コンラート本人でさえ忘れているだけで、何かもっと重い物を背負っているように
見えるのですが?弟君はなにか、きっかけになっただけで・・問題が別の所に隠れているとしたら?
弟くんとの和解だけでは、コンラートの 根本的な闇は 払えないのでは? と・・・これは僕の推察ですが。」

-- 根本的な闇?

それのせいで、コンラートは 一生苦しむのか?

「健さん、それは なんですか?」
「わからない、だけどおかしくないか?コンラートは、元々の精神が強い。7歳の子供が孤独に耐えられなく
なって、自殺をすることだってあるよ。けれども、昔ヨザック言っていたじゃないか?コンラートが捕まったのは
絶望よりも虚無の方だって・・・虚無になんて、子供が捕まったりするかな?もっと短絡的な諦めとか自暴自棄だとか
自殺願望にならなかったのかな?」

実際に、過去の記憶を断片的に持っていた 昔の僕ではない僕は、自暴自棄や自殺に逃げた。

「村田、お前・・・・。」
「大丈夫です、僕は線引きが出来ている。自殺してしまった彼女も、自暴自棄で悪い道に落ちてしまった彼も
僕ではないんです。彼らの人生はもう終わっているのですから。」

それでもと、ヨザックが村田を抱きしめた。

「だから大丈夫だって、心配性だな?グリ江ちゃんは・・・。」
「はい、でも、少しだけ こうさせてください。俺が不安なんです。」
「なに?怖かった?」
「はい、少し。」

よしよしと、村田が少し大きな体を慰める。

「村田・・が、そういうなら、まだ 何かあるかもしれないな。」
勝利が、あえて気にしないように、普通に話を進める。それが、過去と向き合う村田への礼だ。

「それでどうする?」
「僕が昔、脳の専門医や小児精神科医に 掛かっていたのは 知っていますね?」
「あぁ。」
「一人だけ、変わった小児科医がいたんです。僕が唯一 信頼できると踏んだ医者です。」

-- 彼を頼ろうと思います。催眠療法を、コンラートに かけてみませんか?

「催眠療法?催眠術で過去に遡らせて、治療するというアレか?」
「さすがはお兄さん、それです。僕も掛かりましたが、腕は確かですよ〜なにせ、10代前くらいまで
遡りましたから〜♪」

10代・・・・それって、どのくらいの年月なんだろうか?

思わず 関係ない興味のにが動いた 勝利さんであった。





「有利、ダメって言わないのですね?」

ちゅv ちゅv

有利の頬に、額に、鼻先に、コンラートのキスが降り注ぐ。

「ばか、この甘えん坊・・・ンッ…!」
そして 唇が再びふさがれる。有利は、幼い時ならいざしらず、中学生になったのだから こういうキスはダメ!と
いって、コンラートに唇へのキスを させてくれなくなった。

出会ってからこの方、何かあると コンラートは唇を狙いに来るので、最初はアメリカ式スキンシップかと思って
受け入れていたのだが、ある日、中学の英語の授業で、アメリカ人だって、唇は そうそう狙わないことが判明。
以来、有利は、唇はダメだと言い張って、したら二度と おやすみとおはようのチュウも させてくれないと
強硬に反対したので、コンラートもそれを守っていたのだが・・・今日はダメだった。

無性に、有利の存在が欲しかった。

有利がいつもと違って、自分にドキドキしてくれたのが、すごくうれしかった。いつもは自分だけがドキドキ
しているのに。頬を染めて、コンラートをじっと見つめる表情が綺麗。

気がついたら、唇を重ねていた。約束を強固にするように、彼という存在を確かめるように。

有利は有利で、小学生時代していたスキンシップの延長のようなキスではなく、どこか激しさを秘めたキスに
言い知れぬものを感じていた。胸が先から、きゅうんと痛い。体はジンジンするし、背中に走った甘い疼きは
体の中心に向けて熱い何かを集めようとしていた。


-- どうしたんだろう?おれ? なんか無性に、コンラッドが・・・   ホシイ  ----


そう思ったとき、有利の雄としての本能が芽生えた。自分の横で 唇を求めてくるコンラートを押し倒すと、
自ら唇を重ねた。

「んんっ・・・?ユー・・・ンーーッ!」
自分からしたのは、初めて喧嘩をして以来だった。キスしてくれないと仲直りしないと、意地悪を言う
コンラートにキレた有利が、口に思いっきりしたのだ。本当は頬でよかったのにと、彼に苦笑されたっけ。
後で気がついたが、有利は自らのファーストキスを少年に捧げてしまった。ついでに、コンラートの
ファーストキスも奪って・・・。でもあれは、事故の様なものだった。

それに対して、このキスは、コンラートとしたいと思って、しているのだと、有利はわかった。

-- なんでだろう?何でこんなに、コンラッドは 特別なんだろう?

はぁはぁと、息を荒らしながら、有利はコンラートから離れた。

「ユ・・・リ?」
「なんだよ、おれから しちゃ‥悪いか?」

ふるふると、コンラートが首を横に振る。そして、ぎゅう〜〜っと、だきついた。

「じゃぁ、キス解禁?」
「う・・・・。」
「ユーリに、唇奪われちゃった v 」

-- ナヌ…ッ!?

「こんらっどぉぉ〜〜?お前、散々おれの唇奪って いったくせにぃ〜。」
どのつらさげて、奪われちゃった(ハート)なんていうか?この野郎ぉー!グリグリと、拳骨を頭にねじりこむと、
痛いですよユーリと、全然痛そうにない声で抗議された。

「ユーリがいれば、俺は がんばれる。」
コテン‥と、有利の胸に頭預けるて甘える。

「うん?おれがいなくても頑張れよ?」
「自分のためじゃ無理ですよ。」

-- コンナ 自分ノ 為ニ ナンテ 

「そいうものかよ?だったら、おれのために頑張れ!」
「はい、ユーリ。」

-- 貴方の為になら……



「ユーリ、俺ね? 向うの兄弟に会ってみます。」
「!?」
「だから、ユーリ。・・・俺と一緒に来てくれる?」
「もちろん!ついていくさ。」
「ありがとう、ユーリ大好き!」
「う・・・うん///」



二人で 思いっきりイチャツいた為か?コンラートは 思ったより早く回復した。(←げんきん)
相変わらず 手を繋いで降りてきた二人は、早速 勝利に二人でコンラートの兄弟に会いに行くと告げた。

「俺!!俺も行く!」
そこで手を上げたのは ヨザック!行くならば 付いて行こうと 最初から決めていたらしい。

「ヨザック、お前はコンラートの兄弟が嫌いなんだろう?行っても・・・。」
「大丈夫、勝利兄わかっているって。俺はコンラッドの護衛に ついていくだけだから、話合いの時は口は
ださねぇよ。それに・・・お前の弟は気に食わないが、お前に謝りたい一心で家出してくる、その根性だけは
褒めてやるよ。そういうトコ、やっぱお前が育てただけあるわ、似てるよな?」

誰とはいわないが、もちろんコンラートだ。

「じゃあ、僕も行こうか?あぁ、もちろん、話合いには 参加しない。別の部屋なり どこかで
ヨザックと待つよ。」

そう、有利が共に行くならば、それで十分だ。コンラートは、コンラートのままでいられるだろう。
それでも、何かあった時は、近くでなければ駆けつけることも出来ない。

だいたい、皆コンラートのほうに 意識が行ってしまっているが、もし、コンラートが兄弟と和解した場合、
ヨザックの立場は どうなるのだろう?周りは変わらない。ヨザックはコンラッドの兄弟だ。だが、どうしても
公の席でのコンラートとの距離は大きく離れる。貴族財閥の継承権を持ち、ウェラーの正式な後継者の
コンラートと 養子であるがグリエを名乗っているヨザック。ヨザックはそれに気がついている。

だから、ついていくのだ。自分くらいがしっかりと、この年下に見えないけど、年少の少年を見てやらないと、
いけないような気がして。

もちろん、ダンヒーリーと勝利も一緒に行く。この件は、渋谷家では、勝利が担当することになっているらしい。
まぁ、そうだろう。大雑把ーな大人たちにくらべて、細々とした所に気が利く(たまに暴走もするが)長男は
何かと重宝・・・いや、信頼できるのだ。

「え?ヨザ、話合いについてきてくれないのか?家族なのに冷たい・・・」
「コ・・コンラッド。」
じと〜〜と、コンラートがヨザックを睨むと、ううっっとヨザックが怯む。

「いやだって、お前の兄弟との話合いに、俺が居ては まずいんじゃ…。」
「ヨザは、俺の兄弟だろう?居て何か悪いの?」
「その…だって、お前の兄弟‥貴族だろう?俺は親なしで‥お前が恥をかくと…」
「いて欲しいんだ!ヨザックは、俺の家族なんだからなっ!」

すると、えへへへと、照れたように笑うヨザック。よかったね?と村田は視線だけで伝えると、軽く頷き返す。
それにしても、コンラートがヨザックに、そこまで言うとは思わなかった。

「健さんも お願いします。」
「僕もいいの?」
「はい、‥それと、ヨザックを御願いします。」
ボソッと、小声で兄弟のことを村田に頼むコンラート。自分がこんな時に、それでもヨザックのことが心配らしい。
まさか、コンラートが気がついていたなんて。

「わかっている。もちろん、君の力にもなるから。」
そう答えると、コンラートは・・有難うございます‥とホワリと笑った。

そうだ、元来、このコンラートは、こういう人間なんだ。自分が大変な時も、周りの人を
気遣うような強さを持った。

虚無…そんなものに取り付かれ、今こうして当時を思い出すのも発作が起こるような程、この彼に
トラウマを与えたものが、あの弟の拒絶だけとは考えられない。

やはり、アメリカから彼を呼ぶか?

村田は早々に、自分が唯一信頼する医者に連絡をすることを決めた。






グウェンダルがその連絡を受けたのは、ホテルのカフェであった。

「本当ですか?コンラートが会うと・・。えぇ?同行者ですか?コンラートの?はい、わかりました。
では…レストランの個室をおさえておきます。いえ、会ってくれさえすれば……。」

それは、ダンヒーリーからであった。向かいの席では、末弟が身を乗り出して電話する兄の様子に
聞き耳を立てている。コンラートが会うという言葉を聞き取ったヴォルフラムは、パァッ!と表情を
輝かせた。グウェンダルが電話を切るとー。

「兄上!コンラート兄上が 会ってくださるんですか?」
「あぁ、ただし、一人では心もとないから、同行者を要求してきた。」
「同行者?もしかして、この前会ったお兄さんですか?」
「あぁ、彼も もちろん来るが、コンラートの幼馴染だそうだ。彼らが一緒なら、コンラートは会っても
良いといっている。」
「それで、コンラート兄上が僕に会ってくださるならば・・・。」
俯く弟に、グウェンダルは少し躊躇った後、そっと手を伸ばして、柔らかな金髪を撫でる。
すると、ヴォルフラムは、驚いて顔を上げて、嬉しそうにわらう。

-- こんな事だったのだ、コンラートが必要としていた事は……

今からでも間に合うだろうか?

コンラート‥…





「おや?あれは?」
カフェに新たに入ってきた50前後の金髪のアメリカ人が、そんな二人をみつけた。

一人はシュピッツヴェーグの先の夫の子である、ヴォルテールの子倅だ。もう一人は?中々の美少年だが、
一体誰であったか?

「今度、シュットッフェルにでも所望してみるか?」

シュピッツヴェーグといえば、昔接待された子は、中々良かったのに飽きる前に逃げられてしまった。
今度はそういう事がないように、シュトッフェルによくよく言い聞かせねば・・・・。

ねっとりとした視線をヴォルフラムにからませて、男はウェイターに案内されて禁煙席へと消えた。





2009年6月10日UP
年下の彼、波乱の予感? さて、ゆーちゃんとコンラッドがラブラブ気味? これでも、親友です。
いっそ付き合っちまえ!!と、きっと村田が思っているはず。次回は、コンが、とうとう兄弟に
会いに行きます。