現代パラレル・年下の彼
SAYONARA 3




渋谷の家に着くと、なんとダンヒーリーがいたのだった。彼は、元妻のツェツィーリエから連絡を貰い、
彼女の三番目の息子であり、コンラートからすると異父弟であるヴォルフラムが、コンラートに会いに
家出をしたらしいと聞いて、仕事を部下に頼んで、急ぎ帰って来たのであった!

「そうか、やはり会ってしまったか?」
はぁぁあ〜〜〜〜〜っと、しまったと、いうように、深くため息をつくと、ダンヒーリーはソファーに深々と沈んだ。
なんてことだ・・・それで、コンラートは、これまた やはりというか、様子がおかしくなった。

「ツェリには悪いが、私にとって息子は2人・・まぁ、グウェンダルの方は 少しは一緒にいたことがあるし、
息子みたいな気もあるが・・・ヴォルフラム君には、私と別れさせられた後の 今の夫との子供で接触が無いし、
何より、あれがおかしくなった原因を作った子だからな・・・彼が何を思おうと勝手だが・・・コンラートを
巻き込むのは止めて欲しい。 なんて・・・私は冷たい人間かな?」

「仕方ないわよ。ツェリ様にとって、コンラートちゃんは、3人の息子の一人でしょうが、ダンさんにとっては
他の二人は他人・・・息子さんは、コンラートちゃんとヨザックちゃんだけですもの。」

「あぁ、私の息子は二人。ツェリ達にとって、丁度ヨザックが関係ないのと一緒だ、私にとっては、
ヴォルフラム君は関係がまったく無いんだ。大事なのは、二人の息子・・・・・・と、渋谷ブラザーズだけだな。」

「取ってつけてくれなくっていいよ。ダンさん・・。それより今は、コンラートだ。」
勝利は、苦笑すると二階への階段を見つめた。

そのコンラートは、・・・今は、有利の部屋で眠っている。

帰ってくるなり、事情は後から帰ってくる村田たちに聞くようにといって、有利はコンラートを自分の部屋に
連れ込むと、一緒にベットに横になって、寝かしつけたのだ。

有利は本能で知っている。コンラートには、今何よりも安心できる場所を提供することが大事だと。
だから、自分も一緒にコンラートを腕の中に閉じ込めて眠ったのだ。

有利の側で、その存在を感じているときが、彼が一番安らかにすごせるのだと、わかっているのだから・・・・。



「ところで、勝利さん、その、グウェンダルさんでしたっけ?何で、その人と一緒に帰ってきたんです?」
キラリと、いつものように眼鏡を光らせて、村田が勝利に疑問をぶつけた。
「なに?グウェンダルも来ているのか!?」
ダンヒーリーも、それには驚いた。どうやら、ツェリは長男のことを言い忘れたらしい。

「あぁ、そうだ、連絡先を預かってきた。今日は、このホテルに滞在するそうだ。」
それで思い出したと、胸のポケットから、カサリ・・と一枚の紙を出して、ダンヒーリーに渡した。
村田の質問は、かるくスルーだ。いいですけどね? そういえば、自分も渡すものがあったっけ?

「あ、それと、これは、例の弟君が持ってきたものです。大地立つコンラート・・彼の母親が品種改良した
花ですって、受け取るかどうかは・・・コンラート次第ですが・・・。」
そういって、鉢植えを一つ取り出す。白地に青い花の書いてあるプラスチック鉢に、青い花が植わっていた。

「まぁ、きれいな花ね。それにステキな名前。これが、ツェリ様がね・・・・。」
とりあえずは、花は美子ママに渡す。この中で唯一管理が出来るのは彼女だ。

「それなら俺も預かっているぜ、といっても俺は兄貴の方からだ。」
そういって、今度はバックから箱を取り出した。
「ボストンにあるチョコレート専門店のものだそうだ。コンラートが好きだったんだと、自分からとは言わないで
食べさせてやって欲しいって・・・なんか、眉間にしわ寄せて渋そうだけど、まぁ、良い奴っぽかったな?」
そういって、出された箱を開けてみれば、リアルな動物型のチョコレートだ。これは味ではなく、きっと形が
気に入っていたのではないかな?男の子は、こういったものが好きだから。

「ふふ、グウェンダルか?あの眉間の皺は、子供の時から照れ隠しで寄せていたのが癖になったものなんだが、
実は、可愛いものが好きでな?コンラートをあれでも可愛がっているんだ・・・不器用だからわかり難いのだが
・・ツェリと隠れてみているとな?誰もいないときは、もうデレデレした顔で、コンラートをかまい倒していたな・・
ププッ!俺達が戻ると慌てて眉間をよせて、難しい顔を作っていたんだが、どうやら今でも変わっていないらしい。」

あの眉間の皺が、可愛いもの好きをごまかすものだったとは?勝利は、小難しい顔をしていた青年が、赤ん坊の
コンラートを抱っこしてデレデレする様子を想像してみた・・・・。こわい。

「そう思うと、コンラートの兄弟二人は、コンラートをそれぞれに想っているってコトかな?」
村田が、いつまでも、自分達を見送っていた兄弟を思い出す。

「でも、俺は認めない!!」

突然、ヨザックが叫んだ!

「コンラートをおかしくしたのは、アイツ等なんだ!今更、心の中では兄弟だと思っていますなんて、
都合のいい事を言っても、もう終わったことだろう?一番アイツが辛い時にソイツらは、何もし
なかったんだろう?だったら、ダメじゃん!今更・・・遅いだろう!!」

「本当に遅いのか?」
今度は、勝利が、壁に背を預けながら、考え込みながら呟いた。

「勝利兄まで!!」
声を荒げるヨザックを、いいから聞け!と、叱り飛ばす。そうなると、ヨザックは弱い。
なにせ、この兄には小さい頃から可愛がって貰っている上に、物事を客観的に見据えることも出来る視点と、
渋谷家独特の鋭い勘を持ち合わせている事を知っている。彼の言うことは、大概間違うことが無い。

・・・弟可愛さに、目さえくらまない限りは・・・だが・・・・・・。

「コンラートは、最初に 弟を助けに、何も考えずに飛び出したんだろう?アイツ・・本当は弟が
可愛いんじゃないか? その弟だって、昔のことを謝りにボストンから 家出してきたって言うじゃないか?
兄貴の方だってそうだ・・。わざわざ仕事を放り出して駆けつけたのに、それでも、弟が幸せになる邪魔を
したくないって、俺に接触してきたんだぞ。」

直接、ダンヒーリーや渋谷家ではなく、勝利に接触してきたのが、あの男のあの男ゆえんだろう。
『今のコンラート』の兄にあたる勝利に、『昔のコンラート』の兄として・・・彼は、既に自分に兄と名乗る資格の
ないことを重々に承知しているのだ。

それでも、遠くからでもいいから、弟の世界を守りたいと思っている。自分が姿を現すことでコンラートに
無用な動揺を与えたくない。そして、弟と末の弟との接触もできれば避けて欲しいと・・・・。
だが、誤算は、末の弟の行動力だろう?まさか、こんなに早くコンラートの居場所を見つけるなどと・・・。

「ふふ・・・グウェンダルらしい・・・相変わらず、不器用な子だ。」
ダンヒーリーは、短い間だが、家族として暮らした妻の連れ子を思い出す。真面目で不器用で、それでいて
情が深く・・照れ屋な子だった。弄ると楽しい子だったな〜。(←おい)

「コンラートは、やり直したいって思っているのかも知れない?だったら、俺はチャンスは生かして
やるべきだと思う。・・・それに、この先いつまでシュピッツヴェーグとの接触を絶ってやる事が出来るか
わからない以上、実の兄弟が味方につくというなら、願っても無いことだと思う・・・どうですか?ダンさん?」


ただ、気になることがある。頑なに、コンラートと 接触しないように 気をつけているグウェンダルの様子は、
少し神経質すぎる・・・・・・なにか、まだ理由があるのか?


「こればかりは、コンラート次第だ。確かに、兄弟仲を修復するのは悪いことではない。だが、それを受け
入れるほど、コンラートの心が安定しなくてはならない。会っただけでも、気分を壊すようでは、まだまだだな。」

とにかく、一度、自分が会ってみよう。そういうと、ダンヒーリーは連絡先の書いた紙をポケットに仕舞った。

「美子さん、スミマセンが、うちの息子二人を預かってもらえませんか?ちょっと、久々に元息子に
あってきます。」
「ダンさん!だったら俺も行きます。コンラートは俺の弟だ。」
用意するから待っていてくれと言残して、勝利は自分の部屋に駆け上がって、手早くスーツに着替えた。
連絡先に書かれていたのは、外資系の一流ホテルである。きちんとした身なりでなければ、中に入るのもはばかれる。

「おまたせしました、行きましょう。」

「勝利さん。」
なにやら村田が、出て行こうとする勝利に近寄り小声で話すと、携帯を取り出してやり取りをする。

そして、二人は連れ立って出て行った。




「健さんっ・・・。」
ヨザックは、信じられないといった非難の目で村田を睨んでいた。彼の言いたいことは判る。だが、それでは、
何の解決にもならないのだ。

「ヨザック、君の言いたい事はわかる。でも、コンラートの背負った物は、誰彼 変われるものではないんだ。」

シュピッツヴェーグ財閥・・・元貴族系の財閥で、婚姻を繰り返して大きく育ったグループだ。今では、北極海の
油田や南アメリカの農作物など手広く扱う総合商社を本部として、傘下に銀行・電気鉄鋼・精密機器・IT産業
等も持つ。

アメリカの軍事産業とも結びついているという噂もある。そんな所の、相続権・継承権を彼は持っているのだ。
長じるにつれ、普通の子供では、いられなくなる・・・きっと、もう近い将来だ。


シュピッツヴェーグか・・・厄介だが、コンラートと有利のためだ。何か弱みがないか探ってみるか?


村田は、コンラートの素性を知ってから、彼なりに色々調べてきたのだ。それは、コンラートの為と言うよりは、
親友である渋谷有利のためだ・・・彼らはとても深い場所でつながっている。それだけの絆を結んでいるのだ。
もしも、その相手であるコンラートにもしもの事があれば、有利の嘆きはどんなに深くなるだろう?

その場合、村田が好ましく感じている、今の渋谷有利は失われるかもしれない。

それは、イヤだ。何でも話せる親友なんて、そうできるものではない。特に、自分という特殊性を
持つような人間には、そんな人間・・・一生かかっても探し出せないかもしれないのに!

村田には、秘密があった・・・・・これはもちろん、渋谷家の人やウェラー家の人は知っている。
知っていて、変わりなく普通に接してくれる。その中心は、渋谷有利だ。
有利の友達の健ちゃんというポジションは、もはや、かけがえのない居場所なのだ。


コンラート、多分僕は、君に近いのかもしれない。
渋谷有利を中心に考える思考とか、この居場所を失うことが、死ぬほど怖い所とか・・・。

彼に、救われたこの心とか・・・・


「ヨザック、時には攻撃が最大の防御となることがあるって、しているかい?」
「健さん?」
今度は、戸惑った声をだす。彼が何を言いたいのかが解からないのだろう?

そう、好機かもしれない、そう思ったからこそ、ダンヒーリーと勝利は動いたのだろう?
コンラートの脆さは、だいぶ改善されている。予断は許さないにせよ・・・だ。

「出来れば、克服させてあげたいって ところですかね?美子ママ?」
「健ちゃん・・・・えぇ、そうなのだけど・・・。ママは心配だわ。急ぎすぎてもいけないとも思うのよ。」
「えぇ、だから、本人には会わせたくなかったんですよ。あのグウェンダルさんも、ダンヒーリーさんも。」

できれば、頃合を見たかったということなのだろうが?だが、あの弟は来てしまった。
そして、コンラートは会ってしまった。これが、荒療治となるか?それとも・・・・。

だが、できれば、立ち直るきっかけになって欲しい・・・。そう願うのは、都合が良すぎるだろうか?






・・・・キ・・タナ・・イ  ・・・手デ

幼い物言い・・・この声、あぁ・・・そうだ・・・俺の・・・弟だった子の声だ・・
「う・・・・ん・・・・。」


・・・汚イ  ・・触ルナ・・・・

ナンデ? 突然どうして? ソンナ事ヲいうの?
「う〜・・ぁ・・・」


オマエハ・・・汚イ!!!

突きつけられる言葉に、コンラートの意識は苛まれる!

『そう、もう・・お前は、汚れているんだ。』

ナンデ?ソンナ酷イ事コト・・

『なんで?知らないなんて言わせない、だって・・・お前は何度も・・。』

イヤ、シラナイ! ・・シラナインダ!!


「うっ・・・ううっ・・」
すぐ近くで、うなされるコンラートの声に、有利はパチリ!と目を覚ました。
「コンラッド?・・・コンラッド!おきて!」
すぐに、コンラートを揺り起こす。

「ふぇ?」
やがて、隣で眠っていたコンラートも、ゆっくりとではあるが覚醒する。その際に、瞳に溜まった雫が、ツーっと
顔を滑り落ち、シーツに真新しい染みを作ってゆく。ゼイゼイと、肩で息をつき、しっとりと汗が肌の上に
玉のように、吹き出ていた。

有利はそっと唇を寄せて、その雫を小さな舌で舐め取ると、薄茶の髪をゆっくりと梳いてあげる。

「怖い夢を見たね?」
「・・・・ユーリぃ〜」

コンラートは、自分とそんなに背の変わらない、二つ上の少年に抱きついた。すると、有利の腕が優しく
抱きしめ返してくれる。それに、ほっと安心をした。

こんな自分を、受け入れてくれる彼に・・・。

ゆっくりと彼の匂いを吸い込む。いつもどおり、温かな陽射しの匂いがした。


ダイジョウブ・・・コノ腕ガ、マダ 自分ヲ・・ ツナギ止メテクレル・・・。


「コンラッド、今日は泊まっていけよ?一緒にご飯食べて、テレビ見て、お風呂入って、一緒に寝ような?」
「・・・・うん。」

ベッタリとユーリにくっつくいて、ユーリの鼓動を聞いて、ユーリに包まれて、思いっきり甘える。
これが、コンラートの精神安定法なのだ。普段は、大人びていて有利よりもしっかりしているのだが、
フッとした時に、こういう風に小さな頃に戻るのか?有利に思いっ切り甘える時がある。
そんな時は、有利は何も言わずに、彼がいつもの彼に戻るまで、ただ寄り添うのだ。それは、初めて
会った日から変わらない。ずっと一緒に・・・・その約束を、彼らは今まで違えずに来た。

きっと、これからも・・。


「あ・・・ユーリ!試験勉強!」
「コン・・・いきなり現実を思い出させるな・・。」
突然、現実問題を思い出したコンラートに、有利は思いっきり顔をしかめる。

「だって!試験ですよ期末試験!あぁ、どうしよう?俺、思いっきり邪魔して!」
「邪魔じゃねーよ!!あーもう!だったら英語教えてくれ!それならいいだろう?」
その上、有利以上にあわてるものだから、思わずギュウウ!!っと抱きしめた。まったく、自分の心配しろ!と、
いいたいのだが、逆を言えば、有利の現実問題に頭が行くほど、コンラートの症状は軽かったともいえる。

「いいの?」
「おう、頼りにしている。」
「はい!」

-- でも、うなされていたし、安心するのは早いかもしれない。

コンラートといえば、有利の腕の中でじっとしている。子ども扱いされると いつもなら怒るくせに、今日は
大人しくしているところを見ると、やはり昼間の事で動揺しているのだな?

「ユーリ・・・あの、昼間・・・」
きゅ・・・っと、コンラートが、有利のシャツを掴んだ指に力を込めたのがわかった。こういう時は、有利は
じっと彼の言葉を待つ。

「あの・・・子、金髪の・・・あれは・・・あれは、俺・・・の・・・。」

そこまで言うと、コンラートは突然押し黙った。 きっと一生懸命言葉を捜しているのだろ?

「・・・その・・アメリカの・・・俺を産んだ女性の・・・・再婚相手との間に生まれた人です。」

-- ・・・・・・・・・母と弟ですっていえば、簡単なのに・・・

それが言えないコンラートを、その時とても淋しいと思った。これが、コンラートの抱える闇の一端。
ぎゅう!ぎゅうう!!っと、コンラートを抱きしめる。けっこう力任せだったのだが、コンラートは
苦しがりもしないで、自分からも抱きつく。

「ユーリ・・・・大好き。」
「おれも、コンラッドが大好き。」
自分から見える脳天にチュウ v をすると、コンラートがどうせなら、口にしてくれというので、
調子に乗るな!と、少し小突いてやった。すると、くすくすと、やっと小さく笑ってくれた。

それにほっとして、おれ達は手をつないで、お腹がすいたな〜と いいつつ、階下へと降りていった。



「おっそーーい!もう、二人とも。寝すぎだぞ〜寝すぎると、牛になるんだぞー。」
まのびした声で、二人を迎えたのは、村田であった。相変わらず付き合いの いい友人は、美子とお揃いの
ピンクのフリフリ エプロンをつけて、夕食の準備を手伝っていた。

「あ、わるい?ところで、今日の飯は・・・・もしかして、いつもの?」
「ぴんぽーーん!渋谷家特製、野菜大きめカレー!」
「それって、切るのが面倒なだけだろう・・・。」

ところで、渋谷?今日はBSで 君の愛する球団の試合中継 じゃなかったっけ?

友人の一言で、有利は 白いライオンがマスコットの球団の試合を 思い出した!!そのまま、コンラートを
引っ張って、テレビの前を陣取ると、そろって座って観戦を始めた。

繋いだ手以外は、いつもの風景だ。村田はキッチンに入ると、カレー鍋をかき回しているグリエちゃん(本日は
ピンクのメイド服)と、ポテトサラダを作る美子ママに、二人が降りてきたことを伝えた。

「どうやら、思ったよりは、軽い症状ですんだようです。有利といつも以上にべったりですが。」
「う〜ん、ゆーちゃんに甘えるのが、コンちゃんの精神安定剤だから、それはいいけれど・・・どうしましょう?」
「なにがです?」
「今日のおやつ、ケーキでしょう?まだお夕飯には時間があるし、だそうかな?と、思っていたんだけど?
手を繋いでいるのでしょう?片手じゃ食べにくいわよね〜?」
「ママさん・・心配は、そこですか?」
彼らの手を離そうという発想は、彼女にはない・・・というより、彼らの周りにはいないのいだ。

「たべさせっこすれば いいんじゃないですか〜?」
グリエちゃんが、鍋にカレールゥを投入しながら、ヤケクソのように言った。今日は辛くしてやる!!と、
なんだかスパイスを しこたま 入れているのが 気になるんだけど?

確かに、このまま持っていけば そうなるだろうな?

かくして、僕が持っていったケーキと紅茶は、グリエちゃんの予想通りに、左手が上手く使えないコンラートに
右手があいている有利が食べさせていた。食べる時は手を離すという選択肢は・・やはりない。

あぁ、親鳥と雛だ・・。実際に、コンラートは大きく有利に依存している部分がある。
それを有利も甘受している。深く繋がった二人。


半身という言葉が、頭の中によぎる。二人で一人・・・そのように 深くつながった者達の事を示す言葉。
まさしく、彼らがそうであろう?だから、村田には、コンラートの不安定さが怖い。


有利をも飲み込みそうな、その深い闇が・・・・。





ヴルフラムは、宿泊するホテルを系列のホテルにしていた為に、そこから日本に来ていることが判ったのだろう。
7歳なのだから仕方ないとはいえ、詰めが甘いのだから・・・と、思わず勝利は思ってしまった。

そのヴォルフラムではあるが、今はいささか元気もなく、居心地悪げに、大人一人、青年二人に囲まれている。
ここは都内の外資系の一流ホテル。その一室に4人はいる。

と、いっても、寝室3部屋にリビング・バス・トイレがついている、ひろびろーーーとした所だが。

子供一人でこんな部屋を取るなんて、おかしいだろう!?と、勝利は内心つっこみどころ満載だ!
これでは、行き先なんて、すぐに掴めて当然だな。まぁ、今回はそれで助かったけれど。

「それで、今回は、このヴォルフラム君の独断できたのかい?」
ダンヒーリーは、ワインを傾けながらグウェンダルに話しかけた。レストランでは込み入った話は出来ない
だろうと、グウェンダルがルームサービスを頼んだのだ。それにしても、この部屋・・・専属執事まで
ついてくるのかよ!

その執事は今は、前菜のロースとトビーフを切り分けている。

「今回の件は、大変申し訳なく思います。まさか、本当にコンラートまで、たどり着いてしまうとは・・。」
「それで、何で?コンラートに、逢おうなんて思いついたのかな?向うで何かあったのかい?」

びくり・・・と、ヴォルフラムの肩が揺れる。

「本人以外に言いたくないのか?でもね、俺はあいつの保護者として、子どもの危害がないかどうか把握
しなければならないんだけどね?・・・ヴォルフラム君?キミはもう7歳だ。きちんと話せるよね?」

キラリ・・・と、コンラートと同じ琥珀に銀の星を散らした瞳が光る。この人が、コンラート兄上の父上。
だけど、コンラートの優しげな瞳とは違う。もっと雄々しい迫力に満ちている。

-- 野生の獣の瞳

「ダンさん、落ち着いて、ほら、怯えているじゃないですか?」

まったく、このオッサンは、よね?と語尾につけているが、見事に話せと、命令している。
勝利はついてきてよかったと思った。このオッサンに任せていたら、コンラートと、この弟の仲が
一層こじれるところだ。

「すみません、コンラートの様子が おかしかったので、ダンヒーリーさんも、気が立ってしまって。」
「いや、悪いのはこちらだ。突然、尋ねていって迷惑をかけたのだからな。ウェラー氏も、申し訳ありません。」
「あ、兄上!?」

律儀に頭を下げる兄に、ヴォルフラムはうろたえた。自分の勝手な行動で、またこの兄に迷惑をかけてしまった。
「何をしている、ほら、お前も謝罪しないか!」
「は・・はい!!も・・・申し訳ありません。コンラート兄上の父上!」
鋭い一睨みで長兄は、末弟に謝るように促す。おかげで、ヴルフラムは、完全に恐縮しまくっている
その様子に、ダンヒーリーの怒りも、萎えてしまった。なんというか、可愛い物好きの割りに相変わらず・・・・。

「はぁ〜〜、グウェン。相変わらずだな、お前って奴は。・・・・わかった、もういい、すんだ事だ。」
「はい、すみません。」
「だから、もういいといっている。律儀というか真面目というか、お前、もっと気楽に生きることを覚えろ。」
「ダンさんは、もう少し真面目に生きることを覚えてください。」
ピシャリ!と、勝利に釘を刺される。
「ショーリ・・・おまえな?」

「話を戻そう、それで、ヴォルフラム君、何か思うことがあって日本まで来たのだろう?コンラートに
話しか何かあったのではないかい?」
一応、弟三人+お友達の兄だ。子どもの扱いには長けている。なるべく優しく促すと、ヴォルフラムがモジモジ
テーブルクロスの端を弄りだす。

「あの花?きれいだったね。検疫とか大変だったろう?それに、けっこう重いし、よくもってこれたね?」
はっとして、ヴォルフラムは勝利を見た。

「コンラート兄上は、あの花を受け取ってくれましたか?」
「コンラートはまだ眠っているそうだ。さっき、メールで家の者から連絡があった。」
「寝ている・・・やっぱり、僕が訪ねていったせいですか?」
「隠しても仕方ないだろう・・はっきりいえば、YESだ。」

「「!!」」
ヴォルフラムばかりではなく、グウェンダルも息を呑んだ。

「だいじょうぶ、倒れたまではいってはいない、すこし様子がおかしいので、無理やり寝かしつけたんだ。」
「ということは、倒れたことがあるのだな?」
「・・・・あぁ、ある・・・しかも、心が壊れる一歩手前までいった。あの時、有利がいなければ間違いなく
コンラートは失われていた。」
「YURI?」
「俺の弟で、コンラートの・・・多分、最愛の相手だ。」


守りたい相手がいる・・・その人のために強くなりたい、コンラートがそう言っていたという相手か?


勝利は、コンラートのその時の様子を、二人に語って聞かせた。彼が今どういう状態か、彼らには
理解してもらわなければならない。これ以上、迂闊な行動をされて、この4年・・コンラートの成長と精神の安定に
手をつくしてきた事が、全てだめにされかねない。

「僕・・僕のせい・・・で、兄上が・・・。」
ヴォルフラムは改めて突きつけられた事態に、何も言葉がなかった。
一見幸せそうに笑っているのに、その笑顔の裏で、いつ爆発するかわからない爆弾を抱えているなんて。
コンラートをそこまで追い詰めたのは自分。当時、自分が3歳の幼児であったことが、どんな免罪符になる
だろうか?彼と同じ年になって解かったのは、あれ程何でも出来てスーパーマンのように感じていた兄が、
じつは年端も行かぬ、小さな少年であったことだ。

7歳の子どもに、受け止めきれない孤独を、ヴォルフラムは背負わせてしまったのだ。

「幸い、コンラートには、ユーリが現れてくれた。おかげで虚無には囚われないですんではいるが、もしも再び
コンラートからユーリを引き離すような事態になれば・・・次は・・・・。」

そこで、ダンヒーリーは言葉を切る。

「私には養子が一人いる。ヨザックといってね?誕生日の関係から言うと、コンラートの兄ということになる。
彼にも会っただろう?彼について、二人はどう思うかい?」

「どうといわれても・・・コンラートを大切に思ってくれているとは思いますが・・・。」
グウェンダルが、眼鏡の少年と一緒にいた、オレンジの髪の少年を思い出しながらもこたえる。
「僕は、初めて会った人ですし・・・どうといわれても・・・。」
ヴォルフラムも答えに詰まる。なぜ、そんなことを聞くのだろうか?


「私達から見て、ヴォルフラム君というのは、君達から見たヨザックと同じなんだよ。」
ダンヒーリーは、今の質問の意図をそう明かした。

「キミから見て、コンラートは、血がつながった兄弟だろう?だが、我々から見た場合は違う。君は、別れた妻の
再婚先の子どもというだけで、コンラートの人生には、別に要らない存在だ。」

「・・・な!?」
「関わらなくても、コンラートはいきていける。なぜなら、コンラートは、コンラート・ウェラーであり、
彼の人生において、シュピッツヴェーグの相続権も継承権も邪魔なだけ、必要などないものなんだ。
コンラートが成人の暁には、その二つの権利を放棄し、法的にツェリを含め、君たちとは絶縁するつもりで
いる。・・・異議は聞かない。最初に、コンラートを虐待し、家族としての絆を捨てたのは、君達の方だからな。」

「わかっています。虐待に気がつけなかったのは・・・・兄として私の落ち度だ。」
「あ・・兄上!」
「コンラートは、伯父と養父から執拗な虐待を受けていた。なのに、私はコンラートに優しい言葉ひとつ
かけれなかった・・・守ってやれなかった……。」


-- おかげで、あんな恐ろしいモノを生み出してしまった。
ソクリ・・・ッ!と、琥珀に妖しく艶めく瞳を思い出した。駆け抜けたのは、本能的な恐怖か、欲望か?

眉間に一層の深い皺を刻んで、グウェンダルは苦悩を見せた。そうか、やはり彼もまた、弟を救えなかった事に、
深い後悔をしているのか?

「グウェンダル、お前の性格は良く知っている。それに、お前も複雑な立場にいたことも、なにせヴォルテールの
跡取りであったお前の父は既に他界し、お前はシュピッツヴェーグとヴォルテール両方の跡取りとして、先代に
厳格に育てられていたからな・・・。 強く弱音を吐かず、いつも客観的に物事を判断しろ。そう教え込まれていた
お前は、人に弱音を見せることも、誰かに特別な感情を見せること苦手だったから・・それでいて情は人一倍強い・・・」
ダンヒーリーの瞳が、優しげな光を生む・・・そうすると、コンラートの瞳と、本当に良く似ている。

そう、グウェンダルの立場も、またとても複雑であった。ヴォルテールも由緒正しい貴族の家系であり、
その跡取りは、当然グウェンダルである。だが、母の父・シュピッツヴェーグの総裁から見ても、彼は
唯一の直系の孫であり、彼以外の後継者はいなかった。

その上、グウェンダルがまだ少年だったこともあり、親権をツェリが持っていたことを逆手にとって、彼を
シュッピッツヴェーグの跡取りとしても、育てようと目論んだ。事実上、ヴォルテールからグウェンダルを
奪い去ったのだ。


だが、今度はそこに、ダンヒーリーが現れ、ツェリと結婚してしまった。そして、庶子とはいえ、コンラートが
生まれて・・シュピッツヴェーグに新たな後継者候補が生まれると、今度はヴォルテールがグウェンダルの奪還に
動いた!二つの家系に必要とされ翻弄されたグウェンダル。

彼はコンラートとは別の意味で、その人生を狂わされた子供であった。そして、ダンヒーリーとツェリが別れ、
ビーレフェルトと再婚し、ヴォルフラムが生まれると、また彼の立場は変わった!

今度は、その類まれな血統故に、シュピッツヴェーグの後継者を、ヴォルフラムへと狙ったビーレフェルトから、
対抗候補として何かにつけて、攻撃されたのであった。当時、彼は自分の身を守ることが精一杯で、弟の事まで
手を回せるほどの力もなかったのだから。

「お前も、養父と伯父から嫌がらせを受けていたのだろう?当時、屋敷にお前は必要以上いなかったと聞いている。
普段は、ヴォルテールに保護されていたのだろう?」
「・・・はい。コンラートは、母の保護があるので大丈夫だと・・・二人を甘く見ていました。」
「仕方ない、権力が絡むと、人はどこまでも鬼になれるものだ。特にあのシュトッフェルはな・・・。」
苦々しく、ダンヒーリーは、元妻の兄を名指しする。おそらく諸悪の根源はあの男だろう。

「ビレーフェルト・・・・父上が。」

妻の連れ子達への、自分の父のしたこと、それを聞いてヴォルフラムは、どうしていいか 解からなくなる
もしも、自分さえ生まれなかったら、コンラートはあの家でも暮らせていけたのではないか?
シュッピッツヴェーグの後継者として。 なのに、自分が生まれて、コンラートは要らない子供と化してしまった。
それなのに、自分から母の愛を、全てを奪ったといってもいいヴォルフラムに、コンラートはもてる全ての愛情を
注いでくれた。

-- それを僕は、たった一言で踏みにじったんだ。

「何で、会おうなんて思ったんだろう?そんな資格、僕にはないのに・・・。」

彼の弟でいる資格を・・・自分は疾うに捨て去ってしまっていたのに、与えられる愛情を・・・それまで当たり前だと
甘受してきたことが、今、しっぺ返しとして自分に戻ってきている。

長兄も次兄も・・・追い出したのは、自分という存在なのだと、彼はその時、思い知ったのであった。

「自分を責めすぎるな。」
「え?」
突然、それまで黙っていた勝利が、ヴォルフラムに向けて 言葉を投げつけた。

「ダンさん、グウェンダルさんも 事実だから突きつけていいと いうことには ならないでしょう?この話の流れでは、
その子の存在そのものが、否定されてしまいます。その子が生まれたのは、別に罪でもなんでもないでしょうに、
第一、コンラートは、まだその子を弟だと思っています。そのこが連れ去られそうになったのを見て、アイツは
相手が銃を持っているかもしれないのに、竹刀一本で助けに動きました。そこに、打算も何もない・・ただ弟を
救おうとして動いたんです。」

無意識の行動にこそ、本心が現れると言うものなんじゃないのか?

「その子だって、重たい鉢を抱えて、あの花に気持ちを込めてアメリカから家出してまでコンラートに
会いに来た、別にあって何をしようと思ったわけでもないだろう?ただ逢いたかった・・違うか?」
事実を淡々と挙げていく声なのに、なぜだかとても、優しく聞こえた。だから、ヴォルフラムは、やっと自分の
気持ちを言葉に乗せることが出来たのだ。

「僕は、僕は・・・ずっと、逢いたかった・・・逢って謝りたかった・・・ずっと・・・。」

「そう、ヴォルフラムお前が責任を取ることは一つだけだ、コンラートにひどい言葉を投げつけてしまった。
その事の意味をしっかりと受け止めて、誠心誠意をもって謝る!それだけだろう?」

「うう〜〜〜〜。」
ぼろぼろと泣き始める弟に、隣のグウェンダルが明らかにうろたえて、固まった。

-- なるほど?コイツは、ダンさんのいうとおり、こういった時に行為を示すことが苦手なのか?

「グウェンダルさん、そういう時は、だまって抱きしめてやるとかすればどうだ?」」
呆れて勝利が、助言をすると、ピキーーン!!と固まった。
「勝利、グウェンには そんな上級者レベルを突きつけないでくれ、いいから、ナプキンで顔をふいてやれ。」
ダンヒーリーがレベルを下げてくれたおかげで、どうにか兄らしいことが出来たグウェンダルであった。

「なるほど、こういう人か?ツンデレ兄弟なんだな?コンラートだけがデレデレか・・。」
今度、攻略方法を、コンラートに直伝してやろうと決めた勝利であった。


「ダンさん、とにかく、コンラートと話し合って、とりあえず会う会わないだけでも決めましょう。
コンラートが完全に、この二人と関わりたくないというのであれば、簡単なのですが・・・おそらくまだ
兄弟を慕う気持ちがあるのでしょう?だとしたら、段階を追って修復を試みてもいいと思います。」

「・・・・それは、コンラート次第だな。グウェンダルは仕事があるだろう?どのくらい滞在できるんだ?」
「仕事は、緊急事態でも起きない限りは、専用のPCを持ってきたのでここでも可能です。もし・・・もしも、
弟に会えるなら・・・私は出来るだけ滞在するつもりです。」
「ぼ・・ぼくも!兄上に会えるなら!いくらでも待ちます!」

「言っとくが、息子が嫌だと言ったら終わりだ。私は会わせない。だが、会うというならば・・・止めはしない。」

「「はい」」


「ところで話は変わるが。」
勝利は携帯をグウェンダルに見せた。そこには、ヴォルフラムを連れ戻そうとした連中の写真があった。
それを、グウェンダルは知らないといった、彼の手のものではない・・・つまりは。

「・・・・シュピッツヴェーグが動いているな。それにしても、やはりというか、コンラートの居場所も
嗅ぎつけていたか?」

グウェンダルの眉間の皺が、より一層深くなった。

「そういえば、ホテルで待っているといわれました。」
ヴォルフラムの言葉に、グウェンダルは思考をめぐらす。
「ホテルで?・・なるほど、私が現れたので、奴らホテルのどこかで待機しているのかもしれないな?」

このホテルは世界の大都市に展開するホテルで、世界のセレブや大企業の幹部も良く使うので、そういった
富裕層への対応もノウハウがそろっている。その上、シュピッツヴェーグの系列だ。
きっと、別の階にシュピッツヴェーグの坊ちゃんを、密かに警備するという名目でやってきている
伯父の手の者を宿泊させているのだろう。

だが、手が廻りきっているとは考えられない。現に先程までいた執事は、話が込み入った内容になってくると、
自然に控え室へと引き上げていった。彼は、話が終わるか、呼びつけない限り、そこで待機しているのだ。
監視もしているならば、彼は今もここで彼らの給仕をしていなければおかしい。
それを、気をきかせて、自ら下がったということは、あの執事・・というより、このホテルには、
何も指示が出ていないということだ。彼らは普通に、客に満足してもらえるサービスをすることしか
念頭にないようであった。

「いいか、コンラートに接触していいのは、君等二人だけだ。他の関係者は一切断る!」
「解かっています。母上に連絡してシュピッツヴェーグは帰らせましょう。」
「たのむ。」
「いえ、弟のためですから・・・。」

その答えに、ふっとダンヒーリーの瞳が細まり、すっと伸びた大きな手が、グウェンダルとヴォルフラムの
頭を がしがし!っと 撫でた。硬直する二人に、悪戯っ子のような表情をするダンヒーリー。
心なしか、グウェンダルの眉間の皺が緩んだようにみえる。

「まったく、貴方くらいです。私をここまで子ども扱いするのは・・・、会えて良かったです。養父さん。」

グウェンダルは最後に、昔呼んだ敬称でダンヒーリーにそういうと、力を抜いてわらってみせた。






2009年6月3日UP
3です。相変わらずのべったりコンビのコンユ。さすがにチュウvは、とっくに済ませただけあって、
普通にほっぺにチュウvくらいはしている模様。これはコンのたゆまない努力のおかげか?親友だと
言っている割には、ゆーちゃんの態度は恋人のよう、多分普段からベタベタしているので、コンと
そういうことをするのに、まったくの抵抗がないのでしょう。これが、渋谷家の日常風景・・萌え(〃д〃)゚.:。+゚