現代パラレル・年下の彼
SAYONARA 2




JAPAN・YOKOHAMA・KENDOUそして、SHIBUYA-MIKO。それが、ヴォルフラムが手に
入れた、兄の消息の手がかりだ.長兄が持っていた雑誌は、そのMIKOという人から、
母親の所に送られてくるらしい。一応、兄の実父の線からも、消息を尋ねては見たが、
子供が電話しても相手にされず、ならば!と、直接会社に乗り込めば、シュピッツヴェーグの
名前を出した途端、丁寧では有るが敵意を持って追い出された。


きっと、伯父が、ウェラーに嫌がらせでもしているのだろう。一時とはいえ、あの伯父の
口車に乗せられたことが口惜しい。それさえなければ・・いや・・人のせいにするべき
ではない事はわかっている。わかってはいるが・・。まだ7つのヴォルフにとって、誰かの
せいにしなければ、やっていけないのであった。

それでも、諦めるわけにはいかない。一度、溢れた次兄への思慕は、募り続けヴォルフラムを
突き動かしていた。

JAPAN・・NIPPON・・日本。その国に兄がいることだけは間違いない。


パソコンで調べてみれば、ほぼ地球の反対にその島国があることがわかった。
それから、暇を見つけては、パソコンと睨みあいながらヴォルフは、必要な知識を得ていった。
KENDOU=剣道というのが、向こうの剣術であることや、兄が小学生の部で大会で優勝したこと。
そのDOUJYOUという、その剣術を教えてくれる?クラブハウスのようなものが、横浜にあり そこの先生は
有名な人だということ。その人を訪ねれば・・きっと兄の消息がつかめる。


ちっちゃい兄上に会える!


ヴォルフはこの時、ただ会えるかも知れない!と、いう期待だけで動いていた。知れば知るほど
日増しに会いたいという心は押さえられなくなり、とうとう彼は行動に移してしまった。


それが、どんな騒動を起こすかという事も考えもせずに。





「ヴォルフラムが行方不明になっただと!?」

末弟が自分の所に訪ねてきてから一ヶ月、グウェンダルの元に母親から、取り乱した電話が
掛かってきた。次男に続き、長男も家を出た今、末っ子である彼だけが、母の手元に残った
子供だった。

その末の息子が、突然 彼女の前から姿を消したのだ!母の錯乱振りは凄まじかった。
ちょうど、次男を失ったのと同じ年齢になっていた三男・・まるで符合したかのように
7つの息子を再び失うのか!?と・・グウェンダルは携帯を繋げたまま、会社の電話で秘書を
呼び出し、日本行きの飛行機に、ヴォルフラムらしき子供が乗っていないか調べさせた。

そう・・きっと・・あの弟は、彼に会いに行ったに違いない。

「母上、私に心当たりが有ります。母上は至急、ウェラー氏に連絡を取って下さい。
・・ヴォルフは多分、コンラートの元に向かったに違い有りません。」

電話の向こうで、息を呑む声が聞こえた。7つの子供が一人で行くには遠すぎる・・
ましてこのアメリカで子供一人で飛行場までたどり着けるかどうか!?

そのとき、秘書からコールがあった、NY発の飛行機に、ヴォルフラムの名前が有ったと
いうのだ。

「母上、すぐに私が日本に向かいます。この事は、伯父や義父には、知られないように
お願いします。」

母は、くれぐれも弟を頼むというと、ウェラー氏に 連絡を取る為に電話をきった。

グウェンダルは、コンラートの消息のヒントを与えてしまったことを後悔した。
彼は海の向こうで 幸せな生活を送っているのに、そこへヴォルフラムが行くことで、余計な波風を
立てなければいいのだが?いや、ヴォルフラムは、コンラートがいる場所も正確には判ってはいまい?
ならば、二人が異国で会える可能性は低い。

でも・・もしもだ・・もしもヴォルフラムが、今のコンラートに会ってしまったら?
コンラートは、ヴォルフラムを 昔と同じ様に受け入れるだろうか?どちらかといえば、拒絶の可能性が強い。
その時、自分は二人の中に入れるだろうか?それとも、昔と同じ・・見ているだけしか出来ないのだろうか?


最後に見たコンラートのガラスのような目が、心を疼かせる。グウェンダルは、、机の引き出しから異国の
雑誌を取り出す。沢山の人に囲まれて、嬉しそうに笑う少年。この写真だけで彼が向こうで、幸せを手に
入れたことがわかる。一年前、偶然母の机の上にあったこの雑誌。何気に付箋のあるページを開いて
数年前に生き別れた弟の姿を見て驚愕した。おもわず、携帯で雑誌の名前やその写真を撮り、同じものを
取り寄せた。その時、その雑誌を送ってきたと思われる封筒に、送り主の名前と住所が書かれていたのも
携帯にとって知っている。だが、それはヴォルフラムには教えはしなかった。

教えたら、直情的な彼だ。真っ直ぐ飛んでいきそうだったからだ。末弟には悪いが、自分としてはせめて
すぐ下の弟の生活を邪魔するようなことはしたくなかったのだ。



いや・・もしかしたら、自分は逃げていただけかもしれない。例えば、コンラートに連絡を取ったとして
弟から迷惑がられたり、無視されたりするのが怖かっただけかもしれない。
あの時、守れなかった悔恨が、グウェンダルを臆病にさせているのだ。だが・・もしも、ヴォルフラムが
コンラートに会うとしたら・・自分もけじめをつけなければならない。

守れなかったことを、彼に詫びなければ・・。


グウェンダルは覚悟を決めると、NYへと向かった。そこから、末弟を追って日本という国に渡る為に。



ヴォルフラムは、横浜に降り立った。ここまでは、本国にいた時に手配しておいたから大丈夫だ。
まだ7つでありながら、シュピッツヴェーググループの跡取りと目されている彼である。
彼はインターネットを駆使し、移動手段の算段や、宿泊の手配までしていた。問題は此処からだ。

兄の消息をつかむ為に、ここのBUDOU−DOUJYOU で、聞かねばならないのだが・・、果たして
教えてくれるだろうか?

インターホンを鳴らし、暫らく待つと、金髪の女性。
『あら・・?入門希望者?・・あなた一人で来たの?保護者の方はいないのかしら?』
言葉が通じることに安堵したヴォルフラムは、用件を切り出そうとした。

『あの・・!』

しかし、なんと言って切り出せばいい?もしも、彼の事情を少しでも知っているならば、
この人達が兄にあわせてくれる可能性は皆無だ。どうしたらいい?

一向に言い出さない彼に、女性は不思議そうにしている。

『綺麗な花ね?』

それが自分が持っている花だと言うことに気がついて、ヴォルフラムは両手に抱えた鉢をみた。
そうだ、検疫までしてやっと持ち込んだこの花。これを、ちっちゃい兄上にお渡しするんだ!

『あ・・あの、ぼく!コンラートの弟のヴォルフラムと言います。兄上は、今日はこちらに来るでしょうか?』
『コンラート君の?』
『あ・・あの、家の都合で、兄は父親に引き取られたので・・離れ離れで、それで日本に来たので、一目兄上に!』

ヴルフラムは必死に言い募る。不審がられても困るし、かといって迂闊に大人に連絡を取られて、会えないまま
捕まるわけにも行かない。

『この花!大地立つコンラートといいます。兄にこの花を渡したくて・・・あの、おどろかして、喜ばしたくって!』

あぁ、僕は何を言っているのだろう?言いたいことが空回りしてゆく。しかし、女性は、そうなの?お兄ちゃん
想いなのね?というと、家の中に招きいえてくれた。

今日は生憎、稽古日ではないらしく。コンラートはやってこないようだが、師匠だという人に会えた。

『ほう?コンラートの弟か?わざわざアメリカから来たのかね?』
『兄上の先生ですね?いつも、兄がお世話になっています。』
『はははは!何、お世話なんてしていないのだよ。あれは勝手に強くなったのだからな。』
『え?デモ。』

『守りたい人がいる、その人のために強くなりたい---。入門の時、コンラートが言った言葉だよ。わしは
強くなりたいと頑張ったコンラートの後押しをちょっとしただけだね?』

『守りたい人って?』

『さぁ、だけれど、よほど大切なのだろう。・・・コンラートは 今、幸せに暮らしているけどね?』
『!?』
『過去に、何があったかは知らない。だが、今、コンラートは 幸せにしている。それだけでは、ダメなのかい?』
『先生は、昔、僕がしでかしたことを知っているんですか?だから、兄に会わせないと?』
『いいや、私は何も知らんよ、ただ・・コンラートは一度壊れたと聞いている。心が壊れるなどと、
よほど辛い事があったのだろうと、いうことくらいは・・・察しがつくよ。』

『僕には、ちっちゃい兄上に・・・会う資格がないと・・おっしゃりたいのですね?』

『資格の問題ではない・・・ヴォルフラム君といったかな?キミは、何をしに来たのかね?観光?それとも・・』

ごくり・・・と、思わず喉がなった。優しげなおじいさんだと思っていたら、まるで見透かすような視線を
投げてくる。これが、日本の侍、武道家というものか!?

『僕は、兄に・・謝りに家出して来ました!』
なんとはなく負けてなるものか!?と、感じたヴォルフラムは、馬鹿正直にも 本当のことを話してしまった。

あぁーー!ぼくのばかーー!!

しかし、話してしまったら仕方がない、なんとしても、連れ戻される前に兄に会って、花を渡して謝るんだ!

『こ・・こっちだって、犯罪大国USAを 子供一人で抜けてきたんだ!兄上に謝るまでは!絶対に帰らないからなっ!』
はぁはぁ!と、心持ち肩で息をしながらも、ヴォルフラムは、大見得を切ってみせた!

ぷ・・・・・・っ!!

いきなり、コンラートの先生が噴出した。そのまま、腹を抱えて笑っている!

『あははは、犯罪大国は笑った!たしかに、あの国では、コンビニに買い物に行くにも子供一人では危険
だろうよ?しかも、堂々と家出をしてきたと言いのけるとは!?確かにキミは、コンラートの兄弟らしいな?
中々、兄弟揃って見所がある。そうだ!どうだ?ヴォルフラム君とやら、うちに入門しないか?コンラートに
続いて、剣道をやってみないかね?』
『あ・・いや、僕は兄を探しにきただけで・・・??』

なんで、こんな所で勧誘を??

『あらら、ダーリン?だめじゃない、ヴォルフラム君が困っているわよ?はい、これ、コンラート君の家までの
電車の乗り継ぎの案内よ。それと、これが、コンラート君の家の住所と電話番号。』

最寄り駅まで行けたら、タクシーにお願いして連れて行ってもらいなさい。日本のタクシーは、安全だから
大丈夫よ?でも、その前に電話連絡をしておかないと、コンラート君が学校から帰って出かけてしまったら
すれ違いになってしまうからね。

『ハニー、ジェニファーの連絡先も渡しておいた方が?』
『あらあら、そうね?もし、コンラート君に会えなかったら、この家に行くといいわ。私達の教え子の家で、
コンラート君は、そこに良く預けられているのよ。お父様同士が親友なのよ。』

そこで、話題のジェニファーという女性が、シブヤ・ミコという、母にあの雑誌を送ってくれたヒトだと
気がついた!つながった・・・コンラートとミコ・・一気に兄へつ近づく!!
『なんで、ミコが名前で、ジェニファーなんだろう?ミドルネームかな??』
まさか、兄弟揃って同じことに引っかかるとは思うまい。




横浜から東京を抜けて、埼玉県のとある駅に降り立ったヴォルフラムは、この時点でかなり疲れていた。
思った以上に、乗り換えが良くわからずに手間取ってしまった。それでも、人に聞きながらここまでこれた。
奥さんが持たせてくれたメモは、英語と日本語両方で書かれていて、それを見せれば大概の人が、親切に
案内してくれて助かった。

ここが、兄の住む町・・・そうおもうと、ヴォルフラムは、どこかに兄の気配がないか、思わず探してしまうのだった。

奥さんに言われたとおりに、メモを見せてタクシーに乗り込む。

やがて、タクシーは住宅地にと入り、窓の外には、小さな家が所狭しと並んでいる。
するといきなり車が速度を落とした、みれば前をヴォルフラムと同じくらいの子供達が揃いのかばんを背負って
道を横断していた。こちらの学校の帰りなのだろうか?

みれば、あちらこちらに、同じようなかばんを 背負った子供達がいる。ちょうど下校時間らしい。


「!!!とめて!」

ストップストップと連発すると、運転手さんは車を止めてくれた。

「この住所は、まだ先だよ?」
運転手さんは、小さな男の子に身振りで伝えてきたが、それでもいいとヴォルフラムも身振りで答えると、
清算をしてくれた。

タクシーを降りると、ヴォルフラムはしっかりと花をだきしめて、走り始めた!

今、確かに見たんだ!あの薄茶の髪・・日本人ではありえない日に透けて金色に輝く!あれは間違いなく!!
曲がり角を急いで曲がった先に、それらしい少年の後姿があった。行ってしまう!その時、角を曲がった
少年の顔が見えた!

-- コンラートだ!

兄だ!記憶よりも随分大きく成長しているが、昔の面影が残っている。再び走り始めたヴォルフラムは、
その先で、その姿を見失う。入り組んだ狭くて細い道。どこだ?どこにいる?走って角を二つ曲がった所で
大きな道に出た。そして、反対側の歩道に、兄の姿を見つけた!

数人の同じくらいの年の少年達と、異国の言葉を話して、楽しげに話している。

「コンラー・・・!?」

懐かしさに、思わず呼びかけようとしたヴォルフラムの声が萎む。

突然、コンラートが、何かに気がついて走り始めたのだ。前方の路地から、黒い制服を着た二人連れが歩いてきた。
コンラートは、彼らに向かって走り始めたのだ。すると、二人連れも彼に気がついたらしい、一人が手を大きく
振ると、立ち止まってコンラートが、追いつくのを待っていた。

「ユーリ!」
「あれ?コンラッド?今帰り?」
「はい、ユーリも今日は早いんですね?部活は?」

「こらー!コンラッド、いきなり走るなよ。ほら、皆苦笑しているぜ?」
ふりむけば、さっきまで一緒だった少年達が、仕方ないなーという苦笑で見ていた。

「コンラッド、ヨザック、また月曜日になー!」
「あぁ、悪い皆、また学校で!」
手を振って、少年達と別れて、コンラッドとヨザックは有利たちに合流した。

「坊ちゃん方、早いですね。健さんとはたまに下校が一緒になりますが、坊ちゃんとは一緒になるのは
珍しいですね。」
「今日からテスト前でーす。あぁ、やんなっちゃうよ。何でテスト前は部活禁止なの?」
「そんなこと言うのは、有利だけだよ。いいじゃないか、テストが終われば夏休みも間近だよ!」
「健さんは、坊ちゃんと勉強ですか?」
「そ、美子ママに頼まれちゃって。」

なんだ?誰だ?明らかに、コンラートの様子が違う。目を輝かせて、黒制服の少年と楽しげに会話をしている。
手をつないで、まるで甘えるかのような仕草。コンラートが長兄相手でも、あんな風に親しげにしているのを
見たことはない。


-- 知らない・・・あんなコンラートを・・・僕は知らない。


たった数メートル先にいるコンラートとの距離が、すごく遠いものに感じた。なんて伸び伸びと自由に笑えて
いるのだろう?自分はここ最近、あんな風に笑ったことなどなかった。

-- ずるい

理不尽な怒りがヴォルフラムの胸に渦巻く。自分は異国の地で自由になって・・・自分を、あんな鳥篭のような
屋敷に一人で残して!

それは違う、コンラートを追い出したのは自分達。そうと知っているのに、この胸のモヤモヤは止まらない。

-- ずるい!ずるい!ずるい!!






『見つけましたぞ!ヴォルフラム様!!』

その時、目の前に黒い高級車が止まり、中から黒いスーツの男達が飛び出してきた。
がしっと、その細い腕を掴むと、男たちは小さな少年を、車の中にと押し込もうとした。

『こら!はなせ!!おまえら、父上たちの部下だな?手荒にすると、言いつけるぞ!!』
めちゃくちゃに暴れると、さすがに男たちもひるんだ。なにせ、相手は自分達が所属する、シュッピッツヴェーグの
跡取りなのだ。しかも、迂闊なことを言いつけられると困る。

『ヴォルフラム様、わがまま言わずに、かえりましょう』
『イヤだーー!離せ無礼者!!』

がっぶーーー!!っと、ヴォルフラムは、父親の部下らしきものたちの手を思いっきり噛んだ。

『おわっち!!』

道の反対側を歩いていた少年達は、何か騒いでいる外人たちに、気がついていた。

「なあ、あれ、誘拐じゃ!?」
「まさか、こんな白昼堂々と?」
有利は、傍らのコンラートに話しかけた。なにやら、金髪に黒スーツの男達が、黒塗りの高級車に金髪少年を
押し込もうとしている。

「でも、一応ナンバーは取っておくか?」
村田は、携帯を取り出すとパチリとその様子を写真に収めた。


はっと、ヴォルフラムは、道の反対側の兄がこちらを見ていることに気がついた。でも、自分だとは気が
ついていないらしい。すぅーーと、大きく息を吸い込むと、大きな声で兄を呼んだ。


『たすけてーーー!!ちっちゃい兄上ぇぇーーー!!!』


その大声に、男たちは思わず耳をふさいだ。

「なぁ、今、Helpって言わなかったか?ヤッパリ誘拐か!?」
「よし、警察をよぼう!」
村田が携帯で警察をよぼうとすると、コンラートがふらりと動いた。かばんを投げ捨て、竹刀を片手に・・。

「コンラッド?」
「コンラート!?だめだ、相手は武器を持っているかもしれない!」

咄嗟に、村田が止めるも、コンラートは一直線に走っていく。

「あの馬鹿!!」
つづいてヨザックも竹刀を持って走る。正直、相手はアメリカ人だ、銃を持っていてもおかしくはなく、
竹刀一本で立ち向かうなんて正気の沙汰ではない!!


『お前ら、その子を離せ!』
突然、棒を片手に飛び出してきた子供に、男たちは訝しがる。関係ないと追払おうとした男に、コンラートの
竹刀が一閃する!!

『うわぁ!!』

「コンラッド!お前何してるんだよ!?」
と、いいつつ、ヨザックも一緒になって黒服を叩きのめしていく。


そのうち、騒ぎに気がついた周辺住民がでてきた。

『くそっ!仕方ない、一旦引き上げるぞ。ヴォルフラム様、ホテルでお待ちしておりますので。』
そういい残すと、怪しい高級車は去っていった。

コンラートは、竹刀を下げるとほっと息をつく。そこに、有利たちが二人のかばん等を持って駆けつけた。
「コンラッド!かっこよかったぞ。ホラ、かばん、ヨザックも。」
そういって、荷物を渡してくれた。

『キミ、大丈夫かい?今のは知っている人?』
村田が、誘拐されそうになったらしい金髪の少年に話しかけた。

だが、少年は真っ直ぐにコンラートの背中を見つめている。

「?」
村田もその視線を追って、コンラートを見た。そのコンラートは、黙って有利から荷物を受け取ると、竹刀を
閉まいはじめた。その間、一度も助けた少年を見ない。

「コンラッド?どうした?」
有利が、心配そうに声をかけた。

だが、コンラートは頑なに下を向いて顔をあげようとしないで、ただ竹刀を見ている。

『ちっちゃい兄上・・・あの!』
ヴォルフラムが思い切って声をかけると、びくり!!とコンラートの体が跳ねた。

「あ・・まさか!?」
ヨザックが、何かに気がついた!そして、ヴォルフラムをジロジロとみると、はっとしてコンラートを振り返る。

「コンラッド、コイツお前の!?」
「知らない!俺は、こんな子知らない!!」
ヨザックの声をコンラートが鋭く遮る!

『おい、お前!まさか、シュピッツヴェーグの!』
ヨザックがヴォルフラムに詰め寄ると、コンラートの叱咤がとんだ!
『ヨザ!そんな子、知らないって言っているだろう!?帰るぞ!!』

まるで悲鳴のようだ。その声に、異変を察知した有利が、思わずコンラートの手を握る。
冷たい・・・。まるで氷水に手を突っ込んだ後のように、冷たく硬い指先だ。有利は自分の手で温めるように包んだ。

「帰ろう、コンラッド。」
「ゆー・・・り」
のろのろと、やっとコンラートが顔を上げた。ユラユラと瞳が揺れて、ユーリにすがる様な視線をむける。

「村田、後を頼む。」
「わかったよ、コンラートは任せた。」

コクンと頷くと、有利はコンラートの手を取って歩き始めた。自分達の家に向かって・・・。

『コンラート兄上!』
ヴォルフラムは、自分を おいていこうとする二人に 追いすがろうとする。
だが、オレンジの髪の少年に、すごい目で睨まれて前をふさがれた。

『今更、何をしにきた!コンラートに近づくんじゃねぇ!』
『うるさい!他人は関係ないだろう!?そこを退け!!』
でないと、兄が行ってしまう!せっかく、探し出したというのに・・・やっと、会えたというのに!!

『他人じゃないよ、ヨザックは、コンラートの兄弟だ。』
すると、黒い制服を着た眼鏡の少年が、ヴォルフラムの思いもよらない事を口にした。

-- な・・・に?・・・兄弟?僕らのほかに・・・?

『キミは、シュピッツヴェーグ方のコンラートの関係者だろう?ヨザは、ウェラー方の兄弟だよ。』
村田はあえて、関係者という言い方をした。コンラートの兄弟については、多少は聞かされている。
それによると、あまり良い印象は無い。特に、弟だという・・・コンラートを追い出した少年には。

『ウェラーの?では、異母兄弟か?』
『・・正確には、異父母兄弟だ。おれは養子だからな。でも、コンラッドの兄弟は、俺と坊ちゃんと勝利だけだ!』
『なっ?それでは、兄弟ではないではないか?』
異父母ということは、血がどこにも繋がっていない・・それは他人ではないか?

『血のつながりに何か意味があるの?実際に、彼は、血縁者に虐待されていたんじゃなかったっけ?』

心を壊されるくらいに・・・。

村田には、容赦というものがない。ヴォルフラムが、一番聞きたくなかった過去の現実を 平気で突きつける。

押し黙ったヴォルフラムに、ヨザックが なおも言い募る。

『帰ってくれ、アイツはやっと落ちついたんだ、夜うなされる事も無くなったし・・・なんで今頃・・アイツが
幸せになろうとしているのに・・・。』

『僕は・・僕は・・・兄上に・・・。』
ヴォルフラムは、最初の勢いはどこかに消えて、もう、項垂れるしかなかった・・・。
たしかに、その通りである。異国で幸せになった彼にとって、過去の亡霊である自分は、きっと迷惑なのだ。

『ヨザ・・・君も帰りたまえ、コンラートの様子が・・おかしかった。』
『健さん・・・でも・・。』
『いいから、いくらなんでも年端も行かない子供を、異国の地に置き去りには出来ないしね?僕がこの子を
送ってゆくよ。キミは、冷静ではいられないだろう?』
『・・・・じゃぁ・・・お願いします。』
『うん、早く帰ってあげて、コンラートが待っている。』

-- 待っている・・兄上が待っているのは、もう・・・僕じゃない。


ヨザックが、家に帰ろうと踵を返したときだった。

「ヨザック?それにムラケンじゃないか・・二人ともどうした?」
またもや黒塗りの高級車が止まったと思ったら、中から渋谷勝利が現れた。

「勝利さん?なんで、そんなありえない組み合わせの車から!?」
「ショーリ兄!なんで高級リムジン?に・・にあわねぇーー!!」
「お前等、失礼だな!!」
すると、反対側からもう一人、長身のダーク系のスーツを着こなした青年が降りた。

『ヴォルフラム・・・やはり日本にいたのか?』
『あ・・・・兄上!?なぜここに!』

と、言うことは、この青年もシュピッツヴェーグの・・・コンラートの兄弟か?

『こんのばか者っ!!母上がどんなに心配したと思っているのだ!海外まで家出をする馬鹿がどこにいる!?』
『だって、コンラートが、ここにいるんだから仕方ないじゃないですか!?』
『だからって、お前はまだ7つなんだぞ!?供の一人でもつけんか!?』
『そんな、家出なんてありえません!』

家出?家出ってボストンから?こんな小さい子が??ヨザックと村田は、おもわず口をぱっかりあけた。
全然似ていないのに・・・たしかにコンラートの弟のような気がした。


『おい、グウェンダルさん、説教は後にしてくれ。それでコイツが、話に出てきたアンタの弟か?
では、もうコンラートと接触したのか!?』
勝利がヨザックに説明を求めるように、視線を動かした。すると、ヨザックの瞳が揺れて・・・それだけで
理解したらしい。

-- くそ!遅かったか!

『アンタ、弟は回収しろよ、俺はコンラッドの所に急ぐ!ヨザック、村田!コンラッドはうちか?』
『えぇ、勝利さん。何か様子がおかしかったので、有利が家に連れ帰りました。』
『・・・様子が・・・わかった・・・急ごう!』

勝利は車の中から、荷物を引っ張り出す。どうやら自分の足で帰るらしい。

『まってくれ! ヴォルフラム・・・その花、大地立つコンラートだな?渡すのだろう?』

-- 大地立つコンラート?

その時初めて、コンラートの弟が、鉢植えを大事そうに持っている事に気がついた。そういえば、ずっと
持っていたような?

少年は、ぎゅっとその鉢植えを抱きしめて、フルフルっと首を振った。

『もう・・・いいです。もう・・・・ちっちゃい兄上は・・・。』
『ヴォルフラム・・・あやまれなかったのか?』

ふと、村田が足を止めた。謝りにきたのか・・?家出までして?
項垂れる小さな少年を見ると、後味に悪さを感じる・・・なんだかんだで、この子は、コンラートの弟なのだ。

-- 仕方ない・・・。

『それ、寄越しなよ。コンラートへのプレゼントなのだろう?』
村田は、ヴォルフラムに向かって手を伸ばした。

『渡して・・・くれるのか?』
ヴォルフラムは、そっとその鉢を村田に渡した。

『それは大地立つコンラート・・・母上が品種改良した花です。兄に、どうか渡してください。』
『わかった。渡すだけは渡す・・・それから、何か伝えることは?』

ふるふるっと、ヴォルフラムは首を振る。

『それは、自分で言わなければ意味のないことですから・・・。』

それはそうだな。

『わかった・・・じゃぁ』

村田は、待っている勝利たちと共に、渋谷家へと向かった。



コンラートの兄弟だという二人は、村田たちが視界から消えるまで、ずっと見送っていたのだった。


ずっと・・・・。