アナタは、とてもカナシイけものだった。






年下の彼・少年との別離編 13







ワカラナイ――

どうすれば、いいのだろうか?

悪意ならば蹴散らせばいい。
罵りなら鼻で哂ってしまえばいい。
欲望ならば、冷たいこの手で切り裂けばいい。

コンラートの周りに渦巻く、ノイズたちは全て消し去ればいいのだ。

だけど、このむずがゆいような気持ちは?

この手に残る、温かなぬくもりは、どうすればいいのだろうか?






何を暢気にしているのだと、グウェンダルは苛立ちを覚えた。

さっきまで、自分の弟だった少年の体は、別の人格に乗っ取られているというのにっ!

父親であるダンヒーリーは、先程から口を開かず、有利という弟の友人だという少年とコンラートの
体を操る狂気のよな人格との会話を見守っている。

彼がどれほどキケンかを、ダンヒーリーは知らないのだ。あの有利という少年も、此処にいる誰もが!
だが、自分は知っている、どうして、あの狂気が生まれたかを、その前に彼の身に何が起きたかを。

そして、再びあの狂気が目覚める時に、どんなことが起こるかも。


『ダガ、モシモ

――モシモ、約束ヲ違エタ時ハ

――ソノ、時ハ

我、再び目覚めん

その時は、我の前に全ての者を、切り裂いてくれようぞ!』


そう告げた、不遜で尊大で艶めかしい存在の恐ろしさ・・・。


知っていたのは自分だけ
ならば、自分が止めるしかない。

彼の狂気は、全てを破壊し飲み込む熾烈さを孕んでいるのだから。
アレを解放したら、今度こそコンラートが壊れてしまう!

そうなる前に、アレを消し去らなければ。




「ドクターロドリゲス、お願いです。あの交代人格を消し去る事は出来ませんか?」
「まだそんな事を、いいですか?」
「統合なんてダメなんです。アレがどんなにひどい目になったか、貴方たちは知らないでしょう?
もし、統合などとしてしまったら、何があったかがコンラートに知られてしまう。それだけは・・・」

苦悩に顔をゆがめて、グウェンダルはロドリゲスに頼み込む。

「そういえば、彼に何があったか、それを貴方は知っているんでしたね?」
「……知っている。というより、概要をたまたま知ってしまっただけだ。詳細は知らないが、
それから何があったかを推測は出来ている」

そして、多分それは間違っていないだろう

「だから、統合で彼の持つ記憶が、コンラートに渡るのは避けたい。どうにか、消せないのか?頼む」


「グウェンダル、それはできない。アレもコンラートだ。」
「貴方は知らないから、そういえるのです。一度、私は彼と取引して眠ってもらいました。だが、
契約は反故されてしまった!」

「取引とは?」
「コンラートの前に、シュットフェル・ビーレフェルト・ナイカポネらが再び現れないようにする
という約束です。だから、4年前・・・貴方にコンラートを迎に来てもらったんです」

これで、シュピッツヴェーグという鎖から解き放たれた弟は、二度と取引に使われることもない
だろうと。しかも、国外に出たのなら、シュピッツヴェーグと係わることも、その取引先と関る
こともないだろうと、安心していたのに。

なのにまさか、この日本で一番あわせたくない3人の男に会ってしまうなんて!?

ダン!っと、壁を叩くと、彼はやり場のない怒りに身を振るわせた。

すると、その音にコンラートがこちらを見た。そして、ガラスの瞳でグウェンダルを射抜いた!

「約束、やぶりましたね?」
「くっ!」
「貴方が絶対に会わせないと約束したから、一度だけ信じたのに・・・・」
「わかっている!だが、たのむ!もう一度、眠りについてくれ、弟を、コンラートを返してくれ!」

「・・・・・だめだ、ここはまだ安全ではない。まだ、かえせない」
必死に頼むグウェンダルに、だが守護者であるコンラートの言葉は冷たい。

「おまえ!コンラート兄上の中から出て行けぇー!!」
すると、今度はヴォルフラムが噛み付いてきた。
小さな拳を、コンラートへとポカポカっと叩き込むのを、あわててグウェンダルが引き離す。

「離してください!僕は、アイツを許さない!父上を殺そうとした!父上は、ちっちゃい兄上に
謝ってくださるといったのにっ!!」
目に涙をたたえて、幼い体を暴れさせながら向かっていこうとするヴォルフラム。


―― 謝る?謝って済ませられるほど、コンラートの傷は浅くはない。


ビクリッ!!と、その場にいた誰もが体を揺らすほど、その声は低く冷たく不穏な響きを持っていた。

「コンラッドは、お前の変わりに差し出されたことを忘れるな!あの男は、自分の地位の為に
コンラッドを利用して、あそこで何が行われるか判っていて、お前の変わりにコンラートを
差し出したのだぞ?もはや、シュピッツヴェーグとは何のかかわりもない子供を、大人の欲望の
玩具にする為にだ!」

断罪の言葉は、激しい怒りと嫌悪を持っていた。

「お前は、コンラッドに言ったな?おれが、沢山の人を傷つけたと?父親を傷つけたと?だが、
そのお前の父親は何をした?コンラッドの犠牲の上に、何億ドルもの利益をかさねて、自分の利権を
むさぼり、それにも飽き足らずに幼いアイツを虐待した!」

「ちがう、ちがう、父上は、謝ってくださると・・」

「くくくく・・・あやまる?で?お前の父が謝ったら、コンラッドにはどうしろと?」

まさか、許せなんて傲慢なことを、強要したりするのか?

「僕はそんなこと」
「思ってないって?本当に?だったら・・・なぜ、今、コンラートにお前の父を会わせた?そんな事、
アレは望んでなんていないのに」
「ぼ、ぼくは…」
「僕は?」
口ごもるヴォルフラムに、一切の手加減をしないで、コンラートが追詰めてゆく。

「やめてくれ!ヴォルフラムをそれ以上責めないでやってくれ!」

見ていられなくて、グウェンダルは思わず叫んだ。
すると、フンッと、鼻で小馬鹿にしたように哂うと、そんなグウェンダルの願いもむなしく
コンラートは攻撃の手を休めなかった。

「ほら、お前は守られている。幼い時はコンラートに、その後は両親に、今はその兄に、だから
守られないで一人で大人の悪意にさらせれていた人間の気持ちがわからない。お前に、コンラッドの
弟を名乗る資格はない」

無機質さを強くして、ガラスの目が真っ直ぐに兄弟を射る!

「お前が大切なのは自分だ!どこまでも、コンラートに甘えてアイツを盾にする。謝りに行ったのに
酷いだと?お前の父を見た瞬間、アイツがどんなに恐怖に染まったか?お前には解かるか?」

そう、コンラートは、ヴォルフラムが連れて来た男を見た途端に、体が震えて意識を飛ばしたのだ。
幼い頃に受けた恐怖が、コンラートの精神を壊さないために、自動的に取った緊急措置。そこまでに、
コンラートの心に大きな傷として残っている男。

そんな男を、彼の守護者であるコンラートが許せるはずもない。それを連れて来た弟という名の
愚か者を、彼が許せるはずもないのだ。あれ程、彼に愛されながら拒絶して傷をつけ、それを
許されたのに、また同じ事を繰り返すおめでたい、幸せな弟を―― 憎まないはずがなかった。

「傷ついたものを優先しないで、お前とお前の父親は、自分の罪悪感から逃れたいために、コンラート
に謝って許してもらう道を選んだんだろう!?そうやってまた、アイツに全てを押しつけた」

―― それで、よく【兄弟】なんて、名乗れますよね?厚顔無恥って言葉、わかります?

侮蔑を込めて囁かれた言葉は、大声で怒鳴られるよりも、二人を竦ませた。



「裁判なんかでさ、あるよね〜こういうの?」
緊迫した空気の中、誰も3人の中に入れずにいると、それまで無言だった村田健が口を開いた。
何を言い出すのかと、周りの視線が一斉に彼に集まる。

「加害者がどれだけ反省していますって証拠に、被害者に謝罪の手紙を出しましたっていうの、よく
裁判で使う手だよね?あれって、手紙を出された被害者の方はどうだとおもう?加害者が反省して
よかったって、喜ぶと思う?」
誰とはなしに質問されて、皆の目がかすかに泳いだ。意図は何だ?

「俺がテレビで見た人は、大概、怒っていますね?」
う〜んと、チョットだけ考えて、一番近くにいたヨザックが答えた。

「そうだね、優先されるべきは、被害者の方なのに、裁判の予定とか加害者の刑を軽くするっていう
目的の謝罪だもの、それは既に謝罪ですらないよね?」

―― あれは、暴力だと思うよ?


その言葉に、ヴォルフラムの顔が余計に強張った。


「謝れば、例え許されなくても、心が軽くなるものです。悪いことを謝罪した行為は、正しい行いで、
相手に受け入れられなくともそれを続けることで、回りの同情もかえますしね?だけれど、誤られた
方は?許さない事は一般的に悪い行為と受け止められます。そういう心理がある以上、それがどんなに
謝られた方にとって正当性があっても、謝られたのを許さなかったというだけで、被害者の心に負担を
かけます。たとえ、無理やり受け入れたとしても、被害者の心は捻じ曲げられて余計に傷がついて
しまいます。」

本当に、コンラートの事を思うなら、彼が許したくない間は、謝罪も何も遠慮すべきでしたよね?

そう、せめて、コンラッドに一言聞いてから、加害者とあわせるという心遣いがあれば、あんな
双方が傷を追う事態は避けられたのだ。きついようだが、全ては、ヴォルフラムの短慮が起こした
といって良いだろう。

「ぼく……は、ちっちゃい兄上に、何かしたかった」
「ヴルフラム」
「僕に出来ることなんて、父上を謝ってもらうことぐらいだから」

「それだって、自分の罪悪を減らしたいんだろう?いい迷惑だ」
バッサリと切り捨てたコンラートに、とうとうヴォルフラムの怒りが爆発した!

「うるさいうるさいうるさい!!お前なんか、兄上じゃないくせにーー!!」

「口だけは一人前ぶって、お前の綺麗な洋服も、豪華な食事も、贅沢な暮らしも、全部犠牲の上で
成り立っているくせに」

「うるさい!お前なんて嫌いだ!お前なんてコンラートじゃない!!」
「残念でした。おれもコンラートだ。」
「ちがう!お前はコンラートじゃない!コンラート兄上は、もっと優しく笑うんだ。いつも側には
風があって・・・お前には、闇しかない!この悪魔!悪魔らしく闇の中へかえれ!そして、本当の
コンラート兄上を返せ!この贋者めーー!!」


「おれは、にせものじゃない…」
「ほう、だったら本物か?ちがうな、小さい頃から一緒に育った僕が言うんだ。お前は本物じゃない。
まがい物だ」

「ちがう!おれもっ・・おれもコンラートだ!」
「ちがう、コンラート兄上を追い出して、そこに居座っているくせに、そうだ、お前こそ、
コンラート兄上を守るなんていって、自分を正当化しているくせに、兄上が本当に人を殺せと
お前に頼んだのか?」
「おれは、アイツの世界から、ノイズを排除して、あいつに優しい・・・」
「ほらみろ、お前が勝手にやっているんだな?」
「ちがう、あいつはありがとうっていった!おれにありがとうって・・・」
「どうだか?」

「おい、やめろよ」
攻守が逆転して、今度はコンラートが追詰められた。それを見かねて、有利が止めに入れば、
今度はその有利にヴォルフラムがあたり始めた。

「なんだ?まさかお前も、ちっちゃい兄上がコイツに殺人を依頼するとでも?」
「まさか!コンラッドは、そんなことはしない。」
「ほらみろ、この人だってお前の言うことは嘘だといっている」
「ちょ、まて、おれはっ!」
有利はそんな事を言っていないとあせった。だって、そうヴォルフラムが断罪した時、それまで冷たい
無機質のようだった目が見開いて、続いてコンラートの貌が哀しみに歪んだのだ。

―― あぁ、泣きそう。やっぱり、コンラッドなんだな。

有利はその反応で、彼らが本当に二人で一人なんだと、どこか遠くでおもった。


「うそじゃない・・・・うそじゃない!本当に、コンラッドは『おれに』、ありがとうって言った
んだっ!!!」

その証拠に、彼の言葉の温もりは、ずっとずっと、この心の奥にある。何もない意識の深淵で、
ずっと温めてくれていた自分の宝物。

それを否定されて、コンラートは激昂した。


「お前なんて、処分してやる!」

突然、コンラートがヴォルフラムに挑みかかった。伸ばされた腕は、胸倉を掴んで乱暴に宙に上げる。

「コンラッド止めろ!」
有利がその腕に縋りつくも、怒りに燃えた彼に振り払われた!

「うわぁぁ!」
「有利!」
「ゆーちゃん!」

体勢を崩して、有利が床に転がった。それでも、果敢に顔を上げると、そこで信じられないものを
見た。パシーン!パシン!胸倉を締めたまま、平手がヴォルフラムの頬に舞う、何度も何度も叩かれる。
その度に、小さな頭が揺れる。真っ白な頬が、真っ赤に染まるのをみて、有利は弾かれたように飛び
起きて、振り上げられる腕に縋りついた。

「何、馬鹿やっているんだコンラート!本気で殺したら、コンラッドが悲しむだろう!?」
「おまえも、こいつを庇うのか!?」
「ばか!!この子じゃない!お前だ!!」

その言葉に、ピタリとコンラートの動きが止まった。呆然と腕にしがみ付く有利を見る目は、僅かな
がらに揺れていた。有利の言葉に秘められた本気が、彼を止めたのだ。

「お前が、こんな事をしたと知ったら、コンラッドは悲しむ。お前、守るって言っただろう?なのに、
おまえ自身がコンラッドを悲しませる事してどうするんだ!?」

「な?」
「嫌われることをしてどうするんだ?」

カッ!!

その言葉を聴いた瞬間、コンラートの中の琴線に何かがザラりと触れた。

「うるさい!!」

ガツッ!!という音がして、有利がベットの上に倒れこんだ。

「あ‥?」

横っ面を思いっきり殴られ、有利が口から血を流してぐったりと横たわる。

「お、おい?」

慌てたのは、殴ったコンラート。気がついたら殴っていた・・・なんで?

「ちがう!おれは・・おれはっ・・こんなつもりじゃ――」

有利を抱き上げて、血をぬぐうと肩をゆすって起こそうとする。

「まて、コンラート、脳震盪を起こしている」
ダンヒーリーが、コンラートを有利から引き離そうとする。だが、彼は違うと繰り返して、その体を
離そうとしない。

「ちがう、ちがう、こんなつもりじゃない!!!」


・・・ユ・・・ーィ・・


「起きろ、おい、違うんだ!」


・・・・ユーリ?・・


「傷つけるつもりなんて、なかったんだ!!」


ユーリ!傷つけた!!!


ガクン!!

いきなりコンラートの体が傾いで、そのままパタリと倒れこんだ。










ふっと、目を開ければ、そこは暗闇。なぜ?おれは、さっきまで表層意識にいたはずなのに?
コンラートは、痛む体をおしてゆっくりと起き上がった。

パシッ!

いきなり頬を叩かれて、目を見張って前を見れば、自分と同じ顔をした少年が、怒りを漲らせて
立っていた。

「よくも!よくも、俺のユーリに酷いことをっ!!」
「コン・・らっど?」
「何が守護者だ!有利を傷つけるものは、誰であろうと俺が許さない!」
「まて、ちがうんだ、コンラッド!」

コンラートの瞳が揺れる。なんで?おれはお前のためにいるのに、どうしてそんなに怒るんだ?

「有利だけじゃない!なんで、ヨザに手を出した!ヨザックは、おれの兄弟だ!」
「それはっ!」

それに関しては、言い訳の仕様はない。ヨザックの時は、コンラートの兄弟だと知っていても、
気にもせずに肩を砕いた。

「そして、今度は有利だ・・・有利は、俺の最愛の人・一番大事な人だ。それをっっ!」
「だから違う!おれは、傷つけるつもりなんて!」

そう、気がついたら殴ってしまっていたが、元から有利に怪我を負わせる気なんてなかったのだ。
ただ、有利が、コンラッドに嫌われる・・そういったのを聞いたら、目の前が真っ赤に染まって・・・。
必死に説明をするコンラートだが、目の前の少年の怒りは深い。

「そんなの当たり前だろう!?俺の大事な人を傷つけるおれなんて許さない!!俺は、大事な人は
守りたいんだ!」
「おれだって、お前を守りたかった!」
「いらない!そんなの頼んでない!」


―― お前こそ、コンラート兄上を守るなんていって、自分を正当化しているくせに
―― お前が勝手にやっているんだな?

コンラートの弟の罵る声が聞こえた。


ちがう、おれは―――


「コンラッド・・おれ、優しい世界をお前にあげたかった」

そして、もう一度、ありがとうって、おれに笑ってくれるのだけが望みだったのに・・・

「有利達が傷つく世界なんて要らない!俺は、皆が笑ってくれたほうが何倍も嬉しいんだ。
なのにっ・・皆に大怪我を負わせてしまうなんて・・・・」
みるみるコンラッドの瞳に、大粒の涙があふれる。

「なんで?だって、コンラッド。アイツは、お前の最愛は、お前を否定したぞ。あの弟もだ、
自分の都合のいいお前しか見ていない。お前、それでいいのか?


「いい、俺が傷ついても・・・彼らが笑ってくれるなら・・・だから、お前は間違っている!」
「―― !!!」



まちがっている?どこが?
だって、アイツラ、お前をボロボロにしたんだぞ?お前、泣いていたじゃないか?
だから、助けたのに

なのに

お前は、自分がボロボロに成る方がいいのか?

「お前は間違っている」

おれが間違っているのなら、おれのしてきたこと全部が間違っているのなら

おれは・・・おれの存在が間違っているというのか?


「お前が、それを言うのか?コンラッド・・・」
「あぁ」
「お前が!おれを作り出したお前がおれを否定するのか?」
「あぁ、そうだ」


おれを、お前までがっっ!!!


だったら、もう守らない。
勝手に、傷つくがいいさ!
だって、それが正しいんだろう?


なに?と訝しがる暇もなかった。

「!!??」

突然、コンラッドの中へと、押し寄せてくるのは、見たこともない記憶。

男の手が、大人の手が、幼いコンラートへと伸ばされる。

いやだいやだいやだ!!


うわぁぁあああああああああーーーー!!!




目を見開き、恐怖とおぞましさと哀しみに彩られた記憶に翻弄されるコンラッドを、同じ顔をした
コンラートが哂いながら見ていた。

「それは、おれの記憶だ。お前が辛いだろうと、おれが預かっていた記憶。だけれど、それも無駄
だったというわけだな?おれに守られるより、お前は自分が傷つく方がいいんだろう?ふ・・ふフフ・・・
ふははははははは、ふはははははっ!」

壊れたように、哂い続けるコンラートのガラスの瞳に、一粒の滴がヒカリ・・・頬を伝って落ちた。


『嫌われることをしてどうするんだ?』


あぁ、そうだな、有利、お前の言うとおりだった、何をしていたのだろう?おれのしてきたことは、
無駄だったんだな。・・・・自分にまで、否定をされてしまったよ。





おれは、自分にさえ必要とされてなかったんだ。





のたうち回るコンラッドを置いて、コンラートは背を向けると歩き出した。

遥か上、意識の表層へと・・・

なら、おれが、おれ自身になる。それしか、おれが存在していい


理由がない。



もう、ないんだ。




存在理由を失った・・・存在だけの自分がとるべき道(理由)が・・・





2009年 11月 20日UP