現代パラレル・年下の彼
SAYONARA 1





面会人が来たというので、名前を尋ねてみたら、とても珍しい相手だったので驚いた。
20分ほどで仕事が終わるので、それまで応接室にでも通しておいてくれと秘書に頼むと、
彼は書類に目を戻した。


「珍しいな・・・・お前が訪ねてくるなんて、初めてか?」
きっちり20分後、彼は面会者と対峙した。応接間のソファーには、ひどく緊張した面持ちの少年がいた。
「会社まで押しかけて申し訳有りません。・・・兄上。」
「かまわん、すわれ。」
とても、兄弟とは思えない空気だ。見た目も違いすぎる。片や10にも満たないだろう幼い少年。
少年は、母親譲りの金髪に深い緑の瞳を持つ美しい容貌を持っていたのに対し、片やこの会社の
最小年取締役を勤めるとはいえ、20歳の青年だ。濃灰色の長髪を後ろで紐で括り、瞳は深い蒼、
眉間の皺も渋さを醸し出している。


「それで、何の用だ。」


びくりっと、少年の肩が揺れる。
あぁ、まただと、青年・グウェンダルは心の内で思う。どうして自分は、こんな言い方しか出来ないの
だろう?目の前にいるのは、父が違うとはいえ同じ母から生まれた弟だというのに。こんな自分だから、
もう一人の弟にも、温かな声をかけてやることも出来ず、追い込んでしまったというのに。
思いを馳せるのは、もう一人の弟。今は遠い国にいるという。元気でやっているだろうか・・・。


「あの・・コンラートの居場所を知りませんか!?」
「!!??」


末の弟が意を決したように言い出した台詞に驚いた!今思いを馳せていたもう一人の弟の名前が
よもや、この弟の口から出るとは思わなかったのだ。何故なら、彼を追い出したのは、この末の弟の
父親と彼らの伯父で、その言葉にのってコンラートという存在を拒絶したのは、このヴォルフラム自身
だからだ。

年が離れ無愛想で口下手な自分と違い、コンラートは、年も近く穏かで優しい少年だった。
傍目に見ても、弟二人はとても仲の良い兄弟だった。コンラートは、もてる限りの愛情を注いでいた
と言っても良いくらいに、この異父弟を可愛がっていた。なのに・・・突然この弟は、その兄を手酷く
拒絶したのだ。それにより、精神のバランスを壊したコンラートは、実父に引き取られ屋敷を
出て行かざるをえなかったというのに?たとえ、それが大人達に、善からぬ事を吹き込まれた
結果だとしても、その行為による代償は大きすぎた。だから、つい、年端も行かない子供相手に、
グウェンダルは、怒りを湛えた声を発してしまった。

「何を考えている?コンラートだと?御前は自分のした事が解っていてその名前を出すのか!?」
「そ・・それは・・」

怯えた声に、はっとして拳を握る・・。自分はいったい何を・・相手はまだ子供なのに・・。
「・・すまない・・声を・・荒げてしまった。」
コンラートの名前は、家族の間では禁句に近い。その名前を出すと、義父や伯父は、不機嫌に
なるし、母は悲しそうに俯く。そして自分も・・何も出来なかった己を腹立たしく感じるのだ。
見ているだけだった・・それだって、立派に罪だ。この弟のせいだけではないのに・・。

「い・・え、兄上が・・そう言われるのも無理は有りません・・。僕が・・コンラートを・・。」

壊したんですから・・。



話す事も、食べる事も・・生きることさえ諦めてしまった・・ガラスのような目をしたコンラート。
それが、彼らの見た最後の姿。


「ならば・・何故今頃・・コンラートの消息など気にする。聞いてどうするつもりだ?」
「・・どう・・って・・僕は・・ぼくは・・・・・・ちっちゃいあにうえに・・・ぼくは・・。」
ヴォルフラムの声が震えて小さくなる・・ちっちゃい兄上・・久し振りに聞いた・・彼が出て
行く前は、いつでも屋敷には、彼をそう呼ぶ、この弟の声がいつでもしたというのに・・。


まだ、この弟の中には、コンラートを慕う心が残っているのか・・?

ふぅっと、息を深くつき、グウェンダルは机の中から、一冊の雑誌を取り出した。
少しくたびれたその雑誌は、見たこともない文字で書かれていた。

「これは?」


差し出された雑誌は、異国の物?みれば、付箋がしてある。そこを、開くと・・。
ひゅっと喉が息を鋭く吸った。

そこには、数人の異国の人々に混じって、中央で笑っている見覚えのある少年が写っていた。
薄茶の髪、同色の瞳写真ではわからないが、きっとその瞳には、銀色の彼独特の虹彩が煌め
いているのだろう?


コンラート・・兄上・・?




記憶よりも、成長した兄が・・こちらをみて笑っていた。




9月8日UP
短めですが更新。書いてあったのにファイル化し忘れていました。(:.;゜;▽;゜;.:)アハ…♪