年下の彼 お兄ちゃんと呼ぼう 番外編1




「こら、ゆーちゃん、遊んでないで、宿題やったのか?」
「帰ってきた早々にその台詞かよ?後でやりますぅ。まったく、煩いんだから勝利はっ!」
リビングのソファーで寝転がっている弟に声をかけてやればコレだ。昔は、しょーちゃん!しょーちゃんって
俺の後をくっついて回っていたのに、今じゃ……グスン (ノд<。) ゆーちゃん、お兄ちゃんは悲しいデス。

「おかえりなさい、ショーリ、おじゃましています。」
「・・おう、いらっしゃい。」

台所から出てきたのは、2ヶ月前、ひょんなことから、助けた迷子。それが縁で有利の友人となったコンラートは、
出会ったときは、日本語はまったく話せなかったのに、今では日常会話をこなせるまでに上達していた。
元々、頭の回転も速いのだろうが、これで結構ながんばり屋だ。

「はい、これ、麦茶です。今日は少し暑かったですから、どーぞ。」
しかも、この気配り。コレで女の子だったら、即、ゆーちゃんの嫁に貰うのだが。

かわいくっても、コイツは男。

「ありがとう。」
世の中うまくいかないもんだ。

「コンラッド、今日は金曜日だろう?ダンさんの帰りが遅いようなら、うちに泊まっていけよ。」
ダンさんというのは、コンラートの父親のダンヒーリーさんだ。うちの母が、ダンさん、ダンさんと呼ぶので、
定着してしまったのだった。ちなみに、コンラートは、弟がコンラッドと 呼ぶので そっちで定着している。

「あ、でも、先週もお世話になったばかりですし、それに今日はジェニファーは旅行でいないと聞きましたよ。」
「あぁ、だから、夕飯はカレーな、俺が作るから、そんなもんしか出来ないが。いいだろう?」
ちらっと、弟を見る。心得たとばかりに、有利がにっと笑う。

「コンラッド!今日は、7時からライオンズの試合の中継があるんだ。勝利は一緒にみてくれないし、
一緒に応援してくれよ〜。なー?だめぇ?」
ソファーから、見上げて大きな黒目を きらきらさせての おねだりだ!実は、コンラートは コレに弱い。
まぁ、当たり前だ。うちのゆーちゃんの可愛らしさ爆発のこの攻撃は、見慣れた家族でさえ、
時に撃沈されるくらいだもんな!

「こら、ゆーちゃん、おにいちゃんだろう?悪いがコンラッド、こいつの面倒見てやってくれ。」
「面倒いうな〜!」
「えっと、では、今夜もお世話になります。それと、カレー俺も手伝いますね。」
「え、コンラッドがやるなら俺もーーー!!」

………こいつらに、包丁もたせて大丈夫か?お手伝いの申し出は、有り難いが……一抹の不安が。
とりあえず、皮むきでもさせておくか?

弟が一人増えて、お兄ちゃんは結構大変だ。・・・あ、一人じゃないな、コンラッドがここにいると
いうことは、もう一人の相方もいるんだな?計三人のお子様か、今晩はさわが・・いや賑やかそうだ。
「そういえば、コンラッド、相方はどうした?」
「ああ、アイツなら・・」

「ぼっちゃーーーん、お風呂掃除終わりましたぜ。」

元気に風呂場から出てきたのは、オレンジの髪を頭の横でツインテールにした青い目の…メイドさんだった。

「グリエーーーー!貴様、またそんな奇天烈な格好をっ!!!」
「えーーでもこれ、ジェニファーママが、似合うって買ってくれたのよぅ。」
くるんと一回転してみせる。すると、ピンクのメイド服と白いフリフリエプロンがふわりと広がり、
すっと伸びた足が、太ももまであらわになる。ついでに、トランクスも・・・。
「ぎゃー、パンツ見せるな!しかも、ハート柄のトランクスってなんだ!」
えーこのおパンツかわいいのに〜〜。と、しなを作ってクネクネしているのは、コンラートにもれなく
ついてきてしまったグリエ・ヨザック。一見可愛い娘さんだが……やはり男だ。

このヨザックは、ダンヒーリーさんが、コンラートを引き取る時に、同い年の遊び相手としてアメリカの
孤児院から引き取った少年だ。コンラートと同じ7歳だが、体格は割りとよく2歳上の有利よりも大きい。
そして、なぜか有利を坊ちゃんと呼ぶ。 …俺の事は、勝利なのに?

こいつは、口が悪いが器用で人懐っこいところがあるので、美子に気に入られてしまい、こんな格好を
させられている。最初は、びっくりしていたが、そのうちメイド服が気に入って、今ではピンク・水色・
紺の三バージョンを着こなしている。何でも、イタリア人の血も流れているそうで、ノリのよい享楽的な
性格は母親譲りだそうだ。まぁ、うちの母親のせいで道を踏み外したようなものだ。

少し、すまないな〜〜とは思う・・思うけど……

レースフリフリエプロンで尻を振るな!踊るな〜〜!

有利は、きゃー、グリエちゃん、すてきーーとか、はやし立てて喜んでいるが(まったく、アイツも悪ノりして)
コンラートはというと、眉間に皺を寄せて、アイツとワンセットにだけは嫌です!と、俺に真剣に訴えてきた。
あはははははは。・・・さて、部屋にかばんを置いてくるか。
俺は、騒ぎ始めたお子様三人をリビングにのこして、ひとまず学ランを脱ごうと、自分の部屋へと向かった。



ラフな格好に着替えて階下に降りると、キッチンでグリエがお米を研いでいた。こういうところは、
他の二人と違ってよく気がつくというか、施設で育ったからかもしれないが、元来、面倒見の良い子なのだろう。
「あ、ショーリ。米多めに5合にしておきましたぁ。あまったら、即冷凍すればいいですから。」
育ち盛り4人に父親で5合か。まぁ、いいんじゃないだろうか?

「ありがとう、ヨザック。あとの二人は?」
「・・・・・包丁持とうとしたんで、退出願いました。肉を買いに、スーパーに向かっています。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは、グッジョブだ、グリエ。」
あいつらに、刃物はまだ早い。それは、うちの母親がいるときにでも教わってくれ。

「ははは、毎度すみませんね〜、俺までお世話になっちゃって。」
「ば〜〜か、子供が遠慮するなって。」
かるく、小突いてやると、いったぁ〜〜いグリエ繊細なのよぉ〜と大げさに小突かれたところを押さえた。
あぁ、奴らが帰ってくる前にたまねぎは切っちまうか。匂いで泣かれちまったらかわいそうだからな。
「でも、ショーリだって、子供でしょう?」
ヨザックは、冷蔵庫からたまねぎを取り出して俺に渡すと、冷凍庫からボールに氷をうつしかえた。
玉葱をさらす冷水をつくる気なんだろう。
「あぁ、俺はいいんだ。俺は、優秀なお兄ちゃんだからな。弟三人くらいの面倒なんてたいしたことないさ。」
俺は、たまねぎの皮をむきながら、お子様が気にするなと言ってやる。
三人・・・有利・コンラート、そしてヨザック。

「・・・ここのお人たちは、変わってますね。普通、見ず知らずのがきに、ここまでしませんよ。」
まぁ、そうだろうな。
「いいじゃないか、たのしいだろう?」
そんな答えが返ってくるとは思わなかったんだろう。ちょっと、面食らった顔をして、(あ、こういう顔を
するとやっぱり、まだ7歳なんだな。)ホント、かなわないっすよとか、ブツブツ言って野菜室を物色している。
あれは、照れ隠しだろうな。こいつも結構、可愛いところがあるじゃないか。

「「ただいまー!」」
わんわん!元気よく買出し部隊が帰ってきたようだ。シアンフロッコを足にまとわりつかせて、
二人がキッチンに入ってくる。
「おかえり、手を洗ったら、二人で野菜の皮むきしてくれるか?」
「うん、わかった勝利!」
「ゆーちゃん、お兄ちゃんって呼べって、まったく。」

じーーーーーーぃぃぃぃ。

なんか、後ろから熱い視線を感じる?ヨザック???
「ショーリ、ジャガイモとニンジンの皮をむけばいいのですか?」
「あぁ、そこの洗っておいたヤツな。むけたら、こっちに渡してくれ。俺が包丁で切るから。」
皮むき器を渡すと、二人して真剣な顔してむき始める。剥けた物を5ミリ程度の厚さに輪切りにすると、
ヨザックも手招いて三人の前におく。

「「「????」」」

母親の趣味が丸見えの、星・ハート・くま・飛行機・花などの型抜きを渡してやると、やることが
解ったのだろう。三人でニンジンやジャガイモを可愛い形にくりぬいていく。
おれは、その間にフライパンで玉葱を狐色に炒める。油や火を使う時に、お子様に周りをうろちょろ
されては危ないからな。ああやっておけば、暫らくはやって来ないだろう。

「なー、坊ちゃん?なんで、ショーリをオニイチャンって呼ばないんすか?」
「えーだって、昔は、しょーちゃんって呼んでたし、いまさらオニイチャンはな〜。」
「呼んで差し上げればいいじゃないですか?ショーリは実際、良いお兄さんですよ。」
「えーーやだやだ。今更ジャン。」
「じゃ、グリエが呼ぼうかな〜?ショーリ、グリエとコンラッドの事も、弟だって言ってくれたし〜♪」
「「えっ!?」」

「おーい、三人とも、型抜き終わったら持って来いよ。それも、炒めるんだから。」
「はーい、おにいちゃん。」

がしゃん!!!!

盛大な音がして、フライパン返しが宙をとんだ。ああ、よかった、飛んだのがフライパンじゃなくって。
「・・・・・よざっく??」
「だって、俺も コンラッドも弟なんでしょう?ショーリ、坊ちゃんに オニイチャンと呼べって、いつも
言ってるじゃなないっすか? だから、俺が 呼んでみようかと?うれしい? おにいちゃん?」
はい、ニンジンも炒めちゃいましょう〜。と、くりぬいた物をフライパンに投入してしまう。そうなると、
炒めないといけないわけで、勝利は なんともいえない気分で、フライパン返しを洗って炒めはじめた。

「えーと、俺も呼んだほうがいいのかな?」
「無理しなくていいぞ、コンラッド。それに、今、コンラッドまでオニイチャンなんて呼んだら、
今度はフライパンが飛ぶ、俺はくいっぱぐれたくないぞ。」

キッチンでは、おにいちゃん、サラダを作ろうか?などと、いうヨザックに、あーーとか、うーーとか答えている。

口から魂が出てるぞ勝利…。






「ただいまーー!お?今日はカレーか?」
くんくんと鼻をならしながら入ってきたのは、渋谷家世帯主・渋谷勝馬パパだ。
「おかえりー、親父。」
「おー、ただいま、ゆーちゃん。コンラッドも、来ていたのか?今日は泊まっていくのか?」
「おかえりなさい、『お父様』。はい、今日もお世話になります。」
ぺこりと頭を下げるのは、礼儀正しくていいのですが・・・今なんと?
「あ、おかえり〜『パパ』。きょうは、グリエたちの共同作業で作った愛情いっぱいカレーよん。」

は???

あ、パパ、おかばん持ちますね〜。と呆然としている間にかばんを持っていかれた。
あ、じゃぁ、俺はお父様の背広を、とか言われ、今度はコンラッドが背広をハンガーにかけていく。

えーと???

「親父、いいから食え。」
目の前にカレーをおきながら、長男にうながされる。
「しょーちゃん?アレはなんだい?」
アレ・と、何やら楽しそうなお泊り組み二人をさす。おとうさまに ぱぱ〜?
「えーーと、息子が二人増えたって事で・・・・。」
まさか、自分の失言のせいで、こんな展開になりましたとは いえない勝利だった。








おわれo(T(エ)To) クゥ

2008.4.12 拍手にUP
2008.4.16 LONGに移動・おまけとまとめて掲載







おまけの会話文


「ショーリが長男だろ?ぼっちゃんが次男。俺が三男で、コンラッドが末っ子だな!」
「あ、じゃぁ、俺も、コンラッドに おにいちゃんて呼ばれるわけ?あ、それ面白そう!
なーなーコンラッド。有利おにいちゃんて呼んでみて?」
「え、俺は、ユーリと兄弟になりたいわけじゃ・・・。」
どちらかというと、恋人に欲しいです。とは、口に出しては言わない・・・いえないけど。

「えーー、おれじゃ、不満かよ。」
ぶーぶーいう有利。ちょっとすねた顔も可愛いなv

「お前は、コンラッドの面倒みているというより、見てもらっているほうだしな。」
「うっ!」
兄と呼んでほしいなら、せめて宿題くらいきちんとこなせ。
「うう、いたいところを!」

「あ、じゃぁ、俺が呼びますよ。ゆーりおにいちゃーーん!!」
はーいと挙手をすると、がばりと、飛びつくヨザック。
「うわぁぁぁ!!」
「やーん、ゆーりおにいちゃんたら、照れちゃって可愛いぃ。うーふーふー(*'ー')ニヤリ」
「てれてない!てれてない!ヨザック!俺より大きいんだから重いよ!」
「こら、ヨザック!ゆーちゃんを襲うな。」
勝利が弟の救出に向かう。いくら体格がいいといっても、中学生の力にはかなわない。
ひょいっと引き離された。

「もぅ、お兄ちゃんたら、ヤキモチ屋さんね。って、いた?イタイイタイ!!こんりゃっとぉぉ???」
「あははは、こんなの軽くつねっているだけじゃないか?大げさだなヨザックは?」

にこにこにっこり。

うそだーーー!思いっきり顔をつねってやがる。爪が食い込んでるぅぅ。

「こ・・こんらっど?その辺にしてやれ。」

たぶん、もうしないだろうから。

「ショーリがそういうなら・・・・・。」
仕方なさそうに、コンラートはヨザックの顔から指を離した。ああ、くっきり爪のあとが顔に・・・。
ヨザックは、涙目で勝利の後ろに隠れた。よほど怖かったんだろう。

「あーあ、ヨザックってば、すっかり兄貴に懐いちゃって。」
ゆーちゃん、お前は今のを見てなかったのか?

「えぇ、そうですね。すっかり懐いたようですね。」
気が済んだのか?コンラートはいつもの彼に戻っている?

「と、なると、やっぱり俺の弟って言ったらコンラッドか?なーなー、おにいちゃんて呼んでみて?」
な〜〜いいだろう?大きな黒い目が期待にきらきら輝いている。
「うっ!」
この期待を裏切るのは、なかなか難しい。
「えーーとえーっと、・・お・・おにいちゃん。
どうにか絞り出した声は小さすぎて聞こえなかったようだ。
「え〜?聞こえない。」
「・・・・ゆ・・・・・ゆーりおにいちゃん?」

カーーーーーーッ!!!言った途端に血が顔に上った。実の兄弟と疎遠だったコンラートにとって
おにいちゃんなどという敬称は、何かおもがゆいものがあるのだ。照れるなというのが無理だろう。




「「「か・・かわいい」」」
「は?」

コンラッドってばカワイイーーー!!

「うわわわわ???」
ユーリががばっっと抱きついてくる。勢い余って、ソファーに押し倒されてしまった。
「うわー、おにいちゃんだって?俺、今まで末っ子だったから、初めて呼ばれた。結構うれしいものなんだな!」


さっき、ヨザックにも呼ばれなかったか?ゆーちゃん。
わー、坊ちゃんてばひどい。グリエの時と、反応が違うじゃない〜?
それは仕方ない。今のは萌えポイント大でかわいかった。ヨザのはモエがない!(どきっぱり)
がーーん!!←イミはわからないがショックだったらしい。


「俺は弟・・ですか・・。」
それは、いやだな。恋人として論外といわれているみたいで。(←たぶん、言われています。)
「なに?俺が兄じゃやっぱ不満かよ。」
そりゃ、不満です!って、言ったら怒るだろうな。うーーん。

「えぇ、不満です。」
「むっ!」
ああやっぱり、途端に機嫌が悪くなった。それに、下から首に腕を回し耳元にそっとささやく。

「俺はあなたと、親友以上になりたいですから。」
「親友・・?」
ええ。以上の恋人目指しています!

「そうだな、俺も親友のほうがいいな!」
以上が抜けているが、あえて言わないコンラッドであった。


「ところで、坊ちゃん・・・いつまでコンラッドを押し倒してるんですかぁ〜?」
いやん、坊ちゃんのエッチv
「え?あぁぁ!ごめんコンラッド!」
急いで体を起こすと。下から『チッ』という舌打ちが・・・あれ?と思ってみてみると?
いつもの可愛いコンラッドの笑顔・・・・うん、気のせいだよな。

「さぁ、ユーリ。もうすぐライオンズの中継が始まりますよ。一緒に応援しましょうね。」
「おう!」
あ、俺、麦茶持ってきますね。といいつつ、コンラートはキッチンに向かう途中、思いっっきり!
余計な事を言ったヨザックの足をふんずけてやったのだった。




2008.4.12  上の話のおまけ・拍手に掲載
2008.4.16  LONGに移動、まとめて掲載