VDチョコ 有利、初めてのおつかい・・。 |
戦場だ・・・・。
有利は、そのピンクと 赤のハートが 飛び交う売り場を見てそう思った。 明日はバレンタインデー・・散々悩んだ挙句、有利は一世一代の決意と共に、この売り場へとやってきた。 が・・都内某所のデパートの特設会場は、手提げ袋を持った女性たちでごった返していた。 「だからいったろ?もっと早く、空いている時に来なくちゃって?」 と、呆然とする有利のそばで、ヤレヤレと呆れた風に口にするのは、親友であり、異世界では 自分と並ぶ権力を持つ男・・村田健大賢者様だ。 「村田・・・おれは本当に、ここに入って行くのだろうか?」 「だって買うんでしょう?君の王子様に?」 そうだ!わざわざ都内まで足を運んだのは何故だ!? それはすなわち、元プリである、あのヒトに似つかわしいチョコを贈る為ではないか!? 「よし!行くぞ、むらたぁ!!」 「あ、僕は、もう買っちゃったから、ここで待っているよ〜。」 「へ?」 う・・うらぎりものぉぉーーー!!! ガンバレ渋谷!と、いう、友人の声援を背に、有利は・・一人そこへと足を踏み入れたのであった。 回りを見ても上を見上げても、ピンクぴんく、ぴんくーーー!!しかも、何気に可愛い装飾だ! そして当然回りは女の子だらけ・・・こんな所に平凡な男子高校生が紛れ込んで、本当にいいのだろうか!? うわぁぁぁん!おれって、めちゃくちゃ場違いじゃネェ? 「いいヤ・・渋谷君。見事に溶け込んでいるよ・・・怖いくらいだ。」 本日の有利のいでたちは、美子ママコーディネートである。細身のジーンズに白のインナー上は アイボリーの手編風のセーターである。サラサラな黒髪のショートヘアにくりくりの可愛い黒目 ・・どうみても、元気系の可愛い女の子に見える。 どうやら、戸惑っていたのは最初だけらしい。10分もしない内に、真剣に選び始めた様子だ。 生チョコは・・美味いけど・・見ためがな・・ブツブツ くまさん・・かわいいけれど、これはグウェンダな・・・ブツブツ 眺める事、30分・・・有利はとあるチョコレートの前で止まった。 「うわぁ〜、きれい・・。」 真ん中に綺麗な細工の薔薇チョコレートに、中には丸いトリュフ。それも、色とりどりのチョコレートは、 花畑のようで上品だ。また、入れ物も良かった。銀色の箱に、こげ茶のリボンにピンクの薔薇・・。 「これいいかも・・。」 「どなたかに、プレゼントですか?」 店員さんが、にこやかに話しかけてきた。 「う・・えぇ!え・・えっと・・・はい・・。」 真っ赤になって、俯く姿は可憐そのもの。 初々しくって、かわいいな〜〜〜。 思わず回りの女性達も、手を止めて有利を見つめる。生暖かい目で・・・。 「幾つくらいの方に、差し上げるのかしら?」 100歳過ぎです・・とはこたえられないので、21・・くらいです・・と、見た目年齢で答えた。 「学生さん?」 「いえ、社会人です。」 剣一筋80年です!国一番の剣士です!とも答えられないので、まぁ、てきとうに・・・。 「そうね〜?こちらのチョコなら、味はビターだし、カカオにも産地別で拘っていますから、男の方で、 ご自分用に買っていかれる方が多いんですよ。」 「へ・・自分で?あげないんですか?」 「最近は、自分にご褒美で買われる女性や、チョコが好きな男性もいらっしゃるんですよ?」 「へ〜〜、男も来るんだ?じゃぁ、おれだけじゃないんだ!」 ちょっと安心した風な有利に、皆、自分用だけどね。・・と、心の中で付け加える店員さん。 男性に贈り物として買いに来る少年は、たぶんこの会場中で、彼だけだろう・・。 「あ・・あの、これにしようかと、思うんですが・・。」 そういって示すのは、細工も綺麗な例のチョコだ。 「これなら、上品だし、きっと喜んでもらえますよ。フランスのパティシエが作った逸品ですから。」 「ほ・・ほんとうですか?・・じゃぁ!これ下さい!」 にっこー!と、満面名笑顔の有利に、店員さんがくすくす笑いながら、販売ブースに戻り、 紙ナプキンのうえに、ショコラを一つ載せて持ってきてくれた。 「あ・・の・・?」 「大事な人に差し上げるのでしょう?味見したほうがいいでしょう?」 「でも。これ凄く高いんじゃ?」 「これは私からのバレンタインチョコ。数あるチョコから、大事な人の為にうちのチョコを 選んでくれたから・・。」 そう、人の波に押されながら、一つ一つ見てまわる有利の姿は、女性達の中でも目立った。 男の子というだけではない。本当に、大事な人にあげるのだろう?その真剣なまなざしに 宿った恋情が・・・彼女の目にとまったのだ。 「早く召し上がれ、うちのは口解けがとてもいいのよ?」 再度促されて、いただきます!とお行儀よくいって、一口カプリと食べてみた。 歯が、周りをコーティングしている、薄いチョコ膜を齧りこわすと・・ふわり・・鼻に向かって 広がったのは、ほのかな花の香り・・そしてチョコがとろけ、芳醇なカカオが口いっぱいに 時間差で広がった。 「うわっ!何これ?口の中に、ほのかに花が広がった??」 うわーうわーすげーー!!時間差で美味しさが二回来る!!魔法みたい! 店先で大興奮でチョコを食べる男子高校生・・目立つ・・・それをみて、慌てて村田が駆けつけてきた! 「なに?どうかしたの?渋谷!?」 「ムラタ!これすっごい!花がふわって!?」 「は?」 事情が飲み込めない村田に、有利は残りのチョコを、その口の中に放りこんだ。 「!!・・うわっ!花・・ほんとうだ、これ、薔薇だねっ!」 「だろだろ?おいしいだろ?」 「うん、おいしい・・じゃなくって!店先なんだから、落ち着きなよ。」 はっ!っと、周りの視線が自分達に注がれている事に気がついた有利は、あわわわっと、うろたえて、 とりあえず店員のお姉さんに謝った。 「うふふ、お気に召したら、通信販売もしています。どうぞよろしくおがいします。」 店員さんは、気にした風もなく、そういってラッピングされたチョコの入った手提げを渡してくれた 「あははは、おねーさん、商売上手!」 有利は、ちょっと茶目っ気に話す店員さんから、チョコを受け取ると、代金を払って手を振って別れた。 「またね、おねーさん!おいしいチョコをありがとう!」 「ええ、お待ちしていますよ。またいらして下さい。」 にこにこと、可愛い男の子二人連れが帰ると、人並みがさっと動いた。 「あのー、さっきの子がおいしいって言っていたチョコはどれですか?」 「あ、私も、なんだかとてもおいしそう!」 はい、こちらの、3200円のセットです! チョコとしては高めなのに、飛ぶように売れていくチョコ。それもこれも、有利が手放しで美味しいと 幸せそうに食べていたからだ。 ふふ、チョコ一つ分より、宣伝効果が有ったみたい。^^b 「誰にあげるかしらないけれど、喜んでもらえればいいわね。」 今はもう見えなくなった少年に向かって、店員はそうエールを贈った。 2009年2月前半ごろ拍手に掲載 4月3日SSに再録掲載 ムラケンズのバレンタイン前の様子です。 |