最短の恋・永遠の愛 |
その日、有利は16年という人生において、史上最短の恋をした。
それは、夏休みを迎えて、カフェの夏季限定のバイトに有り付いた有利が、初出勤した日であった。 そこは、住宅街にある静かなカフェで、隠れ家的雰囲気を纏った店であり、有利の母・美子お気に 入りのカフェであった。夏休みのバイトをしたいといった有利に、美子は店長と顔なじみである、そこなら 安心だからと、バイト先指定で許可をくれた。自給も悪くないし、給仕の仕事というは・・ちょっと 不安でも有るがどうにかなるだろう・・と、入ってみれば、そこでバイトの先輩として紹介されたのは、 ちょっと長めの茶髪を後ろでゴム結わいた清楚で凛々しい美人さん。 有利はその瞬間、巷で言う【一目ぼれ】と、言うものをした。 マスターが声をかけると、厨房で何やらじゃが芋をむいていたその人が目を上げた。 瞳の中の珍しい銀の星が輝いて 自分をみた瞬間 !!! 胸を打ち抜くとは、まさに!この事かぁ!? というくらい、心臓がドっキューーーン!!と鳴った。 その間、 0コンマ003秒程 おれは史上最短で恋に落ちた。 店長が何やら有利のことを紹介すると、その人はにっこり有利に向けて笑った。爽やかで優しげな 笑顔に、有利の心臓はバクバク早鳴った!こんなに笑顔が綺麗な人を有利は、初めてみた気がした。 そして、その人がこう言った。 「ユーリって言うんだ?俺はコンラート・ウェラー、呼びづらかったらコンラッドでいいよ。」 ・・・俺・・・コンラッド・・・??って・・まさかまさか!! 「お・・おとこーーー!!!??」 思わず指差して絶叫した俺に店長とコンラッドはポカーンと口を開ける。だが俺はそれどころでは なかった。おれの恋は・・わずか1分16秒で終った・・。史上最短記録の失恋・・。 神様のいじわる・・・。あう・・がっくし・・。il||li_| ̄|○il||li じゃが芋を剥いている時は、椅子に座っていた為にわからなかったが、(と・・いうか、有利が舞い 上がっていたせい。)ウェラーさんは、頭一つ有利よりも背が高かった。しかも、ちゃんとウェーター の服も着ていた。白いシャツ・黒いズボン・黒のギャルソンのエプロンをかけた彼は、文句なしの 男前で、女性客は彼目当てに来るものも多かった。 へ〜彼が噂のウェラー氏か。どう見てもオトコマエ。・・渋谷・・例え一瞬でも、よく彼を女性だと 思えたね〜。さすが、渋谷君だ〜あはははは! と・・、人の傷に塩を塗り捲っているのは、悪友の村田健だ。人のバイトの日に、わざわざ様子を 見に出歯亀しに来たのだが、来たのは村田だけではなかった。 「マネージャーは、相変わらず容赦ないな〜。でも、確かに美人だけど女性には見えないよな。」 「まぁまぁ、キャプテンのそそっかしさは、愛すべき一面だから。」 「だなだな、あ・・キャプテン!ブレンドコーヒーおかわり〜。」 女性が多い中に、高校生・大学生・社会人のヤローばかりの毛色の違う団体さんは、明らかに 浮いていた。 「〜〜くっ・・皆さん・・・あのね〜」 おれ渋谷有利は、高校生では有るが草野球チーム・ダンディライオンズの主催をしている。メンバーは 大学生や社会人を中心に集まり、村田はそこのマナージャー・・で、一緒に来ているこの人たちは レギュラーメンバーだ。何でこの人たちが此処にいるかというと・・先日おれが衝撃の失恋報告を 村田にポロリとこぼしてしまった為に、『失恋したばかりの渋谷君を慰める集い』と、称してその 失恋相手のウェラー氏を見に来たのであった。 くっ・・この暇人どもめ!!!ひくり・・と口の端が引きつる。 「渋谷、僕達はお客だよ〜♪」 「「「「「うんうん」」」」」 「はい・・ブレンドコーヒーですね・・少々お待ちを・・」 いっそ、コーヒーの中に、タバスコでも入れてやろうか? 踵を返そうとした俺の前に、すっと、コンラートがブレンドコーヒーを載せたお盆を持ってきてくれた。 「ユーリのお友達なんでしょう?ちょうど、店も空いて来たしこのまま休憩に入っていいから。」 「え・・ウェラーさんいいんですか?」 戸惑う有利に、いいからと、エプロンを外させて持っていってしまった。仕方無しに、村田の隣に座るおれ。 たしかに、ランチタイムが過ぎると、客足もまばらだ。それでも、先に入っていた彼が休憩を取らずに 自分がとっていいものだろうか?そんな事を漏らすおれに、村田はしれっと応える。 「まぁ、まぁ、人の好意は素直に受けるべきだよ。」 「「「「うんうん」」」」 ・・まったく、この人たちは! 「仲が、いいですね。」 コトリと目の前にホッとミルクと、おいしそうな和風パスタが置かれた。山盛りに・・・。 「ウェラーさん?これは?」 どうみても、一人で食べれる量じゃない。しかも、これはメニューに載ってないような? 有利の疑問に、カチャカチャと取り皿とスプーンを全員分置いて行くコンラートにびっくりして 見上げると。有利が綺麗と称した笑顔で、コンラートがお店のおごり。といって、パチンー☆ と、ウィンクつきで教えてくれた。途端に真っ赤になる有利と何故かダンディーライオンの面々。 面白そうに、一人にやにや笑う村田。 「いや〜びっくりした。男だと解っていても、思わず赤面してしまった。何だあの笑顔の破壊力は?」 「こりゃ、お子ちゃまのキャプテンなら、一発で堕ちるわ・・」 まったくまったくと、頷くメンバーに有利は居心地の悪い思いをする。それにしても、こいつら・・ 何が慰める集いだ・・傷口を抉る集いのまちがえだろっ! 無言でミルクをのむと、パスタを口に運ぶ・・・・相変わらず美味い!これは、コンラートのまかない 料理に違いない。彼はフロア係なのだが、料理がシュミといって、有利にまかない料理を 出してくれていた。それが文句なしに美味いのだ。 「え・これあのウェラー氏の手作り?マジ?むっちゃっ美味いぞ。」 「おしい!顔よし・性格良し・気配り良し・それで料理上手!これで女性なら、俺でも口説くね!」 「本当ですよね〜。キャプテンの彼氏になってくれれば、この美味い差し入れが食べれるんです よね〜。そしたら、メンバーも絶対集まりますよ。下心付ですが。」 「あははは、いえてるわ!」 ふるふるふると、有利のフォークを握る手が震える。 「あ・・アンタ達・・・・」 「でも、マジで惜しい・・これが差し入れにでるなら、試合も頑張っちゃうのにな〜。」 「ですよね〜。試合の後に、おいしいビールとおいしいおつまみ・・いいな〜。」 「かきP−じゃさみしいよ〜!」 柿の種ピーナッツだって、美味しいじゃないか、まったく・・。 「だったら、誰か彼女作って、差し入れして下さいよ!」 「「「「うっ・・」」」」」 思わぬ反撃にぐっさり心臓に何かが刺さる面々。 「いやだな〜渋谷、彼女がいるならこんなところで、君の出歯亀しにきてないよ〜。」 「「「「「ううっ!!」」」」 しかも、それを更に抉られたような面々。 くすくす・・っと、上から楽しげな笑い声がする。いつの間にか、コンラートが立ち止まって笑っていた。 「すみません、聞こえてしまったものですから・・つい・・」 そういって、また笑っていた。 「いえいえ、こちらこそ、ご馳走様でした。ウェラーさんは料理がお得意なんですねー。」 代表して、お礼を言う村田に続いて、メンバーもご馳走様ーと、礼を言う。 「はい、お粗末さまでした。お口に合ってよかったです。それにしても・・ユーリは交友関係が 広いんですね?」 まぁ、確かに、普通の高校生に、大学生やらあきらかに社会人やらの取り合わせは珍しい。 「あぁ、おれ達、草野球チームのメンバーなんです。渋谷キャプテンは主催なんですよ。」 メンバーの一人の大学生が説明する。 「へぇ、baseball ですか?なつかしい、俺も high school までは やってたんですよ。」 「!!!!!」 その途端、そこにいた全員の目の色が変わった!特に、渋谷有利の目がっ! がしっ!!!! いきなり、有利に両手を掴まれ、大学生に肩をつかまれて、コンラートはあれれ??と?マークを 飛ばした。なんか・・俺・・捕食されそう・・?? 「あ・・の、なにか?」 「ウェラーさん、野球やっていたの?どこで、どのくらい?」 「あ・・はい、子供のときから・・高校卒業までですから10年くらい・USAで・・」 まわりから、本場アメリカか!?おお〜〜!!、言う声が上がる。 「ポジションは!」 「え・・ええっと、pitcher ・・でした。」 ピッチャーー!何てラッキーな! 「ウェラーさん、日曜日お店ないから暇だよね!」 「いや・店はないけど・・俺大学生だから・・勉強が・・。」 「そうか!勉強しているって事は!暇なんですねっ!」 「え?だから・・べんきょう・・」 「ウェラーさん、お願い!俺の旦那になってくれっっ!!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は・・・・?」 ちょっと渋谷・・その言い回しはおかしいから・・有利の勧誘の仕方にマネージャーの村田は、頭を痛める。 「「「おいでませーー、ダンディーライオンズへ〜!」」」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・?」 あなた達も、お店の客引きじゃないんですから・・メンバーの勧誘の言い回しにも、眩暈がしそうだ。 「ウェラーさん、お願いします。」 うるうると、有利が上目使いで、コンラートを見上げた。これには、コンラートも少したじろぐ。 いけーーぇ!キャプテン!必殺上目遣いで、男のハートをがっちりつかんじゃえ! そうそう、彼が入れば、待望のピッチャーと美味しい差し入れの一石二鳥が手に入る! おれ、ビールに串揚げとか食べたいー! おお、いいね ふっふっふっふっふ・・。ヤローたちの周りからの妙な迫力と、目の前の有利の可憐な眼力に コンラートから冷や汗が流れる。 「え・・その・・」 「おれと一緒に、いい汗かきましょう!」 ね?っと、小首を傾げて有利がダメ押しした・・かつて、これで落ちなかった男はいない。 しかし・・コンラートは、じりじりとあとずさりをすると・・ 俺、そういう趣味はないからっ!と、カウンターの中に逃げてしまった。 「あれ?」 逃げられた有利は、きょとん?と首をかしげている。 「渋谷・・キミ・・言い回しが怪しすぎ・・」 「怪しいって何?おれ・・バッテリーを組もうって誘っていただけなのに?」 「はぁ〜。キミね・・・。」 「あぁ、おれ達の差し入れが・・。」 「あ〜あと、ちょっとだったのに〜」 「あなた方も・・」 「逃げられた・・・・。」 何か思っていた以上にショック・・。 しゅ〜〜〜ん、となる、有利に、あれ??と、メンバー一同思った。 これは、もしや?まだ、渋谷有利は、ウェラー氏が好きなのではないだろうか? 本人は、男とわかった途端に失恋と諦めているようだが・・どうやら、まだ心の中ではウェラー氏に 想いを寄せているようだ。 村田をはじめ、メンバーは目配せする。 これは、何としてもウェラー氏を落とすべき! そう、キャプテンと俺達の美味しい差し入れの為に・・・。何だかんだで、慕われているキャプテン 有利。だが、大きなお世話的要素はたっぷりだった。 【コンラート・ウェラー 19歳 都内某大学に留学中。 ドイツ系アメリカ人・ボストン出身。喫茶店近くのマンションに一人暮らし。 性格・穏やかだが頑固な一面あり。 特技・料理と剣術 現在、恋人はいないらしい。】 全く何処から調べてくるのだろう? 思わずメンバーは首を傾げたくなったが、相手は日本一頭の良い高校生だ。勝てる気がしない・・・。 「とにかく、恋人がいないって言うのは良いよね!これで、渋谷にもチャンスは有るんだし。」 その前に、ウェラー氏が、男の趣味はないと言って、逃げた事を思い出したほうが良くないか? と、本来なら突っ込む所だが、そこはあえて皆でスルーする。どんなにその気が無くとも、無意識に 落とす小悪魔な少年が、相手なのだ・・・今その気が無くても、明日はどうかわからない! 現に、有利が気付かないだけで、彼目当てにクラブに入りたがる男はいるのだ。もちろん、そんな やつは、村田に振り落とされ、有利はそんな希望者が来たことすら知らないのだが。 「とにかく、一度、練習に連れ出さないと・・何か良い手はないですか?マネージャー?」 「もちろん、あるさ。」 と、言う事で?ウェラー氏を連れ出すべく、メンバー四人は、彼のマンションの前にいた。 「いい手って・・・偶然を装って、強引に誘い出すって?」 「なぁ、これって、ストーカーっぽくないか?」 「「「「はぁ〜〜3 」」」」 ため息をついても始まらない、何が何でも連れて来いとは、あの!マネージャーの厳命なのだ! 逆らったら・・・・ブルブルブル!顔を突き合わせて大の男達が震える一介の高校生って? 「あ!きたっ!」 そうこうしていると、ターゲットのウェラー氏が出てきた。Gジャンに白のトレーナー、 ブラックジーンズにスニカーというラフな格好で出てきた。何も持っていない所を見ると、 コンビニにでも行くようだ。 あの格好なら、多少汚れても大丈夫だろう! なんだかんだと言いつつも、この人達もすでに、練習に参加させる気満々だった。 急いで彼の先回りをして、 「あれ?・・ウェラー氏ではナイですか〜。」 「この前はご馳走様〜。」 思いっきり偶然を装う、不自然な集団。 「はぁ、こんにちは?」 やはり、不審がられたか・・。だが、此処まできたら後には引けない! 「ウェラー氏は、散歩ですか?」 「あぁ、はい。そこのコンビニに、飲み物でも買おうかと。」 「つまり、暇だと?」 「は?え?」 「我々はこれから、野球の練習なんです!」 「はい、ユニフォーム姿を見ればわかりますが?」 何となく、不穏なものも感じたのか?ジリジリっとコンラートが後ずさる。 が、そうはさせじと、二人が後ろに素早く回り込んだ。爽やかな日曜日、何故か道端で朝から 外人さんを取り囲む、野球の制服の集団。思いっきり怪しい! 通行人が、そそくさと自分達を避けていくのに、コンラートは言い知れぬ不安を感じた。 「あの・・俺・・そろそろ・・。」 と・・そこへ。 キィィィーーー!!と高い音が聞こえ、一団のすぐ横に自転車が横付けされた。 「あれ!何しているの皆さん!?練習始まっちゃいますよ?って・・ウェラーさん!?」 「ユーリ?」 練習に遅れると、全速力で自転車をこいでいれば、何故か前方に自分と同じユニフォームの集団を 発見!!急ブレーキをかけてみれば!?同じバイト先のお兄さんを、メンバーが囲んでいた。 「な・・何してるのみんなで?」 「キャプテン!ウェラー氏が練習を見に来てくれるそうですよ?」 「は?」 「え!まじ?本当に来てくれるのウェラーさん?」 「え?あの?」 「丁度、暇なんですよね?ウェラーさん。」 「うわ〜い!あ、もちろん、入ってくれるかは、練習見た後で良いから!」 きらきらと満面の笑みで有利に喜ばれたコンラートは、結局・・そのままグラウンドまで連行された。 「しまっていこぉーー!」 有利の元気な声がグラウンドに響き渡る。それに、おーー!と掛け声がかえる。今日は、練習に 出てきた人が多いので、紅白戦をする事にした。レギュラー対準レギュラーだ。有利は、 準レギュラー(ひかえ)の方に入った。 「はい、ウェラーさんどうぞ。」 「あ、ありがとうございます。」 ベンチで見学を余儀なくしていると、この前、喫茶店に来ていた眼鏡の少年が、温かいコーヒーを 出してくれた。彼は、村田健と名乗り、有利の親友でマネージャーをしているといった。 「ユーリは、キャッチャーなんですね。」 「はい、だからこの前の彼の台詞ですが、日本ではバッテリーを夫婦に例えることが有るんですよ。 よく、投手は捕手を女房といいますからね。」 「あぁ!だから、旦那になってくれ・・ですか?」 なるほど、と思う。たしかに、阿吽の呼吸が必要なバッテリーには、そういった側面もある、 面白いたとえだな〜と、コンラートは思った。 と、なると、自分は勘違いをして、有利に失礼な態度をとってしまったようだ。 「それは、渋谷の言い方が悪いんですから、気にしないでください。こちらこそ、メンバーが強引に 誘ったようですみませんね〜。」 連れて来いと命じたことは隠して、村田は愁傷に答えた。 「いえ、俺も久しぶりにベースボールを近くで感じれて楽しいですよ。」 にっこり。 「そういっていただけると、こちらも嬉しいですよ〜。」 にっこりv 「あれ・・・なんか二人して仲良し。」 そこへ、チェンジして有利が戻ってきた。 「おかえりユーリ。ナイスリードだね。」 「ウェラ−さん!?ホント?えへへへへ♥」 心底嬉しそうな有利の様子に、何やら感ずいた同じチームの面々・・・・ ほほ〜〜とか、へ〜〜とか生暖かい目が二人に降りそそぐ。それを、にっこり!と笑顔で黙らせた 村田マネージャー、おかげで二人は、その反応に気付かなかった。 その後も、試合を観戦しながら、村田は色々とコンラートから巧みに聞きだした。 へぇ〜、野球に対する目も確かだ。一巡しただけで、うちのメンバーの長所と短所を見抜き、 戦略まで立てることができている。この人、相当やっていたな。 これは、マネージャーとしても、絶対に欲しい人材だ。 「やっぱ、レギュラーは、強いな〜。しかも、今日の長谷川さん(投手)、やたら球が走っているな。」 「あははは。」 それはきっと、エースの座を脅かす存在が、こちらのベンチで見学しているからだろう。先程から メラメラと対抗意識を燃やした長谷川の視線が突き刺さる。 ちなみに、長谷川・・・最近、有利に気が有るそぶりが見える。本人は否定しているようだが、これで 恋のライバルなんて事にならなきゃ良いが・・。 「村田君、先程から向うのピッチャーが俺を睨んでいるんだけど?」 「あははは、気付きました?一応ウチのエースなんで、女房の渋谷が貴方と親しそうなんで 嫉妬でもしてるんじゃないかな〜?」 「嫉妬?・・彼は有利が好きなの?」 「はぁ、多分。」 「ユーリは?」 「彼は鈍感ですから、まず、長谷川さんが、自分を好きなんて思いもよらないでしょうね〜。」 「ふ〜〜ん」 おや?っと、村田は思う。なにやら、ウェラー氏の顔に面白くなさそうな表情が・・?これはもしや? 「脈あり・・・とか?」 ちょっといい? 突然、コンラートが次の打順のバッターに寄って行くと、二三何か言った。バッターが頷くと、 にこっと笑って、がんばれと言うとボックスに送り出す。 「ウェラーさん?何か言ったの?」 「うん、ちょっとアドバイスをね?」 ベンチに戻ったコンラートを有利が迎える。長谷川の視線が付刺さったが、無視して有利の髪に ついたごみを取ってやった。何故だか、ポッ・・赤くなる有利。後ろでボッ!と赤くなる長谷川。 むかむかっとしながらも、長谷川がセットポジションに入ると、第一球目を投げた! カーン! 外角にはずしたストレートを、狙ったかのようにバッターが打った! 打球はぐんぐんと伸び、その間に走者は、3塁まで走ってしまった。 ぎっ!!ッと、コンラートを睨む長谷川。 ふっ!!っと、笑って挑発するコンラート。 それを反対側のベンチで見ていた、彼をここまで連れてきた四人は・・。 「あれ、ウェラー氏って結構、いい性格していないか?」 「みたいだな、長谷川に喧嘩売っているぞ。」 「逆だろう?長谷川が売った喧嘩を、上等だごらぁ〜!って買ったかんじ?」 「どちらにしても、えらい人物を引き入れてしまったか?」 爽やか好青年と思いきや?なかなかの玉だったようだ。 その後も、コンラートに指示された準レギュラーチームのバットは唸り、カッコンカッコン 打ちまくって、長谷川はとうとう降板してしまった。 「うわぁ!ウェラーさんすげーー!ウェラーさんのアドバイスのおかげで、あの長谷川さんから 3点も取れちゃったよ!逆転したなんて!」 「うーん、今日の彼の場合、下手に力が入りすぎていたからね、球の運びが単調だったんだよ。 しかも熱くなりやすいタイプだし、ちょっと煽ったら自滅してくれたみたいだよね?」 「は、煽った?」 「うん、こっちの話?」 ???とハテナマークを飛ばす有利に、にっこりと笑いかければ、またっポ・・と赤くなって 黙り込む有利。どうやら、ユーリは、コンラートの微笑みに弱いようである。 それに気付いて、上手く誤魔化したコンラートを見て、村田は・・これはもしかして、ほっといても 上手くまとまるかもしれないと、にんまりと二人を見つめるのであった。 では、ちょっと、後押しをしてみるか? 「後2イニング・・こっちの投手も疲れたから、此処で変えたら?キャプテン。」 「あ?でも、こっちには控えの投手なんていないよ?」 「うん、だから、ウェラーさん、飛び入りでお願いします。^^b」 「え?」 「は?」 急遽、コンラートはマウンドに上がる事になった。チームの投手が、へばってきたからだ。 なにせ、八百屋の柾さんは41歳3児のお父さんで、職業柄あまり練習には出てこれない。 久々に出てきて登板して、ここまで投げたのだから、立派な物だ。 「ウェラーさん!軽く投げこんでみて〜!」 バンバンと、ミットを叩くと、有利は構えた。マウンドのコンラートは頷くと、セットポジションに入り・・・投げた!! バシィ!! ミットにずっしりとした玉の感触。 「すっげーー!速い!重い!これは・・・!」 驚いたのは、有利だけではない。両チームもあんぐり口を開けてみている。 続いて、コンラートは、変化球も投げてみせた。クンッと大きく曲がるカーブ・・それも速度は 先程とうって変わって遅い・・これは、スローカーブ!? そして次は・・・途中までストレートかと思えば・・ 「落ちた・・。」 「それに、速球のまま落ちたな。」 「あんなの投げれる奴・・草野球なんかじゃいないぞ?」 「プロだって難しいじゃ・・」 「ユーリ!!大丈夫!?」 「あいてて・・、ごめんウェラーさん、捕れなくて・・。」 マウンドから、コンラートが駆け寄る。とっさに前へは落としたが、有利は悔しそうに俯いた。 コンラートは思った以上の選手だった。だけど、どんなにいい投手がいても、自分が取れなくては 意味がない。 「いいよ、まずは、二つの球種の組み合わせで打ち取ろう。大丈夫、ユーリのリードが 有れば充分だよ。」 「うん・・ごめん。」 「ユーリ、野球は楽しまなくちゃ・・ね?ちがう?」 にっこり♥ ・・・ポポポ!!! 間近でうっかりコンラートの極上の微笑を見てしまった有利は、真っ赤になって頷いた。 コウコクコクコク 「じゃぁ、よろしく奥さん。」 ・・・奥さん? 「うぇぇぇえぇ〜〜!!??」 「あれちがった?さっき村田君から、バッテリー間では、キャッチャー事をそう呼ぶって 聞いたけど??」 「ちちち・・ちがいません・・あ・・いや・・なんでも!」 無いと、ブンブンと首を横に振る有利。もはや、両軍メンバー全員に有利の恋心はバレバレであった。 「「ほほぉぉ〜〜〜♥♥♥」」 その後、緩急つけたピッチングにピシャリとおさえられて、その日の紅白戦は、準レギュラーチーム が勝利したのであった。 さて、有利のチームは幅広い年齢層の地元の人間で構成されている。地元の・・。 「やぁ、ウェラーさん、この前の試合の時は世話になったね〜。」 商店街では、すっかり、コンラートのFANになった八百屋の柾さんに呼び止められて、 秋の味覚を頂いた。 「あれ、コンラートさん買い物ですか?」 近くの行きつけのコンビニでは、アルバイト店員がそう話しかけてきた。コンラートのアドバイスで 最初に打った選手である。 「肉まんサービスしますよ!」 と、ホカホカの肉まんを持たされて、帰宅した。そのほかにも、通学途中では家から挨拶され、 駅でも肩を叩かれ、バイトに行けば、有利の母、美子に捕まり『これからも、ゆーちゃんをお願い しますね』と頼まれ、段々包囲網で囲まれている気分だ。 でも・・・って。 「コンラッド、コンラッド!」 一番厄介なのが、この少年の懐きようだ。どーしても、すげなく出来ない自分がいる。 「来週も、練習に来れる?」 と、キラキラと期待に満ちた目で言われてしまうと・・。 「えっと、日曜日はだから勉強が・・。」 「え?勉強しているの?だったら、暇なんだね!?」 ・・・・だから、どーしてそうなるのだろうか? 結局断れずに、コンラートは、たまにで良いならと条件をつけて、入部した。 まさか、たまにドコロか、バイト先で出逢ったこの可愛い少年が、この後も自分の人生に 寄り添うも知らずに。彼等は、その長い道のりを一歩踏み出したのであった。 10月4日UP サイト開設半年&60000HIT記念第2弾!ほぼ出来上がっていたのに、ファイル化が意外にかかった。 誤字脱字が多いせいですね。今度は、有利に押し捲られちゃったコンラッドさん、 見た目は若獅子でお願いね!それを、ゴムで軽く一纏めにして、給仕しています。勉強の時は 細いフレームの眼鏡して、知的なのよキット!それを見た有利がまた惚れるのね! |