まるマで、大岡越前v




その日、江戸南町奉行・大岡忠相(=渋谷有利)は、むくれていた。


「あっれ〜、お奉行ったら、まだむくれているの?良いからとっとと今日のお裁きを
申し渡してきちゃいなよ〜。」

と・・町奉行に対して、軽口を言うのは、小石川養生所の医師で幼馴染の榊原伊織(=村田健)だ。


「だってさ〜、聞いてくれよ!今回はあの!大岡越前役って聞いていたから、きっと盗賊とか悪代官
相手に大立ち回り〜とか期待していたのに、俺が扱った事件っていえば、やれ!喧嘩の仲裁だ・それ!
借金の踏み倒しだ。おりゃ!家賃滞納で出て行けとか!ぜ〜〜んぶ、仲裁じゃネーーか!!たまには、
血湧き肉踊る事件とかネーのかよっ!!」


そう、忠相が訴えるのに対して、ずずずっとお茶をすすった伊織医師は、ぷは〜!っと、一気に
飲み干すと、あ、おかわり〜頂戴とか、近くの同心に申し付けてる。


「だぁぁl!聞いてないのかよ!しかも、何で小石川療養所の医師が、町奉行の同心を顎で使うん
だよっ!ありえねぇぇだろ!」

「江戸の町の平和を喜ぶべきお奉行様が、盗賊が出ないとかむくれるよりおかしくないさ〜。」

さらっと、言いのけられて、あぅぅ・・!と押し黙ると・・行ってきます・・と、仕方無しに
お白州にお出ましになられたのであった。


で?何が言いたいのかといえば?お奉行様は、相当鬱憤が溜まっておられたと言う事だ。






でもって?今日のお白州で頭(こうべ)を垂れているのは?といえば?若い男が二人に
中央に主人らしき女に付き添われた女性が一人だ。


与力・佐橋孫兵衛(=ギュンター)は、御奉行がお出ましになったので、詮議をはじめた。

「小間物問屋三河屋と、廻船問屋伊勢屋の訴えによると、そこに座る、吉原は青梅楼所属の
女郎、牡丹の身請け人にどちらがなるのが相応しいか、ぜひ御奉行に裁いて頂きたいと言う事です。」

「え〜〜どっちでもいいじゃん」
ぼそり!と、忠相が本音を漏らすと、途端に怒声がお白州から上がった。

「よかったら、こんな所でお前の裁きなど受けんわ!!」
上げられた顔を見て忠助は仰け反った!眉間ノ皺が今日も悩ましいですね〜だんな〜・・じゃなくって!
「げぇぇ!!ぐぐぇん!小間物やってアンタだったのか!?って、考えてみれば小間物屋って所が
アンタらしいちゃアンタらしい職業だな。」

「ちなみに廻船問屋は、俺で〜す!。」
よろしこ〜と、顔を上げたのは、
「ヨザック!?何でアンタが廻船問屋?」
「それは〜、酒を扱うからでぇ〜〜す、商売上、上方から良いお酒を仕入れて飲み放題よん。」
「自分で飲んじゃダメじゃん!」

「これこれ!ここは御白州ですぞ!三河屋主人グウェンダルに、伊勢屋主人ヨザックも、だいたい
なんですか貴方達は!馴れ馴れしく私の御奉行に話しかけないで下さい!」
「佐橋(ギュンター)・・いつから、俺はアンタの所有物に?」

その前に、普通御白州で、奉行のお許し無しに、顔を上げる事も話す事も、できない筈なのでは?
何でそこを注意しないかな〜?佐橋様も・・?と、お白州にいたお役人(=血盟城の文官と兵士)達は
思ったりもした。そこへ・・・


「いいから、チャっチャと!詮議を進めなさい!これだから、男というのは!」

と、今度は白州の中央からキビキビした女性の声が上がった。しまった・・グウェンとヨザがいて
赤い髪が見えたら・・最早この人もいると考えるべきであろう。


中央に座る牡丹・・・


の、隣から叱咤が飛んだのだ。青梅楼・楼主であるアニシナであった。


そこで素朴な疑問?

「何でアニシナさんなのに青梅楼なの?紅梅とかじゃないの?」
そう、赤い悪魔と言われるくらいなのだから、彼女のイメージカラーは赤!当然それに基づくような
名前のお店の主人でなくて言いのだろうか?

「おはははは!これだから、浅はかだと言うのです。青梅というのは、毒をもっているのですよ!
生食すると胃で分解され、青酸中毒を起こします!」
「へ〜〜そうなんだ〜、勉強になる〜。」


「ちなみに、コイツの所で、ぼったくられて金が払えなくなった客は、身体で支払わされている。」
苦々しく、隣に控えるグウェンダルが嫌そうに言う。
「まさか、それって・・もにたぁ〜?」
「ふふっ・・。お役人様たちは、高い魔力をお持ちの方も多いようで、ぜひお越しくださいませ。」
にやり・・と彼女が哂うと、その場にいた、役人たちも一斉に青くなった。


たしかに、彼女にとってはいい商売かもしれない。


そこに、ごほんごほんと佐橋のわざとらしい咳払いが・・。はいはい、詮議を進めろってことね?

「で、グウェンとヨザックのどちらが、そこにいるヒトの身請け人になるかってことね?そんなの
そこのヒトが、好きな方へとついていけば良いじゃん?」

「だから、男は浅はかなのです。選べるならとっくに選んでいます。牡丹がどちらを選んでも
禍根が残りますし、二人もどっちも譲らないので、ここはお上に決めて頂こうというのです!」
「つまり、おれに責任を押し付けに来たと・・。」
「おは!おは!おははは!まぁ、御奉行、ずばりその通りですわ!」
「その通りなんですねっ!うわーーん!」


忠相は困った。グウェンダルは怒らすと怖いし、ヨザックとは良い友人だ。どちらを選んでも怖いし
選ばなかったら、アニシナが怖い・・。


その時、ぴーん!と脳筋族の頭にも思いついた事があった。そうだ、ここは有名な大岡裁きで!

「あい解った!つまり、どちらがより牡丹を愛しているかで決めればいいのだな?では、こうしよう!
牡丹の片腕ずつを持ち、同時に引き合って引き勝った方がより牡丹を愛しているという事で、
身請け人になるが良かろう!」


と、いうことで、牡丹を立たせ、三河屋と伊勢屋が左右に分かれて引き始めた。


(これで、痛がる牡丹の手を放したほうが、より愛しているという事で一件落着だ!)

忠相は以前同じような懸案を処理していた。一人の子供に二人の母親が名乗り出て、どちらも譲ら
なかったのである。そこで忠相はその子供の手を引かせ、今と同じように言ったのであった。
結果痛がる我が子を憐れと思い思わず手を放した女が実母であったと、見破り、引き勝った女を
処罰したのであった。


しかし、これには、落とし穴が一つあった。名捌きとして瓦版で紹介されていて、二人とも知って
いたのだ。つまり・・・これは引き勝ってはならないという事なのであった

そこで、男達は引き始めると同時に、ぱっと手を放してしまった。

「な・・何しているのあんた等?」

「「・・・。」」
明後日の方向を見るグウェンと、ポリポリと頭をかくヨザックに忠助はぴーんときた。

(さてはこいつら知っていたか!?)

だが、一度言い放ってしまった以上、このまま通すしかない。

「次はちゃんとやるように、ハイもう一回もって〜、でもって今度わざと離したら、牡丹さんを
どちらも愛してないって事で、身請けできないから。」

「「えぇ!!」」

そう言われれば仕方ない。とりあえず、言われるままに引き始める、こうなると引き際が肝心だ。
痛がりもしないうちから離せば、牡丹は相手の物になってしまう。お互いに、力の入れ具合を
見なが引き合っていたが、そのうち段々力が入ってきてしまった。

ぐいっと、グウェンダルが引っ張り、させるかとヨザックが引き止めるように力を入れると

「アァァ!・・ちょ!・・いた・・ぁい・・」

と、牡丹から色っぽい声が・・。おもわず、役人一同その声に視線を牡丹に集める。

痛みに上げる声は高く・うるうると潤んだ瞳には、琥珀に銀の星が散っていて美しい。
それに赤く朱が入った頬・・絶えず上がる声をつむぐ唇のなまめかしさ・・!


「「「う・・美しい!!!」」」


そう、一同揃ってつぶやいてしまったほど、牡丹は綺麗な顔(かんばせ)をしていた。

「っていうか、コンラッド??・・コンラッドが牡丹だったの!?」
忠相は、驚いて牡丹(=コンラート)を見た。まさかそんな役で出るなんて思わなかった!
じゃなくって!女郎・牡丹とは、忠相の名付け親のおコンだったのだ!


「はぁッ!・・やめ・・ヤダ・・・・あぁ、そんなに・・痛くしないで!!」


ごきゅり!!!


お役人一同生唾をのむと、食い入るように牡丹を見た。
切なげに寄せられた眉がまた憂いを持って美しい!ほぅ〜。
だが、忠相は慌てて、引っ張り合いをやめさせようとした。なんたって、彼の名付け親が
目の前で痛がっているのだ。


しかし、それは素早く同心達にとめられた。


「だめですよ、御奉行!あんなに熱演しているんですから!」
「え・熱演なの?痛がっているんじゃないの?」
「「「熱演です!御奉行!!」」


「ヒィァ!・・ぁッ・・・ぁ・・・っっ!!」
お役人の方でドタバタとしている間にも、引っ張り合いは続いていた。

「さ・・さすがはコンラート閣下・・花魁役を見事にこなしていますね。」
「えぇ、・・あの項のラインがまた溜まりませんね・・。」
「裾から見える白い足も・・イイですよ、たいちょーー!」

「なぁ・・本当に・・熱演なんだろうな?」
胡乱気な目が部下達を見やる・・。

「「「もちろんです、御奉行!!」」」
力いっぱい同意される所が・・なんかあやしくね?



「ァァァ!・・・・ソンナ・・コトされたら・ハァッ・・・ちぎれちゃう・・」

えぇ、どこが!!?
///というか、俺たちの下穿きの下も千切れそうなほど膨らんじゃうんですか?


「アァァン!・・・もうだめーー!」

俺たちもダメかもぉ!
一同、股間を押さえて、うんうん頷く。


涙目で訴える牡丹の瞳が、忠相を見た。


「たすけて!お奉行様(ユーリ)!」


ぶっちり!



「どこが熱演だ!!ごぉぉらぁぁ−−!!!!」



とたんに、お白州に2匹の水龍が現れ、ぐいぐい引き続ける二人の男をなぎ倒した!

「おコンが痛がっているじゃネーーか!それでも、ひっぱるたぁ!お前らそれでも人の子か!」

「いいえ、魔族です、御奉行。」
佐橋は、こんな時も教育係としての本領発揮!! でも、御奉行は聞いてくれないけど・・。ぁぅ・・。
ついでにはぁはぁ!していた役人も、股間をひやせ!(文字通りの意味)といって、なぎ倒した。


「お前らに、おコンは任せられねぇ!アニシナさん、おコンはおれが身請けする!」

「えぇぇ〜!ずるい。職権乱用だわ坊ちゃん!」
「そうだぞ、小僧!公務と私情は混同するな!」

「お上の決定に・・さからうとでも?」

ぎん!!!とマジで怒った上様・・じゃないお奉行様に、思わず二人もだまりこむ。


忠相は、すたすたと白州に降り立つと、ぺたりと座り込んでいるおコンの手をとった。


「おコン・・おれの所に来てくれるよね?」
「はい・・忠相様(ユーリ)」

「では、大岡様、身請け金は後で受け取りに参ります。」
「うん、役宅まで来てくれる?」

「はい、あぁ・・そうそう、牡丹は身請けされましたが、青梅楼には牡丹の弟をはじめ、綺麗
どころが揃っております。ぜひ、お役人様もいらして下さいね。」


え?牡丹の弟?それはきっと綺麗な御女郎さんなんだろうな〜。
てへてへ・その後、牡丹の色気に当てられた数人が、青梅楼に上がって帰ってこなかったそうだ。



これにて一件落着!?



さて、こうして、忠相に身請けされた牡丹ことおコン。

「くすくす・・だめですよ。こんな昼間から?」
「えぇ、いいじゃん・・ね?一回だけでいいから?」
「あ・・あん・・・いきなり・・そんな・・トコ・・」
「どう?」
「ぁッ・・意地悪ですね・・。」


「君たち・・・何しているの?」
「「碁。」」
「意外におコンって強いんだ〜。」
「碁・・ね・・・・そう」

「あ、榊原先生、今お茶出しますね。お茶菓子は、忠相様のお好きな砂熊饅頭ですよ。」
「わーい!」

「あ、おコンさん・・僕には濃い目のお茶でお願い。」
「あれ?伊織?お茶は濃い口が好きだったっけ?」
「・・・・甘いものと一緒のときはね。」

「え〜?砂熊饅頭そんなに甘かったっけ?」
「キミタチだよ」(ぼそっ)


忠相と共にたいそう幸せに暮らしましたとさ。



10月2日UP
時代劇大好きです!暴れん坊将軍とか、鬼平犯科帳とか、水戸黄門など・・色々やってみたーい!