村田猊下とコンラートさんの
とある一日





村田健大賢者様は、普段は眞王廟にて、日々の仕事をこなしている。それを、親友でもあり異世界人仲間でもあり
同じ双黒だったりする渋谷有利魔王陛下は、

「毎日、可愛い女の子(超年上だが)に囲まれていいな〜、リアルギャルゲーの世界で羨ましいよ。俺なんて
周りは美形だけど、皆男だしぃ〜。」

な〜〜ンて、言って下さる。



しかして実態は?


「猊下〜、猊下いらっしゃいますか?」
言葉は丁寧だし、敬っても貰える。周りを見れば、眞王の趣味か?中々可愛い子だらけだ。
しかし、魔族は見かけで判断してはいけない!なにせ、彼女等は、どんなに若くても50歳は越えているだけあって
中々シタタカなのであった。

「ねぇ?ルル?猊下をお見かけしませんでした?玄関ホールの屋根から雨漏りがしているので、
直して頂こうと思っていたのに〜。」
「いいえ、こっちではお見かけしませんでしたわ・・そう、猊下はいらっしゃらないの?今日こそは倉庫の虫干し
をしていただこうと狙ってましたのに〜。」

「あらだめよスザ、わたくしなんて、もう3ヶ月も狙っているのよ。」
「あら、わたくしなんて、猊下が初めてお目見えくださった時から、決めてましたのに!。」

「・・・・・。」

「では、早い者勝ちですわね!」
「ほほ、負けませんわ!」

「猊下〜。どこにいらっしゃるの?」
「猊下〜、私のほうに出ていらして〜。」

「・・・・。」

二つの声は、先を争うように行ってしまった。

「・・・ふう、やっといったか?」
今回は、真面目に非難を考えなければいけないようだ。なにせ、上腕二等筋もまぶしい専属メイド兼雑用係兼
護衛の青年は、今回は長期任務から帰って来ていないからだ。いつもならば、請け負うだけ請け負って。実務は
ヨザックにやらせていたのだ。

その手が使えない今、迂闊に巫女に捕まったら、次から次へと肉体労働が、唯一の男手である自分に回って
きてしまう。と、いうか・・・

「なんで、こぞって、皆僕にやらす気なの?」
確かに自分は男だが、どうみても兵士の女性の皆さん達の方が、逞しくって力があるように見える。
彼女達に頼めば、すぐ済む話なのに・・・。

とにかく、ここにいては、大工仕事で明け暮れてしまう!

頭脳明晰な大賢者様は、そのまま外へ・・・ではなく、奥にある禊用の泉へと向かった。





ざっぱーーん!!


血盟城中庭に突如現れた双黒の貴人に、急遽コンラートが駆けつけた。

「猊下!眞王廟で何かあったのですか!?」
「あー、ちがうちがう、物騒なことじゃないよ、ウェラー卿。ちょっと、あまりのこき使われように
逃げてきたんだ。」
「あー、あぁ、くすくす。それは大変でしたね?」

― 猊下も、おモテになるから。

と、思い当たったことに、コンラートは肩を震わして笑うと、ふわりと大きなタオルを頭からかけてくれた。

「まずはお風呂で温まってください。いくら、初夏とはいえ、こちらは日本と比べてまだ寒いですから。」
「あ、ごめんね?渋谷の護衛をしていたんだろう?」
「いいえ、今陛下は執務に缶詰でしてね?俺はおやつの用意に厨房にいたんですよ。」
にっこりと、微笑むと国の宝ともいえる少年を、失礼といって抱き上げた。お姫様抱っこで・・・。

「いやぁ、楽チン楽チン♪」
これが、もう一人の双黒ならば、お姫様抱っこは恥ずかしいと騒ぐのだが、やはり大賢者様は違う。
自動的に運んでもらえて楽々〜♪と、とても上機嫌だ。そのまま、魔王風呂に直行したコンラートによって、
濡れて脱ぎにくくなった衣服を脱がされて、ゆっくり浸かるように言い渡された。

「うわ〜、慣れているな、あの手際のよさは。まったく、ゆーちゃんったら、護衛と何をしているんだろうね?」




ババンバ バンバン バン! ハァ〜ビバノンノン♪(←古い)

と、鼻歌混じりに歌えば、戸口の方から クスクスと笑う声がする。脱衣所で待機している男の声だ。
いやぁ、笑い声も男前だねー?魔王専属護衛氏ってば♪ これでは、あの恋愛免疫のない親友が、
ころっと性別をも、すっ飛ばして 好きになるのも わかる気がする。

「おぉ〜い、ウェラー卿、笑い声が聞こえているよ〜。」
「すみません、つい。フレーズが面白かったものですから。」
「お?この珍妙な面白さが解かるなんて、キミも通だね〜。」
「恐れ入ります。といっても、意味までは解かりませんが。」
「フィーリングで解かれば充分さ。」

これが、有利だと、お前っていくつ?と余りのネタの古さに、突っ込まれるのだが、お庭番とこの男は、
どうやら、この手の物は好きらしい。さすがは幼馴染。感性も似ているのだろうか?


風呂から上がった村田は、用意されていた服を着込むと、外で待機していたコンラートに連れられて、
執務室へと通された。


そこには、ちゃっかりと、軽い食事にフルーツが用意されていて、コンラートが自ら紅茶などを入れて
くれている。なお、彼の前には三男がお茶のみ友達として、ケーキを前に座っていた。

しかも、良く見れば、パンは黒パン、中身は一つはローストビーフだし、一つはスモークサモンと野菜が
ふんだんに入っていた。さぁ、どうぞと、出された紅茶は珍しくもミルクティー。

最初の少しの会話で、自分が食事もとれずに逃げ回っていたことまで見抜いたのか!?
おもわず、コンラートを見上げれば、にこっと、たんとお召し上がりくださいと、すすめられた。

「ねぇ、フォンビーレフェルト卿?ウェラー卿って昔から、こんなに気がつくの?」
「面倒見は良かったが、これほど甲斐甲斐しくもなかった。アレが来る前はな・・」

アレって、執務机で、僕らの事を睨んでいるアレ(魔王)?


ぐるるるる〜〜!!と、まるで威嚇する子犬のようだ。そんなに、専属護衛が取られた事が
許せないなら、執務を貯めるなと言いたい!


「いっとくけど、今回が特別なんだ。もうちょっとしたら、式典があるから色々覚える事が
多くて、執務が滞っただけだからなっ!!」

そういって、ギュンターを恨みがましい目で睨む。

「何を言っているのだ、それ全ては、国主として必要な知識だろうが、それを今まで身につけようと
しなかったお前が悪い!」

ずばっと!三男が言い切ったーぁ!

「すごい、さすが、フォンビーレフェルト卿。正論で正面から王を諌めることの出来るのは、
やっぱりキミの価値だね〜。それは、キミのお兄ちゃん達は、ちょっと出来ないことだからね〜。」

特に、次男だ。

「まったく、コンラートは、そういう所がへなちょこだ、このへなちょこ主従め!」
「あははは、一纏めにされちゃいましたね?陛下。」
「笑う所じゃないだろう・・・コンラッドの感性ってズレている・・。」

手だけは感心に動かして、それでもしっかりと 相方に突っ込みを入れるとは、彼もスキルアップは
しているようだ。

「苛々していないで、はい、あ〜ん?」
といって、三センチ四方しかないだろう一口サンドイッチを、有利の口元に運んだ。

いつの間に!?

そういえば、厨房にいたとか?そうか、これを作っていたんだな?
有利はしばらく迷ってはいたが、手がインクだらけなので、致し方ないと観念して・・・。

パクリ・・・もぐもぐもぐ・・・ごっくん 、と、食べた。

「キーー!コンラート!?貴方一体何をしているんですー!」
だが、見咎めた魔王ゾッコンラブ!の王佐が、とたんに噛み付いた。
「え?ギュンターも、おなかすいた?これ食べる?」

いや、違うだろう、ウェラー卿。

というか、コンラートが手にしたサンドイッチを元師匠に勧めたところ、魔王の殺気が膨れ上がった!
黒い触手のようなもの…多分、嫉妬とか?嫉妬とか・嫉妬とか!独占欲とか食欲とかだろう?
それが王佐に向けて伸びようとしている。
それをみて、ひぃ!!っと、小さく唸ったギュンターは、カチーーン!と、固まった。
長男・三男は、それに目を見開いて硬直し・・一人解かっていない次男だけが、おかしいな〜?という顔をしている。

― 何で気付かないんだーー!?

くるっ!

コンラートが振り返ると、しゅるん!と殺気の触手を元に戻した魔王・・・そんな技、何時身につけたんだい?

「コンラッド、おなかすいたv」
しかも、大変可愛らしい上目遣いのおねだりで、名づけ親を陥落している。いそいそと、餌付けされるそれを、
一つ咥えては、もぐもぐしながら書類に目を通す。


「いや、仕事さえしてくれれば・・・。」
ブツブツいいながら、摂政は手元の書類に戻った。三男は、茶をぐいーー!!と、飲み干して気を
落ち着けていた。王佐は・・・まだ固まっている。

「そうだ、奴は魔王なんだ。しかし、あんなエゲツナイ技は、国主として身につけていいのか?」
三男のほうは、ブツブツと魔術と一緒で品が無いだとか?呟いているけど・・

「あれ、ウェラー卿の技だよね?気づいてないくせに、そんな所は伝授されちゃっているんだ?」
無意識にうつったのかと思うと、それだけ一緒にいる二人であるということだ。

ひくひくぅーー!!っと、自称婚約者の口元が引きつった!だが、浮気者ーー!と叫ばないのは、
仕事が溜まって長男が大変なのを識っているからだ。だが、その分怒りは内に篭り、自分のケーキの皿を
持つと、ズンズン!と、魔王の元へと歩いていった。

「ユーリ、ケーキを食べろ!」
「え?いいよ、それお前のだろう?」
「なに、コンラートのは食べれて、婚約者の僕のは食べれないと?」
「え?何言っているの?そんな・・・」

「いいから・・くえー!!!」

ごふっ!!っと、変な空気音がして、有利の口にケーキが詰め込まれた。

「さぁ!良く噛んで味わうんだ!!」
がしっと、頭と顎を押さえられて、無理やり口をもぐもぐ動かされる!魔王陛下の目は、白黒としている!
これはまずい!!

「やめろ、ヴォルフラム、陛下が苦しがっているだろう!」
護衛が、主のピンチとばかりに、弟を止めに入った!

「いいから食うじゃりーー!」
「うんぐうんぐ!!」
無理やり租借して、嚥下はしたが・・・途中詰まったらしい、あわててコンラートが背中を叩いている。

「渋谷!、ほらこれ!」
村田も慌てて飛んできて、有利に自分の飲んでいた紅茶を渡す。それを受け取り、飲み干すとやっと
落ち着いてきた。でもって、結局、手が止まって仕事が疎かになると、すぐ側の摂政の眉間が一層
深い皺を作っているの。そろそろ、怒られるかもしれない。


いや、その前に、恐怖の大魔神様がいらした。


ぎ・・ぎぎぎっと、コンラートの顔が引きつっている。

「フォンビーレフェルト卿?」
「・・・・・っ!?」

久々に、一族の名で呼ばれて、ヴォルフラムは引きつった。

「フォンカーベルニコフ卿の所に、連れて行ってあげようね?」
爽やかに言い切ったが、内容は極悪非道だ!実の弟を、実験台に毒女に捧げるというのだ。
ひぃっと、なぜか彼らの兄が、自分が言われたわけでもないのに恐怖で震えている。
条件反射と言う奴か?


この城では、アニシナのもにたあ=赤い悪魔への生贄と読む。


「コンラート!弟を悪魔の生贄にする気じゃりかー!?」
「いやだな〜、元気が有り余って、陛下の邪魔をするぐらいだから、少し落ち着かせてあげようと
しているだけだよ?」
「落ち着くどころか!生気の全てを奪われるじゃり〜!」
「あぁ、そんなに五月蝿くして、陛下の仕事への意欲が落ちるだろう?」
「わわ、わかった、し・・静かにする・・・大人しくしているじゃり、それでいいジャリな?」

「プラス陛下のやる気を下げて効率が落ちた分、グウェンの手伝いと、猊下の護衛もだ。」
「う・・わかった、手伝いと大賢者の護衛だな?」

キビキビと、ヴォルフラムは長兄に指示を仰ぐと、数冊の資料と書類を見比べながら、
間違った所はないか?チェックをし始めた。

「それで、コンラート。」
「なにかな?グウェンダル。」
「弟に仕事を手伝わせるなら、お前もギュンターを手伝え。」
「俺は仕事中。」
「しながらでも、書類整理は出来るだろう。ヴォルフは覚えなくては出来ないが、お前は一通り
こなせるだろう?」



ピッコン!と、有利が弾かれたように顔を上げた!

「できるの?まじ?だったら、これからコンラッドも一緒にやろう!」
「・・・・ユーリ、仕事減らそうと思っていますね?でも、俺が政治に口出しするのを、良しと
しない連中がいるよ。だからダメ。」
「そんな事云って、お前は護衛以外の 仕事を入れるのが嫌なのだろう?安心しろ、小僧が
終わったら、お前も終わりにしてやる。」

どうやら、コンラートも参加させられるらしい。

「と、なると?あと一人暇なのがいるなっ?」

有利の言葉を受けて、一斉に執務室の視線が、大賢者さまに集まる。

「え〜〜っと、それこそ僕が政治に口を出すとまずいデショ?」
「なんで?」
「宗教と政治は、お互いに干渉しないのが好ましいって云うのは基本だよね?」

「お前の宗教仏教じゃん、ここで、仏教の布教活動デモしているのか?してないだろう?
つまりは、お前は頭のいい俺の友人。ア〜〜ンド、執務もこなせる人材なんだよなっ!?」

なっ!っと、自分の仕事を減らせるとなると、普段へなちょこだろうが、やはり魔王・・途端に、
トルコ行進曲の発動だ!よどみなく、村田の退路を断ってゆく。

「キミ、仕事を減らすことになると熱心だね。」

「いいじゃねーか、こっちは、男に囲まれての過酷な職場環境だっていうのに、お前は普段から
綺麗な巫女さん達に囲まれて、猊下v 猊下v って、きゃぁきゃぁ、言われているそうじゃないか?
俺なんて、ぎゃいのぎゃいの、攻められっぱなしなんだぞ!!」

「・・・あ〜〜んで、サンドイッチを食べさせて貰っているくせに?」
「なに?」


「僕の所が、キミよりも職場環境がいいって??」

毎日、朝から起こしてもらって・着替えに・洗顔歯磨きも補助してもらい・朝から趣味(ロード
ワーク)につ合ってくれて・食事の時はさりげなく好きなおかずを隣から貰って?勉強に疲れれば、
脱走を手伝ってくれて・執務が行き詰るとお茶が出てきて?ついでに仕事が続くと休日をもぎ取って
もらい、城下デートを楽しむキミよりも、僕の職場環境が良いっていったのかなー?


「・・・うひぃぃ!!」


元祖腹黒大魔神さま降臨・・・うふv じゃ・ねーー!!助けてコンラッド!村田が怖いよぉ〜。

「いいね〜、君はすぐ助けてくれる臣下がいて?」
「すみませんユーリ、ここで俺が何か言うと、火に油を注ぐみたいです。」


― 自力で頑張ってv 貴方なら出来ますよ。


体よく、一人で頑張れと、護衛に見放されてしまった有利。一体どうすればーー?

「ふふふ、まぁいい。どうしても手伝えというなら、手伝ってやろうじゃないか?ここにいる
人員の効率を上げる形でね?」

そういうと、大賢者様は、何も書いていない紙をもちだして、魔王様の前に来るとその紙をおいた。

「渋谷、ここに名前を書いて。」
「は・・はい?名前?名前ですね?」


渋谷有利原宿不利っと・・・。(←素直)


書き終えると村田はその紙をもって、ソファーに腰掛けると、ペンを持ち出してサラサラッと
何かを書き足した。

そして、徐に皆の机の上にあった書類を、中央の大きなテーブルに置くと・・・わしゃっと崩した!?

「あぁ!猊下何を〜!?」
と、泣きそうな悲鳴を上げたのは、王佐であった。

「いいんだよ、元々これは、王が全てやる筈だった書類だろう?」
「ですが、陛下にどうしても目を通していただく書類と、我々で済む書類は分けてありましたのにぃ〜」
「はっはっはっは、ノープロブレム!では、皆こちらに注目!」

ひら〜ん!

と、かざしたのは、先程の紙・・そこには?


【ウェラー卿コンラートを一日好きに出来る権利書】


と、書いてあった。




「なにこれ?」
思わず有利は、その権利書を持つ村田に聞くと、それには答えずに、大賢者は未処理書類の中に、

ポイ!

っと、入れてしまった!

「あぁ!何しているんだよ!?むらたぁ〜!!」
陛下の抗議もマルッと無視して、しかも、ご丁寧に書類を混ぜると、それを一塊に積み上げなおす。


「よし、これでいいね?さて、この中にさっきの権利書が混じっているのは、皆わかったね?」
「あの・・・権利書って・・・俺を好きにするって書いてありましたが?」
不安そうにきたのは、やはり名前を書かれた当人だ。


「そう、さっきの紙はね〜、魔王と大賢者連名の命令書だよ。あの権利書を持つものは、一日キミを
自由に出来るというものさ。もちろんキミは何でも聞かなくてはならないんだよ?くすくすv」


「「「「なにぃぃ〜〜!?」」」」

「例えば、手に入れた人が、ウェラー卿に、小さくなって猫耳をつけてと言われれば、例え
フォンカーベルニコフ卿の作った毒を飲んでも、その望みを叶えなくてはならないし?」

「小さなコンラートに猫耳 v」
やけに局地的なピンポイント狙いの例えに、一人呟く重低音の声。

「たとえば、魔王の護衛であるキミに、魔王のアレコレv って、どうなっているか聞きたいと
言われたら話さなくてはならないだろうね〜?」

「へ・・陛下のアレコレって!?ううっぶはぁ〜〜!!」
また、やけに具体的で、知りたがる者がいる例えに、反応して鼻血を拭いたのが一名。

「あぁ、もちろん彼の能力は色々使えるからね?どんな仕事でもきっとこなしてくれるだろう?
その間、魔王の護衛を変わってもらって、思う存分魔王の側にいることも可能だよ?」

「そうか!コンラートの邪魔なしに、有利といちゃつけるわけだな?」
見事に口車に乗ったものが一名。だが、それは護衛の仕事を、誤解している節がある。
「えぇ、陛下と一日一緒!?あぁ〜私そちらも捨てがたいです〜」
その王佐の言葉に、有利とコンラート両方がぎょっとした!王佐に渡した場合、二人揃って
地獄を見そうだ。


「他にも、女装してもらうとか?普段護衛を言い訳にしてまったくでない行事に出させるとか?
用途は色々有るね〜?なにせ、双黒二人の連名の正式書類・・・ウェラー卿に断れるわけがないね?」


「むむむ・・むらたーーー!!!」
「あぁ、もちろん、その権利書を譲ることも出来るよ?何かの商品にしたら面白いだろうね?」

きっと、一日恋人になってとかいう、老若男女の皆様が、こぞって奪い合ってくれるよ〜♪


「ぎゃぁぁ!!だめだめ!コンラッドの貞操まで狙われるなんて、そんな恐ろしい命令書はダメ〜!」

「だったら、自分で引き当てるんだね?この書類を、上から順々にとって、一度持っていったら
自分で全部終えるまで次のを取ってはダメだからね〜?」
「なるほど、一度に多く取るか?小分けにして少なく、何度も取るか?その駆け引きもあるのだな?」
ヴォルフラムは、なるほどーと感心した。


さぁ、もっていっちゃってーーー!


大賢者がそういった瞬間、奪い合うように皆が一斉に書類を持ってゆく。

そして、血走った目で、格闘していくことになったのだ。

「陛下と一日一緒〜〜、あぁ〜〜ぶひへv」
「なにを、ユーリと一緒にいるのは、婚約者出る僕の権利だ!」
「小さなコンラートに、何を着せようか?ブツブツ。」
「コンラッドの貞操は、おれが守る!!」

ひたすら書類を取る音と、ペンを走らせる音が続いてゆく。


「えぇっと、俺もしたほうがいいのかな?」
「あぁ、ウェラー卿、ぼくちょっと、城の中の部屋に戻るから。」
「はい・・・ヴォルフは・・無理そうですから、俺がお供しますね。」
「うん、よろしく〜v」


二人は異様な熱気が走る執務室を後にした。





「はい、これ。」
そういって、村田がコンラートに渡したのは、例の権利書。

「おや?混ぜていなかったのですね?」
「さすがに、僕だって、そこまで極悪非道じゃないよ。」

そんな権利書が出回った場合、この男の人気からいって。それを手に入れる為にどんな攻防が
起こるやら?ちょっと見に見たい気もするが、過ぎた好奇心は身を滅ぼすものだ。

第一、そんな前例を作ってしまっては、後の魔王に誰が就任するかわからないのに、どんな
使われ方をするかと思うだけで、薄ら寒いものがある。こういった前例は作るわけには行かないのだ。


そこに、眞王廟から村田への迎えが来たという知らせが入った。

「げっ!巫女さん達、まだ諦めてなかったのか?」



コンラートは少し考えて、はいっと、手にした権利書を村田に渡した。

「なに?」
「どうやら、陛下たちは、このまま夜中まであの調子のようですし、ヨザックの変わりを致しましょうか?」

つまりは、彼の護衛をしてくれるというのだ。

にこっと微笑むコンラートの顔を見て、それから手の中に戻った権利書を見た村田は・・。

「それって、護衛をするから眞王廟まで帰れって事?」
「行き先は、猊下次第ですよ?」

行き先?

それって――。

にんまりと、少年の口元があがった。


「ウェラー卿、今日一日僕の護衛を言い渡す!」
びしっと、権利書をかざして胸を張るもう一人の黒衣の少年。

「畏まりました猊下」
コンラートは、膝を折って胸に手をやり、優雅な騎士の返礼を返す。

「「・・・・ぷっ!」」

そして、二人は同時に噴出した!


「あ、僕、欲しい本があるんだった!」
「では、こちらへ、抜け道は色々と?」

クスクスと、二人は笑いながら、部屋を出て行き・・・。

そうして、お忍び服に着替えさせられて、村田は厩舎に連れて行かれた。ノーカンティーに乗る
コンラートの後ろに小柄な少年がいれば、皆有利だと思ってナイショで通してくれるのだ。

普段からの、親友の素行が わかるというものだ。

「まったく、普段から いたせり つくせりの 護衛に守られていながら、僕の職場環境を
羨むなんてね〜? 贅沢な魔王陛下だよ、まったく〜3 」
「そう、評価していただけると嬉しいですね。」


パカパカと馬に揺られながら、そのまま、二人は城下へと逃走した。




― ところで、本当にいいの?本来の護衛の【アレ】を、置いてきちゃって?

城下で目当ての本を買った村田は、爽やか笑顔でついて来てくれた護衛に聞いてみた。

すると護衛はニッコリ笑って―――


「男に囲まれるのは、お嫌でしょうから、一人くらいむさ苦しい男が減って、陛下もきっと
喜んでらっしゃいますよ。えぇ!きっと!!」


― あはは・・静かに男に囲まれる発言を、怒っていたのか?この人・・・。


「それに、ちゃーんと、俺の変わりも手配もしておきましたから♪」
「手配?」





その頃の、血盟城。


「お前が、巫女に囲まれたいなんていうからだぞ!」
「言ってないよ。ただ、羨ましいと・・・。」

コソコソと言い合うのは、有利とヴォルフラム。

「陛下、お手が疎かになっていますわ、さぁ、後ちょっとです。頑張って仕事をしてくださいね?」
「は〜い・・・。」

「ヴォルフラム閣下、こちらは綴りが違います。書き直してくださいね♪」
「あ、あぁ、すまない。」

コンラートが手配したもの、それは眞王廟の巫女達であった。コンラートの変わりに、魔王の
仕事の手伝いをすると聞いて、我も我もと志願する中で、見事勝ち抜いたもの達でだけ有るにして、
コンラート作成の陛下の、お仕事補佐マニュアル(←いつの間に作った!?)に したがって、
ビシバシッっと笑顔で容赦なく仕事を次々割り振ってゆく。

逃げ出したくとも、使命に燃えた巫女さんの笑顔の強制力は、コンラート以上の物が有り、しかも
この書類のどこかに、あのコンラートを一日好きに出来ちゃう権利書まであるのだ。

まかり間違って、彼女達の誰かが、それを手にしてしまった場合が恐ろしい・・・。

それを使われるのも怖いが、へんな誤解を受けるのも怖い。



『陛下と王佐と摂政とプー閣下で、コンラート様を一日自由に出来る権利をめぐって、争っていらしたのよぉぉ〜〜??』
『いや〜〜んv それって、コンラート閣下をめぐる男達の熱い恋のバトル?』
『それより、一体皆様、コンラート様に、何をさせようとしていらしたのかしら?』
『アレだけ麗しいコンラート様ですもの。きっとv 夜のお仕事ですわ〜v』
『きゃぁあ、閣下たちのエッチぃ〜vv』

なーんて、とんでもない噂を立てられそうだ。

ブルブルブル!!

噂が立った時の、コンラートのお仕置きが怖い!!(←そっちか!?)

とにかく、自分達で さっさと仕事を終えなくては!!


執務室は、異様な熱気から、異様な緊張状態へとシフトしつつも、いつもの倍の速さで仕事が
片付いていった。いつもの三倍疲れたが・・・。






眞王廟から巫女を呼んだと聞いて、村田は今頃笑顔で一切の休憩も貰えず、働かされているだろう
魔王を思った。自分の贅沢さを棚にあげて、人を羨んだ罰が当たったんだと。(←心配はしないのか)


「それじゃ、もう少し僕に付き合ってくれる?」
「おや?御謙遜な?もう少しどころか、今日一日付き合いますよ。」

「じゃあ、お勧めは?」
「そうですね〜?陛下なら食べ物関係ですが、猊下だと骨董・古本・アニシナの店とか、最後は
城下で一泊なんていかがですか?ロビン坊ちゃん?」

− 城に帰って、巫女達に捕まりたくないでしょう?
と、優秀な臨時護衛は、村田大賢者に魅惑的なコースを提案してくれた。

「いいの!?助かる〜じゃあ、フルコースで、よろしく〜。」
「はい、謹んでご案内させていただきます。」


血盟城の面々とは逆に、二人は の〜〜んびりと城下で知的好奇心を満たすべく、物色に向かった
のであった。





「うわ〜〜ん!コンラッドぉ〜、どこ行っちゃったんだよ!風呂にまで巫女さんがついて
来られちゃ、休まらねーーよ!!」

有利は、ドタバタと半裸で魔王部屋に向かって走っていた!それを追うのは、眞王廟の巫女。

「陛下、ダメですよ、ルルは閣下に頼まれているんですから、ちゃんと湯船に肩まで浸かって100数えて
ください!!」
「それと、風邪を召されますから、せめてこちらの下穿きをはいてください!」
「いいえ、それより、スザが選んだ、こちらの貴族用の寝巻きを着て下さ〜い!」
「ぎゃぁぁ、女の子が紐パン振らないでーー!つーか、そのスケスケネグリジェなんて野球小僧に
着せようと思わないでくれぇぇ〜〜!」

どたばたどたばたーーー!!!

「陛下〜v」
「陛下ーー!」
「「お待ちになってぇぇ〜〜!」」


「コンラッドぉぉ〜、もう女の子の方が好いなんて言わないからぁ〜。戻ってきて〜〜ぇぇ」


口は災いの元・・・心底自分の発言を悔いた魔王陛下であったトサ・・・。