小瓶に詰めた想いを貴方に・・




有利が地球に戻って、それから一時間後。

ぷっかりと浮かび上がった小瓶には、コンラートの文字で有利の帰った日の夜に、手紙を書いているとあった。
無事につくと いいのだけれど と心配している彼に、有利も早速ノートにペンで、無事届いたことを書き
したためると、小瓶に入れて返したのであった。

「これでよしっと、急いでいたからノートに書いちゃったけど、やっぱりコンラッドとの文通 v だもんな?
やっぱり便箋とかあるといいよな〜。」

ここで、ベリエスとの差をつけたい有利は、いそいそと文具店までレターセットを買いに行った。

水色の紙に一番下に小さなライオンの絵のある便箋を見つけて、ついでに耐水性のペンも買って帰ってくると
有利は一応風呂場を覗いた。夜寝る前に書いたといっていたから、朝まで返事は来ないのだろう。手紙が
あるわけがないのだが?・・・しかし?そこにはぷっかりと再び小瓶が浮いているではないか!?

「そうか!時差があるんだった!ということは、ベリエスよりおれの方が、いっぱい お手紙もらえるんだ!」
勝った!と、有利は喜び勇んで小瓶を受け取ると、早速買ってきた便箋をつかって再び返事を書いたのであった。

その数時間後、再び風呂には小瓶が浮いた。それも、3つも??あけてみれば、一つはコンラートの物であったが
もう一つはギュンターの、そしてもう一つは、ヴォルフラムのであった。

ギュンターは、長々と有利に対する文通の相手が、なぜ自分ではないのか?というものだったので、
早々に読むのを諦めた。どうせ、一言ですむことを長々と書いてあるだけなのだろう?(←学習能力?)

ヴォルフラムのは、紙の大きく【この尻軽!!】とかいてあった。大変わかりやすい、相変わらずの男前だ。
ただし、書いてある内容にたいする魔王の認識は、フットワークが軽い=行動が早い=褒められた?と、
全然伝わっていないので、手紙という相手に思いを伝えると いう物としての機能は、ギュンター同様に
働いていないのであったケド・・・。

でも、手紙を貰ったら返さなくては いけないだろう?

そこで、有利は再び文具店に行って色々買い込んで帰ってきた・・・手痛い出費だ。
まずは、ギュンターにはスミレの柄の便箋で、宥める内容をちょとっろ書き、ヴォルフには薔薇の便箋に、
褒められたので【ありがとう!】と大きく一言返してそれぞれ小瓶に入れると、油性マジックでビンの底に
それぞれの名前を記した。

そして最後に、コンラートには、思いのたけをこめて手紙をしたためると、小瓶にいれてペタリとライオンの
シールを貼った。これで、コンラッドには、彼宛だとわかるはずだ。

そして、再び小瓶を風呂に沈めると、ゆっくりと渦を巻きながら光り輝いて異世界へと旅立っていった。


これで大丈夫だと、夕飯を食べてお風呂に入ると、待ち構えていたように、ぷっかりと小瓶が浮いた。
「あ、コンラッドからだーvv」
思わずライオンシールの小瓶に頬擦りしてしまう。出たらまた お返事を書かねば!

ポコ・・ッ

「ん?」
再び小瓶が浮いた。いくら時差があるとはいえ、こんなに早くコンラッドから来るわけないよな?と、
その小瓶を手に取ると、ポコポコっと小瓶が二つ浮いてきた。また、ギュンター達か?と思っていると
手に持った一つには、綺麗に折りたたんだ手紙の表面に 綺麗なキスマーク・・・。

「ツェリさま・・・・・たははは、ではこれはっと?」
ちょっと大きめのビンには、黒い子豚のような編みぐるみ・・・グウェンダルが強制的に里子を渋谷家に送り
込んできたもよう。また作りすぎて里子の送り先がなくなってきたんだな〜?と、察しをつけた。

5つに増えた小瓶(うち一つ大瓶)をもって、風呂に上がった有利は、再び返事を書くために二階に
あがった。さすがに、5人分となるとちょっと大変ー。しかも、急いで書いたにもかかわらず、時差が有る分
ヴォルフラム達には、どうしてすぐに返さないんだとか、風呂に何時間待たせるんだとか、色々文句が
書かれているので、時差を考えろー!!というか、もう送ってくるな!と、思った有利だった。

が、そう返した有利が浅はかだった。

「ゆーちゃん!ちょっときてーー!!」

何でも、家族がお風呂にはいっていると、次々と小瓶が浮いてきた。それはどれも、ヴォルフラムとギュンターだ。
片や切々と!どうして、そんなにつめたいのですかーー!と、ギュンターは泣き、ヴォルフラムは、思いつくままに
婚約者に対してその態度は何だという文句がきた。

「あーーもう!浮いても外に出しといて!もう絶対に返事なんて出してやらねー!!」
と叫んでからハタッと・・・・。

「あ、でも、ライオンマークの小瓶だけは、コンラッドからだから、別にしておいてよ。」
大事なんだから!と、いえば、察しの良い美子は、ニマニマと笑って『大事なコンラッドさんからの小瓶ね』と、
請け負ってくれたのだが・・・その含みにちょっと赤くなった有利であった。





一方、こちらは眞魔国の魔王風呂では ――。

「来ない、何をしているんだ?あのへなちょこは!さっさと返事を寄越さないか!?」
「あぁ〜〜べいかぁ〜〜なぜなぜ、プーはともかく、わたくしにも返事を下さらないのですかー!?」
「なんだとー!僕はユリの婚約者だぞ!汁王佐はともかく、僕には誠意を込めた手紙を返さないか!?」
「キーー!プーの癖して生意気な。」
風呂場で騒ぐと、響いて五月蝿いな〜と、コンラートは内心辟易しながらも、一人で執務を行っているだろう
兄を想って、二人を宥めやる。

「ほらほら、あちらとは時差があるんだから。ユーリは帰って まだ一日経っていないんだよ?さっきの手紙だと
お風呂に入って これから寝るとあったから、数日は戻ってこないよ。」
本当は、まだ寝ていないハズだから、二人の手紙は有利の目に留まっているだろうが、書いている間に、
時間が経つので、早くても明日・・・おそければ・・数日後であろう?

「うるさーーい!自分ばかり有利から詳しい手紙を貰って!」
「それは、ヴォルフが文句ばかり書いたからだろう?現に、グウェンダルには、丁寧なお礼の手紙が来た
というし、母上の手紙には向うの花の種を送ってこられたというぞ?」

しかし、それは逆効果であったようだ。ヴォルフラムは、瞬間湯沸かし器となると、部屋に戻って猛スピードで
手紙を書くと、つぎつぎと湯船に小瓶を投下していった!数多く送れば良いという物でもないだろうに・・・。

そうなると、負けじと王佐もダガスコス達に命じて、風呂場に机と紙とペン、そして多量の小瓶を用意させ、
魔王風呂でせっせと、手紙を書き始めてしまった。そして、書き終わった手紙を部下に渡して小瓶に入れさせては
湯船に投入させてゆく。

二人とも、魔王からの心のこもった手紙と、贈り物を貰おうと躍起になったようだ。

「ギュンター閣下、こんな所で手紙を書いて、何で風呂に投げ入れるんです?」
不思議に思ったダガスコスが、王佐に問うと。
「この風呂は、陛下の家につながっているのです。ここに小瓶に入れて手紙を出すと、陛下から返事が
届くのです!えぇ、きっと、このギュンターには、届くに決まっています!キーーーーーィ!!」
「「「陛下から、手紙が届く・・・・。」」」
兵士達は、なにやら考え込んだ。



「えーと?」
とりあえず、コンラートは何を言っても無駄ということに気がついたらしい。

独り執務に奮闘している兄を思って、手伝いに行こうと風呂場を出た。すると、案の定というか?グウェンダルは
眉間に深い皺を刻んだが、無駄だとわかっているために、コンラートと二人で執務をこなして行くのであった。

夜中、どうにか本日の分を終わらすと、コンラートは自室に戻った。

机の上には、ライオンのシールが張られた小瓶・・・どうしよう?あれだけ、あの二人が送っているのだ。
自分まで送ったら、迷惑ではないだろうか? でも、有利も楽しみにしてくれているというし、時差で返事が
届かなくても読んでくれればいいか?

コンラートは、短く手紙を書くと、小瓶に入れて風呂へと沈めた。




「きゃぁぁ!!ゆーちゃん!ちょっときてーー!」
朝から母親の悲鳴で呼ばれてゆくと、そこには風呂からあふれ出した、瓶・瓶・瓶だ!しかも、コポコポと
未だにあふれ出していないか?
「もう、こんなに瓶だらけになったら、お風呂が使えないじゃない!いい加減にしなさいよ!」
プンプン!と、おこった美子は、小瓶文通を禁止してしまった。聞けば、昨日も瓶が次々浮かんでくるので
ゆっくり風呂に入れなかったという。

「くっそーー!ヴォルフ達だな!?全部送り返してやる!」
一瞬、魔力を使おうと思った有利であったが、この中にコンラートの手紙もあるかもしれない。
いや、もしかしたら、またグウェンダルや他の人からのもあるかもわからない。

「う〜〜、仕方ない。」
有利は一旦中を見てから、仕分けをすることにした。

すると大半がギュンターとヴォルフラムからであったが・・・。

「あれ?これはダガスコス??」
かさりと広げれば、ダガスコスが代表で書いた兵士達からの嘆願書であった。

「・・・・・・・。」
読み終えた有利は無言となった。どうやら、ギュンターに付き合わされて、風呂場で数日間軟禁状態で、仕事を
させられているらしい。帰ったら、ギュンターの給料を差し引いて、彼らに特別手当を出してあげよう。

そして、小瓶を仕分けしていると、やっと目当てのライオンのシールの小瓶を見つけた。
「コンラッドのだぁvv」
それまでのしかめっ面も、一気に喜びに染まる。いそいでふたを開けて中身を読む。
「・・・・・・・・・えっ?」

そこには、コンラートが今、グウェンダルと一緒に二人で執務をしていることが書いてあり、また自分まで送ると
迷惑になるだろうから、当分は送るのを控えるという事が書かれていた。

がぁぁぁん!!

ショックを受けた有利は、暫しの間 固まって・・・・。

「おふくろーー!!ちょっと、向うに行ってくる!!」
そういうと、急いで着替えた。そして、はっと気がついて、兄がUFOキャッチャーで取ってきたキ○ィーちゃんの
ストラップを掴むと、そのまま湯船に飛び込んだ!!



そして ―――

突然魔王風呂が光り輝き、ゆっくりと渦を巻き始めた!これは、魔王陛下のご帰還の予兆だ!!

「陛下!あぁ、きっと!陛下がわたくしの手紙に応えて、こちらに急いで帰って来てくれたのですね!?」
三日三晩徹夜で手紙を送り続けて、麗しの王佐の目は血走り、くまもでき、その上ペンを握る右手は
腱鞘炎になっても、彼は魔王に手紙を送り続けてきた。それがやっと報われるのだ!!

「あぁ、へいかー!イイ陛下ー!うう陛下ー!えぇ、へいかー!OH−!HEIKAーー!!」
陛下5段活用が終わる頃、ポコリ・・・と、小瓶が浮かんできた。

「あぁ、あれは、陛下からのお返事ーーぃぃ!」

ギュンターが湯船に小瓶を取ろうと駆け寄ると、そこに駆けつけたヴォルフラムが待ったをかけた!

「ちがうぞ!それは、きっと僕宛の手紙に決まっているジャリーー!!」
一つの小瓶をめぐって、二人の魔族が争っていると、再びポコリと小瓶が浮かんできて――。

ボコボコボコッと、次々と小瓶が浮かんで来るではないか!?

「小僧が帰還したとは、本当か!?」
そこに、魔王の帰還の報告を受けた、フォンヴォルテール卿と、ウェラー卿も駆けつけた。

だが、そこには、湯船から噴出すように次々と小瓶が噴出す異様な様子だった。

「こ・・これは?」
「もしかして、あの二人が出した手紙じゃないかなー?」

そう、コンラートが言い当てたとおり、それは二人が送った小瓶たち。

「あの二人め!仕事もしないで、こんなに瓶ばかり送っていたのか!?」
グウェンダルの怒りが、見る見る大きくなっていくのを、コンラートは巻き添えを食わないようにと、
周りの兵士に声をかけてゆく。

さぁ、グウェンダルの雷が二人に落ちるぞ!!という瞬間!!


「この、たわけ者共めぇぇーーー!!!!


怒髪天を抜くというばかりの声がしたのは、湯船の真ん中!
水を滴らせて、怒りに目を爛々と光らせているのは、我等が魔王陛下である!!

お湯が持ち上がったその真ん中に、しっかとモデル立ちで腰に手をやり、眦を吊り上げてらっしゃる。

「あれ?魔王でのご帰還のようですねー。」
「何故お前は、そんなに呑気なんだ。」

― いや、コンラート閣下のは、呑気というよりマイペースですから・・・。

ダガスコス達は、急な魔王の登場に慄きながらも、長男次男の会話にツッコム。

「ユ・・ユーリ何をそんなに怒って・・・。」
「えぇい、まだわからぬのか?プーよ!婚約者だと日頃から蝿の如く余の周りで喚くくせに、余が不在の城を
守ることもせずに、兄二人ばかりに働かせ、己は毎日不平不満を書き綴る毎日!そなた等、我儘プーで十分じゃ」
「うぅっ!!」

「そして、ギュンター!そちは我が王佐にもかかわらず、摂政ばかりを働かせ、あまつさえ、そこの兵士まで
巻き込んで、風呂場で意味不明の手紙を書き続けるとは何事だ!よって、給料は減額!良いな!」
「は・・ハイ!申し訳ございません。」
がっくりと、風呂場に膝をついた二人に目もくれず、魔王陛下は悠々とした足取りで、水の上を歩いて渡った。

「フォンヴォルテール卿。その兵士達には、明日からの特別休暇と特別手当をつけてやれ。」
その陛下の言葉に、兵士達はさすがは陛下だと、感動に打ち震えた。この三日間、不条理な上司の命令に
我慢しただけの事はあった。よもや、陛下自ら休暇と手当てを下さるとはっ!

「「「有難うございます!魔王陛下。」」」
礼を述べる兵士達に、魔王様は鷹揚に頷いた。


「あぁ、それから《グウェン》、これ・・・編みぐるみのお礼。」
有利は、グウェンダルにの手にそれを握らせた。

「こ・・これは!?」
キラキラ輝くビーズと鎖の先には、可愛いリボンをしたネコたん!その精巧な作りのかわいいネコに、
グウェンダルの眉間の皺が緩んだ!!

「こんなストラップ一つで悪いんだけど、おれ今回、一晩しか向うに帰ってなかったから、お礼を
用意できなくって……。」
「い・・いや、これで十分だ。…とてもかわいい。」
「そう、気に入ってくれてよかった。じゃぁ、着替えたら、すぐに仕事に戻るから。行こうコンラッド!」
「はい、あ・・そうだ、お帰りなさい陛下。」
「陛下いうなー名づけ親!」

いつものやり取りを終えると、二人は揃って着替えの為に、魔王部屋へと戻っていった。



「うんもう!やんなっちゃうよ。アイツラのおかげで、お袋に怒られちまった!当分、小瓶はダメだって。」
「え・・・? そうですか。」
折角の、有利との小瓶のやり取りも、どうやらもう出来ないと聞いて、コンラートは残念におもった。

「せっかく、コンラッド用にライオンの便箋見つけたのに〜。気に入ったの見つけるのに三件もお店
回ってやっと見つけたんだぜ?もうがっかり!」
ぷっく〜〜と膨れた有利。しかし、コンラートは嬉しい言葉を貰って、一気に上機嫌になった。

「おれの為に、探してくださったんですか?」
「うん?」
「便箋。」
にこにこと、上機嫌で聞いてくる名づけ親に、有利の頬が紅くそまる。

「・・・・だって、折角コンラッドに手紙を貰うのに、ノートを切って使うんじゃ、味気ないだろう?」
「貴方から頂くのなら、例えノートの切れ端でも、おれは嬉しいよ。」

ボボボボッ・・・!!っと、有利の顔から湯気が 出そうな勢いで 真っ赤になった。

どうしてこの男は、誤解を与えるような事を 言うのだろう?うっかり、彼は自分が好きなんじゃないかとか
思ってしまいそうだ。しかも、きっと本気でそう思っているに違いないから、性質がわるい。

― でも嬉しいんだけどさ。

「さて、今回は早く帰ってきたし、急げばそんなに掛からずに出来るかな?」
「はい、一応おれも手伝っていましたし、急げば今夜で終わりますよ。」
「よーし、頑張ろう。」


有利は着替えを済ませると、執務室へと向かった。
結局有利は、夜までに王佐が貯めた分の仕事も終わらせ、再び家路へと戻っていった。

なにせ、帰ってくる予定ではない所で帰ってきたために、今一度戻って地球で力を再チャージしてこなくては
ならないのだ。いくら魂がこちらに属していても、血肉は地球の物なので、長く眞魔国にいると力が弱まって
しまうのであった。

「では、ユーリ。向うで休養してきてくださいね。」
「うん、あーぁ、コンラッドの手紙を楽しみにしていたのにな。ごめんな、おれから頼んだのに・・・。」
魔王風呂の中に、光る渦が発生し、有利の体が静かに沈みこむ。

「気にしないでユーリ。ほら?俺はベリエスともしているから!」

ピキッ!!


「早速、今度の事も鳩を飛ばして、彼に話すつもりですから。」

にっこと、手を振る彼に、悪意はないのだろう・・・全部本気・・まったく・・


― あんたは、やっぱり性質が悪いぃぃ〜〜〜!!(号泣)


有利の叫びは渦に飲み込まれ、彼には届かずに 消えていったのであった。





2009年6月13日UP
昨日書いた、眞魔国的正しい交際の仕方に文中にあった、有利とコンラッドの文通のくだりです。元々は、
こちらを先に思いついたのですが、ベリコンが本編になってしまった。書く予定はなかったのですが、今日見たら
拍手に眞魔国的〜に反応があったので、うっかりノッテしまった私が、朝からポチポチ書いたものです。
有利・・・強く生きてくれ。 ~~~ヾ(〃'(ェ)')o キャー!ファイトォー!!