眞魔国的、正しい交際の仕方





「あ・・・あの、ウェラー卿!」
「やぁ、ベリエス殿。貴方も小シマロンに戻るのですね。」
回廊で呼び止められて、コンラートが振り向けば、明日 主の少年王と共に帰国するベリエスがいた。
ふっと気がつけば、ベリエスは、国に戻るために、神族の証である 金色の髪に金色の目を 再び染めていた。

「髪と瞳、染められたのですね。」
「えぇ、はい。私の身元は、一応は伏せておくつもりですので。」

ベリエスは、小シマロン王サラレギーの護衛兼側近で、眞魔国におけるコンラートの立場とよく似ていた。
前魔王、現上王の息子であるコンラートと神族の国である、聖砂国の王弟殿下であり、サラレギーの叔父に
あたるベリエス。それでいて、片や名づけ子の、片や甥っ子の一番の理解者で、一番の臣下でもあるのだから。

そのせいか、コンラートはベリエスに親近感を持っていて、自然と応対も柔らかい。

「そうですね…でも、元の色の方が、貴方らしくって俺は好きだな。」

なので、ついつい余計なことを言ってしまったコンラートであった。

「ええ!?す・・すき?」
「はい。」

何をそんなに驚くのだろう?と、この時この男は思ったのだが、大方、散々剣士として剣を交えてきたし、敵対も
していたので、そんな相手に好意を伝えられて驚いたのかな〜?なんて、呑気に事を構えていた。




そして、次の日、再びコンラートは ベリエスに 呼び止められる事となる。

「コ・・コンラート殿!」
「あれ、ベリエス殿、今日の午後に 御発ちでは?」
そう、本日をもって、彼は帰国するハズだ。なのに、主につかずに、こんな所にいて いいのだろうか?

「はい、サラレギー様は、私の好きにしていいよと おしゃって下さったので。」
「そうですか?サラレギー陛下は、お優しいのですね。」
「はい、普段は王と言う重責から、あのように突っ張ってはいますが、本当は寂しがり屋で お優しい方なのです。」
「へぇ、ベリエス殿は、本当にサラレギー陛下を お好きなんですね?」
「えぇ、そういうコンラート殿こそ、ユーリ陛下がお好きですよね。」
「はい。ふふふ、やっぱり俺達、似ていますね?」
「えぇ、私もそう思っていたのです!」

ニコニコと 二人は、お互いに笑顔で向かい合った。



それを、茂みから見つめる者がいた。金色の長い髪に 綺麗な服を着た 小シマロン王サラレギーは、
その尊い御身でありながら、なぜか他国の中庭の茂みで、髪に葉っぱをくっつけて隠れているのだろう?
それを2階からみつけた、この国の国主・魔王渋谷有利陛下と、その自称婚約者のヴォルフラム、そして親友
であり、大賢者である村田健は揃って首をかしげた。

なにせ、このシマロン王、生まれた時からの王族なので、まかり間違っても 体中に葉っぱをくっつけたりして
茂みに隠れるような人間ではない。

そこで、三人は降りて行き、背後からサラレギーに声をかけたのだが、途端にギン!!と、とても たおやかな
普段のサラレギーでは有り得ない視線で、黙らされた。

そして、三人も茂みへと連れ込まれ…

「しーー!今、良い所なんだから静かにして!邪魔したら、有利が泣いて許しを請うくらいの報復をするよ。」
サラレギーの場合、本当の本当にするので、三人は大人しく指示に従うのであった。

でもって、何が良い所なのだろうと?サラレギーに習って、茂みの中から前方を見れば、にこやかに 微笑みあう
有利の護衛とサラの護衛だ。いったい 何をしているのだろう?


「コ・・コンラート殿、わ・・わたしは、以前から貴方のことが気になっていて、剣の腕の素晴らしさとか、
驕らない性格だとか、細い腰だとか 好ましいなと思っていまして―。」

― 剣の腕とか、驕らない性格だとか、好ましいのはわかるが?細腰ってなに??
眞魔国組み三人は、再び揃って首をかしげた。


「以前から、お付き合いして欲しいと…と言っても、まだお互いに知らないことばかりですし、いきなり
こんな事を言われても、お困りでしょう、ですから…まずは、その・・お、お友達から初めていただけ
ないでしょうか!?」
真っ赤になったベリエスが、しどろもどろに途中つっかえながらも、コンラートに右手を差し出した。


― な・・なにーー!あの二股眉毛め!コンラートに懸想してやがったのか!?


ユーリとヴォルフラムは、おもわず駆け寄ろうとして、身を乗り出した!がっ!?いつの間にか、肩に食い込んだ
白い手に立ち上がる事すら、阻まれてしまった!
「キミタチ、邪魔したら泣かすっていったでしょう?」
サングラスをキラーン!!と光らせて、サラレギーは静かにするように、再度要求した。思わず二人して
手を取り合って泣いてしまう。

― うわ〜〜ん、眼鏡キラーンは、村田だけでいいよーー!!
― ユ・・ユーリ、ここは大人しくしよう、そもそもコンラートが そんな申し出を受けるわけが…

「はい、いいですよ。」
だが、弟の予想をあっさりぽんっ!と飛び越して、コンラートがその右手を握り返した。

「ほ・・ほんとうですか?」
信じられないというように、ベリエスはコンラートを見た。
同じく、信じられない様子で、名づけ子と弟も彼を見た。

「はい、いいですよ。貴方とはいい(友人)関係を築いていけそうですし、俺の方こそ宜しくお願いしますね?」
「コンラート殿」
「あぁ、俺のことは、コンラートと呼んで下さい。俺もベリエスと名前で呼びますから。」
「こ・こここコンラートv」
「はい、ベリエス。」
にこっと、コンラートが爽やかな笑顔を振りまくと、間近で瞳の星が輝くのを見て、ベリエスの頬に赤味が差した。

それをみて、ベリエスって反応が初々しいな〜、俺の周りのあつかましい友人に分けて欲しいくらいだと、
コンラートはおもったのだが、だからといって、本当にその友人が同じ反応を返したら、間違いなく気持ち悪がって
剣の錆びに変えるのだ。もちろん、その友人とは、幼馴染の事だけど。

「そ・・それで、お願いがあるのだが、今日で帰るわけなので、貴方との確かな絆が欲しい。」
コンラートの手をぐいっと引っ張ると、ベリエスが ずずいっと顔を近づけた。

コンラッドのピーーンチ

またもや駆けつけようとしたユーリとヴォルフラムは、またしてもサラ様の白い御手で首根っこをつかまれた。
しかも、二人が騒がないように、口を押さえているのは、同じ眞魔国組みの村田様であった!

よもやまさかの? サラ様・村田様の、【強力眼鏡っ子腹黒コンビ】が結成されようとは!?

「むぐ・・もぐーー!」(←いやぁぁ〜、最凶腹黒コンビーー!)
「しー!シブヤ、いい所なんだから、邪魔しないでよ。」
「さすがは、大賢者殿だ、そうだよ、ユーリ、いい所なんだから・・あぁ、ほら、早くベリエス!邪魔者は
私達が抑えているうちに、ウェラー卿からAを奪ってしまえ!」
『Aー?って、もしかして、恋のABCのAってこと?それってキス?つまり、コンラッドの唇が危ないのか??』

茂みの中では、ドキドキと見守る眼鏡が二人、むぐむぐと苦しがる少年が二人。
そして回廊には、今にも 互いが触れ合いそうな至近距離で 見詰め合う美青年が二人。

「コンラートv」
「ベリエス?」

「これを受け取ってくれ!
ずずいっと、コンラートに押し付けられたのは、唇でもなんでもなく?

くろっぽーーvv

桃色のばっさばさ・・・・ではなく、鳩??



「なにあれ?」と、呆然と呟いたのはユーリ。
「桃色の鳩ではないか?」と、これはヴォルフラム。
大賢者様にはいたっては、チッと舌打ちをされていた。村田がこの様子では、きっと サラ様は怒り狂って?
と、恐る恐るユーリとヴォルフラムは、シマロンの少年王を見た。自分の護衛のヘタレさに、怒りで声も
出ないのだろうかと?

しかし、シマロン王は、ブルブルと震えて・・・

「何て大胆なんだ!ベリエス!桃色鳩での交換文通を申し込むなんて!!」
なんと、サラレギーは、興奮で目をキラキラさせて感動していた。

「「「桃色鳩交換文通??」」」
「え、しらないの?わが国では由緒正しい【恋のエビス】さ♪」
ABCではなくエビスぅ?な〜んか、縁起良さ気ぇーーー??

エ・・遠距離恋愛は、鳩で想いをしたためた手紙を交換でやり取りする。
ビ・・びっくりするような贈り物を相手に贈って、彼女(彼)のハートをつかむ。
ス・・ステキな言葉で求婚をして、永遠の愛を交わす。


「こちらの世界で言う 交換日記と文通を足したようなものか?そこからシマロンでは始めるんだ。」
なーんだと、村田様は、些かがっかりしたような感じであった。

― ムラタ〜、お前、何を期待していやがったぁぁ〜〜!!

有利は、自分の護衛が一体どんな目にあえば良かったと?と、かなり、お怒りで親友をにらみつけた。
そんな双黒達のやり取りの間も、サラの説明は続く。と、いってもまともに聞いているのは、プーだけだが。

「互いにやり取りしていくうちに、気持ちが高まっていくという 由緒正しい貴族間の交際方法なのさ。」
サラ様の説明によると、貴族同士だと令嬢は滅多に家の外には出れないので、夜会などで知りあった男性と
鳩で手紙を交換してやりとりするらしい。確かに、貴族間ではそんなもの? なのかもしれない。

「なるほど、そう考えると、中々奥ゆかしい やり取りだな?」
貴族であるヴォルフラムには、中々好評なようである。だが、いたって庶民であり現代っ子の双黒達には
まどろっこしいこと、この上ない方法に感じた。




さて、殺伐とした茂み組みと比べ、回廊にたたずむ二人は、いたって呑気…いや、呑気なのは茶髪の青年だけで
もう一人の青年にとっては、人生をかけた大勝負の真っ最中なのでは有りますが…。

「へぇ、可愛い鳩ですね?名前は、なんていうんですか?」
「名前は…まだ。交換する相手と、一緒に名前をつけるのが仕来りで。」
「へぇ〜、そうなんですか?」
「これは、私が卵の頃から育てた鳩なんです。受け取ってくれますか?」
「俺に?あぁ、でも…鳩は飼ったことがないんですよ。」

― なぬっ!?ウェラー卿に遠回しに断られたか??

茂みの方では、今度は サラ様が 飛び出しそうになったのを、有利たちが捕まえた!

「コンラッド、断るならはっきり断るんだ!いっそ、すっぱり切っちゃえー!」
「何言っているんだ、私のベリエスが断られるわけがない。ベリエスいけー!」
国主たちは、互いの護衛にエール(?)を送る。

「僕としては、ベリエスさんが卵から育てたというのが気になるな〜?人肌で暖めたのかな?」
大賢者様としては、そこをきちっと聞いてみたい!

「お前ら、余り騒ぐと、コンラートに気付かれてしまうだろう?お仕置きされる気なら、僕は巻き込むなよ。」
一人冷静に、事態をじっと見つめていたのはヴォルフラムであった。

ウェラー卿のお仕置き…その一言で大人しくなった眞魔国組みに、サラ様はそれってどんなに楽しいこと
なんだろう?と、ベリエスに手紙で聞いてもらおうと、早速デバガメを決意していた。(←自分で聞けよ)



「いえ、この子は遠距離鳩です。白鳩便と同じように、手紙を受け取ったら放してもらえれば、近くの鳩小屋に
戻っていきますから、扱いは普通の白鳩と同じで手間は掛かりません。」
「そうなんですか?それは安心ですね。」
「では…これで、私と交換文通をしてくださいますか?」

― 交換文通?? あぁ、互いに手紙のやり取りをすると言うことか?

にっこり、と、コンラートは微笑むと、いいですよと言って、その鳩を受け取ってしまった!!
これで、晴れて交際を了承してもらえたと思ったベリエスは、ぱぁぁ!と喜色を顔に上らせた。

「あ・・ありがとう、コンラート!」
「いえいえ、それで名前はどうします?」

コンラートは、鳩の胸を指でかいてやりながら、ベリエスに向き直る。こんなに喜ぶなんて、年下の友人と
いうのも、いいものだな〜と、コンラートは思った。この男、まったく わかっていない!

「メスですからね、可愛い名前がいいですね?あ、そうだ、ベリエスが育てた子だから、ベリーなんて
どうでしょう?うちのユーリ陛下も、ベリー系のお菓子が大好きなんですよ。この前もベリーのタルトを
おやつに三つも食べていらしたし。」
「うちのサラレギー陛下も、少し酸味のあるラズベリーのお菓子は、お好きでいらっしゃいます。
でも、流石に3つは食べれませんね。…少し食が細いのでしょうか?」

なぜか、互いの陛下のお話にいってしまう、護衛たち……

「こんらっどぉ〜!おれの食い意地の話しはいいから!その鳩を受け取るんじゃありません!!」
「ダメだよユーリ、いくら臣下だって、恋愛は自由じゃないの?」
「その前に、恋愛まで行っているのかい?なにせ、眞魔国には鳩交際なんて習慣がないし、相手はあの
ウェラー卿だし。」
村田様の冷静なツッコミに、はたっと有利も気がつく。そうだった、彼は ―。

そこで改めて、コンラートの様子を見れば、鳩と呑気に戯れている。とても、これからお付き合いを始める
雰囲気ではない。そこには、恋の甘さも、すっぱさもなかった。

「あー、まず気がついていないね。」
と、ユーリが気がつく。

「コンラートだからな……新しい友人が出来たくらいだろう?」(←弟大当たり)
と、弟は、正しい見解を示唆した。

「それはどういうこと?」
一人、サラレギー陛下だけが、事態を飲み込めていなかった。



ウェラー卿コンラートは、眞魔国一のモテ男である。
老若男女にモテルのではあるが、まず告白されることはない。殆どが秘めたる恋で終わるのは、第一に庶民派で
とっつきやすいが、彼はれっきとした上王の息子であり、身分は十貴族と同様である。また自身は現王の第一の
側近で、一番信頼を得ている上に、王の名づけ親という特別な位置にいる。

まず身分的に、城で働いている者達では手が出ない。かといって、貴族ならば手が出るかといえば、そうでもない。
なにせ、彼の側には美形ばかりがそろっている。彼の目に留まるほど美姫などいるのか?と、言えば疑問だ。

第二に、彼は優しい。魔王陛下曰く、彼は【何時でも、何処でも、誰とでも、笑顔で話せる男】であり、彼は
誰にでも優しく、特別誰かに優しいわけではない。唯一の特別は、ただ一人だ。

それが第三の理由。ウェラー卿が唯一特別にしているのが、現魔王陛下である。魔王陛下も彼を特別に頼りして
おり、彼の恋人の座を狙うとすれば…それは、我等が魔王陛下とウェラー卿との間に割り込むという、恐ろしくも
難易度の高いうえに、最高級の勇気がいるからなのだ!!

「と、いうわけで、ウェラー卿は、毎日好きだ、愛しているだという好意を ぶつけられているにも関わらず、
告白というものが受けたことがないので、人が自分を見る視線というものは こんなものだという誤解が生じて
いるんだよ。だから、ベリエス殿が どんなに恋しい目で彼を見ても、親近感でも持ってくれているのかな〜?
程度の認識しか、彼には ないわけなんだな〜。」
「我が兄ながら、こと恋愛方面には、かなり天然であるな?」
大賢者が説明をしてくれ、弟閣下が肯定してくれた。


「まって、ユーリ?もしかして眞魔国では、貴族間の交際方法って、違うのかい?」
やっと、サラレギーが事態がわかったようだ。だが、有利とて、眞魔国恋愛手順など知るわけがない。
「いや〜、眞魔国ではどうなんだろう?ヴォルフ、こっちだと どうなの?」
人それぞれだと、ヴォルフラムは唸る。彼の母親のように、会ったその日に恋に落ちて子供を宿す所まで
行ってしまう情熱的な人もいれば、グウェンダル達の様に、相思相愛の癖して中々進まない者たちもいる。

「あ〜〜、グウェンとアニシナさんね〜、あそこは、まとまるのかな〜?」
「もにたあとマッドマジカリストという一面もあるからねぇ?」

魔王陛下と大賢者猊下にそろって、心配される摂政…きっと要らぬおせっかいよりも、仕事しろといわれるだろう?

「じゃぁ、ユーリの生まれた国では?」
「う〜ん、恋のABCっていうのはあるけど、こっちとは全然違うんだ。」
「そうそう、Aがキス。口接け・Bがボディータッチ・体を愛撫して、CがSEX・ぶっちゃけ交尾だよ〜。」
大賢者様、ぶっちゃけすぎです!

「口接け!?そんな結婚もしていないのに、イキナリソコからはじめるの?何て破廉恥な!」

「ハレンチって、よもや、サラからそんな事を聞くとは……。」
「意外だねー、シマロンって、そんなところは奥手なんだぁ〜。」


がっくりと、項垂れたサラ様は、ふっと微笑み、これは僕達の完敗だと、首を弱々しく振った。
「さすがは魔族、こういった方面は進んでいるんだね。なんか負けたよ。」
変な所で、サラレギーに勝ってしまった眞魔国、でも全然嬉しくないーーー。



がさ…っ…。
「あれ・やっぱりユーリですか?何をしているのですか、陛下・猊下にヴォルフまで??」
茂みを掻き分ける音がしたかと思えば、なんとコンラートが上から覗いていた!?

「え・・えへへ?」

「サラレギーさま!?なぜ、こんな茂みで・・はっ!お召し物が汚れてしまいます、さぁ、こちらに。」
その上、ベリエスにも見つかり、サラレギーも茂みの中から出された。

「やぁ、ベリエス、すまないね?」
笑ってごまかした魔王陛下と、堂々と悪びれもせずに出てくるサラレギー陛下。

「それで?こんな所でどうしてたんです?」
だがやっぱり、護衛たちには覗いていたことがバレていたようだ。まぁ、あれだけ騒いでは見つかって当然だが。

「コ・・コンラッド…それ、ベリエスさんから貰ったの?」
有利は、恐る恐る聞いてみた。
「はい、かわいいでしょう?ベリーって名前なんですよ。な?ベリー?」
「くるぽーv」
早くも、コンラートに慣れたのか?鳩はすりすりと、彼の頬に擦り寄った。

「ウェラー卿、その鳩が何に使うのかは知っているのか?」
ヴォルフラムが、一応確認を取る。

「え?伝書鳩なんだから、手紙を運ぶんですよね?」
やっぱりわかってなかったかー!?と、眞魔国組みは、深くため息をついた。そして、ついつい、こんな天然
ボケボケ閣下を、うっかりと好きになってしまった神族の青年に、心底同情の視線を注いでしまう。

そこで、ベリエスも、なにかおかしいことに気がついたようだ?

「あのー、コンラート?それが何で、桃色だかわかっていますか?」
「可愛い色だから?」
すかさず帰ってきた答えに、ベリエスは、何かを 気がついたようだった。

「ま・・まさか。」
「ベリエス…眞魔国には、桃色鳩の習慣はない。」
がんばったね‥と、自国の王に慰めの言葉をかけられて、ベリエスは浮かれていた自分を恥じた。
よもや、眞魔国にその習慣がないとは、それもこれも、下調べが出来てなかったと言うことだ。

これが、政治に関することだったら‥…。そう思うと己の迂闊さに腹立たしくなってきた。

「申し訳ありません、折角、サラレギー様が応援してくださったのに、このベリエス、一生の不覚!」
何も、交換文通を相手が知らなかったからって、そんなに落ち込まなくても…とは、眞魔国組みの三人。

「ベリエス、どうかしたのか?」
コンラートが、心配そうに出来たばかりの友人を気遣う。

「コンラート…ッ…」
だが、ベリエスは交際を初めて理解を深めて、行く行くは求婚をして彼と‥‥なーんて、夢を見ていた分、
相手のその気がまったくないとわかった今、その気遣いすら胸が苦しい。

― しかし、私もサラレギー様の側近、ここで無様な姿は見せられぬ!

「いいや、何でも…‥コンラート…私は出なおしてくるから。」(←懲りていない!?)

― そうだ、出直してこよう。そして、今一度、彼に交際を改めてもうしこもう!
ベリエスは、気丈にも立ち上がると、精一杯の微笑を顔に乗せて、武人として振舞うのであった。

「ベリエス、そうだ、もう一度出直そう、私はいつでも、お前の味方だよ。」
「サラ様!!」
ベリエスを気遣う主に、忠犬ベリエスは感激の余りに、この方についてきてよかった‥などと、
感慨にふけっていると?

「そうか、ベリエスは帰国の時間か? げんきで!」
にこやかに、ウェラー卿がさよならの挨拶をする。

ぐっさりと、ベリエスの心の傷に、ナイフがつきたてられたような気がした。

「ウェラー卿ってさ、たまに まったく、空気を読まないよね?」
そう大賢者様が のたまったとおり、ベリエスは何気に涙目だ・・・。

「帰る頃にはつくように、ベリーを飛ばすから待っていてくれ?それと、今度来る時は、一緒に夜を
すごそうね?面白い店を知っているんだ。一緒に色々しよう?」
ね?っと、小首をかしげて、ニッコリ微笑むコンラートに、ベリエスの顔色が、青から赤に急速転換した!
そんなに、急激に血液の流れを変えては、なん〜〜か、体にワルソー。

「一緒に夜をすごす?」
「色々って…。」
あぁ、またこの人は、そんな誤解をするような事を言って…。
自分の護衛と自分の兄の失言に、有利とヴォルフラムは揃って頭を抱えた。


何も言わずに、たたずむベリエスに、コンラートがあれ?という顔をした。

― もしかして、忙しいから夜に出歩いては、いけないのかな?ヨザックの店に連れて行ったら、どんな反応するか
  見てみたかったのに?ベリエスの反応は、新鮮だしヨザも気に入ると思うんだけどな〜?(←何気にひどい)

「ダメ?」
小さくお伺い立てるコンラートの姿は、ベリエスの好みをジャストミートしてしまったようだ!がばっ!!っと、
ベリエスは コンラートに 抱きつくいた!

「もちろん、ご一緒させていただきます!!」
「よかった、楽しみにしているね。」

やっぱり、ベリエスって反応が新鮮だな〜。よしよしと、頭を撫でると、次に来る時は、新しい友人をどこに
連れて行ってあげようかな〜?なんて、考えていた天然閣下だった。


「ねぇ、ユーリ、ウェラー卿って・・・・。」
「いっただろう?天然だって・・・・。」

サラレギーも何か気がついたようだ。天然につける薬なし・・・・。
どうやら自分の側近が、とんでもなく 一筋縄ではいかない相手に 恋したことを気がついてしまった。

「それでも、私はベリエスを応援するよ。今まで、彼が私を支えてくれたように。」

そう、どんな時も、彼が自分を信じたから、自分はここまでやってこれたのだ。


「サラとベリエスさんって、信頼しあっているんだな・・。」
ちょっと感動した有利だったが。
「でしょ?ベリエスって、本当に可愛い奴なんだよ?ねぇ、ユーリ、ウェラー卿をベリエスのお嫁さんにチョウダイ?」
こちらも小首をかしげて、大変可愛らしくおねだりをするも、こればかりは有利も譲れない。
と、いうか、コイツの腹黒い本性を知っている有利に、どんなに可愛くしたって通じる訳がない!!

「だめ!コンラッドは、おれのコンラッドなの!!」
「ねぇ、いいじゃない。ユーリには、そちらのプー君がいるし。」
「だれが、プージャリ!!」
「可愛がるからさ〜。」
「コンラッドは、ペットじゃないーー!」



「あぁ、サラレギー陛下があんなにユーリ陛下と仲良くなって。」(←叔父目線のベリさん)
「そうだね、陛下同士も仲良しだし、俺達も仲良くしようね?」(←また誤解されような事を)
「…コンラートv 鳩、楽しみに待っている。」
「はい、じゃぁ、張り切って書かないとね?」


それから、一週間後……城に戻ったベリエスの元には、桃色鳩のベリーが飛んできた。



「なんか、コンラッドの元にちょくちょく鳩が飛んでくるし、コンラッドもちょくちょく返すし、なんか
ムーカーツークー!おれも、コンラッドと交換日記しようかな?」
「毎日顔をつき合わせてそれこそ、起床から就寝どころか、たまにその後さえ一緒にいるのにカイ?」
魔王陛下の専属護衛に対する独占欲の強さに、大賢者様は辟易した。

「だって〜。ベリエスばかりずるい。おれもコンラッドのお手紙欲しい・・・」
ぷく〜〜と、膨れるその姿が大変の可愛らしかったので、給仕をしている逞しい上腕二等筋のメイドさんが
とっておきの情報をくれた。

「そんなに、心配しなくても大丈夫ですよ。あの二人の、やり取りって なんだか知っています?」
あの二人とは、当然コンラートとベリエスだろう?

「そんなのしらねー。」
ぶっすーーと、有利は答えた。何度か、それとなく聞いたのだが、絶対に教えてくれないのだ。

「ほら、ここのところ、俺が長期任務でいなかったでしょう?」
そういえば、ヨザックが帰ってきたのは、ほんの二日前だ。だが、それと、コンラッドの文通と何が
関係有るのだろうか?

― それが大有りなんです ^^b

ヨザックがいる時のコンラートは、有利が地球に帰還している時や、こちらにいても執務などで別行動を
余儀なくされる時などに、ヨザックをつかまえては、有利の話を聞かせていた。
なにせ、ヨザックは幼馴染であると共に、大賢者の護衛でもあるのだ。どちらも、眞魔国にとっては至宝とも
言うべき存在である。おいそれと、いくら微笑ましい話でも出来るわけがない。

だが、そのヨザックが、長期でいないときは、さすがに誰にもそんな話は出来ない。
そんな時に、ベリエスから鳩での文通の申し込みがあったのだ。コンラートは、己と立場の近いベリエスならば
自分の話をわかってくれるのではと思い、手紙を出してみれば・・・?

「ま・・まさか、コンラッドってば?おれの話を書いてベリエスに送っているの?」
「それだけでは有りません、向うから帰ってくるのもサラレギー陛下のお話が殆どだそうです。」

つまりは?自分の護衛とサラレギーの護衛は、お互いの主である王の自慢話を延々と送りあっているのだという。

「俺、アイツの親ばかも、ここまで極めたかと思っちゃいましたよ〜。」
「ウェラー卿って・・・。」
これには村田も絶句した。そんな話題で盛り上がれる二人は、ある意味いいカップルなのかもしれない。


コンコン。

そこに、噂の主であるコンラートが兵士の鍛錬をおえてやってきた。
「遅くなりました。・・・あれ?どうしたんですか?」
机に突っ伏している双黒二人に、コンラートが視線で護衛兼メイドに聞いてきた。さすがに、アンタの文通の
内容で、疲れてしまっているんですよとは、いえないヨザックは、少し前の話題まで遡った。

「坊ちゃんが、自分もタイチョーとの、手紙のやり取りをしたいんですってv」
とりあえず、この男のご機嫌になりそうな話題を振ってやると、やはりというか?コンラートの気配は甘くなり、
最愛の主の頭を優しく撫でた。

「でも、おれは手紙なんかより、すぐ側でユーリと話をするほうが良いな?」
いつもの三倍増しで、ユーリの名前を呼ぶ声が甘く蕩けるように響く。案の定というか?ユーリの机に突っ伏
している耳が、ボボボッ!と真っ赤に染まった。

「でも、地球に行っている間とか、会えない時にコンラッドの手紙があったら、淋しくないかなーって‥」

そういわれてみれば、地球に帰っている時に、有利と手紙のやり取りが出来たらコンラートだって嬉しい。
「そうですね?小瓶に入れて、魔王風呂に浮かべたら? て、無理ですよね?」

がばっ!!
勢い良く飛び起きたユーリは、ナイスアイデア!と、頼りになる名づけ親に飛びついた!

「なーなーむらたー、小瓶くらいだったら、移動できる?」
「君のコントロール次第だけど、出来なくはないんじゃないかな?特にあそこは、君が良く使うし?」

有利はコンラートの袖を引っ張って、絶対手紙をくれよとおねだりした。

「はい、わかりました。じゃあ、ユーリもおれにくださいね?」
「だったら文通な!やったぁ、おれもコンラッドと文通できるんだー!」

ケラケラ喜んだ有利であったが、彼は一つ忘れていた。
地球と眞魔国では時差があるということを。

毎日のように、コンラートが手紙を寄越したほかに、それを聞きつけたギュンターやヴォルフラムもこぞって
手紙を出した結果!渋谷家の風呂には、何個もの小瓶が浮くようになり、おちおち風呂に浸かれないという
苦情が上がった。

かくして、有利の文通は家族の反対に合い頓挫、結局コンラートは、その寂しさをベリエスとの手紙の
やり取りについやし、再び魔王陛下は不機嫌になったという。


「いいじゃないかい?どうせ、手紙の中身は、君への愛でいっぱいなんだから。」

大賢者様はやってられないとばかりに、眞王廟へと戻っていった。シマロンや地球の渋谷家まで巻き込んで
イチャツク二人に、付き合いきれないと思ったのだ。今日も血盟城からは桃色の鳩が飛んでゆく。


海の向うの白いお城に住む、ちょっと不幸で幸せな恋する男の下へと――。





2009年6月12日UP
ベリコンに見せかけた、コンラートの親ばか物語??ちょと、昨日思いつきました。桃色の鳩は、そのうち
過労死するのではないでしょうか?ところで、手紙の内容を、サラ様にわかった場合、どんな反応が来るの
だろうか?えっと、ベリエスの性格が掴みきれてないか?マニメ設定のサラ様は原作よりも素直だった。
こんなので、いいのだろうか?うーーん。コメディタッチのベリさんは難しい・・。