コンラッドを口説こう
St.Valentine's Day編 後編





渋谷有利17歳・・職業魔王。眞魔国第27代国主・・そう、この国一番偉い人が、自分のはず。

なんだけどな〜?


ちらり・・・と、有利はコンラートを見る。


うう・・・怒っている。


前回、チョコレート作りのために、突然帰った事にくわえて、前日の帰って来方が悪かった!
有利は、この2月の寒空の中、コンラートへの手作りチョコが溶けるのが嫌だと言う理由で、
真冬の中庭の氷の張った噴水の中に出現したのだ!

その時の、護衛達のあわてようったら!

ヨザック曰く、心臓が止まるかと思った!だ、そうだ。

多大な心配と迷惑をかけてしまったことで、魔王専属護衛氏は、すっかりとへそを曲げてしまったらしい。

まずいまずいまずい!

そもそも、どうしてそんな無茶をしたかといえば、生まれてこの方貰った事のない本命チョコレートを
この男から貰いたかっただからなのだが・・・・なんと、チョコを贈って告白!なんていう習慣は
日本だけのものであり、コンラートのいた欧米圏では、親しい者同士が贈り物を贈りあう日なのであった!
それを知った有利は、だったら、バレンタインに自分がチョコを贈り、ホワイトデーに コンラートから
お返しを もらおうと言う作戦に 出でたのだが・・・それが、裏目に出た。

なんと、有利たちが帰っている間に、コンラートはヨザックからチョコを分けてもらい、ユーリに
何やら作ってくれていたらしい。

喜んだのもつかの間・・・。


あれだけ、怒らせたからくれないかも?


そう、ヨザックに指摘されてしまった。・・そして、現在…2月14日只今13時11分でございマッスル!

未だに彼からのチョコレートが、自分の元に来る様子はなかった。



「あの・・コンラッドさん?」
「・・・・・・何か御用ですか?陛下。」

ホラこれだ!今日は、一度も名前を呼ばれていない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ、ナンデモアリマセン。」

あぁ、さみしいな〜。


なんか、こうなってくると、己の浅はかさに泣けてくる。よくよく考えれば、相手は男。
超年上・名付け親・でもって、眞魔国一のモテ男なのだ。

それにくらばて、おれってば? 

魔王を抜かしたら・・へいへいぼんぼんの県立高校生&野球小僧以外何もないじゃん。

その唯一のとりえ(?)である魔王業も、チョコに目がくらんで、いきなり放っぽって
帰っちゃったもんな〜、これは怒られて当然なんだ・・・こんなおれにチョコがくるはずもなく・・。


ずど〜〜〜ん!!_| ̄|○il||li



有利は己の浅はかな行動に、改めてふか〜〜く反省をするしかなかった。

ちらり・・・目の端に映るのは、グウェンダルの手伝いで書類整理をしているコンラートの背中。


「よしっ!」

せめて、たまった魔王業だけでも、今日中に終らせるぞ!


それからの有利は、仕事に勤しんだ。ギュンターがそれを見て、感激の鼻血を噴き出したが、すばやく
護衛氏が王佐を廊下のほうに向けたので書類はっ!無事であった。(衛兵に、多少の被害が出たが・・・。)


「小僧、休憩をしてきて良いぞ。」
「ううん、おれ、これにサインを終えちゃうから、グウェンダル達は休憩してきて。」

めずらしくも、摂政閣下が魔王陛下に休憩を勧めるも、陛下は書類から顔を上げない。
何を思ったか?一生懸命、辞書を片手に書類を読み進めている。

「コンラート、小僧はどうしたのだ?」
「・・・急に帰って仕事を溜めたから、反省したのでしょう?」
「反省・・か・・・・コンラート。」
「はい?」

「適当な所で許してやれよ。」
「・・・・・・・・・はい。」
どうやら、長男はお見通しらしい。
有利の先程までの落ち込みと、一転した仕事ぶり・・どちらもこの弟が、関係していると言う事が。

コンラートは少し、ばつが悪そうに目をそらした。

「あ・・そうだ。ヴォルフたちも一緒にお茶だろう?」
とつぜん、有利は顔を上げると、引き出しから何やら綺麗にラッピングされた箱を取り出した。

コンラートは、それが有利が大事に持ってきたチョコだと、すぐに気がついた。

「あの、これさ・・これ、皆で食べてよ!」

そういうと、折角ほどこされたラッピングをビリビリと破く。

「今日ね、地球ではバレンタインデーっていって、親しい人に贈り物をする日なんだ。おれのすむ
日本だと、このチョコレートが定番でさ〜。こっちに このお菓子ないだろう?おれが作ったんで
ちょっと形が悪いけど、よかったら食べちゃって!」

あはははっ!と、笑うその笑いが・・少しだけ寂しげに見えたのは 気のせいか?

「いいのか?」
「うん、・・そのかわり、あんまり上手じゃないぞ。」
はい、どーぞと、なおも笑顔で差し出すので、グウェンダルはその箱を受け取った。
コンラートが、何か言いたそうに有利を見るも、珍しくも有利の笑顔からは何も読み取れはしなかった。
それどころか、あんまり早く帰ってくるなよ〜、アンタ達のいない隙に、仕事を進めちゃうんだから〜。
などと、早く行けというものだから、何も言えずに執務室を後にした。


手を振って、二人を送り出す有利。


うん、これでいい。


二人がいなくなると、有利は顔を歪ませたが・・・すぐに再び書類へと戻ったのであった。







小僧からだ。

そういって、お茶の席に出されたチョコレートなるお菓子を見て、村田の目がきらりと光った。

「今日はバレンタインデーといって、地球で世話になった人に贈り物を贈る日のようだ。」
「そうなのか?大賢者。」
ヴォルフラムが見慣れないお菓子と、聞きなれない習慣に、同じく地球出身の村田に聞いてきた。

「うん、そうだよ〜、今日は確かにバレンタインデーだね〜。ウェラー卿がいた欧米だと、カードや
花束を贈るのが一般的だよね?」
「はい、俺がいたアメリカや旅したヨーロッパでは、そうでしたね。」
「日本だと、このチョコレートが一般的なんだ。日本では面白い伝わり方をしてね〜。
このチョコレートを贈って、女性が男性に愛の告白をしてもいい日なんだよ。」

「「あ・・あいのこくはくぅーー!」」
「昔の日本では、女性から男性に好きだと告白するようなことは、出来なくてね・・それで、いい
きっかけづくりとして、広まったんだよ。」

「では、これはっ!」
ギュンギュン閣下の目が血走る!
「まて、ギュンター!これは当然婚約者たる、ぼくのためにだな〜!」
そんなわけあるか!?っと、プーが怒鳴る。
「御黙りなさい!貴方なんて、最早、婚約者ではないくせにっ!」
皆って言われたのに、勝手に独自解釈を進める二人。


「それと同時に、面白い習慣があるんだよ。義理チョコっていってね?義理堅い日本人が、
仕事関係方面や学生だと部活の先輩や先生とかに、チョコレートを配ると言う習慣が・・。」

「ほう、義理チョコか・・・おもしろい習慣だな。」
義理!っと聞いて、二人は途端に大人しくなる。

村田は、ひょいっと箱を散り上げると、コンラートに差し出した。

「まぁ、いいから食べてみたまえよ。」
そういって、コンラートに食べるように促す。

ハート型のチョコケーキを、一つ摘まんで食べてみれば?

「これは!・・懐かしい・・コーヒーの味がします。」
リッチなチョコレート味に香るコーヒーの風味、大人味のチョコケーキは、明らかにただ一人を
ターゲットにしたものであった。

「結構苦戦して作っていたんだからね。」

誰がとは言わない。それでも、コンラートにはわかる。これは有利が自分のために作ってくれたものだ。
それを、皆にと出した有利・・。コンラートが、昨日の事で本気で怒っていたからだ。

朝から名前を呼ばないなどと、少し大人気なかったかもしれない。(←少し?)

コンラートは、有利の顔に一瞬はしった、寂しそうな顔を思い出す。


「すみません、俺ちょっと、陛下にお茶を入れてきます。」
「うん、いってらっしゃ〜い。」

一転して、にこやかになった大賢者に見送られて、護衛氏は大事な主の元へと向かった。





コンコン

控えめなノックの後、執務室の扉が開かれた。
有利は、相変わらず書類から目を離さない。

「お茶をお持ちしました。」
「うん・・ありがとう、そこに置いておいて。」

下を向く彼のそばによると、コンラートはコトンと、紅茶を置いて・・・そばに小皿を一つ置いた。


「よかったら食べてね、ユーリ。」
「え?」

名前を呼ばれて有利が顔を上げた。すると、自分を優しく見つめるコンラートの蜂蜜色の瞳とぶつかる。


ふっと見れば、小皿の上には茶色いお菓子が・・これは・・もしかして?

「チョコレート?」

見上げながら聞くと、コクリと頷かれた。

ぱぁぁぁあ〜〜〜っと、有利の顔に喜びが広がる。

「食べていいの?」
「はい、どうぞ。」

カシ・・と、噛めば、ドライフルーツの甘味と、香ばしいナッツの旨み、それに仄かに香るのは
柑橘の香り。

「お・・おいし〜♥♥

コンラッドからのチョコだ〜!もう貰えないと思っていたのに。

「ユーリのケーキも美味しかったですよ。」
「食べてくれたの?」
「えぇ、コーヒー風味で美味しくいただきました。」
「・・だって、コンラッド、コーヒーが懐かしいって言っていたから・・。」

どうせ、あげるなら喜んでもらいたかったから、ユーリはコーヒー味のチョコが作りたかったのだ。

「ありがとう。ユーリ。」
「えへへへ・・・、コンラッドもありがとう。」


そこで、ふっと気がついた。
有利もチョコを上げて、コンラッドからも貰った・・これは?もしや?


りょ・・両想い!?

というか、もしかして、今日から『恋』のつく関係とか?



「そういえば、チョコを渡す習慣って、日本独特だそうですね?向こうでは、恋人や家族などの間で
行うので、日本人らしいな〜なんて思いましたよ。といっても、これはユーリにだけ作ったので、
他の人には内緒にしてくださいね?」

日本独特・・そういえば、チョコを渡して告白なんて、日本独特だと聞いた!


しかーも!!!

コンラッドがチョコをくれたの・・お・・おれだけ!?
と、いうことは!?まさかまさかの本命チョコ!?

おふくろ!息子はやりました!とうとう、チョコでお嫁さんをゲットしちゃいましたぁぁ〜〜!!\(^o^)/


「本当、奥ゆかしいと言うか日本人は義理堅いですよね?わざわざ、義理チョコなんて風習があるなんて。」



へ・・・・・???


義理チョコ??



「?どうしましたユーリ?」
「義理チョコ?」
「はい、ユーリも作ってくれたでしょう?『皆』に ^^b」

そうでした・・もう渡せないと思っていたから、皆でってあげちゃったんだ・・。

「だから、代表しておれが『お返し』を渡しましたからね?」


え・・おかえしなのこれ?

って、ことは?ホワイトデーもなし??


そ・・そんなぁぁぁ!!!Σ(T△T)




打ちひしがれるユーリ陛下。

だ・・だれだ!コンラッドに義理チョコなんて教えたのはっ!?

コンラートのチョコがもらえたのは嬉しいがっ!!
義理!という言葉が、今ほど憎いと思ったことはなかった魔王陛下なのであった。





「大人気ない。」
「えぇ、大人げないっすね・・。」

その様子を扉からのぞくのは、当然と言うか、もう一組の主従。でもって、こちらは恋人達。


「まぁ、こんな事だろうと思ったよ。」
「たいちょーたら、坊ちゃんのチョコが自分だけじゃなかったから、拗ねているんでしょうね〜。」
よりによって、義理チョコときたかっ!?


「そのうえ、他からお返しをもらうのも許せないんだろうね・・。」
「いやん、たいちょーったら、しっとぶかぁーい!」
代表してお返しといわれれば、他から何かを受け取ることもナイだろう。
しっかりと、予防線まで張ってゆく護衛氏に、猊下とお庭番は、やれやれと肩をすくめた。

「あ、健ちゃんには、グリエから、本命チョコを渡しますからね?楽しみにしていて下さい!」
「あはははは、いっそ、義理でよかったのに。」

がーーーん!!

切れ味のよい恋人(の、はずよねっ!?)の返答に、思わず涙ぐむお庭番であった。







おまけ・・


扉からのぞいていた気配がいなくなると、コンラートは、心なしか打ちひしがれてしまった(←自分が
やったくせに)可愛い名付け子の顎に手をかけると。


ぺろっ・・・

っと、そのクチビルの端をなめた。

う・・うぇぇぇぇえぇぇ!?

瞬間!ボボッ!!っと、全身に火がついたように、真っ赤になる様子を、かわいいな〜、なーんて
クスクスと眺めながら、もう一度、顔を近づけてゆく。

うきゃぁぁ〜〜、も・・もしかして、キスされちゃう??

有利は、バクバクの心臓をおさえつつ、あ・・う・・と、息が詰まりそうな声を出して、
目を泳がした後、そっと目を閉じてみた。

再び同じ所に、唇の感触がした。ぺろぺろっと、舌が何度もそこを舐めあげると、離れてゆく。
目を開けてみれば、にこっと笑う綺麗な顔。

「うん、きれいになった。」
「え?き・・きれいって?」

ドギマギ!(*゚Д゚*)ドギマギ!


えぇ、ここに
そういって、コンラートは、有利の唇をチョンっと指でつつくと


「チョコが、ちょこっとついていました。」



と、爽やか笑顔で言ってのけた。





ピキーーーン・・・・






その後、魔王陛下は一段と落ち込んだそうだ。(←自分だって言ったくせに)
それはもう、書類を読み上げる気力も、根こそぎ持っていかれるほど・・・。


休憩から戻ってきた摂政兄上は、話を聞いて弟の護衛氏をしこたま怒った後、罰として
ギャグ禁止令を出されてしまった!

そ・・そんなバハマーー!!Σ( ̄ロ ̄lll) ドツボまで落ち込む護衛氏・・・。


魔王とその側近の様子から、『ばれんたいんでー』というものは、あんまりいい行事ではないらしい?
そう認識されてしまい。その後、眞魔国に この行事が根付く事は無かったという。




2月11日UP
バレンタインねた〜。これにて完結v  どうも、護衛氏の使うギャグが思いつきません!
結構好きなんですけれどね〜。親父ギャグ。でも、アラスカは笑えない。