学園パロ 手ごわい氷姫と懲りない男達 |
美人さーーん、今日も麗しいですねーー!! またアイツか……。 遠くから迫り来る声に、コンラートは、すっかり無視を決め込みスタスタと歩いてゆく。 あれ?美人さーーん?おはようございまーーす!! スタタタタと、少し早めに足を動かして、ひたすら校門を目指す。 あれれ?聞こえないのかな?美人さん?おーーい。 タタタっと、後ろから軽妙な足音が聞こえる。 ・・・・ダッ!!! コンラートは勢い良く走りだして、校門を抜けた! よしっ!ここまでくれば・・。 「おっはよう、コンラッド!もう、さっきから呼んでいるのに、無視するなんて淋しいな!」 背中にピッタリと張り付くのは、今時珍しい サラサラの黒髪の少年・有利だ。 「俺は呼ばれた覚えがない、つーか、離せ!」 肘鉄を食らわそうと思えば、有利は見事な反射神経で避ける。 「もう、美人って言えば、コンラッドの為にある言葉じゃないか!」 「目が悪いのか?一度、眼科で診てもらえ!」 コンラートは、有利の背後アタックで ずれた眼鏡を直しながら、辛らつな言葉を投げつける。 「おれ、両目とも1・5!うれしいな、おれの心配してくれるなんて?やっぱり『愛』かな?」 「誰が心配なんぞするか!?耳鼻科に行くか?それともいっそ、脳神経科でその沸いた頭を治してもらえ! 中等部生徒会長・渋谷有利!ここは高等部だ、速やかに隣の中学に登校するように!」 鋭い一瞥に、周りの生徒が余波を食らって縮こまる!中には、ひぃっと殺気を浴びて悲鳴を上げた者までいた。 だが、睨まれた本人は、いたって暢気に飄々としている。 さすがは、中等部生徒会長…ツワモノだ! 「高等部生徒副会長・ウェラー卿コンラートさんったら、今日は朝から合同生徒会だろう?いいじゃん、 一緒に行こう!」 ぐいぐいっと、有利は、コンラートを連れて、生徒会室へと向かった。 めげない有利の後姿に、高等部の生徒は、彼に異様な執着で好かれてしまった自分の所の副会長に ついつい哀憫の視線を向けてしまったのであった。 生徒会室は、中等部と高等部の中間にあり、独立した建物でである。ゆえに、この場所を王宮と人は呼ぶ。 何故ならば、この眞魔国学園では、生徒の完全自治をしており、生徒会の権力や、教師といえど そう簡単には手出しが出来ないのである。そして、この両名とも各生徒会に属しており、本日は 週に一度の中高等部の合同会議である。 なお、この王宮…一階は通路と会議室になっていて、誰でも入室できるのだが、二階のサロン以上へは、 生徒会のメンバーが胸に着けるバッチに識別コードが入っていて、メンバーのみが入れる仕組みになっている。 また、その上の三階は、真ん中で仕切られていて、中等部・高等部それぞれの生徒会の者しか入れない。 そのまた上の4階は資料室・そして5階は天井がドーム型のガラス張りでテラスとなっている。 そして、週に一回、2階のサロンにて、高等部と中等部での連携をふかめ、速やかな自治を送るための 合同会議が開かれる。 「おっはよー、村田!ヴォルフラム。で、おはようございます!グウェンダル生徒会長・ヨザック副会長も。」 有利が元気良く扉を開けると、中には他のメンバーが全て揃っていた。 「おはよう渋谷!おや、今日は獅子様と同伴登校かい?」 そう軽快に答えたのは、中等部生徒会副会長(影の支配者)の村田健である。有利と同じ黒髪は短く襟で外に はねていて、眼鏡をきらりと光らせるのが得意な少年である。なお、世界一頭のいい中学生でもある。 通称は大賢者猊下。 「ゆうりぃぃ〜〜きさま、僕という婚約者がいながら、またその男とイチャイチャして!」 そう、朝から怒りをあらわにするのは、学園一の美少年・通称・怒れる金髪の天使事、フォンビーレフェルト卿 ヴォルフラムである。また二つ名を、ワガママプーという。同じく中等部生徒会書記である。 「え?イチャイチャしているように見えるの?わーい、やったぁ!コンラッド!おれ達恋人に見えるって!」 それに喜ぶのは、渋谷有利中等部生徒会長・通称魔王陛下。持ち前の明るい性格と、前向きな姿勢・可愛い容姿で 不動の人気を誇る彼は、副会長の二人とあわせて、月と太陽と光りの中三トリオ(←古っ!)と生徒に人気だ。 「小僧・・いい加減、うちの副会長を離してくれないか?」 そう眉間に皺を寄せて、重低音の声で不機嫌そうに書類とにらめっこをするのは、濃灰色の長い髪を後ろで 紐で束ねた男(これでも、高三)であり、高等部生徒会長・フォンヴォルテール卿グウェンダルだ。 通称・御大と、よばれる開校以来の敏腕と評判の高い生徒会長だ。その海底を思わす深い青の瞳で睨まれる と、教師でさえ嫌な汗をかいて逃げ出すという、ツワモノである。 「え〜、おれ等の仲を引き裂くの?」 きゅるんと可愛く、上目遣いで有利がグウェンダルを覗き込むと、う・・と、いってわずかに赤くなる。 だが、意外に可愛いものに目がないという一面を持っており、その可愛いものの分類に入る有利には、少し甘い 傾向がある。一部の者からは、小動物の父と呼ばれている。 「引き裂くほど、近い仲ではないだろう。」 コンラートは、べりっと有利を腕から離すと、有利が膨れる。 この辛らつな言葉を吐くのが、高等部生徒会副会長(高2)ウェラー卿コンラート。通称・獅子。 にこりとも笑わない氷のポーカーフェイス、それでいて学園一であろう腕っ節の持ち主で、入学時に因縁をつけた 上級生6人を一瞬で叩き伏せた武勇の持ち主。獅子とは、その際に少し眺めの髪が鬣のようで付けられたようだ。 また彼にも二つ名がついている。別名・氷姫(こおりひめ)。なお、こちらは本人は知らない。 「あははは、言われちゃっていますね坊ちゃん?でも本当、毎日毎日よくもまぁ、欠かさずコンラッドを口説きに 掛かりますね・・いい加減、脈がないんだから諦めたらどうです?第一坊ちゃんには、天使ちゃんがついている じゃな〜い?」 この、一見軽口のようで、やっぱり辛らつなことを言うのは、コンラートの幼馴染で、高等部生徒会書記、 グリエ・ヨザックである。明るいオレンジの髪に空色のタレ目のワイルドな風貌の男の癖して、学園祭などに なるとチアガール姿で応援したりする、ノリのよさを併せ持つ。また、その人脈の広さで、新聞部以上の 情報を持つといわれるお人だ。通称・お庭番・二つ名をグリ江ちゃん。 そして、彼等こそが、学園開校以来のツワモノぞろいと称され、学園内のみならず、外のマスコミや企業からも 注目される『鉄壁の生徒会』と、謳われる現在人気絶頂の生徒達であった。 大体、この6人で用が足りるが、これに、生徒会顧問のフォンクライスト卿ギュンター先生や、用務員のダガスコスが 加わったり、イベント時には、部活の部長や臨時委員などその企画によって人員が補給される。 彼等の行動は、逐一話題となり、学園内どころか外にも非公認のFCがあるそうだ。 「そろそろ、本題に入ろう。この前の部活動説明会であるが・・・。」 「仮入部時点でですが、中等部ではサッカー部、野球部に人員が集まる傾向が、毎年ながら顕著です。」 「高等部は、さすがに皆心得ていますから、適度に散らばっています。ね〜」 「今年入部がないと、部から同好会に降格するのはどのくらいだ?」 「それは、運動部では二つ・文化部では3つです。また、新たに同好会を作りたいという申請がコレだけありました。」 「既存とかぶるものはこちらの書類で、今までにないものはこちらです。」 「部活動費の予算と、入部者数は密接な関係だからな。毎年この時期になると、仮入部者を囲い込みをしようとする 部が出る、トラブルが起きないように気をつけてほしい。」 さくさくと、進行していく会議。何分、個々の能力が高いので、意思疎通が割と早いのだ。 「ところで、中等部から提案があるのですが?」 「なんだ村田猊下。」 「中高合同ダンスパーティーを開きたいな〜なんて。」 「そんな予算があるか。」 「あ、ダイジョウブです。去年から続く人気TOTOが中々の売り上げでして、イベントの予算は そちらからまかなえそうです。また、当日の写真を後日売りさばけば・・夏のイベントの予算にもなります。」 「・・・・・そうか・・。」 ちょっとフクザツそうなグウェンダル、それもそのはずだ。この生徒会になってから、新たな財源確保策として、 村田の発案で、TOTOを発売したのであるが、企画の面白さもあり人気が中々ある。 例えば、 『本当のカツラーは誰だ!』では、生徒内で、ひそかにアイツ鬘なんじゃないか?と、疑わしい先生を 当てる物である。このTOTOがあってから、疑わしい先生たちの授業では、誰一人寝ることもなく熱い視線を 前方に向けている・・。最近、生徒が真面目に授業を聞いてくれてうれしいと話す該当教師に、事情を知る 教師は、ヨカッタデスネーと、棒読みで返したという。嗚呼、知らぬが仏・・。 だが企画の中で一番人気なのが、とある生徒会メンバーの裏企画TOTOであることを知っているので、 グウェンダルとしては、フクザツなのだ・・。 そのメンバーとは・・・。 獅子様こと、コンラートに関するTOTOなのだ。なお、これは本人には絶対に秘密である。もし漏洩したら TOTO購入時に注意事項に書いてある通りに、損失額を補填しなければならないのだ。 それだけのリスクを背負いつつも、皆が買い求めるのが、『氷姫・御寵愛TOTO』である。 だれが、あの氷姫と謳われるコンラートのハートを射止めるかなのであるが・・・候補者が男子校なので 全員『男』であるところがすごい。 現在一位のカップリングが有利×コンラート株である。コレは毎日のように、有利がコンラートを口説いているので 必然的に多くなったようだ。次がグウェンダル×コンラート、寄り添うだけで耽美が漂うと人気だ。 次がヨザック×コンラート、気の置けない幼馴染であり、彼にだけ少しくだけて接するコンラートの姿が得点に 結びついている・・と、このように、相手が男性だけならまだしも、コンラートが姫としての株が売れているのが 本人の耳にでも入ったら・・・・間違いなく、ここにいる全員、血祭りである。 ぶるぶるぶる・・・(((( ;゚д゚)))) つい、悪寒が走って、身震いをするグウェンダル。 「あれ?会長?風邪ですか?」 それに気がついたコンラートが、身を乗り出し・・前髪を上げると、こつん☆と、おでこを合わせてきた。 「あ、ウェラー卿って、おでこコツンで熱計るタイプなんだ?」 村田が呑気にそんな感想を言う横では?有利が呆然と二人を見ていた。 「ずるい!!コンラッド、俺にはコツンしてくれたことないのにぃぃ!!」 「……俺たちが出会ってこの方、お前が風邪を引いたことがあるか?」 「ない!だって、おれってば健康優良児なのが取得だもん!!」 「だったら、計ることがなくて当然だろう?」 呆れたように、コンラートがあしらう。 「あ、俺、よくコツンって、やってもらいましたよ。」 そこに、ヨザックが余計なことを言う。 「うわぁぁん!おれも!おれもコツンして!グリ江ちゃんだって、健康優良児なのにずるい!!」 「コイツは幼馴染なんだから、付き合いが長い分、風邪を引いたところに居合わせることもあって当然だろう?」 「おかゆも、ふーふーして、食べさしてもらいました Σd(゚∀゚ )」 「うわぁぁぁん!!。゚(゚´Д`゚)゚。」 「ヨザ、余計なことを…・・・このうざいのをどうしてくれるんだ?」 「まあまあ、どうせ今年一年の辛抱ですよ。来年は彼らも高校生ですし、中等部は別の生徒会になりますよ。」 「一年もいっしょなのか・・・はぁ〜〜ぁ」 ガーンΣ 「あははは、まあね〜、さすがに一年生の時は、コンラート会長の生徒会には入れないよね。」 「でも、特殊召集制度がありますし。」 特殊召集制度とは、秋に選出される生徒会長が、生徒会に欠員が出来たり、新しい役職が増えたりする時に、 学年を問わずに人材を召集するものである。 すると、有利の目が輝く!! 呼んで呼んで!と、全身から漲る期待のオーラー! 「あぁ・・いや、今の一年に中学の時の生徒会の連中がいるから、彼らを使うことになっている。どうせ 秋の選挙には出るのだろう?そこからがんばればいいだろう。」 が、予定の役員が既に決まっているので、すげなくコンラートに断られる。 「ちぇ・・秋からじゃないと、一緒になれないのか・・。」 「違いますよ坊ちゃん、おれとコンラッドは三年の秋で引退。入れ替わりですね。」 「ふへ・・・?」 と、いうことは?本当に、コンラッドとは?? 「今年一年限り??まじ?よし、それまでにお付き合いまで行かなくちゃ!コンラッド、今すぐおれの恋人になって!」 「なぜそうなる?」 「だって、おれコンラッドと恋人になる気満々の120パーセントだもん!!」 「おれは、0パーセントだ。」 「じゃぁ、足して二で割れば、過半数超えの60パーセントじゃね?恋人成立じゃん!」 ― いやいや、過半数って言うのは、三分の二以上だから、6割ではチョット足りないと思うよ〜。 呑気に突っ込むのは村田。他の者は最早呆れて、突っ込むことさえしない。 「ふざけるな!何故そうなる!」 とうとう、有利のお子様ぶりにキレタ、コンラートは、ついうっかり口走ってしまったのが! 「お前と、付き合うくらいなら、俺はヨザックと付き合う!」 しーーん!!と、静まり返る会議室。今、氷姫さま・・なんていった? 「オマエ・・コンラッド、それ・・俺に失礼じゃないか?」 「・・あ、すまん。だってこいつが、わけの解からないことを言うから。」 その時、チャイムが鳴り、本日の合同会議はこれまでとなった。 2009/7/26UP えへ〜、氷姫様=コンラートです。基本総受けですが、有利×コンラッドの色が強いです。 手ごわい姫様に挑む男達のストーリー?です。 2 その日の放課後、必ずといっていいほど、コンラートが生徒会に顔を出すのを、2階で待ってから 三階に上ってゆく有利が、なぜかいなかった。 また、終わった後も、帰るコンラートに纏わりついていたのに、これまたいない。 「おんや?坊ちゃん、少しは、反省したのかね?」 「いつまで、もつやら?」 が・・・それから一週間たって再び合同会議の間も、なぜかそわそわとして落ち着きのない有利は、 終わった途端に一目散に戻っていった。 「まったく、ユーリはどうしたというのだ?最近、登校は遅刻寸前、下校は一番。授業中も携帯を コッソリみてばかり・・あれは一体?」 「まさか、坊ちゃん、彼女でも出来たんでしょうか?」 「あんの、浮気者!その男に振られてすぐに、女に走ったのか!どうせ走るなら僕に走れ!!」 そういうと、ヴォルフラムは、怒りのため、荒くなった足音のまま三階の中等部生徒会室へと 上っていった。 「帰りは一番というと、生徒会の仕事は?」 「あぁ、それなら、合間の休み時間ごとに済ませているんだ。」 「では、本当に?」 「いや、渋谷だからね〜?それはナイト思うけど・・なにせ、彼女いない暦=年齢の 獅子様片思い暦=4年だし。」 「4年?2年だろう?中学の時、俺が生徒会長だった時に、初めてあったんじゃないのか?」 「4年だよ、彼ね、キミの会うために、この学校を受けたんだもの。脳みそ筋肉族のくせして、 この進学校にはいるために、大好きな野球も我慢して、猛特訓して入ったんだよ。それに、 入った後も生徒会長になるために、努力に努力を重ねてきたんだから・・なにせ、立候補するには テストで学年50番以内に 入らなくてはだめだろう?彼ね、入学はぎりぎりの補欠入学だったんだ。」 あの、何も考えてなさそうな少年が・・コンラートの為に、ここまできたって? 「それってストー……カー。」 「あ、ヤッパリ言われた、う〜〜ん、君ならそういうと思って、黙っていたんだけど…… ストーカーではないよ。もしも本気で君が拒否をすれば、有利は身を引くことも出来るからね。」 「だったら、今すぐ引いてくれ。」 「いいじゃん、今ならとっくに、有利は君の前に出ないんだし・・やっぱ、例の発言がよほど 効いたかな?」 じゃあ、僕も生徒会室にいってくるよ。そういうと、村田も三階へと上っていた。そこで、彼らも 3階の高等部生徒会室に上ってきたのだが、コンラートはさっきの話が気になっていた。 4年前?というと、自分は中学生1年で、有利は小学5年のはずだ。まったくといっていいほど覚えて いないのだが・・。 「あの頃は一番荒んでいましたからね・・。」 ヨザックがしみじみという。 「毎日、野郎共が体育館の裏に呼び出してくれたからな・・。」 忌々しげに、コンラートが言うのを、ヨザックとグウェンダルは顔をあわせた。 「まったく毎日毎日、性懲りもなく決闘状なんて古臭いものを送りつけて!」 「「・・・決闘状??」」 おかしい、体育館の裏といえば、眞魔国学園の定番の告白の場所である。あの頃、背も小さく女の子 よりも可愛かったコンラートは、毎日数枚のラブレターで、呼び出されていたはずなのだが? 「そうだぞ、放課後体育館の裏で話があるとか、顔を出せとかそんな内容だったな…。 めんどくさいので、適当に日時だけ読んであとは捨てていたが・・・・」 こそっと、コンラートには聞こえないように、ヨザックがグウェンダルに耳打ちする。 「会長?それって、告白するからきてね?っていう、男の純情では?」 「多分、当時のことなら私も覚えている・・可愛い一年生が入ったと、二年三年の間で話題になった からな・・。それが、数ヵ月後には、氷姫やら獅子やらと恐れられたのは・・そういうわけか・・。 グリエ・・やはりアイツは本気か?」 「会長、奴は天然です。あれは、マジでそう思い込んでいるんです。」 なにせ、彼は自分の容姿は、地味だと信じているのだ。昔、おじに『いてもいなくてもわからん奴』 と、言われたのが、原因らしい・・その伯父‥余計なことを言いやがって、今あったら殺す! その日から、コンラートは、大きな眼鏡をかけ、前髪を伸ばして顔を隠した。彼の眼鏡は伊達眼鏡で、 実は目はいいのだ。 「前は、黒ぶちの大きな眼鏡でしたからね。今はフレームも細いですし、似合っているからいいですけど。」 そういえば、入学した時は、まだ黒ぶちをかけていたような気がする。 「そうだ、入学して間もなくの頃は、まだ黒ぶち眼鏡だったから、根暗なオタク男と思われて、 上級生が因縁つけてきて、体育館の裏に呼び出された事がありました!それで、俺が助っ人に 走りましたから。」 その時、眼鏡を壊してしまい、新しい眼鏡を今のに変えたら彼の顔が可愛い事に皆が気がつき始め、 それはもう、大騒ぎになったのだ! 「あぁ、そうか・・それで、因縁を続けて吹っかけられたと思ったコンラートが、かたっぱしから 殴り倒していったのか?」 「後からの連中、告白だったのに、かわいそうに…。」 それが、コンラートが獅子だの言って恐れられ、氷姫と嘆かれはじめた最初だとは……。 意外な顛末に、二人はふっか〜いため息をついた。 さて、そのころ、コンラートは4年前、有利とあったということを思い出そうとしていた。4年前… あれだけ煩い奴なんだ憶えてないはずがないのだが? そうだ・・4年前というと彼女にあったのも4年前か? 「可愛かったな‥今はどうしているのだろう?きっと、もう中学生だな。」 あれはまだ、コンラートがこの学園に入学した手の頃だった。喧嘩をして眼鏡が壊れて別の眼鏡を 買いに行く途中だった。彼は近道をしようと公園を通り抜けた時に、ギャインギャイン!と犬の 悲鳴が聞こえた。 みれば、高校生らしい三人組が捨て犬らしい子犬をいじめていた。 「こら!やめろ!卑怯だぞ!」 コンラートは思わず飛び込み、子犬を庇った! 「何だこのチビ?おや、中々可愛いじゃん。」 「なんだ?変わりにお嬢ちゃんが付き合って・・ふがっ!!」 高校生が言い終わらないうちに、コンラートのとび蹴りが決まった。 「お前、イキナリとは卑怯!・・ぐげ!」 今度は、股蹴りだ。そして流れるように弁慶の泣き所をけりけりして、子犬をひっつかまえると、 そのまま走り去った。既に学校で暴れた後なので、連戦はきついと思ったのだ。 しばらく走って、人通りの多い所まで来ると、コンラートは子犬の怪我に気がついた。どこか、 獣医に診せなくては! 「あ、こいぬー!」 その時、紺のワンピースに、白のエプロンをつけた女の子が子犬めがけて走ってきた。 「あれ?この犬、怪我している?」 コンラートは、丁度いいとその少女に獣医の場所を聞くことにした。 「ねぇ、君、このあたりで、動物のお医者さんがドコにあるか知らないか?」 「う〜〜ん、ちょっとわからないけど、少し離れていいなら、ここから歩いて15分くらいの所に、 うちの犬の掛かりつけのお医者さんがいるよ。」 「そこでいい、教えてくれないか?」 「だったら案内する、ついてきて。」 そういうと、その子は先頭を切って歩き出した。コンラートもその後についてゆく。 結局、怪我は打撲であったが、さて困った。コンラートは、学校の寮で暮らしているので、さすがに 犬を飼う事は出来なかった。すると、だったら自分が飼うよといって、女の子が引取りを申し出て くれた。 「でも、ご両親に相談しなくて大丈夫かい?」 「あ、そうか、じゃぁ、電話貸してください。」 そういうと、女の子は家に電話をすると、しばらくしてご両親らしい人がやってきた。 「なッ!可愛いだろう?公園に捨てられて虐められていたんだって!それをコンラッドが 助けたんだって。」 「いえ、適当な所で走って逃げただけですが。」 彼女はキラキラとした大きな目で、コンラッドを自慢そうに両親に紹介した。 「ほ〜う、コンラッド君って言うのか?小さいのにえらいね。」 父親らしい人のよさそうな男性が、コンラートの頭を撫でてくれた。 「あら?馬ちゃん?この子お目目がキラキラーってしているわ!いやん、かわいい!」 母親らしい女性が、ぎゅぅぅっとだきしめた。 「すまないコンラッド、うちの親こんなので・・・。」 女の子は、申し訳なさそうにするも、コンラートとしては、このくらいならば母親にいつもされて いるので別段気にはしなかった。 「それより、本当に子犬のこと・・飼っていただけるんですか?」 「あぁ、まかせなさい。こんな小さな命を粗末にするなんて許せないしね。これもご縁だと思って 新しい家族として迎えるさ。」 「ご縁?」 「そうそう、祖で振り合うも他生の縁っていってね、例え袖同士がぶつかるだけでも、長い転生の 中の別の人生で縁の会った人かもしれないってね。だから、小さな縁でも大切にしましょうって ことかな?」 「じゃあ、コンラッドとも、どこかで会っているかもしれないの?」 「う〜〜ん、さぁ、それはわからないな。でも、どこかで会っていると思ったほうが面白い だろう。」 「そうよね、恋人だったりしたらステキよねー。」 「「こ・・こいびと!?」」 イキナリうっとりとした女性に、少女と俺は二人同時に驚きの声を上げた!そのまま二人して、 顔を見合わせ ボフンッ!! 同時に真っ赤になった! 「もう、母さん!変なこと言うなよな!」 少女は、母親をぐいぐいと外へと押しやる。これ以上一緒にいれば何を言い出すかわからないと 思ったのだろう。 「あら、ゆーちゃん、ママでしょママ!」 へ〜、この子、ゆーちゃんっていうのか? 「じゃあな、コンラッド!またな〜。」 彼女の父親が、子犬をつれて二人を追う。そうして、彼らは車で去り、俺はその時初めて彼女の 住所も名前も聞かなかったことに気がついた。 しまった!と思ったが後の祭り、その後、彼女と会った辺りとかを休みの日に出歩いてみたが、 俺はそれきり彼女と会うことはなかった。 「アレは人生最大の失敗だった…。」 「何が失敗だったんです?」 「いや・・なんでもない。」 つい、昔のことを思い出してしまった。あれから、女性(←近隣の女子中高生)とも付き合って みたが、中々彼女ほど、心惹かれる相手には出会えなかった。 「ところで、コンラート・・・・。」 「なんです、会長?」 「その・・お前は、グリエと付き合うのか?」 「……あぁ、それですか?」 そういえば、そんな話をしていたな〜?っと、コンラートは思い出した。 「コンラッド、俺は、いつでもお付き合いしますわよ。グリエの愛を受け止めてぇ〜〜ん」 「今すぐ、生ごみの日に出してやりたくなった。」 「え〜〜、ひっどーーい!」 さすがは氷姫…言葉のナイフは絶好調だ。切られたヨザックは涙で書類をぬらしていた。 「そんなところで泣いている暇があったら、次の案件に使う資料を持ってきてくれ。」 「へ〜〜い、もう、人使いが荒いんだから‥でも、そんな貴方もす・て・きv」 「ヨザ…今すぐその筋肉を、ステーキにして焼いてやろうか?」 ニッコリと笑った目が笑ってないのを、ヨザックは軽口が過ぎたと悟って逃げていった! 「コンラート・・。」 パソコンに向かって再び打ち始めたコンラートの横に、いつの間にやらグウェンダルが立っていた。 「なんですか?会長?」 「その・・ヨザックとは付き合わないのだな?」 「えぇ、それが?」 「だったら、コンラート…。」 「…はい?」 「わ・・私と付き合わないか?」 ぴたりと、キーボードを打つ手が止まる。今・・何か聞いたか? 思わず彼を振り仰いで見れば、真剣な深い青の眼差しが彼を見ていた。 「私は、お前を愛している。」 ・・・・・・・・・・・はい?? 「コンラート、好きだ!!」 目が点になったコンラートの肩を掴むと、グウェンダルは、イキナリ彼の唇に己のそれを重ねた。 そして、硬直してコンラートが動けないのをいい事に、そのまま深く重ねていく。幾度も角度を 変えて口接けられているうちに、さすがのコンラートも事態を把握した。 「んっ!!……んんんっ!!」 自分より体格の良いグウェンダルにしっかり抱き込まれ、コンラートはもがくが中々口接けから 逃れられない。それどころか、コンラートの抵抗に煽られたグウェンダルは、舌を絡めとり余計に 吸い付いてくる。 何やら。だんだん面倒くさくなってきたコンラートは、ぴたりと抵抗を止めた。どうせ、あと少し したらヨザックが帰ってくる。それまでには止めるだろう・・・・。 グウェンダルは、コンラートの抵抗がやんだので、受け入れてくれたかと思い、その身体をシャツの上から 確かめ始めた。全身につく筋肉はしなやかで、腰は思った以上に細い・・・。 ガラ・・・・。 「コンラッドー、なぁ、この資料でいいわ……け・・。」 ドサドサドサッ……っと落ちた音は資料か?あとで、まとめなおすのは、こいつ等にさせれば いいか? 「会長!コンラッドに何をする!!」 どかどかと、荒い足取りで近づいてきた幼馴染は、コンラートから大きな図体を引き離してくれた。 が、今度は、その幼馴染の厚い胸板に抱きこまれてしまった。 「会長!どういうつもりです、生徒会室でコンラッドを襲うなんて!」 「ちがう、私はコンラートに、交際を申し込んでいたのだ!」 「で、ついでに襲ったと?」 じろり!と、ヨザックの空色の瞳が、グウェンダルをにらみつける。 「人の大事な幼馴染に欲情しないで貰おう!行くぞコンラッド、今日は帰ろう。」 「まて、ヨザック!決めるのは、コンラートだ!だいたい、いくら幼馴染でも、コンラートの交際に まで、グリエが口を出すことではないだろう?これは私とコンラートの問題だ。」 いつから貴方と俺の問題に?というか、俺は貴方と付きあうなんていいましたか? やれやれと、コンラートは思う。早く資料を拾って、書類の作成をしないと、明日の会議に間に 合わない・・。 抱き込まれた幼馴染の胸の中で、いい加減離してくれないかなー?なんて、当事者は自分のはず なのに、混ぜてもらえぬので、彼は、まるっきり別のことを考えていた。 「関係なくなんてあるか!・・俺は・・俺は前から!こいつに惚れているんだからな!」 ・・・・・・しーーーん! 「コンラッド・・・俺と真剣に付き合ってみないか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・は??」 つい・・コンラートは、呆けた返事をしてしまった。長年、幼馴染をしている腐れ縁のヨザックから、 よもや愛の告白なんて受けるとは思ってなかったのだから。 つい、ぼけらったとした反応を返したとしても、仕方なかろう? 「コンラートに、告白をしているのは私だぞ!」 「俺だって言う気はなかったんですけどね?目の前でケダモノにコイツを襲われるとあっちゃ、 黙っていられませんって!」 またもや、当事者を置いて、二人の男の間で火花が散る。 「コンラート!」 「コンラッド!」 「「私(俺)と、付き合ってくれ!」」 ・・・・・・・・・・・・・・(絶句)。 気の置けない仲間だと思っていた二人に、同時に告白されて、流石のコンラートも、返事に 窮したのだった・・・。 2009/7/27UP 思っても見ない告白、意外に手の早いグウェンダルに、純情だったグリエさんでした。 、 3 「きょ・・今日は疲れた…。」 さすがにコンラートも、あの二人を即効でフル事は出来なかった。というより、呆然としている間に また二人が言い争いを始めたので、それを宥めているうちに、仕事にならずに帰ってきたのだ。 書類は、寮に帰ってやろう。 ………それにしても、またフレームが壊れた。 二人の間に入っているうちに、眼鏡のフレームが壊れてしまった。さすがに、これには二人とも恐縮 していたが、とりあえず、二人には、朝早くきて仕事をするようにいって、今日は帰した。 一日経てば、多少は冷静になるだろう……。 と、言うか有り得ない。この自分が、男二人に取り合いさせるなんて・・・。 前髪を軽く払うと、憂いを帯びた ため息が その薄い唇から漏れる。 その美麗な横顔に、すれ違いざまに歩いていたカップルが、二人して彼に見惚れた。カノジョの方は ともかく、カレシの方までハートマークに目をさせる男。二人が我に返った時が怖い――。 そうだ!眼鏡屋にいこうと、近道の公園を通りぬけた。そういえば、子犬を拾った時も近道しようと していたのだっけ?コンラートは、4年前を懐かしむように、自然と動物病院の側まで来てしまって いた。 すると、前からバックを抱えて走ってくるのは、中等部生徒会長ではないか? その渋谷有利は、コンラートには気がつかないで、まっすぐ動物病院に向かう。 ガチャガチャと、ノブを回すも鍵が掛かっているようだ。すると、ドンドン!!と、ドアに蹴りを 入れて叩くと、必死に中の人を呼んでいる。 「なにやっているんだ?あの馬鹿!」 コンラートは、ドアを蹴り続ける有利を止めた。 「渋谷!何している?ドアを破壊する気か?」 「コンラッド!だって、シアンフロッコの様子がおかしいんだ!?」 見ればバックだと思っていたのは、自分の服に包み込んだ小型犬であった!?見るからに具合が悪そうだ。 コンラートは、携帯を取り出し、表の看板に書いてある電話番号にかけた。そして、応対に出た 婦人にわけを話すと、通話をきった。 「こっちにこい!」 そういって、有利を引っ張ると病院の裏手にやってきた。そこには、小さな家族用の玄関があった。 カチャりと、そこが開き、有利も知っている婦人が出てきた。 「ごめんなさいね、今、先生は午後の往診に出かけているのよ。電話したから急いで戻ってくるわ。 さぁ、こっちから入りなさい。」 「おじゃまします。ほら、渋谷。」 コンラートが手を引けば、有利は大人しくついてくる。いつもの厚顔無恥振りが嘘のように、 有利は心細げに佇んでいた。 診察台に犬を乗せて、有利はその毛並みを撫で続ける。奥さんが脈と呼吸を見て、体温計を直腸に 入れて熱を測る。 「ゆーちゃん、いつから具合が悪かったの?」 「はい、10日前から食欲が落ちていておかしいな?と、思っていたら段々元気がなくなって、今日 とうとう吐いてぐったりしたから!急いで連れてきたんですけど?もっと早くくればよかったっ! ごめんなシアンフロッコ。」 くーんと一声鳴いて、犬が薄目を開けた。ハッハッと浅くて息が早いが、ふと犬がコンラートを見た。 ぱさっと、一振りだけ尻尾を振った。 「あら?貴方どこかで見た顔だと思ったら、この子を拾った中学生ね?あぁ、もう高校生かしら? 大きくなって・・・シアンフロッコもわかるのね?良かったわね、拾ってくれた子と再会出来て。」 「やっぱり、あの時の犬か!?」 さっきから、見覚えのある模様だと思った!それと同時に、コンラートは気がついてはいけない ことに気がついてしまった。先程、奥さんは有利の事を、“ゆーちゃん"と呼んだ。 この犬は、ゆーちゃんという少女に引き取られたはずだ。・・・だが、目の前の中学部生徒会長も、 ゆーちゃん。まさかゆーちゃん=コイツ・・・いやいや、彼女は、渋谷の姉妹かも知れない。 そんな馬鹿なと嫌な考えをふるい落とそうとする。だが、村田はなんと言っていた? 獅子様片思い暦=4年だし 渋谷有利は、コンラートに4年前に会ったのだという。4年前、それは自分が、この犬を助けて、 ゆーちゃんという少女に会った年だ。 だらだらだらっと、嫌な汗が背中を伝う。 「し・・・。」 「今戻ったぞ、どれ、患者を診せてくれ。」 確かめようとしたコンラートが口を開いた時に、ドアが勢い良く開いて先生が帰ってきた。そのまま、 診察台へと近づくと早速患者の診察にと入った。 「詳しい検査をしてみよう。あ、キミタチ、外に出ていて。」 ぽいっと、外に出された二人。仕方なく待合室で、並んで座っていた。 ゴクリ・・・と、嫌な予感を覚えつつも、コンラートは中等部生徒会長に尋ねる。 「渋谷、お前、俺がこの犬をあげたあの子か?」 「ごめん、コンラッドから貰った犬なのに、おれ・・具合が悪いの知っていたのに・・。」 有利は、何時もの強気な彼とはまったく違い、顔を両手で覆うと俯いた。僅かに震える肩が、 泣いているような気がして・・・。知らず、指先が伸ばされて、震える肩を抱く。 有利は、何も抵抗もしないで、ぽす・・っと、その身体をコンラートの腕の中へと傾けた。 「ごめんなさい、ごめんなさい、折角、コンラッドが助けてくれた命なのに・・っ!」 有利は、ただただコンラートに謝る。大切にすると約束した命だったのに、迂闊な自分が散らして しまうのかもしれない。その事が、ひどく怖かった。 「大丈夫だ、きっと助かる。あれは、力強い命だから・・・。」 4年前も、ボロボロになりながらも、それでも命を繋いだあの犬。今度もきっと大丈夫だ。 そういって、コンラートは、普段喧嘩ばかりをしている年下の少年を励ますのであった。 やがて有利の嗚咽がおさまり、濡れた瞳がコンラートを見上げた。 「ありがとう、コンラッド。ついていてくれて。」 「いい、気にするな。」 殊勝なその態度に、ついコンラートも何時ものペースを乱してしまう。 何時もなら、絶対にしないのだろうが、コンラートは宥めるように、その頭を自分の肩に乗せた。 そのまま寄り添って、ただ診察室の扉がもう一度開くその時を待っていた。 それから検査の結果が出て、緊急手術が必要とのことで両親に連絡を取らされた。人間と違い、 動物は保険が利かない。膨大な手術費が必要となるのだ。高齢なペットや、治療でも対して好転が 得られない場合は、飼い主と協議して安楽死をさせる場合もある。また、治療費が払えない場合も、 それを選ぶ場合がある。 「そんな!安楽死なんて」 獣医の説明を受けた有利は慌てて両親に連絡を取り、どうにか母親をつかまえることが出来た。 理由を話すと、お金の心配はしないで治療を受けさすようにと、母の決断は早かった! ちょっと、母親を見直した有利。 すぐに、緊急手術が行われた。相変わらず、有利の隣にはコンラートがいて、二人は寄り添っていた。 「安楽死なんて・・・。」 有利は、先程説明された内容にショックを受けて、未だ呆然としていた。 「だが、安楽死させられるペットはまだいいんだぞ?」 「コンラッド?」 「保健所に連れられてきた犬の処分は、安い毒ガスを使って行われる。一気に死なせて貰えず、 苦しみながら死んでゆくんだ。そこにしつけられれないとか、年老いたという理由でペットを 持ち込む飼い主は多い。まだ、安楽死させてくれる飼い主の方が優しいさ。」 飼い主が、死に責任を持つのだからな。 「死に責任を持つ・・・。」 そういったコンラートの目は、少し暗い色をしていた。そう、表には裏があり、権利には義務がある ように、世の中は表裏一体で出来ている。生には死がつき物であり、その生き物の生に責任を持つと いうことは、死にも責任を持つということ。たしかに、経済的にとの理由から治療を断念することは、 人間でもあるのだ。 幸い、渋谷家ではペット保険に入っていたので、手術費の実費負担分はかなり軽減される。 もっとも、いくら掛かろうが、渋谷家の家族である座敷犬達を、彼らが見捨てることは無いだろう。 やがて、どのくらいたったであろう?奥さんが手術の成功を教えてくれた。 「本当に、今日は有難うございました。」 有利は、病院の前で改めてコンラートに礼を言った。 「お前に素直にされると、少し気味が悪いな〜?」 かるく小突いてやると、痛いな〜乱暴なんだからと文句をいう。 「お前な〜、このくらいで文句を言うな」 「うん、今のは嘘。コンラッドは本当はとても温かい人だって、優しい人だって知っているよ。」 「え?」 その声は自然で、何時ものような騒がしさも、ふざけた軽い態度も見えなかった。 「最初から知っているよ。」 「しぶ・・や?」 戸惑うコンラートに、有利は真っ直ぐな視線をむけて、ぱぁぁ〜と嬉しそうに笑った。 「今日は、ありがとう!」 真っ直ぐな言葉を贈る彼。 太陽ような、曇りを感じさせないその笑顔は・・・・ ―あぁ、なんだ、やっぱりキミか? 4年前、コンラートの心を暖かく照らしたあの少女のものであった。 さて、本日は、週に一度の中・高生徒会の合同会議の日。 「村田にヴォルフラム、今日は渋谷は出てこれるのか?」 グウェンダルは、前回の会議に出席しなかった中等部生徒会長について聞く。 「さぁ?何分、ユーリとはこの頃余り顔をあわせませんし・・。」 ヴォルフラムも、彼が何を考えているのかまったくわからない。 「そういえば、そちらの副会長も遅いですね?ウェラー卿がこんなに遅いなんて始めてですけど? 何か聞いているんですか?」 村田は、何時もならとっくに来ているはずの人物について尋ねる。すると・・・? 「「うっ・・・。」」 ぎっくん!とばかりに、高等部の生徒会役員が二人揃って固まった。 「どうしました?グウェンダル会長?グリエ書記も?」 無言でダラダラと汗をかく二人に、ヴォルフラムがその天使の相貌を向ける。 だらだらだら・・・・ 二人が焦るには訳がある。昨日、二人揃ってコンラートに交際を迫ったのだ。そのせいかどうか 判らないが・・・コンラートは昨晩寮に帰ってこなかった。 いわゆる無断外泊だ。 これまでも、コンラートが寮を抜け出すことは、まま有ったのだが、そういう時は必ず寮の誰かに、 消灯時の点呼などを偽装してもらい、外泊だと寮監に気付かれないように偽装工作の一つもするの だが?彼はそれすらせずに、門限を過ぎても帰ってこなかったのだ。 まさか、昨日のことで悩んで・・・・、ヨザックやグウェンダルに会うのが気まずいと思ってどこかに 姿をくらました?いやいやいや!あの獅子様に限ってそんなことは・・・っ!? 「おやぁ〜?なにかありましたかぁ?」 その様子に、村田の眼鏡が光る!!怪しい二人の行動に、何かを感づいたのだ。あいかわらず、 トラブル関係の嗅覚の鋭い少年だ。 底光りする眼鏡が、有無言わさない迫力をまとうと、底知れぬ恐怖が呼び起こされるのは何でだ!? 「ヴぉるてーる会長?ぐりえちゃ〜〜ん?」 「え・・いや、ナニ・・・」 「いやん、健ちゃんったら、なんでもないですよぉ?」 じりじりと何故か後ずさる二人。尚も言い募ろうと村田が立ち上がれば? ばたーーーん!! そこに、丁度、今、噂になっていた二人が飛び込んできた。 「すまない遅れた!」 「ひゃ〜、皆ごめん、すぐに始めるから!」 二人して走ってきたのだろう?肩で息をしながら、二人とも席に着く。 「あ〜、しんどい!ヨザック、水くれ水!」 「あ〜おれも、みずちょうだーい。」 ヨザックは言われるままに、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、二人に渡した。 コンラートは、椅子の背もたれにぐったりとして、ペットボトルに口をつけると、ゴクゴクと飲み 干してゆく。その反らされた喉元とか、汗ばんだ肌とかについつい目の行くヨザックとグウェンダル。 ぷはー!と、一息つくと、コンラートは対面に座った有利が、水を飲んで机に突っ伏しているのを 見た。真っ黒な黒髪のつむじに、空になったボトルを投げつける。 「いてっ、もう、コンラッドぉ〜、さっきも謝ったじゃん。」 「うるさい!お前が目覚ましを止めてくれたおかげで、俺まで遅刻しそうになったんだぞ。」 「だって、昨日はコンラッドが眠らしてくれなかったから・・・」 え????×4人 今、目覚ましがどうのって?何故有利の目覚ましがならないと、コンラートが巻き添えを食うんだ? それに、コンラッドがどうして有利の眠らさないのだろうか? それって、いやいやまさか、この二人に限って!! とんでもない爆弾発言をかました二人は、固まり焦り始める周囲に無頓着にも会話を続ける。 「ユーリ、言い訳無用だ。」 ゆ・・ゆーり!? いま、コンラートが有利を名前で呼んだのかっ!? 今まで、中等部生徒会長とか、渋谷有利とか、お前、アレで呼んでいた相手を何で急にっ!? 「はい、ごめんなさい。」 腕を組んでコンラートがじろりと有利をにらめば、有利は素直に謝った。 何気に仲良し。一見、ほのぼのとした朝の風景だ。 なのだが・・・二人以外の役員は全員固まっていた。 おもわず、隣にいたグウェンダルはコンラートの首から胸など開襟のシャツから見える素肌に、 痕が無いか探してしまった!(←何を考えた?というか、それはセクハラ) ヴォルフラムはといえば、今にも怒りだしそうな顔で有利を睨んでいるし、村田は面白そうに 二人を眺め、ヨザックはパクパクと何か言い出しそうで言い出せないように口を開閉していた。 「うん?」 「あれ?」 さすがに、二人も周りの様子が変なことに気がついた。 「どうした?皆、会議はしないのか?」 「しないのかって!?アンタ、どれだけマイペースなんだ!?」 思わず噛み付くヨザックに、コンラートはといえば【ん?】なんて、小首をかしげている。 くっそーーー!そんなアンタも可愛いぜ!! ヨザック、心の中で大絶叫! 「ゆ・・ゆーり?」 「う〜ん?なんだぁ〜、ヴぉるふ?」 呑気に返した有利の返事に、プーの怒りがゆらりと燃え上がった。 「貴様、まさか昨日、コンラートと一緒だったのか?」 「うん、そうだよ?コンラッドならうちに泊まったけど?」 「「「なんだとぉー!?」」」 「へぇ〜、有利もやるねぇ〜?」 有利の何気ない一言に、三人が驚き、村田が訳の解からない賞賛を送った。 「あ・・あれ?どうしたのみんな?」 プチ・・・・ 「どうしたのじゃないジャリィィーーぃ!!!」 突然怒れる天使が、有利の首元をがっちり両手で固めたかと思えば? 「こんのぉぉ〜〜!うわきものぉぉ〜〜!」 「ぎゃぁぁ!!」 目の前で脳味噌シェイクをされる有利の前では、コンラートが両脇からグウェンダルとヨザックに 詰め寄られていた。 「泊ったって?なんで、坊ちゃんの家に?」 「あぁ、夕飯をご馳走になったら、遅くなったんで門限に間に合わないからと、ジェニファーさんが 是非っていうのでな。」 「だれだ、その女?」 「ユーリの母上だ、中々面白い家族だったぞ。」 くすくすと、本当に楽しそうに笑うコンラート。 「コ・・コンラート、もう家族公認なのか?」 グウェンダルが、震える声で聞いてくる。 「・・・・?えぇ、まぁ。」 きょとんとしながらも答えるコンラートに、グウェンダルだけではなく、ヨザックも色をなくした! ヾ(=д=ll;)ノ ガーン!!! よもや、家族に公認のおつきあいをし始めたなんて!? 一方、コンラートは、何を詰め寄られているのかが解からない? なんてことは無い、獣医から帰ろうとしたところに有利の両親が丁度駆けつけて、事情を話すと 4年ぶりの再会に盛り上がった彼らが、コンラートを有無も言わさずに、自宅へとご招待(←と、 いうか拉致?)してしまったのだ!そのうえ、昔話をしているうちに、ぽろりと野球が好きなことを コンラートがこぼせば、渋谷家の野球馬鹿父子を盛り上がらせてしまい、あれよあれよという間に 時間が過ぎて、門限に間に合わないので、そのまま有利の部屋に泊っていったのだ。 ただ、それだけだ。 なぜ、そんな些細の事で、自分は詰め寄られているのだろうか? しきりにハテナ?を飛ばすコンラートに、村田は、こりゃ進展は無かったなと、後で真偽を聞きだす こととした。 「しかし、嫉妬って怖いね〜?」 ふ〜っとため息を吐き出しながら、ポツリ呟く村田の声は、他の誰の耳にも届いていないだろう? 二人の様子を見れば、多少仲良くなったものの、これといって色事めいたことなどないと解かるだろうに? 3人の慌てようったら? 「もう少し、面白いから見ていようっと♪」 彼の辞書には、仲裁という文字は、ないのだろうか? 「ゆぅ〜〜りぃぃ、この尻軽がぁ!何で、コンラートに家族を紹介して僕をしないっ!」 「え〜、なんのことだよぉ〜!」 あまりに揺さぶられすぎて、有利はヴォルフラムが、何を言っているのかがまったく解かっていない。 そんな彼の態度に、怒れる天使は、再び彼をゆすり始めた! 「ぎゃぁぁ!しぬぅ〜、たすけてぇ!コンラッドぉぉぉ」 思わず助けを求めた有利に、コンラートがさすがに止めに入る。力任せに 二人を引き剥がし、 ぐったりとした有利を救出した。 「やりすぎだぞ、ヴォルフラム。ユーリ?平気か?」 「う・・・うん、助けてくれてありがと。」 よろめきつつも、コンラートに支えてもらって、どうにか有利は答えたのだが・・? その様子を見ていた三人は、メラメラと目を据わらせていた。 何時ものコンラートなら、有利がどんな目に合わされていようとも、自分のことは自分で切り開け!と、 ばかりに、無視を決め込むのに、何故今日はたすけるのだ?しかも、二人で抱き合うのは何でだ? (注意・抱き合ってません。よろける有利をコンラートが支えているだけ) 「コンラッド、何で今日はそんなに坊ちゃんに優しいっすか?」 「はぁ?」 ヨザックが、半眼になって問いただす。 「だって、昨日までは、どちらかというと避けていたでしょう?」 「あぁ、ナンダそのことか?それなら・・・」 「わぁぁ〜!コンラッドまって!それは言わないで!」 有利は、慌ててコンラッドを止めた!昔の事を出されて、有利が小学生の時まで、母親の 趣味とはいえ【女装して出歩いていました】なんて汚点は、絶対に知られたくはない!! そんな有利の事情を察したのだろう?コンラートは、ややその事に同情の視線を向けた。 だが・・・? 「何を二人して見つめ合っているのだ?」 重低音の声が、不機嫌そうに音を発した。 「いや、これは・・・」 「コンラート、貴様、ユーリに気のないそぶりを見せていたのは、フェイクだったのか!?影で コソコソ付き合っていたのではないだろうなっ!?」 少し高い少年の声が、糾弾するようにコンラートに突き刺さる。 「ちょっ!」 さすがに、この言われようには、コンラートもムカッときた! 「なんだと?そうなのか?コンラッド!お前ら付き合っているのか?だったら、何で言わないんだ?」 ヨザックが、まさかそんなと、青白い顔で動揺している。 「まぁまぁ、皆落ち着きなよ〜。」 そこに、一人蚊帳外から眺めていた村田が、ようやく仲裁に入った。 「だいたい、誰と誰が付き合おうと、それを一々君らに報告する義務は無いでしょう?キミ等が 二人の仲を裂くというのもおかしな話だよ?」 仲裁に・・・・・・? なってないじゃないかぁぁーー!猊下あぁぁ!!! それではまるで、誤解を肯定しているようなものだ。思わずコンラートは、村田に向かって行きそう になったのだが、それより先にずずずいっと、三人が二人に詰め寄った。 「やっぱりそうじゃりか!?」 「コンラッド、お前何時の間にっ!」 「コンラート!こんなやつのどこが」 ぎゃいぎゃいぎゃい!と、五月蝿く詰め寄る三人に、コンラートの目段々座ってきた。 プチッ!!・・・ うるさい!!この色ボケ共がぁぁ!!さっさと仕事をしろぉ−−−!!! 獅子の咆哮が、サロン中に響き渡った! はっと、彼らが正気に戻った時には既に遅かった。コンラートからは、壮絶なまでの殺気がビシバシと ただれもれていて、目は半眼だし、眉は釣りあがっているし、なにより両手胸の前で組んで、その長身から 見下す視線が怖かった!!!えぇ、もう、ちびっちゃうくらいに怖かった!!(BY グリ江ちゃん) 「ぎゃいのぎゃいの騒ぐな!お前等!昨日余計な騒ぎを起こして仕事を遅らせたばかりか、今日の 会議までダメにする気か!?」 「お前、仮にも愛の告白を余計な騒ぎって・・ひぃっ!?」 それこそ余計な口を挟んで、ヨザックはコンラートの殺気をもろに被った。 「え?なにっ!?ヨザックがコンラッドに告ったって!?」 聞き捨てなら無い言葉に、有利がすぐに反応した。さすが、獅子様片思い暦=4年だ。脳味噌シェイ クで死に掛けていた人間とは思えない反射だ! 「それだけじゃないよ〜?な〜〜んと、グウェンダル会長も告白したんだよ〜?」 「なに!?そんな抜け駆けを!?」 ぎろんと、普段は大きく可愛らしい目が釣りあがり、二つ名である魔王が降臨してきている。 「小僧こそ、コンラートを家に泊らせるなどという抜け駆けを!それより猊下!?なっ!何故 それを、しっているのだ!?」 グウェンダルは、どこからそんな情報をと、驚いて中等部副会長を見た。その副会長様は、にまぁ〜 っと、わらってさぁ、どこからだろう?等とうそぶく。・・・超不気味だ!! 「ほぉぉ〜そういえば、俺はその告白とやらに、返事をしていなかったな?」 とても、告白の返事を返す雰囲気ではない背後のブリザードに、二人は思わず震え上がった! なぜだ?なぜ、好きだと告げた相手に、こんな極寒の殺気で威嚇されないといけないのだ!? 普通は、胸ドキドキで、その瞬間を待つものではないのか? いや、胸は確かにドキドキしている。ただそれは、恋の甘いものではなく、捕食されそうな生存の 危機にだ! どんなドキドキは、いらねぇぇぇ〜〜〜!!!。・°°・(>д<)・°°・。 「俺は、公私も分けられず、仕事を疎かにする奴が嫌いだ。」 ぎくっ! 「それなのに昨日から仕事は溜まるばかり、今日こそはと勢い込めば、くだらないことで騒いで 会議すらこなせない?そんな二人に俺が靡くと思いましたか?」 「す、すまないコンラート。」 「あ、そのコンラッド・・・。」 「俺を惚れさせたいなら、それだけの誠意を見せてみろ!今の時点では、二人とも問題外だ。」 その点、といって、コンラートは眼差しを柔らかくすると、鞄から昨日持ち帰った書類を出す。 有利の家に泊るついでに彼に手伝わして仕上げたものだ。 「ユーリは、病気の家族(犬)を抱えながら、良く頑張ったね?チョット見直しておく。」 え?と、有利の目が驚きに見開かれる。 「昨日も、この書類の処理を手伝ってくれたし、助かった・・・ありがとう。」 ― あぁ、さっきの寝かせなかったって、このことだったんだ? やっぱり、色恋沙汰ではないんだな〜なんて、村田さん、超納得なっとくv 「コンラッド?」 初めて彼から褒められた有利は、思わず頬を染めて、コンラートを見た。 「そ、それって、俺と付き合ってくれるって――」 「―― わけではない!」 思わず期待に胸膨らましたが、そこはバッサリとコンラートによって切り捨てられた。 そこまで甘き相手ではなかったか・・・。 「あぅ・・・一秒たりとも夢を見せてくれないんだな。」 おもわず恨み言を呟いてしまう。あぁ、視界がゆがんで見れる・・・グス、泣いてなんか無いやい! 「見直しただけだ。俺は人の評価に私情は入れないからな。だから頑張らないと、来年の生徒会に よんでやらないぞ。」 え・・・・? それって、つまりは?来年も一緒にいられるってこと? ぱあぁぁあ〜〜!!!っと、理解した有利が満面の笑みを浮かべる。 「わかった!俺、必ず呼んでくれるように、仕事も勉強も頑張る!!」 「うん、がんばれ。」 有利は早速、会議議題の書類に目を通してゆく。 これで一人。 ちらり・・・と、呆けているほかのメンバーを見てみれば?二人の間にただよう、そこはかとない ピンクの空気に、呆気にとられていた中で、ハッ!っと、我に返ったのは、瞬間湯沸かし器の わがままプー! 「まてまてまて!だったら、もちろん僕も呼ぶんだろうな?」 「呼び寄せてほしいなら、結果を出してくれないとね?」 「よーし解かった!コンラートからぜひ来て欲しいと言わせてやるからな!?」 「それは楽しみだな?」 「くっそ!僕に掛かれば、このくらいの仕事くらい、何時だって片付けてやる!」 どかっとすわって、パソコンを開くと、過去のデーターの検証を始めている。 これで二人。 くるっと、視線を残りの二人に向ければ、はっと我に返った二人も席について各々の仕事に取り 掛かる。有利に遅れをとって、彼を盗られるのだけは避けたい。ついでに、できる男であることを アピールして、彼の心をモノに出来るところまで持ち込みたいのが、正直な男心である。 これで、四人か? そして最後の一人に向き合えば、意味深な微笑を乗せている彼。中等部副会長・村田健。 「お見事・・・。といえばいいかな?中々の人心掌握術だ。」 「仕事が やっと はかどるだろう?」 この時期は何かと忙しい。確かに はかどるに越したことはない。 コンラートに好意を寄せる二人を叱責し、問題外だと突き放しつつも、誠意を見せろとチャンスを 与える。そして、それまで問題外だといっていた有利の評価を上げて、二人の焦燥を煽る。 元々、能力は高い二人だ。これで、当分は、高等部生徒会は、円滑どころかハイスピードで運営 されるだろう。また、中等部の方も・・・有利は目の前ににんじん(←コンラートとの、ラブラブ? 高等部生徒会生活)を、ぶら下げられた状態だ。・・・・・勝手に頑張ってゆくだろう。 一方、ヴォルフラムも、有利へ恋慕と、恋敵への対抗心をエネルギーに、馬車馬のように働くのは、 目に見えている。 さて、この僕はどう釣ってくれるのかな? 「村田は釣る必要はない。有利をキミは見捨てれない。」 昨日、有利の母が言っていた。有利の頑張りを支えてきたのは、粘り強く彼に勉強を教えてくれた 村田健なのだと。 『健ちゃんは、とってもいい子なのよ?今でも、試験の前になると自分の勉強もあるのに、ゆーちゃんの 試験勉強を手伝いに来てくれるのだから。もう、ママ助かっちゃう〜^^b』 等といっていた。幼い時からの友情を育ててきた村田には、頑張る友人を見捨てることは出来ないはずだ。 だろ? と、にこやかに微笑まれて、村田は一瞬言葉を失う。氷姫と呼ばれる彼のそんな柔らかな笑みを、 初めて見てしまった!それも、超至近距離で! たしかに、村田は渋谷有利を気に入っている。生涯の友だとも思っている。だから、有利の真の 願いを叶えようとしてしまうのだ。そこを、真正面からついてこられた。 くっそ、なんか負けた気がする!非常に不本意だが、彼の言うことは尤もで・・・・。 でも絶対に認めないけどねっ!固まる村田を置いて、コンラートも自分の籍で仕事を始めた。 一人突っ張っているのは、キャラじゃないので、くるっと、踵を返して村田も座る。 これで、五人・・・全員だな? 「では、フォンヴォルテール会長、会議を始めてください。」 コンラートの涼やかな声が響けば、グウェンダルによって議題が読み上げられて、村田によって問題 点が指摘され、ヴォルフラムが必要なデーターを提示する。有利が気になる点を上げれば、ヨザックが それに関する独自に情報を展開する。コンラートは冷静にその様子を見守る。やはり個々の能力が 高いこの生徒会は、立案・調査・補正・吟味などの時間が大幅に短くできると思う。 ただ、構成員が一癖も二癖もある連中なので、ムラっ気が多くて困り物だったのだが、まさか昨日の 告白からこんな風に上手く事態が動くなんて。 まぁ、とりあえず、これで最近溜まっていた仕事は、はかどるな? ― 当分、この手で仕事を進めてしまおう♪ ニヤリ・・と、口元に笑みが浮かぶ。 それを見た村田は、見かけは最上級品だが、中身が黒すぎる〜〜ぅっと、氷姫と二つなの男に恋を する友人に、真剣に止めることを薦めたくなった! ― 無理だ有利、手ごわすぎて氷姫は、恋愛初心者のキミにどうにかできる相手じゃぁ〜ない! 親友の前途多難すぎる恋に、村田様は人知れず頭を悩ませていた。 だが、次ぎにコンラートが考えていることを知ったら、村田も悩む必要はなかっただろう? ― この分なら、二人に俺の仕事の4割を回せば、けっこう早く仕事が終わりそうだな?うまくいけば、 わんこのお見舞いにいけるぞ。 わんことは、もちろん昨日、再会を果たした、昔コンラートが助け、有利に飼われているシアンフ ロッコだ。苦しい息の下でも、コンラートだと解かって尻尾を振るいじらしさが、コンラートの 心に強く引っかかるのだ。 ― これだけ煽れば、ユーリの方は そんなに仕事も溜まっていなかったし、一緒に見舞いに行けるな。 なにせ、有利は努力家だ。 昨日泊った有利の部屋だが、詰まれた参考書に教科書ガイド類、それに問題集などが積まれていた。 それを一日3時間はじっくり開けて勉強するのだという。 「俺って、頭悪いから、兄貴や村田みたいに一発で出来ないから、地道にやらないとね?」 そういって照れた姿が、意外だった。そして思い出すのは、またもや村田の言葉。 補欠入学で入り、2年かけてじわじわと順位を上げて、生徒会に入れる学年50番以内の成績まで 入ったのだという。それを裏付ける彼の部屋。 手伝わせた仕事も、黙々とこなしてゆく姿にも好感が持てた。 だから、自分は彼をユーリと呼んだ。名前で呼ぶのは、彼を認めた証拠。(村田は、村田以外に呼び ようがない気がするのでそのままなだけ) そっと、心の中で呟く。 努力家は、嫌いじゃないんだと。 眞魔学園は、生徒の自治で成り立っている。生徒会は、中等部・高等部の両生徒会があり、この二つが 車輪の両軸となって、生徒の学生生活をささえている。 鉄壁の生徒会と呼ばれる今期の生徒会役員は、個々の能力もさることながら、そのチームワークも バツグンで、最低構成員の各三名しかいないというのに、過去のどの生徒会よりも多くの仕事を こなしていた。 「コンラート!ダンスパーティーの草案と大体の見積もりが出たぞ。」 「へぇ、随分安いな?大丈夫か?」 「この、ヨザック様の人脈を舐めるなよ?生徒の親から、商店街のおばちゃんまで、色々頭下げて 安くしていただいたのよ〜。それに作れるものは、皆手作りで有志を募っといたから。」 無理は してもらわない程度に してあるから平気だという。無理な値引きは、迷惑をかけることを 知っているのだ。それを、コンラートが嫌うことも。それでも、この予算で押えたのは、ヨザックの 努力の賜物だ。ちらりと、麗しの副会長を見れば、一心に書類に目を通して、にこっとわらった。 「よくやったな。予算係の村田に回してくれ。」 満足そうな笑みに、ヨザックはポイントを稼げたことを確信した! 「わかった、許可が出たら、次の会議までにまとめておくぜ。」 「よろしく。」 去り際に、中央の机で仕事をしている会長を見る。涼しい顔をしているが、眉間の皺が三割り増し ・・・ふふん! だがしかし、彼らを動かす原動力が、たった一人の姫(男)の心を掴むための切磋琢磨であったりする。 「男って、単純な生き物だな・・・。」 ポツリ・・・。 薄い唇から、小さくこぼされたのは、ちょっと呆れた声色。 だが、真に呆れられるのは彼のその手腕の方だろう。いや、手腕自体は賞賛に値するが、方法が・・・・。 古来より、【馬の鼻面に人参】というように、目の前にご褒美をちらつかせて、人のやる気を引き出す ことは有効である。 が・・・。 彼が、ぶら下げたにんじんは、彼自身である。 食べられたらどうするのか?と、村田が一度聞いたことがある。 「馬鹿か?何の為に複数に同じ餌をちらつかせていると思っているんだ?一人が食べたら なくなるだろう?」 つまりは、互いが牽制しあって、彼が別の誰かのものにならないように守ってくれるのだ。 そう言った時、村田が盛大に引いた!その、何時にない素直な反応に、コンラートは思いっきり笑った。 かくして今日も、鉄壁の生徒会は円滑勝つ、ハイスピードで書類が処理されてゆく。それもこれも、 裏でしっかり手綱を握る高等部生徒会長の手腕によって・・・・。 ただし、彼らの恋が円滑に進むかどうかは?・・・・・甚だ難しい?のであった。 2009/7/30UP 29に間に合いませんでしたが、誕生月企画ということではセーフよねっ(o>(ェ)<;a アセアセ |