拍手よりとある、秘密組織の、ある日の活動



るんたった〜♪るんたった〜♪と、傍から見て、どうみてもそうとしか言えない
浮かれた足取りで歩いていくのは、この城の主・第27代魔王陛下だ。


今日の陛下は、また一段とお可愛らしい〜!
ほら、今日は。
そうか、ウェラー卿がご視察から、お戻りになる日だ。
あぁ、だから、あんなに浮かれておられるんだ〜。


と、城の兵士や侍女の皆さんが、(生)暖かい目で見守る中、その浮かれた陛下は
というと、お供も連れずに一人で場内をスキップしていった。目指すは城門だ。
きっと、渋い顔の御大あたりが、弟の帰還時刻にあわせて、休憩にでも出したのであろう。
何だかんだ言っても、あの摂政閣下は、兄弟思いのうえに、可愛い陛下にも甘いのだ。

この、第27代シブヤユーリ陛下と、専属護衛であるウェラー卿コンラートは、血盟城では
知らぬ者がいないくらいの、公認のラブラブバカップル(猊下談)だ。
もっとも、絶対に認めたくないと言う一部の某自称婚約者とか、某王佐とかもいるが、
城に働く者からは、絶大な支持を受けている。

元々、庶民派で、王子の立場であった時から、下々に優しく分け隔てなかったウェラー卿
コンラートと、その高貴な姿と最強の魔力を持ちつつも、驕る事無く、民に優しい陛下は、
国民に広く支持されている。一時、コンラートが心ならずも、この眞魔国と有利を守る為に
他国に身を寄せいていた頃、城では有利の心からの笑顔が消え、その視線はいつも誰かを
探していた。そんな有利を知っている城の者達は、コンラートが帰還し、紆余曲折を経て、
想い合っていた二人が、恋人になったとわかった時は、殆どの者が諸手を挙げて喜んだのだ。
そして、そんな二人が幸せそうに寄り添っていたら、そりゃ応援したくなるだろう。
こうして出来上がったのが、「陛下とコンラート閣下を(生)温かく見守り隊だ」・通称・もりもり隊・
発起人は、またしても猊下だ。また・・というのは、コンラートに関する別の組織にも関っている
からだが、まぁ、ソレはもっと過激・・いや隠密な組織なので、この際おいておく。

活動といえば、簡単だ。有利とコンラートを見守るのが活動である。ついでに、色々手助け
したりもする。例えば?

今日のように、コンラートの元に向かう陛下と遭遇した場合・・。


もりもり隊・会員No112の侍女Aの場合、さりげなく、陛下にお声をかけ、閣下と一緒に
お召し上がりくださいと、お菓子を二つ渡してみたりする。

もりもり隊・会員No・56の女官Bの場合・冷やしたタオルを差し出して、閣下に出されたら
きっと喜びますよ?な〜んて、勧めてみたりする。

もりもり隊・会員No・157の庭師の場合・陛下、持つのが大変でしょうからと、すすっとバス
ケット籠をさしだし、すばやく陛下が手にされているものを詰め込んじゃったリする。

すると、あちらこちらから、会員達があれやこれやといる色差し出すものだから城門にたどり着く
頃には、門番の兵士に、これからピクニックにでもいらっしゃるんですか?と聞かれるくらい、
食べ物やら飲みものやらで一杯になっていた。

そして、有利が門について暫らくもしない内に聞きなれたノーカンティーの嘶きが聞こえた。
「あ、コンラッドーーー!」
道の向うから、ハシバミ色の愛馬ににって、颯爽と帰ってきたのは、有利の大事な人。
ブンブンと手を振ると、コンラッドも笑顔で手を振り替えし、少し早足で駆けてきた。
「お帰りなさい、コンラッド!視察ごくろうさま。」
そういって、冷たいタオルを差し出すと、ちょっと目を見張ったコンラッドが、嬉しそうに微笑んだ。
「ただいま、ユーリ。何か、新婚さんみいたいですね。」
「し・・ししし、新婚?」 さらりと爆弾投下された言葉に、みるみる真っ赤になる有利。
最も言った本人は、タオルで顔を拭きつつ、小首を傾げて、ん? と、どうしていきなり
赤くなったのか、解らないご様子だ。


すいません、陛下、うちの閣下は天然ボケフェロモン王子なんです。
陛下、あんなに真っ赤になられて、ううっがんばれ〜!


一緒に視察から帰ってきたウェラー隊の面々が、心の中で謝ったり、エールを送ったりする。
そんな生暖かな空気に居た堪れなくなった、陛下はううぅっと詰まると、ぷしゅ〜〜!と耳から
蒸気でも出しそうな勢いだ。

そこへ・・。


こんのぉぉ!浮気もの〜〜ぉぉぉ!!!


と、凄まじい勢いで砂煙と共に、ドドドドドッ!と、三男閣下が走ってくるのが見えた!

途端に、ウェラー隊の顔つきが変わった!心なしか、顔が生き生きとしている!?
「閣下、報告書はわたくしが出しておきます。」
副官のフライヤーは、そう言うと、ノーカンティーの手綱をサッ!と、上官に渡した。
「さぁ、陛下も急いで、プー閣下が来ちゃいますよ〜。」
他の隊員が、さりげなく二人を隠すように、馬たちを三男閣下との間に移動させて、壁を作った。
「え?え?」
部下の意図を汲み取り、コンラートはサッと愛馬にまたがった。
陛下こちらは一旦預かりますね。門番が、バスケットを受け取り、隊員の一人が馬に乗るように促す。

つまりこれは?

やっと、皆の意図がわかった有利は、ありがとう!と、いうと、コンラートの前にまたがり、
バスケットを受け取ると、あと、よろしく〜と、手を振って元来た道を二人で駆けていった。

「あぁっ!こら、僕を置いて行くな!ユーリ!コンラート!」
ヴォルフラムが、やっと、馬をかきわけ、門まで来た時には、二人はとうに小さくなり、
やがて見えなくなってしまった。そんな三男閣下を置いて、ウェラー隊も、門番も、
『今日は、いい仕事したな〜』と、晴れ晴れと帰って行った。
きっと、あのバスケットの中身をもって、景色の良い所にでもいって、久方の二人の時間を楽しむ
のだろう。実は、あのバスケットを還す時に、門番が敷物をこっそり入れておいたりしたのだ。
当然、彼も、もりもリ隊会員だ!城の者総出で、二人ののデートのお膳立てするあたり・・
もりもり隊・見事なチームワークと言うべきか?


コンラートの変わりに、彼の副官が来たところで、グウェンダルは二人が逃亡したことを察知した。
「まったく、この城の連中は、小僧とコンラートに甘い!」
と、言いつつ、最初に弟のもとに陛下を向かわせたのは、この摂政閣下なのだから、人の事は言え
ないのではないだろうか?

「フライヤー、いつも私の弟が迷惑をかけてすまないな。」
そう云うと、労いだ・・持って行って皆で飲め!と、上等の酒を数本持たせてくれた。あぁ、この閣下も
変わられたな。礼を言いつつ、戻ろうとすると、そうだ、お前のうちには子供が三人いたな?
と、そう呼び止められて、

「新作だ」

といって、編みぐるみを渡された。
「・・えっと、可愛らしい子ブタで。」
「ぬっ!・・それは、くまちゃんとネコタンだ!」
重低音の魔王ヴォイスで・・ネコタン・・・。
どれが、クマちゃんでどれがネコタン??・・い・・いや・・本当に変わらましたね・・閣下・・。
なぜか、そこは変わって欲しくなかったかも?などと、思ったフライヤー氏であった。




6月17日拍手UP 6月22日加筆し、SSに格納
コンユで、二人を生暖かく見守る城の皆さんです。副官のエリック・フライヤー氏は、
オリジナルの登場人物です。