小さなサンタと小さな男の子





「なんだと?あの混ざり者のコンラート王子が、サンタクロース試験に受かりそうだと?」
「おのれ!代々サンタを排出してきた我らが上級貴族を押しのけて、王子とは名ばかりの混血が許せん!」
「まぁまぁ、皆様方、例えどんなに成績がよくても、最終試験に受からねばサンタには、なれませんぞ?」
「おぉ、そうだったな・・それで、何か妙案が?」
「ふふふ、サンタの試験官を一人買収しましてな、ヤツには到底出来ない内容になっておる。」
「ほほほ、さすが、フォンシュッピッツヴェーグ卿・・中々の悪ですな〜。」
「いえいえ、私など、皆様方に比べれば・・・はっはっはっはっは。」






まぁ、コンラート!なんて可愛らしいの?

そういって、金髪の美女の胸にギュウギュウに、絞め殺・・いや抱きしめられているのは、10歳
くらいの男の子。瑠璃色に白いファーで縁取りされたサンタ服は、母の友人である女性の発明品である。
ウェラー卿コンラート殿下・・御年17歳。この眞魔国の第二王子である。

そして彼を抱きしめて、窒息しさせそうな金髪美女が彼の母親で、この国の女王陛下である。なお、
年は聞いてはならない・・・死にたくなければだ。
「母上、いい加減にして下さい、コンラートが窒息します。」
「あらぁ〜、いやだわ、わたくしったら。この子があまりにも可愛いもので。うふ♥」
うふ♥ で、殺されかかってはたまらない。兄であるフォンヴォルテール卿グウェンダル王太子殿下は、
小さな弟を見る。たしかに、少しぶかぶかな衣装を見につけた弟は可愛い。グウェンダルは、おもわず
抱きしめそうになる己の手を必死に止める。が・・

「ありがとうございます。兄上。」
にっこーと、その薄茶の瞳に銀の星を散りばめたクリクリの瞳を向けられたら・・・。
「あ・・あの、兄上?」
ついつい、弟を抱きしめてしまった。

「これ、グウェンダル!弟が可愛いのはわかりますが、今日は本番に向けての最終調整をしに来ている
のですよ!邪魔をしないで貰いましょう!」

げいん!!と、王太子の濃灰色の頭を殴ったのは、真っ赤な髪を高くポニーテールに結んだ15歳くらいの
利発な少女。
「アニシナお姉さま。こんにちは、今日はわざわざすみません。」
「おははは、ほらみなさい、弟であるコンラートの方がしっかりして・・グウェンダル?貴方は40も
年上なのですから、もう少ししっかりなさい。」
ちなみに、グウェンダルは見た目17歳くらいの落ち着いた少年だ。

懸命な方には、もうお解かりだろう?ここに出てくる人々は、人間ではない。

そう、ここは人間の国ではない。地球の裏側にある異世界。眞魔国である。眞魔国といわれてもピーンと
来ないであろうが?けっこう密接な関係にある国だ。


ここは、なんと、サンタクロースの国なのである!といっても、全員がサンタなわけがない。一年に一度、
良い子に贈り物をするために、あらゆる仕事がある。なにせ、彼等の要求は多岐にわたるのだ。
女の子に人気な洋服など、デザイナー・パタンナー・縫製・仕上げなど、さまざまな職人がいる。
もちろん生地を織るから、機織りもいれば、その原料の糸を作る物もいる。そのまた原料の蚕を育て
たり、羊を育てたりするものもいるわけである
他にもサンタクロースが乗るソリを作るもの、トナカイを育てる者などがいる。また、一年中地球にいて、
良い子を探し出す調査員というのもいる。その良い子が何をほしいのかをも調べるのも仕事だ。

とにかく、国が一丸となって、世界中のよいこのために、プレゼントを送るのを生業にしているのだ。

その中でも、花形職業といえば、サンタクロースである。誰もが一度は夢を見る職業。だが、この職業・・
かなりの特殊技能を必要とするため、誰でもなれるものではないのだ。まず、サンタにトナカイは必須だ!
つまり動物の世話が出来ねばならない。また相手が子供のため、当然子供に好かれなくてはならない。
最低限、この二つをクリアしてから、次からが問題だ。サンタクロースのソリ・・空飛ぶソリを操れ
なくてはならないのだ。意外にこれが難問なのだ。ソリの動力はサンタクロース自身だ。
彼等の持つ魔力でソリは空を飛ぶ。また、贈り物を配る際には、姿を見られないための術などもあり、
そう言った高等魔術が使えなくてはならない。つまり、魔力という物がなくてはならないのだが、これは
血統によるところが大きい、生まれ持っての資質なのだ。

そのため、サンタクロースを目指す者は、代々サンタを排出してきた家同士の婚姻で生まれる者が多く、
それ以外の家からは中々輩出されない。

そして、最大に厄介なのがサンタには定員があるのだ。サンタ株というものを持ってなくてはならない。
サンタ株は、相続が可能なため、滅多な事では手に入らないが、三代続いてサンタが輩出されない場合、
その株は国に返還される。そうした物や、相続人がサンタになる気がなく売りに出された物でもなければ、
まずないのである。

ところで、このサンタ株、買えるのはもちろんサンタクロースのみである。なので、そう言ったものが
出回るときに、まずはサンタの資格免許を取っていなくてはならない。

サンタ免許は、年一回行われる試験に合格すればなれる。その試験は、誰にでも門徒を広げていると
いうのは建前ではあるが・・?

実際には、試験内容には、高等魔術が必要な場面もあり、それは幼いころから勉強して身につける物で
ある。代々サンタである家では、その家のサンタが子から孫へと伝え、それ以外でもお金のある家の者は、
家庭教師を雇い子供をサンタにしようとするのだ。

つまり、血統がよく、魔力に優れ、高等魔術が扱えるエリートだけがサンタクロースになれるのである。

そして、このコンラート少年も、そうしたサンタクロースを目指す一人であった。
この国の住人は、16歳で成人を向かえ、その時に自分の将来を決めるのだ。コンラートも16の時に
自分はサンタクロースを目指すと決めた。

が・・当初誰もそれを本気にはしなかった。なぜならば、彼は、ツェリと人間との間に生まれた子供、
所謂混血児なのである。混血児の場合、まずは魔力がないので、サンタにはなるわけがないのである。


「でも、そんなの、間違っている!」

混血でも、人格に優れ、エリート意識をかざしたサンタよりは、よほど優れている者もいる!

「俺は、混血児でもサンタクロースになれるって証明するんだ!」

そして、魔力がないと、最下層の生活を強いられる混血児の生活の向上を訴えてやる!!


これに賛同したのが、フォンカーベルニコフ卿アニシナだ。アニシナは、女性はサンタになれない
などという、愚かな掟が許せないのであった。別に本人はサンタになりたいわけではないが、
友人に一人すこぶるなりたがっている少女がいるのだ。

ちなみに、フォンカーベルニコフ家もサンタを輩出する家ではあるが、代々商魂逞しく・・特に兄は
サンタになるより商売で儲けるほうが好きな質であるため、当代にサンタになる者はいない。
そう・・彼女は余ったサンタ株を持つ家の一人なのだ。

そして、彼の異父兄フォンヴォルテール卿グウェンダルは、現役のサンタクロースであった。
彼も、常々サンタという、夢のある仕事をエリート意識の高い者達がするのが不思議であった。

ある意味、コンラート少年の周りには、彼がサンタになるべく環境が整っているのである。

そして、着々とサンタになるべく努力をしたかいがあり、彼は今年の試験の第一関門である、筆記試験に
主席で合格した!また、第二試験でも、野生のトナカイを捕まえ、調教することに成功し、これもトップ
通過した。が・・たとえ此処までどんなによい成績をのこしたとしても、この先の試験には通らない物と、
誰もが思っていたのだ。なにせ、3次試験は、ソリでのレースなのである。2次試験で調教したトナカイを
使って、ソリを操りレースを行うのだ。つまり、そりの原動力となる魔力のない混血児に、この試験は
無理だと思われていたのだが?

「なぁ・・飛んでいないか?」
「あぁ・・しかも、早いな?」
「あっ・・お宅の息子さん、抜かれましたぞ?」

おは!おは!おはははー!とそこへ珍妙な高笑いがした。そこには、観客席の一段高い場所(用は壁の
上なのだが・・。)に、踏ん反り返っている燃える様な赤毛の少女が立っていた。

「どうです?この赤い悪魔特製のソリの威力は?魔力のない者でも。このように自由自在に
飛ぶことが可能なのです!!」

どうやら、ソリに仕掛けがあるらしい。

審査員と観客が見守る中、見事コンラート王子は、一位でゴールのテープを切り、サンタの仮免許を
取ったのであった。


これには、今まで血統の良い者しかなれないとされていたサンタに、王子とはいえ、混血児である
ただそれだけで、虐げられてきた男の子が、並み居る上級貴族の子弟や大商人たちの跡取りを抑えて、
優勝した事に庶民は大喜びした。

これで、最後の試験である、イブに実際に子供の枕元にプレゼントをおいて戻ってくるという試験に
合格すれば、最少年サンタクロースの誕生である。


今年は、最少年サンタの誕生で終るいい年になったと誰もがそう思っていた。



が・・・三次審査で大衆の面前で、恥をかかされたと、一部のサンタの大家は激怒していた。
言いがかりではあるが、エリート意識に凝り固まった者達が、コンラートの試験の妨害に出てきたのだ。


そして、最終試験の抽選会の日。サンタの仮免を取った者は、地球の空をソリで飛ぶ事が許される。
この抽選会で、箱の中から封書を選び、中に書いてある子供に、その子の欲しい物を無事プレゼント
できたら、合格である。

さて、コンラートの番になり、小さな手を箱に入れて一つの青い封筒を選んだ。
試験管にわたすと、彼はコンラートの試験内容を読み上げた。

『○×国・△☆街1−12 渋谷有利 男 6歳 プレゼント内容・・幸せ???』
思わず試験管が、素っ頓狂な声を上げた・・・幸せなんて、そんな高レベルなプレゼントを欲しがる
子供の名前が、何でこんな所に混じっているんだーー!?

そう・・・ほかの受験者は、例えば クマのヌイグルミであったり、サッカーボールであったり、
対象がハッキリしていて、ある程度何が欲しいかわかりやすいものだったりする。

「幸せ」なんて、そんなプレゼントは、大ベテランのサンタクロースでさえ難しいといわれている
プレゼントではないか!?

コンラート王子は、最早、声もない。一体どうすればいいのかが、わからないのだろう?

「そこの、試験官!何故このような高等なプレゼントが、試験にでるのです!これは、100年以上サンタを
勤めた物に回る超難問レベルのプレゼントではないですか?それを、サンタにもなっていない子供に
やらそうというなんておかしいのではないのですか?」

そう、確かに彼女の言うとおりだ。

しかし、一度選んだ試験内容は変えないというのが規則だ。

「どう考えても、そちらのミスではないですか?それをー」

「おや?さすがは、一応とはいえ王子様ですな〜、試験内容が気に食わないので変えろなんて、私達には
とてもとても、口が裂けてもいえない諸行が通るなんて・・。」
「権力と金のある受験生は、有利に出来ているのですね〜?」

ことさら、皆に聞こえるように大きな声で嘲るのは、サンタを代々排出している家の者達だ。
アニシナの水色の瞳に怒りが沸いた!そうか、こいつらか!?

「・・なるほど・・・貴方達ですか?」
怒りに静かに燃える少女を、ニヤニヤと男達が見下してみていた。
「おや?誰かと思えば、フォンカーベルニコフ卿。確か貴公の家では、当代はサンタを出して
いませんでしたね?」

「それがどうしました?サンタにしか、しがみ付く事しかできないほど、我が家は落ちぶれてませんので」
イヤミをイヤミで返す少女に、男達の顔色が代わってゆく。

「まって!アニシナ姉さま!・・おれ、この試験受けます!」

ざわ・・・

「コンラート!何を馬鹿なことを!このプレゼントがどれだけ難しいか?貴方ならわかるでしょう?」

そう、幸せということが、いかに難しいか・・彼ならわかる。王子という身分に生まれ・・だが、混血児
という出自である我が身。それによって、今まで辛い目をいやと言うほど味合わされた。

「でも、まだ時間が有ります。聖夜までに地球で調べる事もできるのでしょう?だったら、おれ、諦め
ません!あきらめないで、最後までやりとおして見せます!そして、サンタは・・サンタクロースは!」

きっ・・!と、コンラート王子は、その小さな体に決意を漲らせると、アニシナにまで暴言をはいた
大人達に向き合った。

「女性でも、混血児でも、その資質があるもの全てがなれるということを、証明して見せます!!」

たからかに、小さな男の子が宣言した内容に、抽選会を見に来ていた観客からは、惜しみない拍手が
贈られた。





12月24日14時05分
2008年度短期集中連載開始。。さて・・クリスマスの25日中にこの連載終るかな?
23日に祝日のあったせいで、逆に忙しかったです。というか、現在進行形で忙しい。
でも、がんばってね?とか、メッセージを貰っちゃうと・・がんばれるのが、お調子者の血か?








2



まったく・・可愛い顔に反して、負けず嫌いなんだから・・・。」
「うるさいぞ、ヨザック!大体なんでお前までがついて来るんだ!」
「年上に向かって、何でとは何だよ?だいたい、コンラッドって、地球初めてだろう?俺は調査官
見習いで、何度も来た事が有るし、この地区も担当した事があるから、この坊やの居所も知っているよ。」
「なら、早く連れて行け。」
「・・・おまえな〜〜ぁぁ」

コンラートとその幼馴染のヨザックは、同じ混血児ということも有り、とても仲がいい・・かもしれない。
いや、いいのだろう・・たまに、ヨザックは何で自分はコイツと友達なのだ?と、泣く事もあるが、
やめないところを見ると、やはり仲がいいのだろう。ヨザックは、コンラートの二つ年上で体格も
良いので、見た目は12歳くらいに見える。


夕日色の髪に、青空の瞳を持つヨザックと、薄茶とも金茶とも言える髪に琥珀に銀の虹彩をの瞳の
コンラート。二人とも不思議な色彩を持つ上に、可愛らしい顔立ちなので、先程から注目を浴びている。
いやそれだけではない。狙われている?

ヨザックは隙なく構えながら歩く。狙われているのはコンラート。なにせ、王子様だ。普通の子供と
同じ身なりをしていても、育ちの品の良さが立ち振る舞いから出たのを嗅ぎ付けたのだろう。

「まいったな〜、なにせ、ここいらはスラム街だしな。毛色が変わったのがいれば、そらま目立つわな?」

そう、ここはこの国でも最下層の暮らしをしている者達が集まる場所だ。そこに、異世界とはいえ
王子様が飛び込んできたのだ。目立たないわけがないだろう?とにかく、コンラートの側を離れない
ほうが良さそう--

「って!コンラッド!ばか!何、走り出すんだ!!」

ヨザックが警戒を強めようとしていると、当の狙われている本人が走り出した!
一目散に、どこかを目指すコンラートを、ヨザックも慌てて追う。コンラートは、細い路地を曲がり、
その先にいた集団を発見すると、躊躇なく飛び込んだ!

「あちゃーー!」
と、ヨザックが思わず頭を抱えたくなるのも無理はない。何と、コンラートは、いかにも僕達不良デスー!
という、主張をしているような、15歳くらいの少年達から、何かを守るように立ち塞がったのだ。

「こら、お前たち!複数でこんな小さな子供を苛めるとは何事だ!」

4・5人いた少年達は、突如、目の前に現われた彼に驚いたが、どう見ても自分達より年下の・・それも
可愛い顔立ちのコンラートに、ひゅーと口笛を吹いて、ニヤニヤと笑った。

「おや、こりゃ、滅多にいない上玉だな!」
「ちょうどいい、こいつ、俺たちに生意気な口を叩いたお仕置きをしてやろうぜ。」
「おい、御嬢ちゃん、ちょっと俺らとつきあえよ。気持ちいいことしてやるからよ。」

あ!と、ヨザックが思ったときは遅かった・・・コンラートから、怒りのオーラが立ち昇った!

「だれが・・・おじょうちゃん・・だと?」


おれは男だーーー!!!

ぎゃぁぁぁ!!!


「あははは、やっぱり・・・。」
がっくりと、項垂れるヨザック。あの見た目と、優しそうな顔立ちに騙されるが、コンラートは
喧嘩で負けたことはナイ!なにせ、王子とはいえ混血という事で、大人の目の届かない所で、手ひどい
いじめを受けてきた。それを、持ち前の負けん気で倒していくうちに、いつの間にか強くなっていた
というわけである。いや、強くならねば生きて来れなかったと言うところか?

僅か10分で不良少年を叩きのめすと、コンラートは角で まるまって震えている 小さな子供に声をかけた。

「大丈夫か?君、怪我はない?」

びくびくと、震えていた子供だったが、コンラートの優しい声に恐る恐る目を開けた。

「!!天使さま?」
「え?」
「お兄ちゃん、天使さまでしょう?だって、キラキラだもん!」

その子は、コンラートを見ると、ヒシッとしがみ付いてこう言った。

「いい子にしていると、神様のお使いの天使さまがきて、願い事を叶えてくれるって、神父様が
言っていたもの?お兄ちゃん、ゆーちゃんのお願い叶えてくれるんでしょう?」

薄汚れた服に、かさ付いた肌、お世辞にもきれいとはいえない子供。しかし、その大きな黒い瞳は
キラキラと輝き、よく見れば顔立ちも可愛らしい。ふと、気になる単語をきいて、コンラートが聞き
かえす。

「ゆーちゃん?」
「あれ・・コンラッド、この子もしかして?」

ヨザックも、何か気がついたようだ。というか、二人とも、この顔に見覚えがあった。
そう、調査票に載っていた顔写真より、幾分やせているが、間違いない・・。

「きみ、もしかして?渋谷有利くん?」
「うわぁ!すごい!やっぱりお兄ちゃん、天使さまなんだね!だって、ゆーちゃんの名前当てたもの!」

ビンゴ!

思わぬところで、思わぬ者と遭遇してしまった二人であった。



「ユーリ!この愚図!水汲みをしておけって言っただろうが!」
ユーリの家だという所まで送っていけば、そこは薄汚い旅籠であった。ここは、日雇い労働者たちに、
低料金で寝床を与えるほか、一階では酒も出していた。有利はそこで下働きをしている。
ここでいいですと、裏から有利が家にはいると、直ぐに女性の罵倒が聞こえてきた。

「ご・・ごめんなさい!すぐします!」
そういうと、有利は裏庭にある井戸から水汲み始めた。

「なんてことを!」
飛び出そうとするコンラートを、ヨザックが止める。
「ばか、ここで余計な事をすれば、立場が悪くなるのは、あの子だぞ!」
「なんだと・・。」

コンラートの目の前で、小さな子供が一生懸命、水を汲んでは、運んで台所の瓶を満たしてゆく。
「仕事と寝床があるだけでもましなんだ!ここでお前が余計な事をして、あの子が追い出されたら
どうするんだ!?あんな小さな子、外でなんて数日もしない内に死んでしまうぞ!」
「そ・・そんな・・」

あまりの事にショックを受けるコンラート。それはそうだろう、眞魔国は魔力の満ちた世界だ。
混血が扱いが悪いといっても、食べ物と寝床ぐらいは与えられる。仕事もあるから、路頭に迷う
心配だけはしなくて済むように、国の政策もしてあるのだ。

有利は6歳というが、3歳くらいに見える。きっと、食べる物が与えられないから成長が遅いのだろう。

「あんなに、いい子なのに・・・。」
「まぁ、サンタからプレゼントが行くような子だ。いい子には違いない。」

「きめた!俺はなんとしても、あの子が喜ぶ贈り物をしてみせる!」
「でも、この子の幸せって何だ?お腹一杯食べることか?もっと裕福な家に就職すること?それとも、
優しい養い親に育ててもらう事か?」
「・・食事なら、そう願えばいいのだろう?とにかく、暫らくここにいて!ユーリの幸せをさぐるぞ!」
「・・って、ここにかよ!?」




宿の女将は、その珍妙な客に驚いた。どうみても、良い所の坊ちゃん風な少年と、野性味がある少年の
組み合わせという珍妙さだ。だが、こんな小さな見目良い子供二人で、こんなスラム街の場末に
泊まろうなんて、襲ってくれと、言うばかりではないか?何か仔細でもあるのだろうか?

「部屋はあるが・・あんたたち金はあるのか?」
「ヨザ・・前金で払ってやれ。」
「へ〜〜い、人使いのあらい・・。」

ぶつくさいいながら、派手な髪の少年が、前金で1週間分を払った。訝しげに思いつつも、部屋に案内
する。少年たちは部屋に入ると、狭いが想像していたよりも、きちんとした部屋なので驚いている。

「掃除が行き届いている、良い部屋だ。」
「世辞は良い。アンタの家に比べれば、ぼろいだろうよ。でも、うちで一番良い部屋だよ。ところで、
お前さん方、何でうちになんか泊まろうと思ったんだい?その様子じゃ金だってあるだろ?」

「あぁ、ここに来る途中小さな男の子に逢って、ここを知ったんだけど?アンタの子かい?」

ユーリか?なるほど、あの子もたまには、役に立つじゃないか?

「いいや・・うちの前に捨てられていた子供さ。下働きをする代わりにおいているのさ。」
「あんな、小さな子供をか?」
「コンラッドやめろ!」
「く・・。」

「小さい子供だからさ、アンタ良い所の坊ちゃんだから知らないだろうが、うちだっていつ潰れるか、
わかりゃしないだろう?それでも、下働きくらいできるようになれば、どこかの家で寝床と食事くらいはあり
つけれるだろう?特にあの子は、なりが小さいからね〜人の三倍は働かないと、誰も拾っちゃくれないさ。」

「・・・・・・なる・・ほど・・。」
どうやら、見た目より、ずっと良いおばさんのようだ。

「あの・・女将さん、生意気な口を利いてスミマセンでした。」

ぺこりと、素直に謝るコンラートに、いいから気にしなさんなと。ケラケラ笑ってくれる。

「それより、部屋には鍵をきちんとかけるんだよ?食事は、ユーリに届けさせよう。ここは、追い
詰められた者もいる。金と命を取られるかもしれないよ?せいぜい気をつけな。」

「はい、ありがとうございます。」
「あんた・・ふふ・・変なガキだね?」

女将が廊下に消えると、ヨザックが言われたとおりに鍵をかけた。

「どうやら、思った以上に、良い人らしいな。では、ここより良い所に就職って線も消えたな。」
コンラートがつぶやく。

「コンラッド・・・そもそも、あのくらいの年の子供に、何が幸せなんて、自分でもわかって
ないかも知れないってこと、気がついているか?そうしたら・・お前どうするんだ?」

「え?」

いわれてみれば、自分もその頃といえば、やっと混血の立場が微妙である事がわかったくらいだ。
自分にとって何が幸せかなんて、考えた事があっただろうか?

「どうしよう・・・。」

呆然と呟くコンラートに、ヤレヤレとヨザックが肩をすくめた。





18時30分UP
ふ〜〜ミスドのクリスマス限定ドーナツをたべました・・カップケーキだった。
しかもモンブランツリーとあったので、マロンのドーナツとおもっていたら、ただのクリームだった。
しょーーーく!しかも、あま〜〜い><





3


場末の宿屋の裏で、子供が三人、大中小と並んですわって、野菜の皮むきをしていた。

「違い違う、じゃが芋を持っているほうの手でで、切る方向を調節するんだよ!親指で皮を
送るようにして、包丁は軽く押す程度だ。じゃないと手を切るぞ!」

ヨザックにダメだしされながら、コンラートとユーリは一生懸命じゃが芋の皮むきに挑戦していた。

「おい、女将、ナンダイあのチビたちは?いつから下働きを増やしたんだい?」
「あぁ、大きい二人は宿泊客さ。何を思ったか、仕事を手伝うって言ってね。猫の手ぐらいには
なるだろうとおもったんだけど・・・。」

「オレンジの子は上手いけれど・・あとの二人は、あぶなっかしいな・・。」

本当におかしな子供達だ。コンラートというのは、かなり育ちがよいのだろう。それでいて、金持ち
特有の驕るところは全く見られない。今日も、夕食時の忙しさに慌しくしていたら、いつの間にか
台所に入って、ユーリと仲良く並んで皿洗いをしていたのには驚いた。その上、いつの間にかヨザック
までもが、給仕を買って出てホールを急がしくも回っていた。

しかも、この子は酒飲みの相手も上手い。きけば、死んだ母親が大酒飲みだったと言う。どうやら、
それなりに苦労をしてきたようだ。

しかも、もっと驚いたのが、この二人・・まるっきり子供なのに、酒を飲んで暴れはじめた酔っ払いを
二人揃って手際よく伸してしまったのだ。相当喧嘩慣れしている。本当に何者なんだろう?



「おじさん、幸せって何だと思いますか?」
「・・・・・おい・・やめてくれ・・・酒がまずくなる・・・。」
真剣な顔で、小さな少年にそんな事をいきなり聞かれた男は、少々げんなりしてつぶやいた・・。
しまった・・こいつは、絡むタイプだったのか!?

「なんだ、坊主?お前さん、教会の回しものか?」
「多少は関係ありますが・・教会とか神様とかは管轄外です。」
「なんだ?じゃぁ、悪魔かい?」
「いいえ、サンタクロース見習いです。」
「あははは、そりゃいいや・・だったら、坊ちゃん、贈り物でもくれるのかい?」
「いいえ、サンタは一年間良い子にしていた子供にしか行きません。大人は自力で
幸せになって下さい。」
「あははは、そうか・・そうだよな〜・・。」
子供の癖に、せちがないな〜〜なんて、ぼやく親父さんたち。


「コンラッド、天使様じゃないの?」
「うん、俺はサンタクロースだよ。」
「サンタさんって・・お髭のおじいちゃんじゃないの?」
「ユーリ、サンタは一人じゃないんだ。大体一人で一日に世界中をまわったら、いくらサンタでも
過労死するよ。」
「うぇぇん、サンタさんしんじゃうの?」
「コンラッド・・・お前・・・酒飲んだだろう?」

ヨザックが、ほんの少し頼まれた買い物をして帰ってくれば、何故だか酒飲み連中と語らい合っている
コンラートがいた。しかも、自分の正体をぺらぺら話している。

いくらなんでもおかしいと思って近づいてみれば・・・彼の手の中には、琥珀色の液体・・・。

「?酒?飲んでないぞ?」
「いや飲んでるって、明らかに言動がおかしいし、そのコップの中身は何だよっ!」
「?・・・幸せになれる飲み物だって、このおじさんが・・・。」

あぁ、そりゃ、おじさん達にはそうだろう・・それで、冒頭の幸せって何だという質問に繋がって
いるのか?なんとなーく、コトの成り行きが見えてきたぞ。

小さくこちらに、すまないとおじさんが謝る。そして、目がどうにかしてくれと訴えてた。

「女将さん、コイツ酒飲んじまったから、上で休ませるわ〜。一人じゃ心配だから、ユーリ坊ちゃんに
付き添ってもらっていいかい?」

調理場から、好きにしなという声だけが聞こえる。ヨザックは、ごねるコンラートを宛がわれた部屋に
連れてゆくと、ユーリに中から鍵をかけて、自分か女将さん以外入れないようにと言い聞かせた。

「うん、ゆーちゃん、コンラッドの看病するよ!」
「たのんだぞ、もし気持ち悪くなるようなら、外に連れ出して吐かせてやってくれ。」
「はーい!」


ヨザックが下に降りていくと、ユーリは鍵をかけて、ベットの横にと椅子を持ってきて座った。

「ユーリ、そこじゃ寒いだろう?こっちにおいで。」
コンラートが、ベットの中に招くと、でも・・と、ユーリは口ごもる。女将さんに、客用のベットで
寝るなといわれている。
「あぁ、お金を払ってあるから、23日までは、ここの部屋の主は俺だよ。だからおいで・・。」
「いいの?」
「うん・・早くしないと、俺も寒いんだけど?」
「あ・・ごめんなさい・・えっと・・じゃぁ・・おじゃまします。」

もぞもぞと、ユーリはコンラートのベットに入り込む。すると、すぐにコンラートの腕が伸びてきて、
小さな子供の体をすっぽりと包み込む。そんな事をされたのは初めてだ。いつもは屋根裏部屋で、一人
毛布で丸まって眠っているだけだ。

「あったかーい。コンラッド・・お母さんみたい。」
「おかあさん??・・お父さんじゃなくて?」
「うん・・・だって、コンラッド。良い匂いがするもの。」
すりすりと、擦り寄れば、コンラートからは、石鹸の香りがした。

「ユーリ・・・ねぇ、ユーリの幸せって何?」
「ゆーちゃんの?」
「うん・・・・ユーリの幸せ・・・どうしたら、君は幸せになるの?おいしい物を一杯食べれたら?」
ふるふると、ユーリは首を横に振った.

「じゃぁ、家族は?やさしい家族が欲しくない?」
「ママ・・死んじゃったもん。パパは知らないし・・・ゆーちゃん、家族ってよくわからない・・。」
「うーん、ずっと一緒にいて、ごはん食べたり、お話したり、遊んだり、たまに喧嘩して仲直りして
それでも、一緒にいるんだ。この世には、子供がいない夫婦が一杯いる。そうした人たちの所に
養子に入れば良い・・新しいお父さんとお母さんほしくない?」

「・・・・コンラッドは?新しい家族の中に、コンラッドは いるの?」
「おれ?・・俺は、いないよ。」
「なんで?」
「・・なんでといわれても・・・俺にはもう家族がいるから、養子には行かないよ。」
「・・・じゃぁ・・いや・・ゆーちゃん、ここにいるもん。」
「ユーリ。」
くりぐりと、胸に自分の頭を擦り付けてくる幼子に、コンラートは困った。なんだか、ユーリが
怒っているようだ?

「ユーリどうしたの? 何か怒っているの?」
「ちがうもん、ゆーちゃん怒ってないもん。」
じゃぁ、拗ねているのか?

困ったな・・・時間は刻一刻と過ぎている。ユーリが欲しい幸せがわからなければ、贈り様がない。
最早試験など関係なかった。この子に、幸せという物を贈ってあげたかった。

「ユーリ・・君のほしい幸せは、なんなんだろうね?」

その呟きに、応えは返って来なかった。




日付が変わる頃になると、この宿の一日も終る。酒飲みたちは追い返し、宿の宿泊客は部屋へと
お引取り願うと、ヨザックは明日のために、一階の掃除をする。

「まったく、あんたも変わった子だね。金払って泊まっているのに、こんな手伝いをして。」
「いや〜、俺こういう所落ち着くんだわ。母親が酒場女だったからね。」
「ふ〜ん、アンタもそれなりに苦労した口かい。」
「まぁね、コンラートの家族が拾ってくれなかったら・・俺もスラムのガキ共と変わらない暮らしを
していたろうよ。」
よし終わった!と、床掃除を終えると、バケツの水を捨てに外へと向かう。


「拾うか・・・、あんた達が良い子だって事はわかるよ・・だけどね?ユーリに必要以上にやさしくする
のはお止め。あの子はこれからも、ここで生きていくんだよ。一時の優しさが酷ってことも有るんだよ。」

もう既に遅いかもしれないが・・・ユーリはコンラートに必要以上に懐いてしまっている。
それは、ヨザックにもわかっていた。でも、きっとコンラートは、ユーリをほっておくなんて出来ない。

「わかっている・・・でも、おばちゃん。例え一時でも、掛け値なしの優しさが、人を支える事も
有るんだよ。」

俺も、あいつに救われた口だから・・と、にっと笑った。毒気を抜かれた女将をため息をつく。

「・・・本当におかしな子だね・・あんた達と話していると、大人と話しているようだよ。」



次の朝、ユーリの様子はおかしかった。やはり、昨日の事で拗ねているのだろうか?
「ユーリ、まだ拗ねているの?」
コンラートが話しかけるも、ぷいっと・・ユーリは横を向いてしまう。

「おい、コンラッド、お前何かしたのか?」
「・・・いや・・たしか、ユ−リの幸せについて聞いたような?」
「・・・おまえ、とうとう本人に聞いちまったのか?」
「・・だって、もう時間が無いんだ。準備に一日はかかるし、明日にここは発たなくては
間に合わないだろう?」

そう、明日の23日には、ここをたち、24日の深夜から25日の早朝までには、贈り物をしなければ
ならないのだ。このままでは、ユーリはいい子であるにも拘らず、クリスマスに贈り物を貰えない
なんて事になりかねない!あの子が、がっかりするかと思うと、コンラートだって辛い。

「コンラッド・・・まぁ、あと一日ある。どうにか聞き出そうぜ?」
「あぁ・・。」


「ユーリ・・お前さん、あのコンラート坊やと喧嘩でもしたのかい?」
「・・・ちがいます・・コンラッドは・・・。」
いいにくそうなユーリに、女将さんはそれならいいがと、水を汲みに行くように言いつける。
有利が桶を持って外に出ようとすると、ユーリと、呼び止められた。

「仲直りをするなら早くしな、あの二人は明日までの泊まりだ。明日の朝にはここを出て行ってしまうよ。
そうしたら・・もう合えないかもしれないからね?」

「え・・・・」

からん・・・と、桶が有利の手から滑り落ちた。

「仲良くしてもらって忘れちまったのかい?あの二人は客なんだよ。かならずここから発つ人達なんだ」

「コンラッドがイナクナル・・・そんな・・・。」

有利は、呆然と呟いた。

その様子に、女将さんは、ヤレヤレと呟く。ヨザ・・一時のやさしさが人を救うって言うけれどね?
どうやら、酷だったみたいだよ。その視線の先で、有利は、蒼白になって、ガタガタと震えていた。




25日0時10分UP
うぎゃぁぁーー、日付が変わった!!
25にちということは、え〜みなさん、メリークリスマス!
あ〜〜んと、おやすみなさーい!




4

「あ、ユーリ!水汲みかい?俺が手伝うよ。」
「いいえ!これはゆーちゃんがやります。だって、ゆーちゃんの仕事だもん!」
うんしょ!うんしょ!と、フラフラしながらも、ユーリは一人で台所の瓶を一杯にする。

「ユーリ・・・まだ拗ねてるのか・・。」

ユーリはその日、一人で黙々と言われた仕事を片付けていた。コンラートは、何度か手伝いを
申し出たが、ゆーちゃんの仕事だからと断られた。

コンラートは、その様子にすっかり嫌われてしまったかと、しょぼくれて部屋に引きこもった。

「こら〜、坊ちゃんの幸せを、つきとめるんじゃなかったのか?」
ヨザックは、コンコンッと扉を叩いて、部屋でふてくされて転がっている幼馴染に声をかけるも、
ごろんっと・・壁に向かって寝返りを打たれてしまう。コンラートがこんな態度をとるのは珍しい。

「おいおい、そんなにユーリ坊ちゃんにつれなくされたのが堪えたのかよ〜。」

ひゅん!! ダン!!

何かが飛んできたと思ったら、短剣がヨザックの横10センチの所に突き刺さっている。

「あっぶねーな・・・俺に八つ当たりかよ。」
「うるさい!」

取り付く島もない物言いに、こりゃだめだと下に降りてゆく。
下では、掃除をしている有利の姿があ合った。一生懸命テーブルを拭いている。

「ユーリ坊ちゃん、そろそろコンラッドを許してやらないか?」
「ゆーちゃん、怒ってないよ?」
それに、きょとんとして、有利が答える。その様子にうそはないようだ。

「じゃぁ、何でコンラッドが手伝うのを嫌がるんです?昨日まで仲良くやっていたじゃないですかー?」
「だって、ゆーちゃんのお仕事だもん。ちゃんとやれなくちゃ、いい子じゃないもん!」
「何言っているんですか?坊ちゃんはいい子ですよ?それはもう!サンタ公認のいい子ですよ。」
「サンタさん?じゃぁ、サンタさん、ゆーちゃんのお願い聞いてくれるかな?」
「聞きますともさ!で、何が欲しいんです?」
しめた!と、ヨザックが勢い込んで聞くと・・

「・・・なんでヨザックに言うの?」
きょん??と小首を傾げて言うようすに、う・・・とつまる。中々鋭い子供だ。

「良いじゃないですか?坊ちゃんと俺は仲良しですし、教えてくださいよ〜。」
「だめ!だってナイショだもん、サンタさんにだけ教えるんだもん!」

うわ〜〜意外に強情なお子様だ。どうしようかと、ヨザックも困る。しかし、本当に時間が無いのだ。

「う〜〜ん、そうだ!坊ちゃんだって、夕食にいきなり今日のメニューと違うものを頼まれた困る
でしょう?夕食だって、下準備に色々掛かるし。それと同じです。サンタだって準備があるんです。
きっとサンタも今頃坊ちゃんの欲しいプレゼントが何かわからなくて、拗ねて・・いや困っていると
思いますよ?」

実際に、2階で拗ねているし・・・。

「ほんと?サンタさん、ユーちゃんのプレゼントわからなくて困っているの?」
「ええ、かなり深刻な模様です。」

実際に煮詰まって、人に短剣を飛ばして八つ当たりするくらいに困っています!

「あ・・あの・・じゃぁ、ナイショだよ?サンタさん以外には言わないでね?」
「えぇ、もちろんです。」

「あ・・・あのね・・・」
もじもじっと、頬を染めて、ユーリは欲しいのもを語った。





「わかったぞコンラッド!」
バンッ!!と、勢いよくドアが開けられ、ヨザックはズカズカとベットまで近寄ると、コンラートを
たたき起こした!

「何をする!」

「ばか、良いから起きろ!ユーリ坊ちゃんの贈り物の内容がわかったぞ。」
「なんだって!?」

「いいか、これはちょっと難しいぞ?だけれども、お前の頑張り次第で叶うものだ。」
「勿体つけずに言え!」

この男は・・・さっきまで拗ねて寝ていたくせに・・(−−)
あまりの態度に、ちょっと、グリエは理不尽な物を感じた。

「え〜〜、グリエ、これをしらべるのっ、結構大変だったのにな〜?」
何か、ご褒美くらいあってよくないのかな?ニヤニヤと、そんな要求をしてみれば?

ちゅっ!っと、頬に軽い衝撃がきた。

「これでいいよな?」
にっこりと、至近距離で、綺麗に微笑まれれば・・・これで落ちない男は・・コンラートの周りには
いなかった。



「え?もう発つのかい?」
少年たちは揃って降りてくると、女将に変える旨を伝えた。
「えぇ、一日早いですが、お世話になりました。」
ぺこり・・と、二人がお辞儀をする。

「なんだ、坊主達いっちまうのかい?」
「まだいいじゃねーか、明日まで払ってるんだろう?まだいなよ。」

食事に来ていた客達が、この少年たちとの別れを惜しむ。

「えぇ、でも、もう発たないと、クリスマスに間に合いませんから。」
色々お世話になりましたと、二人は一人一人に挨拶をする。

「クリスマスか・・・そうか・・家族と過ごすもんなんだよな・・俺だって帰る汽車賃があればな。」
「あんた、故郷は遠いもんな。」
「あぁ・・そうだな!うん、クリスマスは家族で過ごせるならそうしたほうがいい!元気でな坊主達!」

「はい、おじさん達も。残り二日、いい子にしていてくださいね?じゃないと、サンタがきませんよ?」
コンラートは、意味不明の言葉を残して宿を出て行った。

「なんとも、最後まで、変わった子供だったよ。」
女将さんは、少し寂しい気持ちで二人が出て行った扉を見つめた。自分がこんな気持ちのなるのだ、
さぞかしユーリは、がっかりするだろう。

運悪く、外に買い物に出かけている小さな男の子を思う。どのみち、明日にはお別れをしなくては
ならない相手だ。それが早まっただけとはいえ、何ともやるせない女将さんだった。


案の定、帰ってきたユーリは、二人が旅立ったと聞いて、二階へ駆け上がり、誰もいなくなった部屋を
見て呆然と立ち尽くした。

「なんで?コンラッド?ゆーちゃんにバイバイもしてくれなかったの?」


ばたばたばた!

ユーリは自分にあてがわれた部屋まで来ると、粗末なベットの上に飛び込んだ。

「コンラッド・・こんらっどぉ〜〜。」
毛布に包まると、ひくひっくと泣きじゃくる。ふと・・コンラートの香りがした気がして、ユーリは
毛布の中から顔を出した。よくみれば、枕元にはコンラートの上着が畳んで置いてあった。

「これ・・コンラッドの・・。」

ぐしぐしと両手で涙を拭くと、有利はコンラートの上着に顔を近づけた。くんくんと鼻を動かせば
彼の匂いがした。手を伸ばすと、かさり・・と紙が手に当る。

「??」

『ユーリへ クリスマスまでいい子にしていてください。寒いといけないので、寝る時は上着も
かけて寝るんだよ?  コンラートより 』

「いい子?ゆーちゃん、いい子にしていたもん。でも、コンラッドいなくなっちゃったもん。」

いい子にしていたって、有利の願いは叶わなかった。コンラートはいなくなった。有利が側にいて
欲しいと願う人は、いつでも彼の側から居なくなる。

「ユーリ、いつまで泣いているんだい。そろそろ仕事が溜まってきているよ!」
ドアの向こうから、女将さんが呼ぶ声がする。

「はい、いま行きます。」
もそもそと、ユーリはベットから降りる。じっと、コンラートがおいていった上着を見つめると、
ぽす・・・と、顔を埋めた。

コンラッドの匂い・・・・

すぅーと、思いっきり吸い込むと、有利は階下へと降りていった。


有利はすぐに台所に入って洗い物を始めた。昨日まで、ここには並んでコンラートがいたのに・・。
ぽたぽた・・っと、ためた水に水滴が落ちる。有利は、袖で乱暴にふくと、一心不乱に洗い物を
減らすべく、洗い始めた。

黙々と働く有利を、女将さんはそっと見やる。ああやって体を動かしていれば、気がまぎれるだろう?
それに有利はまだ小さい。すぐに通りすがりの二人の事など忘れるにちがいない。

いい子にしていたって、願いは叶わない。


有利の胸に棘のように刺さったその思い・・・でも、

『いい子にしていてください。』

それが、コンラートの望みだから・・・有利は、一生懸命いい子でいようとしたのだった。





12時30分UP
はい、4話目です。ラストスパーート!




5


アニシナちゃーん!いる?
アニシナ姉さまー!いらっしゃいますか?


コンラート達が地球から帰ってきたという知らせを聞いて、ツェリ・グウェン・アニシナは、待ち構えて
いると、母でも兄でもなく、真っ先に赤毛の年上の少女の名前を呼びつつ飛び込んできた。

「いた!コンラッド!いたぞ!」
「うわぁ、よかった!アニシナ姉さま、お願いがあるんです!」
帰還の挨拶もなしに、二人は飛び込んできた勢いのまま、アニシナの周りにまとわりつく。

「あなた方、何はともあれ落ち着きなさい!そして、わかるように説明しなさい!」
むに〜〜と、二人は頬をつかまれると、ホラ、みなさい!と、この部屋に、あと二人いることを
示唆された。すっかり忘れていた事に、二人揃ってばつが悪そうに顔を合わせた。

「あ・・・」
「えっと・・」

「「ただいま帰りました」」

ぺこりと、少年二人組みは、ツェリとグウェンダルに帰還の挨拶をしたのだった。



「それが、その子が願った幸せか?」
「はい、そーです!グリエが聞き出したんだから間違いないでぇーす。」
グウェンダルが話を聞き終わると、唸りながら確認をした。

「ねぇ、グウェン?その、ユーリちゃんの望みをかなえては、あげられないかしら?」
ツェリも二人の話から、どうにか力になれないかと、王太子を見つめる。こういったことは、
魔王である自分よりも、しっかり者の長男の方が得意なのだ。

「・・・・それは、アニシナの検査結果を待たなくては・・ですが、母上のお許しがあれば、私が
どうにかしましょう。」
「許可くらいいくらでも出すわ!うんもう!貴方って死んだお父様に似て、頼もしいんだから!」
ツェリは、頼もしく育った我が子に、ちゅ!と頬にキスを送ると綺麗に微笑んだ。

ヨザックは、やっぱり親子だな〜とおもう、ああやって微笑む様は、コンラートとそっくりだ。
ちょーーと、コンラートの将来が、心配になるヨザックであった。


「コンラート!お待たせしました、検査結果が出ましたよ。」
ばーーん!と、何時ものごとく、ドアを勢いよく開け放つと、アニシナが白衣のまま入ってきた。

「アニシナお姉さま!そ・・それで、結果は。」
「えぇ、ヨザックの持ち帰ったこの髪の持ち主は、間違いありません。魔族の血を引く混血児です!」

その瞬間、少年二人は抱き合って、お互いの方をバンバンたたきあった!
「よしっ!やったぞ、コンラッド!」
「あぁ、やったな!これで、ユーリへの贈り物が出来るぞ!」
「コンラッド!お前は配達の準備をしておけ、それが終ったら少し寝るんだ。俺が、プレゼントを
かき集めるから!」
「でも、お前だって、地球との行き来は疲れるだろう?」
「ばーか、俺のほうが、体力があるって言うの!それより、本番は誰も手を貸せないんだ。お前が
しっかりしなくちゃ、だれが贈り物を届けるんだよ!」

サンタは、体力勝負だぜ!

そういうと、幼馴染は、ドアから勢いよく飛び出していった。

「コンラート、ヨザックの言うとおりだ。お前は魔力の代わりに、動力に体力を使う。今の内に
休んでおくがいい。」

「でも、グウェンダル兄上だって、現役のサンタなんだし、担当のプレゼントの用意があるでしょう?」
「うふふ、大丈夫よ。グウェンダルは全て終わらしてあるもの。あとは、出発するだけよ。」
弟の手伝いが出来るようにって、今年は早めに準備したのよね〜?

「まぁ、この男にしては、中々いい心がけです。」
「お前はもう黙っていてくれ・・アニシナ・・。」





「ユーリ、もうここはいい。そろそろ寝な。」
「はい、おやすみなさい・・・」
ユーリは、トコトコと裏の階段を使って、自分の屋根裏部屋へと戻っていった。その後ろ姿は、元気が
なく、表情も精彩を欠いていた。

だが、仕事は以前よりもよくこなすし、言いつけも守れるようになっていた。

「はやく、忘れればいいんだけれど・・。」
「何がだい?」
思わず呟いた声を聞きとがめた、客の一人が聞き返してきた。

「あ・・いいや、こっちの話さ。おや、あんたそれ?」
みれば、男の手には小さな袋が二つ。一応リボンされている。

「あぁ、これかい?子供達へのプレゼントさ。帰れないとわかってはいるけれど、思わず買っちまった
んだ。なんか、あの坊主が別れ際に言った言葉が不思議でさ〜。」

いや、無駄使いしちゃったかな?などと、笑ってごまかす男。そういえば、酒で暴れる奴等も減った。
皆、あの子が最後に言った言葉のせいだろうか?

『いい子にしていてくださいね?じゃないと、サンタがきませんよ?」』
まるで、本当にサンタがいるようなことを言い残して帰っていった。不思議な少年だ。ばかばかしいと
思いつつも、どこか心に引っ掛かりを覚える。

「なぁ、女将。アンタだったら、サンタに何を願う?」
「あはは、馬鹿言いでないよ。そりゃ昔は、サンタに願った事もあったけれども・・もう、この年じゃね」
そう、昔は、お人形が欲しくて、一生懸命いい子にしていたっけ?でも、サンタが家にやってくることは
なかった。

「そうだな・・。でもま、いいじゃないか?今夜はクリスマスイブだ。たまにはこんな話を
俺たちがしても、神様だって笑ってくれるさ。」







さて、24日の深夜。真っ青なサンタ服に身を包んだコンラートは、ソリに贈り物を入れて、同じく
深緑のサンタ服に身を包んだグウェンダルと共に、地球に向けて出発した。

「コンラーと私のソリの後ろにつけ、異空間を抜けるまでの抵抗を減らすんだ。」
「はい、ありがとう兄上!」

眞魔国と地球のあいだの異空間を抜けると、すでにコンラートもよく知る、ユーリのいる街が
眼下に見えた。ここから先は、コンラート一人がしなくてはならない。

「コンラート、無事贈り物をして帰って来い。」
「はい、兄上も、どうぞお気をつけて。」

シャンシャンと鈴をならして、グウェンダルのソリが東の空へと消えてゆく、彼の担当はここから
かなり離れているのだが、わざわざ異空間を抜けるときに、こちらに繋いでくれたらしい。

「やっぱり兄上は優しいな。さて、待っていてねユーリ。すぐに行くからね。」

いくぞ、ノーカンティー!

軽く手綱を叩けば、コンラートのソリを引っ張るトナカイが、軽快に走り出す。ノーカンティーは
メスのトナカイではあるが、コンラートが赤ちゃんの時から大事に育てたトナカイである。
とても優秀で、ソリ引きトナカイ界のマドンナと呼ばれているトナカイさんである。


「あ・・あの赤い屋根!女将さんの宿屋だ。ノーカンティー!あの煙突の側に降りてくれ。」
コンラートがそういうと、ノーカンティーは、ピッタリと煙突の横の屋根に降り立った。

さて、屋根に大きなソリと、トナカイ。それにサンタ服を着た大きな袋を持った男の子がいたら、
普通は誰かが見咎めて騒ぐだろう。だが、コンラートの着るサンタ服とソリには仕掛けが合った。

偏光ガラス仕様とでも言うのか?回りの景色と溶け込むのである。カメレオンみたいな機能が備わって
いた。普通のサンタは、色々魔術でごまかすのだが、コンラートには魔力がないので、アニシナの
魔道具はとても助かる。

「う〜〜ん、本当に見えないみたいだな?アニシナお姉さまの魔道具って、仕掛けは
わからないけれど、やっぱりすごいな〜!」

さてと、現在25日1時02分クリスマス当日だし、そろそろ女将さんも寝た頃だし行くか?

コンラートは、シャンシャンシャン!と、サンタの眠りの鈴を鳴らした。すると、鈴からふわりと
銀色の光が落ちて、家の中へと降りそそいでゆく。

時計を見てきっかり5分!これで、多少の物音がしても大丈夫!眠りの鈴から出る光は、健やかなる
眠りへと誘ってくれるものであるのです!・・と、アニシナが胸を張っていただけの事はある。

煙突から、無事、潜入を果たしたコンラートが、台所におりたっても、中はシーンと寝静まり、
だれもサンタがやってきた事には気づかないようだ。でも、一応用心のために、気配は消しながら歩く。

まずは、一番最後まで起きているはずの女将さんの部屋を覗く。ベットでぐっすり眠っているようだ。

「May your Christmas be filled with plenty of joy and happiness.」
(あなたのクリスマスが多くの喜びと幸せで満ちたものになりますように)

そう心を込めて囁くと、袋から取り出した箱を一つ置いた。
「本当は、大人は管轄外なんですが、俺からのお礼です。」

そうして、コンラートは一部屋一部屋回ると、最後に屋根裏部屋へとたどり着いた。
粗末なベットの上では、毛布に包まって、小さな男の子が眠っていた。

ふと、コンラートが気付くと、有利の腕には、コンラートが置いていった上着が抱きしめられていた。
それに、顔を埋めるようにして、有利は眠っていた。目尻には、涙の後がある。
急いでいたとはいえ、何も言わずに出て行ったのは、やはりまずかったかもしれない。

「でも、おかげで間に合った。」
コンラートは優しく有利の頬をなでる。

「ユーリ・・ユーリ起きて、プレゼントを持ってきたよ。」
すると、ふるり・・と、まつげが震えて、有利が目を覚ます。

「コンラッドがいる。」
「おきた?ユーリ。」

じーと、ユーリはコンラートを見つめる。どうyさら、まだ状況がわかってないらしい。
コンラートは、腕を伸ばすと、小さな男の子をすっぽりと胸に抱えた。

「コンラッドの匂い・・。」
すると、くんくんと鼻を動かして、有利がその胸へと擦り寄ってきた。
「ユーリのそれって、もしかして癖かな?」
「コンラッドの声がする〜〜ぅ。」
「ユーリ、起きてください。ほらもう一回寝ようとしない。」
「やぁ〜〜、おきたら、コンラッドも消えちゃうもん。」
「大丈夫です、夢じゃないから。」

そういうと、コンラートは、その小さな唇に、己の唇を重ねた。
驚いて!パッチリと目が覚めた有利に、小さなサンタクロースは、微笑んでみせる。

ボッ!!!

夜目でもわかるくらいに真っ赤になった有利に、コンラートが笑いながら耳元に囁く。

「Merry Christmas・いい子のユーリにはサンタクロースからプレゼントがあるよ。」
「サンタさん??」
「そう、俺が、ユーリのサンタクロースだよ。」
いわれてみれば、コンラートの服装はサンタクロースのそれである。
「何で赤い服じゃないの?」
「赤い服は、コカ○ーラの陰謀。本当は色々な服があるんだよ。」
「へ〜、ゆーちゃんね、コンラッドの着ている青大好き!」
「そう、ありがとう。」




「じゃぁ、そろそろ、ユーリの願いを叶えに行こう。」
「ゆーちゃんの?じゃぁ、ゆーちゃん!コンラッドと家族になれるの?」
「うん、そうだよ。ユーリと俺は、今日から家族だよ。」
「ほ・・ほんとう?ゆーちゃん、コンラッドと一緒にいれるの?」
「そう・・これからは、俺の家で一緒に住むんだよ。だって、家族だしね。」
「わ〜〜い!コンラッド大好き!」
ひしっと、飛びつく有利に、コンラートは自分の上着を着せてやると、袋を広げて中にユーリを入れた。

そして、枕元に手紙を置くと、ぴぃっと指笛をふく。すると、屋根裏の窓が開き、外には
ノーカンティーがソリを用意していた。

「ありがとうノーカンティー。」
コンラートは、袋をそりに乗せると、袋の口紐を緩めてあげる。すると、ひょこっと、ユーリが顔を
出した。

「ユーリ、よく見ておくんだ。俺の家に行ったら、もうここへは戻れないからね。」
「もどれないの?」
「うん、絶対とはいえないけれど、ユーリもサンタになれば来れるかな?」
いくのをやめる?と、コンラートが聞けば、有利は首を横に振る。
「ゆーちゃんは、コンラッドといくよ!だって、それがゆーちゃんの幸せだもん!」
「じゃぁ、ここともお別れだね?」
「うん、女将さん、ゆーちゃんを拾ってくれて、どうもありがとう。」
「いつか、ここに恩返しにこようね?」
「うん、ゆーちゃん。ぜったいサンタになって、かえってくるよ!」


「いくぞ、ノーカンティー!」
小さなサンタクロースが手綱を操れば、再びソリはぐんぐんと高度を上げる。
「うわ〜街が小さくなってゆく。」
「ユーリ、危ないから袋の中に入って。暫らくの間、口をしめるから、良いって言うまで
話しちゃだめだよ?」
「うん、ゆーちゃん大人しくしている!」


コンラートは、有利が転げ落ちないように、袋をソリに固定すると、袋の口を閉めた。
そして、ソリの上部についた赤いボタンを押す。

すると、ソリから光線が発射されて、空間に大きな渦が生まれる。吸い込む力に逆らわず
コンラートのソリは、その中心へと呑み込まれていった。あとには、いつもどおりの
深い夜空が優しく地上を見守っていた。




18時35分UP
後一話〜〜・・・。がんばるぞ〜。




6


サンタの最終試験会場では、配達を終えた今年の受験者が続々帰ってきていた。
これで、朝起きた子供達がプレゼントを開けて欲しかった物だと喜べば合格である。


-- コンラート王子は、まだ帰ってこないようだな?
-- 色々プレゼントをかき集めていたようですが?
-- なに、どうせ、手当たり次第に持っていって、どれか当れば良いとでも思っているのではないか?
-- ふははは、所詮は大見得をきっても、まだまだ子供!そのうち泣いて帰ってくるのでは?

「うるさい!コンラッドは帰ってくる!ちゃんと試験内容をクリアしてな!」
関係ないオッサンは黙ってみていろ!

あまりにも、酷い幼馴染への言い様に、ヨザックが会場にいた大貴族達を怒鳴りつけた。
「良くぞ言いましたヨザック。それでこそ、友という物です!まったく、イヤミを言うしか能が
ないのですか?これだから、枯れた男は嫌ですね!」
同じく会場に来ているアニシナもコンラートへの謂れの無い誹謗に腹を立てていた。

「だ・・誰が枯れているんだ!わしはまだ現役だっ!」
それは一体何の話なんだろう・・・?

「ふん、誰かと思えば、カーベルニコフの小娘ではないか?いくら、血統正しいカーベルニコフ家とは
いえ、当代にサンタを出していないくせに、小娘が大きな口を叩きおって!」
「おーははは!!それをいうなら、小娘ごときに、やり込められる貴方方が情けないのです!」
ああいえば、こういう。そもそも、アニシナに口で勝とうと言うのが間違いだ。

「なんだと、いくらカーベルニコフだとは言え、許しはしないぞ!」
「そうだ、フォンシュピッツベーグ卿は、現魔王陛下ツェツィーリエ様の王兄にあたる方、
無礼な物言いは慎みたまえ!」

「それをいうなら、コンラッドはアンタの甥だろう?仮にも伯父が足蹴ざまに悪口を言う方が
おかしいに決まっているだろうが!?」
「うるさい!あんな混ざり者!わがシュッピツヴェーグの血筋だと思ったことなど無いわ!」
「ひ・・ひでぇ。」

全く酷い言いようだ。会場にいた民衆は、この言いざまに、絶句した。

ヨザック・・、アニシナがそっと肩に手をおくと、幼馴染を悪く言われて、怒りで真っ赤になる少年に
下がってなさいといった。ここからは、未来の姉であるワタクシが引き受けます。


「ふん、見苦しいですよ。シュットフェル殿。だいたい、どう許さないと言うのです。そういう貴方
方こそ、王子の悪口を言い募って、母である魔王陛下のお耳に入って無事で済むと思うのですか?」
「そ・・そ・・そんなおどしには、く・・屈しはせんぞ!」

思いっきり動揺しているくせにーー。

「大体、女や混血がいい気になるのではない!サンタクロースは、大変な仕事なんだ・・お前等のような
浅慮な輩に勤まるわけがない!お前達の王子も、そのうち泣いて帰ってくるわ!!」

「泣いて帰ってこなかったらどうします?」

「なに?」
「泣いて帰ってこなかったら、どうしますかと聞いているのです。コンラートは、必ず仕事を
終えて帰ってきますよ。その時は、貴方方はどうするというのですか?」
アニシナが、口元を挑発的に笑いの形をとって言い募った。

「ふ・・ふん!そんなことあるわけがナイ。5歳の男の子の幸せが欲しいなんていう願いを
あんな混ざり者に、叶えられるわけがナイのだ!」
「だから、出来たらどうするのです?女や混血でもサンタクロースになれるということを認めますか?」
「できるわけがナイ!」


「だから、できたらどうするのか?アニシナは、そこを聞いているのですよ?お兄様?」

ざわりと会場が揺れた。金髪の巻き毛を揺らし、黒いドレスも悩ましいお姿は!?

「魔王陛下!」

一斉に、会場にいた人々がひれ伏す。

「あら、いいのよ皆、今日は息子の試験を見届けにきた、一人の母親としてきているのですもの♥」
うふっと、真っ赤な麗しい唇が笑みの形を釣ると、会場にいた男性は悩殺寸前になる。

「うわぁ〜〜、やっぱり、コンラッドの血筋だ・・あははは。」
ヨザックが乾いた笑いをこぼした。

「それで、お兄様?もちろん、コンラートが帰ってきた暁には、アニシナの言うとおり
認めてくださるわよね?」

にっこり・・・

あ・・なんか怖いと、ヨザックの背筋に悪寒が走った。嫌な予感がする、そう、この方はあの、
コンラッドの母親なのだ!この にっこり には、覚えがある。怒り出す5秒前だ!!

ヨザックは、思わず耳をふさいだ。


私のかわいい息子を、よくもあんな下品な物言いで辱めましたわね?も・ち・ろ・ん♥
覚悟はおありですわよねぇぇ〜〜〜?おにいぃさま?



「ひぃ、わっ!わかったわかった!コンラートが仕事をやり遂げて試験に受かったら、サンタクロースの
受験資格を広げ、女性にだろうが混血児だろうが、受けれるようにしよう!」(←やけ)


「まぁあ!それは本当ですの?でしたら、私、来年はサンタ試験受けますわ!」
ウキウキした声がその場に割り込む。

「おや、フォンウィンコット卿スザナ・ジュリア、貴女も来ていたのですか?」
「えぇ、おひさしぶり、アニシナ。ツェリ様の可愛い坊やが、いけ好かないじじぃどもの妨害にも
めげずに、試験に挑んだって聞いて、拳闘の血が疼いてしまって、きちゃったわ♥」

いま・・にこやかに、怖い事をいってなかっただろうか?この女性?うん、スザナ・ジュリア??
ヨザックは新たに現われた一癖も二癖もありそうな女性の名前に、聞き覚えがあった。

うわぁぁ〜〜!白のジュリア様だ!会場の誰かが、興奮気味に叫んだので、ヨザックも思い出した!

白のジュリア様とは、赤のアニシナ様・黄金のツェリ様!とならぶ、凄腕の魔女だ。!

眞魔国三代魔女・・この国には凄腕の魔術使いが三人いる。それが、この三人である。

「シュットフェル様、このジュリアも、今のお約束の証人となりましょう。我等三代魔女との
確約ゆめゆめ違わないようにお願いしますね?」

なぜだろう?この中で一番優しそうに見える、この女性が一番怖く見える?ヨザックは、あずかり
知らぬ所で、騒動の中心となってしまった幼馴染に、心の中で合掌した。


さて、そんな中、丁度いいタイミング(?)で、コンラートのソリが帰還してきたと知らせが入ってきた。
鮮やかにも軽やかにソリを操って、小さなサンタクロースが降りてくると、会場中が固唾を呑んで
見守った。コンラートは、そんな空気も物ともせずに、ひらりとソリから降りる。

真っ青なサンタ服に身を包んだ、可愛らしい王子様が、トコトコと試験官に近寄ると

「受験番号44番ウェラー卿コンラート。ただいま、配達を終えて帰還しました。」
と、誇らしげに にっこりと笑った。

途端に、会場中をどよめきが支配する。本当に、幸せなどと難しい難問をクリアしたと言うのか?
「そうですか、では、朝、対象者に調査員をやり確認をしますから」
自宅で待機していてくれと言おうとした試験官の台詞は、コンラートによって遮られた。
「その必要はありません、私の試験の合否は今すぐわかりますから。」
にっこっとわらうと、コンラートは自分のソリに戻り、袋の紐を解いた。

すると、そこには、真っ黒な瞳をクリクリとして驚く、小さな男の子が入っていたではないか!?

「この子が、渋谷有利くんです。ユーリ、でておいで。」
コンラートが手を貸すと、男の子は嬉しそうにその手をとって出てきた。
「あ、ユーリ。段差は危ないよ。ちょっとまって。うんしょっと!」
コンラートは、有利のお腹に手を回すと、抱きかかえて降ろしてやる。そのまま、男の子を
抱えて歩く姿は猛烈に・・・

「きゃぁぁ!!くぁいいーー!!!」

会場のあちらこちらから、コンラーと王子可愛いコールが沸きあがった!
どうやら、この国は、ちょっと呑気な国民性があるようだ

「ちょっと待って下さい。キミ・・この子を連れてきちゃったのかい?」
「はい、それが、試験内容でしたので問題ありませんよね?」
自信満々に答える受験者に、試験官は他の試験管を振り返る。といっても彼等も、こんな事は
初めてなので、どう対処していいか、わからないでいた。


その時、明らかに馬鹿にしたような笑い声がした。

「わはははは!みたか?カーベルニコフの小娘!よりによって、贈り物を置いてくる筈が、
対象者を攫ってきおった!この不始末いったいどうするつもりだ!?」
「そうですぞ、いくら王子といえど、人間をわが眞魔国へ連れ込むとは何事ですか?」
「さて、アニシナ嬢、この不始末どう責任を・・。」

「何を言っているのです?これが俺からのユーリへの贈り物です。」
いけしゃぁしゃぁと言い切るコンラートに、一瞬面食らったシュットッフェル達であったが、馬鹿に
されたんだと思って更に言い募ろうとしたところ。試験官の中から制止の声が響いた。

「双方ともお待ちなさい。わたくしは、今年度試験の最高責任者を務めます。フォンクライスト卿
ギュンターと申します。コンラート王子・・いえ、44番ウェラー卿コンラート、貴方はなぜ、
その子をつれてきたのですか?」
試験官の中から、歩み出たのは、淡い菫色の長い髪をなびかせる、超絶美形の男性であった。

「はい、ギュンター先生。私が受けた試験内容は、彼に幸せを贈る事でした。そして、彼が望んだ幸せを
踏まえた結果、ここにつれてくるのが一番相応しいと考えて連れてまいりました。」
「ここに連れてくる事が、一番相応しい?」

ギュンターは、試験管席から歩いてくると、有利の前でしゃがんで目線を合わせてきた。
「こんにちは、ユーリ君。ユーリ君に聞きたい事があるのだけれどいいかな?」
「う?ゆーちゃんに、ききたいことぉ?うん!いいよー!」
にこぉ〜〜と有利が笑うと、う・・っと、何故か顔を赤らめたギュンター先生。コンラートと有利は
不思議そうに顔を見合わせた。

「コホン・・えーと、ユーリ君?ユーリ君がサンタさんにお願いした幸せは何かな?」
「ゆーちゃんがサンタさんにお願いした事?」
「えぇそうです。それを、ワタクシに教えてくれませんか?」
「うん!あのね?ゆーちゃんはねっコンラッドが大好きだから、ずっと一緒にいたいのー!
でね、ゆーちゃん、コンラッドと家族になるのー!すごいねー?ーサンタさん大好きなのー!」
それはもう、嬉しそうに自慢する有利の様子に、嘘偽りはない。

「なるほど、それが、彼の望んだ幸せですか?・・たしかに、この内容からすれば、連れて来た事は
あながち間違いではないですが?しかし、人間がこの国にすむというのは・・うっ!」

うりゅ・・と、有利の顔が歪むと、ギュンターはひるんだ。

「あ、よしよし、ユーリ泣かなくていいですからね?ギュンター先生、これはユーリの検査結果です。
ここに書いてあるとおり、ユーリは我等が魔族の血を引く混血です。どうか、お慈悲を持ちまして彼を
この地に住む事をお許し下さい。」

コンラートが出した検査結果は確かに、この幼子が、魔族の血を引いている事を示していた。

「うむ・・いいでしょう。書類もしっかりしていますし、養子縁組先はツェリ様の所ですか?
となると、ユーリ君は、君の弟になるんですね?」
「はい」
「えぇえ〜〜、ゆーちゃん、コンラッドの弟、嫌っ!」
これにて一件落着かと思いきや?いきなり、当の有利が不満を口にした。


「ユ・・ユーリ?」
「ユーリ君?」
慌てたのは、コンラートだ。折角話がまとまるかと思えば、有利がぶち壊そうとしているのだ。
逆に喜んだのがシュットフェルたち、ここに来て大逆転かと思いきや?

「ゆーちゃんは、大好きなコンラッドと家族になりたいのぉ〜!」

とまた、問題発言が・・一体なりたいのかいやなのか?どっちなんだ?

「ユーリ?それはどういうこと?俺と家族になるなら、兄弟になるんじゃないの?」
「ちがうもん!兄弟じゃ、一緒にずっといられないもん!だって、コンラッド、ゆーちゃんをおいて
結婚しちゃうでしょう?」
「え・・と・・あれ・・もしかして・・。」
なんとはなく、有利の言いたいことを察したコンラートは、まさかと思いつつも、有利に聞いてみた。
「それは、もしかして、俺のお嫁さんに、なりたいって事?」

ぱぁぁぁぁ〜〜〜ぁ!!

それは、花が咲くように、有利の顔に喜びが溢れた。


「あら、では、ツェリ様の戸籍には入れないわね?だったら、私がその子の母親になりましょうか?」
その時会場から声が上がって、二人がそちらをみると、優しげなお姉さんがいた。

「お姉さんは、どなたですか?」
「あら、そういえば、はじめましてだわね?コンラート王子、わたしはフォンウィンコット卿
スザナ・ジュリアです。」
「白のジュリア様ですか?おうわさはかながね、母と姉から聞いています。」
ぺこりと、コンラートが頭を下げると、有利もまねをして頭を下げる。

「まぁ、なんて可愛らしいのかしら?」

ぎゅーーと、ジュリアが二人を抱きこむ。

「ねぇ、ユーリちゃん?私、今度結婚して、王都に住む事になったのよ。そこなら、コンラート王子の
いるお城まですぐ側ですし、うちの子供にならない?」
「コンラッドといつでもあえるの?ゆーちゃん、コンラッドのお嫁さんになれる?」
「えぇ、きっとなれるわよ。」
「じゃぁ、ジュリアちゃんの子供になるー!」
「あのよろしいのですか?婚約者の方に確認を取らなくても?」
「えぇ、だって、私がそうするって言っているのだから、そうするに決まっているもの!」


「うわー、なんて、唯我独尊なんだ!スザナ・ジュリア様って、漢ですね。」
ヨザックは、二癖どころか、十癖くらいありそうな、女性の登場に、最早何も言う気も無い。
ところが・・・
「うわぁ、ジュリア様カッコイイ!」
なんと、素直に感じ入っている者がいた。

コンラッドーー!お前、どうして、そんな所が素直なんだー!

「どうやら決まりね。さて・・ギュンター様、コンラート王子の合否ですが、いかがなさいます?」
「はい、ユーリ君がとても幸せそうですので、彼への贈り物は有効。つまり、44番・ウェラー卿
コンラートのサンタクロース試験の合格を認めます!」

わぁぁぁぁ!!

その瞬間!会場中が沸いた!それは、歴史的瞬間!今までなれないとされていた、混血児のサンタ
クロースが誕生したのだ。それも、最少年で最高レベルの試験を突破したというおまけつきで。

その後彼に続くべく、混血児や女性の中からもサンタが生まれてゆくのは、もう少し先の話である。




さて、ここで、人間お国の話もしておこう。


朝、何時ものように起きた女将さんは、枕元に箱があることに気がついた。

一体誰が?訝しげに思って、箱を開けてみると・・そこには? 柔らかな色合いの手触りのいいスカーフと、小さな人形がはいっていた。


『メリークリスマス、本当は大人は管轄外ですが、昔子供だった貴女に。

サンタクロース(見習い)より』

「この、お人形・・・。」
それは昔、女将さんが子供だった頃、二つ向こうのとおりのおもちゃ屋にあった人形。ほしくてほしくて
いい子にしていれば、サンタがプレゼントしてくれるかも?なんていうことを真に受けてがんばった頃も
あった・・。でも、サンタなんていはしないんだと、大人に笑われて、いい子でいることなんて
忘れていたのに・・。

「まさか、今もらえるなんて・・くく・・あははは。」

脳裏にひらめいたのは、あの不思議なコンラート少年。彼なら本当にサンタであってもおかしくは無い。
そんな気がしていた。女将さんは、人形をベットサイドに飾ると着替えた首元にスカーフーを巻いてみた。

ふと、気になって、彼女は屋根裏の部屋に向かった。もし彼がサンタなら、一番贈り物を受け取る
可能性があるのは、この部屋の住人だろう?

「ユーリ・・いるかい?」

だが、やはりというか、そこには小さな男の子はいなかった。代わりに、封筒が一つ。
それを読むとやはり彼がサンタクロースかと、口元に笑みが浮かぶ。

有利の望みなど知っていた。コンラート共にありたいということ。

「サンタの国か・・ユーリ、幸せになるんだよ。」

ここは宿屋だ。皆、いつかはここから発つのだ。旅立った幼子に、幸あらん事を・・・


女将さんが朝食の支度をしていると、宿泊客が騒ぎ始めた。どうやら、あのサンタクロース見習いは、
ここにいる元子供達全員に、プレゼントをしてくれたらしい。


「女将さん!みておくれよ!朝起きたら、枕元に切符がおいてあったよ!これで、故郷に帰れる!」
「よかったじゃないか?サンタクロースの坊やの心遣いだ。ほら、お弁当を作ってやるから早くいきな。」
「ありがとう、ありがとう!サンタでも神様でもいいや・・本当に有り難うよ!」
「だから、サンタだって言っているだろう?ほら、早くしたくしな!」
うんうんと、男は半泣きになって部屋に急ぎ戻っていった。



まったく、洒落た事をしてくれるよ。ほんとう、最後の最後まで、不思議な子だった。





23時58分まにあうか〜〜?