堕ちて来い・後日談
やっぱり最強の魔王后さま 2








「ねぇ、したい・・・意地悪しないで?」


ベットの上で、大っっへんっに、色っぽいお誘いの声を出して、おれの妻である男が囁いた。

「駄目だ、あー、きょうは、おれは会議で疲れているから・・また今度な。」
だが、ここで心を鬼にして、夫である有利は妻に背を向けた。

「そう、疲れているなら仕方ないですね・・。」
妻は、がっかりした声を出すもの、王の伴侶として大変っっこのあたりは聞きわけがいい。
こんな会話を、既に一週間ほど続けている。そうして、妻はおれと少し離れた場所で眠りに付く。

あぁ、この距離が憎い!本当ならば、疲れなんて彼と夜のイチャイチャをしちゃえば、逆に吹っ飛んで
お肌だってすべすべの絶好調になるはずなのに、疲れていると言ってしまった手前、夜の営みもお預けが
続いている。あぁ、春といえば世間では、愛の季節だというのに、なんで最愛の妻が据え膳状態で、
傍で無防備な肢体を横たえているというのに、味わうことも出来ないだなんて!!


何でこんなことに・・・嘆いても仕方ない。

仕方ないのだが・・・。




村田ーーー!元はといえば、お前が変な妥協案をつくるからだぞぉーー!


一週間お預けが続いて、とうとう魔王陛下はキレた。そして、矛先は、親友でもあり、今の状況を作り出した
首謀者である村田大賢者様へと無謀にも向かった。

「なぁ〜にいっているんだい、妻の寒い駄洒落くらい聞いてあげなよ。」
対して、夫婦間の揉め事には一切ノータッチだというばかりに、大賢者様は相手にしない。

「冗談じゃない!春だというのに、寒さに打ち震えろというのか!?そもそも、アイツのギャグを禁止したと
いうのに、春になったら凍死はないだろうからって、ギャグ解禁なんて案をだすから、アイツこの頃毎日
聞いてもらいたそうにしているんだぜ。その度に疲れているからって言い訳して・・・おかげで、春だというのに
寂しい独り寝状態・・うう、隣に大好物があるのに、食えないだなんてぇぇーー!」

「ええい、うっとおしいぞ!このっへなちょこ駄犬がっ!!」
あまりの赤裸々発言に、護衛でついていたヴォルフラムが、王を叱咤する。

「ううう、だってだって!春といえば繁殖期なのに・・おれ一週間もお預けなんだぞ。」
そうやって弱音を吐く様は、とても一国の王とは思えない。しかも、王は王でも魔王なのに・・・・。

「大体、キミの発情期は、季節なんて関係ないだろう?ウェラー卿になら、いつでもどこでも発情できるくせに。」
ごもっともというばかりに、後ろで護衛のお庭番が頷いている。

それに、プチ・・・っと、魔王陛下の中で何かが切れた!

「・・いったな、だったら、今ここでコンラッドを呼んで披露させるぞ。」
魔王陛下は、死なば諸共の精神で、執務室にいる全員を巻き込むつもりだ。


とたんに、執務室の緊張が走る!!

「何を考えている小僧!全員凍ってしまったら、国の中枢機能が麻痺するぞ。夫として妻の駄洒落くらい
一人で受け止めろ!」
「そうだぞ、ユーリ、夫婦の事に僕らを巻き込むなっ!」
「なんだと、兄弟として、お前等だって受け止めたっていいはずだぞ!くっそー、こうなったら、
今ここに呼んでやるっ!!」

「誰を呼ぶんですか?」
そこに、すんばらしいタイミングで噂の主が、休憩用のお茶のセットを持ってやってきた。


「コンラッド!今すぐに!・・「今すぐに、陛下を連れて部屋に戻っていいよ、ウェラー卿」
有利の声をさえぎるように、村田が口をはさんだ。夫婦間の問題にはノータッチだが、被害が自分まで来るのは、
いただけない。すると、コンラートが、何かあったのかと村田に向き直った。

「ここの所、オーバーワークでね。苛々が溜まっているみたいだし、執務の効率が悪いからリフレッシュ
させようって事で!まぁ、陛下も最近はがんばっていたし、これから一週間の休暇をあげるよ。」
「ちょ・・村田!」

「コンラート、小僧と近くの別荘にでも行って来い。執務は、その間、私達がやっておこう。」
何気に、城からさえも二人を隔離したグウェンダル・・陛下一人に、被害を集中させる気だ。

「コンラート兄上も、最近、ユーリとゆっくり会話もしてないでしょう。別荘で二人っきりで語り合って
みるのも、きっといいですよ。」
ヴォルフラムも、冬の間温めたギャグはそこで出し尽くせ!とばかりに、コンラートを唆す。

「ぐうぇん!・ヴォルフ、アンタ達まで・・もがもが・・!!」
「たーいちょ、せっかく猊下たちが言ってくださっているんです。お言葉に甘えた方がいいですよ。
ほら、陛下ったらこんなにイライラしちゃって、きっと昨日の会議で疲れがピークにたっしちゃって
いるんですよ。妻として『夫の精神を和らげる』のも、の魔王后の仕事ですよ。ほら得意でしょう?」
「もがもがぁぁー!ももがががっぁーー!(何が和らげるだ!凍らすのまちがいだろーー!)」

もっと余計なことに、村田の警護役で居合わせた幼馴染は、ヴォルフラムを援護するように、何気に
駄洒落の披露を示唆してくれた。

「そうか?うんそうだな!ではユーリ、皆こう言ってくれているし、湖の別荘に二人で行きましょうか?」
コンラートは、すっかり、その気になったようだ。きっと脳内では、夫の気持ちをやわらげるために、脳内の
ネタ帳を紐解いているに違いない!超・危険だ!!

「え〜〜と、おれは、まだ仕事が・・。(訳。一人だけで被害を受けるのはいやだぁー!)」
「ほらね、ウェラー卿。こうなんだよ。僕らが言っても休まないし、根の詰めすぎは良くないから、
君がついてしっかり『和ませて』やってくれたまえ。(訳・観念して彼のギャグを受け止めて来い!)」
「はい、お任せください!陛下を見事(俺のギャグで)和ませてみせます!!」

ぱぁぁっと目を輝かせて、コンラートは、やる気満々で有利の手をとった。
もはや、絞首台の上に乗せられたも同然だ。有利は引きつりながらも、最後の抵抗をしようとした。

が・・妻がその前に、有利の耳元に、何事かを小さくつぶやいた。

途端に、なぜか行く気満々になった有利は、先程まで渋っていたのが嘘のように、最愛のコンラートの腕を取ると
意気揚々と部屋へと戻っていった。そのまま一刻もしないうちに、支度を済ませた二人は並んで馬で出てゆく。



「ヨザ・・大体なんて言ったかは予想がつくけど、魔王后様、なんていったの?」
「・・・予想通りですよ。聞かない方がいいと思います。」


どうやら、一週間も一緒にいて何もなくて溜まっていたのは、有利だけではなかったらしい。

『ねぇ?向うに行ったら・・・あっちも、いっぱいしようね?』

あっちは、やはりアッチなんだろうな〜?

とりあえず、極寒ギャグで体の芯まで凍らされても、きっとすぐに彼の色気とテクニックで、体の芯から
熱く蕩けさせてくれるのだから、やはり極寒ギャグは夫である魔王陛下一人で背負ってもらうべきだ。

どうせ、1週間後、どっちもすっきりした顔で帰ってくるだろう?
村田は、ふかぁぁぁいため息をついた。ホント、夫婦間の事には口を出すのはイヤなんだよ。それも、相手は
相思相愛の最強夫婦とかいて、バカップルと読むような連中だ。

口を出しただけ馬鹿を見る。

うんうんと、執務室にいた全員が同意した。


毎度、お騒がせな魔王夫妻であった。






2009年4月15日UP
最近、裏別館でユコンなのに、ユーリが出てこないので、こちらにラブラブユコン夫婦を出してみました。
白ユーリと白次男です。こちらはユコンの皆様へのサービス作品(?)ですv