長編パラレル   今日から『ママ』のつく 8




今日から『ママ』のつく  8



しっぶや〜!おーーい、大魔王様〜〜、おきておきて。
「うーーん、ムラケン?どしたー?夜会は終わったのか?」
ううん、まだだよ。僕はちょっと、親友の様子を見に・・ね?
「どうだい?調子は良くなったかい?」

「うん、だいぶ・・いいよ。」
これはウソだ。全然良くなんてならない。胸のズキズキが止まらない。でも、これは病気じゃないし・・・。自分で何とか
しなくちゃいけない痛みなんだ。
「し〜〜ぶや、僕にウソなんて通じると思ったカイ?・・・確かにキミの症状は、お医者様でも治せないよね?治せるのは
只一人・・・ウェラー卿だね?」
「ムラタ??」
「キミが、ウェラー卿を好きだなんて事は、とぉぉっくにお見通しさ。なにせ、僕はダイケンジャーだからね!」
本当は、キミらのラブラブぶりで、血盟城の皆さんにも筒抜けなんだけどね・・・・・ふっ。
「いや〜、すごかったよ。ウェラー卿ったら、やっぱり女性になってもモテモテだよ。必死に、長男・三男がガードしてるけど、
このままだと突破されちゃうかもよ〜?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「アレ?無反応?じゃあ、とっておき情報。皆は隠していたみたいだけど、ウェラー卿にお見合いの話が来てるってしってる?」
「お見合い!」
「あ、やっぱり興味有るんだ。」
「・・・・・そ・・それは、でも・・・誰とお見合いしようが・・俺には止められないし・・・コンラッドは俺のじゃないもん。」
そうだ、彼が誰とお見合いしようが・・・それは、彼の自由で・・魔王だからって俺が止められるわけがなかった。
いつか、綺麗なお嬢さんと結婚して、子供をもうけて幸せに暮らす。コンラッドには、そんな穏やかな暮らしのほうが
似合っている。俺には与えてあげられない未来を、その人が彼に与えてくれるなら、俺はそれを見てるしかないんだ。
ズキズキと、再び胸の奥が痛んだ。まるで、嘘吐きな俺を責めるように。
「そう、キミって薄情ー。自分のものじゃなかったら、ウェラー卿がどんなに窮地に立っても、知らん振りするの?」
窮地?コンラッドが?がばっと、布団を跳ね除けると、俺は村田の襟首を掴んだ。
「窮地?きゅうちって、コンラッドがやばいってコト??なんで?どうして、一体何が起きたんだ?」
さっさと答えろーーー!
「まって、ギブ!しぶやぐるじぃーーーーーーーーー。」
「あ。」
つい、勢い余ってムラタの首を絞めちゃったらしい。げほげほと咳き込むと、アーー死ぬかと思ったと、村田がゴチた。
いいからさっさと吐けよ。
「うわー、キミって、ウェラー卿の事となると、容赦がなくなるね・・・まさに、魔王って感じーーぃ。」
うううううるさーーい。で?窮地ってどゆコト?

イヤー実はね?グレタ姫付きの女官を見初めた『馬鹿』貴族がいてね!よりによって、家柄で反対する両親を上級貴族の
養女にする算段までつけて、説得しちゃったんだって。その説得されちゃった馬鹿両親が上王陛下に息子可愛さに話を持っ
てきやがって、その話が情熱的だからって、恋愛ボケした上王陛下が息子に男との縁談をふっかけやがったのさ。あははは。

な・・ななんか、所々殺気を感じるんですけど・・・もしかして、村田さんお怒りに?背筋がぞわわって!ぞわわって
キターーーー!ってかんじなんですけどぉぉ??

ウェラー卿は、断ってくれって言ったんだけどね。一度、上王が勝手に受けちゃったしね、向こうがそれなりに力のある
貴族だし、このままだと、会うだけでもとか、上王に押し切られて、彼女の面子のために、会っちゃったりするとねーーー。

「会っちゃったりすると?」
「お見合い成立=ウェラー卿がお嫁に行くことが決定」

ってなことになるよ。上級貴族権力者相手に、『ウェラー』では、太刀打ちできないからね。
-- 実際には、相手は彼女がウェラー卿だって知らないし、その前に十貴族たる彼の兄弟が止めるけどね。

「どうする?眞魔国第27代魔王陛下。」

魔王・・・俺なら・・・コンラッドを助けられる。

「おや?噂をすれば影かな?見てごらんよ、渋谷。ウェラー卿の側にいるのが、例のお見合い相手だよ。」


時間は少し遡る。
中庭で、一人残されたコンラートが、村田が残した言葉の真意を考えていると、一人の男性が近づいてきた。
「こ・・ここんばんは、月が美しい夜ですね。」
かっちんこちんに固まった男に見覚えはない。さっさと、大広間に戻るかと、コンラートは、適当にかわすことにした。
でないと、また貞操がどうのと、弟に散々言われる羽目になりそうだ。
「えぇ、本当に。ですが月は人を惑わすとも言います。あまり月の光を浴びるのは止した方がいいでしょうね。
では、わたくしは連れが向こうで待っていますので・・・失礼致します。」
軽くドレスの裾をつかんで、優雅に礼をとると、コンラートは広間へと戻ろうとした。
「待て、そこの娘。」
そこへ、第三者の声がする。振り返ると、恰幅の良い250歳くらいのいかにも上級貴族らしい男性がいた。

「父上!」
おや?この男には見覚えがある。たしか、フォンギレンフォール卿の係累で・・あぁ、思い出した。では、この男か?
母上の所に余計な話しを持ち込んだ、はた迷惑な貴族は。

ブリーゲル卿ハーラルト・・・シュトッフェルの時代には、何かとコンラートに絡んだ中にいた者だ。しかし、小物なので、
コンラートの覚えはあまりよくない。すると、このカチコチ男が見合い相手だという息子のループレヒトか・・ユーリだったら
舌噛みそうな名前だとでも、言うだろうな。まぁ、これから会うこともないだろうし、覚えなくてもいいか・・・・。←ひどい。

「どうやら、私の顔はわかるようだな。田舎の下級貴族の娘と聞いていたが、さすが魔王陛下のご息女の女官を
勤めるだけはある。おおよその貴族の顔と名前は頭に入っているというわけか?礼儀作法もそれなりにできるようだな?
魔王陛下や側近にも覚えがめでたきようだ。」

それに、この美貌なら、我が家の嫁に迎えてやってもいいかも知れんな。

中々楽しめそうだしと、上から下まで、舐めるように見られて、コンラートの背筋にぞわわわっと、ナメクジが這い
回るような悪寒が走った。ついでに、前髪の下に隠れてはいるが・・・こめかみに不快と怒りによる青筋が数本
浮かんでいた・・・この親子の未来は決定したかもしれない。

「本当ですか?父上?」
父親の視線や言葉の意味が理解できてないようで、息子は、なにやら喜んでいる。お前馬鹿か?というのが、正直
な感想だ。大体、一度断ってるはずなんだが・・・?この様子だと、忘れていそうだ。いや、断る訳ががないと思って
いるのだろう?本人そっちのけで、盛り上がる親子・・・。尊大な態度に、コンラートは物騒なことを考え始めていた。

つまり、付き合いきれないので、このまま、大広間までダッシュするか、この際、毒女作の品々を試してみるか?
と言う考えだ。・・・どちらかというと試すほうに心は傾いている。最近のフラストレーションのいいはけ口が
見つかったようだった。コンラートの手が、腕に飾られたブレスレット(実はムチ)に手が伸びようとした時。

「ああ、ここにいたぞ!」
そこへ、わらわらと数名の男たちが集まる。身なりからして、それなりの貴族の子弟だろうが、一体何のようだ?
「先程は、どうも、お嬢さん。」
あぁ、内一人は見覚えあるどころか、先程群がる男性をよける時に利用した男だ。
「えぇ、先程は御助けいただいて、ご親切なゲルリッツ卿ヴィルフリート様。」
にっこりと、他意はないですよ〜とばかりに爽やかな笑みを向けるコンラート。内心他意だらけだが・・・。
「くっ、そう思うなら、先ほどの続きを致しませんか?ここではなんですから、場所を変えて。」
場所ね、変えて何をするつもりなんだか?それも、この人数だ。あまり、褒められたことをする雰囲気では
なさそうだ。まぁ、いいだろう、世の中『ついで』という事もある。『もにたあ』が増えればアニシナが喜ぶし
生きのいい重症患者が出れば、ギーゼラも喜ぶだろう。たまには彼女らにプレゼントを贈るのも悪くない。
「待ちなさい、寄ってたかって彼女に何をしようというのです!さぁ、キミ僕の後ろに。」
そこへ、コンラートに良い所をみせようと、ブリーゲル卿ループレヒトが、ずずいっと前に出た。
「何って、私どもは彼女に少々お付き合いしていただこうとしているだけですよ。」
そうそうと、にやにや目を見交わす男達。そこに、父親であるブリーゲル卿ハーラルトもが、前に出る。
「まて、この娘は、我がブリーゲル家の嫁になると決まった娘、手を出してもらっては困る!」
その言葉に、子弟達の動きが止まる。ブリーゲル・・フォンギレンホールに繋がる、それなりに力を持つ
家系だ。どうする? だが、ソレを意外な人物が遮った。
「いつ決まったんですそんな事?こちらは見合い自体、正式にお断りしているはずです。」
嫁と断言された娘本人が、それをきっぱりと否定した。それも、下級貴族は上級貴族の縁談を断ると。
「な・・なんだと、娘!断るというのか?」
泡を吹く勢いで、ブリーゲル卿ハーラルトが詰め寄るのを、凛とした佇まいでコンラートは、にべもなく言い放つ。

「当然だ。」

にっと、コンラートの赤い唇が笑いの形を取る。挑発的な笑み。視線は、男達に向けられたまま、片足を噴水の縁にのせて、
ドレスの裾をつかむ。ゆっくりと、女の白い手によって、ドレスが捲くられていく、下からすらりとした足があらわになると、
ごくりとつばを飲み込む男達。なんと、ブリーゲル卿ハーラルトまで、吸い付くような目線で、コンラートの肌を凝視していた。
ふくよかな白い股が月明かりにさらされ、えも云われぬ色香を放って、男の視線を虜にしていった。
ビリッ!布の裂ける音がすると、女は自らの手でドレスを引きちぎった。

白い足をさらけ出して、月の光を浴びて絶つコンラート。
・・・清楚な容貌に獣の笑みを浮かべて、妖艶な女が ---- そこに  いた  。

女は、引きちぎったドレスを男たちに投げつけると、まるで付いて来いとばかりに、人気のない奥庭に身を翻してかけていく。
「お・・おい!追うぞ!」
思わず見とれていた男たちは、はっと我に返り女を追いかけた。誰もが貴族の子弟というより、もはや雄の貌で夜に
消えた白い肢体を追う。追いついたら、その肢体をどう楽しもうかと、卑下た妄想に取り付かれながら。

それを、物陰から見ていた者たちがいた。カーキ色の軍服・・・人知れずコンラートを守っているウェラー隊だ。
「副隊長!コンラート閣下が男たちにめちゃくちゃにされてしまいます!何で助けに飛び込んじゃいけないんです!」
悲鳴のような声をあげたのは、若い隊員だ。それに、苦い表情で副隊長 のフライヤー は、答えた。
「見た目に惑わされるな。あの方は、ルッテンブルクの獅子だぞ。」
ぴしゃりと、若造をいさめると、コンラートが消えた奥庭へと続く道を凝視する。
「馬鹿な連中だ・・眠っている獅子を起こしちまった。」
ざわり!と、緊張感が走る。そう、彼らの隊長こと、ウェラー卿コンラートは、普段は穏やかで優しげな青年だが、
一度怒らすと彼の中に眠る武人としての血が目覚め、鬼のような強さで相手を叩きふすのだ。獅子と呼ばれ畏怖される男。
今まで、その怒れる獅子を前にして無事ですんだ者はいない。その事を、かの隊の者は熟知していた。
「ウェラー隊全員集合させろ、巻き添えが出ないように、中庭と奥庭に続く道を封鎖する。それと、グリエに伝令!状況を伝えろ!」
「「「はっ!!」」」
緊張が、暗闇を支配していく。


その頃、大広間に戻ったヨザックは、守るべき大賢者と、幼馴染がいない事に驚愕していた。
「ヴォルフラム閣下!猊下とコンラッドはどこです?」
「お母様なら、ダイケンジャーと、中庭のほうへ行ったよ〜。」
それに、現在幼馴染の娘となっているグレタが、にこやかに答える。
二人で??まぁ、異色名組み合わせでは有るが、大賢者と一緒なら隊長も男に襲われることもないだろう。
逆も然り、獅子と一緒なら、不敬な輩に猊下がさらされても、叩きのめされるから、一番安全な組み合わせかもしれない。
「何?姉上は大賢者と一緒だったのか?大賢者なら、さっき一人で帰ってきたぞ。だからてっきり、ヨザックといるのかと?」
はいーーーー?まさか!お二人とも、個別行動してるんじゃ?そそそんなーーー!危なすぎるだろう!
とりあえず、自分は猊下の護衛なのだから、彼を探さなくては、しかし危険度ならコンラートのほうが上だ。
そこへ、飛び込んできた者がいた。カーキ色の軍服・・・コンラートの直属の部下だ。
「グリエさん!中庭で閣下が、例のお見合い相手にと貴族の子弟数名に捕まっています。ソレが大変なんです!」
「何?コンラッドが襲われているのか?」
「何ぃ!姉上の危機か?」
その言葉に、お母様がっ!?と、グレタが蒼白でつぶやく。
「それだったら、俺たちで止めます!大変なのは隊長のほうです。どうやら、敵さん獅子の尻尾を踏んだもようです!」
「踏んだだと!?」
その言葉に、ヨザックが目を見張る。
「はぁ?獅子って、ルッテンブルクの獅子?こんらーとのしっぽ??」
ヴォルフラムは、かつての大戦時に、次男の戦いぶりを見ていないから、反応が鈍いが・・当時、彼の副官を
務めていたヨザックの反応は素早かった。
獅子・・・ルッテンブルクの獅子とは約20年前の大戦時についた、ウェラー卿ンラートの別名、つまり・・・まさか?

「まさか、ルッテンブルクの獅子を叩き起した馬鹿がいるのか!?」
真っ青になって、ウェラー隊の青年がうなずく、彼もルッテンブルク出身で混血としてアルノルドへ行き、生還した
古参の者だ。コンラートの恐ろしさは骨身にしみて理解している。既に、現副隊長以下・全員が中庭の封鎖
を始めているそうだ。

それは・・・えらいこっちゃ!

「プー閣下!親分に、コンラートがキレタと伝えて下さい!血盟城警備隊はベランダを封鎖だ!急げ。
巻き添えを食うぞ!」

だが、その時!派手な閃光が、中庭というより、その向うの奥庭から放たれた。

「あ、あれは、僕が持たせたアニシナ作の閃光弾だ!」
「プー閣下!?何を、あんな物騒な奴に、もたせてるんですかーーー!!?」
そういう自分も、携帯用の剣を持たせたことは、棚上げだ。
「あぁたちゃ〜、多分アレは隊長からの合図です。ここで暴れるから、こちらには来るなという。」

どうやら、本気で派手に暴れる気らしい。

「ヴォルフラム!これは一体どうしたという事だ?」
「あ、親分。丁度いいところへ、獅子の尻尾を踏んだ馬鹿が出たもようです。俺は、ちょーーと、そっちに行って
きます。中庭は、ウェラー隊が封鎖してますので、ベランダの封鎖をお願いします。少し騒がしいですが、適当に
ごまかして置いて下さいね〜。それと、猊下の護衛もよろしくおねがいしまーす。」
丁度駆け込んできたグウェンダルにそれだけ伝えると、ヨザックはドレスを翻して、光の元へと向かった。

もちろん、大事な幼馴染の加勢にだ。獅子が暴れている側に寄れるものは、ウェラー隊でも、古参の一握りの者だけだ。
既に彼らは、コンラートの元へ駆けつけただろう。だが、獅子の戦いの邪魔することなく、その渦中に飛び込める者と
なると、彼の幼馴染で、長年副官を務めたグリエ・ヨザック只一人だけだった。

だから走る。その先には、女の姿をした危険な猛獣がいるとしても。


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5月4日UP あ〜、どんどん長くなります。あれもこれもと詰めちゃう感じですね。とりあえず、ここで切れないとテンポが悪いんで切!
猛獣・・・獅子というより雌豹?(←チョット、チガウ)・・・・・うわっ!どんだけ危ないんでしょうね?