長編パラレル   今日から『ママ』のつく 7




今日からママのつく 7

煌びやかな明かりが輝く大広間。わらいざわめく中、色とりどりの美しい衣装に身を包んだ貴族達。
類まれなる美貌と称される魔王陛下が、体調不良で出席されなかったのは残念でならないが、美しさでは陛下と双璧とも
讃えられる双黒の大賢者が、見事な挨拶を披露してくれたので、会場は大いに盛り上がった。
なにせ、大賢者は、眞王廟に篭られる事が多く、夜会にも滅多に出席しないのだ。この機会に、是非とも縁を結びたいと、
挙って貴族たちは、村田猊下に群がった。それを笑顔でかわし、(←相手にしたくないようだ)同伴している美女・グリエを
誘って大広間の中央で踊る。とたんに、周りからは"ほぉっ"と、うっとりするようなため息が。しかも、目の下を赤くしているのは
女性ばかりでなく、男性もだというから、ちょっとこわい。もしかして、コンラートの心配をしている場合ではないのかもしれない。

さて、中央ばかりではなく、壁際に大いに人々の視線を集めている一組の男女がいた。
男のほうは、輝く金の髪、深いエメラルドグリーンの瞳・そしてわずかに上気した白い肌を持つ美貌の少年。
前魔王の三男で、現魔王の婚約者(自称)フォンビーレフェルト卿ヴォルフラム閣下だ。
女性のほうは、姫付きの女官だという。白磁のような透明感のある肌に、薄くて弾力の有りそうなプルンとした赤い唇。
控えめな眼差しには、扇のような長いまつげが係り、その下からキラリと輝く涼しげな目が見える。結い上げられ
たウェーブのかかった朱茶の髪は白いうなじや頬にかかり、美しいコントラストを描く、清涼たる美しい女(ヒト)。
そして二人が身につけている衣装・ヴォルフラムのほうは、いつも軍服ではなく、深い臙脂のしなやかな美しい礼装に繊細な
銀の蔓の刺繍が施してあるもの。また、女性のほうは、形はシンプルな白のドレスだが、上に透ける薄布が重なっていて、
それにも繊細な金の薔薇が刺繍が施されていた。装飾品は、蔓を模した美しい宝石が散りばめられていて、シンプルな
ドレスのワンポイントとなって、とても彼女に似合っていた。

しかし、どう見ても揃いの衣装としか思えない。そこへ、フォンヴォルテール卿グウェンダルと、魔王の息女グレタ姫が現れた。
よくみれば、グレタ姫の衣装は、装飾品や、ドレスのラインこそ違えど、女性と同じ衣装で、しかもグウェンダルの衣装も
ヴォルフラムと色違いの深い蒼の揃いの礼服であった。
なぜ、前魔王の子息二人と、この女性と王女が揃いの服を着ているのだろう?
「ふっふっふ、この衣装にして正解だったな。」
この衣装は、いわば虫除けである。ヴォルフラムには、半ば公然の婚約者である有利がいる。コンラートと共にいても、
貴方の相手は魔王陛下では?などという理由をつけて追い払われる可能性があった。
しかし、うまい事(?)に、今宵有利は風邪でダウン。ヴォルフラムが代わりの同伴者としてグレタの侍女設定の
コンラートを選んだとしても、不自然な点はない!・・はずだ!
現に、先程からコンラートに熱い視線を向ける輩が居るが、相手がヴォルフラムでは、声をかけてくるものはいない。
もっとも、コンラートの方は、見られいることには気づいていても、その視線の意味までは気づいていないようだった。

「ヴォルフ・・・まさかグウェンまでもが、揃いの衣装を作るとはね。・・・」
「うむ・・たまにはいいだろう、兄弟そろっての服というもの。」
「いつもの軍服だって、揃いでしょう。でも、確かに、たまには良い物ですね。」
「グレタも嬉しいよ、お父様と一緒は出来なかったけど、お母様とヴォルフとグウェンとのお揃いだもん。
『ぺあるっく』ってやつでしょう?」
にこにこ、とグレタが笑うのを、三人がにこにこ、と返す・・・まるっきり、親子の図だが、大人組みは全員兄弟だとは思うまい。

「あぁ、大賢者のダンスが終わったようだな。さて、では僕らが次は踊るか?グレタ・・一曲お相手を。」
優雅に大好きな父親その2に手を引かれて、グレタ姫は、うれしそうに中央へと進み出た。
「ゴホン!あーでは、我々も行くか・・・どうせ後から踊らなくてはなるまいし・・な。」
なにやら、言い訳がましい事を、言うとグウェンダルが、隣にいるコンラートにスッと手を差し出した。
「・・・お手を、お嬢さん。」
少し赤いのは、やはり弟をダンスに誘うというのは、恥ずかしいんだろうか?グウェンも可愛いとこが有るな〜。
そうおもうと、ちょっとおかしい。
「ぷっ!くくく。・・・・グ・・グウェンもけっこう悪ノリしますね。そうだな、壁の花というのもつまらないし・・ね?
では、宜しくお願いします。閣下。」
差し出された兄の手に、面白そうに自分の手を添えて、コンラートもダンスの輪の中に入っていった。
長身の二人が優雅に踊る様は、人々の視線を集めた。濃灰色の髪に深い蒼の衣装のグウェンダルと朱茶の髪と白地に金の刺繍の
ドレスに身を包んだコンラートという対照的な色合いは、むしろヴォルフラムより似合いで、会場のあちこちから、ダンスへの
賛辞と親密な様子の二人の関係についての憶測が飛び交った。美しく、才能あふれる下級貴族の娘と十貴族であり、前魔王の子息
で、この国の摂政であるグウェンダルとの身分違いの恋・・・はぁ、ロマンチック〜などという声があちらこちらから囁かれ始めた。
面白くないのは、ヴォルフラムだ。ステップを踏みながら、二人の兄に近づいていく。
「ずるいですよ兄上、今日の同伴者は僕です。当然、一番最初に姉上と踊るつもりだったのに。」
「うっ、何を言ってるんだ、お前は・・・。」
「え〜〜!!グレタが一番最初に踊るつもりだったんだよ〜〜、グウェンぬけがけ〜!」
末弟とグレタ姫にぶーぶー文句を言われて、うっと詰まってしまったグウェンダル、どうやら旗色は悪いようだ。
「じゃぁ、変わろうかな?」
そういうと、コンラートは、くるりとターンをきめながら、グウェンダルの手を離しヴォルフラムの手を引き、自分がいた
位置に導くと、自分はヴォルフの居た位置にすべりこむ、そのままグレタの手を取って組むと、踊りながら二人から離れた。
「うわぁ!お母様すごいすごい!魔法みたぁい!」
「ふふふ、見てごらん、あの二人の慌てよう。おもしろいね。」
いわれて、見ると・・たしかに何やら慌てたように、ステップを踏む二人がいた。どちらが、女性パートを踊るかで
もめているらしい。二人は顔を見合わせ。ぷっと吹き出すと、くすくす笑った。
兄弟組みの踊りは散々だったが、母娘組みのほうは、素晴しかった。あとで、春の妖精たちによる舞だとか、花の競演だとか
だと語り草になったほどだ。グレタは、大いに楽しんでいて、留学先では、このときの様子をベアトリスに何度もきかせのだった。

「あーぁ、見てごらんよ。グリエちゃん。ウェラー卿ったら、やるね。あの兄弟達の慌てよう・・・くっくっく。」
「隊長もイタヅラが好きだからぁ・・、あ〜〜でもぉ、折角猊下が目立って視線を引き寄せたのに、あんなに目立っちゃって・・・
坊っちゃんじゃないですケド・・・ほら群がる蛾のように、男共が寄ってきてるわよん。どーします、猊下?」
「仕方ない、虫除けになってあげよう。」
「きゃー、ゲイカ、ステキー。男前、惚れなおしちゃうわぁ。」
「最後は余計!」
くすん、ゲイカの意地悪・・でもそこがスキ。・・・・・どうやら、グリエ嬢はM子さんだったようだ。


「失礼、お嬢さん。先ほどのダンスお見事でしたね。いかがですか、次はわたくしと・・。」
「何を言う、田舎貴族風情が。お嬢さん、私と踊りましょう。」
我も我もと、いい寄る男に、コンラートは少しあきれた・・・誘い方が下手糞だと、これでは、女性に逃げられるのがオチでは
ないだろうかと?・・・・さすが眞魔国一のモテ男。しかし、その女性が、今の自分であることを忘れている節がある・・・。
結構呑気なお人だ。そこへ、すっと、横から手を引く男性がいた。
「大丈夫ですか、疲れておられるようだ、さぁ、こちらへ、ベランダで風に当たるといいですよ。」
ほぅ、この男は中々手馴れているな。誘い方もスマートだし、丁度いいから、このままついていくか。にっこりと微笑むと
男性に手を引かれるまま、コンラートは喧騒から脱出した。・・・もう片方の手に、ちゃっかりグレタの手を引いて。

ベランダにでると、やっと二人っきりになれましたねといって、男が振り返った。しかし、その視線の先には、にこやかに
微笑む美しい女性となぜか王女・・グレタ姫が・・・。アレ??
「助かりました、ゲルリッツ卿ヴィルフリート様。あのまま、もみくちゃにされたら、姫様に怪我をさせるところでした。
さぁ、グレタ姫、親切なゲルリッツ卿にお礼を。」
「はい!ゲルリッツ卿、助けてくれてありがとう。」
にこにこ、っと二人にお礼を言われ、はぁ、お役に立てれて・・などと答えると、二人は、では、失礼、といって行ってしまった。
あとには、ポツーンと残された男があっけに取られて佇んでいた。

「お見事、たーいちょ。」
どうやら見られていたらしい。にやにやと人の悪い笑みをたたえて、幼馴染が近寄ってきた。
「いや〜〜、助けに来たんだけど、一足早く自力脱出しちゃったみたいだね。」
「あ、ダイケンジャー!大丈夫だよ、お母様に男が言い寄ったら、グレタがこの唐辛子スプレーで撃退するもん!」
そういって、胸元にゆれるブローチを指す。勇ましいお姫様は、中々物騒なものをお持ちだ。
「すみません・・・じつはヴォルフが・・・。」
あ、いたいた!という声がして、そのヴォルフラムが駆け寄ってきた。まったく、あれ程、僕から離れるなといったのに!
「ヴォルフ〜、グレタね、言いつけどおりに、お母様の側を離れなかったよ。」
ぴょんと、飛びつくとグレタは自慢げに報告した。それを、えらいぞグレタ、よくぞ姉上の貞操を守ったと、ヴォルフも大いに
褒め称えた。それを聞いて・・・ひくりと、コンラートの顔が引きつった。

さすがに、大賢者とフォンビーフェルト卿・そして王女グレタを掻き分けて、男たちもコンラートをどうこうしようなどという者は
いない。だが、山は高いほうが登り甲斐があるという・・そのガードの高さが、彼らのやる気をみなぎらせていた。

な・・なんか、隊長にむかって、熱い・・・熱すぎる視線がバシバシきてるような・・・^^;
気配に聡いヨザックは、その熱気に、背中を伝うものを感じる。これは、警備を厳重にしないと、幾ら隊長でも
食われちゃうかも?あははは。それだけは勘弁してほしい。これだけの面子がそろえば、まず大丈夫だとは思うけど。
ヨザックは、広間の外に、カーキの軍服を見つけると、村田に一言つげて、そちらに足早にでていった。

それが、裏目に出るとも思わず。

「ところで、ウェラー卿・・・・・ちょっと、渋谷の事で、話があるんだけど、いいかな?」
「陛下の?はい・・では、あちらで。」
二人は談笑するふりをしながら、中庭へと出た。噴水の所まで来ると、村田はハンカチを敷いて座るように促した。
まるっきり、女性への扱いだが、白のドレスなんて汚れが目立つ服を着ているので、今回は厚意に甘えさせてもらった。
「それで、陛下の事と言うのは?」
「うーん、何かね、渋谷の様子がちょっとおかしいんだよね?もしかして、風呂の一件で、まだけんかしている?」
あの一件なら、すでに怒ってはいない。たしかに、自室に戻ったのは、ちょっと大人気なかったが、まさか猊下にまで
心配されるとは、おもわず苦笑がもれてしまう。
「あれ?違うの?じゃぁ、何かあった?」
さすが鋭い。有ったと言えば、有ったが・・あれは事故みたいなものだし、俺のほうは気にしてないんだけどね。
「心当たりが有るようだね。」
さぁ、ちゃっちゃと!話してもらおうか?
この人も、陛下の事となると、一生懸命だな。
「えぇっと、実は事故が有りまして・・。」
「事故?で?」
言いづらそうにしていることに気づいているだろうに、猊下は容赦なく先を促す。これは、諦めて白状するか。
「寝ぼけた陛下が俺にキスを・・・。」
「へ〜〜やるな、渋谷。」
「・・・・・・・。」
「それで、それで!」
何で楽しそうなんですか?猊下?
「それだけです。」
「えぇぇぇ〜〜〜〜〜それだけぇぇ?な〜あんだ、つまらない。」
つまらないって・・・・。
「てっきり、そこからどちらかが押し倒したとかいう話だと思った。なんだ、ちゅーだけか。」
「・・・・猊下。」
がっくりと、コンラートの肩が落ちる。一体、俺と陛下との間に何を期待してるんでしょうか?
「いいじゃないか、君達夫婦なんだし〜。この場合、君がおいしく食べちゃうのか食べられちゃうのかが微妙だけど。」
どうも、不可解な単語があったが、この御人の真意はどこにあるのだろうか?
「それは、グレタのためのイベントの設定でしょう。俺は、陛下と夫婦になったつもりはありませんよ。」
俺は、無難な答えを、にこやかに告げてみた。
「その割には、ナチュラルに夫婦してたけどね、キミタチ。」
・・・・まぁ、楽しんでいた節も無きにしも非ずですが。なにせ、かわいい名付け子と何時もより一緒にいられるし、
自分をリードしようと奮闘する彼を見るのも楽しかった。・・・ので、これには苦笑するしかなかった。
「でもね、渋谷はそのつもりだったよ。」

--- 君もわかっているんじゃない?


有利と同じ黒い大きな瞳・・・しかし、有利の瞳がきらきらと輝く漆黒なら、こちらの瞳は、闇の深遠を思わすような、
・・覗き込まれた者の心の見通すような居心地の悪さがある。
確かに、気づいていた。陛下が・・・いや、ユーリが自分を見る目に、恋のような甘さがまぎれていることに。だが、それは・・。
「陛下は、勘違いをなされているんですよ。」
「勘違い?」
「えぇ、俺がこんな姿ですからね。自分の理想の女性を、俺に重ねてらっしゃるんです。俺が元に戻れば、自然と陛下の
気持ちも落ち着きますよ。」

ふーーん

「?」
な・・なんだ?何か、猊下の御気に触る様な事を言っただろうか?
「ウェラー卿・・ひとつ忠告。」
忠告?
「渋谷を甘く見ると喰われちゃうよ。」
くすくすと笑いながら、猊下は大広間へと戻っていった。

コンラートの胸に、揺れうごめく小さなさざ波を残して。



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5月1日UP

うーーん、テンポがつかめない。今回は長くかかったわ。長男を、番外編でいじめちゃったので
お詫びに、ダンスシーンを改装して、美味しい思いをさせてみました。これで、許してくれグウェンダル。