長編パラレル   今日から『ママ』のつく 5




今日から『ママ』のつく 5    夫婦の危機?


魔王陛下が風邪をひいた。
前日、噴水に飛び込んだのが原因らしいが、いつもならそんな事で風邪をひけば、摂政であるグウェンダル閣下のお叱りが
まず直撃。その後、婚約者のお小言が長々と続き、ついでにギュンター閣下の鼻血が噴くと、専属護衛が三人をなだめ、
看病を一手に引き受けるのだあったが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

今回は、摂政から労わりの言葉が贈られ、婚約者から同情のお言葉が長々とあり、ギュンター閣下は・・・・いつもどおり
鼻血まみれだったが・・・それをなだめたのは、なんと猊下だった。村田猊下はお庭番に申しつけ、ギュンターを掃除(←汚れ物
扱い)してしまうと、一手に看病を引き受けた。かわりといってはなんだが、今日の執務は、グウェンダルとギュンター、そして
ヴォルフラムが手伝いに入る。だが、そこに専属護衛(今は外れているが)の姿は無かった。

「さぁ〜、坊ちゃん。ゆっくり寝て、早く元気になれるように、この白衣の天使グリエちゃんが、誠心誠意看病しちゃうわよん。」
「は〜〜〜〜〜ぁ。」
あら、なに?坊ちゃんったら、ためいきついちゃって?猊下〜ぁ、やっぱりぃピンクのフリフリメイド服の方が良かったかしらん?
「いや、グリエちゃんは、何着ても同じだから。」
しなを作って擦り寄るミニスカナースを、スパッと切り捨てると、村田は親友のベットの脇に腰掛けた。
「渋谷、元気だしなよ。ウェラー卿だって暫らくすれば、実家・・いや、自室から戻ってきてくれるさ。」
そうなのだ、専属護衛で、只今期間限定妻であるウェラー卿コンラートは、今朝早く、娘を連れて実家ならぬ、
自室に戻ってしまったのだ。
「あ〜〜でも、隊長ってば一気に怒るタイプじゃなくて、静かにふかぁぁく怒るから。」
「あぁ、そんな感じだね。彼・・今彼女か?ってば、溜め込むタイプだからね。」
今頃、それは、ふかぁぁぁぁぁあく 怒り狂っているだろうね〜〜。
「うわ〜〜〜ん、こんらっど〜〜ぉぉ、俺が悪かったぁぁ、もどってきてくれ〜〜〜〜げほげほっ!」
ああほら、渋谷ってばいきなり叫んじゃいけないぞ〜ぉ。叫ばした本人の癖して、村田は愉快そうに、でも顔だけは心配そうに
(なんて器用なんだ BY お庭番)咳き込む有利の背中をさすってやった。有利はというと、げほげほ咳き込みながらも、
もどってきてくれ〜〜などと呟いている。

何か坊ちゃんって浮気がばれて、妻に逃げられた夫みたいだな・・。
少し、憐れになるお庭番だった。

「ほら、渋谷。静かに寝てないと、風邪治らないよ〜。まぁ、このまま風邪をひいていれば、明日の夜会はサボれるけどね。」
あ〜それはいいな〜。夜会とかあると貴族の挨拶攻めだの、ダンスの強制参加だのがあって、大変なんだよな〜。
「もし、キミが出れないなら、僕が変わりに挨拶するし、心配しないでゆっくり休むんだよ。」
「ごほごほ、ありがとうムラタ〜。」
じゃぁ、御言葉に甘えて、夜会は頼む!と、有利はそそくさと寝ようとした。
「でも、今回は飛び切りの目玉もいるし、僕が出席してもそう注目の的には、なる事は無いだろうな。」
ほ〜〜?めだま〜〜のおやじ?それは、めずらしい。
・・・・・すでに半分眠ってしまっているようだ。
あの天然フェロモンのウェラー卿がっ!女性でっ!出席するんだもん?しかも、表向きはグレタ付きの女官だし?
良家の子女設定だから、男共がほっとかないよ〜。いや〜〜、きっとすごいだろうな〜ウェラー卿にー・・。


「群がる蛾どもめ!」

「はっ??」
今の声は、もしかして渋谷??上様モードって言うより・・・軍曹モードが入ってなかった?
「・・・・くそーーーコンラッドは、俺のだ!みてろ!絶対なおして、夜会に乗り込んでやる!!」
いや、乗り込むも何も、元来君が出るべきものだし・・・・。
「よーーし!ねるぞ!」
気合一発がばりと、ベットに横になると・・・・・・1分後・・・くすぴーーーーー!と、寝息が聞こえてきた。

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。寝てるね(ますね?)」」

は〜〜ぁ!いやはや、ウェラー卿の事となると、渋谷は一途だね。こうなると、親友としては、一肌脱いであげなくちゃね〜。
まずは、ウェラー卿の様子を見に行きますか?
え〜〜、グリエ!根深く怒っているあいつに近づきたくないわ〜。
・・・・・・・・・よざ・・・僕の怒りを買ってみるカイ??
ひぃ!いきますいきます!地獄の果てでも、ついていきますぅぅ!(←あんた、地獄の果てより、目の前の少年がコワインカイ?)

と、いうわけで、ウェラー卿を探しに、二人が魔王部屋を後にしたころ。実は妻側にも大変な問題が浮上していた。
「は?お見合いですか?・・・・だれがです?」
「いやね〜、コンラート。もちろん貴女よ♪」

夫と兄弟の仕打ちに、グレタをつれて自室に戻っていると、ツェツィーリエにお茶会に呼ばれた。厨房でグレタと焼いた
キルッシュトルテを土産に持って訪ねると、すでにアニシナとギーゼラもきていた。女(?)5人でケーキをつつきながら、男の
不甲斐無さをあれこれ言っていると、不意に思い出したようで、ツェリが思いがけないことを言い出したのだ。

何と!コンラートにお見合い話が持ち上がったのだ。
「でも、今俺はこんな姿ですし、相手の女性が驚くのではないですか?」
「うふ。大丈夫よ!だって〜。」
ぞっと、背筋に嫌な寒気が上る・・・・母が無邪気な顔でこのような話題が上る時、決まって無理難題が突きつけられるのだ。

だって〜お相手は、殿方ですもの〜♪

何でも、先日血盟城に登城された時に、あなたを見て一目ぼれしたんですって!城の者に聞き出して、下級貴族の子女では
あるが、その才覚でグレタ姫付き女官として召されたときいて、その方ったら、家柄に合わぬ者を嫁に出来ないという御両親を、
上級貴族の家に一度養女としてから、むかえる算段までつけて説得なされたんですって〜。きゃ〜〜情熱的よね?
それで、息子がそこまで言うならと両親がおれて、あたくしのところに、この話を持ってこられたのよ。一途な殿方でしょう?
一度会って差し上げなさいな。
「だめです。」
あら?にべもなく、盛り上がる母親にピシャリと言い放つ。冗談ではない、男なんぞとだれが、見合いなどするか!?
「でも、会ってさしあげるだけでも?ねぇ?」
「会ったら最後、結婚させられます!相手は、人の意思も確認しないで養女の話まで進めているんですよ?今更、実は
男です。とも、いえないですし、この話はきっぱり断って下さい!」
「え!やだやだ、コンラッド結婚しちゃったら、グレタのお母様じゃなくなっちゃう!グレタせっかくお母様が出来たのに〜。」
しょぼ〜〜んとしたグレタに、コンラートの気配が険しくなる。やさしく娘を抱き寄せると、母親に向かってはキツイ・・・いや
確実に殺気を込めた視線を送る。自分の娘の前で、何と言う話題を出すのかと。すっかり、母親意識が染み付いて
しまっているコンラートだった。
それに、愛弟子可愛さに、アニシナも同意する。
「そうですね〜、相手の意思も何も確認しないところが癇に障りますね。嫁にもらってやるぞという意識が丸見えです!」
よって、この話は蹴って差し上げなさい!
「でも、どこの方ですの?ウェラー卿も、そのくらいは聞いたほうがよろしいのでは?」
「ギーゼラ!そうよね、せめて名前くらい聞いてもいいわよね!」
興味を示したギーゼラに、援軍ができたとばかりに、喜ぶツェリ。
「いいえ、名前を聞いておかないと、あとで色々あったときに制裁を加えることが出来ないじゃないですか?」
しかし、にっこり笑った彼女の口からは、恐ろしい言葉が出てきた。そういえば、この女性士官もグレタを妹のように
可愛がっていたっけ。
そして、母の口からでたのは、上級貴族の名前で、十貴族とまではいかないが、それに準じる程の中々権力のある家であった。


ところで、この会話を聴いていた者がいる。言わずと知れた、敏腕お庭番グリエちゃんだ。猊下に言われて、ウェラー卿の
ご機嫌(←やはり大賢者でも女性(?)の怒りは怖いらしい)の様子を探りに来ていたのだった。

-- こ・・これは、えらいことだわ!親分に報告しなくちゃぁぁ!


「何だとっ??コンラートに男との見合い話が?」
「何ぃぃ〜〜?本当かグリエ!姉上に懸想する輩が出たのか!くっそ〜〜ゆるせん。」
はぁ、とか答えて、二人の剣幕に押され気味のヨザック。直情型の三男はまだしも、長男まで声に怒りが滲んでいる。
その様子に、あ、やっぱり、この兄弟、シスコン確定だよ。と、認識を新たにしたダイケンジャーだった。

グリエの報告を聞くと、わなわなと三男がこぶしを震えさせた。

「あ・・姉上を、一度どこぞの貴族に養女にあげてから、貰いうけるだとぉぉ!だれが、やるか!愚弄するにも程がある!」
ウェラーで何が悪い!姉上は、救国の英雄なんだぞ!魔王の忠臣なんだぞ、己にとやかく言われたくないわ!

ー いや、相手は、彼女の事をウェラー卿だと知らないんだし。とやかくも言ってないし。

大賢者の意見も、聞く耳を持たずだ。

それを、お庭番は、ほぉと面白そうに見た。なんだかんだで、やはりプー閣下は、すぐ上の兄を憧憬を込めてみていたんだな。
思わず本心が漏れてしまっている。これは、あとで隊長に教えてあげよう。きっと、喜んで酒でもおごってくれるだろう〜♪

「しかも、姉上のお姿を舐めるように見るとは何事だ!その上、色々調べ上げるだの付きまとって、勝手に嫁入りの算段まで
してるとは、あれだな!ユーリがいっていた、『すとーかーあ』というやつだな!なんというおぞましき変態!」

いや、確かに毎日登城しては、彼女の姿を眺めているらしいが・・・・なめるように見ていたなんて話しあったっけ?

「ちょっと、フォンビーレフェルト卿?べつに、姿を見て服の下を想像していたとか言う話なんて「「なに〜〜!?」」
聞いてないしとは・・続けられなかった。みごとに、兄弟たちの怒りに火を注いでしまったらしい・・・つーか、僕の話を聞いてよ。

「コンラートの服の下を想像などしていたのか?首筋から伸びる先にある鎖骨とか?その先のやわらかそうな胸とか?
スカートの中に隠れたすらりとした足とかをか?」

親分・・・何でそんなに・・細かく言い当てるんですか?
けっこう、似たもの兄弟だったんだね・・・危ないよ・・・。ぼく、ウェラー卿に励ましのお手紙でも出そうかな?
やめてください、隊長が泣いちゃいますよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「許せない!確かに、姉上の胸は弾力があって柔らかいし良い匂いもするけど!それを妄想しているとは!はっ!まさか
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・そんな・・姉上危ない!・・・・・・・くっそ〜〜!破廉恥な!
・・・・・・・・・・こうなったら、僕が姉上の貞操を守るぞ!!」
「うっ!」

そういえば、フォンビーレフェルト卿って妄想癖が有ったよね・・・・真っ赤になって何を想像したんだろう?きっと、
禁断の扉でも開けちゃったのかな〜?ところで、フォンヴォルテール卿は、また!壁に頭を打ちつけているのかい?

どうでしょう?・・・閉じてくれれば良いんですが・・・親分だったら気にしないでください・・それが武士の情けって言うやつです。

これは隊長には黙っていよう・・・きっと口を滑らしたが最後、この国最高峰の剣技で、自分の首と胴体がおさらばだ!
俺が妄想したわけではないという言い訳は通じないだろう。それにきっと、折角戻りかけた兄弟仲が今度こそ修復
不可能になってしまう・・・・・うん、やめとこう。それが、国のため・・自分のためだ。

にわかに、雲行きが怪しくなってきた・・・、このまま、無事、夜会を乗り越えられればよいのだが・・。


さて、その頃、魔王様は・・・・?

くすぴーーーーくすぴーーーー。世にも平和そのものの寝息を立てて、まだ寝ておられた。

キィー

静かに扉が開かれ、一人の女性が入ってきた。手にしたトレイには、おいしそうなケーキ。女性は、トレイをベットの横のサイド
テーブルに置くと、そのまま眠っている有利の額へと手を伸ばした。

ん、冷たくて気持ち良いーー。

すりすりと、すりよると、やさしい手が頬をなでてくれた。この手・・・そうだ、いつもと違うけど・・俺が間違えるわけ無いじゃん。

「こん・・ら・・・・」
薄く目を開けると、大好きな銀の星が近くで瞬いていた。俺はうれしくなって手を伸ばすと、そのいつもよりも華奢で白い首に
腕を回した。いいにおい〜〜。うん、コンラッドのにおいだ。香水に混じっていたって、俺にはわかるもんね!
「ユーリ、熱は下がったみたいだね。食べれるようなら、ケーキ持ってきたけど、たべる?」
う〜〜、ケーキよりコンラッドがいい。
すりすりすり。
「はぁ〜〜、ユーリ、男にそんな可愛いコトしちゃだめですよ。じゃないと、まんまと食べられちゃうよ?」
う〜〜?たべるの?コンラッドが?や〜〜おれも〜おれがたべる〜。
「ユー・・・・」
俺は、目の前のものに吸い付いた。う〜やわらかくって、ちょっと冷たくって気持ちいい。そのままぐいぐい押し付けると、
ぷにぷにした感触がまたいいな〜〜なんて・・・うう、気持ちいい〜。

おや?ぷにぷに?ってなんでしょう?

ぱちっと目を開くと、何やら ぼやけた人の顔?ああ、近いからか・・・・・あれ?何で近いって・・・・・!?
いきなり覚醒した頭が事態を急速に理解し始めた。首に回していた手を離すと、ばばばばばッ!とベットの端まで下がった。
一方、コンラッドは、目を見開いたまま呆然としたまま動かない。完全に固まっている。俺はこそーーと側まで戻ってくると
目の前で手のひらをひらひら〜〜とふった。
それでやっと、コンラッドは2.3度瞬きすると、俺を視界にいれ・・・・再び固まった。
え〜〜と、名付け子にいきなり唇を奪われちゃってショックなんでしょうが・・・・その反応は・・俺もショック・・デス。
だって、彼は百戦錬磨のモテモテ君で、女性とのキスくらい沢山あるでしょうし、それがこの反応って事は・・・俺ってそんなに
範疇外?いや、俺ってば男だし・・・もしかして気持ち悪いとか思われたりして。

しゅーーんとなった俺を見て、どう思ったのか?コンラッドは俺の頭を撫でてくれた。
「ユーリ、すみません、驚いただけですから・・・寝ぼけちゃったんだから仕方ないよ。ね?俺は気にしないから。」
確かに、寝ぼけたけれど・・・気にしないのか?それって、やっぱり範疇外?
「あの・・その・・・ゴメン。」
「いいですよ、気にしないで、ユーリも忘れてしまいなさい、俺も無かったことにするから・・ね?」
無かったこと・・・・ああ、やっぱり俺じゃ駄目?だよな〜。だって、コンラッドが今俺の奥さんなのも、所詮はおままごとで、
もっというならグレタの為だろうし・・・・。


俺ってなんなんだろう?わかていたのに、彼を自分の奥さんだって浮かれて・・・・・。



そうだよな、最初から彼は自分のものになんてならない人だったんだ。



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4月23日UP

暴走〜〜♪次も暴走〜♪ヴォルフが暴走〜♪あの、お兄ちゃん大好きめ!