長編パラレル  今日から「ママ」のつく  2


今日から「ママ」のつく  2


ずずず・・ああ、お茶がおいしい。

叫び疲れた喉を、優しい味の紅茶が癒すべく流れていった。
ちらり、と目の前の家族を盗み見る。愛娘を真ん中に左隣に父親である有利陛下・・そして右隣には
なぜか、現在女性と化している、元・護衛・今母親のウェラー卿コンラートが座っていた。




話は数日前に遡る。

バーーーン!と勢い良く執務室の扉が開かれると、ツカツカとブーツの足音も高らかと、深紅の嵐が
乗り込んで来た。
「あ〜アニシナさん、いらっしゃい。」
そう呑気にも、机から顔を上げて挨拶したのは、この国の最高権力者・渋谷有利魔王陛下だ。
残りの面々は、かえるを潰したような、
「うっ!」ー 永遠の被害者 ー・
「げっ!」ー 自称婚約者 ー・
「ひぇ!」ー 汁王佐 ーなどと、声というより音で、その嵐を出迎えた。

「ご機嫌麗しゅう陛下。それにしても、他の男共は挨拶の一つもできないのですか?嘆かわしいですね。」
いきなり、ドアを蹴破ってきたお前にだけは言われたくない!とは、思っても口に出さない面々であった。
言ったら最後、どんな厄災が降りかかってくるかわからないことを、身をもって経験済みだからだ。
だからといって、黙っていれば降ってこないかといえば?・・この女性に関して言えばNOであった。

「で、本日は一体なんなんでしょうか?」
さすがに、この女性も、魔王陛下をその毒牙(文字通り)にかけることは無い(はず)なので、有利は
いたって普通だ。しかし、なぜか低姿勢なのは、それでも要注意だからだ。


「情緒教育です!!!」

は?また、何を言い出すのだろう?あいかわらず、脈絡の無いとは、口が裂けても言ってはならない。
言ったら最後ーー(以下略)

「はぁ。」
「何ですか、その気の抜けた反応は、だから、グレタの教育をあなた方だけに任すのは不安なのです。」
あぁ、なんだ、グレタの教育の話か〜。現在、魔王陛下の養女グレタは、廃国のゾラシア皇族の唯一の
生き残りということもあり、人間である彼女の事を考慮に入れ人間の国に留学している。
魔族の教育だけでは偏りが生じる事を懸念し、皇族として身に着けなければならない事や、人として
生きて行く術を、同盟国であるカヴァルケードで、勉強しているのだ。
そのグレタは、つい先日、久方ぶりに帰郷している。

「なんだと!グレタの情緒教育なら、僕が手ずから絵画を教えている!何も問題など無いはずだ!」
「おだまりなさい!あんな狸の置物の絵など!何の役にも立ちません!」
あーよかった、やっぱり、ヴォルフの絵は狸に見えるんだな?眞魔国の美的感覚がずれているからで
はないんだ〜。憤慨する自称婚約者で、グレタのもう一人の父親を自認するヴォルフラムを放っておいて、
有利はそんな安堵を覚えていた。しかし、有利がのんびり構えていれれたのは、ここまであった。

「やはり、陛下とヴォルフラムの面白可笑しい夫夫(?)だけでは、些か役不足!そこで、わたくしは
考えました!すこやかなる精神の育成に、母親も一人くらい必要だと!」

「「「「 は????」」」」

「えぇ〜〜ちょっとまって!母親って、女の人!ってことは、俺に奥さん??」
「まて!有利の伴侶は僕だけだぞ。そんな、どこの馬の骨ともわからぬ女に有利は渡さん!」
「何ですって!アニシナ!いくらなんでも、恐れ多くも魔王陛下の伴侶となる者なら、わたくしが厳正なる審査を!
はっ!まさか、貴方がなるというのですか?きぃぃーーーゆるしませんよ、そんな事ぉぉ!!」
「何?アニシナ本当か?小僧と結婚する気なのか?確かにこのままだと嫁き遅れるのは、間違いないが」

「・・・なんですって?ぐぇんだるぅぅ???」
「ひっ」

毒女は一睨みで、天下の摂政閣下を黙らすと、ふん!と鼻を鳴らしてふん反り返った。
「確かに、わたくし自らが育てれば、グレタも立派な毒女になれるでしょう。しかし、ワタクシの叡智と献身は
魔族の繁栄の為に有るのです。結婚などと下等な男に使う暇など、爪の先程も有りは致しません!」
よかったーー!心底良かったーー!下等な男扱いされても良い。アニシナが王妃になるよりはマシだ。
一同、ほっと胸をなでおろした。
「その点は、ご安心を。こちらで最良の者をご『用意』して、既にグレタに『引き渡し』ました。グレタもとっても
喜んでましたよ。彼の者なら、わたくしとまではいきませんが、グレタの良い母親になってくれるでしょう。」

「Σい・・今なんと仰いましたか?アニシナさん???」
聞き間違えか?既になんだって???
「だから、既にグレタには母親を渡したといっているのです。あぁ、どうやら来たようですよ。」
言われてみれば、廊下から楽しそうな声が近づいてくる。一人は間違いない、自分の愛娘の声だ。
だが、もう一人の声は、聞き覚えがまったく無い。少しハスキーで落ち着きのある柔らかな女性の声、
この人が自分の奥さん?彼女いない暦=年齢の俺に、いきなり奥さん??ソ・ソレは困る!
だって、俺には、密かに(?)好きな人がいるのに!!これは、断固拒否だ!グレタには悪いが
俺にだって譲れないものがある。


「ア・・アニシナさん、悪いけどそれは、承服しかねます。見ず知らずの女性を、いきなりグレタの母親だとか
言われても!」
「よく言ったぞ、ユーリ!そうだ、いくらなんでも強引過ぎるぞ。グレタには、僕とユーリという父親がいるんだ。
そんな女など要らない、とっとと引き取ってくれ。」
グレタの父親二人の攻撃に、摂政も同じ意見らしく、助け舟を出した。
「アニシナ、今回ばかりは、二人の意見も、もっともだ。今日有ったばかりの女性が、グレタを理解できるとも
思えん。それに、そう簡単に母親になんてなれるものではないことくらい、お前でもわきまえているだろう。」
「そうです、そうです!だいたい、いきなり現れた女性を、グレタだって母親として認めているか?それにもし、
その女性が、グレタを手懐けて、陛下に近づこうと画策しているとしたら?あぁ〜〜きっとそうに違い有りま
せん!」
あ〜〜わたくしの陛下がぁ〜と、髪を降り乱して、王佐までもが援護射撃、半分妄想が入っているが。

「本当に要らぬのなら、わたくしとてこのような事いたしませんよ。本当にそうなら・・・・。」
珍しくも、アニシナが言いよどんだ。いつでも、すっきりきっぱり言い捨てる彼女が。
「アニシナ?」
何かあるのか?グェンダルが目線で幼馴染に問いかける。それに、ふっと、いつもよりほんの少し気弱な
笑顔で(最もわかるのは、グウェンダルだけだが)アニシナは返す。

一度目線を落としてあげると、しっかりと4人を見て言う。
「貴方達の意見はよくわかりました、でも、この事については、グレタ本人の意見が最優先です。」
まずは、あの子に聞いてから、続きは議論いたしましょう。

コンコン!

「グレタですね。お入りなさい。皆にお母様を紹介して差し上げなさい。」
「はぁい!」
グレタが意気揚々と入ってくる。しっかりとその女性と手をつないで。半ば、引っ張られるように入室して
きた女性は、100歳(人間だと20歳)くらいの若い女性だった。淡い若草色のワンピースと白いレースと
シフォンのカーディガンを羽織ったスレンダーな長身。髪はグレタと良く似たウェーブのかかった赤茶で、
物腰はやわらかそうだ。少し長めの前髪から覗く顔は、恥ずかしそうに俯いていて、清楚な美人タイプだ。
「ユーリ!みんな!紹介するね。グレタのお母様だよ!アニシナが作ってくれたんだ!」
作る??母親って作るものなのか?
「グレタ、そのお母様でよろしいですか?それとも、他のをお母様に作りかえますか?」
は?ナンデスと?作りかえるって何?その人、アニシナさんの作品なわけ?って、まさか、人間じゃないとか?
「ううん、グレタ。このお母様がいい!他のはいらないよ〜。」
他の・・・・。グレタ・・母親って換えのきくモノじゃないから・・・^^;

どうです?とばかりに、アニシナが他の面々を振り返る。正直、ここまでグレタが気に入っているとなると、
この女性は気立ても良い人なのだろう。しかし、どんなに、美人だろうが・・・有利には、別に共に在りたい
ヒトがいるんだから、仕方ない。ここはきっぱりと断って・・・でも、グレタが泣いたりしたら・・・うううう。

「おや?まだ反対ですか?でしたら、これを。」

バーンと効果音が聞こえそうな勢いで取り出されたのは(どこから出したんだろう?)
三角フラスコからぶくぶくと煙を噴出す、摩訶不思議な液体・・・・形容しがたい色から察するに毒ぅ?
「コレをどうしろと?」
恐る恐る聞いたのは、こういう事態に免疫のあるグェンダル・・・些か声が震えているのは、彼の境遇を
考えれば仕方が無いだろう。
「見てわかりませんか?飲むのです。」

ああぁぁぁあ、やっぱりぃぃ〜〜〜。

「飲むとどうなるのだ?」
やはり、恐る恐るグウェンダルが聞き促す。
「こうなります。→」
指し示されたのは、件の女性。って、ことはなにか?彼女はコレを飲んだのか?飲んだ結果がコレ・・?
「そうですね、まぁ、グェンダルがどうしても飲みたいというのなら、止めはしませんが・・・見た目どうなっても、
当方では責任持ちません。他の面々は、多少見てくれが変わる程度でしょうが。さぁ、誰が飲みますか?」


さぁさぁ!!!ずずずい〜〜〜〜と飲んでみなさい!


摩訶不思議な液体(毒?)を片手に迫り来る赤い悪魔・・・。押されるように、だんだんと壁際に追い込まれる
4人・・。よん??って、俺も!?なんでおれまで〜〜〜〜><。

「アニシナ〜、ユーリはお父様だからだめだよ。グレタ、お母様が増えてもお父様がいなくなったらヤダ。」
「ぐ・・ぐれたぁぁ〜〜。」
有利思わず感涙。愛娘によって、とりあえずの危機は脱したようだ。
「では、どれになさいます?立候補がいないなら、推薦でもかまいませんよ。」
アニシナが、また物騒なことを言い出す。それに対してのグレタの返答は、誰も飲まなくていいと言う物だった。
「「「グレタ♥」」」
「だって、グウェンがお母様ってビミョーだし、汁っぽいお母様なんて論外でしょ?ヴォルフは、見た目はいいけど
中身がお母様って感じじゃないもん〜。だからいらなーい。」
「「「グ・・グレタ(TT)」」」
なんだろう、毒を飲まなくていいのに、うれしくないのは?


「それくらいにしてくれないか?アニシナ。一応、師匠と兄と可愛い弟だし。」
苛めないでくれるかな?
にこやかに、女性が止めに入る。すると、アニシナも。
「貴方とグレタがそういうなら、ここまでとしましょう。もう、文句も無いようですし。」
確かに、色々ぐったりして文句もいう気力もない面々だが、今の話し方は・・・?

「それに、彼らには危害を与えないという約束で俺がこれを飲んだんだから、約束は守ってくれるんだろう?」
ああ、やっぱり危害って、あの薬は危険物なのねーーーーーじゃねぇーーーーー!!!!!

まさかまさかまさかマツザカーーは、ちがう!今、俺とか言いませんでした?でもって、グウェンたちを兄と弟って!

「まさか・・・・アンタ?ーーー名付け親ぁぁ???」
「はい、やっと気づきましたか?陛下?」

「なんだと!ここここんらーーとか??」
「なに?うぇらーきょぉぉ???」
「なんですと、コンラートですって?」

がしっ!!!いきなりヴォルフがコンラートと名乗る女性に近寄ると、胸倉を掴んで?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああああ・・ある。」
いかにも、恐ろしい物が有るように、胸の谷間を凝視した。
「うぎゃーー、どうしたコレは!僕の兄は、男だったはず!いつから、姉になった〜〜〜ぁぁ!!」
相当混乱しているようだ。
「ヴォルフ・・今、兄って・・。」
対して、コンラッド(なんだよな、コレハ?)は、心底うれしそうに、ぎゅっと可愛い弟を抱きしめた。
「・・・ピキッ・・(フリーズ)・・・・」
「グウェン、聞きました?今、ヴォルフが俺の事、兄って呼んでくれましたよ。」
かれこれ、40年ぶりだよね。ふふ。にこやかに、その胸に弟を抱き込むその人の目には、間違えようも無い
銀の虹彩がうれしそうに輝いていた。ああーーー間違いない、俺の名付け親がなんて姿に・・・・なんて・・・。



なんて・・・・美人なんだーーーー!!!!アニシナさーん、有難う!今日から赤い天使と呼ばせて頂きます!
  (いや、やめておけ陛下。確実に嫌がられます。)



「グレタ!今日から、お父様とお母様と仲よく、暮らしていこうな!」
「うん、お父様!」
「おや、納得していただけたようで?では陛下、残り10日仲良くお過ごし下さい。わたくしはこれで。」
颯爽と、赤い悪魔(改め赤い天使)は、出て行った。きっと、新たな研究に没頭するのだろう?
それを、グウェンダルが追って行く、めずらしい事も有るもんだ。


ところで、10日って?


執務室をでてしばらく歩いたところで、幼馴染に追いついた。
「アニシナ・・・何かグレタについて、知っている事があるのか?帰ってから、なにやら塞いでいる
みたいだったが・・。」
おや?、という目でアニシナがグウェンダルをみると、眉間の皺が深くなった。
「さすがに気づく、あの子を可愛がっているのは、陛下やお前だけではない。」
言外に、自分だって心配しているということを、言っているのだろう。まったく、素直に言えばいいものを。
「それに、いくらお前でも、グレタに関しては、あんな強引な事とわかりきっている事をしないだろう。」
理由がなければ。・・・・・・本当に素直でない上に、言葉数も少ないときている、わたくしが察しの良く
なければどうするつもりでしょう?この男は・・。
あきれつつも、そんな幼馴染の性分を案外気に入っている自分をアニシナは知っていた。

ー えぇ、あの子には口止めされていましたが、コレを知っているのは、わたくしとコンラートだけです。

そう、だからあの青年は、女性になる薬を躊躇なく飲んだのだ。彼女の心情を誰よりも自分のものとして
感じられたから。そう、自分や他の者ではだめなのだ。この役をやれるのは、最初から一人だけ。


ウェラー卿コンラートでしか、グレタの母親役は出来るものがいないのだった。








今日からママのつく2です。う〜〜ん、今回、2日でかけた。このシリーズ楽しいな。
楽しみにしていると仰って下さった皆様。とても、励みになりました。正直、有利が女性になっても違和感が無いけど
コンって、どうよ??とか、反応が怖かったんですが、あはは、みなさん平気みたいですね。
さすが、次男FAN闇鍋サイトに足を踏み入れた方々だけはある。
えー、早くも1000HITこえました。まるマって、すごいですね。
予定していないアニ×グウェっぽい話が最後に入りましたね。うわーびっくり。って、私が驚いてどうするのよ。
どう、転ぶんだか?わからない小説です。もう、これは勢いで書いて、まとまってから改稿したほうがいいかも
しれませんね。^^; つぎも、回想の続きです。


4月8日UP(って、もう、9日といっていい時間ね)