長編パラレル   今日から『ママ』のつく 12


今日からママのつく12


さようならママ



爽やかな風の吹くこの日、朝から厨房では、コンラートが忙しく立ち回っている。
今日は愛娘が、留学先に帰る日だ。船の上で食べれるようにと、お手製の弁当を作っているのだ。
それと、日持ちのするケーキなどの焼き菓子に、可愛いトリュフ・・材料のチョコは地球製なので
きっと珍しいから喜ばれるだろう。
全て作り終わると、娘を起しにいく。魔王部屋に入ると、寝台の上には娘と夫と白い子猫たちが
寝転がっていた。

かわいい、風景だな〜。

娘のぷくっとした頬をつつくと、うーんといってグレタが寝返りを打った。

「グレタ・・陛下・・二人とも起きて?もう2番目覚まし鳥が鳴いたよ?」

優しく髪を梳いて起すと、まずはグレタが『うう〜〜、あさぁ?』と寝ぼけ眼で起き上がった。
「おはよう、可愛いグレタ。」
ちゅっと、額に朝の挨拶を落とすと、抱き上げて洗面所に連れて行く、冷たい水で顔を洗うとタオルで
顔を拭いてやり、着替えを手伝う。部屋に戻ると、やっと有利がベットの上に起き上がっていた。

「ユーリ、顔を洗って着替えてきて下さいね?」
そう声をかけると、鏡の前の椅子にグレタを座らせて、ブラシで丁寧に髪を梳くと、先日城下で
買ったピンクのヘアゴムでツインテールに結んで、白いリボンで飾り付けた。
前髪を横から分けて、小さな髪留めで留めると、いつもとちょっとちがう娘。

「うん、かわいい!」
「ほんと?グレタ可愛い?」

ピョコンと、椅子から飛び降りると、グレタは父親に、結ってもらった頭を見せた。今日は一段と可愛いと
有利にも褒めてもらえて嬉しいようだ。三人揃って、朝食にむかうと、廊下で三男が待っていた。
ヴォルフも、グレタが帰る日だけは、いつも早めに起きて少しでも娘と一緒にいようとする。
「グレタ、今日の髪形は一段と可愛いな。」
開口一番、愛娘を褒めると、お母様にしてもらったの〜と、上機嫌で父親その2に報告するグレタ。
朝から、ほのぼのとした空気が漂う。でも、今日で再びグレタが留学先に戻ると思うと、ほのぼの
とした空気の中にも、寂しいものがある。
朝食の席には。いつものギュンターと三兄弟の他に、村田とヨザック、ツェリにアニシナとギーゼラが
揃っていた。皆、旅立つグレタを見送るために集まったのだ。


そして、旅立ちの刻。馬車に次々とグレタの荷物が積まれていく。そして、集まった人々から選別が次々渡されるのも
既に恒例行事だ。いつもなら、皆忙しいのでここで見送られて帰るのだが、今日はコンラートが港までついていくと言う。
それも、ノーカンティーに乗るのではなく、一緒に馬車でおしゃべりしながら行こうと誘ってくれた。
グレタは、道すがら母親の膝に乗って、窓の外を見たり、皆がくれたものをあけたりして、最後の逢瀬を楽しんだ。



もうすぐ、港という所で、グレタは前を見ながらコンラートに語りかけた。

「コンラッド・・あのね、グレタの為に、お母さんなってくれて有難う。女の人になって・・大変な思いさせて
しまって、ごめんなさい。コンラッド、グレタのコト・・アニシナから聞いたんでしょう?」

それにコンラートは、そっと後ろから幼子を抱きしめて、ちがうよと言った。

「俺が、そうしたかったからしたんだよ。グレタは、俺がお母さんじゃ、もう嫌になったかな?」
それに、ふるふると、首を即座に振るグレタ。
「グレタのお母さんは、死んだお母さんとコンラッドだけだよ。」
「うん、俺の娘もグレタだけだよ。」
それにね?いたずらっ子のような顔で、コンラートは娘の顔を覗いてこう言った。
「お母様はね、結構強いんだよ?例えアニシナの頼みでもね、グウェンやプーとちがって、ダメなら断れるんだよ?」
あくまでも、今回の事は自分の意志だと言い張るコンラート。その気遣いと、言い方にグレタは思わず笑ってしまった。
「だよね!お母様は強いもんね!グウェンとヴォルフと違って!」
「そう、お母さんは強いんだよ。それに比べて、男ってダメだね」
「うん、だめだよね〜。」
そうそう、ダメって言えば、ユーリなんてね・・

きっと、今頃執務室で、盛大にくしゃみをしているだろう、男達を思い出して、母娘はダメだししながら楽しい
道中をおくった。やがて、馬車は港に着き、グレタを待っていたカヴァルケードの船に荷物を運び入れると、
コンラートは一つの包みを渡した。
「これはお弁当、船の中で食べるんだよ。それと、向うで何か有ったらすぐに鳩を飛ばすこと。いいかい?いつでも
お母様を呼ぶんだよ?アニシナに頼んですぐに飛んでいくから・・。もう、我慢しなくていいからね?」
「はい、お母様」


いいお返事だ。じゃぁ、『また』ね。可愛い『私の娘』

一度ぎゅっと胸の中にグレタを抱き込むと、これから、グレタに付き添うと言う女官に、娘をどうぞ宜しくお願いしますと
言って、コンラートは船を下りた。やがて、橋が外され汽笛が鳴ると、船がゆっくりと眞魔国から離れていく。

「グレタ・・必ず私を呼ぶんだ、いいね?」
「はい、お母様、何か有ったら必ず呼ぶから!いってきま〜す!」
「いってらっしゃい。待っているよ。」
「ありがとう!大好きお母様!」

グレタは、何時までも船から手を振っていた。
そして、コンラートも船が小さく水平線の向うに消えるまで、何時までも見送っていたのだ。


グレタは、眞魔国が見えなくなると、カヴァルケードの女官に付き添われ、あてがわれた船室に戻っていった。
「姫様?先程の美しい方がお母様ですか?」
「うん、できたてほやほやなの〜!」
出来立てほやほや??なにやら美味しそうな言い回しだ。でも、可愛らしく王女が、にこにこしているので、それ以上
女官も突っ込まなかった。彼女がお茶を入れている間、グレタは皆から貰った包みの整理をしていた。
粗方、お母様と一緒に見てしまったけど、一つだけ大賢者がくれた包みは、船に乗ってから開けるようにと言い
つけられていたので、開かなかった。もう、ここまできたら、開けても良いだろうか?

ガサごそと包みを開けると、中から本のような物がでてきた。拍子には、厳選写真集と書いてあった。しゃしんって何だろう?
中を開けた途端、グレタは驚きの声を上げた。そこには、まるで生きているかのように、今にも動き出しそうな小さな絵が
入っていた。一枚目は、おそろいのドレスに身を包んだ、お母様と自分だ。これは夜会の時に来た服だ。
髪を結い上げた美しい女性が、絵の中から微笑みかけてくれている。隣にいる自分も嬉しそうに笑っていた。
2枚目は、ダンスのときの写真だ!軽やかにステップを踏む様子が見て取れる・・何気に奥に写っているのは、
グウェンとヴォルフ・・慌てた様子が、当時の事を思い出させて笑ってしまった。厨房でケーキを焼いた時・おやつの時間・
みんなでの楽しい団欒・有利とお母様とグレタが揃って寝ている絵まである。すごいすごい!これが有れば寂しくない、
それに、向うのみんなにお母様を自慢する事も出来るよ!有難うダイケンジャー!



今回の帰省で、母親との思い出という最大のお土産を持って、グレタは留学先に戻っていった、。そして、早速、一番
仲良しのベアトリスに、『げんせんしゃしんしゅう』を見せて、国での楽しかった日々の思い出を色々聞かせた。
その、グレタが持ち込んだ、美しい一人の女性の絵姿が、後で新たな騒動を巻き起こすとも知らないで。



どうやら、コンラートのママのつく自由業(?)は、まだまだ終わらないようだった。



今日から『ママ』のつく FIN




6月15日UP
ここで一旦、この話は終わりです。
サイトOPENからですから、2ヶ月半!?結構マメに更新していたのに、時間がかかりましたね。
元々、有利・グレタ・コンラートのロイヤルファミリーネタが、巷にあまり無く、自家生産に踏み切った作品です。
いわば、この作品が無ければ、このサイトも作っていなかったというものでした。
陛下女性ネタや結婚物は、割りと有りますし、コンラッド女性化もそれなりに有るのですが、グレタが絡まな
かったり、すぐにお嫁に行ってしまったり・・。もしも、コンラッドがグレタのお母さんになったら?という物が
欲しい!ということで、お恥ずかしながらの、自家製産です。どなたか、このネタ他に書いてくれないかな〜?
でもって、私に読ませてください!私も書いていますという、同志募集!(←本当に飢えているな・・。)
コンラート閣下を女性化すると言うのは、受け入れられるかと心配した作品ですが、意外にウケが良く、私が
びっくりしました。なんと言うか、書いている私が言う事では無いですが、皆さん結構、勇者ですよね!
良くこの作品を受け入れましたよね〜、陛下は巷に有りますが、コンラートさんは中々・・しかも、
コンユと、言い張る私。あはは。だって、コンユなんですもの。
さて、長い間お付き合いくださり有難うございます。本編は、これで終わりますが、最後に書いたとおり、
次の騒動があります。それは、また別の話。^^b 





ところで、厳選写真集なる物は、もう一つ有った。グレタに渡された物は、グレタ専用の厳選であり、もう一つの
特別厳選写真集は、選んだ基準が違った。しかも、厳選したのは、この人・・・。

「いや〜、ウェラー卿のおかげで、うはうはだね〜。」
ほくほく顔のこの人物こそ、地球からわざわざプリンターやインク一式を買い込み、(ちなみに、電源はアニシナに
開発してもらった。)しかも持ち込んで、隠しカメラで写真を取り捲った張本人である。

地球では、渋谷家兄と、萌えを巡って大論争を広げる彼のもとには、この数日で撮り貯めた美しい女性の
写真が広がっていた。その中から、選んだ数十枚の写真集には、娘に向けて微笑む慈愛に満ちた笑顔から、
男共を鞭でしばく女戦士の貌やら、回し蹴りで男を吹っ飛ばすシーンやら、一体何時撮ったんだ!という物が
色々揃っていた。その中から、三枚つづりの第一弾は、先日販売したところ、一日で完売してしまい、既に
プレミアがついていると言う。


「へ〜、これがその、ぷれみあっていうのがついた、第一弾ですか?}
ヨザックが、その三枚つづりの写真を見た。価値がついたというのだから、どんな際どいものかと言えば?そうでも
なかった。一枚は、振り向いた瞬間なのだろう、きっとこの視線の先には、陛下あたりがいたに違いない!
嬉しそうな笑顔のアップ写真だ。とてもいい表情だな〜と感心した。
2枚目は、厨房で料理をしている所だろう、紺のメイド服に白いエプロンが眩しい。
こんなお嫁さんに、料理作ってもらいテー!という、声が聞かれたそうだ。
しかし、このメイド服・・城の物ではないな?


まさか・・。


「あぁ、それ?地球から、グレタと御揃いの作業服を買ってきたんだよ。ほら、ドレスが汚れちゃまずいだろ?」
作業服・・たしかの厨房で作業はしていたが・・ヨザックにはわかっていた、これは、萌えるメイド服という
村田が拘った服の一つだと。何も知らずに着せられている幼馴染に、思わず同情してしまった。
最後の一点は、グレタに差し出されただろう、棒状のお菓子を食べてようとしている写真・・・普通の写真だが
意図しているところは明白だ・・・・。

「猊下・・これ、コンラッドはもちろん、その周辺にばれたらまずいですよ・・。」
彼の兄弟にばれたら、眞王廟を壊す勢いで、乗り込んでくるにちがいない・・そして、陛下だ。
魔王光臨したら、眞王もろとも昇天させられること間違いなし!なにせ、写っているのは、彼の恋人だ。

「あぁ、その点なら大丈夫だよ。これは、眞王廟の改修費用の捻出の為に行っていることだし、
必要な出版許可も取り付けてあるからね。それに・・」
キラリと、村田の目が光る。


彼らには、特別厳選写真集を渡しておいたから、あれ『は』世に出さない約束をしてね・・?


ふっふっふっふっふと、不気味に笑う猊下。嫌な予感に、ヨザックは身震いをした。

「・・それって、ワイロ?・・いや・・で?世に出せない写真を厳選して渡してあるって、一体中身はどんな?」
「あはは、それは、ナイショだよ〜。ただ、もっているのが彼にばれたら、確実にやばいものさ〜。」

ゾゾゾゾっ!やっぱり、この人が一番怖い!最初に仲間はずれにされた事、まだ怒っていたんですね?

それにしても、見てよ〜と、村田は、名前がびっしり書かれた予約名簿を見せた。

「一編にそんなに出さずに、シリーズ物として出すというのは、良かったな。おかげで、第3弾まで予約が一杯だし、
これで、眞王廟の改修も楽々できるよ〜。はぁ、これで、力仕事とはおさらばだ〜!」

「ところで、これどうやった販売しているんです?はとで飛ばすんですか?」

いや、予約の時に発行された番号票をもって、眞王廟にお参りに来るのさ〜。最近、おかげで参拝者が増え
たんで、巫女達も喜んでいるよ。

そういえば、眞王廟までの間の道に、出店が色々出ていたな。結構儲かっているらしい。

「おかげで、しゃば代・・いや場所代わりに、彼らも色々寄付してくれるんだよね〜。いや有り難や〜ありがたや!」

この人、出店からシャバ代までとっている〜〜!?

恐ろしい・・真に恐ろしいのは、やはりこの人に違いない。知らないうちに、名付け子と兄弟にまで文字通り
売られた幼馴染には可哀そうだが。この事は、黙っていよう。でもって、今晩、美味しいお酒でも差し入れて
あげようと、心の中で思ったヨザックだった。

11時15分追加UP