今日からママシリーズ 番外・If・・
もしも地球にコンママがきちゃったら?
その2 嵐を呼ぶ美人さん







10万打企画・リクエスト




幸運を呼ぶ待ち受け画面・・・そう聞いて、楽屋でカメリハ待ちをしていた上久保健也は、マネージャーに
携帯の画面を見せられた。
そこに写っているのは、明らかに盗撮と思われる角度で撮られた美しい女性の画像だ。

「なに?外人?」
「らしいな?」
「それで?」
「仕事だ。」

都市伝説の真相を暴くという企画で、そのレポーター役に抜擢されたのだ。

「何で俺が〜〜。俺は本業は俳優だぜ?」
「仕方ないだろう。最近じゃ、ドラマの枠も少なくなってきているし、バラエティーで顔を売っておけば
次の仕事にも結びつくだろう?だいたい、この前の主役だってそうやって取れたんだから・・」
「・・・人気商売ね〜。あ〜、人気なんて、水物だしね〜。俺もすぐに飽きられるかも?」

あ〜やだやだと、上久保は一人ごちる。上久保健也は、最近売り出し中のタレントだ。カッコイイマスクと裏腹に、
明るい性格と天然の馬鹿具合が憎めないと、昨今バラエティーに引っ張りだこなのだが・・本人の希望は俳優だ。

だが、昨今のお笑いブームや情報バラエティーなどをはじめとする、安いタレント使い捨てがふえ、業界もじっくり
スターを育てようという余裕がない。最初は、本業の仕事のためと割り切ってバラエティーに出ていた彼だが、
最近では、バラエティーしか仕事がなく、些かやる気をなくしている。

「まぁ、そういうなよ。この人は、どうやらお前の通っていた高校の関係者らしいんだ。」
「まじ?関係者って事は、父兄かなにか?」
「それを調べるんだろう?」

えーー!それって前もって、スタッフが調べるんだろう?

「予算がないんだよ。せちがない理由だろう?」
「うわぁー!まじーーぃ!?でもいいや、久々に地元に帰れるし、俺高校までは、悪いこともしていたんで
顔は今でも利きますよ。じゃぁ、ここで本人探して、プロデューサーのご機嫌でもとりますか?」
「いいぞ。健也!やる気になったか?」
「それに、うまくいけば、このキレイな女も、いただけるかもしれないしね?」

最近、日本でもお目にかかれないような、淑やかそうな女性に、上久保の食手が動く。
中々いい体をしているし、一般人なら芸能人と付き合えるだけでも良いって女はたくさんいる。だが、得てして
そういう女は危険だ。ちょっと遊びのつもりが、ネタを週刊誌に売られたりしたりしたら最悪だ。

その点、こういった女性は、身持ちが多少固いかもしれないが、強引にでも落とせば、後は尽くして
くれたりするのだ。上久保は長年の感で、写真一つからそれだけの事をかぎ分けた。中々、たいした嗅覚だ。

週刊誌にだけは気をつけろよー。
あははは、大丈夫。ホテルを使うようなへまはしませんよ。







ねぇねぇ、今、職員室に上久保健也がきているよ!
え?本当!なんでー?
ばかね、うちのOBなのよ!
いやん、しらなかった、生健也みたーーい♥♥


「なに?そいつ?」
「相変わらず、テレビに疎いな渋谷有利は・・。」
「だめだめ、ソイツは、野球しか見ないから。」
「失敬な!ニュースも見るぞ!」
「野球の結果だろう?」
「あははは、ばれた?」

どうやら、テレビで活躍中のタレントが、久々に訪ねてきたらしい。校内が騒然とする中、渋谷有利は
そのくらいにしか思っていなかった。

まさか、その芸能人が、自分に関係してくるとも知らずにーー。






思った以上にガードが固いな?

久々に訪れた元教え子に対して、最初は、上久保の活躍を手放しで喜んで迎えてくれた教師陣であったが、
何気に例の女性のことを口にすると、個人情報の漏洩は出来ないとばかりに、皆口を閉ざした。

昨今の、個人情報保護法による過剰な反応であろうか?
彼はおもむろに携帯を取り出すと、電話をかけ始めた。コール4回目で相手が出る。

「よう、久しぶり。俺だよ、上久保・・そう・・今どこにいると思う?俺らの出た高校の前、ところでさ
ちょっと頼みがあるんだけども?ああ〜、もちろん・・?先輩の言うことは聞くよ・なっ?」

電話の向うからは、やたら恐縮した声。上久保は、手短に用件を伝えると、母校を後にした。






「あ、ここよ村田君。呼び出してごめんね!」
とあるハンバーガーショップの2階で、近くの県立高校の女子生徒を初めとする、制服がばらばらな女子高生が
5人ほど固まって座っていた。
そこに呼び出されたらしき、男子高校生は、都内の進学高校の制服を着ていた、眼鏡をかけた小柄な少年だ。

「いや、ひさしぶり。中学卒業以来だから2年ぶり?」
「いやね、去年のうちの学祭のときに会っているじゃない。」
「そうだった、ところで、相談って?」


村田に声をかけたのは、中学の時の同級生で、親友である渋谷有利のクラスメイトだ。
「うん、イキナリで悪いとは思ったんだけど、村田君ってさ渋谷の親友だって聞いたから・・その、渋谷の
名付け親さんって知っているわよね?」
「うん、コンスタンツェさんだろう?よく知っているよ。」
そういうと、よかった〜と、女子達が一斉に胸をなでおろす。


実は、お姉さまのことを、最近かぎまわっている連中がいるの。

「コンスタンツェさんを?」
「そう、それも、このあたりの不良グループなのよね。」
「ふーん、不良クンね〜?」

一体、彼女を調べてどうしようというのだろうか?

「渋谷に言おうかとも思ったんだけどさ・・・彼、お姉さまのことになると、過剰に反応するのよね?
まだ動きは何もないし、大丈夫だとは思うけど・・・ほら、見かけによらず、渋谷って熱血で無駄に男前な
性格でしょう?不良がお姉さまについて聞きまわっているなんて事になったら、直談判とかしそうなんだもん。」

「よく把握しているね、その通りだよ。」
「ふふ、だてに、クラスメイトをしているわけじゃないのよ。」

何故自分が呼び出されたかが解かった。彼女等は、遅かれ早かれソイツらが、渋谷に接触してくるとふんで、
自分に気をつけてやるように言いたいんだろう。あれで、渋谷有利は、『友人』としては女子に受けがいい。

本人は、永遠のミスターセーフティー君だよ。なんて嘆いているが、これはこれで素晴らしいと思うんだけれどナ?

「わかった、渋谷が変な気を起こさないように、気をつけているよ。」
「ありがとう、私達も奴等の動きには注意しているわ。」
「えぇ、コンスタンツェお姉さまに、何をする気か知れませんが・・そんなこと許さないわよ。」

ふふふふふと、笑いあう彼女達・・・そうか、この世界にもファンクラブが存在していたのか?
さすがだよ、ウェラー卿!女性姿でも、同性をたらせるなんて!!

「何かわかったら僕にも連絡してくれない?いざとなれば、僕が本国から彼女を呼べるから。」

きらーーーん!!!!と、眼鏡を光られる村田。
ぎらーーーん!!!!と、乙女達の瞳も輝いた!
よもや、渋谷有利ならともかく、その親友であるに彼に呼び出せるとは、思わなかったのだ!

「ふふ、ところで、キミタチ?彼女のFCはすでに本国にあるって知っているかい?」
「「「え?お姉さまの!?」」」

そういうと、村田は三枚つづりの彼女の写真を、取り出してみせた。

「な・・何これ?いやーん、お姉さま素敵な袴姿♥♥ こんな物まで持っているなんて?村田君、アナタ本当は何者なの?」
彼女等の視線が一斉に、村田健に注がれる。

「ふふ、僕こそは、本国においての彼女のFC運営および、グッズ販売を一手に引き受けている唯一の男さ!」
ただし、眞魔国公認・本人非公認だが。

よもや、自分達よりはやく、彼女に着目してFCを立ち上げていた者が、いただなんて!
「まぁ!さすが、日本一頭のいい高校生!目の付け所が、ちがうわ!」(←?)

「よって、勝手にFCなんて作られては困るんだけど・・・キミタチの熱意は中々見所がある。」
「「会長!!」」(←え、いつの間に?)


今日からキミ等は、CFC日本支部として活動を許そうではないか!?

有難うございます!×5

こうして、また新たに本人の知らない所で、組織と構成員が増えてゆくのであった。





そして数日後、相手に動きがあった。

「渋谷有利って、どの子?」

その日、有利達のクラスは、学園祭の練習で体育館で劇の練習をしていた。そこに現れたのは、芸能人の
上久保健也だ。どうも、キャーキューと、女の子たちの黄色い声が近づいてきたと思ったら、体育館にいかにも
ゲーノー人という風なイケメンが入ってきた。その上、引き連れているのは、テレビスタッフだ。

そして、有利たちの一団に近づくと、サングラスを取りながら、尋ねてきたのが先程の台詞だ。

一番最初に動いたのは、練習を仕切っていた少年・学級委員の伊藤だ。

「今、練習中なんです。時間指定なんで、用件は終わってからにしてくれません?」
「といっても、俺達も忙しい身なんで、ちょっとで良いから来てくんない?」
「学生も忙しいんです。ほら、みんな、練習再開するぞ!」

パンパン!と、台本を片手に、練習を再開する。

ふーーん?と、上久保はおもった、只今人気急上昇で、どこに行っても黄色い声援を浴びている彼に対して、
この少年・・というより、このクラスの反応は、珍しいといえる。それに、テレビカメラが回っていることも
わかっているだろうし、なにやらクールだ。

「ちょっと、伊藤君!貴方この人知らないの?タレントの上久保健也よ?」
「だからって、こっちも劇の本番が間近なんだ!皆、時間の都合をつけて、練習しているんだぞ?なんで、
人に用事があるときは、相手に合わせるのがマナーだろうが?大人ならそのくらいわきまえてくれません?」

上久保の周りにいた女子生徒が、ぎゃーぎゃぁ言い始めても、伊藤は取り合おうとはしない。

「いや悪かった、実はテレビの取材を渋谷さんにしたいんだけれど、あぁ、学校からの許可は取れているよ。」
にっこりと、ゲーノー人スマイルをのせて、上久保は下手に出る。
「なるべく、手早く済ませて、君たちに迷惑はかけないようにするよ。だから、せめて、渋谷さんに
話だけでもさせてくれないかな?」

すると、舞台裏から一人の生徒が進み出た。

「キミが、渋谷有利さん?」

こくりと頷く。

ほお〜っと、上久保を初めとするスタッフも、少し驚いた。

今時珍しい、さらさらの黒髪のショートヘア・こぼれるような漆黒の瞳、さくらんぼうのような唇・・メイクは?
していないよな?背は女の子としては高い方か?170センチくらいだろう。

『お姫様役』らしいその子は、舞台から降りてくると、心配そうにクラスメイトの女子がそばによる。
きっと友達なんだろうな?

中々の『美少女』だ。これは、名付け親だという女性とあわせて絵が取れれば、結構ウケがよさそうじゃないか?
まずは、にっこりと、明るく人好きのするといわれる笑みを浮かべてみせる。これでたいがいの女性は、
警戒を解く。

すると、周りの女の子達は、軽く頬を染めたが、肝心の渋谷有利は、なにコイツ?という目を自分に向けた。

「有利さんには、とても美人な名付け親がいるそうですね?コンスタンツェさんという。」

ぴくり・・と、有利が反応した。そしてざわりと・・周りも反応する・・主に女子が。

「いますが?」

ちょっと、低めだが、声も中々可愛いな。

「実はですね、僕らは、最近の都市伝説を集めて紹介する番組を作っていてね?『幸運を呼び込む待ちうけ画面』
といって、最近巷で、携帯の待ち受けにすると幸運が舞い込むという画像があるの知っている?」

ふるふるっと、有利は首を振る。仕草も可愛い子だな?上久保は携帯を取り出すと、さりげなく有利の肩を抱いて
とある画面を有利に見せた。

「その待ち受け画面に写っている人物を追ってきて、僕らはとうとうこの学校の関係者であることを掴んだわけです!
その画面に映っている人物こそ、キミの名付け親であるコンスタンツェさんなんだよ。」

「なぁにぃぃーーーー!!!!」

有利は見せられた携帯画面に、飛びついた!たしかに、そこには、有利の名付け親兼護衛兼恋人である人物の
仮の姿の写真がばっちり映っていた!!

「こ・・こんら・・いや、コンスタンツェ・・・。」

思わず絶句する有利・・・。

「というわけで、コンスタンツェさんは、今どこにいるのか教えてくれないかな?」
にっこり♥

異世界のおれの城にいます。

とはいえないし・・それに、何でこの男?さっきからうんくさい笑みを浮かべて、おれと肩なんて組んでいるの?
目なんて、なんかたくらんでいそうだし・・。

「アイツ・・じゃない、彼女ならもう国に帰りましたよ。夏休みに、家に遊びに来ていただけですし
日本に来る予定はありません。」
きっぱりとお断りを入れる有利。

「じゃあ、その帰った先の連絡先を教えてくれない?こっちが行くから?」
ね?といって、甘い声で有利の耳元に囁きかける。これで、落ちなかった女はいない!
だが、有利は顔色一つ変えなかった。上久保は知らないだろうが、それは、彼の名付け親にいつも
されていることであり、また向うの『100年かけて熟成されたフェロモンたっぷりの声』に 慣れている有利には、
20そこそこの子供からちょっと足だけ出した程度の男の技など効きはしなかった!
離れていても、キチンと有利を守る護衛、ある意味 護衛の鏡・・していることに疑問はあるが・・・。


一方、有利はピーンとキタ!こいつ、コンラッド狙いだな?
有利の名付け親は、とある事情で女性体に変化している時に、地球にきてしまい近所から学校まで、次々と
魅了していったつわものであった!その度に、自分がどれだけ苦労したか?なのに、今度は芸能人だと?

冗談じゃない!アイツは『おれの彼氏』なんだから!
こんなゲーノー人の毒牙になんてかけさせるものか!!コンラッドはおれが守る!!

むくむくと、有利の中の独占欲が目覚め始め、ついでに魔王をも呼び覚ました。

「なぜ、そちにそんなことを教えなくてはならない。」
パシリッ・・・と、有利の手が上久保の手を払った。
そして、ビシッっとカメラに向かってなぜかモデル立ちでポーズを決めると、魔王様の喝が飛んだ!
「そこのカメラとやら!誰の許しを得て回している!?テレビなんぞに出る気はない。早々に回すのをやめ、
画像を削除してもらおう。もちろん、コンスタンツェの画像ともども、流すことまかりならん!!」

爛々と瞳を吊り上げ怒りを表すクラスメイトに、なにやら皆で引いた。さすが、あの迫力美人さんの名づけ子だ。
衣装とあいまって、いつもの彼とまったく違う。

「あ〜、そういえば、渋谷って時代劇すきだったな?」
「今の暴れん坊将軍とか?」
「今度から上様と呼んでやろう・・。」
と、男子は友人をそう評し。

「さすがね、渋谷!お姉さまがからむと男前ねっ!」
「名づけ子の鏡よ!」
と、女子は応援した。

そんな外野はさておき、毅然と有利は答えると、皆をうながして、練習再開をしようとする。

思わず呆気にとられる上久保たち。可愛いだけではなく、気も強くて中々度胸のある子だ。

「へ〜〜、気に入った。」

上久保の目が、久々に手ごたえのありそうな獲物を見つけて光る。渋谷有利・・彼女を落として、
名付け親までたどり着いてみせようじゃないか。




さて、困ったのは、テレビスタッフだ。ネットに流れているからといって、盗撮でとられた写真を本人の
承諾もなしに、流すわけには行かないし・・その関係者である少女には、きっぱりと映像を流すなと
断られてしまった。

「とりあえず、どうしてもだめなら、映像にモザイクと音声を変えて流すか・・。」
「あの、俺がもう少し粘ってみます。先生の方から とりなしえもらえれば、もしかしたら、どうにかなると
思いますし、このままでは、スタッフの皆さんも帰ってから大変でしょう?」
「か・・上久保君!」
「最低今の映像をつかえれば、これまで僕が調べたデーターと一緒に流して、本人がだめでも番組としては
成り立つでしょう?とにかく、目立った方だったようなので、マイクを向ければ彼女の武勇伝について
話してくれる人はいますよ。結構面白いつくりになると思いますし?」

そちらから、番組を作っていきましょう!

「いや〜、上久保君は前向きだ。キミに仕事を頼んでよかったよ。」
「いえ、俺も、出身校とはいえ、彼等と接点がないもので・・お役に立てずスミマセン。」
「いやいや、相手は一般人だからね。こういう場合もあるよ。それより君が下調べをしていて
くれてよかった。それにしても細かく調べてあるね〜。」
「一応、地元ですから。」

そう、昔の悪さをしていた頃の後輩連中を使えば、このくらい簡単に集められた。
これで、ディレクターの印象も良くなったし、また何かあれば、仕事に繋がるだろう。一見、天然系に見えても
この男・・中々頭が切れた。







「成る程、わかったよ。上久保健也ね・・テレビの取材が済んだなら、もう接触はないと思うけど、
気をつけておいて・・僕のほうでも何とか気をつけておくよ。」

村田は、携帯の通話を切るとパソコンに向かった。そこには、上久保健也の公式なプロフィールの他に
裏の素行も乗っていた。

「ふーん、中々女遊びが派手だな。週刊誌に載っているものの他に、ずいぶん手広く手を出しているね・・。」
相当、徒党を組んでの悪いことをしてきたらしい。元ヤンであることを隠して芸能活動をしているようだが?
昔の仲間とのパイプは切れてないようだ。これで終わりにしてくれれば良いけれど?

-- 一応彼に、連絡だけは取っておこうか?




「何故に、あの男がここに居る・・。」
有利は、思わず苦虫をつぶしたような顔になる。それもそのはず、例の上久保健也が、劇の練習に
また姿を現したからだ。なぜか、有利たちの劇をニコニコと見ている。その隣にいるのは、学年主任だ。

『上久保・・例の件は、テレビスタッフに知られてないだろうな?』
『いやだな〜、流石に俺だって、母校の教師が例の女性にセクハラまがいのことをして、辞任したなんて
恥ずかしいですからね。ちゃんと、そこは、ばれない取材構成にさせました。なにせ、先生には、昔
手を焼かせていましたし、今回も協力してもらいましたからね、そこはきっちりしていますよ。』

そう、上久保は、後輩を使って学校が彼女のことを話したくないわけを突き止めたのであった。
それをちらつかせて、学年主任から取材のお墨付きを貰い、有利たちに接触したというわけだ。

『それに今日だって、一応、仕事とはいえ悪かったと思って、こうしてきたんじゃないですか?』

実際に番組のグッズや、昔の担任だった学年主任の好きなタレントのサインだの持ってきて、上久保は
取材のお礼にやってきたのだった。それに気を良くして、まぁな、なんて答える教師・48歳・単純さん。

「あ、そこ、1拍置いてから台詞を言った方が良いよ!」
上久保は、さっと舞台の下まで歩くと、兵士役の少年に声をかけ、自分で見本を言って見せた。

「それと、さっきの王子の台詞・・そこ、ブレスがおかしいから、変な言い方になるんだ。」
ちょっと台本貸して、というと伊藤から台本を奪い王子役に見せながら、どこで区切ってどう言えば良いかなどを
指導してゆく。

「あのちょっと!」
「あぁ、ごめん、一応俺も俳優だから。こういう芝居とか見るとついね?」
素直に下手に出られると伊藤も、はぁ〜などと、受け答えてしまう。

「良いじゃないか伊藤、上久保はうちのOBだしお前等とは面識はないだろうが、一応は先輩だ。」
「一応は酷いな〜。」
「プロの役者が教えてくれるというならば、素直に教えを請うべきだろう。」
「いいんですよ、たしかに、俺なんてまだまだ修行中なんですから。」
「上久保おまえ、謙虚になったな〜。な?伊藤、今日だって上久保は忙しい中、取材の時に無理いっていやな
思いをさせてしまったのではないかと、わざわざ来てくれたんだぞ。」
「はぁ、そうなんですか?」

確かに、あまりいい気はしなかった。

「そうなんだよ、キミに言われたとおり、学校の許可だけではなく、君達の許可もとるべきだったと反省したよ。
ただ、これは言い訳に聞こえるかもしれないけど、あまり根回しすると、作られた感がどうしても出てしまってね?
できれば、素のままの相手を取材したかったもので、突然の訪問の形になって悪かった。」

素直に、反省してこられると、伊藤たちも言葉をなくす。

「別に、悪かったと思ってくれるならばそれで良いです。」
そこで出てきたのは、有利だ。
「渋谷有利さん、キミにも悪かったね、今時の子なら、テレビに出るなんて喜ぶと思ってね。テレビ嫌いな子も
いるってこと忘れていて。ついとはいえ、不快な思いさせてしまって・・。」
「い・・いいですよ。そんなに謝らなくっても・・。」
わたわたと、手を振る有利・・今日も可愛い子だ。

「じゃぁ、お詫びに劇の練習を手伝っても良いかな?これでも俳優だし力になれると思うんだけど?」
「え・・そんな・・」
「で、次はどこのシーンから?」
有利は、悪いから良いですとまで、言えなかった。舞台にいた女の子に、クルンと向き直ると上久保は台本を広げて
聞き始めていた。女の子も、その迫力に押されて、ええっと、この40ページのここからですと、答えてしまっている。

「じゃあ、はりきっていきましょーーう!」

なんか、芸能人のわりに、気さくな人だな・・・。

有利もクラスメイトも、何やら押し切られる形になって、彼に稽古をつけてもらうことになった。

「じゃあ、本番もがんばって。俺も時間作って見に来るからね〜。」
一通り稽古をつけると、上久保は愛想よく帰って行った。




「やあ、澁谷お帰り〜。」
「げ・・村田・・なんでお前がうちの台所から出て来るんだよ!」
「え〜〜、そんな口の利き方していいのかな〜?せっかく、ゲストを呼んであげたのに。」

ゲスト??

「ユーリお帰り、もうすぐご飯が出来るから、早く着替えてきてくださいね。」
ひょっこりと、台所からもう一人が顔を出した。流れる薄茶のちょっと癖のある長い髪がゆれ、キラキラした
同色の瞳がゆれる、たおやかな女性。

「ここここんらっど!なんで?どーして?ここにいるの!?」

でもって、何で女なんだーーーー!!!


そう、有利の異世界の名付け親で、護衛で、秘密の恋人だったりする男が、なぜか女性に変身して
地球にやってきていたのであったーー!!







2009年4月9日UP
はい、10万打を踏んでくださった方からのリクエストで、今日からママの番外でーす。
本編を終わらせてからと思っていたら色々途中にイベントと仕事があって、進めることが出来ませんでした。
でも、こんな風な切り口でスタート。いや、学校のイベントって思いつかないうちに月日が流れ・・・結局
無難な学園祭になりました。季節的にこれって秋だよね?コンラッドが現れた設定が夏休み前〜中なので、
その1・2ヶ月ごくらいで、おねがいします。イイデスカーー春じゃなくって秋ですからね。そこよろしく。