今日からママのつくもしも、シリーズ?



もしも、地球にコンママが来ちゃったら? その5  娘が地球にやってきた編


その日、有利が学校から帰ると、コンラートは、いそいそと鞄に荷物を詰め込んでいた。

こ・・これはまさかの!実家(眞魔国)に帰らしてもらいますぅ〜??
なんで?どーして!?おれが何かしたか・・いや・・おれというより、うちの家族だな!?

どたばたどたーーーん!!

有利は、自分の部屋からUターンして、リビングに駆け下りた!
「勝利か?おふくろか?意外に親父?一体誰だぁ!あのコンラッドを怒らせた命知らずはっ!?」

「・・ちょっと、しぶやくーん。今本音がポロリと出てたよね〜?」
「村田!大変だ!コンラッドが鞄に荷物を詰めているんだ!?きっと、お袋がまた無茶苦茶、手の凝る
料理が食べたいとかいったとか?勝利が変な衣装をコンラッドに着せようとしただとか?して、きっと、
怒らせたに違いないんだよ!あ〜、どうしよう、連帯責任でおれまでお仕置きされちゃう (>x<)」


「なに?ゆーちゃんがお仕置きだと?コンラッドめ・・一体どんなプレイを・・。」
「あ!勝利、テメー!コンラッドで、変な妄想するなよなっ!?」
「いやだな〜、しっぶっや!お兄さんは、君でしたに決まっているだろう〜。v」
「ぎゃぁぁぁ!兄貴の変態!」
「こら、弟のお友達!変な事を吹き込むな!」
「まぁまぁ、で・・渋谷?君は何かウェラー卿を怒らすような事はしていないだろうね?」
「う・・ん、多分。・・もしかして、毎日お弁当届けさせたんで怒っているとか?」

それに、一斉にリビングに居た全員が、首を横にする。むしろ嬉々として通っていたから、アノヒト・・。

「じゃぁ、一体何故??」
「あれ・・・どうしたんですか皆さん?あ、猊下いらっしゃい。今日は串揚げにしますから、沢山
食べていって下さいね?」
コンラートはそのまま、美子に貰ったハートのフリフリエプロンをすると、キッチンへと向かった。
別段、嫌がっているそぶりもなければ、今日の衣装は有利と買った、Gパンに上はサマーセーター
という、いたってシンプルな服装だし問題はないはず・・しかもいつものように、キッチンに当たり前
のように立っている姿は違和感もない。なにせ、有利の家の味を覚えれれば、向こうで出す事も
可能になるので、彼の食事も管理するコンラートにとって、願ってもいないチャンス!とばかりに、
美子から色々伝授されている。というか、お袋がつくるより、レパートリーが増えているよな・・。

コンラートが来てからの華やかな食卓を思い出して、一同うんうんと頷く。

「え〜、ゆーちゃんったら、ひっどーい。」
約一名不満が有るようだが、事実である以上なんとも言いがたい・・。食事目当てで、村田は
毎日渋谷家に直接帰って来るし、勝利も勝馬も用事が終わるとまっすぐ帰ってくる。
さすがに勝馬は、夕食の時間に帰ってこれる日は少ないが、それでも夕飯の後、晩酌をしながら
コンラートと野球談義に花を咲かせるのをとても楽しみにしている。


「なぁ、コンラッド、食卓にメロンがあるけど?これは?」
「あぁ、これは木暮さんがくれたんです。」
「木暮さん??そんな人近所にいたっけ?」
「えぇ、道二つ向こうのおうちです。お花を育てるのが上手な奥さんで、先日通った時に褒めたら
薔薇をくれたんです。頂き物の果物と合わせて、ゼリーにしてお持ちしたらたいそう喜んで下さって!
メロンは明日、白ワインのババロアに飾ってお持ちしようかと思っているんですよ〜。」
ホクホク顔で、有利に報告するコンラート。村田は、ふと目に付いた色鮮やかな漬物を見た。
茄子に、きゅうりに、ニンジン・・はっきりいって天然の糠漬けを、糠床もない渋谷家で作れる
わけがなかった。明らかに手作り!だとすると?
「ウェラー卿・・このお漬物は?」
「あぁ、これは、学校へ行く途中にある赤木さんのおばあちゃんに頂いたものです。で、こちらの
黒豆茶は、スーパーに行く途中にある三井さんの自家製で、この器は公園まえの桜木さんの
自信作です。こっちの器は、その隣に住む流川さんの自信作だそうで、二人は高校時代
からのライバルなんですって・・中の良い(?)おじいちゃん達なんですよ。今日の枝豆ごはんは
で、宮城さんの畑で採れた枝豆を入れました。美味しいですね。^^」

「もう、コンちゃんったら、ご近所の主婦の皆さんに大人気なのよ。おかげで、ごはんの
材料に事欠かないわ〜。」
「「「へ・・へ〜〜。」」」

楽しそうに談笑する渋谷家の嫁姑を尻目に、有利・勝利・村田は、こそこそっと小さな声で会話する。
「なぁ、ゆーちゃん、うちのお嫁さん・・なんか、いつの間にか近所どころかこの一帯に信望者を
増やしてないか?」
「学校でも、女子に凄い人気でさ〜、なんか怖いよ・・。」
「わらしべ長者的要素もあるよね?海老で鯛を釣るっていうか?全部、元より良い物に変わるのが、
ウェラー卿のすごいところだよね。近所での評判もいいし、もう、ウェラー教・教祖様って感じ?」

考えれば考えるほど、彼が荷物をまとめて実家に帰る要素が見つからない?一体どうなっているん
だろうか?こうなれば、真相は本人に聞くしかない!

「コ・・コンラッド・何か不満とか、あるの・・かな〜?」
「ありませんけど?」

勇気を振りしぼって、聞いてみればあっさりした答えが・・なんだ、どうやら取り越し苦労だったようだ。
「そうか・・ならよかった。さっき鞄に荷物をつけていたから、帰っちゃうのかと。」
「えぇ、そろそろ帰ろうかと。」

「「「「えぇぇぇぇ!??」」」」

「だって・・そろそろ、帰らないと、グレタに何かあった時、どうするんですか!?それに、お土産買ったの
を送ってあげたいじゃないですか?きっと、よろこぶだろうな〜。」

・・いつの間にかママモードチェンジしている。成程・・確かにそろそろ帰らないといけないだろう。

「本当は、グレタも連れて来てあげたかったんですが・・・。」
さすがに、それは眞王陛下にお願いするわけにも行きませんし・・。と、娘を思い出してしんみりする
コンラート・・やっぱり、ママモードに戻ったようだった。

「仕方ない・・わかったよ!ウェラー卿。毎日おいしいご飯を食べさせてもらったしね!僕がグレタを
呼んであげようじゃないか!」

「えぇ!本当ですか?猊下!!」
「本当!?ケンちゃん?孫に会えるのね!?」

「まっかせなさーい!ちょっと、次元の狭間にいる男を絞めて・・いや、お願いして、こちらに彼女を呼んで
みましょう!向うでは、そろそろ1ヶ月は経っている筈ですから、彼女も両親に会いたいでしょうし!」
「おまえ・・今、眞王を絞めるとか・・。」
有利には、親友のお願いという言葉が、脅しという言葉に聞こえる・・あぁ、眞王陛下も死んでいるのに
苦労するよな〜。しかし、元はといえば、その眞王の悪戯でコンラート共々こちらに流された事を忘れて
いる有利だった。もっとも、村田はちゃっかり覚えているので、自業自得だとしか思っていない節があった。


かくして、コンラートの一言により、大賢者村田健によって、眞王陛下を脅し・・いやお願いしてのグレタの
地球来訪が決定した。



さて、そのころ、何も知らないグレタはというと?大好きな父親が地球に帰ってしまっただけではなく、新しい
母親まで連れて行かれたと聞いて、一抹の寂しさを覚えながらも、留学先で勉強を続けていた。

すると、白鳩が一羽、グレタに向かって飛んできた。あの鳩には見覚えがある。母親の幼馴染である
お庭番の鳩だ。もしかして、お母様が帰ってきたとか?

手紙をわくわくしながら開くと、もう一人の父であるヴォルフラムからだ・・なんだ・・。(←ひどい)
「えーと、この手紙がきたらお風呂に水を張って、手を付けること??」

どういう意味だろう?とにかく、言われたとおりにグレタは備え付けのバスタブに行き、お水を張った
これから一体どうするのかと思って覗いたら、水面にヴォルフラムの顔が映っていた!

「ヴォルフ??」
おもわず、グレタは水面に向かって手を伸ばした。すると、水面が淡く光りはじめ渦を巻き始める。
しかも、何か強い力で引っ張られ、手を抜くことが出来ない。

「きゃぁぁ!!」

あがない切れずに、グレタは水の中へと吸い込まれていった。


同時刻、眞魔国では、中庭の噴水の中にヴォルフラムが、その周りにギュンターと、グウェンダルがいた。

「しかし、ウルリーケの言うことは本当でしょうか?コンラートが地球で寂しがっているから、グレタを
送れと言うのは?グレタは、まだ子供ですし、次元を超えるなど・・。」
「だから、僕が一緒に飛ぶんだろう。大丈夫だ、必ず流れの中でグレタを捕まえてみせる!」
「たのんだぞ、ヴォルフラム。グレタを無事にコンラートの元へ送ってってくれ。」
「えぇ、グレタも『姉上』も、僕が守ります!!!」
と、鼻息荒くヴォルフラムが胸を叩くと、突然水が光り、渦が巻かれていく。どうやら、向うでグレタが
水に引き込まれたのだろう。
「行って参ります。兄上!」

そういい残すと、ヴォルフラムもまたスターツアーの流へと引き込まれていった。水の中に沈んで流に身を
任せると、前方に小さな赤茶色の髪の少女が見えた。必死で口を塞ぎ、息を止めて耐えている。
ヴォルフラムは、水をかき分け泳ぐように、グレタに近づいて腕の中にしっかりと少女を捕まえた。
グレタは突然体を抱きこまれてびっくりして目を開けると、父親の一人が自分を抱きしめていた。
ヴォルフラムは、グレタが気付いたのを知ると、大丈夫だというように微笑んで、前方を指差す。

そこは、温かな光が溢れていて、そしてその向うに大好きな人の顔が見えた!!
次の瞬間!ざばぁぁ!!!と言う音と共に、二人は光の中に飛び出たのであった。

こうして、グレタは大好きな父親の生まれた世界に、呼び出されたのであった。





お化け屋敷編



グレタは、ぱちくりと目を見開いた。

もうもうと煙る湯気?何故自分は見たこともない浴室で、ヴォルフラムに抱き込まれて立っている
のだろう?あまりの事に、思考がついていかない。

「いらっしゃい、グレタ。」
その時、ふわりとバスタオルが頭からかけられ、やさしく水滴をぬぐってくれた。この優しい手は・・?
「おかあさま?」
タオルの隙間から見上げてみれば、薄茶に銀の虹彩が煌めく瞳が、優しげに自分を見つめていた。
「おかあさまー!」
そのまま、グレタは目の前の女性に飛びついた。コンラートも、濡れるのも構わずその小さな体を抱きしめる。
「やっと会えた。ごめんね、中々帰れなくって・・。でも、猊下が眞王陛下に掛け合ってくれて、グレタを
呼んでくださったんだ。会えてうれしよ。」
「眞王陛下?・・あ!水の中に映ったヴォルフそっくりな人?」
「うん、そうだね。あ・・ヴォルフもいらっしゃい。グレタを送ってくれて有り難う。」
「・・・・・・今、思い出しましたね。コンラート『姉上』?」

グレタの台詞でやっと弟の存在に気付いたのだろう。先程から濡れ鼠で目の前にいたというのに、この
扱いは納得いかないぞー!大体、あ・・とは、なんだ?あ・・?って!?

憤慨するヴォルフラムを、有利がバスタオルをかけて宥める。それより、いくらお湯の中とはいえ、いつま
でも濡れたままというわけには行くまい、先にヴォルフラムが脱衣所に向かい、有利の服を借りて着替
えると、入れ替わりに美子がコンラートの着替え一式も持ってきてくれた。


「コンちゃん、着替え持ってきたわよ。それで?その子が私の孫になる、グレタちゃんね?はじめまして、
有利の母の渋谷美子です。ジェニファーって呼んでね?」
美子は、嫁の腕の中にいる女の子に向かってニッコリ話しかけた。
「ユーリのお母さん?じゃぁ、グレタのお祖母さまになるの?」
グレタは、母親に向かってきいてみると、コンラートがさり気なく訂正した。
「そうだね、ユーリはグレタのお父様だから、そうなるね。でも、ここではお母さんの事をママって呼ぶ
んだよ?だから、美子さんの事は、ジャニファーママって呼ぼうね?」
「うん、わかった!ジェニファーママはじめまして、ユーリの娘のグレタです。どうぞ、宜しくお願いします。」
「きゃぁ〜、かわいい!こちらこそ、よろしくね。着替えたら二人でリビングにきてね?」
コンラートのフォローにより、めでたくジャニファーママと呼び名が決まって、美子は上機嫌で出て行った。


グッジョブ!コンラッド!渋谷家のお嫁さんは、本当に出来たお嫁さんだった。


グレタは、可愛らしいお花模様のチュニックとスパッツに身を包んでリビングに現れた。これは、村田に写真を
見せられた美子が、グエタが普段城で着ている服に似ているという事でセレクトして買ってきたものだ。
そしてコンラートのも、こちらは大人物ということで、花模様は裾と袖口にある程度だが、間違いなくお揃いだ。
「おぉ〜可愛いな!君がグレタちゃんだね?はじめましてごほん、え〜わたくしが〜有利の父の〜、
渋谷勝馬でぇ!あります!」
緊張のあまりが?何故か軍曹口調になる勝馬。それに、内心苦笑しながらも、またしても渋谷家の嫁が
フォローを入れる。


「グレタ、ショーマの事は、ショーマパパって呼んであげてね?そして、こちらが・・グレタも何度か会っている
よね?ショーリだけど・・えーと、ショーリお兄ちゃんって呼んであげる?」
「は〜い!ショーマパパ、はじめまして、ユーリとヴォルフとコンラッドの娘でグレタです。ショーリお兄ちゃんも
ご無沙汰しています。えっと、どうぞ宜しくお願いします。」
ぺこり、と頭を下げるグレタに、二人の目じりも下がる。
「パパだって、最近ゆーちゃんも呼んでくれなかったから、寂しかったんだよな〜。」
「お兄ちゃん、やっぱり、いい響きだ・・ちょっと、年の離れた妹か・・うん、いいなそれ〜。」
「・・・・コンラッド・・パパはともかく、お兄ちゃんは訂正しなさい・・おじさんで十分です。」
それを見ていた、グレタ父・・有利から訂正が入った
「えぇ!そんな、ゆーちゃん!」



さて、そんな一悶着あったが、グレタとヴォルフが揃い、食事をしながらこれからの予定を話し合った。
当然、今日の食事もコンラート作である。向うとはまた違った料理に、グレタもヴォルフも大喜びであった。
週末を利用して、渋谷家一同と村田とヴォルフラムも一緒に、温泉旅行に行くことになった。目的地は箱根。
また、動物好きという孫娘の為に、サファリパークにも寄ろうという事となった。
さて、まずはお買い物ね!きらきらっと瞳を輝かせた美子に、有利とコンラートはうっと詰まるも、まったく解らない
グレタはお買い物と聞いて、わくわくとっ目を輝かせた!こうなると、二人が付いていかない訳には行かず・・
結局、悪夢再び?というか、着せ替え人形が決定した、コンラートであった。


「ねー、ユーリーぃ?あれなんて書いてあるの?」
「え〜っと、お化け屋敷?あぁ、デパートの屋上に期間限定できているんだな?」
グレタが、おどろおどろしいポスターに気付いて、有利に聞いてきたのは、夏の名物お化け屋敷だ。どうやら、
期間限定のアトラクションとしてきているらしい。
「お化け?モンスターですか?昔ディ○ニー○ンドで入ったことが有りますが?」
さすがはアメリカがえりだ、本場で入ったのか?いいな〜。
「う〜ん、どっちかというと、幽霊?人が死んで、魂の状態になった奴?あ、でも、向うと違ってこっちのは
生前の姿しているっつーか、もっとおどろしいかんじ?でも、アンタ達は怖くないよな〜。なにせ、コッヒーが
飛んでいる国の人だし、戦場経験者だしね・・。」
「入ってみたいな〜。」
「そう入って・・えぇっ!?」

グレタがうっとりと見ているのは、化け猫・・。グレタ・・それは大きなネコタンではないんですが?珍獣マスターと
化しつつある娘は、興味津々だった。こうして、おれ達は、お化け屋敷に入る事になったのだが・・。


30分後・・いや〜、後悔って本当に後からするから後悔なんだな〜なんて、思ったおれだった。

最初は普通だったんだ・・いや、最初だけは。お袋は、買い物を終わらすと、さっさと帰っていった。
ちなみに、村田は最初からついてこなかった。後から、いや〜〜そんな面白いことが有るならついて
いけば良かったよ〜なんて、人の不幸を楽しんでいたけどさ。

1グループずつ時間を開けて入るようで、前のカップルがでてから5分後おれ達もスタートした。
洋風の城に住んでいる元プリ達は、純和風のお化け屋敷のセットに、興味を惹かれたように
きょろきょろと周りを見ていた。先頭を歩くのはヴォルフ。続いてグレタ・おれ・最後がコンラッドだ。

ゆらめく笹、ぼんやりと浮かび上がる廃墟、そこに入り込んだおれ達を待っていたのは、


べちゃり!


いきなりのコンニャク攻撃!すっげーベタなっ!顔に、生臭いこんにゃく独特のぬれた感触がぶつかった。

「ぎゃぁぁ!!ユ・・ユーリ!今、何か生臭いものが!顔に〜ぃ!」
「ヴォルフ・・。」
「うえ〜ん、お母様〜、ベちゃりってグレタの頭に何かぶつかったよ〜!」
「あはは、大丈夫だよグレタ。怖かったら俺と手を繋ごうか?」
「うん。」
日本人はベタ過ぎる攻撃だったようだが、外人(異世界人)には、新鮮な攻撃だったらしい。生粋の日本人
としては慌てるヴォルフの反応がすげー新鮮だよ。なんて、思ったのはおれだけではなかったようだ。
この、反応が甚く御気に召したのは誰でもない、お化け役のの皆さんで、最近子供でもこんなに素直に
驚いてくれないから、俄然張り切ってしまったようだ。ターゲットは、もちろん、ヴォルフとグレタだ。

こういったお化け屋敷というのは、何部屋かに仕切られていて、物陰からお化けが飛びつくとか、足を掴む
とか、乗った途端に床が揺れるとか仕掛けが有るものなんだが、そのどれにでも引っかかっては、ヴォルフは
狼狽え、グレタはコンラートに縋り付いて怖がる。グレタはいいグレタは・・たけどヴォルフは・・?
「しかし、動転しているとはいえ、気配も読めないとは?ヴォルフ、帰ったら・・しごくよ。」
ぼそりといわれた、コンラッドの言葉の内容のほうが怖い。哀れヴォルフ・・帰ったらウェラー卿直々の特訓だぞ。
おれは小さく、前方でドライアイスを浴びて、悲鳴を上げている友人にエールを送った。

で、そのコンラートといえば?同じく日本のお化け屋敷初体験なのに、気配を読むのだろうか?
物陰からがばり!とお岩さんが抱きつこうとして襲い掛かると、素早く後ろに回って、逆に驚かすし!
にっこりとフェロモン全開の笑顔で、微笑みかけてフランケンシュタイン(何で、日本にいるー!?)を真っ赤に
させちゃうし、狼男にナンパされてるし・・。っていうか?アンタも何笑顔で対応しているの!?

さすが、何時でも何処でも誰とでも笑顔で話せる男・・だけど、時と場所を選べよ!まったくーー!

おれは、コンラッドの手を掴むと、狼達にギロリと魔王目線で威嚇してやった。相手がたじろいでいる内に
彼を引っ張って先へと進む。自然と、彼と手を繋ぐグレタも引っ張られるわけで、二人は顔を見合わせて

「あれ、ユーリ?ヤキモチですか?」
「ユーリやきもち?」

なんて事を聞いてくる。どうやら、西洋妖怪はグレタにとっては、怖くはなかったらしい。狼男を面白そうに
見ていた彼女の目には、ブブンゼミなどを見た時と同じ輝きが・・だから、あれは珍獣じゃないんですよ
グレタさん。

「ゆ〜りぃ〜、このへなちょこ〜!お前等どこにいってたじゃり〜!」
丁度そこに、半泣きのヴォルフラムが戻ってきた。お化けの皆さんに、相当気に入られた彼の頭上には
提灯お化けが舞い、後ろから追いかけてくるのは、唐笠お化け。ろくろ首のイナセなお姉さんに、腕ならぬ
首を巻かれていた。
「うわ〜〜ん、おかあさま〜こわいー!」
途端に、グレタがコンラートに縋りつく、やはり日本妖怪は怖いのか?
「ヴォルフ・・・これ以上近寄ったらまとめて泣かすよ?」


ひぃ!!!


イヤぁぁー!!訂正!日本も西洋もない!どんなお化けよりアンタが一番怖いですよ、コンラッドさん!
お願いですから、その黒い笑顔を向けないでえぇぇ〜〜!!

娘に泣き付かれて、お化け共々弟を威嚇するコンラートが一番怖い!


ずささっさ!

と、まるで波が引くように、出口までの道がにいたお化けの皆さんが一斉に引く!お菊さんなんて、井戸に飛び
込んじゃうし、ろくろ首は長い首を小脇に抱えて寺の中に逃げ込んだし、唐笠お化けなんて一本足で懸命に
けんけんして逃げていったよ〜。
「さぁ、そろそろ出ようか?ヴォルフも先に行っちゃったみたいだしね?」

それは先に進んだのではなく、アンタから逃げ出したんだと思います。

コンラートは、足に縋りつく娘をひょいっと抱き上げると、悠々と出口に向かって歩いていく。その後姿を
物陰から固唾を呑んで見守るお化けたち・・・。やがて、二人が出口をくぐると、ほ〜〜と安堵のため息が
そこらじゅうから聞こえた。お化けの皆さん、ほんとーーーに、申し訳ありませんでした!!!


もうぜったいに、あそこには行けない・・そう、思ったおれだった。





サファリ編



さて、レンタカーを借りたおれ達は、勝利と親父の運転で高速を富士山に向かって走っていった。
「勝馬、疲れたら俺が変わろうか?こうみえても、バスとかも運転したこと有るから大丈夫。」
「・・・・・・・・コンラッド・・お前さん、ちなみに免許は?」
「免許?って、いるの?」
どうやら、アメリカにいたときは無免許運転だったらしい!
「コンラッド!アンタは運転しちゃダメ!こっちで、おとなしくグレタと遊んでなさい!これ、魔王命令!」
「はい、陛下・・。」
コンラッドは残念そうに、ハンドルから目を放して戻ってきた。ふぇ〜あぶね〜!

高速を降りると、目的地である富士サファリパークに一直線!ここではマイカーで乗ったままでも入れるのだが・・
折角だから、園内のジャングルバスに乗ることにした。勝利が以前会員になっていたので、バスの予約をしていて
くれていた。バスは、窓が片側金網になっていてライオンにえさをやったりするので、マイカーより近くで見れるのだ。
乗り込むのは、ライオン型バス!有利は大喜びで、勝利に礼を言った。娘のグレタも動物型のバスに、興味津々
で目を輝かして、同じく勝利に飛びついた。もっとも、それに目を輝かせたのはもう一人・・こっちは絵描きの血が
騒ぐらしい?
「うむ、この力強い線!あの造型といい、なかなかだな!」
「・・・ヴぉるふ・・。」

さて、乗り込む際に渡されたのは、えさ。クマやライオンなどに直接あげられるのだ。これには、グレタが大喜び。
最初は、くま!モフモフで可愛い!なのに・・。
「こちらの、クマは・・地味だな・。こう、僕の絵心が刺激されない。」

・・ヴォルフ・・お前の絵心なんて刺激したくないよ・・しかしあっちのクマって??一体どんな色なんだ??

それはさておき、流石に熊も暑いのだろう、水浴びしたりのんびりしたりしていたが、ジャングルバスが近づくと
エサをくれるバスだ!と認識しているようで、わらわらと寄ってきた。
「わーい、大きくって可愛い〜!。」
座席の下にあった鉄の棒ハサミ?みたいのに、りんごをはさんで渡すとしゃりしゃりと食べた。
「おれ、りんごって草食動物用だとおもったよ。」
「あはは、渋谷、クマは雑食だよ。気もそんなに荒くないし(エサさえあげれば)可愛いよね。」

「グレタ、俺の分もあげてみようか?」
「え、お母様いいの?わ〜い、クマタン〜おいで〜!」
クマタン・・・グレタ・・グウェンダルの影響を受けてきたな。
グレタが愛らしい声で呼ぶと、一匹のクマが寄ってきた。くまが近づいてくるのに、娘が喜んでいるので、コン
ラートがにっこりと、くまに向かって微笑んだ。・・・すると、他の観光客の側にいた熊数匹もが、わらわらと
よってきて、グレタが差し出しているりんごの取り合いになった。

これには、流石にガイドさんも何が起こったのかわからず、目を見開いてその様子を見ていた。
やがて、体格の良い熊が戦いを制し、りんごを貰うとおいしそうにほおばった。他の熊は悔しそうだ。
「いや〜さすが、ウェラー卿だね、今集まってきていたのじゃ、見事に雄ばかりだったね!」
「くそ〜、畜生の分際で!姉上に色目を使うな!」
「こら、プー!こんな所で、さわぐな。」
なにやらクマを威嚇し始めたヴォルフラムを勝利が制するが、弟としてお気に召さないようだ。

「今のは・・一体・・。」
呆然と呟く、勝馬にムラタがこともなげに説明する。
「なにせ、ウェラー卿は、兄弟中、母親からフェロモンを受け継いでいますから。クマにも効果が有るなんて
思いませんでしたが?多分、女性化して強力になっちゃったみたいですね〜。」
「まぁ、コンちゃんったら、そんな特技が有ったのね!」
おふくろ・・特技で済ますのか??勝利が早くも疲れたような目で、遠くを見ていた。


気を取り直して、ライオンゾーン!


続いては、ライオンゾーン!ライオンも心得ているのか、バスが近づくとえさをもらえるので、寄ってきました!
「うわ〜、さすが百獣の王!すっげ〜かっこいい!!」
「良かったですね、ユーリ
愛する球団のマスコットと同じ、ライオンに有利は大はしゃぎだ。それを見守るコンラートも、甘い空気を
垂れ流し、結果・・再びライオンが有利の元に集まりだした!
「うわぁ!すげ〜息遣い、ハァハァ言っているよぉっ!!ちょっとこわい!コンラッドー!!!」
有利が悲鳴をあげて、コンラートに抱きつくと、きらり・・とコンラートの瞳が光った。
『貴様ら・・畜生の分際で我が主を脅したな・・!!(英語)』

がうっ!!??(ひぃぃ!!??)

だらだらだらだら・・・・・・・・・・。いきなりライオン達が固まる。

スッっと、コンラートの指が上がる。
『覚悟はいいな?(これまた英語)』
途端に、ごろんと一斉にライオンが、お腹を見せて転がった。所謂、服従のポーズである。
ガイドさんは、もうあんぐりと口を開けて、ガイドどころではない。こんな風景開園以来初めてだ!

その様子に鷹揚と頷くと、抱え込んだ有利の背中をポンポンとあやすと、もう大丈夫ですよ。
と、にっこりわらう。促されて有利が外を見ると・・まるで軍隊のように一列に並んで、お座りする
ライオン達。心なしか、彼らの表情は硬い(?)。

「さぁ、どのライオンにエサをあげたいですか?」
「え?ええ?」

「おかあさま〜、グレタあの小さい子にあげたい〜!」
くいくい!と、グレタがおねだりすると、コンラートの目が生まれて1年経ってないだろう、まだ幼い
ライオンに向けられ・・整列している中にいるボスらしき雄ライオンに向けられる。

がう!(お前、あの御人の所に行って来い!)
きゅうん(ねぇ、僕、取って食われない?)
がうがう。がうがう・がうん!!(大丈夫だ、あの金網が俺たちを守ってくれる・・ハズ!!)←普通は
ライオンから人間を守っています。
くうう〜〜。(怖いよ〜〜)

恐る恐るといった感じで、小さいライオンがやってくると、グレタが喜んで、はいっといって、肉を差し
出すと、一旦仲間の方を見るチビライオン・・励ますように、ボスが頷くと、勇気を振り絞って
ぱくり!!と、肉を食べた。
「わぁ、かわいい〜〜!!」
「じゃぁ、おれも〜、ほらお食べ??」
有利も小さいライオンに向けて、肉を差し出すと、今度もえいっとばかりにぱくり!と食べた。
「うわ〜ホント・・・、こんなに近くで見れてうれしいな〜。それにしても、よくしつけられているな。」
やっぱり、サファリパークと言えど、飼われているからかな??


「そんな訳ナイだろう、このへなちょこめ!」
「そーだよ、渋谷・・彼は今殺気で猛獣を脅し・・」
「姉上は今、そのカリスマで猛獣共を服従させたんだ!流石です姉上!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・ホンキ?」
「え!そうなのコンラッド?すげ〜〜、流石はルッテンベルクの獅子と謳われた剣士だ!」
「すごーい、お母様つよ〜〜ぉぉい!」
キッラッキラ した尊敬のまなざしが三組、コンラートの注がれるのを、村田と勝利は疲れた目で
見た。慌てて仲間の元に戻るチビライオンを仲間達が囲む、まるで勇者を讃える様に!
あんなに、猛獣を怖がらせているのに・・・有利とグレタは兎も角、ヴォルフラムは、アレでいいんだろうか?

「なぁ、村田君・・これは一体?」
「え〜〜と、彼はルッテンベルクの獅子と謳われた程の剣士でして〜。」
「簡単に言えば、殺気でライオンを脅したんだろう・・。」
またもや勝馬が村田に説明を求めると、さすがにこれには彼も言葉を濁したが、疲れたように勝利が
ずばり言い切った。この二人は、コンラートに近くにいたため、有利にわからないように、英語で話された
彼の身の毛もよだつ脅し文句をバッチリ聞いてしまっていたのだった。
「・・・ライオンを・・コンラッドお前さん・・(−д−;) 」
「まぁ、コンちゃんったら、そんな特技も持ち合わせていたのね〜。(〃▽〃)♪」
「だから、母さん・・特技で済ませないでくれよ・・。」


道路に一列に並んで、お見送りをするライオンに別れを告げて、バスは次のゾーンへと進んでいく。
その間、一般の車たちは何が起こったかわからず、通行止めを余儀なくされた。
そのお見送り映像が、夕方のニュースにも流れたが、真相を知るのは、このバスに乗り合わせた人々
だけであった。



それから、トラ・・チーターや象などのゾーンを抜けて一般草食獣ゾーンにはいると、キリンを気に入った
らしいグレタが母親を振り返った。
「ね〜、おかあさま、キリンを呼んで〜。」
すっかり自分の母親を、猛獣マスターと勘違いしている節がある。だが、コンラートはコンラートで
その強力なフェロモンと獅子の殺気にて、動物を自由に呼び寄せたり、追い払うので、いつの間にか
バスに乗っている他の子供達にまで懐かれていた。やがて、山岳草食動物ゾーンで鹿などの動物を
見て1時間ほどのコース見学は終わったが、バスを降りてもコンラートの周りから子供達が離れない。

困ったコンラートが、有利にどうしましょうと尋ねると、有利が答えるより早く、子供達の父親たちが
ずずずぃい!っとコンラートを囲んだ。
「子供達もこう言ってますので、ぜひご一緒しませんか?」
「この先のふれあいゾーンをご一緒に回りましょう!!」

「「「「ぜひッ!!」」」」

もちらん、彼らが触れ合いたいのは、動物達ではなく目の前の美しき女性だ。
それじゃぁ、と、コンラートが了承しようとした時、彼らには残念なことに彼女には、鉄壁のガードが
付いていた。うちの嫁(すっかり認めている)のピンチ!と、まずは勝利が先制パンチを繰り出した。

「おーい、弟の嫁!ライオンのあかちゃんの撮影会に遅れるから、早く来い。」
「えぇ!そうなんですか?ごめんね、坊や達。」
コンラートは、子供達に謝ると、きびすを返す。それでも、残念がる子供達に困っていると、
「姉上!早く行きましょう!今日は家族水入らずで過ごす約束でしょう?」
といって、ヴォルフがさっさと、コンラートの腕を掴んで引っ張って歩き始める。
「「「「あぁ〜〜!」」」」
思わず引き止めようとした父親たちの前に、もう一人のガード『魔王』が仁王立ちで立ちふさがる。
「我が妻に何か?」
先程まで女の子のように可愛らしかった少年が、威圧感をまとって彼らを睨みつけていた。
動きを止めた父親達を、有利はフンと鼻で笑うと、コンラートの後に続いた。その後、フリーズが取れた
彼らを待っていたのは、母親達の冷たい視線だった。美女に鼻を伸ばた上に高校生に威圧負けした
のだ。そりゃ、冷たくもなろう、ついでに、お父さん達のせいでおねえちゃんと遊べなかったと、子供達
からも非難され、父親の威厳は地に落ちまくってめり込んだのだった。


反対に、渋谷家の方は、邪魔な狼共を撃退し、意気揚々の少年達に。かわいい赤ちゃんライオンを
抱っこできると喜ぶグレタ。そんな子供達を微笑ましそうに見守る大人組みと、なごやかだ。
「はいグレタ、赤ちゃんを落とさないようにね?」
係員の人に渡された生後2.3ヶ月の赤ちゃんライオンを抱いたグレタを中心に、少年達がベンチに
座り、大人達はその後ろに並んで記念撮影をした。グレタはライオンの可愛らしさに、ご満悦だ。

その後、ふれあいゾーンでは、エミューや小さなサルなどと文字通り触れ合えて、動物好きの
グレタはもちろん、ヴォルフ・有利・村田まで楽しんだ。その様子を眺めながら、コンラートは隣を
歩いている勝利に、礼を言った。

「ショーリ、今日は有り難う。ライオンのチケットもバスのチケットも勝利が取ってくれたんだろう?
それに、さっきも・・つい子供たちの事を邪険に出来なくて・・でも、それじゃぁ、グレタが可哀相
だよね。おれは彼女だけの母親なのに・・。さっき、俺が皆の所に戻ってきた時、あの子が飛び
ついてきたので解ったよ。危うく、寂しい思いをさせるところだった。」
視線はそのまま、二人の父親と共にじゃれあう娘に向けられていた。
「まぁ、あっちで会った時も思ったが、あの子はしっかりし過ぎている。周りで気をつけないと抱え込む
タイプだから・・アンタも周りに優しいのはいいけど、こんな時くらいは娘にだけに気を向けるんだな。」
「あぁ、肝に銘じておくよ。」

「おかあさまー!ねぇ、お土産買おうよ!」
元気に手を振って、グレタが呼ぶのにコンラートは、足早に近づくと、娘の手を取り歩き始めた。
グレタが少しはにかんで、自分の母を見つめていた。有利も、もう片方の手を握り、三人仲良く
歩き始めるのを、2.3歩遅れてヴォルフラムと村田が微笑みながら付いていく。


「なぁ、親父、お袋。」
「うん?」
「いい家族だな・・。」
「えぇ、そうね・・あれが、ゆーちゃんの家族なのね。」
「なんだかんだで、向うでいい王様とパパしているみたいだな。」
「そうよ!なにせ、ゆーちゃんとしょーちゃんは、私達の大傑作なんだから!」
「だなだな!?俺たちのおかげだな!」


あははは、うふふふと、自慢しあう両親達は、浮かれた足取りで自分たちも買い物だ!と店に向かって
突撃していった。その姿に、思わず頭を抱える長男・勝利。

せめて自分だけでも冷静に彼らを見守ろうと思った彼であった。まぁ、確かに有利といい勝利といい
両親が自慢するだけあって、中々の傑作といえる。その傑作品は、携帯を取り出すと、スケジュールを
確認し、放っておくと何時までも買い物に熱中する母親を制するために、、自分もまた売店へつと
向かったのだった。



7月16日〜  拍手連載中!長くてごめん! 7月18日LONG 今日からママのつくに随時格納