今日からママのつくもしも、シリーズ? |
もしも、地球にコンママが来ちゃったら? その4 「ゆーちゃん、はいこれ!」 といって、朝、登校前の俺の手に渡されたのは500円玉ぁ?? 「500えん?」 「これだけあれば、購買部でごはん買えるわよね?ママうっかりして、朝寝坊しちゃったの。 お弁当まで作れなかったのよ〜。でも、たまには、パンも目新しくっていいわよね?うふ。」 うふって、母さん・・・。そういえば、朝ごはん、コンラッドが作っていたような・・。お袋が寝坊した からか?つーか、コンラッドが居るからわざと寝坊したんじゃ・・?いや、深く追求はよそう。 まぁ、一日くらいパンでもいいけど、育ちざかりには、きついですお母様。 でも、言っても無駄なんで、諦めて学校に行こうとする俺。 「ユーリ?お金足りないんですか?」 学校に出かける俺を見送りに出て来たコンラッドが、不思議そうにしながら、鞄を渡してくれた。 「あぁ、ちがうよ。足りないのは金じゃなく量?つーか、腹持ちかな?・・うちの購買部、パン くらいしか置いてなくてさ〜。行きがけにコンビにでもよって行くよ。まぁ、たぶんそれも3時間目の 終わり位には食べちゃうんだろうケド・・。はぁ、お弁当ないとつらいな。まぁ、どうしても足りない ようなら、クラスの友達に弁当恵んでもらうから良いや。」 「ご友人にですか?」 「そ!うちのクラスの連中は気の良い奴らでさ、おれが腹減らしていると、食わしてくれるんだ〜。」 「・・・・・。」 少し考え込むコンラート。 「どした?コンラッド?」 「あ・・いいえ、何でもありません。」 「ならいいけど・・って、しまった!遅れちゃう!」 つい、家の前で話し込んでしまった。急いで行かないと、コンビニに立ち寄る時間がなくなる! いそいで、自転車で出て行こうとする俺を、コンラッドが呼び止める。 「ユーリ忘れ物。」 えっ?っと、振り向いた俺の頬に、軽くチュっという音と共に、お出かけのキキキ・・キスがぁぁ! 「いってらっしゃいませ。だんな様?」 悪戯っぽく笑うコンラッド・・今は妻だからいいでしょ?と、その瞳が言っていた。 う・・・女性になって倍増した美しさがまぶしいですよ、奥さん!!(って、おれの奥さんなん だろうけど!) おれは、真っ赤になって、いってきます!と、言うと、ドピュン!と凄い勢いで自転車で走り出した。 うう、事故ったら、アンタのせいだ〜! 「あーあ、真っ赤になってあんなに慌てちゃって・・ホント、俺のユーリは可愛いな。」 その様子を見送ると、先程までの笑みを消して、代わりに男特有の、それでいて恋人を見る甘い 視線で有利の消えた方角を見る。コンラートも地球に来て4日目になると、流石にママモードは 消えてしまっているが、普段から穏やかな物言いで、しかも、元王子様なので所作は優雅であり、 女性として違和感がない。 それどころか、先日引ったくりの現場に遭遇したコンラッドが、犯人を持っていた、レジ゙袋(中は夕食の 食材で一杯だった)殴って昏倒させ、怪我をしたおばあさんの怪我の応急処置まで、てきぱきとこなし、 警官が来ると名乗りもせずに立ち去ったという話があっというまにこの界隈に広がった。 なぜなら、警官が親切な女性を探して、この界隈を聞きまわったからだ。 その晩おそく、おばあさんは息子さん夫婦と警官と一緒に渋谷家にきて、コンラートに礼をして 帰っていった。 その際に、俺は当たり前の事をしただけです。なんていうコンラートに、若い警官はいたく感動し、 ちゃっかし彼の手を握っていたのを、有利が魔王そのものの目で睨んて、警官をびくつかせた。 おかげで、凛々しく素敵なお姉さまとして、何故か女子中高生に人気が出てしまった。 どうやら、その現場を見ていた誰かが、携帯で写真を撮ったのが出回ったのが一因らしい。 それを知って、有利は悩んだ・・。人気が出るって、何で?女の子に?一人称がおれだからか?? 女性になっても、女の子のハートをわしづかみって!アンタ一体何処までモテ男なんだーー!と、 妻の心配をしたらいいのか?モテナイ暦17年としては、妬いたら良いのか?結構複雑な気分だ。 現に、渋谷家の前は、通学路でもないのに、この周辺の中学生や高校生などわざわざ、遠回り をしてでも、前の道を通り、一目でもコンラートを見ると今日一日いいことがあるなんていうジンクス までできていた。もっとも、本人はそんなことは露知らず、今日も人通りが多いんだなくらいで、気づ いてはいないようだ。 「さて・・と、ジェニファー!少しお聞きしたいことが・・。」 「腹減った・・。」 くぅ〜きゅるるると、腹の虫が、その台詞に呼応するようになる。有利は机に突っ伏して、空腹感を やり過ごそうとしていた。 「何?渋谷?お前、中休みに何か食っていたじゃん。」 「アレだけじゃぁ、足りない・・。なにせおれってば、育ち盛りだし脳まで筋肉だから、もう消費してしまったのだよ。」 「それって自慢できることなのか?・・お前弁当は?」 「・・・お袋が寝坊して無い・・代わりに持たされた500円は中休みに食った分で消えた。」 悲しそうに友人を見上げる有利。その哀愁漂う犬っころのような目が、友人の持っている弁当箱に注がれる。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分けてやろうか?」 と、友人が言った途端に、有利の表情が変わった。食い物にありつける期待で、大きな目をキラキラ輝かせて、 うれしさに上気した頬がかすかに紅い。 ずっきゅーーぅぅん♥♥ その可愛らしさに、友人はうっと詰まる!渋谷有利は、実は男連中にとって密かなアイドルだ。 なまじ女子より可愛い容姿に愛らしい仕草。性格はいたって男前なので、こんな事を言うと怒られ そうだが、もし、メイド喫茶にでもアルバイトさせようなら、一躍彼目当てで店に大量の野郎が 通い詰めること間違いなし!というほどの素晴しさだ。その渋谷有利に至近距離から、 上目遣いでねだられて、友人は分けるどころか、弁当場こそのままを差し出した。 「マジ!?いや〜、伊東大先生!さっすが、心の師匠と同じ名前だけはある!よ!オトコマエ!」 「いや、ははは・・Σはひぃっ!?」 弁当箱を渡そうとしたら、いきなり寒気に襲われて、振り向いた伊東君は固まった。クラスの教室の 戸口には、にこやかに、この冷気の源となる殺気をかもし出している、美しい女性が・・・! 「え・あれ?コン!・・スタンツェ!さん??」 急に固まった友人の視線の先を追っていくと、朝別れたばかりの自分の妻が戸口に立っていた。 「ユーリ!間にあってよかったです。」 有利が視線を向けたと同時に冷気は霧散し、変わりに極上の微笑を顔に乗せた美女。 一瞬今までの冷気は気のせいかと思ったくらいのすばやさだ。美女は集まる視線をものともせず、 有利の傍らまで来ると、3段重ねの重箱をどーーんと、机に置いた。 「はい、ユーリ、お弁当作ってきました。だから、ご友人にお弁当は返して下さいね?」 「え?これ作ってくれたの?わーいやったぁ!だから、コン大好き!!あ、伊東これ有り難う。 お弁当届けて貰ったから返すな!」 「伊藤君って言うんですか?俺の有利に親切にしていただいて有り難うゴザイマス。」 さり気なく、俺のという所有格を有利に付けたコンラート、こと有利のことに関して言えば、この 男ほど器量の狭い男もいないだろう。 (まったく、来てみて良かった。俺の有利に餌付けしようとは、この身の程知らずが!) でもって、この男ほど有利に関して感と言うか?センサーというべきものが働く男もいない。 朝の会話から、有利が度々級友達から、弁当を分けてもらっていると聞いて、いやな予感が して、弁当を届けに来たという名目で乗り込んできたのだ。きてみれば、キラキラとした上目使い で、男をノックアウトして弁当を見事、強奪・・いや貢がせた有利。これを無意識でやって いるので、困った方だと内心ため息をついてしまう。 (こんな愛らしい笑顔は、俺だけに向けてくれればいいのに・・・。) どうやら、眞魔国を離れて兄弟やら王佐といったストッパーがいなくなり、コンラート自身気づいて ないようだが、有利に対する感情・行動が押さえが利かなくなってきているようだ。迷惑なのが、 周りの人間だ。現に、有利の友人である伊東は、訳も分らず目の前の美人さんからの圧力に、 泣きそうになる。 なんだろう?すごい美人さんに、優しそうに微笑まれているのに怖いなんて? 何で、一番安全だろう学校で、かつて無いような生命の危機に瀕しているような気になるか? とりあえず、この二人から離れたほうがいいと本脳の告げるままに、憐れな伊藤君は逃げた。 邪魔者が居なくなると、コンラートは改めて有利に向き直る。有利はもう待ちきれないという顔で、 コンラートがお重を開けてくれるのを待った。先程の伊藤に向けたのより、数段もキラキラ度が 上がった瞳・全身からうれしさがにじみ出る様子に、内心勝った!(←大人気ない)と思いつつも、 あまりに待たせては可哀相なので、お重を広げてあげる。 「一段目がちらし寿司に、2段目がおかずです。有利の好きな天ぷらとこっちが根菜の煮物、 こちらがたこときゅうりの酢の物です。三段目は、デザートとおやつですから、帰りにまたお腹が 空いたら食べてね。今日は猊下と図書館でお会いになるんでしたよね?一緒に食べて下さいね。」 「あ、俺の好きなキャラメルパウンドケーキだ。村田の分もあるの?ありがとうコン!」 太陽のような可愛らしい笑顔が、コンラートに降りそそぐ。 この笑顔の為なら、この労力も惜しくないと思ったコンラートだった。すっかり自分達の世界に入って いる為に、忘れているようだが、ここは学校・・でもって、教室なのである。当然級友が居る訳で・・・。 「渋谷・・その美人さんって、お前の何?」 その甘やかな雰囲気に、気圧されながらも・・有利の友人である一人が、聞いてきた。 それに対して、有利はというと、ようやくここが教室中のどころか、廊下からも視線を一心に浴びて いることに気付いた。 「うわぁ!な・・ななんだ!このギャラリーは?コンら・・じゃない!コンスタンツェ、そういえば どうやってここに?学校の中は勝手に入れないはずじゃ?」 「はい、ちょうど外で授業をしていらっしゃる先生に事情を説明しましたところ、ご親切にも職員室まで 案内して下さり、担任の先生に許可を頂いてきたんですよ。そうだ、この後の授業も見て良いそうです!」 ちょうど、担任の先生の授業なんですってね!コンラートは嬉しそうに話すが、有利はそれどころではない。 「体育教師に、担任・・ほぉ〜。」 有利のクラスの担任は、29歳の独身(男)だ。さては、コンラッドに目をつけやがったな・・。くっそー! まったく、どうしてこうも、男女問わずモテるんだ。しかも、気付いてないみたいだし・・・しかし生徒の妻に 目をつけるとは、例え教師だろうが担任だろうが容赦はしない。コンラッドに群がる蛾!共め、どうやって 叩き潰してくれようか!嫉妬のあまりに魔王が出ている有利。どうやら、ストッパーがいないせいで、 箍が外れているのは、こちらも同じようだ。似た者バカップルめー!といって、村田なら突っ込んでくれた だろうが、ここに彼はいない。 「渋谷・・だからこの人は・・。」 「あぁ、すみません、俺は、コンスタンツェ・ウェラーです。ユーリの名付け親になります。」 何やら考え始めた有利の変わりに、コンラッドが答える。名前は、村田がつけた偽名のままだ。 「名付け親さんですか、随分とお若いようですが?」 「ありがとうございます。でも、年はナイショです。」 にっこりと微笑んで言えば、周りの男子高校生たちは、そろってぽわ〜んと夢見心地でコンラートをみた。 ムッ・・・。 「コン!たべさして、あ〜ん」 突然の申し出に、コンラートは一瞬目を見張るも、はしを取るとお寿司を有利の口へと運ぶ。 「おいしい?ユーリ?」 「うん!すげーうまいよ!」 「ありがとうございます。じゃぁ、こっちの天ぷらを。あられを使ってみたんですが?」 あ〜〜ん、ぱく! 「うん!香ばしくって、おいしい。また作ってくれよな?」 「はい、いつでも。」 近寄るどころか、声もかけれない・・。なぜなら、そこだけピンクのバリアーで覆われているように、二人の 世界をナチュラルに展開しているからだ!まかり間違ってこの中に入れば、かならず馬に蹴られて死ぬ こと間違えなし!そんな、恐怖にも似た何かが、クラスメイトをそれ以上関らせなかった。 「あーおいしかった。デザートの杏仁豆腐も上手かった。」 「あれは、ジェニファーのリクエストなんですよ〜。」 「おふくろ??」 「えぇ、お弁当と同じメニューをお昼に食べているはずですよ。」 ・・・今、俺は確信した。昨日テレビを見ていて、某料亭の会席料理が食べたいと言っていたお袋。 確かその後、料理本をコンラッドに見せていたよな・・。おれをエサに、お袋め!コンラッドに会席 料理を作らせやがったな!ッて事は?・・・・。 やっぱり、朝寝坊もわざとか! 着々とコンラートの操作方法をマスターしていく自分の母親に、言い知れぬ恐怖を感じた有利だった。 キンコ〜ンと昼休みを終わらせる鐘が鳴り、コンラートはお弁当を片付け、教室の後ろに陣取る。 本当に授業参観をしていくつもりらしい。 ガラッと、教室の前のドアが開き、英語教師である有利の担任が入ってきた。日直が『起立・礼』 と、号令をかけると、何時もならバラバラと立ち上がるところ、今日は美女が後ろで見ていてくれる となると、全然関係ないはずなのに、男子達を中心にキビキビと立ち上がり、礼をして着席した。 こ・・こいつら・・・。 級友達のその現金さに呆れながら、前を向いた有利は、見慣れないものを見た。担任英語教師 29歳独身(男)は、普段からラフな格好をしているのだが、何時に間に着替えたのか!?ちゃっかり 背広を着込んでいるではないか!しかも・・おニューのネクタイ・・。 こ・・このやろう・・。 その担任はというと、後ろに立つコンラートを見ると、すばやく教壇の所に有った椅子を持つと、後ろまで 軽やかに進み、コンラート座るようにと勧めた。にこやかにお礼を言うコンラートに、真っ赤になりながら 『いや、あはは。』なんて笑っている。その時に、促すフリをして、コンラートの腰や肩触ったのを、有利は 見逃してなかった。つい、胡乱気な視線を向ける有利。 担任は、その視線に気付くと。 「渋谷、今日は名付け親さんが見てくれているんだから、良い所を見せろよ。」 といって、早速、教科書を読むように、当ててくれた・・。ちっくしょー!ヒアリングは、できても読み書きは 駄目なんだよ! 「ユーリ、頑張って!」 声援をくれるコンラッドに、おれは曖昧な笑みをかえす・・がんばれって言われても・・・。 案の定、つっかえながら読むおれ・・かっこ悪い。 おれが読んだ後を、担任が改めて読み直し、そのまま英語でコンラートに話しかけた。しかし、きょとん?と しているコンラート。あれ?アンタ英語できたよね? 視線が自分に集まるのに、変に思ったコンラートが、有利に眞魔国語で聞いてきた。 『ユーリ、今彼は何と言ったのですか?』 『え・・アンタ英語できたよね?』 『え?英語だったんですか?・・・彼の発音は独特の訛りが合って、俺にはちょっと・・。』 「し・・渋谷・・お前何語で話しているんだ?」 担任だけではなく、クラス中が有利を不思議そうに見ている。まぁ、眞魔国語なんて この世界にないしね。 「すみません、俺の国の言葉です。・・あぁ、コンスタンツェ、先生に英語で、事情を話してあげて。」 『先ほどはスミマセンでした。俺も色々な地域を旅して色々な地域の英語にも慣れていたつもり なんですが、先生のお使いになる英語の地域は、行った事が無い様で・・それは何処の英語ですか?』 流暢な英語で話される内容に、聞き取れた数名が思わず噴出した。 コンラッド・・何処の英語?は、良かったぞ。先生が赤くなっている・・ふふん、ざまーみろ! 「あぁ、いえ、コホン・・ところで渋谷、いくら名付け親さんで親しくしているからといって、目上の人を 呼び捨てにするのはいけないな、ちゃんとコンスタンツェさんと、さんづけしなさい。」 担任は、わざとらしく咳払いすると、教師らしくおれにお説教だ。話を変えやがったな。 「おれが、コイツをどう呼ぼうが、先生には関係ないでしょう!」 つい、イラッとして口答えしてしまった。先生のこめかみがピクリと動く。でも、コンラートの前なので 必死に笑顔を取り繕おうってしているのが、みえみえだ。 「渋谷、コイツって、そういう言い方はよしなさい。」 「あの、先生。俺は有利にファーストネームで呼ばれるのは、構わないのですが・・。」 見兼ねたコンラートが、中に入る。コンラートとしては、有利に名前を呼んで貰うのは嬉しい限りなのだ。 「コンスタンツェさん、貴方はなんて優しい方なんだ!」 担任は、コンラートの側まで戻ると、ひっしと両手を握って切々と訴える。 「ですが、有利君には、礼儀と分というものを教えないと、これから社会に出て行くのに、目上に 向かって、あの口の聞き方は、いただけないと思いませんか?」 「はぁ・・」 実は、既に有利は社会に出て働いている。しかも、有利の仕事は魔王。一国の国主であり、有利以上の 目上の者は、眞王陛下のみである。それなのに、目下の物にも彼らの方が年上だからと礼儀正しく対応 出来る有利は、十分礼節をわきまえた素晴しい!コンラート自慢の主なのだ。 しかし、ここでそれを言うわけにはいかない・・困ったな〜。と、コンラートが答えに窮しているうちに、有利が すぐ近くまでやってきて、べり!っと、コンラートの手を握る担任から彼を離すと、自分の背に隠す。 クラスの連中は、この美女(?)を巡る、男同士の戦いに、固唾を呑んで見守る。しかし意外なのが有利だ。 普段から可愛らしく素直な性格の彼は、担任はもとより教師にも好印象で見られている。有利自体教師に 生意気な口をきいた所を見たことが無い。それが、名付け親だという、彼女が関ると、こうも変わるのか? 「先生こそ!ドサクサに紛れておれのコンスタンツェに、色目使わないで下さい。」 むかむかして、有利が更に言い返すと、担任が訳知り顔で頷いた。 「うんうん、そうか、これだけ綺麗なでやさしい名付け親さんだしな、渋谷が実のお姉さんのように 慕う気持ちは分る。でもな、そんな子供の独占欲で、そんな口を聞いたり、彼女を縛り付けるような 真似をしてはいけないぞ。」 子供の独占欲!?この気持ちが!? 「彼女だってお前を置いて結婚して家庭を持つのだろうし、お前が名付け子だからっていつまでも、 ベッタリくっついている訳には行かないだろう?もう、高校生なんだし、いいかげん親離れしなさい。」 俺をオイテイク?コンラッドが・・俺を・・また? いや、コンラッドは、もう何処にも行かないって言った。こんな、何も知らない人間の言葉に惑わ されちゃ駄目だ!ちゃんと、おれはコンラッドを信じているんだから。 「渋谷?聞いているのか?ほら返事をしなさい。」 うるさい!俺とコンラッドが、どんな気持ちで過して来たかなんて知らないくせに・・何を乗り越えたか 知らないくせに、勝手なこと言うな! 「己に・・何が解る・・。」 有利の口から、低く唸るような声がでる。普段の有利からは、想像できない位、暗くて重い声。 しかし、担任はその声がおかしい事に、気づかなかったようだ。 「渋谷、お前は、普段から素直ないい子だろう?いつから、教師にそんな態度をとる ようになったんだ?」 担任が仕方ないな〜という感じで、手に持っていた教科書で軽く、パシンと有利の頭を叩いた。 瞬間!!! 教室の温度が一気に下がった!冷気だ・・殺気を帯びた冷気が渦巻いているぅぅ!? 出所は、教室の後方・・・そう、有利の名付け親の美人さん。 「・・今・・その方の頭を叩きましたね?・・彼は何か悪いことをしたのでしょうか?ねぇぇぇ?先生?」 口元には壮絶な笑み。目には明確な殺気が宿っていた。 怒っている・・・ 美人さんが怒ってらっしゃる・・ 美しい人が怒るとなんて怖いんだぁぁぁ! クラスの全員が冷気に当てられて、まるで冬場雪の中で暖を取る為に寄り添うサルのように、団子状に なって教室の前方で固まった。そして固唾を呑んで、三人の様子を伺う。 「ココココンスタンツェ・・さん?」 教室の後方には、微動だにしない有利と、直接殺気を浴びてしまい動けない担任・・そして 冷気の源となる美しい女性。 「悪い事をしたなら、それもいいでしょう。しかし、有利と俺の間での呼び方なんて当人同士が 納得しているので、貴方が口出しすることでは有りません。それから、ユーリは普段から誰にでも優しく 礼儀正しい子ですから口の聞き方に関しては、ご心配には及びませんよ。」 それから・・と、コンラートは動かないユーリを腕を伸ばして、胸元に抱き込むと、それまでの殺気がウソの 様に、優しく甘い声で少しだけ自分よりも、低い耳元に囁く。 「俺はユーリから離れるつもりは有りませんし、この方が許して下さる限り何時までも側に控えるつもりです。」 すると、それまで動かなかった有利が、のろのろと顔を上げて、コンラートを見た。それに、安心させるように 微笑みかけると、髪をすいてやる。コンラートがこうすると、有利はいつも落ち着くのだ。 ピンクの空気にあてられて、教室が瞬間解凍された。凍ったり解凍されたり、体に悪い事この上無い環境だ! と言いますか、可愛らしい容姿の有利が、美しい麗人に抱きこまれている図というのは、お姉さまと年下の 彼女みたいで、ちょっと百合っぽくって、男子はどぎまぎしてしまう。 何か、いいかも? (//▽//) ところで・・といって、コンラートはにっこりと担任に笑ってみせた。ぎくりっと、担任の肩が揺れる。 「先程から、人の肩や腰を触ったりや手を握ったりしてくれましたね?むやみの女性の体を触ると いうのはどうなんでしょう?それこそ、社会的に如何な物だと思うんですが?」 「はい・・?」 「こういうのは、セクハラって言うんですよね?先生?」 「え・そ・・その?」 うろたえる教師をよそに、コンラートは有利を自分の席までエスコートすると、恭しく頭をたれた。 「さて、ユーリ、俺はこれからちょっと、校長先生とモラルについて、話が有りますので、ユーリは きちんと勉強していて下さいね?あぁ、それと、帰りに猊下も夕飯に招待して下さいね?今日は お二人の好きなイタリアンで決めてみようと思っているんですよ?楽しみにしていて下さいね。」 では、クラスメイトの皆さんも、失礼致します。優雅としか言いようの無い所作で、コンラートは教室を 出て行く、それを慌てて担任が『自習していろ!』と、言い残して追う。 クラスメイトは、呆気としか言いようの無い様子で、ぽかんとしていたが、やがて正気に戻ると、一人の女子が 「あぁ!!」と、大きな声を上げた。どうしたんだ?と、まわりの女子がびっくりして問うと。 「思い出したわ!渋谷君の名付け親さん、どこかで見たこと有ると思っていたのよ!この前、引ったくり犯を 退治したお姉さまだわ!!」 ほらといって、携帯に入っている写真を皆に見せる。そこには、小さく写っているので見難いが、確かに件の 彼女が写っていた。 「あたしも聞いたわ。颯爽と現れて犯人を拘束して、被害者のおばあさんの手当てるすると、警官に 名乗りもしないで去った麗人よね!」 それなら、私も知っているわ〜。何て声が、女子を中心に広がった。 あの噂のお姉さまが、今の方なのね〜。実物も麗しくお強いわ〜。うっとり。 どこかいっちゃっている女子達に、男子が少しずつ後ずさる。 「そのお姉さまに、うちの担任ったら、ベタベタ触って!ホント、いやよね〜。何あの背広?ネクタイまで 新品で買ってきたのかしら?」 担任をアイツよばわり・・・先生、渋谷よりも先に女子を指導した方が、良くナイデスカー? うちのクラスの女子って怖い・・。(BY男子) 「渋谷君、私貴方を見直したわ!」 「へ?」 いきなり話題を振られて、有利が目を見張る。 「お姉さまを、守って結構男らしいところが有るのね。」 「渋谷、お姉さまにアイツがまた言い寄ってきたら私達も退治するのに協力するからね!」 退治って・・やっぱりうちの女子って・・(以下略)・・。 「え・・ありがとう・・。」 「だから、おねがい。、また、お弁当忘れてきてね!」 「きゃぁ〜いいわ。ぜひ、お願い!お姉さまを呼んでね。」 「え・・でも」 「「「渋谷く〜ん?お・願・い・ね!!」」」 「〜〜・・はい、明日も忘れます・・。」 ガックリうなだれる有利の肩を、男子達がポンポンと叩いて励ます。 ちなみに、その頃、職員室では、爽やかな笑顔で校長と談笑しているコンラートがいた。 コンラートが、少し愁いを帯びた瞳で、実は・・と体を触られたことを匂わすと、有利の担任は、他の 先生たち(男)に取り囲まれた。そのまま、隣に部屋で事情徴収・・いや事実確認をされている。 まぁ、わざわざ背広を着込んだり、ネクタイを新調したりと、挙動不審な点が多いので、コンラート に、言い寄ろうとしていたのは明白であるからして・・・自業自得ではあるだろう。 「この度は、申し訳ありません。この様な事の無いように、これからは厳重に・・」 「いえ、校長先生は、立派です。起こってしまった事(←注・そもそも起こってない)に素早く対応して、 その後の対策まで講じて(←訳・あの教師はきちんと処分するんだろうな?)下さるなんて。」 「えぇ、もちろん、とりあえず彼には担任は外れてもらいます。」 「本当ですか?私もこの事でうち(俺)のユーリに不利な事がおきたらと、あの男に触られても・・怖くて 言い出せなくて・・いや、私の事はいいのです。でも、ユーリの進路に影響が出たらと・・・。」 ううっ!と声を詰まらせるコンラート。その様子に、校長はじめ、その場にいた教師の同情を買う。 この場にかの幼馴染の男が居たら、アンタ・・そこまでやるか?悪どいっすねー。と呆れを通り越して 感心たかもしれない。また、かの大賢者が居たら、まだ甘いよね!といって、嬉々として情報操作をし 過去の被害者も作り出しそうだ。 まぁ、猊下に比べれば、俺が相手で良かっただろうな。 確かに、村田に比べれば良いだろうが・・村田を知らない担任は、十分コンラート相手でも災難であった。 現に、クラスの女子の言われるまま、弁当を毎日忘れる有利に、嬉々としてコンラートがもってくる姿を 見た『元・担任』は3日と経たずに、学校を辞職した。 彼は、その一ヵ月後・・この街からも姿を消した。教師を辞めた後、某進学塾で再出発を計ろうとした ところ、某生徒にことごとく、ミスを指摘され、難解な質問をふっかけられ、教育者としてとしての自信を なくしたそうだ。 たしかに、コンラートの方がまだましだったようである・・・。合掌 まぁ、約一名不幸な人はいたが、大多数の者は、コンラートの来訪を待ち望んでいる。 今日も予定通りに、お弁当を忘れた有利に、コンラートが嬉々として届けにくるのも、すっかり恒例と なってしまった。 とうとう、渋谷家・近所に続き、学校でも認知されてしまったコンラート。 着々と地球に居ついているんですが?果たして本当に、これでいいのだろうか? 7月12日LONG 今日からママのつくに格納 |