長編パラレル   今日から『ママ』のつく 番外編




今日からママのつく。                 番外編           



  うららかな午後、ダイケンジャーがいつものごとく親友の魔王陛下を尋ねて執務室に来ると、
言い争うというか、一方的に言い募る半泣きの親友の声がした。
「どうした?何かあったの?渋谷!」
慌てて扉を開くと、顔を真っ赤にして仁王立ちの魔王陛下と、その後ろには同じく顔を真っ赤にした、
(期間限定)護衛のフォンビーレフェルト卿ヴォルフラム。

「いくらなんでも、それはちょっと、ひどすぎるぞコンラッド!」
「そうだ!いくら姉上でもひどい!」

二人が詰め寄るのは、なんとも珍しい。この二人が愛してやまない一人の女性。
と、言うには些か語弊が有るが、何せ元々は男性で、今ちょっと、とある事情で、某毒女の薬で
女性にかえられてしまった、ウェラー卿コンラートだった。

「はぁ?」
だが、指摘された本人は、至って訳が解らないようだ。コンラートは、コテっと小首をかしげる。

くっ!ちくしょう・・・それがまた可愛いじゃないかぁー!このっ コ悪魔メ!
卑怯だぞ、そ・・そんな、可愛くしても騙されないからなっ!

「渋谷・・・フォンビーレフェルト卿・・キミたち落ち着きなよ・・・ウェラー卿のアレは素だから・・。」
どうやら、馬鹿々しい言い争いっぽい・・・変な時に来てしまったようだ。、本気で扉を開けてしまった
自分を呪ったダイケンジャーだった。

「村田!聞いてくれよ。コンラッドったら、あまりにも酷いんだぜ!」
涙目で訴えてくる渋谷。あ、ちょっと可愛いなとか思ったら、前方から奥さん(やはり期間限定)の
凄い視線が・・・。渋谷・・浮気疑惑ならフォンヴォルテール卿(面白いから)とかを巻き込んでやって。
僕はやめてくれ! そーーっと、渋谷から視線を外しつつ、ソファーに逃げる。
そういえば、フォンクライスト卿がいないねー。(わざとらしい話題転換)
「あやつなら、アニシナのところから返還されてない。」
ああ、だからフォンヴォルテール卿の皺がいつもより多いんだ。
「だから、きけよ!村田ってば!」
チッ・・・はいはい、ききますよ。君の麗しの奥さんがナンだって〜?

「だから、酷すぎるんだって!」
だから、何が酷いか言ってよ〜。さっきから、ソレしか聞いてないんだけど〜。
「まったくその通りだぁ!今回ばかりは、ユーリが正しいじゃり!コンラート!幾らなんでも
ソレはひどい、つつしみって言うものがナイじゃり。僕らの前でそんな事はするんものではナイじゃり!」
フォンビーレフェルト卿・・・・・じゃり口調になっているよ。だから、ソレって?
「くっ・・コンラート・・ヴルフラムや小僧の言うとおりだ、以後、人前でソレはやらないように。」
フォンヴォルテール卿まで???
一体何をやらかしたのさ、ウェラー卿?と、視線で問いかけてみても、当の本人もわからないらしい。
当惑した視線が絡むだけだ。

「えーと、俺、何かやりましたか?」
仕方無しに、ウェラー卿が申し出た。
すると、ぶるぶると彼の可愛い名付け子兼夫(こちらも期間限定)と弟が震えて、
「「何かやりましたじゃないだろ!(じゃり!)」」
と、叫んだ・・・。あーー、うるさい。だが、怒鳴られたほうは、どこ吹く風よ〜ってなもんで。

あ、綺麗にハモって、仲良しさんだな二人は、何だか妬けちゃいますね。

などと、言ってるよ。さすが、渋谷曰く、何時でも何処でも誰とでも笑顔で話せる演技派俳優だ。
だけど、その呑気さに、渋谷のこめかみがピクピクッと動いた。これは、怒っているぞ。

「ア・・アンタ今さっき何やった?」
心なしか、渋谷の声まで震えている。
「今・・さっきですか?えーーと、確か、ユーリが本棚の本が高くて取れないっていうから、変わりに
取りましたね。それがなにか?」
「その後だその後。」
一生懸命押さえてるのだろう、渋谷の声が一段と低くなる。

あと?

コンラートはしばし考える。本を取る時に腕を伸ばしたものだから・・・もしかしてアレかな?

どうやら、何か思い当たったようだ。さぁ、ウェラー卿、とっとと謝って終わりにしてくれたまえ!
いい加減、この騒ぎに飽きてきた大賢者様だった。でも、当たっているか判らないですがと、
前置きするのに、僕が、いいから話しちゃってーーと、促すと、じゃぁ、と言って彼は神妙に答えた。

「胸がずれたんで、ブラジャー(乳吊り帯)を直した?」
「・・・・はい??」
ナンデスカソレハ?村田は、出てきた答に、ズッコケそうになった。
「あのねー、そんな理由なわけ・・・」
「「それだ(じゃり)ーーー!」」

は?コレなのぉぉぉぉぉう??

「ソレだソレ!しかもあんた、襟ぐりから片手突っ込んで、胸をわしづかみにして直すなよ!谷間が見えるし!
それに、肩の紐を直す時も、襟から手入れたり、袖から手を突っ込むだろう?その度に、鎖骨( くっきりした
窪みがイイよ〜)とか、二の腕(ふっくらとした白さに目眩がする〜) とか、色々見えちゃって、俺たち
どうすればいいんだ〜〜ぁぁ!」
「そうだぞ!コンラート僕ら男の前で何をしてるんだ!」
「そんな事言われても、胸がずれちゃったんだから仕方ないでしょう?女性って大変なんですよ。」
不可抗力だとばかりに、コンラートが少し拗ねた声を出す。

「コンラート・・・お前それだけじゃないだろう、午前中、中庭に出るとき何をした・・。」
お?今度はフォンヴォルテール卿か?お兄ちゃんにそう言われて、ウェラー卿はさらに拗ねた。
「え〜、グウェンもですか?中庭って、いつもどおり降りただけじゃないですか?」
「なにぃ!いつもどおりだと?まさか?」
三男が何か思い当たったのか?長兄を顧みる。
「あぁ、そうだ、コイツはいつもどおり・・・くっ・・・ベランダの手すりを飛び越えたんだ。」
「やっぱり!」
「えぇ!アンタ何てことっ!?」
苦々しく伝えられた内容に、三男と夫は同時に非難の声を上げる。
「近くにいた警備の兵士二人が、(翻るドレスの下の脚線美を見て)医務室送りだ
・・・・一体、血盟城の兵士を何人(鼻)血祭りにすれば、気が済むんだお前はっ!!」
「は?俺、誰にもぶつかったりしてませんよ???」

・・・ちがう!そういう意味じゃない!

「コンラッド、今はドレス姿なんだから、飛び越えた拍子にあああ、足とか見えちゃうのはどうかと思うぞ。」
意を決して有利がそう訴えても、
「え?せいぜい、ひざか、そのちょっと上が見えるくらいでしょう?」
くっそー、本人は、全然わかってねーーー!
その見えるか見えないかのチラリズムが余計にいやらしんだよぉぉ!!とは、いえない・・くぅ。
俺も妄想をカキタテラレタ一人なんて知られたら、コンラッドに軽蔑されちゃうよな・・。
だから、「それでも、ヤメテクダサイ。」としか、いえなかった。うう、コンラッドのいけずぅ・・・(泣)。
がっくり、敗北感に打ちしがれている有利。哀れ・・。

一方、訳が解らない事で、兄弟と夫から責められたコンラートは、かなり不服だった。
「でもさ〜話は戻るけど、ブラって、ああ、こっちっじゃ乳吊り帯?あれって、結構ずれるんだよね。
肩紐は落ちるし、僕の前世も女性だったからわかるよ〜。あれ、気持ち悪いよね?」
「猊下!」
僕でわかる事なら何でも聞いてよ。こういった問題は、男性には理解されないんだよね〜?

いや、ムラタさん、アンタもコンラッドも男だろう・・・・・・・・。(−−;)

キミもいきなり女性にされて、色々不便が有るだろう?僕が力になれることも有るだろうし
なんなりといってよね?

心強い味方の登場に、コンラートの表情は一気に明るくなった。そうなのだ、兄弟は文句ばかり言うし、
有利に言っても役に立たないし(←夫に少しご立腹?)、女性陣に聞くのも恥ずかしいしで
実はかなり困っていたのだった。そこに、よもや村田が親身になってくれるとは思わなかった。
コンラートは、嬉しさに、あっさり三人をほっぽって、村田のそばへと寄っていく。
「そうなんですよ!ずれると気持ち悪いですし、俺も困って。あ、では猊下、ちょっとお聞きしますが、
肩紐ってどうやってか落ちないように出来ませんか?」
「うーーん、君の場合アンダーバストがあってないよ多分。それと、肩ひもの調節もきちんとすれば、
落ちにくくなるとおもうけど?・・ちょっとみせて?」

なにーーーーー??今、見せてっていったか??

「はい、たった10日だから、アニシナが用意してくれたのをつけてるんですが、やはりだめですか?」
そういって、コンラートはボタンを外して、胸を肌蹴さしてしまった。白に繊細なレースで縁取られた
下着がコンラートの胸を包んでいるのが、あらわになる。

がたがったんっ!グウェンダルが椅子ごと倒れた。有利とヴォルフラムからは、コンラートが横を
向いている為にかすかにしか見えないが、横にいたグウェダルは、もろ見てしまったようだ。

そんな外野の事は、気にせず二人の会話は続く。ちょっと失礼といって、村田はコンラートの下着の
脇の肌との間に指をすべらす。
「ぁ・・」
「あ、ゴメン」
「いえ、ちょっと、指が冷たかっただけですから。」
はにかむコンラートに、ごめんね、僕、手が冷たいらしいんだと謝る村田。
いえいえ、でも、手が冷たい人が心が温かいといいますしと、コンラート。
ほんわかとした内容の会話だが。・・・やっていることはお医者さんごっこ?
「うーーん、やはりアンダーバストがあってないな。というか、カップの形があってないよ。僕の見立てだと
アンダーを下げて、カップをワンサイズ上げたほうがいいと思う。カップの方はパットで調節できるし、
ベルトがゆるいんで上に上がって、肩紐がずれるんじゃないかな?上にずれると苦しく感じるんだけど?」
そう云いつつ、前から背中に手を回して、少し持ち上がったベルト部分を下げてみる。どう?と聞くと
密着しているため、耳の辺りにコンラートの息がかかる。あ、楽になりましたと、返事が返ってくる。
それが本来の位置だからといって、身体を離すと、コンラートはしきりに、へ〜といって感心している。
「あ、確かにこの位置だと、ちょっと緩いかもしれません。」
「だろ?できれば、お店に行ってきちんと計って作ってきたほうがいいねー。じゃないと、苦しいだろう?
それと、正確に測るには、前のめりになって、ムネを寄せてあげた状態で計らないと。」
「あ、こうですか?」
コンラートは、言われたとおりに、前のめりになって両手で肉を寄せる。ぷるんっと、揺れる二つの
お山に有利とヴォルフラムは、ずっさささ!と扉まで一気に下がった。そういえば、グウエンダルは?
「そうそう、きちんと胸をあげた状態で、計らないとね。ほら胸って脇に逃げるじゃん?ちゃんと寄せて
計らないとカップの大きさがか変わるから、着けた時に合わなくなるんだよ。」
そういいながら、コンラートの肩紐の位置を調節する。その際、肌に指を滑らすのを忘れない。
「へ〜〜、勉強になります。」
「あっはっは、何でも聞いてよ。こういったことは、経験者でないとわからないからね。渋谷や君の
兄弟じゃ、まったく理解してもらえないだろう?」
「猊下!」
さり気なく、他の三人を蹴落とす村田。ばかばかしい事で、僕の手を煩わせた罰だよ。
ちゃっかり、コンラートの艶姿も見たし、肌も堪能したし、さて、そろそろ仕上げだね。
「ところで、もういいから胸しまって・・じゃないと・・・。」
僕は、よっこらと立ち上がると、執務机の向うに倒れている男を引っ張り出す。
「わっ!こら、離して下さい猊下!」
「ほら、このフォンヴォルテール卿みたいに、君に興奮して鼻血吹いちゃう人がいるからね〜。
いやぁ、血祭りってこういう意味だったんだね?」(にっこり)

バッ!と、服の前をかき合わせるコンラート。
目が、胡乱気に細まる。
「い・・いや、違うぞコンラート」
慌てて弁解してみても、鼻血吹いたままでは、説得力もない。
「まったく、男同士なのに何考えてるのさ、皆〜。ウェラー卿は、男なんだよ、お・と・こ。」
いくら同性の結婚が珍しくもナイ眞魔国っていったって・・兄弟に欲情はいけないよ〜ね〜。

ぴくっ!とそれまで扉の前で手を取り合って固まっていた二人が反応した。
「兄上ぇぇぇ・・。」
「グウェンダルぅぅ・・・。」
地を這うような声が、よもやあの可愛いと評判の少年から聞こえようとは?
すっと、ヴォルフラムの目が細くなった。あぁ、そういう目をすると次男にそっくりだ。
「有利、そろそろ、ギュンターを回収しに行ったほうがいいと思わないか?」
「あぁ、そうだな、そろそろ執務に戻ってもらおう。」
二人は頷き合うと、スタスタと妙な気迫を纏って、中央まで戻ってくると、がしっ!とグウェンダルを
両脇からホールドして、ズルズルと連れ出した。
「ま・・まて、何処に連れて行く!」
「兄上、血の気が余っているようですから、少し抜きに参りましょう。」
「そうそう、それだけ元気なら、アニシナさんもきっと喜ぶよ。」
あ・・あにしなーーーー!?

まてーーと叫ぶ摂政閣下を、問答無用で引き摺る、魔王陛下と弟閣下・・・・よりによって、愛する弟と
可愛い魔王陛下によって赤い悪魔の生贄に差し出されるとは!?思いもよらなかったグウェンダルで
あった。二人の言うとおり、差し出された彼は、血の気が引きまくるほど酷使されたと言う

コンラートの胸を見た(なおかつ、興奮した)代償は、あまりにも高くついてしまったようだ。


一方、執務室に残された村田とコンラートは、というと。
「猊下、おれは、少し気をつけたほうがいいでしょうか?」
多少ショックだったのだろう、消沈としているコンラート。それを、痛ましげに村田が励ましていた。
「まったく、皆どうかしているよ。男同士なのにね〜。でも、そうだな・・・あと少しの間だし、君は大変かも
しれないが、少し行動を自重してみるかい?」
「グレタのためにと、自分で決めた事とです。最後までやり遂げて見せます!」
「さすがは、ウェラー卿だ。グレタもあんなにお母様として君を慕っているしね、僕も及ばずながら力になるよ。
男同士!力を合わせて、乗り切ろうね!」
「猊下、有難うございます!」
ぱぁっと、うれしそうに笑顔を取り戻す彼に、村田は力強く頷き返した。

それじゃぁ、お茶でも入れますね。と、いそいそと用意を始めるコンラート。
ありがとう、いただくよ。と、にっこり答える村田。

こうして、見事にコンラートに、血祭りの正しい意味を悟らせ、なおかつ危機感をあおって、行動を自粛
させるという成果をたたき出した村田。しかも、自分はちゃっかり安全だと刷り込んでしまうとは・・・・・
一番危ないのは、血盟城の兵士でも長男でもなく・・この大賢者かもしれない。

まぁ、これで、こんな馬鹿らしい騒ぎが起きることも減るだろう。あ〜〜、僕って働き者。
だから、ちょっとくらい美味しいコトがあってもいいよね?

フフフッフッフ・・

ぞわっ!!その時、背筋が凍ったのは、果たして誰であったのだろうか?



FIN

2008・4・28 UP




一日での一気書きはちょっとつらかったわ。夜会ネタが詰まり始めたので、馬鹿しい話を
一本かいてみました。最初は女性になっても動じないコンラッドの話をとおもい、ブラネタを
考えたんですが、それから話が二転三転して書き直しているうちに、猊下の魔の手がコンに
せまってきちゃいました。あれれ〜?