生贄の羊 悩殺コンビ後日談 |
生贄の羊 「あら?あなた方は、ウェラー卿のところの。」 聞き覚えのある声に、振り向くと、緑の長髪を後ろで束ねた女性士官が、薬草かごを抱えて にこやかに、たたずんでいた。 「これは、フォンクライスト卿ギーゼラ閣下。」 相手が上級仕官だとわかると、呼び止められたウェラー隊副隊長以下2名はびしっと敬礼をして背筋を正した。 「それで、どのようなご用件で?」 ここで、何か御用でしょうか?などと聞かないところがミソだ。用件がなければ、この女性士官が 自分達を呼び止めるわけがないのだ。 「ええ、ちょっとお願いが。」 お願い・・そう聞くと、素早く彼は、両脇にいた部下達に視線をとばした。 「わかりました。」そういいながら、何気なく薬草かごをギーゼラから受け取ると、部下の一人に渡した。 「閣下、この薬草は、調合士の所にお持ちしてよろしいのでしょうか?」 「ええ。助かります。」 助かるといいつつ、その目はそのくらい気づいて当たり前だぞ、馬鹿共め!と言って、渡された部下を見ていた。 ーひぃ!!− 「で、では、副隊長殿!ワタクシは、薬草を置きに行って参ります。」 失礼します!と、敬礼をするとすたこらと逃げ・・もとい、去っていた。その姿が、廊下の角を曲がった のを確認すると、副隊長はおもむろに懐から『赤い手帳』を取り出した。表面には『ぶらっくりすと』 書いてあった。どう言う意味だろうか? 「申し訳ございません、閣下。まだ新人なもので『躾け』がいきとどいてなく。そういえば、医療班にも 新人が数人配属されたようですね。」 「えぇ、我々医療班の新人教育には、実践第一!経験を積む事が何より大事です。でも、来る患者といえば 軽症者ばかりで。」 にこやかな会話がなされるなか、副隊長はパラパラとページをめくると、あるページで止まりふむ。と うなずいた。 「そうですね、経験を積むには、『いきの良い重症患者』も診なくてはなりませんね。確か、閣下の所の 新人は5名でしたね?」 「えぇ、新人は。」 さらさらと、何事かを書くと傍らに控えていたもう一人の部下に渡す。彼はうなずくと、上官二人に 辞去の敬礼を一つして、兵舎に向かって足早に去っていった。 「では、ギーゼラ閣下、私はこちらに用ができましたので。」 廊下の角まで来ると、彼は厩舎を指した。 「えぇ、お忙しいところ呼び止めてしまって。」 「いいえ。それでは閣下、『夕方から忙しく』なるでしょうが、新人教育がんばってください。」 その言葉に、にっこりとギーゼラが微笑む。聖女と見紛うような微笑で。 「貴方の様な『使える人』が副官でウェラー卿も幸せ者ですね。」 「お褒めの言葉、有り難く頂戴します。では。」 ビッ!と敬礼を残して、厩舎に向かうのを、何とはなしに見送ると、ギーゼラは医務室に向かった。 後ろで、数名の足音と馬の嘶く声が聞こえた。 そして、夕方。医務室は慌ただしい喧騒に包まれていた。城下で騒動でも合ったのだろうか? 切創(切り傷)・骨折・擦過傷(擦り傷)・刺創(刺し傷)・熱傷(やけど)と傷の見本市か? と思われるような、重症患者が『6名』運び込まれてきたのだ。 ぎゃーぎゃー騒ぐこの6名には見覚えがあった。たしか、先日も運ばれてきたはずだ。そう、あれは ウェラー卿が剣術指南をした日で、どんな指南をしたのだか(あらましは、大体知ってはいるが) 卒倒者が続出したのでえらく忙しかった時だ。その卒倒者の中でも、初めの方に倒れた連中だ。 たしか、全員上級貴族だったはず。 「えぇぃ!貴様ら、ギャースカ五月蝿い!怪我をしたら痛いのは当たり前だろう!そのような事も わからないか馬鹿共め!これ以上騒いで治療の邪魔をするなら貴様らの、ぶなしめーじをぶった切るぞ、うらぁ!」 「「「「「「ひぃぃ!ももも・・申し訳ありません!!軍曹殿っ!」」」」」」 それまで、五月蝿かったのがうそのように、全員股間を押さえて黙りこくった。 只でさえ、怪我で悪かった顔色が、一気に真っ白になっていく。燃え尽きるのも時間の問題か? 「そして、貴様らもだ!」 どか!ばき!べき!!!振り向きざま、新人達に渇を入れるギーゼラ。鬼軍曹モード全開だ。 「新人といえど、貴様らは栄えあるっ血盟城付きの衛生兵だ。患者を前に、あたふたするな! いいかっ!これから手本を見せるから、その通りに治療を行え、とっとと、準備しろ!うすのろの亀共め!!」 「「「「「は、申し訳ありません、軍曹殿。」」」」」 ギーゼラは新人達をどやしつけながら、運ばれてきた一人をやや(?)乱暴に治療しつつ手本を見せると 、 残りの5人の治療にあたらせた。初めて受け持つ重症患者の治療に、新人達は危ない手つきで治療にあたって いたが、どうにか手本どおりに、治療をこなしていった。まぁ、途中、患者達が「ぎゃ!」とか、「ぐげっ」 とか、変な音を出していたが、あれだけ元気なのだ。多少、手荒でも大丈夫だろう。 その光景を見ながら、ギーゼラはふと窓の外に視線を向けた。 外には立ち去るカーキ色の軍服の背中が・・。 「本当に、使える人だこと。」 満足気につぶやいた一言は、誰の耳にも届くことはなかった。 *************************************************************************************** SSに載せた悩殺コンビの後日談です。えーと、密かに暗躍している羊班達の活躍を書くつもりが 生贄を求める鬼軍曹の話になってしまったか? 現在4月3日14時です。4日0時開店に間に合わない小説の変わりに急遽小話をつくり、 拍手を作成しましたが・・いかがでしたか? コンも有利も出てない話って( ̄ ̄ ̄ ̄ ̄▽ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄;;) ・・いいのかな? 2008.4.4UP 2008.4.13 拍手より入れ替えのため、SSに移動掲載いたしました。 |