御伽噺パラレル劇場
コンデレラ 6 眠り姫編 後編 





でもって、一夜明けて迎えに行くと?

「あれ?健さん、言い争いの声がしませんか?」
ヨザックが耳敏くその声を聞きとがめた。

「まさか、目覚めたら食われていた事態に、有利王子が怒ったとか?」
だったら、イイキミだ!ふふん!と笑う魔法使いさま。やさぐれている…。(ーー;)

「どのみち、人のベットで そんなことして!きっちり、弁償はしていただきますわ!」
元気に言い放ったのは、眠り姫だ。ちなみに、100年寝たので当分眠りたくないと、劉天辺流苦死団を
朝までつき合わせて酒を飲んでいた。それでも、この元気。・・・ヨザックは、チョット目の前のお姫様に
底知れぬ恐ろしさを感じた。なお、劉天辺流苦死団は酔いつぶれて宿屋で待機中である。
いと、あわれなり・・・・・。







こんこん☆

「有利王子、入るよ」
「おはようコンラッド、迎に来たぜ〜。」
「おはようございます。有利王子・コンラート様」


「お・・おはよ////」
入ってきた三人を見たとたんに、有利王子は真っ赤になって上掛けを引っ張ると、ベットの中に隠れて
しまった。初々しいな〜と、三人は思った。

「おはよう。ヨザック、たしか?貴方は魔法使いでしたっけ?それと、そちらの姫は?」
「覚えてくれたかい、コンデレラ」
「えぇ、昨日は楽しい歓迎を有難うございました」(←嫌味)
「いえいえ、たいしたおもてなしも出来ずに」(←さらっと嫌味返し)

「あはは、仕方ないですよ。お城に篭りきりでは、在り来りな物しか思いつかないでしょうし?」
(↑訳・所詮は箱入り息子ならぬ魔法使い。知識だけ詰め込んだ子供に俺は出し抜けないよ?)

「あはは、そうですね、庶民に合わせて、次はもっと腕によりを掛けて接待させてもらうよ」
(↑訳・だよね?キミって庶民だし、僕らとは違うもんね?次はもっと君に合わせて、えげつない
手でも考えさせてもらうよ)

「あれ?二人とも仲良しになって、なんかやけちゃうな〜」
「……王子って、素直ね。この二人を見た後だと、心が洗われるわねぇ、グリエちゃん」
「そうですねー姫。王子には、このまま育って欲しいものです」
「あの二人だと、潤いがないものね」
「殺伐として怖いです」

「うん?なになに?二人も仲良し?」
きょとん、と、有利は意外に息の合っている姫とヨザックを見上げている。その質問には答えず、
ヨザックは、傍らにいる姫君を王子に紹介した。ついでに、幼馴染にも声をかける。

「え〜と、王子。おい、コンラートも!紹介しま〜す。こちらは、そのベットの持ち主、眠り姫様
です。この城の主ですよぉv」
「はい、城の修理費とかは、きちんと請求させてもらいますから、気にしないでごゆっくりv」

ベットの持ち主!と、聞いて、他人のベットの上で、アーーンナ事や、コーンナ事までされてしまった
ことを思い出して、有利王子は真っ赤になってあたふたした。
逆にコンラートは、しっかりと賠償請求をする姫の性格に、やっぱり100年も寝ていると性格が熟成
するんだろうな〜?などと、自分の性格を棚に上げたことを考えていた。

相変わらず、失礼極まりない性格だ。


「それで、何を朝から言い争っているんだい?」
いい加減、殺伐とした舌戦に嫌気が差したのか?村田は、可愛い親友に話を振った。
そうそう、それだ!と、ぽんっと有利は手を打つと、村田に向かって訴えた!

「村田!村田も、コンラッドの方がウェディングドレスに合うと思うよなっ!!」


「「「ウェディングドレスぅ?」」」(←村田・ヨザ・姫)


「いいえ、ユーリのほうが断然似合います。絶対に可愛いです」
「アンタ、最近までドレスだっただろうが!しかも美人だし、絶対にドレスはコンラッドだ!」
「いいえ、ユーリです」

両者一歩も譲らない構えであるが・・・ウェディングドレスを、どちらかが着るかという話であって
・・・つまり、結婚することは、決定事項ということか?だったら、まずはそれを報告しろよ!バカップルめ!

「いや〜、慶事だね〜」
「そうっすね〜」
朝からチョット疲れるな〜。半ば諦めと共に迎にきた二人は言い交わした。


すると、ちらり・・・と、コンラートが幼馴染を見る。
「?」

「ヨザック、そういえばユーリから聞いたのだが、お前、そちらの魔法使いと婚約したんだってな?」
「えぇ、まぁ」
「言うのが遅くなったが、おめでとう。幸せになれよ・・・なれるなら(ぼそ)」
「!・・・コンラッド、あぁ、ありがとう・・・」
まさか、彼からそんな言葉を贈られるなんて!昨日の扱いからは信じられないが、それでも嬉しく
おもって、ヨザックは照れつつも幼馴染の男に礼をのべた。最後の一言は聞こえなかったらしい。
人間知らなくていいことも多いということだろうか?

「結婚式は、俺達と合同なんだってな?」
「あぁ、そうなんだ。せっかくだから、王子と一緒にって、二人を待っていたんだぜ」
気を良くしたヨザックは、やっと結婚できる〜なーんて、はしゃいだように軽口を叩く。すると、
僅かに、コンラートの瞳が光ったのがわかった。
それはきっと、長年幼馴染をしていた、ヨザックにしかわからないぐらいの少しの変化。
何か言われる!?おもわず、微妙に身構えたヨザックに、コンラートの方では、相変わらず反応の
いい男だと、心のうちで小さく哂う。


「そうか、だったら、《思い出深いもの》にしような?」
少しだけ、ヨザックの青空色の瞳と、コンラートの琥珀の瞳が絡まった。


― ヨザ、もしも俺がドレス姿ならお前も巻き込むぞ!
― えー!いやだ、グリエ嬉しい〜、何着ようかしら?
― ちっ(←忌々しそうな舌打ち)
― あ・・あぁ、でも、やっぱり、ドレスは健ちゃんに譲ろうかしらぁ?(←滝汗)
― だろう?だったら、お前も協力しろ。
― はぁ〜い、まっかせてv
― ふふふふ、いい返事だ。


「――― えぇ、そうですね、一生に一度ですし」
わずか、ダッシュ記号(―)三個分の間に、上記やり取りを視線のみでかわした幼馴染達。
以心伝心というか、熟年夫婦も真っ青な意思伝達の早さである。単に、似た思考の持ち主である
だけかもしれないが・・・。



くるり、っとヨザックが有利に向き直る。満面の笑み、まずは、落とすのは王子からと判断したのだ。

「うん?なに?ヨザック??」
何かを感じたのか?有利が僅かに後ずさる。すると、がしっ!と、その肩をコンラートが掴んだ。
顔には、にっこりと、極上の笑みを乗せて――

ちょっと、危険信号が、彼の中で灯り始める‥がっ――。

「ウェディングドレスですか〜?いいですね、確かにコンデレラには似合うでしょうね?」
思わぬ援軍の出現に、脳味噌筋肉族であり、思考が素直な有利の危険信号は、その機能をストップ
させてしまった。(←役立たず)

「さすがグリエちゃん!!解かってくれるだろう?コンデレラって本当に綺麗だったもんねっ!」
わが意を得たり!と、ばかりに有利はヨザックに頷いた。さっきまで、ヨザックを警戒していた
くせに、今では身を織り出してうんうん頷いている。・・・ちょろい、ちょろいぞ王子!

「えぇ、わかりますよ。ぼろを纏っていた時でさえ、コンデレラは界隈では有名な美人さんでした
から、コレで綺麗なドレスで着飾れば、三国一の美人花嫁!きっと列席者のお姫様の中でも、断トツ
で綺麗ですよ〜。」
「うんうん!だよなっ!」
大きく頷く有利!そうそうダントツで、自分のコンデレラが一番綺麗にきまっている!

「え?そんなに、綺麗なの?」
眠り姫は、まじまじとコンラートをみてみる。昨日見たときから極上の美青年であることは間違い
ない。だけど、男と女の美しさは質が違う。美青年が美女になるとは限らないのだが・・?

ふっと、その視線を感じたコンラートが気配を変える。好青年風にまっすぐに前を見ていたのを、
節目がちに落として、憂いを少し含ませる。ハラリ・・と、前髪が影を作り、それだけでがらりと
変わる印象。長い髪から覗く不思議な色合いの瞳は、うるっと潤めば たおやかさのある美人だ。

その変化に、呆気に取られた姫。
「うそ、何この人・・・美女に見えますわ」
しかも、彼には、有利にはない、無駄な(←正直)大人の色気(←悔しい)がある。

「そうでしょ?うちの隊長、最近まで家の都合で娘として育てられていたんでぇ〜、その辺りの姫
とも引けをとらないでしょ?」
ヨザックが自慢するのに、納得してしまう。思わずヨザックを振り仰いだ彼女は、彼が目配せをして
いることに気がついた。

「そうそう、王子。一つお願いがあるんです」
「なになに?」
突然の話題転換にも、機嫌の良い王子は気にすることなく何でも言ってとばかりに見返してきた。

「えぇ、実はこの眠り姫のことなんですが」
といって、ヨザックは姫を、ずずぅいい〜〜〜っと、王子の目の前に押し出す。

― えっえ??

「彼女の身の振り方についてご相談があるんです。知っての通り姫は100年眠っている間に、身寄り
は全てお亡くなりになってしまい、当時の彼女を知る王侯貴族もないですからね。元々は一国の
世継ぎの姫とは言えど、今の国は別の王家が収めていますし、彼女にはこの城だけしか残っていないんです。」
少しだけしんみりとするヨザックの声色に、ハッと彼女の孤独に気がついた有利が目を見張る。


「そこで、俺達の結婚式に、友人として招待してほしいんです!」
「そうか、王族の結婚式といえば、一流の外交の場、そこで姫を社交界に再デビューさせて差し上げ
ようというのだな?なるほど、それはいい案だ」

ヨザックが切実に訴えれば、コンラートが幼馴染の意図に気がついて、有利に解かりやすく伝える。
絶妙なコンビネーションよね?っと、姫は追いついていけない現実に、拉致もない感想を考えて
しまっていた。脳味噌が現実逃避したらしい。

「そうだね、俺の結婚式で役に立つなら、ぜひ来てよ!ね?」
ぐぁし!!っと、目をうるませた有利が姫の手をとり、ブンブンとふる。

「あ、ありがとうございます、有利王子様」
「有利って呼んでよ。見た目は変わらないし、俺達友人なんだろう?」
にぱっ!と、笑う王子は本当に可愛かった。思わず姫も顔をほころばす。


「二人が並ぶと可愛いさ倍増ですね。可愛い王子と可憐な姫、二人とも可愛いカテゴリーだけど、
個性が違う可愛らしさだから、並ぶと引き立ちますね〜、これにうちのツンデレ魔法使いが加わると
また目立つんでしょうね〜v」
「僕は、並ばないよ!!」
「はいはい、健さんは本当にツンデレっすね?」
「うるさい!!」
ツンデレと称された魔法使いは、窓の側の長いすにどすっと座ると、そっぽをむいてしまった。

「ねぇ、ユーリ。せっかくだから、姫には花嫁の介添えとしてずっとついていてもらいましょう。
100年の眠りから覚めた姫というと、どうしても注目を浴びてしまうし、一人で外交の只中に入れるのは
可哀相だと思いませんか?その点、花嫁と一緒なら同じ注目を浴びるのにも、興味が分散されるし、
一人で好奇に耐えるよりいいと思うのですが」

そう提案したのは、コンラート。親切に彩られた提案だが、すぐさま姫が顔を引きつらした!

花嫁って事は、もしかしてもしかしなくても、この話の流れでいえば、もちろん彼の事だ。
この、フェロモン美女の横に、自分が立てば、間違いなく彼を引き立たせる添え物にされてしまう!

「ご、ご好意はありがたいのですが、その・・」
「遠慮しないでください、もう俺達は友人ではないですか?」
にっこりvと、微笑んだその男の笑顔に邪気がない・・・がっっっ!!!

無いが故に気がついた!そう、この男、見た目は極上だが腹が真っ黒かったということに。

ひっくぅぅ〜〜!!っと、姫の顔に貼り付けていた笑顔が引きつった。

「そうそう、姫。遠慮はしないでください。グリエたち、お友達でしょう??」
にやり・・・彼女にだけ見える角度で、ヨザックも意味深に笑った。

貴方達の友達って意味は=共犯者になれって事なの!?

彼らの求める答えに気がついた姫。自分に求められているのは、花嫁の介添え人・・・花嫁のであって、
コンラートのとは一言も言ってはいない。どう考えても、彼と並ぶのはイヤだ!


なにせ、王子の結婚式は、彼らも言っていたように一流の外交の場だ。そこに招待されるのも、当然と
いうか国のトップである。式には必ず、各国の王・または名代で王族かその国の高位の貴族が出席する。
その席で、この2週間で読み漁った王子の釣り書で、気に入った相手を招待して、彼女に紹介してくれる
ことになっていた。

そう、姫にとっても一世一代の勝負の場である。そこで、肉料理に添えられるパセリになんぞ
なりたくは無い!だったら、彼女のやるべきことは一つだけ。

花嫁の横から逃れなれなければ、その己に並ぶべき花嫁自体を別人に変えてしまえばいい!
そう、無駄にっ!色気にあふれるっ!コンラートではなく、可愛く可憐な自分の心臓と未来に
優しい有利王子・に・だ!

そうと決まれば、腹をくくるしかない!こっちだって、未来の伴侶と生活がかかっているのだ。
有利王子には悪いが、ここは腹黒剣士に売り飛ばさせてもらおう。どうせ、可愛がってもらえるの
だから、彼だって幸せなはずだわ。すかさず、そう判断を下すと、彼女は深呼吸をして有利たちに
向き合った。にーーこりと、唇にだけ王族スマイル0円を乗せると、姫は『わかりましたわ』と、
了承の言葉を口に載せた。

「《花嫁》の介添えの大役、見事果たしてみますわ」

含まれた言葉の意味を、悪い男達は違えず読み取ったらしい、少しだけ瞳を悪戯っぽく光らせた。



「いや〜姫なら安心ですね。当日は、ダンスの申し込みや歓談の希望者で、花嫁の周りは大変な事に
なるでしょうし、俺達はもう一組の新郎新婦なんで動けないだろうし、いやぁよかった。なにせ、
このお人ってば、人を惹き付けるから【虜】に なっちゃう【男共】が群がるかも〜v」
「そこは、まかせて。ちゃんと捌いてあげるわ」



【虜ーとりこ】??


有利は、ハタッ!!と、思い出した。

そういえば、たしかに、ここに来るまでコンラートを追跡していてわかった事だが、
男の恰好をしていても、彼に群がる男は多かった。何度それで、悔しい思いをしてきたことやら。

思い出してしまったことに、王子はムカムカーー!!っと、顔に血を上らせた!


「あら?どうしたの?有利王子」
「あぁ、うん、いや?」
なんでもないよと、続けようとした有利の耳に、饒舌になったヨザックの台詞が続く。


「王子も鼻が高いでしょう?お披露目パーティーにはきっと、ダンスの申し込みの列が出来ますよ。
さながら、行列のできる法律相談所並みに!」


その例えはナンなんだろう?と思った有利。しかし、彼の言う事は尤もだ。


お披露目になったらダンス位するだろう?政治の場も兼ねているそういう場では、各国の王侯貴族
からの誘いをむげには断れない。そんなことになれば、あぁ!俺のコンデレラの手にチュウしたり
腰に手を回したりされても文句は言えない・・・いえないけどぉぉ!!

なにやら考え込んできた有利王子に、ヨザックは畳み掛けた。

「大丈夫ですよ心配しなくても、コンデレラはダンスは得意なんです。たとえ、10センチヒールの
靴を履いても、見事なターンを決めていましたよ」
「いや、ダンスの腕前を心配しているわけじゃ・・・・・って?10センチ?」
脳味噌のはじっこに引っかかった単語に、有利の思考が止まる。10センチって・・・。


「えぇ、だってドレスだと当然ハイヒールの靴ですよね?」
たしかに、ドレスで、しかもダンスならば足元はそうなるだろう?そこで、有利はあることに
気がついた。座っていても有利とコンラッドには、身長差がある。もちろんコンラートの方が高い。

15cm以上の身長差・・・そこにヒールのある靴・・・もはや差は30センチに近い。

ずどーーーん!!!と、気がついてはいけないことに気がついた有利。そして、それは、それまで
周りで静聴していた村田と眠り姫も気がついたようである。村田は、友人にどういおうか悩んだが、
それをさくっと指摘してしまった人物がいた。第三者として、客観的に事実を突きつける彼女が。


30センチ差 の女性にダンスで 振り回される のって、王子の対面 としてどうなの?」
「うっ!・・じゅ・・じゅせんちではなく、3センチとかにすれば・・・」」
「・・・・それでも、20センチの差じゃない、おかしいと思うわっ!ここは、王子がドレスになさい!!


― そうよ、フェロモン花嫁には、太刀打ちできなくっても、可憐な花嫁になら、私だって負けないわ!!
  スリーピングビューティーといわれる私だもの!可憐さなら私だって!!

姫は、しきりに有利にドレスを勧める!勧めまくる!!

「大丈夫よ、披露宴の間は、私が王子の側についていってあげるから、ね?」

二人で並べば、注目度も分散するって、さっき言っていたじゃないv
意外に勢いでの力技で迫る姫。その迫力に、有利王子が怯む。

「でもでもでも!じゃぁ、王子がドレスってどうだよ?」
「30センチの身長差よりは、まぁ、いいのではないかしら?」
「うううううう」
涙目で必死に抗議するも、あえなく撃墜されてしまった王子。相手は、完全な第三者であるが為に、
反論の余地がない・・・なさ過ぎて、思わず泣いちゃう。ぐすん。


すると、ぽん・・っと優しい手が、俯いた頭に置かれた。

「泣かないでユーリ?」

優しい声に、打ちひしがれていた有利の頭を上げるだけの力をもっていた。
「こんらっどぉ〜」
ついつい、思いが通じたばかりの恋人にすがりつく。その有利の髪を、優しくって大きな手が梳いて
ゆく。その与えられる感触の心地よさに、有利の瞳がとろんと溶けていくと、その耳元に優しい声色
が流こんできた。


「わかっているよ有利。そうだね?有利は男の子だからドレスは恥ずかしいだろうね?」
「コンラッドぉ〜」
こくんと、小さく有利が頷く。

それを見ていた村田が、今の君らのほうが余程恥ずかしいと思うよ?などと、愚痴を ついつい こぼし
ている。だが、そんな言葉のトゲのつまった村田の言葉も、コンラートの腕の中でまどろむ有利には
まったく届いていない。ピンクの壁に、村田のトゲの嫌味も弾かれてしまうらしい。
「ちっ!」っと、忌々しいとばかりに、村田が舌打ちするのを、ヨザックがまぁまぁと宥めている。
眠り姫はというと、目の前で繰り広げられる恋人達のイチャツキを、劇でも見ているように、興味
津々で見つめている。100年眠ったあとだ、娯楽に飢えているのだろうか?


「だったらどうだろう?一人では恥ずかしいなら、二人で着るというのは?」
「でも、俺達二人でドレスなんて?」
「くす、それも余興ならいいけどね?国を挙げてとなると問題だよね?」
「うん、だよね?だったら?」
「ほら、俺達は合同で結婚式を挙げるんだし、ヨザック達も同じような恰好をしてもらえば?
それなら、恥ずかしさも半減するだろう?」

― ヨザック達・・達だと??

「なにーーー!!もがが!」
達に込められた意味に、叫びを上げた村田を、ヨザックがさりげなく口を塞ぐ。

「あら?いいじゃない?王子もムラケンも可愛い顔立ちだし!ドレス選ぶの手伝うわよ」
うきうきと、眠り姫がそんな提案をしてくる。まじで、娯楽か何かと勘違いしている節がある。

「そうですね、王子たちの幸せのためなら、俺達も異存はありませんよぉv」
しかも、ヌケヌケとそんな事を言うヨザック。

「もがが!もがぁぁ!!」(←訳・僕は大いに文句があるよっ)


― たしかに、村田と二人ならば、そんなに恥ずかしくはないかも?

「ね?ユーリ、俺に貴方の可愛い花嫁姿を見せてくれませんか?」
コンラートは、正面に向き直ると、有利王子の手をとって訴えてみた。

「う・・うーーんと、」
それでも、なお、戸惑う彼に、コンラートは一度俯く。

「こ・・・コンデレラ?」
どうしたの?と、有利が顔を覗き込もうとすると?

徐に、コンラートが顔を上げた。

「うっ!?」


うるうるうるうるる〜〜ん


琥珀の瞳に、薄い涙の膜を揺らして、銀の虹彩がキラキラ光る瞳。切なげに寄せられた眉。
くんっと、小首をかしげて、コンラートが有利を下から見つめた。

「ね?・・・・だめ?」

小さく呟かれたおねだりに、有利の男心は、ずっきゅーーん!!と射抜かれた!!
えぇ射ぬかれちゃいましたともっっ!!

「もちろん!だめじゃないさ!コンデレラのためなら、ドレスの一着や二着着てやろうじゃないか!」
「うれしい!ユーリ!」

ひしっと、抱き合う二人!にやりと、笑いあう外野(ヨザックと姫)そして・・


「うわぁぁ!ない言っているのキミ!!むぐぐぅーー!!」

一人、話の流れから置いてけぼりにされた魔法使い村田さま。

胸を叩いて引き受けた有利に、彼が大声で抗議をしたが、隣の男に口を塞がれてしまった。
その上、眠り姫にまで男らしく観念なさい!と、指を突きつけられた。


「じゃあ!決まりね?今の流行ってどんななの?」
本人より乗り気な眠り姫は、ユーリ王子はふわふわのドレスが似合うと思うわ〜なんて、コンラッド
とドレス談義を始めていた。

「むぐぐーーー!!」(←人の話をきけー!)
一人村田が騒いでいたが、有利が「ムラケンが一緒で心強いよ」などと、本気で信頼を寄せるもの
だから、結局は反対しきれないのであった。コンラートは計算のタラシだが、有利は天然のたらし
なんだな〜と、その様子を見てヨザックは思った。言えば刀の錆びにされるので言わないけどね?









それから2ヵ月後―――。

とある王国で、二組のカップルの結婚式が行われました。

一組は、この国の王子様と獅子の異名を持つ剣士。もう一組は、その友人の魔法使いと王家の騎士。
新婦 である、純白のドレスに身を包んだ王子は、朝づみの花のようにとても可憐だったという。
同じく純白の正装で身を固めた剣士は、居並ぶ来客の王子の中にあっても、損なわれないほどの
凛々しさだと謳われた。

そして、その側には100年の眠りから、王子と剣士によって救われたという清楚な美しい姫が、
緊張する新婦を友人として支えていた。やっと咲くことの許された花は、みずみずしくも花開くのを
喜ぶかのように咲いていた。

もう一組の新郎新婦はといえば、王子たちと対称に黒でまとめた騎士の正装と、黒のドレスに身を包み。
月下の花のようだと称えられたが、本人はいたって冷静。隣の新婦がこぼれるような笑顔なのと反対だった。


それでも、朝昼夜の花のような彼女らに、自然と賓客の視線は集まっていた。



「コンラッド〜!ユーリ王子!」
とてとて〜と、満面の笑みで走りよってきたのは、朱茶色のウェーブの掛かった髪の小さな王女様。
「ひさしぶり、グレタ元気にしていたかい?」
コンラートが、抱きついてきた彼女を柔らかく受け止めると、そのままひょいっと子供だっこで持ち
上げた。グレタは、コンラートがスヴェレラから魔女に攫われた王女の奪還を命じられて知り合ったの
だが、その後よくよく聞いてみれば依頼人の方に問題があり、彼女の身の危険を感じたコンラートに
よって密かに彼女を生国へと脱出させたのであった。

おかげで、今では両親と共に幸せに暮らしているという。ちなみに、有利も脱出の実行の部分で
関わっていた。その縁で、有利の国とグレタの国は、友好国としてお付き合いを始めたのだ。

「グレタね?今日が外交でびゅ〜なんだよ」
「そうか、だったら、眠り姫と同じだな、彼女も今回が再デビューなんだ、仲良くしてくれよ」
「うん、ユーリ!眠り姫?あの100年眠ったっていうお姫様?」
グレタの大きな瞳が、有利の隣にいる優しげな年上の少女を見る。薔薇のようだと謳われたと言う
御伽噺の中の姫君だ。

「うわぁ、グレタお母様に御本で呼んでもらったよ。王子様を待つ茨のお城のお姫様の話!お姫様が、
眠り姫なの?すっごーーい、コンラッドたち眠り姫ともお友達なんだね!」
本の中にいるお姫様が、自分の前にいることに、グレタは興奮気味でコンラートの首に抱きついた。

それを意外そうに姫が見やる。あの腹黒いコンラートが、裏表の無い笑顔で少女に接しているのだから。

「意外、コンラート様も、ユーリ以外にそんな顔するのね?」
「この子は特別ですよ。娘みたいなものですから」
「うん、グレタも、コンラッドのことは、第二のお母様だと思っているよ。でねっ!ユーリは第三のお母様ねっ」
「・・・グレタ、せめてお兄さんにして」
「ドレス似合っているね!ユーリ」
「とほほほ(TT)」

顔なじみの少女にまで女認定・・・がっくり。

「いいじゃないですか、俺だって母親認定なんですから」
コンラートが項垂れる有利を励ます。その様子を遠巻きに見ていた人々は、「あら、仲の良いこと」
と、微笑ましそうに新婚の夫夫(w)を見ていた。


「王子〜、コンラッド、チョットこっちにも顔を出せよ」
ヨザックが、街の人々のいる外の庭で、テラスにいた二人に呼びかける。その後ろには、着慣れない
正装を着込んだ劉天辺流苦死団や、コンデレラのなじみの街の人たちが祝いに駆けつけてくれていた。


「行こう、コンラッドをずっと見守ってくれていた人たちだろう?」
「いいんですか?」
街の人たちに挨拶はしたいが、自分の花嫁は王子だ。国賓の相手をしなくては?

「行きなさいよ二人とも、その間国賓の方々は、兄王や私がお相手させていただくわ」
戸惑うコンラートに、なんと横に控えていてくれた眠り姫が、代役をしてくれるという。

「ありがとう」
「いいのよ、なにせ、友人(=共犯者)ですもの私たち」
お礼を言うコンラートに、気にするなと茶目っ気をまぜて、姫が笑っていった。

それに、コンラートもクスリと笑う。ここ数日ですっかり打ち解けたから、こんな軽口を言い合える。
コンラートは、ちらりと視線をめぐらせて、一人の王子に声をかけた。二三言葉を交わすと、その王子を
伴ってもどり、姫の前につれてきた。

金のサラサラの髪に、深い緑の瞳の優しげな王子は、姫の前に跪くとその手をとってダンスの申し込みを
した。目を白黒してコンラートを見る彼女に、微笑だけを残して彼は花嫁を伴ってそこから消えた。

テラスから降りる時、少しだけ振り向いた視界に、王子の手をはにかん取る、美しい姫の横顔がうつった。
きっと、そのダンスを皮切りに、彼女を遠目から気に掛けていた男性達が彼女の元にはせ参じるだろう。

文字通り、彼女が今日の主役になるのは、コレで決まったようなもの。


「中々やるね、元々深窓の隠されていた姫だし、積極的に自分からというのも難しい、きっかけさえ
あたえれば、アレだけの美人なら向うから次々やってきてくれるだろう。これで、彼女も意中の
王子を見つけられるといいけれどね〜」

― うちの隊長は、アレでけっこう世話焼きなんですよ〜?

ヨザックがいっていた通り、一見傍若無人、何様俺様的性格に見えて、コンデレラは街の人に慕われ
ていた。親友が街で一目ぼれをして帰ってきてから、必死で相手を調べて知った人物は、これまた
一癖ふた癖ある人物で、難儀な相手に惚れたと親友の未来を憂いたものだが、どうやらそれは自分の
めがね違いであったようだ。


「ユーリ王子、隊長をよろしくお願いしま〜す!」
「たまには、お二人で街の方にも遊びに来てくださいね」
「コンデレラ、どうぞお幸せに〜」

王城の庭へと駆けつけた街の人たちから惜しみない祝辞がおくられる。

「うん、ありがとう!ぜひ、あそびにいくよ」
「って、王子!堂々と、城を抜け出すって言わないでください!グリエってば王家付きの騎士
なんですよ?阻止する方なんですけどぉ〜?」
「あははは、大丈夫だよ、だって、コンラッドが一緒なんだよ?安全じゃん!」
絶対の信頼を向ける王子に、コンラートが作り物ではない笑みを向ける。

幸せそうに ――。

「ユーリ、君の人を見る目は正しかったようだね」








それは、昔々の物語。不幸な境遇を力技でねじ伏せて、切り開いていった青年と、
彼を慕った可愛い王子様の恋物語。


とうぜん、その最後は、めでたしめでたし で、締めくくられるのであった。











ーおまけー



むかしむかし、あるところに、コンデレラという、とても美人で優しく爽やかで麗しい
・・・・でもって、少しばかりイイ性格をした娘(?)さんがいました。


意地悪な継母と継姉に虐められても、健気に生きてゆく彼女に転機が訪れたのは、お城で開かれる
武道大会。必死に自分も出たいと懇願しても、意地悪な継母は、家出の用事を押し付けて
コンデレラだけを残して実の娘を連れてお城へと出かけてしまいました。しかし、それを憐れに
思った魔法使いが現れて、コンデレラの一振りの剣と、武道会に着てゆく服をお与えになりました。

コンデレラは見事決勝まであがりましたが、最後の相手は幼馴染の友人でした。コンデレラは、
彼に優勝を譲り一人街を出て諸国漫遊・・ではなかった、武者修行へとでていきました。

しかし、お城の王子様は、そんなコンデレラの優さに心奪われコンデレラをお嫁さんにしようと
きめました。しかし、そうとはしらないコンデレラは、魔法使いからもらった一振りの剣と共に
本来の姿と名に戻って、世界中を旅しながらその剣で時に国を救い、時に悪人を懲らしめ、時に
余暇を楽しんで(←おい)いました。

その後を、王子は追い求めました。しかし、コンデレラのいる場所はいつも危険が付きまとう場所。
王子は呪いにかかり、このままでは100年の眠りにつくところでした。しかし、それを颯爽と
現れたコンデレラが助け出し、二人は王国に戻ってめでたく結婚したのであった。

(要訳)


「――――― そして、いつまでも幸せに暮らしました。よかったね!ユーリ、大好きな人と
 結婚できてv」

「・・・ぐ…グレタ・・・この話は、アニシナさんが書いたものかな?」

グレタは、寝る前に大好きな父親である、6歳年上の少年王のベットにお邪魔して、尊敬する赤い
悪魔コト、フォンカーベルニコフ卿アニシナに貰った本を朗読してみせた。
彼女としては、とても面白いと思ったのだが、どうやら父親には不評のようだ。

「そうだよ〜?愛と冒険とちょびっとエロス有りの、対象年齢12歳以上だって、でもグレタは弟子
だから特別に譲ってもらったの!」
「あにしなさ〜〜ん!!あなたは何を考えているんですかっ!!」
嬉しそうに語る娘に、有利はガックリと肩を落とした。

「まぁまぁ、いいじゃないですか?俺は、中々面白かったですよ」
と、のたまうのは、魔王部屋にちゃっかり居座る魔王専属護衛氏である。主である少年と違い、
こちらはニコニコと、つっかえずに見事読みきった小さな王女様を褒め称えている。

「アンタ・・・そんな呑気に、大体コンデレラって、アンタがモデルだろう?もうちょっと、自分の
人権とか考えてだな〜?少しは抗議してこいよ!!」
バンバンとベットを叩く有利もかわいいな〜などと思っているコンラートは、そんな魔王様の
怒りも何処吹く風だ。


なにせ、主の不満はといえば、コンデレラの性格が、黒いとか、本当のコンラッドはもっと
カッコイイし、もっと優しくて誠実だとか?そんな内容であるのだ。これが、喜ばずにいられるか?


「いいのですよ、誰がわからなくても、ユーリが俺の事を解かってくれているでしょう?」


― 俺の本当は、貴方だけが知っていればいい。


そう、耳元にささやきを落とす護衛に、魔王陛下は真っ赤になって撃沈した。




「いや、その コンデレラシリーズ、主人公二人の人物描写は中々的をいていると思うよ」
「えぇ、どんな些細な事も、陛下を口説き落とす事に使う厚かましさとか?どうみても黒い
御人なのに、それに気がつかないベタぼれの坊ちゃんとか、よく書けていると思います。
さすが、アニシナちゃんですね〜」
「うんうん、何が本当の自分は渋谷だけがわかっていれば良いだ。彼だけを全力で騙しているくせに!
あのええカッコしいがっ」

魔王部屋の扉の外では、もう一組のカップル扱いだった主従が、苦々しくもこっそっり頷きあって
いた。もっとも、主の少年は本当に嫌そうに話していたが、一緒のお庭番は上機嫌であったが。

― 猊下ってば、隊長のことは突っこみいれたくせに、俺達の恋人設定には入れないんだ〜v

コレは今夜は、じっくりと可愛がってあげよう?

「ねえ、げいかぁ〜」

気分よく伸ばされた腕は、スカッっと、空を切る。ヨザックが抱き寄せる前に、村田がズカズカと
魔王部屋に入っていったからだ。

「しっぶや〜、今日は僕もここで泊っていっても良いかい?」
「むらたぁ?どうしたんだよ、めずらしい」

といいつつ、親友の登場に、有利はまんざらでもないらしい。

「うん、たまには、キミタチ父娘とも親交を深めようかってね?グレタ、僕が地球のお話してあげるよ」
「ほんと!?わーい、ダイケンジャー、早くこっちこっち!」
バンバンと、自分の傍らを叩く王女に、村田はニッコリ笑うとベットへと乗り上げた。

「あぁ、もういいよ、ウェラー卿とヨザックは下がって、たまには二人も、幼馴染の親睦でも深めたら?」

とっとと帰れとばかりに、大賢者様がいえば、心優しい魔王陛下も『お疲れ様』と声をかけてくれる。

「・・・・・・失礼いたします。陛下・猊下・王女殿下」

すると、護衛氏は、表面上はにこやかに、ただし形式ばった挨拶をする所をみると、内面はチョット(?)
お怒りモードで、最愛の魔王陛下の居室を後にした。


くるっ!!と、方向転換をしたヨザックは、そのまま逃走へと続くように足を踏み出したが・・

ぐぁしっっ!!!っと、その首ねっこをつかまれた。ぎぎぎぎっと、恐る恐る振り返ったヨザックが
みたものは、不機嫌です!と顔に大きく書いた幼馴染の男。

「え・・・・えっと〜コンデレラ様ったら、麗しい顔が台無しですわよ〜?」
思わず恐れをなしたヨザックが、軽口を叩いてみるも?

「ほぉぉ〜?誰がコンデレラだと?どうやら、随分前からデバガメしていたようだな〜?」
「ひぃぃ!!??」

にぃぃっこりvと、わらった男の顔は、美しいと賞賛されてもおかしくは無いが、その纏う空気は
どす黒い!!

「猊下と陛下のご命令だ。今日はたっぷり付き合ってもらおうか?」
(↑訳・俺と有利の中を引き裂いた礼はたっぷりとしてやるからな?)

「お酒なら付き合ってもいいけどぉ〜、ほおら?グリエッたら売れっ子でしょう?今日わぁ〜、
お店に出る日なの〜」

だから、店でなら付き合うと言おうとして、最後までその台詞を言うことは出来なかった。


シュンッ!っと、目の前に閃光が走ったと思ったら?ハラハラと前髪が数本落ちたのだ。

「・・・・付き合うよな?」
目の前には、イイ笑顔で剣を持つ幼馴染。

「は・・はぁぁ〜〜い、よろこんで〜〜」

ズルズルと引きずられていった先で何があったのか?次の日から、お庭番の姿を探す上司閣下の
姿があったが、探し日とは見つからなかったという話だ。

ただ同じ日、朝から妙にすっきりとした、イイ笑顔のコンラートがいたとだけ追記しておこう。






2009年 9月5日UP
はい、コンデレラ様終了です。当社比的にかなり黒いコンラート様です。遅れたお詫びに、
おまけもつけてみました。