御伽噺パラレル劇場 コンデレラ 5 眠り姫編 中編 |
あんら〜おひさし〜、たーいちょ♪ ジャッキーーーン!! 「ぎゃぁぁ!!まったまった!いきなり抜刀はナシナシ!!俺っすよ!ヨザックですっ!」 「わかっている。だから、服一枚で済ませただろう?」 ありがたく思え!と、ふんぞり返る幼馴染に、ヨザックは やっぱり帰ろうかと思った。 村田の流した噂に、どうやら上手く喰らいついてくれたようで、コンラートが眠り姫の城から一番 近い町へと姿を現したのは、約2週間後・・・けっこう早かったのは、村田がコンラートの行きそうな 場所に重点的に情報を流したからであろう? 昨日、操作網を張っておいた国外れから、城のヨザックの元に 彼が現れたとの連絡が入った。 そこで、朝から彼が選びそうな宿で待ち構えてみれば? ビンゴ!やっぱり此処に現れたか?一軒宿でもなく、沢山ある中からなぜ判ったのか?――簡単だ。 彼は無造作に宿を選ぶわけではない。襲撃されにくく、なおかつ逃走ルートを確保しやすい場所を 第一条件に、次に食事がなるべくおいしい場所。次に仕事のターゲットの情報に合わせて、その情報を 持っていそうな客層の場所。以上を踏まえて、コンラートは常に宿をとっているのだ。 その条件を消却法で探せば、おのずと彼の現れそうな場所は特定できた。 あとは、潜り込んで待っていてみれば?栗毛の馬に乗った見知った男が乗り付けたのが判った。 早速、優雅に昼食をとる男を見つけて、声をかけたら抜刀されたのは、まぁ、この男だから仕方 ないのか? 「ところで、コンラッド?お前が ここにいるということは、もしかして例の――?」 早速 水を向ければ、彼の瞳がキラリと光った。 「お前もか?」 「なにせ、賞金が桁違いなんでね?けっこう金に釣られて集まってきていますよ?」 アレとは、もちろん村田がだした賞金が桁違いの退治依頼だ。退治するのは、城を取り巻く茨で、 救い出すのはそこに眠るかわいい王子様。見事、王子を眠りの呪いから解放すれば、賞金または王子 との結婚が出来るという。もちろん、コンラートが狙うのは、王子ではなく金! 相変わらずの、せちがなさだ。 ― まぁ、アレは一筋縄では無理みたいですけどね? ニシャァっと、ネコのような笑みを向ける男に、コンラートの目が細まった。 「・・・なるほど?それで俺を待っていたと?」 「ご明察!隊長を待っている間、じっくり調べてみました。はっきり言って手ごわいです。 すでに、単騎で乗り込んだ騎士が3人返り討ち、部隊を率いた王子が2組が自滅しています」 「そんなにか?賞金が高いわけだ・・・・」 「今、めんどくさそうだから 止めようかと思ったでしょ?」 「当然だ」 やっぱり!と、ヨザックは、村田の言葉を思い出す。 村田は、一度解いた茨の魔法を再び城にかけた。茨がなくなったのを見て、周辺住民が近寄って きたからだ。とにかく、欲の皮の突っ張った連中に入り込まれては、折角100年の眠りから覚めた・・ というより村田によって叩き起こされた眠り姫が可哀相だからだ。 ちなみに、今度の茨は村田の性格を反映して、動きが人を小馬鹿にしたようだ。 前回の茨は、ただ突っ込んでくるような動きだったのに比べて、つついてみたり、足を掬ってみたり、 背中を押してみたり、ぐるぐる回してポーーイ!とばかりに、遠くに投げてみたりと多彩だ!! 完全に遊んでいますね?健ちゃんってば・・・・。 今までのフラストレーションを、一気に解消しているせいか?最近の機嫌の良い婚約者を思い 浮かべて、少し苦笑する。 コンラートが来る前に攻略されては困るので、それはいいのだが、幾分やりすぎた感がある。 このままだと、コンラートがまた『めんどくさいので、この仕事はパス』なーんて言い出すといけ ないので、その前にヨザックが協力要員として、彼の前に現れて誘導することになったのだ。 「たしかに、俺とコンラッドでも、人員的に問題でしょうが?ちゃーんと、助っ人がいますから」 そう言ったヨザックの後ろに、見慣れた青年たちが現れた。 「お前たち!きていたのか?」 そこには、かつてコンデレラを、意地悪な継母たちから何かと助けてくれていた友人達がいた。 「お久しぶりです。隊長!」 「また一緒に暴れましょう」 「お元気そうですね、隊長」 「どーです?久々に、我等、劉天辺流苦死団(るってんべるくしだん)として、暴れてみませんか?」 頼もしい仲間の登場に、コンラートの瞳がキラキラ輝いた。唇は嬉しそうに仲間の名前を呼ぶ。 ― 隊長!あんなに嬉しそうに! ― 俺達との再会を喜んでくれるなんて!! ― やっぱり隊長も、俺達がいないと淋しかったんですねっ? 久々に見る、麗しい自分達の隊長の姿に、仲間たちの顔も晴れ晴れだ! 「お前たち、俺の手伝いをしてくれるのか?」 「「「はい、もちろんです隊長!」」」 「本当に?」 小首をかしげた様子が、ちょっと可愛いな〜なんて、仲間達が返事をするのを、慌ててヨザックが 止める。 言うなれば、本能?危険回避能力というところだろうか? しかしそれは、ちょーーーっと、遅かった! 「「「もちろんです!」」」 思えば仲間達は、久々に会うコンラートに浮かれていたに違いない。あとで、ヨザックは、先に釘を 刺さなかった自分を呪った・・・。 「よし、そんなに《手伝い》たいなら使ってやろう。そうだな、7対3で良いな?」 ななたいさん??って何?? ― それって、もしや賞金の分け前のことですか? 「それって、俺等7割隊長3割?」 「おばかだな〜ヨザックは、《手伝い》ならそんなものだろう?お前らは、わかっているよな?」 つい、確認したヨザックを 生暖かな目でコンラートが見る。そして、次に にこやかに視線を向けたのは、 劉天辺流苦死団の《素直で可愛い》仲間達だ。 ― ひぃ!!笑ってない!あの目は全然笑ってない! ― いやぁぁ!!隊長!目が獅子になっていますよっ! 慄く仲間に、ヨザックが必死に頑張れ!踏みとどまるんだ!と、視線を寄越す。 ― 無理!俺達にはムリ!断固ムリだから ― 俺は金より命が欲しい!! だが仲間は、その視線に必死に首を振ることで、自分達の生存権を主張した。 「どうした?いってみろ?」 ― 言ってみろが、逝ってミロに聞こえるぅぅっ! ― いやです!天国なんて逝ったら帰ってこれません! びしりと固まった劉天辺流苦死団は、全員直立不動で声をそろえた! 「「「はい!俺達が3割で、隊長が七割でっす!!」」」 「はい、よく出来ました。ほら、ヨザックだけだぞ?そんなに馬鹿なのわ♪」 上機嫌に昼食を平らげた彼らの隊長は、それはそれは美しくも微笑んでみせた。 彼等は,やっぱり、うちらの隊長は麗しくって美人だな〜なんて、その笑顔に見惚れながら、 一斉に肩を落としのであった。 がっくしっ!! 【たいちょーが、パワーアップしています。危険手当ください。】 ヨザックから鳩が飛んできたのは、お昼を過ぎたころ。それを城で受け取った村田は、いよいよ来たか? と、ターゲットが罠に掛かったことを知った。なにやら、手紙の後半部分が不穏だが、危険なのは自分 ではないと判断して、それは全力でスルーすることにした。(←ひどい) 「どうしたの、ムラケン?」 すっかり、ここ数週間で仲良くなってしまった眠り姫が、声をかけてきた。 「ほら、待ち人がきたって」 そういって、手紙を見せれば、可愛らしい眉間に皺がよった。 「危険手当って・・何で?」 尤もな質問だ。城を覆う茨は村田が制御している。罠だと気がつかせないために、多少の攻撃はするが、 おおむね順調に此処までこられる手はずとなっているのだ。 「うーん、相手がコンデレラだから?」 「なにそれ?」 ますます、わからない?そんな顔をする新たな友人に、とても厄介なんだとだけ答えた。 「まぁ、ムラケンが てこずるなんて、相手はどんな妖怪ですの?」 「……キミ、起きた時は純粋培養のお姫様かと思ったけど、やっぱり、100年眠らされていただけあって 熟成してるよね?」 「人をワインみたいに言わないでください」 「あはは、褒めているんだよ」 「うふふ、うそですね?」 「「………。」」 ひょぉぉぉぉ〜〜〜〜〜ぉぉ!! 「くしゅん!」 寒さに眠っている有利王子が、小さくクシャミをすると、ブルット震えた。 さて、夜になると、明日の英気を養おうと、良い子は ここで寝るのだが……生憎、彼等は良い子には 入らなかった。当りまえのように、酒で英気を養おうと、あれよという間に飲み会となった。なお、 当然此処は、コンラートのおごりだ。 こういった気遣いが好きv っと、青年達は いたく喜んだ。なにせ、数ヶ月振りにあった自分達の 隊長なのだ。 あの街では知らないものはいないといわれ、ゴロツキには獅子と恐れられ、一般市民には灰被り姫と 慕われた彼は、ある日、諸国漫遊‥ではなく、剣の修行といって出て行ってしまった。 しかも、副隊長であるヨザックまでが、お城の騎士として召し上げられていった。 その後、彼等は自然消滅した形で、各々の生活をしていたわけであるが、いきなり1週間前にヨザック から呼び出され、隊長に会えると聞いたときは、皆浮かれて、取るものもとりあえず出てきたのだ。 そして、とうとう、久しぶりに全員揃って暴れられるといえば、これが騒がずにいられようか? そんな彼らの心境を見越して、コンラートは彼らに酒をおごると言い出したのだ。 「アンタさ〜、そういうところ、本当に変わらないな?」 「何がだ?」 涼しい顔で、杯を重ねる男に、ヨザックが にしゃり と笑いながら話し掛ける。 「飴と鞭の使い方?」 「お前には、鞭と鞭にしてやろうか?」 「それは、かんべん!」 ふん、と、鼻で笑うと、コンラートは、騒いでいる仲間を見た。その目はとても温かくやさしい。 見守るようなその視線に、こういう御人だからこそ、おせっかいを焼きたくなるのだ。 「そういえば、お前の話でおかしな所があったな?」 「俺の情報がか?」 コンラートの言われて、自分が告げた内容を思い返す。何か変だったか? 「眠っているのは王子だといったな?姫ではないのか?」 「いんや、可愛い王子さまv」 きっぱり否定されて、コンラートの眉が潜む。 「……王子を、男の騎士や王子が助けに行くのか?」 「うーーん、お姫様が助けても良いと思いますが、眠っているのが自分よりかわいい男の子ですからね〜? 女の子的には、それって命がけで助けたいと思います?」 なんで、そんなに詳しいんだ? 「……俺が聞いたのは、100年眠っている姫だという話だが?」 「あ〜それ、隊長の情報古いわ。その姫さんなら、王子が起こしちゃいましたよ」 「なにっ!?ではなんで?」 「だから、起こしたまでは良かったんですが、変わりに姫の呪いを王子が受けちゃったって話です」 「……まて、そうなると、俺達が王子を起こすと、今度はこちらが眠らされるのでは?」 「あぁ、そりゃ平気。」 「………お前詳しいな?」 ぎくり…。 「おほほほ、グリエに判らない事はないのよ〜ん。えらい?」 「………それで、他には?」 些かふに落ちないようではあるが、実際にグリエは情報を集めるのが上手いので、コンラートも そこは認めているところだ。彼ほど、正確に情報を集めてくる者はいない。 「取って置き情報が一つ。はい、これ。」 そういって、ヨザックが取り出したのは、小さな絵姿だ。 「あれ?この子は?」 「それが、眠っている王子さ。賞金をかけたのは、兄王ってことだ。コッソリ出回っている絵姿を やっとこさ、小さいけれど手に入れたんだ。どうだ?可愛らしい王子様だろう?」 これは大嘘だ。この絵姿は、村田がヨザックに持たせたものだ。もしも、コンラートがこちらの話を 怪しんだり、めんどくさいからといって放り出したりした時に、この絵姿を見えて彼の気を惹くんだ! そういって渡された一品だ。 じーーーーぃぃーーっと、食い入るように見つめるコンラート。 この子、あの子に良く似ている。まだ、コンデレラと呼ばれていたころ、自分がチンピラから助けた 可愛い男の子。大変恥ずかしがり屋で名前も告げずに立ち去った―― コンラートの好み、ど真ん中ストレートの彼にっっ!! やがて、ほぉぅっと、些か夢見る目つきでコンラートが顔を上げた。 「これは神の啓示か?」 ― いんや、黒い魔法使いの陰謀です。 「やはり神が与えてくれた俺への御褒美・・・と、なれば?」 きらりと、コンラートの琥珀の瞳が輝く! 今度こそ、食べて上げないとね?(←えっ?) ふふふと、上機嫌に酒を口に運び始めた幼馴染。その様子を眺めながら、ヨザックは城で待ち構えて いるだろう可愛い魔法使いに心の中で賞賛を送る。 ― さすが、健ちゃん〜♪獅子はウサギさんをロックオンしましたぜ〜♪ 明日はいよいよ、獅子を兎の巣の中に追い込む手はずだ。 そして次の日。 「ほぉ〜、これが茨城か?これは見事に――」 何も見えない・・・・。 ―― ……健ちゃん、何も此処までハリキラなくっても……。 思わず呑気にそんなことを言う幼馴染と、その幼馴染が感嘆する光景を作り出した婚約者に、愚痴の 一つでも言いたくなる。朝からやる気満々の幼馴染を見て、これは今日は楽勝だと思ったのも つかの間、彼の婚約者もかなり向かえうつ気満々のようだ。 わさわさっと、茨がこれでもかというほど、てんこ盛りになっている。これでは、城への方向さえも わからないではないか!?茨の道が、茨の小山になっているのは なぜだっ!? そこに、しゅるる〜〜っと、一際太い茨の蔓がが伸びてきて一行の前まで来る。 腕組しているコンラートの前で先っぽが天を向き? くいくいっと手招きするような動きをした。 明らかな挑発。 そして ――― 「ほぉぉぉぉ〜〜〜〜〜ぉ?」 地よりも低く這うような声は明らかに幼馴染であり、彼ら劉天辺流苦死団の隊長・コンラートの 声であった。 「たいちょー、そんな安い挑発になんて乗りませんよね?」 恐る恐る聞くヨザックに、腕組したコンラートが振り返った。 「馬鹿だな〜ヨザック。あんな子供みたいな挑発に乗るわけがないだろう?」 ほっと、胸をなでおろす一同。 「だけれどな?」 ― だけれど? あぁ何か嫌な予感がするな〜と、できればヨザック達は、次の言葉を聞きたくは なかった。 「人の恋路を邪魔する奴は、例え お馬鹿な植物であっても、どうなるか?調教が必要だよな?」 ― ひぃぃ!やっぱり!? そういうと、すっと前方を指を指した。 「全員突撃!切って切ってきりまくれ!!!」 「「「はい!隊長さま!!」」」 いやぁ〜がんばってるな〜。 城の塔から、下を双眼鏡で眺めているのは、魔法使いと眠り姫。 「ねぇ、いいの?グリエちゃんってば、貴方の婚約者でしょう?」 「良いんだよ、躾は大切だろう?」 向うは調教、こっちは躾ときたか?なにやら、幼馴染と婚約者揃って性格に難ありなのでは?と、 出来たばかりの友人をおもって、眠り姫は思わず同情の視線を眼下で必死に茨と格闘するオレンジ髪 の青年に向けた。その少し後ろには、悠々と佇む一人の青年。 「へぇ〜あれが、有利王子の好きな人?」 これで見る限り、有利の王子様という青年は、ここ数日見続けた王子よりも、よっぽど王子らしい 精悍さと美しさに満ちていた。ただ、見た目は極上だが・・・青年達を容赦なく顎で使う様子から、 目の前にいる魔法使いと同類の真っ黒さを垣間見たようであった。 さすがは、100年王子様を眠りつつも待ち続けただけはある。彼女の審美眼は中々的を得ているようだ。 「キミ、王子評論家にでもなる?案外素質あるよ?」 この村田の一言で、後に彼女は『王子ガイド』なる、各国の王子を星の数で評価したガイドブックを 出版して、一財産築きあげたのち、女性の目線の物の本質を見破る記事を書くライターとして成功を 収めるのだが、それは、各国を見合い漫遊の旅に回った後、数年後の話である。 ほげぇ〜〜!! また犠牲者が出たようだ。おかしい?城の中は、トラップは無いはずだったのに? おかしいといえば、先程の茨の攻撃もだ。予定では、適当に苦戦しているように見せて、コンラート だけを城におびき寄せて、有利の眠る寝室まで誘導して、二人を引き合わせる予定だったはず。 だがしかし、茨の攻撃は執拗で、劉天辺流苦死団が総勢で対応して(←本当に切って切ってきりまくった!) やっと通り抜け、城の中に入り込んだら、いきなり落とし穴にはまって、2名が脱落した。 扉を開ければ、上からバケツが落ちてきて、一人が頭を打って気絶して脱落。 「・・・ベタで地味な攻撃だな」 それを見たコンラートが、ボソリと呟いた。ヨザックはそれを聞いて、悲鳴を上げた! ― お願いです!健ちゃんを、これ以上 挑発しないでぇぇーー! だが、ヨザックの叫びも空しく、角を曲がった途端に矢が飛んできた。咄嗟に、手近の空き部屋の ドアをあけて飛び込んでやり過ごしたが、なんと矢は・・・・・七色であった。 「これは、見かけは派手だが・・・手段はやはり地味ベタだな?」 なおも、ムダに口の悪さを晒す男に、心底ヨザックは殴りたいと思った!! 「ねぇ?いいの?王子に会わせるんでしょう?・・・」 姫が戸惑いながらも、隣の少年に言ってみたりする。なぜか怯えるようなのは、 魔法で映し出されるヨザックたち(音声付)に、村田様の口角が上がったからだ。 「わかっているよ」 「そうよね?当初の予定は、覚えて・・」 さすがに、そこまで自分を見失っていないか?姫は、胸を撫で下ろそうとしてー 「だったら、派手にトラップに引っかかってもらおうか?」 「えぇ!?」 ― ちょっとーー!本気で始末しては、意味がないでしょうぉぉ!!! 姫の叫びもむなしく、真っ黒く染まった村田は、こちらに向かってくるコンラート達にむかって、 魔法の呪文を唱えた。 「ぴぃぎゃぁぁ!!!」 階段の段が行き成り消えた!?滑り台状態になり、咄嗟に飛び上がって手すりに捕まることの 出来たコンラートとヨザックを覗いて、みんな下まで滑り落ちて言った。 ここ螺旋階段だし・・・5階分を上った後だったので、遊園地も真っ青な絶叫系の遊具だろう。 階下へと消えていく仲間の引きつった悲鳴を聞きながら、ヨザックは胸の前で十字を切った。 ― これは多分、あの数々のコンラッドの発言に対する、健ちゃんの報復にちがいないっ!! きっと、どこかで自分達を見ているはずと、きょろきょろと周りを探した。 「さすがはヨザック。どうやら解かっているみたいだね?」 魔法で水に生き残った二人を映しながら、有利の眠る寝室の隣では、魔法使い様が黒いと称される 笑みを浮かべていた。そう、本当は適当にじゃまして、すぐに通すつもりだったのだ。 あの台詞を聞くまでは・・・。 あれは茨の山が茨の丘ほどになった頃、必死に茨を切り刻んでゆく劉天辺流苦死団のあとを、剣も 抜きもせず、てこてこ歩いてついてくたコンラートは、暇そうに一言粒やいた。 「案外、たいしたことないな。見た目だけか?」 それが聞こえた途端に、それまでちょちょいと、お遊び程度に茨を操っていた村田の手が止まった。 「どうしたの、ムラケン、茨が止まったわよ?」 城の塔から双眼鏡片手に、一緒に観戦していた眠り姫がどうしたのかと、隣を振りむいた。 「へ〜〜〜ぇぇ?」 くすくすと哂い始めた相棒(?)に、姫の口元が引きつった。 「ちょ、どうしたの?後ろから何か黒いモノが出ているわよ?」 「いいや〜、なんっでもないさ〜?なーんでも?」 といいつつも、村田は長い呪文を唱え始めていた。 次の瞬間、茨が固まったように動きを止めたのを、おかしいな?と、思っていた青年達に、 それまでらりくらり立った茨の動きが一変し、狂ったように攻撃を仕掛けてきた! おもわず、命の危険を感じた彼等は、適度に茨の相手をするつもりが、生存をかけて本気で立ち 回る羽目となったのだ! おかげで、城門についた頃には、皆、半死状態だった。そこに、トラップをかけられたのである、 劉天辺流苦死団は、王子の寝室間近にして、二人を残して全員脱落してしまった。 「ううう、なぜこんな目に。」 「何、泣いているんだ?行くぞ筋肉」 そんなヨザックの心の格闘を知らず、コンラートはスタスタと、王子の部屋らしい一際豪華な扉に 手をかけた。 ― アンタの、その口の悪さが、にくいぃぃ! 「ヨザック?何をしている?ほら、待っていてやるから早く来い」 「へ?」 そのまま、ヨザックを置いていってしまうかと思ったコンラートであったが、彼はヨザックの方に 向き直ると、彼が来るまで待っていてくれた。 「ほら、ここまで辿りついたんだ。一緒にいこう?」 な?っと、コンラートが微笑めば、どこからか風が吹いて彼の髪をゆらす。 じ〜〜〜〜〜んv おいでと手招きするコンラートに、ヨザックはいそいそと近づいていった。 どんっ!! え?っと、思った時には、ヨザックの身体は素早く開けられた扉の中へと突き飛ばされ? ぎいいやぁぁああああ!!! 次の瞬間、なぜか開いていた落とし穴に、まんまと飲み込まれていった。ひゅルル〜〜っと、 落ちていく、音が遠ざかる、コレは深い・・きっと一階まで落ちたんだろう。 「ふう〜、やっぱり罠がはってあったか?」 素早く扉の影にかくれて(←何か飛んでこないかと言う用心)事の成り行きを見届けたコンラートは、 落とし穴を避けて通ると、そのまま奥の扉を開けた。 陰に隠れて飛来系のトラップがないと判ると、そっと足を進める。回りをぐるっとみて、これと いって不審な点がないということで、コンラートは用心をしながらも、部屋の中へと入ってゆく。 「どうやら、アレが最後のトラップらしいな。ヨザックの犠牲が無駄にならずにすんだな♪」 「恐ろしい男だ。まさか最後の最後で、ヨザックを身代わりにして、トラップを抜けるとはっ!」 「って、あなたが仕掛けたんでしょ!しかも、身代わりにされたの、貴方の婚約者!」 「さすがに寝室は、有利王子の安全上、トラップは掛けられなかったし・・なんてことだ、僕が一矢も 報えずに、敗北を帰すなんて!」 「聞いていないわね・・・」 大体、失敗してくれなくては困るのは村田ではないか?と、姫はつくずく思う。 だって、これはあの青年と有利王子とをめぐり合わせて、娶らせることなのだからだ。 「いいじゃないの、ある意味最大のトラップを仕掛けてあるんだから。」 ―― そう、その罠にはまれば、彼はもう二度とぬける事は出来ないのだから。 コンラートの目が大きく見開かれて、目の前の光景に釘付けになる。 真っ白な寝台に寝かされているのは、やはり前に助けた少年だった。 小さくって、可愛くって、髪がさらさらの黒髪で、目がクリッとして、バラの頬に、 さくらんぼのような唇の子犬のように元気な子がいいな! いつか、自分の好みを語った時にいった言葉、小柄で髪がサラサラの黒髪に薔薇色の頬にさくらんぼ のような唇は変ってはいなかった。だが、大きくてくりっとした黒曜の瞳は硬く閉じられ、元気一杯 に子犬のように動いていたからだは、力なくベットに横になるだけであった。 これが、本当に寝ているだけなのだろうか? ためしに、首の脈を確かめてみる、かなり遅いが、脈はある・・・生きてはいるようだ。 ホッと息をついて、あれ?っと、あることに気が付いた。何で猫耳?というか、この衣装は何だ? それに良く見れば、尻尾まで生えてないか? 「本物かな?」 さわり・・・っと、その尻尾を撫でると。 「にゃ・・・ぁん・・・・。」 「!!!!」 行き成りあげられた声に、コンラートは三歩分飛びのいてしまった。 そんな彼の驚愕を知らず、ベットの上の黒猫さんは、くるんっと寝返りを打つと、横向きに丸く なってしまった。まるで本当のネコだ。 そろ〜り、っと、コンラートはベットに近寄る。どきどきどきv そーと伸ばされた手は頭の上にある耳を掴む。ベルベットのような肌触りに、よーくみれば内側に 血管のような赤い線がみえる。しかも、くすぐったいのか?ぴくぴくっと耳が動く。 かっ!!かわいい!! ― これは本当に寝ているんだよな? コンラートは、再び手を伸ばすと、ゆさゆさと肩に手をやって軽くゆする。その後、目の前で 両手を広げるとパァァン!っと、手を叩いてみせた。 「ふむ、起きないな?これは本当に、呪いで眠っているようだ」 ギシ・・・っとベットが小さくなる。コンラートはベットに乗り上げると、眠り王子の両脇に手をついた。 ― 眠りの魔法を解くのは簡単です。愛の口接けですv きゃvとか、照れて見せた幼馴染を殴り飛ばしながら聞いた事を思い出す。見ず知らずの他人の寝所に まで押し入って、唇を奪えといわれても、好みではなければ、眠っている本人を連れ出して。依頼主 の所に送り届けて、そっちで適当な男性にキスをさせて呪いを解いて、報酬だけ貰って帰るというのが、 一番良さそうだったのだが、そんな気は彼にはもちろん起きない! ゆっくりとコンラートの顔が、有利王子の顔に近づいて、ふっと息を吹きかけられた耳が ぴくぴくっっと動いて、可愛い声が漏れる。 「ウニャ…っん」 「へー、感度も良好だな」 ニヤリ・・・と笑ったコンラートは、そのまま唇は避けて、首筋に吸い付いた! 「……んんっ…」 そのまま、手は大きく広げられた襟首から進入し、肌理の細かい肌触りを堪能している。当然と いうか?どんない触りまくっても、王子様は起きる気配はない。 「んーー?据え膳だよねコレ?だったら、折角だし?もう逃げられないように、既成事実は つくっちゃおうか?」 にこにこと、コンラートは王子の服に手をかけると、据え膳様の攻略を始めたのであった♪ (↑超うれしそう!) 寝室の扉の前では、漏れ聞こえる声に、さすがの村田様もどうしようもなく・・・。 まさか、キスで解ける呪いを逆手にとって、こんな暴挙に出ようとはっ!? 「どこまでも、イレギュラーな性格なんだよ、あのコンデレラわぁぁっっ!!」 「しぃー!!だめですわ、ムラケン!そんな大きな声を出しては?」 「・・・・・。」 無粋ですわよ?と、扉にコップをくっつけて、中の様子を聞いている眠り姫・・・仮にも姫なのに? 盗み聞くなんて、そっちの方が無粋の極みなんじゃ?と、村田様は思った。 はぁ〜と、ふっかーーーいため息をつくと、 「きゃっ!」 ちょっと、ムラケン何をしますのーー!!と抗議する100年熟成のお姫様の襟首を掴むと、そのまま ずるずるとその場から連れ出した。 寝込みを襲われて貞操を奪われただけではなく、そのイタシテイル最中の様子まで聞かれていた のでは、親友が余りにも可愛そうだ。 起きたら傷によく効く軟膏を差し入れてやろう。 きっと真っ赤になって、絶叫するだろうが――――。 ― まぁ、彼のお嫁さんになるという目的は達せられたし、両思いなのだから、この際些細なことは 無視しよう。そうそう、結局は、きっと彼等はそういった運命なのだろう?あはははは――… 「そうだ、相手は常識を踏みたおしても、気がつかずに行くような、マイペース人間コンデレラだ。 僕のような、繊細な人間が相手にしちゃだめさ・・・。」 ブツブツブツ・・・ 明日の昼にでもなったら彼らを迎に来るとしよう。村田は、一階のフロアで伸びているだろう 劉天辺流苦死団を回収すると、街の酒場で今夜は自棄酒だ!!もちろん、請求はあのバカップルに つけてやる!!そう、かたーーーく誓ったのであった。 2009年 8月 24日UP コンデレラさま、絶好調。後は後日談だ!長くなったので、二つに切ったわ。後一話あります。 |