御伽噺パラレル劇場
コンデレラ 4 眠り姫編 前編






「あんのぉぉやろぉぉ〜〜!すっかり退治屋で味を占めやがってぇぇ〜〜!!」

でんでろでんでろでろろろおぉぉ〜〜ん〜〜!!
( -言- )ククク…

一人、旅の空で怒り渦巻く黒雲を背負うのは、魔法使いの村田健。



「王子・・。」「グリエちゃん・・。」


「「怖いよぉー!」」
ガクガク(((ll・´ω`・人・´ω`・ll)))ブルブル


そして、少し離れた所で、仔ウサギのように、震える二人は、ムラタの旅の同行者・・某国第二王子
の有利と城勤めの騎士で村田の婚約者のグリエ・ヨザックであった。
彼らの旅は、もう半年にも及ぶ。目的は、とある人物探し・・。名前はコンデレラ改め、コンラート。
大体のルートもわかっていたので、すぐに捕まえられると思いきや?

あっちに現れたと聞いて駆けつけると、姿を消しているし…こっちに現れたと聞いて彼を訪ねて行けば、
なにやら情熱的なお兄さんが、コンデレラに会わせてくれと、逆にしつこく言い寄られるし…ユーリ王子が
そいつと、コンデレラ(本人不在)をめぐって、恋のライバル闘争を始めるし・・。

その後、彼らしい目撃情報をたどっていけば、なにやらリゾート地に出てしまうし・・。

どうやら、お金が溜まったので、そこで静養兼遊興にふけっていたらしい。

ヨザックが、ちょーーと、聞き込んだだけでも、かーなり?のびのびとぉ?ここでのバカンスを
楽しんでいた様子がうかがえた。


たとえば?

剣士の鍛え抜かれた身体を、普段纏う服を脱ぎ捨てて、水着姿に上着を羽織っただけの姿で波打ち際を闊歩すれば、
あっという間に、女性達に逆ナンされ、食事をおごってもらって、彼女等と午後のビーチですごし、夕方別れて
高級ホテルに戻れば、今度は壮年の男性に誘われていた。

「お一人ですか?実は私もでして、丁度話し相手を探していたのですが、女性を誘うと誤解を受けますし、
もしよろしければ、ご一緒にディナーなど?」
なーんて、みえみえのお誘いに対して、彼はニッコリ笑って断ったという。

「すみません、俺は今日ついたばかりでゆっくりしたいですし、第一、俺は遊びに来ていまして、ご覧の通り
ラフないでたちですので、一流レストランでの食事が出来るような服装も持っていません。他をあたってください。」

すると、逃げられると追ってみたいのが男心(?)コンラートが部屋でくつろいでいると、ピンポーンと
ドアチャイムが鳴らされて、ボーイがやってきた。

「お届け物でございます。」
コンラートが受け取ると、なんと箱の中には上品なシャツに上着・ズボンに靴に小物までが揃っていた。
「ふーん、中々趣味はいいな。あ・・・カードだ。」

それを読むと、コンラートは、服を着込んで、指定されていたレストランへと向かった。

窓側の席で待っていたのは、先程ロビーで話しかけてきた紳士だ。彼は、にこやかに語らいレストランで
ディナーを楽しんだ後、最上階のBARに連れて行かれた。

「何にします?」
「そうですね?お酒は詳しくないので、適当に軽いのを頼んでくださいますか?」

すると、紳士は口当たりのいいカクテルを頼んでくれ、それをコンラートに渡した。自分は、バーボンを
ダブルで頼むと、グラスをかかげ、「君のその美しい瞳に乾杯。」などと、お決まりの台詞を彼に贈った。



「いや〜、あの人ならよく覚えているよ!素晴らしい飲みっぷりでねぇ〜、あのカクテルは果汁を
使って口当たりよく作ってあるけど、アルコール度数は強くてさぁ、あの飲みやすさに2杯も飲めば、
女性なんて正体なくして、次の日きがついたら男とベットの中なんてこともあるからね。」

つまりは、男性が女性を酔わせてベットに連れ込むために、よく飲ませるカクテルなのだ。

別名、赤いその色から、燃える下心と呼ばれるカクテルだそうだ。

「だから、あの中年男がそれを頼んだときに、綺麗な青年が毒牙に掛かるんじゃと心配したんだけどね?」
そこで、その時のことを思い出したバーテンはくすくす笑った。

なんでも、それを5杯飲んでも酔わない上に、連れの紳士の皮を被った狼のほうが先につぶれて、
ボーイを呼んで部屋に帰したそうだ。その紳士・・よほど彼に未練があるのか?毎晩誘ったのだが、
どんな酒でも酔わすことが出来ず、しまいには薬を使おうとして、それが彼にばれて、怒った彼が
狼氏の首根っこをつかまえて、部屋に引きずり込んで、ナニやらしたらしい。

その日のうちに、紳士だった狼は逃げ帰ってしまい。狼を退治したコンラートは、次の日も一人
飲みに来て、バーテンと軽く語るのを楽しんだ後かえり、次の日チェックアウトした。

彼は言ったという。

「俺は、カクテルには詳しくないと言ったが…酒に弱いなんていってないのだけどね?」
そういって、彼は既に三杯目である、この店で一番強い酒を流し込むと、バーテンに大量のチップをくれた。

「男前で、気前はいいし・・・いや〜いいお客さんでした!」

そりゃ、大量のチップを貰ったバーテンにはいい客であろう?しかし、散々貢いだ挙句…多分
慰謝料もとられただろう、紳士の皮を被った狼氏には、散々な相手だったに違いない。

人を見た目で判断してはいけないという…典型例のようなお話だ。


この報告を聞いたムラタは、(慣れない旅で疲れて、部屋で休んでいた)冒頭のように叫んだのだった。

「もう嫌だ!あの尻軽め!勝手気ままに移動して!報奨金が掛かっている場所を、近い順から回れば
いいものをどうしてバラバラに現れるんだい!そのうえ、最近じゃ資産運用まで始めて!グロギン
以外にも結構資産をもっているから性質が悪い!!もう、あんなのを探すのは僕は嫌だからね!」

流石の魔法使いでも、魔法の鏡もなく当てがありすぎる状態では、どこに現れるか予想もつかない。

「えぇーー!そんな!それじゃぁ、コンラッドを探してくれないの?」
うるうると、有利王子の大きな目が潤んでくる。もはや、有利一人では手に負えるのはわかっている。
だから、こうして、魔法使い村田と王の騎士であるヨザックが応援に駆けつけたのだ。

「探さないとはいったけど、捕まえないとはいってないじゃないか?」
「え?」
「そうですよ、王子。健ちゃんが王子を見捨てるわけがないでしょう?ちゃーんと、賢いその頭で
計画を練っていますって!」

ヨザックが、有利王子にハンカチを渡しながら、婚約者を擁護する。この少年は、一見ひねて見えるが、
情に厚く心優しいのだ。ただ・・その表し方が、ちょっと斜めの方から表すので、正面から見ると
わかりづらいだけなのだ。


「おっかけるのは終わりだ。コンデレラが思わず飛び込んできそうな、取って置きの懸賞金付きの
仕事を用意するのさ。つまり、待ち伏せだね?」
「へぇぇ〜それってどんな?」
有利王子は目をキラキラさせて、親友の魔法使いを見つめた。一体、どんな妙案が飛び出るんだろう?

「ふふ、まかせてちょんまげ!さぁ!コンデレラ!・・君は僕の罠に掛かって年貢を納めるがいいさ!!」

ふーーふっふっふっふっふふふふふ!!!


「おれ……一抹の不安を感じる。」
「き・・奇遇ですね…実はグリエもです。」

「「・・・・・。」」

「ちょっとそこ!なに顔をつき合わせているんだい!さっさと罠を張りに行くよ!」
「「お・・おーーー!!」」
慣れない旅のストレスなのだろうか?やけに村田の様子がハイテンションだ。
ここは、逆らわない方が懸命であろう。


こうして、コンデレラを求めて、一行はとある場所へと向かった






「って、なんじゃこりゃーーー!!??」

有利は、思わず叫んだのも無理はない。彼らが訪れたのは、なんと洋服屋さんだ。
なんと、村田はそこに有利だけをほっぽり込むと、一人どこかに行ってしまったのであった。

「キミは此処で、目一杯おめかししてね?」

だって、あの尻軽を呼び込む餌になるんだから〜♪

ニヤリ・・・と、上機嫌に笑った顔が怖かった。だから、仕方なしに言われたとおりに大人しく
服を仕立てるのにも、付き合いましたよ。だけどね?

「なんだ?このフリルは?つーか、これ?上半身はドレスじゃね?でもって、何でズボンが
こんなに短いの?太もも丸出しって何よこれ?つーか、フリルがやたらと多い!あぁもう!
いいかげんにしてよっ!グリエちゃん!!」

「え〜だって〜ぇ、ケンちゃんがぁ〜、隊長好みの悩殺スタイルを坊ちゃんにさせて欲しいって
言うからぁ〜vv」

にやにやと、心底楽しそうなヨザックに、有利は眩暈を覚えた。

こんな恰好、可愛い女の子ならまだしも、男である自分が着たって、笑い話にしかならない!

が、そう思っているのは、当然ながら本人のみだ。
たしかに、色々服を選んでは、着せているのはヨザックではあるが、いそいそと可愛い王子様に衣装を
調達しているのは、店の従業員一同である。ちなみに、全員女性だ。

「お客様、王子様にはこちらの飾り帽子などはいかがですか?」
「それより、片側だけ編みこんでゆって、襟足に白い清楚な花を飾るというのは?」
「いやん、ここはあえて黒猫耳よ!」


「もしもーし、オネーサン達、これ以上おれに何をさせる気?」

パワフルな店員に、有利は最早、言葉もなかった・・・・。




さて、見事化けたね?

青色吐息の有利に向かって、幼馴染兼魔法使いの村田大先生は、グッジョブ!と、グリエちゃんを
労っていた。

労うなら、着せ替え人形地獄を乗り切った自分をねぎらえ!

「あぁ、大丈夫。すぐに休ませてあげるから。ささ!レッツゴー!」
「いえ〜い!」

ぐったりした有利の心情を置き去りに、二人は使えるべき王子様の両脇をガッシ!と、捕まえると、
そのままずるずると次の目的地に引きずってゆく。

自分は、彼らの国の王子なのに、少しは自分の話を聞いて欲しい!!と、訴えてみても、
暖簾に腕押し・・・チッ!!

「この似た者婚約者がっ!!」

「いや〜ん、ぼっちゃんったら、グリエ達がお似合いだなんて、てれちゃうわ〜。」
「あははは、君と一緒にされるとは僕も落ちたな〜」
「てれちゃってv 健ちゃんったら、か〜わ〜い〜いv」
「コンデレラの前に、キミを始末しようか?」


そんな口を利く暇があったら、目の前の茨道をどうにかしなさい。

なお、この茨道とは、魔法使いと騎士の不毛な恋の道のことではない。目の前に広がる本当に茨で
覆われた道のことである。

「いや〜、見事にトゲトゲですね?」
「村田の口の悪さとどっちがトゲが多いかな?」
「そりゃ〜やっぱり、ケンちゃんの方が・・・・・・あっ・・・・。」

思わず、ポツリ・・・と、もらした、有利王子の本音に、これまたついうっかり相槌を打って
しまったヨザック。当然、隣にいた本人の耳に入ってしまい?

「ほぉぉ〜?僕の口がなんだって?」
「ひぃ!!!すぐに、茨を片付けさせえ頂くでアリマス!」

ヨザックは、剣をぬくと、慌てて茨を切り裂き始めた。


そして一時間後――。


ゼイゼイハァハァ・・・肩で思いっきり息をするヨザックの活躍のおかげで、三人は茨を抜けてお城の門
らしき前に来ていた。

「これ・・?お城?こんな茨の中になんで?」
「ここは、魔女の呪いがかけられた、お姫様が眠っている城さ。」
「「の・・・のろい〜!?」」

なんて物騒なっ!?


今から百年前、この城には一人の王女が生まれた。その誕生を祝い、王は国中から魔女を招待して、
宴をひらいたのだが、一人だけ年老いた魔女だけが、その宴に呼ばれずにいた。
その事に怒った年老いた魔女は、他の魔女が生まれたばかりの王女に祝福を与える中、15の時に
糸巻きに指を指されて死ぬという呪いをかけたのであった。
嘆き悲しむ王と王妃。しかし、そこにまだ祝福を送っていない魔女が一人だけいた。彼女は、
死の呪いを解くことは出来ないが、その呪いを眠りの魔法に変えて、王女はこの城で呪いを解く王子を
待って眠り続けているという。

「ってことは?まさかおれに呪いを解けと?」
王子という単語に、びくりと有利の肩が跳ねた。目の前には、未だ茨にしっかりと巻きつかれた城がある。
まさか、今しがたのヨザックのように、有利に この茨道を切り開いて進めと?

「あっはっは、キミにそんな力技の王子役ができるわけないじゃないか?もっとピッタリな役を
用意してあげるよ。」

何気にひどいことをサラッと言って、村田は魔法の杖を振りかざすと、ギギギギィィーと錆び付いた音と
共に城門が開いた。

その様子に、ヨザックと有利の眼が点になる。

なぜって?

城門は、しっかりと茨に巻きつかれていた。それが開いたのは?もちろん村田様の魔法。

そう、村田は、魔法で茨をどけてしまったのだ。

「村田・・・お前、茨の魔法を解けるなら、何で此処まで来た道の茨をそれでどけなかったんだ?」
尤もな意見の有利王子に、親友兼魔法使いは、こうのたまった。


お仕置きだよ?っと。


それはそれは楽しそうに、まるで梅雨の開けた青空のようなまぶしさで笑いながら――。
例のトゲトゲ発言の代価は、かなり高くついたらしい。

茨と格闘すること一時間、全身トゲに刺されつつも、活路を切り開いたヨザックが、空を仰いで――

・・・・がくっと項垂れた。


合掌・・・・・。





中に入ると、思った以上に中は小奇麗であった。眠りの魔法は、この空間も姫が眠りにつくと同時に、
時間を止める作用があるらしい。だが、中には使用人たちはいない。姫が眠りにつくと、王達は城を
出たらしい。その後、世継ぎを失った王家は、臣下を養子に迎えて、今は別の血統がこの国を治めて
いるという。

「へぇ〜そうなんだ〜。」
「この茨は盗掘除けだね?王様は、眠っている姫が起きた時の為に、財宝を城の中にしこたま溜め
込んだというし、それ目当てでよからぬ輩が忍び込まないようにという。」
「そんなすごい魔法を消すなんて、ケンさんはすごいですね〜。」

「あぁ、それ?」

だってぼく、茨の魔法をかけた魔女も解けない、呪いの魔法をかけた魔女 の血筋だもんv

「・・・・・今サラッと恐ろしいことを。」
「王子、ここは全力でスルーしましょう!」


いや〜、ご先祖様もだめだよね〜、そ〜んな宴に一人呼ばれなかったからって、死の呪いをかけるなんて。

「あれ・そ・・そうだよなっ!チョット宴に忘れられたからって・・・」

やっぱり、二度と忘れることの出来ないように、念入りにお仕置 しなくちゃダメだよねっ♪

「アレ??なんか、明るく言っているけど・・・」ガクガク
「坊ちゃん、グリエ帰っちゃダメかしら?う・・うふふ」ブルブル

自分のお抱え魔法使いの血筋に、戦慄を覚えた有利王子であったトサ。
というか、グリエ、この人と結婚予定なんですけど?

「グリエちゃん、まさに命がけの恋だね。」
「・・・・・・・。」

感心しきりに王子様に言われて、グリエは心中複雑であった。





さて、此処が目的地だ。

と、村田が一つの扉を開けた。そこは、あざやかな宝石に彩られた部屋の中。

「へ〜、この部屋自体が宝箱か?すごいね〜。」
「親の愛情だな。目覚めた王女が、苦労しないで生活できるようにという。」
「・・・・へ〜、すごいっすね?でも、こんな部屋だと落ち着いてイロイロできませんよね?健ちゃん!」
「一回死んで来い。」
「ううううううっ」
「容赦ねーな、村田様は・・・。」


そして、中央には天蓋のベットの中に、美しい姫君が一人眠っておられた。

「さて、有利王子、キミ姫君の横に寝て?」
「へ??」
「いっただろう?キミには、特別な役を用意してあるってv」
「それって?」
「もちろん、眠り姫ならぬ、眠り黒猫王子だ。」
「って、何で黒猫ぉぉ??」


「それが、モエというものさ!」
ちんとんしゃ〜ん!と、相変わらず緊張感のない呪文を唱えてみれば、アラ不思議?有利王子の頭には、
黒い三角耳とお尻には、長くてすらりとした黒い尻尾が生えてしまいました。

「うにゃあ!、これはにゃに?・・・・って、うにゃぁ??」

「いいねいいね、語尾がニャっていうのは男の萌えロマンだよ!」
グッジョブ!と、王子に向かって、親指を立ててみせる魔法使い。完全に遊んでいる・・・。

「まぁあぁ、坊ちゃん。目的のためです。少しは我慢してくださいね。」
「目的?」
「何忘れているんです?コンラッドを捕まえて、結婚するんでしょう?」


そうだった!あまりにショッキングな村田の毒にやられて、忘れていたが、おれの目的はコンラッドの
捕獲ア〜〜ンドお嫁さんにしてもらうことだったぁ!!

「忘れないでくださいよおうじ。」
「この、脳筋族め。」

というわけで、有利は村田の言うままにお姫様の横に転がった。

「いいかい?キミにお姫様にかけられた魔法を移すから、キミはキミの王子様の夢でもみていなよ。」
「えぇっ!ちょっとまってよ、おれに呪いを移すってこと?ってことは、おれが今度は百年眠るの?」
「あははは、大丈夫だよ。ちゃーんと、王子は呼び寄せてあげるから〜。」
「王子?」
「もちろん、コンデレラさ」

どっきーーん!

次に目が覚める時は、キミだけの王子様が優しく目覚めのキスで起こしてくれるはずさ。

「おれの王子様vv」
ぽんわ〜となった有利に、村田様はサクサクと魔法をかけてゆく。イロイロ騒がれると面倒だし〜。

そうして、姫の身体から黒い何かが抜け、それが有利に吸収されてゆく。

すると、それまでぽんわ〜と潤んだ瞳を空中に向けていた有利の瞼が落ちて、深くも幸せな眠りへと
ついた。

そして、有利が眠ると同時に起きたのは、本当の眠り姫。

「ここは?」
「あ、おはようございます〜。」
「あら??あたくしの王子様はどこ?」

自分は王子に起こされるものだと思っていた眠り姫は、起きたらいたのが魔法使いの少年で、
やや驚いたようだ。

「実はですね?姫君が眠られて100年の月日が流れ、時代が変わったんですよ?」
「まぁ、100年も?では、さぞかし周りは変わったのですね?」

少し淋しげに伏せられた眼差しは、知っているものが全て失われたことへの嘆きなのか?

「はい、ところで姫君?姫君は、どのようにして起こされるか知っておられたのですか?」
「?・・・いいえ。ただ、眠りの魔法を解いてくださるのは、運命の王子様だとしか聞いてございません。」
「運命ね〜?」
なるほど、深層の姫君には、そう言った方が受け入れやすいだろう?

「初対面の女性の寝込みを襲う男を、どうおもいます?」
「ぇぇえっ!イ・・イヤですわ。そんな卑劣なっ!」

いきなり、この魔法使いは何を言うのかしら?と、眠り姫は可愛い眉間に皺を寄せた。
同じく、村田の後ろに控えていたヨザックも、一体彼が何を言い出すのかと不思議そうに見ていた。
もっとも、こちらは、自分の想い人が、訳もなくこういった言い回しをしないのをしないのを
知っているので、これから何が起こるか?興味深々でもあったが。


「その卑劣な男を、姫のお婿さんにしようとしていたわけですよ。」
「え・・・?」

村田は、今までのお茶らけた仮面を脱ぎ捨てて、真剣な眼差しで姫をみつめた。

「解呪の方法は、口接けです。もちろん、誰でも良いわけではないので、城の周りには魔法の茨で
覆い、それを破って此処まで辿りつけなければなりません。チョットアレにやらせたのですが。」
といって、王子側に控えていたため、眠り姫からは後ろに立っていたヨザックをさす。姫君は、
まだ男がいたのと、付随して自分の横に眠っている少年を見つけて、ただ目を丸くした!

色々ありすぎて、脳が飽和状態なのだろう?

「城門まで馬車馬のように働かせて、一時間ほどかかりました。場内に入るまでは、面倒なので僕の
魔法でといちゃいましたが・・・。」

馬車馬・・・面倒・・・言葉のトゲで、ヨザックはチョット泣きそうになった。

「これお突破できるのは、筋肉だるまな男ですね〜。姫君は筋肉だらけのマッチョはお好きですか?」
筋肉だるま・・・一瞬、脳内で再生されたのであろう?ブルブルッっと身を震わすと、ブンブンっ!と
首を横に振るった。

「でしょうでしょう?その筋肉に、寝室に忍び込まれて、唇を奪われて目覚めさせられるのは・・・。」

ひぃっと、小さく悲鳴が上がった!考えただけでもおぞましいのだろう?

「しかも、呪いを解いたのだから、姫を妻として一生このお城で暮らすとなると?」
「いやぁぁ!!!」
既に涙目の姫君が、涙目で首を振っていた。

「そうでしょう?ですから、私共が僭越ながら呪いを解かせていただきました。なにせ、100年経つと
魔法も進化しましてね?茨の魔法の解呪と眠りの魔法の移動をさせていただきました。」
「あ・・ありがとうございます。・・・え?待って移動って?」
姫君は、自分の横で眠っている少年に目を向ける。

「そうです、彼に移動させました。あぁ、大丈夫です。彼は承知していますから。」
「え?そんなっ!」
「彼にもいるんです。彼だけの運命の王子様が・・・。」

「運命の王子?・・・・それは、羨ましいですね・・・。」

ずっと、眠っている間中、自分の王子に付いて考えていた。ふわふわな世界・・意識のまどろみの中で、
呪いを解いてくれる彼女の王子様を・・・。

だが、自分には現れなかった。100年も眠っていたのに。

暗く沈む姫君の目に、安らかに眠る少年がうつる。羨ましい・・・ねためしい・・・。

その危険な光に気がついて、ヨザックがそろりと剣の柄に手を移動させる。

「姫君、彼は自分で運命を見つけ出し、手に入れるために行動したのです。いかがですか?姫も・・
自分の王子様を見つけて手に入れては?」

だが、そんなヨザックを目で制して、魔法使いは姫君に新たな提案をする。

「眠っているだけでは、あと100年経っても見つけられるか?それより行動を起こしましょう!
いったでしょう?時代は変わったと。」
「え?そ・・・それは!?」
「今の時代は、女も自分の人生を切り開いていくものなのですっっ!!」
「は・・ぁ?」
突然、握りこぶしを突き上げた魔法使いに、姫君は呆気にとられる。

「幸せになりたいかぁぁーー!!」
「おーーー!!」
大きな声を張り上げる村田に、相方のヨザックが元気に拳を振り上げて応える。
ちなみに、ヨザック・・・マジでそう思っています!

「さぁさ、姫君も一緒に」
にしゃりと、人好きのする顔でヨザックが親しげに声をかける。

「人生を切り開きたいかぁぁーー!!」
「おーーーー!!」
「おーー???」

「ステキな運命の相手が欲しいかぁぁーー!!」
「おーーーー!!」
「おーーーー!!」

「罰ゲームは怖くないかぁぁーーー!!」
「えーーーー!」
「おーーーー!」
「えぇ?!!」

案外勇ましいな?このお姫様?グリエちょぴりビビッたわ。

「よろしい。でしたら、これを。」
といって、村田は厚さ1メートルはあろう薄い冊子のつみあがった山をみせた。いったい、
どこから出したのだろう?ちなみに、山は全部で三つ・・・。

これは?と、いって、姫君が冊子の一つをめくると、そこには若い男性の絵姿と、経歴が・・・。

「現在いる、王国の未婚男性(王子)です。お好みの男性を選んでください。あとはこちらで、
出会いの場をセッティングしましょう?後は姫君・・・。」

貴方が運命を切り開くのです!

「!!!・・・っ!・・・はい!」

姫君は、綺麗に笑った。

こうして、100年の眠りから覚めた姫君は、己の手で運命の相手を勝ち取る一歩を踏み出したのであった。




さぁ、これで、こちらの用意は整った。あとは、コンデレラ・・・キミをこの罠に引きずり込むだけだよ?

ふふふふふふ。早くおいでよ、コンデレラ。



不気味に笑う魔法使いの村田健。



が、その後ろでは?


「ねーねー、グリエさん。この王子様なんて、どうかしら?」
「いいですね、第二王子で養子に出してくれそうですし、気立ては良いですよ。あ、こっちの
王子なんてどうですか?」

「・・・・・・・・・。」

「うーん、目の色がちょっと。こっちはどう思う?」
「あ〜この王子はダメですよ。女にだらしないですし〜。やっぱり男は誠実さですよぉ〜?」
「グリエさんってば、くわしいのね。」
「はい、情報には長けていますから!ど〜〜んと、このグリエにお任せください!」
「たよりにしているわ〜」

「・・・・・・・・・・。」

きゃっきゃっきゃ!と、ガールズトークで盛り上がる。眠り姫とグリエちゃん。


「・・・・・・ねぇねぇ、僕が雰囲気出している後ろで、ノーテンキな会話しないでくれる?」

「何言っているんですか!私の人生が掛かっているんですよ?健もこちらにきて、手伝ってくださいね?」
「そーですよ、健さん。隊長が来るまで時間がありますから、姫様の王子様候補を選びましょう!」

ずるずると、何時の間にかお茶の用意がされているテーブルに連れて行かれ、村田はこちらの冊子の
チェックお願いしますね?と、渡された山を見てうんざりした。

なんで、僕がこんなことを?

「ちゃんと、見てくださいね。あ、姫の好みは、正統派な王子です。」
「・・・・・・・・・・。」



は・・・早く来てくれぇぇ!コンデレラァァーーー!!





2009年 8月8日UP
コンデレラです、茨姫?眠り姫?とにかく、女は切り替えが早いですね〜。さて、コンラッド
出ませんでしたね?次回は、主役が登場します。