コンデレラ3 お菓子の家




【前編】

コンデレラ改めコンラートを追って、有利王子が単身お城を飛び出してから一ヶ月がたった。
ときおり、城から寄せられた情報によると、コンラートは大きな街道沿いに出没(←熊か?)しているらしい。

なぜ?足取りがつかめるのかといえば?それは例の優勝賞金を振り込んだ口座から、彼が旅行代金を
換金するからである。コンラートの隠し口座は、グローバルに全世界展開をしているグロギンにあり
グロギンは、大きな街道沿いの主要な町になら必ずあるのだ。

つまり、コンラートの路銀が尽きる頃、グロギンの前で、待ち伏せすれば、きっと会えるはずだ!!
脳味噌筋肉族、略して、脳筋族の有利王子にしては、中々眼の付け所が良い。

そう確信した有利王子は、なんとしても次の町でコンラートを捕まえたい!
そこで、有利は町の前方に広がる大きな森を突っ切ることにした。街道は、ここで森を避けるように
出来ていて、うまくすれば中央突破で、コンラッドよりも町に早く付けると思ったのだ。

「あぁ〜〜ううヴ〜〜。」
「何だモルギフ?」

突然、彼の腰から不気味な声がした。彼の愛犬ならぬ、愛剣・魔剣モルギフが唸ったのだ。
モルギフは代々王家に伝わる秘宝で、巨大な力を秘めた剣なのである。本来は、王である勝利が持つものなのだが、

「不細工。」

当時、氷の5歳児といわれていた頭脳明晰な王太子は、モルギフを見るなり顔が趣味ではないと理由で、ばっさりと
切り捨てた。その痛手で、宝物庫に篭ってしまった魔剣は、そのまま人々に忘れられて埃をかぶるだけとなっていた。

そして月日は流れ、現れたのが有利だ。たまたま、かくれんぼをしていた有利は、宝物庫で鼾をかいて
寝ているモルギフを発見して、面白がって鼻ちょうちんを割ってみた。

そして起きたモルギフは、目の前にいる愛らしくも可憐な幼児に心を奪われ、その場で忠誠を誓ったのであった。
こうして、魔剣モルギフは、有利のものとなった・・半ば強制的に・・。

なので、今回の旅も無理やりくっついてきたモルギフであった。

そのモルギフ、顔は困ったチャンの入った不気味顔であるが、魔剣としての能力は中々有能で、森を突っ切ろうと
する主人をすぐにいさめた。森を避けて街道が伸びているということは、ここにはきっと危ない動物か何かがいるに
違いないとおもったからだ。が、その能力も、主人が組みとらなければ意味がない。

「なんだ、モルギフはこわいのか?仕方ないな〜、でも、大丈夫さ。走って抜ければあっという間さ!」

ロードワークに丁度良いじゃん!さぁ、いっくぞーー!!

「あぁぁあ〜〜〜うううぅぅ〜〜〜」(訳・だめです。ここは危険ですってば!)
所詮は、脳筋族・・・魔剣の正しい意思は汲み取ってはもらえなかった。

えっほ!えっほ!と、おサルの籠屋のような掛け声と共に、有利王子は薄暗い森へと突入した。







「あぁ、ゆーちゃん!俺のゆーちゃんが帰ってこない!」
有利王子が旅に出てから一ヶ月、勝利陛下は毎日がこの調子で、もはや誰もつっこんでくれない。

「まだ一ヶ月じゃないですか、大丈夫ですよ。有利王子は、きっと花婿を連れて戻ってきますって。」
のほほ〜〜んと、唯一勝利陛下のお相手をしてくれるのは、入れ替わりに城に上がったグリエ・ヨザックだ。
まだ王の騎士として城に上がってから月日がたっていないので、お相手をする余裕があるのだ。

「ぬおぉぉ〜〜ゆるさ〜〜ん!俺のプリティーゆーちゃんを、どこの馬の骨ともわからん奴に
くれてやるなんて、できるかーー!!」

「陛下、くれてやるも何も、王子が!コンラッドを!探しているんですよ?この場合は貰ってもらうんでしょう?」
「ぬぁぁぁにぃぃ〜〜?」

鬼の形相で振る向いた勝利陛下であるが、生憎、このグリエにとっては、そんな殺気は屁でもない。
彼の幼馴染のコンラッドの殺気に比べれば、毛を逆立てた子猫程度である。

「まぁ、どーーしても、有利王子とコンラッドの仲を『裂きたい』と言うなら手はあります。」

「なに?」
そんなことがあるのか?と、勝利陛下は目を輝かせた!グリエは人差し指をたてると、にやりと賢い獣のような
笑みを浮かべて、勝利に進言をした。

「簡単です。コンラッドは『めんどくさがり』なんです。あの継母達に毎日いじめられても家から出なかったのは、
拳闘の鬼といわれた実母ジュリア様の修行に比べたら、対して苦にもならなかったと言う事もありますが、
第一は、逆らうのも家を出るのも面倒だったから・・の一言です。」

「・・・・・・・。」
そんなに、徹底しためんどくさがりなのか?勝利は、弟の想い人に、一抹の不安を抱いた。

「ですから、勝利陛下が今のように文句を並べ立てれば、コンラッドのことです、王に逆らうのが面倒になって
別の人に乗り換えるでしょう。なにせ、アイツ、モテますから、素直で可愛い、でもって、『余計なおまけ』のいない
縁談くらい、いくらでも見つかりますよ〜〜。その上、こんな因縁のある土地なんて二度と戻ってこないでしょうし、
王様としては、そのほうがいいんでしょう?」

じゃあ、俺は失礼します。っと、グリエは言いたいことだけ言って、王の部屋から退室した。


「ヨザ・・キミ、ケッコウ意地悪だね?」
廊下では、彼の婚約者である 王家お抱えの魔法使い村田健が、事の顛末を全て聞いていたようで そう声をかけてきた。

「だって、俺って、これでも幼馴染思いなもんで・・。」
そう、なんだかんだと人使いも荒く怖いお人ではあるが、あれでいいところも一杯あるのだ。
一番の美点は、弱っている者には、やさしいということだ。普段は人使いが荒いくせに、病気でもするとお見舞いを
もって現れたりする。ついでに、病人食を作ってくれたり、溜まった洗濯物に掃除などしてくれるのだ。
特に、ヨザックは両親が早くに他界したので、病気になると途端に生命維持活動が難しくなってしまうのだ。
すると、どこからともなく、あの幼馴染は現れて、良くなるまで看病をしてくれるのだ。そう、あの継母たちに
こき使われていた時でさえだ。彼等の目を盗んで、ヨザックの所に駆けつけてくれた。

「へぇ〜〜意外・・・。」
「あれの母親のジュリア様が、誰にも公平で優しい人でね。アイツもそういったところはしっかり受け継いで
いるんです。人使いの荒さも、鬼のような強さも受け継いじゃっていますが・・・。」

彼の性格の殆どは、母親からの環境遺伝らしい。

「だから、どこの馬の骨って扱いに怒ったんだ。」
「ははは、健ちゃんには、かないませんね。」

そう、あれは進言なんて物ではない。ブラコン勝利が態度を改めないと、それが原因でコンラートが有利から
逃げ出してしまう可能性を叩きつけてやったのであった。

この場合、当然2度とコンラートを捕まえることは出来なくなり、有利の受けるダメージは相当なものだろう。
それでもいいというならば、やってみるがいい・・その代わり、有利王子がどうなっても、それは勝利の責任で
あるという事を明確にしたのだ。

事実上、そのブラコンを治さないと、弟が不幸になるぞ・・と、王に対して脅した様なものであった。

「キミって悪党。」
「いいんです、王子と幼馴染が幸せになるなら、悪党くらいなってやりますよ。」
それでも、お釣が来るくらいに、彼等のおかげで自分は今、幸せの中にいるのだから。

なにせ、こーんな可愛い魔法使いさんと、婚約者になれたんだから!もう!隊長様々よーーん!!

心の中で、グリエになりつつ、ヨザックは必死に顔がにやけないように取り繕った。


「でも、有利王子は、今どこでしょうか?」
「そうだね〜、魔法の鏡に聞いてみるか?」
「え?そんな便利アイテムがあるんですか?」
「うん、形はどんぶりだけどね。」


村田が持ってきたのは、本当にどんぶりだった。これに水を注いで、未来を見たり、求めるものを見たりするのだ。
「鏡よ鏡よ鏡さーーーん、有利王子は今どこにいるのか、おしえてちょーーんまげ!」
「なんっすか?その呪文・・・・。」

ヨザックが微妙にツッコミを入れる中、どんぶり全体が、輝き始めて水面に有利の姿が映し出された。

「なんか周りは薄暗いような所ですね?森の中ですかね〜?それに元気なさそう、お腹をを押さえて・・これは?」
「お腹が減っているみたいだね・・だめだよ有利王子・快眠快食はキミのライフワークだろうに・・。」

水面から、今にも、ぐ〜〜きゅるるる〜〜と、有利の腹の虫の音が聞こえてきそうだ。

「あれ?どうしたんでしょう?イキナリ王子が止まりましたね?」
画像の中の有利王子は、しきりに前方を凝視して、目をこすっている、何か不信なものでもあるか?

「どうしたんだ?画像を、もう少し広範囲設定にしよう。ぽちっとな?」
一体どんぶりのどこを押したのか?有利だけを映していた画像が、その周辺をも映す。

やはり、薄暗い森の中に有利はいるようだ。そして、その前方には?

「うわぁっ!ありえませーーん、なんでこんな場所にこんな物が?すッげーあやしいですね?」
「本当に、こんな物こんな所に建ててどうするんだろう?って・・おい!?」

二人がいかにも怪しいといっていた物に、有利王子は嬉しそうに近づいて、ドアを触ったり中を見たりして
とうとう食いついてしまっていた!

王子ーー!何でそんな怪しい、 お菓子の家 なんかを食べちゃうんですよぉぉーー!!




「うあぁ〜〜すっげーー!」

有利王子は、瞳をキラキラさせて、森の中に突然現れたお菓子の家に飛びついた。

屋根のかわらが板チョコで、まわりのかべがカステラで、まどのガラスが氷ざとうで、入り口の戸はクッキーと、
どこもかしこもお菓子で出来た家に、有利は興味津々だ。

「ちょっとだけなら、食べてもいいかな?」

ためしに、壁のカステラを一つまみ食べてみると、疲れた体に甘さが浸透して行くようだ。

「お!中々いけるじゃん!」
バクバクと、壁を食べ、窓枠のチョコ屋根を食べ、クッキーの戸を食べ進んでいると、欠けた戸の隙間から
あんぐりと口をあけて自分を見ているお婆さんと、目が合った。

「こんらっ!いい年しているくせに、なに人様の家を食べているんだぁ!」
「ぎゃぁぁ!ごめんなさーーい!お腹ぺこぺこで・・つい。」
「おや?おめぇ、中々可愛い器量しているな?ふむふむ・・ちょっと年が食っているがいいか?」
お婆さんは、なにやら一人で納得すると、有利王子を手招いた。

「まぁ、そんなにお腹が減っているんじゃ、仕方ない、ほらこっちにおいで、喉も渇いただろう?」
「え、本当ですか?らっきー!」
「うぅヴヴー!」
喜んで付いて行こうとする主人を、必死に魔剣が止める。

『こら、モルギフ、静かにしなさい』
有利は、モルギフの顔を手で押さえて、うめき声を止める。
『〜〜〜〜!!○×☆』(訳・だから、怪しすぎます!入ってはだめですって!)

「うん?何かうめき声が?」
「気のせい気のせい!何も聞こえませんよ?」
有利は手早くモルギフの顔を、スカーフでぐるぐるまきにしてしまった。

そして、やはりというか?

「わ〜〜ん、ここからだせーー!!」

あっさりぽんっと、悪い魔法使いに捕まって、牢屋に入れられてしまったのでした。






その様子を魔法の鏡で見ていたヨザックと村田は、急いでその事を勝利陛下に伝えた。

「なに!?ゆーちゃんの一大事!」
「こうなれば、軍を投入して!」
「落ち着けブラコン。周辺国と戦争にする気かい?」
行き成り軍の投入となれば、周辺国が侵略してきたと騒動になりかねない。

「あのー健ちゃん、あの魔法の鏡で、コンラッドの居場所は、特定できますか?」
そこに、はいっと挙手して、ヨザックが村田に質問をする。
「うーん、何か彼と縁の強いもの・・例えば長く持ていたものとかあれば出来るんだけれど。」
「それって、俺じゃだめですか?なにせ、幼馴染ですから。」

「「・・・・・・・・・・・・・あぁ!」」
「なんですか?その間は?」

「腐れ縁って、確かに強い縁かもな?」(BY 勝利陛下)

ぐさ!!

「切っても切れないからね〜。」(BY 村田)

ぐさぐさっ!!

打ちのめされるヨザックを尻目に、納得納得と、二人は、ポンっと、手を打った。
確かに、あの周辺に必ずコンラートがいるはずだ。彼に助け出してもらうのが一番いいのだ。

「じゃぁ、さっさとやろう。うん?何泣いているのさ?ほら、ヨザック早く。」
「ううう、グリエこのくらいでは、めげないわー。」


さて、ヨザックに魔境を持ってもらい、村田が魔法の鏡にコンラートの居場所を尋ねると、なんと彼がいたのは
王城らしき場所。

「ここは・・あぁそうだ、あれは、スヴェレラの王だ。」
と、いうことは、コンラートは、有利がつかまっている森のある国の王様に、謁見しているというのか?
一体何故??そこで、三人は、音声をあげて、会話を聞き取ることにした。





「そなた、本当に黒い森の魔女を倒しに行ってくれるのか?」
「今まで何人もの腕自慢の騎士達が出向いては、誰一人帰ってこなかった恐ろしい魔女なのだぞ?」

そう、この国の端にある黒い森には、悪い魔女が住み着いていて、お菓子の家に釣られて寄ってくる若い女や
子供をとって食うという。その黒い森の近くに、一年前、王女が乳母の病気見舞いに行った際に、森に迷いこみ、
どうやら魔女につかまってしまったらしいのだ。

それからというもの、まずは王城付きの騎士団が王女奪還に行ったが、待てど暮らせど帰らず、それから腕自慢の
旅の剣士や、騎士や傭兵などが森に行ったのだが、だれ一人戻ってはこなかった。

「きっと、皆、魔女に殺されたに違いありません。もしかしたら、我が王女もすでに・・。」
しくしくと泣き出した王妃を、王が慰める。

「お気を確かにお持ちください。王妃様が王女様の無事を信じてなくてどうなさいます。王女様のことは、
俺にお任せください、必ずや王女様を連れて帰りましょう。」

にっこりと、顔を上げて極上のスマイル0円を送れば、泣いていた王妃がポット顔を赤らめた。
流石は色男。なんとも、便利な顔だ。

「ごほん、無事魔女を倒して、王女を取り返してくれたなら、そなたの望みの品を差し上げよう。なんなら
城の一つも差し上げようか?」
「いいえ、王様、俺は修行中の身、そのような身分不相応なものはいりません。ここに書かれている
『懸賞金のみ』で、十分です!それより、無事王女を救出できることを祈っていてくださいませんか?」

「おお!なんと、奥ゆかしい!旅の剣士よ。もしも必要なものがあれば、何でもそこの兵士に言うがよい。」





どうやら、その国の王女もつかまっていて、懸賞金に釣られたコンラッドが、その救出を請け負ったらしい。

「へぇ〜、コンデレラ・・中々慎ましい所があるではないか。」
勝利陛下は、必要以上に褒美を吹っかけないその姿勢に感心した。

いや、ちがう。と、幼馴染と、彼と直接会ったことのある魔法使いは、二人、目を見合わせた。
城なんて貰ってしまっては、維持管理が『面倒』だったにちがいない。それに、侍女や執事や諸々雇う代金を
考えた場合、貰っても困るのはコンラートである。その点、現金ならいつでも好きに使えるし、何より余計な
しがらみがない。

迂闊に住み着いた場合、魔女をも倒した腕を見込まれて、次々色々頼まれるのも厄介だ。
せっかく家を出て、自由になったのだ。もっと外の世界を色々見て、楽しみたいと思っているに違いない。

もっとも、せっかく、勝利陛下が良い方に勘違いしてくれたのだ。わざわざ、そんな事を言う必要もないが。

「でも、王子が捕まった場所に、コンラッドが助けに行くなんて、なんか二人の間には赤い糸でも
あるんでしょうかね?」

「ぬぬぬ。おれのゆーちゃんがぁぁー!」
ヨザックが、二人の間の不思議な縁に感心すると、再びブラコン陛下が唸り始めた。
「駄目だこりゃ・・。」

もはや、弟馬鹿につける薬なし・・・。二人は、そうそうに自分達の王様を放っといて(←いいのか?)、
鏡が映し出す映像を、注意深く見守るのであった。






コンラートは、兵士に頼んで、質の良い女物のドレスを用意させると、それに身を包んで森へと出かけた。
丁度、ドレスの広がりが剣を隠すのに最適だし、何より狙われるのは若い女と子供なのだ。

コンラートの変装は、つい最近までドレス姿であったこともあって、堂に入っているというか、着痩せするのか?
キチンと女性に見える。それも、美女だ。見送った王様など、その化けっぷりに、鼻の下を伸ばして見送ったほどだ。
隣の王妃の目がきつかったので、後で一悶着あるかもしれない。


森に分け入って行くと、なにやら甘い匂いがした。その匂いを追ってゆくと、なんとそこには不自然な
小さな家があった。何が不自然かって、小さいといっても、家である。それが丸ごとお菓子で出来ているのだ。

「・・・これを食べるなんて、よほど腹をすかしているのか?」

まぁ、子供なら引っかかるかもしれない。(すいません、おれもひっかかりました。BY 有利)コンラートは、
いかにも迷い込みましたという感じで、ふらふらとお菓子の家に近づいた。そして、一応、家を観察してみる。

「全部カロリーが高すぎる・・全部食べたら、何カロリーだろう?ダイエットしている女性には敵だな・・この家。」

いや、ダイエットしているような若い女性はこんな所にいないだろう?もしいたとしても、森で迷って
数日間絶食が続けば、+−=0ってことで、バクバク食べること違いない。
そして、お決まりの台詞はこうだ。『ダイエットは明日から』・・・そういう生き物である。

とりあえず、イキナリこの家を食べるのは、健康にもよくなさそうなので、コンラートは道を訪ねる事にした。

コンコン!っと、クッキーのドアを叩いて、ドアをあけると、簡単に開いた。

「すみません、森で迷ってしまった者です。道を少々お尋ねしたいのですが?」
そう言って、コンラートは中へと入ってゆく。良かった中は普通の家だ。床はキチンと木で出来ていて安心した。
流石に食べ物の上を、土足で歩くというのは気が引ける。この世の中、まだまだ飢えている人が多いというのに。


「誰だね?」
すると、奥から一人の老婆がでてきた。なるほど?これが噂の魔女か?

「勝手に入ってきてしまって、申し訳ありません。俺はコンデレラといいます。道に迷って難儀しています。
どうか外に出る道を教えてくださいませんか?」

うるるん!っと、コンデレラが懇願すると、老婆は『それは、お可哀相に』と、少し休んでいくようにと勧めた。
スイマセンと恐縮しながらも、コンデレラは勧められるままに家に入る。

しずしずと、いかにも良家の令嬢のように(←つい最近まで本当に良家の令嬢だった人)、コンデレラが振舞うと
老婆の目が品定めをするように、上から下まで眺める。

「あの、なにか?」
コンデレラは、不思議そうに小首をかしげた。

「いいや、気にしないでおくれ。そうだ、温かい飲み物でも持ってこさせよう。」
魔女が奥に声をかけると、一人の少女が進み出た。

あれ?っと、コンデレラは、その少女を良く見た。健康そうな日に焼けた肌に、強いウェーブが掛かった赤毛、
大きな目は愛らしく、意志の強そうな眉とあいまって、中々凛々しい少女だ。

「彼女は、お孫さんですか?」
「いいや、この子は身寄りのないのを引き取ったんだよ。なにせ、私も年だ。身の回りの世話をしてくれる者が
いると助かるんでね〜。」
「そうですか?こんにちは、お嬢さん。おれはコンデレラです。君は?」
「・・・・グレタ。」

ビンゴ!それはコンデレラが探していた王女の名前だ。しかしどうしたことだ?人食いの魔女と聞いていたが、
確かに、小ずるそうな顔をしているが、人を食うような・・まして、騎士団を壊滅させるようにもみえない。


「お婆さんの面倒を独りで見ているの?えらいね?」
頭を撫でると、少女が弾かれたように、顔をあげた。どうしたというのだろう?なぜか、コンデレラを驚いて見ていた。

「グレタ、早く客人に、飲み物を渡しておあげ。」
老婆が促すと、グレタは再び俯いて、コップをコンデレラに向けて差し出した。コンデレラがコップを
受け取ろうと手を伸ばすと、触れた途端に、グレタがコップを落としてしまった。

「あぁ、この愚図が。またコップをわって!」
「ごめんなさい!」
「まぁいい、早く変わりを持ってきな、お客人は疲れていなさる。」

「あの!良かったら、一晩ここにおいていただけませんか?今から外に向けて歩いても、森を抜ける前に夜に
なってしまいそうですし、そうすると物騒ですから・・。」
「あぁ、そうだねそうだね、いいともさ、泊まってお行き。」
「だめ!」
「え?」
思わずと言ったように、グレタが声をあげた。

「グレタ!余計なことを言うでないよ!いや、なんでもないよ。この子は人見知りが激しくってね。意地悪で
言ったわけではないんだ、ゆるしてやっておくれよ。」
それを、老婆がとりなす。一見、つじつまは合ってはいるが、それにしては、グレタの様子がおかしい。
さっきだって、わざとコップを落としたように見えた。もしかして?飲み物の中に薬か何かが入っているとか?

「えぇ、もちろんです。それと、泊めていただくお礼に、食事を俺に作らせてもらえませんか?」
「ほぉ、できるのかい?」
「えぇ、しつけに厳しい母でしたので。」
コンデレラは、台所に行くと、手際よく夕食作りをはじめる。さもあらん、最近まで煩い継母と継姉に食事から
何から一人で支度させられていたのである。しかも、味付けだ盛り付けには口うるさい。自分では出来ないくせに。

おもわず、老婆もグレタも出来上がった夕食を見て、感嘆の声を上げたほどだ。よく、台所にある材料だけで
こんなに見事な食事が出来るものだ。

「さぁさ、召し上がってください。」
にこりと、微笑む美女。老婆はほくほくと、その料理を平らげた。

『昨日の器量の良い少年とあわせてつかまえれば、きっといい儲けになる・・ウヒヒヒヒ。』
老婆は、気分良く食後に出されたお茶を飲むと・・そのまま、ばたっと!テーブルに突っ伏した!

「!!??」
グレタが驚いて、老婆に駆け寄る。すると?ぐーーーすかぴーーー!と、気持ちよさそうな鼾が聞こえた。

「大丈夫だ。台所にあった薬で眠ってもらっただけだよ。まったく、自分で用意した薬で、自分が眠らされるとは
間抜けだな〜。どうせ、眠っていたすきに、迷い込んだ者を捕まえていたんだろう?」
「な・・なんでそれを!?」

グレタは、びっくりしてコンデレラを見た。

「さっき、わざとコップを割っただろう?それに様子もおかしかったし、もしかして飲み物に薬が入って
いたのかな?っておもったんだ。だとしたら、台所を調べれば判るかな〜?って、案の定、棚に薬を置いて
あるからね。それをさっきの飲み物に混ぜてみたんだよ。」

助けてくれて有難う。

コンデレラが頭を撫でると、グレタは嬉しそうに目を細めた。
「だって、グレタにえらいねって、頭撫でてくれたから・・・褒めてくれたのお母様の他に
初めてだったんだもん。・・うれしかったの

「ところで、グレタ?キミはグレタ姫だよね?」
コンデレラが、優しく問いかけると、グレタはこくんと頷いた。

「よかった。俺は王様達に頼まれて、君を助けに来たんだ。」
「王さまが?どうして?」
「どうしてって・・?だって、森に迷い込んで、魔女に捕まっていたんだろう?」
「・・・ちがうよ。グレタ、森に捨てられたんだよ・・この森はいらない子供を捨てる森だもの。」
「なんだって!?」

とんでもない告白に、さすがのコンデレラも、驚きを隠しきれないのであった。






2009年4月17日UP
コンデレラ・・お菓子の家編・・前後編になりました。あぅ・・。ダイエットは明日から!の発言者は私・・くぅ!






【後編】



「いっとくがな?あたしゃ、子供なんて食ったことはないからね!」
目が覚めて、自分がぐるぐる巻きに縛られて、床に転がされていることに気がついた魔女は、大層コンデレラに
向かって罵詈雑言を吐いていたが、最後にそういうと、後はむくれて口をつぐんだ。


どうやら、王様に聞いた話と、事実はかなり違うようだ。
まず、この森は、周りで食い詰めた大人たちが、子供を捨てに来る場所らしい。子供は大概森を彷徨った後、
のたれ死ぬか、肉食の捕食獣に食い殺されるかのどちらかである。

ここスヴェレラでは、数年前、大水の被害で作物に大打撃ができ、その上、悪い疫病がはやり、食い詰めた
農民達が かなりの数出たらしいのだ。その被害から、未だに回復できていないのだ。

老婆は そこに目をつけて、お菓子の家で子供を引き寄せ、丸々太らせてから、人買いに売りつける商売をはじめた。
何せ元手はタダ。かかるのは、食事だけであるという。

「狼に引き裂かれて死ぬよりマシだろう。たらふく食わしてやるし、いわば慈善事業だよ。感謝してもらいたいね」

「何を言っている?迷い込んできたものも、売り飛ばしていたんだろう?」
「そりゃ、向うが悪いんだよ!人の家を食べ散らかして、修理費も払わないんだから!無銭飲食の分を、
自分の体で払ってもらうだけだよ。だいたい、その分働き終わったら、ちゃんと多少の給料はもれるんだから
ただの人材派遣の斡旋をしえいるだけだわい!」

たしかに、家を食べられて逃げられては困るだろう?

「・・・食べる奴がいるのか?」
だが、コンデレラはそっちが気になったらしい。こんな体に悪そうなのをか??

「さっきから、アンタ失礼だね!いっとくが、これはあたしの手作りなんだよ!菓子作りは得意なんだ!
その上から腐らないように、保存の魔法をかけているだけなんだからね。」
けっこう、マメな魔女であった。・・・意外だ・・。


また、グレタであるが、このスヴェレラの王女ではなく、隣の国のゾラシアの王女であった。ゾラシアはつい
最近まで内戦を繰り返し、それに乗じて周辺諸国がゾラシア獲得に動こうとしていた。
ゾラシアの王子妃は、スヴェレラ王の妹イズラ王女で、せめて生国からの侵攻は止めたいと、娘を人質に差し
出したのであった。

だが、スヴェレラにしてみれば、ゾラシアどころではないのだ。先にも言ったとおり、大水と疫病で他国の
内戦にまで口を出している余裕などなかった。ゾラシアでは、王家は殆ど崩壊し、生息不明の状態。こうなれば、
グレタのことも、利用価値もない娘としか扱われず、とうとうこの森に捨てられてしまったのだ。

そして、グレタもお菓子の匂いに釣られて、ここにやってきた。

「ところで、どうしてグレタは売らなかったんだい?」

「・・・イズラ様の娘だからだよ。王女はとても優しいお方だった。あたしゃ今では、こんな家業だが、昔は
王都で法術使いとして生計をたてていたんだ。王家に呼ばれて御用を承ったこともある。だが、一度だけ子供が
熱を出していてね、御用を受けれないことがあったんだよ・・その時、お怒りになった王を諌めて、とりなして
くれたのが、イズラ姫さね・・。その上、薬代までくれて。本当に優しい姫様だった。兄王とは比べ物に
ならないくらいにね〜。」

王様の評判は、あまりよろしくないようだ。さて、そうなると?

「それにしても、解せないな?だったらなんで、今更グレタ姫を助け出すように俺に依頼なんて?」

「あははは、アンタ何も知らないんだね?ゾラシアの内戦が終わって、壊滅したと思っていた王家が
勝ったんだよ。だから、スヴェレラは焦ったんだろうね?預かっていた王女を始末しちまったんだから。」

成る程?その上、死んだとばかり思っていた王女が生きていると判り、あわてて救出しようとしたと・・。
もっとも、救出した後、王女は改めて病死するかもしれないが?

だとしたら、王女をこのまま連れて帰るのも危険だな?

と、いうか?俺の懸賞金は出るのかな〜?



コンデレラは、スラリと剣を抜くと、魔女に向かって構えた。

「ふん、あたしを切るのかい?おお、良いともさ!切りたきゃ、切るが良いさ!」

すっと、切っ先が老婆向けて振り下ろされ、ぎゅっと!!老婆が目を瞑ると?
ハラリ・・と、縄が解けて落ちた。だが、剣の切っ先は、魔女の喉元に突きつけられたままだ。

「命は助けてやる、ただし、取引だ。」
にぃーーっと、黒く微笑むコンデレラに、本能的な恐れを感じた魔女は、一も二もなく頷いた!






旅の剣士が、魔女を打ち破り、王女を助け出してきたぞーー!

その知らせは、瞬く間に広がり、剣士が城に着くと、剣士の武勇をたたえようと、皆が集まった。

「どれどれ?剣士様は、どんな方なんだい?」
野次馬達が集まって、魔女を滅ぼしたという剣士を一目見ようと集まるも?ざわざわと、皆が驚く。
それはそうであろう、確か爽やか好青年であったはずの剣士が、ドレスに身を包んだ美女となって戻ってきたのだ。
彼が変装して出て行ったのは、見送った王様達と一部の城の者が見ただけだったので、知らなかったものは、実は
旅の騎士って、女だったのか!?と、皆驚いた。

それほどまでに、完璧に美女に見えるコンデレラの化けっぷり。真実を知らない男達を恋の虜にしながら
彼はその腕に幼い王女を抱いて帰ってきた。それは確かに、一年前に行方がわからなくなっていたグレタ姫だ。

「おおう、グレタ!良くぞ無事に帰った。」
「礼を言いますぞ、旅の剣士よ。よく姫を助け出してくれました!」

涙ぐんで、姫に駆け寄ろうとした王様と王妃ではあるが、グレタ姫はコンデレラの後ろに隠れてしまう。
それに、王の顔色が変わる。一瞬目が鋭く光ったのを、コンデレラは見逃さなかった。

「実は王様、グレタ様は、よほど怖い思いをしたのでしょう?森に入る前の記憶を無くされています。
その上、声まで出なくなってしまいました。無事、連れ帰るとお約束いたしましたのに・・申し訳ございません。」

それを聞いて、王達は驚いたが、彼等にしてみれば好都合である。グレタの記憶がないということは、自分達が
彼女にしてきた仕打ちが外部に漏れることもないという事。その上話せないのであれば、それは永遠に語られる
ことはない。

「そ・・そうか、いや、そなたが気にすることではない。全ては魔女がしでかしたこと。」

すると、コンデレラは、じっと王様を見つめうるるん!!っと、瞳を潤ませた。

どっきゅーーーーーん!!!♥ ♥

「そんな、お言葉を下さるなんて、お優しいのですね?」

王様は、男だとわかっているのに、美女に見つめられてドギマギと胸を高鳴らせた!よくよく見れば、不思議な色の
瞳に、キラキラと星がちって、何とも美しい。それに、憂いをふくめた眼差しの色っぽさは何なのだ!
思わず、王様は、コンデレラに近づくと、その手をとった。

「いや、危険を顧みず、王女を助けに行ってくれたソナタの勇気・・そして、こうして王女を連れて
帰ってくれただけでも、十分じゃ・・。ソナタには、感謝する。」

「王様・・ァ・・。」

吐息に乗せて、切なく呼ばれると、王の背すじにぞくぞくっとしたものが走った。

が、次の瞬間!それを上回るゾウゾク感が、王の背すじを震え上がらした!!

恐る恐るふりむけば・・、コメカミに明確な怒りの青筋を立てた王妃の顔がっ!!

ひぃぃぃ〜〜〜!!!

あわてて王様は、ごほんごほんと咳をしてごまかすと、王座に戻った。

「・・ところで、魔女めは、いかがしたか?」
王妃が隣の王を睨みつけながらも、気に掛かっていたことを聞きただした。

「はい、王の前に引き連れて、その首打ち捨ててやろうと思いましたが、何分相手は魔女。火を放ち応戦して
きましたので、生け捕りはかなわず、その場でどうにか切って捨てました。最後は、自分が放った炎で、あの
忌まわしいお菓子で出来た家と共に、燃えて果てました。」

どうやら何も残らなかったらしい、それは上々だ。


王達は、王女を助けてくれたお礼にと、晩餐会を催してくれるというのを、コンデレラは 丁寧に辞退した。
グレタ王女を無事に助け出せなかったことが申し訳ないと・・憂いに満ちた瞳で切々と訴えられると、
王達もそれ以上引き止めることは出来なかった。

旅の剣士は、そのまま城を辞し、再び旅の空へと戻っていった。






その夜、城のある一室の窓枠に、白いハンカチが はためいていた。夜の闇の中でも、しっかりと浮き出てみえる。
それを城の中庭から確認しているのは、二人の人物だ。一人は、あの魔法使いの老婆であった。

実は、彼女、コンデレラに命を助ける変わりに、とある命令を受けている。


「お前、法術士としてお城に上がっていたそうだな?ならば、城の構造もわかるだろう?」
コンデレラの面白がるような、それでいて相手に有無を言わせない態度に、魔女の目がいぶかしげに彼の思惑を探る。

「何をさせようって、いうんだい?」
「王女の誘拐さ。俺が王女を城に連れ帰ったその夜に、王女を連れ出しゾラシアの国境まで連れてきて欲しい。」
「なんだってぇ!?」
「その後は、こちらで手はずを整えておこう。もちろん、できるよな?」

そういって、喉元の剣で、ちくちく刺してきたあのコンデレラ!見た目は綺麗だが、いかんとも怖い人だ。
その時のことを思い出して、魔女はブルブルと震えだした。

とにかく、逆らったらだめだ。一応、自分のことを死んだ事にして逃がしてくれた恩もある。
ここは言う事を聞いておこう。それに、手段はどうであれ、グレタを助けようとしてくれていることは確かだ。

「ほれ、あすこだ!いいかい、人の家を食った分!ちゃーんと働くんだぞ。」
ぽかりと、杖で叩かれたのは、黒髪に大きな目が可愛い少女だ。
「いってーー!わかっているって、あそこに忍び込めば良いんデスネー。」
それは、魔女の家を食べてしまった代金が払えずに、牢に閉じ込められていた有利王子であった。
王子なのに無銭飲食・・・これは、ちょっと恥ずかしい。代金が払えないので、危うく売り飛ばされる所
だったのだが、その前に旅の剣士が魔女となにやら取引をしたらしい。そこで、代金分その仕事を手伝う
ことで、売り飛ばされずにすんだのだが・・・こんな恥ずかしい女装をする羽目になるとは?とほほーん!

有利王子は、メイドに変装をすると、そっと王城へと忍び込んだ。手には、お盆と食べ物だ。
「おい、お前、どこに行く?」
夜回りの兵士に呼び止められると、有利は手にしたものをさし、王女の元にお夜食を差し入れに行くと答えた。
すると、大概あっさりと通してくれた。
「な・・なんかあっさり過ぎる。誰も、おれが男だって気がつきやしねーでやんの・・・ちょっとフクザツー。」
有利は、こんなメイドの恰好なんて野球小僧がしても似合わないから、すぐにばれやしないかと冷や冷やしていたのに、
いざ潜入してみれば、誰も不審の不の字にもみてくれない・・いや、潜入しているんですから?バレちゃ困るわけよ?

でもさ、もうちょっとさー、違和感とか感じてくれないのかな?

ブツブツと、有利王子は、ハンカチがはためいていた部屋の前に着いた。警備兵に、差し入れだといえば、
やはりあっさりと通してくれる。

「あれ、おい、お前?見かけない顔だな?」

ぎっくーーん!!とうとう、ばれたか?

「えぇ〜〜っと、先週入ったばかりですから。」
有利は、ちょっと声を高めに作って愛想笑いでごまかして通り抜けようとした。しかし、警備兵は有利の肩を掴んだ。
どうする?渋谷有利原宿不利!って、原宿はイラネーー!じゃなくって!男ってばれた?ここは、殴ってにげるとか?

「なぁ、アンタ可愛いな?今度デートしないか?」
「へ?」
「うん、腰も細くて、いいねー。」
だが、警備兵は、有利の腰に手を回すと、ニヤニヤしながら体をまさぐってきた。

「ちょっとやめてください!」
「やめてって、その表情がまた良いね〜。」

ぎゃぁぁーーへんたーーい!!!

有利が蒼白になっているうちに、男の無遠慮な手は、有利の腰から下がってゆき、その細い足へと
のばされて・・・

ぎゃっ!!

警備兵は突然、短い声をあげて昏倒した。

「ア〜〜ヴヴヴゥ〜〜〜!!」
不気味な声を上げて、威嚇するのは?有利がスカートの中に隠していた魔剣である。

「そうか、モルギフって、自分が選んだ相手以外が触ると、ビリビリくるんだった。」
それで、この不埒者は、痺れて昏倒してしまったわけね?

「良くやったぞモルギフ!さぁ、王女の救出だ!」
「あぁヴヴ〜〜」(←主人に褒められて嬉しいv)
有利は、部屋の扉をあけると、すばやく体を滑り込ませた。

「グレタ?助けに来たよ。」
「ユーリ?」
ベットから返事聞こえ、布団をどけてグレタが起き上がった。

「ユーリ!きてくれたんだね。」
「当たり前だろう?グレタには、魔女に捕まっていた時に、色々良くして貰ったからな!さぁ、用意はいいか?」
「うん、いいよー。」

みれば、グレタ王女は、寝巻きではなく、小間使いの少年の恰好をして、かばんを持って待機していた。
きっと、旅の剣士に渡された衣装なのだろう?有利は、会った事は無いが、その用意周到な様子によほど頭が
切れる人なんだろうと思った。

頭がよくって、顔がよくって、剣も強くってなんて、デキスギーー!もてない暦=年齢君のおれには敵だよなっ!

ちょっと、ぶうたれた有利は、ブツブツと見たこともない旅の剣士に、文句を言いつつも、手早く、枕に布団をかぶせ、
いかにもベットで王女が寝ているように見せかけ、グレタを伴いまた来た道を戻ってゆく。

中庭まで出ると、魔女のおばあさんが待っていた。二人は茂みの中にいる魔女の所まで来ると、魔女は
杖を赤く光らせたと思った次の瞬間!!

3人の姿は、城から消えていた。




次に三人が現れたのは、隣国との国境である。その国境には、闇夜に紛れて馬に乗った騎士達が待ち構えていた。

「王女?グレタ姫か?」
その先頭に立っている騎馬から、初老の男性の声がして、グレタはその声を聞いて、弾かれた様に駆け出す。
「じいや!爺耶なのね!」
「おぉ〜〜グレタ様、あの旅の剣士の言うことは真であったか!?」

じつは、コンデレラこと、コンラートは、スヴェレラを出国してすぐに進路を変えて、ゾラシア王宮へと向かった。
そして、グレタに書かせた手紙を、彼に渡して国境に迎えに行くようにと、指示したのであった。

「あの、旅の騎士が、姫様からの手紙を持ってきた時は半信半疑であったが、いや、信じてよかった。
こうして再びグレタ様にお会いできる日が来るなんて。」


グレタ姫が、無事に故国の騎士と合流できたことを喜ぶと、老婆はヤレヤレと肩をすくめた。

「さて、これであたしの仕事も終わったね、それじゃぁ、姫様に有利、あたしゃここらでお暇するよ。」
「え?おばあさんどこに行くの?」
「そりゃ教えてやるわけには行かないさ、うっかり後から捕まえにこられちゃ、怖いからね〜。」
「え〜〜グレタそんなことしないよ。お婆さん、けっきょくはグレタのこと、かくまってくれたもん!」
「いやいや、姫様のことじゃないさ、あのコンデレラさ。あんな綺麗で怖いお人には二度かかかわりたくないねぇ〜。」

-- はへ?
「こ・・コンデレラだってぇぇ!?」
感動の再会を、もらい泣きしつつも静観していた有利王子であったが、魔女から出た名前に驚いて涙も引っ込んだ!

「どうしたんだい有利?」
「まさか、まさか、コンラッドが旅の剣士?って、ことは?ムチャクチャ近くにいたのに、捕まえそこなったって事ぉ!?」
そういえば、元を正せば、この町に現れるだろうコンラッドを待ち伏せするつもりだったんじゃないか!?

なんてこったーーー!!!


あまりの自分の間抜けぶりに、有利は思わず頭を抱えて、叫んでしまったのであった。

いきなり、頭を抱え込んだ有利に、魔女もグレタも騎士たちも驚くが、有利はそれどころではない!!
「おばあさん!!コンデレラ!コンラッドはどこに行くって言っていなかった!?」
がしっと、魔女の首根っこをつかまえると、ブンブンと揺さぶって問いただした。

「こ・・こらおやめ!・・目が目が回る!!」
埒があかないと思ったのか?今度は有利は初老の騎士にターゲットを変えた。頭をゆすられてはかなわんと、
騎士は聞かれてもいないうちから、何も聞いていないと答えた。

「そうか・・しらないのか?」

しゅーーーーんっと、うなだれる有利は、なぜか雨に打たれる捨て犬を思い起こさせる。

「ゆ・・有利、なんだい?アンタ、あのコンデレラの知り合いかい?」
「知り合いって言うか・・・おれは彼を探して旅をしているんだ。」

探して旅を?それは・・・・。

「えっと・・その・・じつは、お・・お嫁さんにしてもらおうかな〜〜って?思って、探しているんだけど。」

よめ??って、嫁??

男の子なのに??

「すっごおーーーい!有利、コンデレラとけっこんするの?いいな、あんなにかっこよくて、鬼のように強くって、
王様さえもメロメロにしちゃう人と、けっこんできるなんて〜。」

王様もメロメロ??

「うん、コンデレラがね〜、お目々をウルルンってしたら、王様メロメロで、王妃様が怖かったよ〜。」

いったい、何をしたんだコンデレラ!?


なお、何をしたかったかは、この一ヵ月後に判る。スヴェレラ王と王妃が別居したのだ。
原因は、王の浮気だという。なんでも、男に現を抜かして、色々贈り物をしているのを、王妃の耳に入れた者が
いたのだ。よりによって若い男が相手!?王妃が調べてみれば、彼に愛を語る恥ずかしい手紙の下書きや、
気を引く為のプレゼントを届けてくれるように、友人に頼む手紙などが、見つかってしまった。

「王様!これは何ですか!?なにが、『僕は夜になる度に、それを見上げて星を見るたびに、貴方の美しい瞳を
おもいだします』ですか!」
「うわ!王妃!そそれは・・人の手紙を読み上げるなんて、悪趣味であるぞ!」
「まぁ、逆切れですの?浮気をしていて、よくもそのようなことをいえるものですね!!」

王にしてみれば、まだ相手を口説いている最中で、なにをしたわけではなかったのだから、浮気ではないと
主張したが、だったら本気なのかと、王妃を余計に怒らせれしまった。体だけの浮気より、心の浮気の方が
重いのよーーー!!と、王妃は言ったと言う。

女ならば対抗もしようが、相手が男としって、王妃の怒りは呆れに変わり三行半は王妃から下したそうだ。
王妃の実家は、スヴェレラでは力のある貴族で、王の立場は大変悪くなったという。隣国やいなくなった王女
どころではない。自分のしりについた火の粉を払うだけでも大変なスヴェレラ王であった。


まぁ、それは置いておいて!


「おばあさん!魔女なんだよね?だったらお願い、コンラッドがどこいるか、さがしてぇぇ〜〜!」
「じょうだんじゃない!あんな、おっそろしいお人とは、もうかかわりあいたくないよ!」
「どこが?とっても優しい人じゃん!だから、そこをなんとか!」
「こら、はなしとくれ!!」

ぎゃぁぎゃぁ、騒ぎ始めた有利たちに、そういえばと、何か思い出したように初老の騎士が声をかける。

「このあたりに、魔物退治とか、そういった仕事は無いか聞かれましたので、城の者が幾つか教えたそうです。」
「それって??」

「ふむ、コンデレラは、今回のことで味を占めて、魔物退治などをするつもりじゃないかね?山賊退治などより、
身入りがいいし、報奨金をかけているのも国だから、とりっぱぐれも無いしね〜。」
「ってことは?そういう話を追っていけば、コンラッドに会えるんだね!」

有利は、この話に一筋の光明を見た気がした。

「そうゆうこった。せいぜいがんばりな。じゃぁ、あたしゃこれで!!」
あ・・と思ったときには、魔女は消え去ってしまった。

「あぁ〜〜、・・にげたか!」


「じゃあ、ユーリ、グレタも行くね?」
「あぁ、グレタも元気でな、そうだ、おれがコンラッドを捕まえたら、結婚式には呼ぶから。」

あぁ、そうだ、何かあったら、この二つ先の国でおれの兄貴が王様しているから、おれの事を言って
力になってもらうんだよ。そういうと、有利は、自分の徽章の入ったメダルをグレタに渡した。

「有利・・王子様だったの?」
「といっても、第二王子だけどな?これから大変だろう?けれど、お母さんと仲良く暮らすんだぞ?」
「うん、ありがとう有利!ぜったいに、結婚式にはよんでね〜〜!」
「あぁ、必ずきてくれな!」

有利に手を振り、グレタも国へと戻っていった。
そして、有利はふたたび、コンデレラを探す旅に出たのであった。






さて、こちらは、魔法の鏡で一部始終を見ていた国許の、村田とヨザックである。

「・・・・・ねぇ?コンデレラと有利王子ってさ?」
「えぇ、縁があるんだか無いんだか良くわかりませんね〜?」

ただ判ることは、有利王子一人に任せていたら、いつまでたってもコンラートを捕まえることが出来そうも無い
ということだ。

「はぁぁ〜〜〜、仕方ない、僕らも行こう。」
「はい、そうですね。」




こうして国許から、村田とヨザックまでもが、コンラートを追う有利王子を追って旅に出たのであった。




2009年4月18日UP
はい、後編です。コンデレラー!何、オッサンをたらしているんだ〜。そして魔女もびびらして、
何させるんでしょうね?