長編パラレル ママシリーズ 狂想曲 第九幕 真打ち登場! |
そして、その夜。カヴァルケードの王城では、交流会という名の夜会が開かれていた。
これには、参加した選手全員(予選敗退者)に、彼らが連れてきた国元の者、競技会の運営に携わった 実行委員会・審査委員会のなど、身分を問う事無く全ての者が参加できた。 そして、この夜会でも注目なのが、優勝者と準優勝者である二人の美しき魔族である。 二人の周りには、次々と人が集まり、賛辞をおくっていた。 男性陣は、世界一の美女となった女性に、どうにか御近づきになりたいようだが、彼女の腕の中には しっかりと、二人の父親に言い含められた小さな番犬が納まっていた。 娘のグレタは、母親に甘えるように見せかけて、きらりとそのアーモンドのような目を光らせていた。 「いいか?グレタ。コンラッドは、自分に向けられる好意に、ニブイところがあるからな? グレタがしっかりとお母様のそばで、見張っているんだぞ!」 そう、大好きな父親に、グレタだけが頼りだからと頼まれたのだ! なにせ、ヴォルフラムは、眞魔国の代表として、外交のほうにも忙しい。ダンスを踊り、 貴族達の相手をし、眞魔国という看板を背負って立つのだ。そうそう、コンラートの側にはいられない。 では、大賢者は?といえば、彼もまた眞魔国の代表団の責任者として、また特別顧問として携わったもの として、各国から派遣されてきたやれ、大臣だなんだとの政治的駆け引きに忙しいのだ。 では、肝心要の魔王陛下はといえば?護衛が誰もいないという理由で・・部屋で待機である。 つまり、コンラートを守るのは?自身の剣技のほか、グレタのみである。 が・・有利のためになら冴え渡る剣技も、動物並みに働く勘も、自身に向けられる好意に関しては、 全く持って機能しないのが、コンラートという男なのだ。 頼むから自分の容姿を家族の中では地味だからといって、外で地味だと思わないで欲しい!! そう、訴える有利に、『優勝は、審査項目が自分に合っていたからだ。』なーんて、たまたまですよ〜等と いってのける彼に、心底頭を痛くしたのは、有利だけではなく、ヴォルフラムもである。 この兄が好意というものに疎いのは、自分達家族が彼を守らなかったせいでもあるので、ヴォルフラムと しては、とても申し訳なくなるのだが・・いかんせん、彼だってもう大人なのだ。女性関係も華々しい 経歴の持ち主であるし・・そろそろ、自覚しても良いのではないかと、恨めしく思ってしまう。 この優勝で少しくらいは自覚してほしいな〜とは、有利とヴォルフ・・二人の切実な願いであった。 が・・・これは、どうにもならないようだ。 もっとも・・下心というモノには敏感な彼。混血の王子で、他の王子と違って後ろ盾もない彼には、 そういう毒牙を伸ばそうとした輩がかなりの数いたという。それを撃退してきた獅子様は、そっち方面 の対処は慣れているので、その辺りは大丈夫だとは思う・・。一抹の不安はあるが・・・。 それにしても、後から後から湧いてくる害虫ども(←こんな所に、お父様Sの影響が・・)を、どう母親から 遠ざけようかと思っていると? 少し先に、自分達のほうを見つめている、学校の友人達を見つけた! そうだ! 「お母様!グレタの学校の皆だよ!応援してくれたんだから、お礼を言いに行こうよ!」 それには、コンラートも異議があるわけはなく、グレタに云われるまま、周りの男性に辞して、 少し離れた所にいた小さな淑女達の下へと近づいていった。 「こんばんは、皆さん、大会中は素晴しい応援してくれて、ありがとうございます。」 にっこりと、世界一の美女(w)に、鮮やかな笑顔で微笑まれて、少女達はぽわ〜んと コンラートを見つめた。 「まぁ、コンスタンツェお姉さま♥」 まぁ、女性になった分、フェロモンパワーが上がっているので、免疫の無い少女では、いたしかたの 無い反応だろう? 「おかげで、とても心強かったですよ。」 「そんな、お恥ずかしいですわ・・。」 たしかに、両家の子女とは思えない、白熱した応援の仕方だったが、コンラートとしては、 取り澄ましているような女性より、こうして人の為に一生懸命な女の子が娘の側にいてくれると いうのは、心強いものがある。 「「「あの、優勝おめでとうございます。」」」 おずおずと、少女達が声を合わせて、お祝いを言う。 「はい、ありがとうございます。」 それに、コンラートが淑女の礼で応える。なにせ、ツェツィーリエという稀代の女性を、母として 持っているのだ。コンラートの所作は、女性としてふるまっても、また逸品である。 少女達から、ほぅっ・・と、憧憬のため息が漏れた。 「姉上!グレタ!何処に行っていたと思ったら・・うん?この子達は?」 そこに、ヴォルフラムがやってきた。 「あぁ、グレタのお友達だよ。ほら、応援に来てくれた。」 「あぁ、そうか、グレタの?」 そういえば、ヴォルフラムは前にコンラート達が学校にお邪魔した時に、村田に必須アイテムだからと 委員会のほうに連れて行かれたのだった。 「いつも娘が世話になっている。僕は、グレタの父のフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムという。」 こちらは、きちんとした紳士の礼をとる。多少硬い物言いだが、間近に天使とも見紛う金髪美少年の 顔があるので、少女達は真っ赤になってあわてて、小さな淑女らしく礼を返した。 「姉上、先ほどから、アグラーヤ殿達が探しておいででしたよ?」 「アグラーヤ様たちが?だったらいかないとね?」 グレタは、どうする?お友達と、ここにいるかい? たしかに、心もとないようにしている友人達を放っておくのもなんだ?ベアトリスは、王女としての役目が あり、父親と共に忙しく挨拶に回っている。 「うん、グレタ、皆といるよ。ヴォルフお父様、お母様をよろしくね?」(←訳・虫除けよろしく) 「あぁ、まかせておけ、それよりグレタ、迎えに来るまで友達と一緒にいるんだぞ。」 「うん、大丈夫。」 にこやかに手を振る娘と別れて、コンラートはアグラーヤ達の元へと向かった。 「グレタ様、あの・・私達と残ってよかったのですか?」 「うん、だって、みんなお母様のために応援に来てくれたでしょう?それより、向こうに美味しい デザートが合ったよ。バルバラ様が作ったものだよ。早く行こう!」 「まぁ、それは楽しみですわね。」 この夜会には、料理審査で作られた姫君たちの料理も出されていた。といっても、使えるのは、 上位5人分の料理だけだが・・。 そうして、デザートのテーブル甘いケーキを食べていた時の事、一人の少女が見慣れた金糸のような ウェービーヘアーを見かけた。 「あれは、セロシア様じゃない?」 確かに、それは自分達の学校の才女であるセロシア嬢である。 「そういえば、何で表彰の舞台にいらっしゃらなかったのかしら?」 セロシアは、自国の大臣らしき者達に囲まれて、各国の要人と挨拶を交わしている風であった。 オッフェンバッハ大公国の公女ともなれば、こういった席では、色々やらねばならない役割があるのだ。 心なしか、いつものセロシアと違い、表情が硬い・・元気も無さそうだ。 「まぁ、アレだけ大見得を切って、蓋を開ければ6位ですからね?セロシア様もそうは 威張れはしないのでしょう?」 「そういえば、何でも一つ云う事を聞くと仰ってましたわ?グレタ様?いったいに何をさせたら 面白いと思いますか?」 「いままで、意地悪をされ続けたんですもの、思いっきりやり込めてしまえばいいんですよ。」 少女達は口々に、セロシアの悪口を言い立てた。彼女達も、グレタほどではないにしろ、セロシアには 散々苛められたのだ。 「皆やめなよ!人の悪口は、いっちゃだめだよ!」 グレタ様? 「同じ学校の人なんだから、そんな意地悪言わないの!」 「でも、私達、今まであの方には、悔しい思いをさせられてきましたわ!グレタ様が、一番意地悪 されてましたのに、なぜあの方の肩を持つのですか?」 「肩なんて持ってないよ。ただ・・グレタは、できれば皆で仲良くなりたいだけなの・・それは いけないこと?」 コクン?と小首を傾げる仕草は、母親からの環境遺伝・・・。ぐっと言葉が詰まる彼女達。 愛らしい王女の様子に、途端に彼女達も矛を収めた。 「…わかりました。グレタ様がそう仰るなら、もういいませんわ。」 「ありがとう、みんな!」 じゃぁ!グレタ!セロシア様となかよくなってくるねーーー! トテトテーーー!と、可愛い王女様は走り出した。こちらの行動力は、父親からの環境遺伝だ。 ・・・え??? 「まった、グレタ様!」 「それはあまりにも無謀・・って。」 少女達があっけに取られているうちに、グレタはセロシアを追っていってしまった! 「たいへんですわ・・そうだ!だれか、お姉さまか、ヴォルフラム様をお呼びになって! それと、出来ましたらベアとリス様にも!私達は、グレタ様を探します!」 少女達は二手に分かれて、緊急事態で会場を駆け抜ける事となった。 「グレタが?あのセロシアの元に!?」 その知らせを聞いて、ヴォルフラムは、驚愕につい大きな声を出してしまった。 「ヴォルフ!この子がおびえるだろ?」 コチン!と、姉は弟に軽い教育指導をすると、目線を少女に合わせて経緯を聞く。 「なるほど・・仲良くなりにか・・グレタらしいね・・まったく、これはユーリに似たんだね。」 「ユーリめ!娘に悪(?)影響を与えおって、部屋に帰ったら説教してやる!」 「ヴォルフ、どうどう。(←馬か?)それより、ヴォルフはグレタを追って。」 「姉上は?」 「俺が行くとややこしくなる。それより、彼女は元シマロン領・オッフェンバッハ大公国の 公女だ。そっち方面なら・・コンスタンツェより『彼』のほうが、効果があるんでね?」 なにやら悪戯を思いついたらしい姉に、ヴォルフラムは・・あぁ・・と、こちらも解ったようだ。 心得たとばかりに、ヴォルフラムは、グレタの元に向かったのであった。 その頃、グレタはというと、人波をかきわけ、とうとうセロシアを見つけた。 「セロシアさま!」 その声に振り向いたセロシアは、天敵ともいえる少女を目にしていや〜〜な表情をのぼらせた。 一瞬グッと詰まったグレタであったが、それでも果敢に側にゆく。 「これはこれは、眞魔国の王女殿下、何か御用ですの?」 一見、丁寧に見えるが、慇懃無礼な態度を隠そうともしない。 そこに、知らせを受けたベアトリスが、少女達に導きによって駆けつけた。 「グレタ!何をしているの?」 「あ、ベアトリス・・何って??」 何だか ただならぬ様子の、ベアトリスたちに、グレタはきょとんとした・・。 天然だ・・。 「まぁ、カヴァルケードの次期女王陛下まで?騒がしいですわね。」 「む・・セロシアっ・・・大公女殿下(←かろうじてつけた)こそ、グレタに何の用ですの?」 真の天敵同士がそろい、火花が軽く散る。 「用があるのはそちらの方でしょう?わたくしは、呼び止められただけですわ。」 ふん!と小馬鹿にしたように言われて、ベアトリスがグレタを見る。その目は、こんな女と何を 話そうと言う気なのか?と、僅かの非難が混じっていた。 「えっとぉ〜?・・あっ!競技会お疲れ様です!」 ぎゃぁぁぁあーーー!グレタ様!それは今ここでは禁句ですわーーー!! たしか、仲良くなりに行くと言っていたような?だが、この切り口では、逆に傷に塩を塗って いるようなものだ。現に・・ひくーーーーぅ!!っと、セロシアの口元がピクピクと引きつった。 場が場だけにどうにか堪えているものの、目が怒りに燃えている。 ベアトリスはといえば、面白そうに目をきらめかしている。 この天然さが、彼女の持ち味だ。それにしても・・・グレタといると飽きないわ〜♥ 「ほ・・ほほほほ・・ありがとうございます。優勝者の娘さんにそう言って頂けるななんて、 栄誉ですわ・・ほほほほほほぉぉぉ〜〜〜ぉ・・・。」 なんか?最後の笑い声がや〜〜けに、低いんですけど? グ・・グレタさま〜?やっぱり、おこってらっしゃいますわよ〜? だが、ベアトリスほど肝が据わっていない学友の少女達は、一歩二歩と後ずさった。 だって、怖いんですもの!!! 「準優勝者の娘でもあるぞ、グレタ?ここで何をしている?」 いきなり現われた正当派金髪美少年・・・なんだか、周りがキラキラに見える・・。 間近で見た美しい魔族の美少年に、セロシアの周りにいたお付の者達をはじめ、挨拶をしていた 他国の外交官たちまでが、彼の虜になったように、その美を見つめた。 キラキラと輝く金糸・・少しキツメの深い湖水を思わせるエメラルドアイ・・・セロシアは気がついた。 彼と自分は類似点が多いということに・・・。 それでいて、自分よりも数倍美しい『少年』。見た目年齢も近いせいもあって、セロシアは否応なく 周りの男達の視線が二人を比べていることを感じていた。 「あ、ヴォルフ〜、あのね〜、グレタ。セロシアさまに、お疲れ様って言いにきたの〜♪」 「おつかれさま・・?まぁ、色々動いていたようだな・・。」 ぎろっと・・美少年の瞳が冷たさを持って、彼女の睨む。 よくもよくも、うちの姉上にイロイロしてくれたなっ!! おかげで、姉上のおみ足を衆目にさらすことになったんだぞーー!!(←突っ込みどころはそこか!?) ヴォルフラムは、色々言ってやりたいことがあるが、それをぐっと飲み込み、今は伏線を張って おくことにした。もうすぐ真打がやってくるに違いないのだ。 「たしか、オッフェンバッハ大公国の大公女殿下であったな?」 ヴォルフラムは、炎上しそうな感情を押し殺して、なるだけ冷静な声を出す。 「えぇ・・それがなにか?」 対してセロシアは、何やら負けないわよっ!と、高圧的に答える。この少年は、自分を負かした あのいけ好かない女の弟だという。(←ても、本人にも負けている)それだけでも気に食わないのにっ! 何で、男の癖に、そんなにきれいなのよ!! そばで見れば、睫毛は扇型にきれいに生えそろい、其の白磁の肌は輝く金の産毛に覆われていて きめは細かい。く・・一体どんな美容法を持っているのかしら?きっと、魔族の秘薬とか? そ・・そうよ・・きっと!何か魔術をつかっているのよ・・ほほっほほほ。 「いや・・元シマロン国領・・オッフェンバッハといえば、我が兄と少しばかり縁のある地の方かと おもって。」 兄ですって?この男の兄が何だというの? 「兄上?はっ・・それはまさか!」 だが、その言葉に反応したのは、彼女の国の大臣のほうであった。驚きに目を見開く彼に、セロシアが 問いただそうとした時だった。 「あぁ、噂をすれば、兄上が来られたようだ。」 ざわ・・・・・ その時、人並みが割れるようにして、彼らが現われた。 それは、白と黒の二人の男性・・いや、一人はまだ少年といった年だろう。 一人は少年。それも、サラサラの黒い髪に象牙の肌、大きくクリリンっとした漆黒の瞳は、キラキラと 輝いていて、とても愛らしい少年だ。黒い礼服に、短めの赤いマントをなびかせて、真っ直ぐに 歩く姿は、迷いが無い。 もう一人は、長身の男性。ダークブラウンの短めの頭髪。鼻筋の通ったすっきりとした顔立ちは、 凛々しく。引き締まった肢体に白の礼服を着た姿は、精悍な大人の男をおもわせる。それでいて、 優しく微笑むその琥珀の瞳には甘さがあり、珍しい銀の虹彩が輝いていて、少年をエスコートするその姿は・・・ 「きゃぁ♥♥なんてカッコイイ、王子様なんでしょう?」 まさしく、愛と青春の旅立ち!誰もが夢見る王子様だ!! ふっふーーん、みんな、おれのコンラッドを見ているな!どうだ!カッコイイだろう?正当派の 王子様だもんなっ! でもな・・こいつはおれのものだからなーーー!!やんないぞーー!(`д´*)ノ 「あらあら・・渋谷クンッたら何時にもまして、鼻息が荒いじゃないか?まぁ、これだけの美女 がいる中に、自分の王子様を本来の姿で晒すんだから、とられないように気合も入るか・・。」 少し離れた位置からその様子を伺っていた大賢者は、何をし始めるのかと?興味津津で見守っていた。 「グレタ!」 「あ、お父様ー!」 呼ばれてグレタが走り出すと、飛びついた。 「どうしたの?今日はお部屋でお留守番じゃなかったの?」 「ひどいな〜、おれをずっとあそこに一人にさせる気か?護衛が戻ってきたから出ていいってさ。」 「何時までも、貴方を一人にしておくと、こっそり抜け出しかねないですからね?」 「あははは、ばれたか?」 魔王陛下専属護衛の姿に戻ったコンラートをみて、グレタは少しだけ寂しいと思った。でも、確かに 有利をあそこに閉じ込めて、自分達だけ楽しむのも悪い気がする。 それに・・ やはり、コンラートは、こうして有利の側にいる時が一番幸せそうだ。 にこにこと、楽しそうに魔王陛下と話す彼は、どんな時よりも輝いて見えた。 「魔王陛下、それに、コンラート閣下も?」 ベアトリスが驚いた。魔王陛下のみならず、先程コンスタンツェとして、交流会に参加していた コンラートまでがいる。それも、二人とも、滅多に着ない礼服だ。 魔王・・やはりあの麗しい双黒は、眞魔国の魔王陛下なのか!? そして、もう一人の青年を何と言った?コンラート閣下といえば!あのウェラー卿コンラート王子か!? ざわめく会場の空気に、主催のヒスクライフが優雅に近づいてきて、周りに向かって二人を紹介した。 「皆様、ご紹介いたします。眞魔国第27代魔王陛下シブヤユーリ陛下です。そしてもう一方は、陛下の 専属護衛でもあり、第一の側近といわれる、ウェラー卿コンラート閣下です。コンラート閣下は、あの ダンヒーリー・ウェラー様と先代の魔王陛下フォンシュピッツヴェーグ卿ツェツィーリエ様の間に生まれた 元王子殿下なのですよ。」 ダンヒーリー・ウェラー。それはシマロンで最後に名を残した正当なベラール王家の最後の一人・・ そのただ一人の王子といえば、ここに参加した大半の国にとっては、本来の主人にあたる王子である。 彼こそ、真実のベラール王なのだ! しかも、ウェラー卿コンラートといえば、一時 大シマロンに身を寄せていた時も、その人柄と有能さで 彼が王とたつ日を夢見た者も多かったと聞く。 だが、本人が魔王陛下への忠誠を誓い。魔族と人間との共存の世界へなることのみを願っていた為、 シマロン王となる事を聞き入れることはなかったのだが。それから、時折、人間の世界の夜会などで、 度々その話題が登ったが、当人が中々魔王の側を離れないために、その姿を見ることは少なかった。 その真の主とも言うべき王子が、今・・目の前にいた! 魔族と交流の少ない国の人々は、初めて見る稀代の名君として名高い双黒の魔王と、人間の国で最も 尊ばれる血を持つ精悍な王子・・二人を目の前にし、どちらにどう?反応していいやらで・・・ ただ、ざわざわとざわめくだけで精一杯だった。 「ふふ、皆さん、驚いていますよ?」 ヒスクライフは、面白そうに衆目を集める二人に笑いかけてきた。 「はははは、やっぱ、唐突過ぎたかな?」 「ユーリの美貌は、インパクトがありますからね?」 「いや・・多分アンタの素性じゃない?」 それはどっちもだろう?と、ヴォルフラムは思う・・それにしても、わかってはいたが、ウェラーの名は 絶大な効果だ。皆、憧憬の目で彼を見ている。失われし古代の三王家。その中で唯一血筋を残し、今なお 慕われる高貴な血筋。くやしいが、十貴族の名など国を一歩出てしまえば、意味はなさないのだな・・。 それにくらべて、ウェラーの名は、これから世界に出て行く上で、色々な効果を期待できそうだ。 これを、兄上はどうやって使っていくおつもりなのだろう? そして、コンラートは? 「ところで、グレタ?何をしていたんだ?」 有利が、自分の腰にしがみついている娘に聞く。 「うん?あのね?有利も言っていたでしょう?わかりあえるには、まず話し合いからだって! だから、グレタ、セロシア様とお話していたんだよ。」 「・・・へ・・へぇ〜。」 有利にとって、セロシアは娘をいじめ、最愛のコンラートに嫌がらせをした張本人である。あまり、 いい印象は無い。が・・・それでも尚且つ歩み寄ろうとする娘の姿勢には、賞賛すべきものだろう。 「ふふ、さすがはユーリの娘だ。そういうところは、そっくりですね^^」 その琥珀の瞳をほそめて、コンラートがグレタの頭をなでる。 でも、かわいい愛娘を傷つけたら、例え一国の公女とはいえ・・・ 絶対に・・二度と這い上がれないところに、突き落としてくれよう・・・くすくす♥ ゾクゾクッ!!! 「ヒッ!?な・・なに?今の悪寒は?」 セロシアは、突然襲った悪寒に、体を振るわせた。それが、まさか魔王の横で微笑むさわやか好青年の 王子様から発せられた殺気とも気がつかずに・・・。 あ・・またコンラートめ、指向性の殺気を飛ばしたな? さすがに、兄弟であるヴォルフラムは、いきなり鳥肌をたてて、青くなった少女の異変の訳に気がついた。 どうやら、未だに彼のママスイッチは微妙にON状態であるらしい・・。 「セロシア様、何をしておられるのです?コンラート王子といえば、我が大公国にとっては、 主家となるお方。早くご挨拶をしにいきましょう!」 そう、オッフェンバッハ大公国は、コンラートの血筋であるベラール王家に仕えていた、大公であった。 それが、主家が名を奪われ、国も新たにベラールを名乗った略奪者たち支配され、彼らに組して今まで きたのだが、大シマロンが事実上滅び、その混乱の時に、元もとの領土である土地と、隣の元王家の直轄地を 統合して、独立を果たしたのであった。そんな事情も含み、オッフェンバッハ大公は、自らの正当性のために 娘を、王家に一人残った王子に嫁がせることを考えていたのだ。 つまり・・・セロシアを、コンラートにだ。 ここで、コンラート王子に我が姫が見初められれば、ベラール王の血が大公家に流れるということ! よって、我がオッフェンバッハ大公国は、血筋の上でも正当性が認められ・・王国となることもできるのだ。 「セロシアさま?」 「え・・ちょっと背筋が・・いえ、何でもありませんわ。」 「では、急ぎましょう!!」 見れば、二人の周りには、すでに人が生垣のように囲っていた。各国の姫君が、我先にと二人の先にと 群がっていた。ここは、出遅れては、ならない! 外務大臣は、公女を急かすと、果敢に人垣を分けていった。 「お初にお目にかかります。コンラート殿下。私はオッフェンバッハ大公国外務大臣を勤めております。 アリエーネと申します。」 外務大臣は、恭しくもその白髪混じりの頭を、『コンラート』に向かって垂れた。 「オッフェンバッハ大公国は、海に面した美しい国ですよね。港も整備されていて、海上貿易で潤っていると 聞きます。活気のある国ですよ。」 そう、コンラートは傍らの少年に、説明する。そこで、大臣は自分が焦るあまりに失態をやらかしたことに 気がついた。コンラートは、眞魔国の臣下・・魔王陛下にまず挨拶を述べるべきであった! 「へ〜、俺の生まれた国も海に囲まれているんだ。魚はいいよな〜、大根おろしに塩焼きとか最高ー!」 そのコンラートに、ニコニコと答える魔王。 「は・・はい、魚料理は多種ございます。香辛料を使った蒸し物や揚げ物など、味わい深いものが ございます。また、わが国の料理は、木の実からの油・ナッツ類、野菜、果物をふんだんに使うのが 特徴でして、ぜひこれをご縁に陛下にも、味わっていただきたいものです。」 そう、縁をつなぐことが出来れば・・・。 「縁?あぁ、家の娘は、大公女からすれば学校の後輩に当たりますね?」 「は・・はい、陛下。こちらが、そのセロシア大公女殿下でございます。」 つつっと、セロシアが前に出てくると、ドレスの端を摘むと恭しくも頭をたれる。 「お初に御目文字致します。オッフェンバッハ大公が一子、セロシアと申します。名君と名高い眞魔国の 魔王陛下のご尊顔を拝することが出来まして、とても光栄でございます。」 そうしていると、やはり大国の公女だ。中々品がある。 「うちの娘が、お世話になっております。」(← 一応) 「いえ、お世話するようなことは何もありませんわ。本当に優秀な王女様で。ほほほ。」(←社交辞令) 内心・・セロシアの心は乱れていた。。先程のヴォルフラムに続き・・なんて・・なんて!! 男の癖に、この美貌は なによーーー!!! 黒・・人間にとって禁色であるその色をまとっているにも拘らず、美に目が肥えた彼女から見ても、 この魔王は美しい・・。 サラリっと揺れる髪・・・ウェラービーヘアのセロシアは、内心その髪の艶やかさに、うらやましいものを 感じた。それに、大きくこぼれそうな瞳・・すこしきつめな自分と違い可愛らしい目つきだ。 また、ふっくらとした頬。小さくまとまった鼻と口・・・それに、キメの整った象牙の肌は健康的で、 美しさ・・その一点なら先程のヴォルフラムのほうが美しいだろう? だが、魔王からは、ヤケにキラキラしたものを感じる。 内面から輝くそれは・・・? 「ところで、魔王陛下、わが国は元をただせば、シマロン王国の一部でして、そのシマロンを統治されていたのが そちらにおいでになるコンラート閣下のウェラー家です。いわば、われ等にとって主筋となる方でございます。」 「へぇ〜そうなの?」 「はい、ここで出会えたのも先祖からのご縁。ちょうど、ダンスも始まりましたし、いかがでしょうか? 我が姫はダンスの名手、記念にコンラート閣下と、一曲踊ることをお許し願いませんか?」 確かにセロシアのダンス腕は素晴らしい。ダンスに関しては、コンスタンツェに続く得点を取っていた。 有利は一瞬考え込んだ・・。ここは外交の場である。国内と違って断ることは難しいけれど・・。 「そうですね、確かに姫のダンスの腕前はすばらしいですね。陛下、スミマセンが一曲踊ってきても よろしいですか?」 にこっと、コンラートに先手を打たれて、有利も許可を与えるしかなかった。スタスタとコンラートは、 セロシアの前にくると、騎士の礼をとり公女をダンスにと誘った。 「まぁ!」 そのスマートな誘い方もさることながら、リードの仕方も素晴らしい。さすがは、自分の主家に当たる王子だ。 まるで、羽の生えたように踊れるのを、セロシアは軽い驚愕と共に体感した。 それに・・近くで見ると、なんて綺麗なの・・・。 王家のみが持つという、もはや世界に唯一つのその瞳。 琥珀に銀の虹彩が星のように散らばって・・・優しく自分を見つめている。当初、主家とはいえ魔族の血を引く 青年との縁談なんて冗談ではないと、思っていたのだが、こんなに素敵な方なら・・・。 同じ魔族でも、ヴォルフラムや有利の美しさは、女性のそれと同じ系統である。そのせいか?女性として反感を 覚えるのだが、彼の美しさは、男性が持つ美しさだ。 伸びた背筋、引き締まった精悍な体躯、セロシアをリードする手は大きく、それでいて軍人特有のがさつさはない。 あくまで優美だ。コンラートの持つ包容力安心でき、それに・・なんて心地よい声で話すのかしら? 見事な二人のダンスに、周りのものも踊るのをやめて、二人を見ている。 なんて、レベルの高い! 右にダブルターンを決めたかと思ったら、すぐさまリフトし、逆向きにターンを加えた!軸がぶれる事無く すぐさま次のステップを踏めるなんて、なんという二人だ!? 「さすがは、コンラートだ・・天下一舞踏会で優勝しただけはある。」 ぼそりと、ヴォルフラムがつぶやくのを聞いた大臣が驚く! 「天下一舞踏会!?あ・・あの権威ある大会で、コンラート様は、優勝なさったのですか!?」 まぁ・・あの天下一舞踏会で? さすがウェラー卿コンラート様・・・お姿ばかりか、教養も素晴らしい! ざわざわざわ・・・。 「まぁ、コンラート様は、あの天下一舞踏会で優勝なさったのですか!?」 さすがにそれは、セロシアも驚いた。天下一舞踏会といえば、一流の踊り手が全世界から集まり、その腕を競う 歴史と権威ある大会である。セロシアも、一度は参加してみたいと思っていた。 「えぇ、昔の話ですが。」 それならば、彼の腕前の素晴らしさも納得できるというものだ。 「私も腕を磨いたら、一度は出たいと思っていましたわ。あそこに参加して、踊りを極めてみたいと!」 おや?と、コンラートは思った。ダンスの話になると、セロシアの顔が生き生きとしてくる。 「きっと素晴らしい踊り手が参加するのでしょう?彼らの踊りをぜひ見て、教えを請いたいものですわ。」 この姫が教えを請いたいとは、そういえば、ヴォルフも絵に関しては素直に師事を受けていたっけ? そんなところは、やはり似ているな・・そんなことを 思ってたからだろうか? 「次の大会に、出てみてはいかがです? きっと 得がたい経験になると思いますよ。」 ふわりと微笑んでコンラートが、そう言えば・・・ ボっ!!! セロシアが・・あの、唯我独尊の彼女が、真っ赤になってコンラートを見つめている。 あーー!こここ・・コンラッド・・何してるんだーー!! 有利は やきもきして二人を見ていた!あのフェロモン王子め!なんで、そんな女まで落とすんだよ!! 内心 叫びだしたいのを ぐっとこらえるが・・つい手にしたクッキーが粉々に粉砕された。 「おとうさま、どうどう! グレタが父親を、落ち着かせようとする。 「それにしても、お二人とも素晴しい踊り手ですね〜。」 「う・・・。」 たしかに、自分と踊る時より数段上のダンスだ。優雅な上に、技術も凄いのだろう。 コンラートがいくらリードしているからとはいえ、セロシアは見事に踊りきっている。これが有利なら こうはいかないであろう。 「実は、我が大公殿下は、本来の主家である王子がいらっしゃるのに、独立した事を申し訳なく 思っているのです。本来ならば、コンラート王子を王としてお迎えするのが、大公である我が勤めで あったのに・・・と。」 徐に、大臣が切り出す。 「でも、それは、コンラッド自身が王になる気はないと、継承権を放棄したのだし!」 「えぇ、わかっております、魔族の血を引くご自身が、人間の国の王にはなれないとおっしゃって おられることは重々承知しています・・しかし、それでも、彼の王子こそ・・我等元シマロン王国の者に とっては待ち焦がれた王なのです。」 有利だってコンラートが実は自分より王様に向いているのではないかと思ったことが、幾度もある。 でも、コンラートは、有利の側で生きる事を、選んでくれた。 「陛下・・・大公は、もしよろしければ、国をコンラート様にお返しするとおしゃっています。」 「え??く・・くにをかえすって、ちょ・・」 いきなりの申し出に、流石に有利も声をなくす。 「陛下、どうか陛下からもお口添えくださいませんか?コンラート様に、我が姫セロシアさまとの ご結婚を!!」 「・・・・・・・・はい??」 ナンデストーー?? 「もちろん、コンラート様が、魔王陛下の忠臣である事は重々承知しております!ですから、王は、 世継ぎであり一子である姫を、コンラート様に嫁がせ、二人の間に出来たお子様に、国をお譲りなさる 決心を致されました!どうかどうか、シマロン王国に、我が正当な王をお返し下さい!」 「そ・・れは・・。」 「だっめぇぇーーーー!!」 その時、有利の腰の当たりから、激しい拒絶の叫びが上がった。 みれば、今までに無い険しい顔で、グレタが勝手な事を言う大人の前に立ちふさがっていた! 2月15日UP こにゃにゃちわー。どうも〜、王子様登場です。でも、まだスイッチが、入っていますね? ママシリーズのコンラッド様ちょいとおかしいですが、お気になさらず・・えぇ、そういう シリーズですから。でもって、これはグレタとコンラート母娘中心のシリーズです。いけ!グレタ姫!! |