長編パラレル   ママシリーズ 狂想曲
第7幕 最終決戦の攻防




まさしく怒涛の料理対決が終った。

特に、審査員には試練となったこの選目・・・人は呪わば穴二つというところか?

最後の料理がまともだったから良いようなもの・・もし、あの料理がなかったらと思うと、流石にゾッとする。

さて、ここからは、特技の披露だ。
これが案外盛り上がった。

新たなライバルと、コンラートに認識されたディアーヌ姫は、なんと!手にはたき・ほうき・雑巾を
持つと、あ・・・という間に料理対決でとっ散らかった舞台を手際よく片付けて行った!

彼女がはたきを振るうと、どういう原理だか?舞台に散らかったごみと化した物達が宙を舞い!
燃えるごみと燃えないごみに分かれて飛んでいった!?

しかも、燃えるごみは、生ごみは肥料にするの、燃えないごみも鉄くずなどリサイクルできるものと
陶器などリサイクルできないものにキチンと分別されているではないかぁーー!?

そして、邪魔物がなくなった舞台を、綺麗に雑巾がけをし、あっという間にぴかぴかに仕上げる
ディアーヌ姫!ピッカピカに磨かれた舞台を見て、司会のロビンソンも、手放しで賛辞を贈っている!

「:+゚*☆スッゴ―((,,>艸<,,))―イ♪☆*゚+:。 あのヒト、家につれて帰ったら、絶対お袋が喜ぶよっ!」
ユーリも、姫君とは思えない、その凄技に、興奮ぎみで拍手を送っていた!

コンラートは、只者ではない、その身のこなしに、ぐぐぐっ!っと、拳を握りしめた!

「むむっ、敵ながらできる!」

しかも、今、ユーリはなんと言っていた?家に連れて行くダト?それは・・・嫁として、美子さんに
紹介すると言う事かっ!?

「いや、ウェラー卿?渋谷は多分そこまで考えていないんじゃ?・・というか、よくこの距離で
聞こえるよね、君・・。」
司会のダイケンジャーが、ついその様子に気がついてツッコミを入れたが、コンラートは聞いては
いなかった!

最早コンラートの頭からは、セロシアの事など すっかりぽーん!っと抜けて、有利に可愛いお姫様と
思われ、好感触を得たうえに、嫁候補に入れられた(←入れていません)彼女に、メラメラと対抗心を
燃やし始めたのであった。

「ユーリは、俺が嫁にするんだ!!」(← 一応夫方面希望らしい)

舞台上では、次のセロシアが見事な刺繍作品をみせて、汚名を晴らし、名誉挽回を見せると、舞台袖へと
戻ってきたが、コンラートは全く見ていなかった。

その様子に、なにやら、セロシアが憤慨していたが、コンラートはそれどころではない!
新たに現われた好敵手(← 一方的な敵愾心)に、どうやって勝つか!?それが問題だ!!

「ちょっと、聞いていますの!?」
「聞いていない!」

セロシアが何やら絡んできたのを、知るかっ!とばかりに完結に答えると、後は全く相手をしなかった。

「キィーー!女官風情が大公国公女である わたくしに、そのような口の聞き方をして!後悔する事に
なりますわよ!覚えてらっしゃい!!」

が、後悔も何も、そもそもコンラートは、このこと事態、覚えているかも怪しい状態だ。

コンラートの特技といえば、剣聖と謳われたその剣技である。
剣舞を披露する事になってはいたが、果たしてそれだけで、ディアーヌ姫の高速掃除術に対抗するだけの
インパクトを与えられるだろうか?

うんうんと、唸るコンラートの様子に、まるっと無視をされた形のセロシアが怒りに燃える!

-- みてらっしゃい、あっと言わせて差し上げるわ!

セロシアは、取り巻きの少女達を呼び寄せると、何やら指示を出した。



特技披露は着々とすすんで行き、気付くとヴォルフラムの番になっていた。彼の特技といえば、当然
『絵』である。ベレー帽にスモックという絵描きさんルックに身を包んだ彼が出てくると、会場から
かわいいーぃ!コールが沸き起こる。

「えぇ!?もしかして、ヴォルフの奴、またクマハチ絵の具で摩訶不思議な絵を書く気か?」
貴賓席から、有利が心配しているが、どうやら今回はクマハチ絵の具は使わないようだ。
まぁ、アレは元々有利の肌の色を出すために調達したものである。今回、ヴォルフラムがモデルを
頼んだのは、カヴァルケードのベアトリス王女だ。有利はと肌の色が違うので、普通の絵の具を
使用している。

だからといって、安心は出来ない・・・なにせ、有利の姿をすべて信楽焼きの狸にしてしまう彼の腕前だ。
ベアトリスを一体何に変身させてしまうのか?有利はドギマギした。

「きゃ〜これがわたし?」
壇上では、絵が完成したらしい。どでかいキャンパスに懇親の力で描かれた王女の姿は、時間がないので
下絵も書かずに一気に筆で描いたとは思えないほど、彼女の特徴を捉え、愛らしく描いていた。

「うわ〜、そっくり〜。今度グレタも描いて貰おうっと♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」

なんで、おれをモデルにすると、狸になってベアトリスだと、そっくりにかけるの?

納得できない有利をのこして、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムの写実的なその絵は、
審査員達に高い評価を得た。




「あぁ、ヴォルフラムは、元々写実的な絵を描いていたのですが、近年画風を変えて抽象画に
取り組んでいるんですよ?」
後日、兄であるコンラートから聞かされた事実。
陛下のお姿は、ヴォルフの創作意欲をかきたてるとか言っていますから、よかったですね〜。
なんて、兄馬鹿なコンラートは言っていたが、有利としてはそんな意欲はいらない・・そういいたかった。



そしてとうとう、コンラートの番である。彼は着慣れたカーキ色の軍服に身を包みなおすと、深紅の
薔薇の花束を片手に出てきた。

「くぅー!イヤミなくらい似合うぅーー!!」
まったく!有利の王子様は、どうしてこうもカッコイイのだ?
「お母様、かっこいいーー!」
となりでは、グレタが喜んでいる。血の繋がりはないはずなのに・・貴賓席でハッスルする父娘を
舞台から村田がヤレヤレと見やった。本当に、よく似ている。コンラートがグレタを可愛がるのが
何となく解った。彼女も、有利に救われた一人だ。境遇がコンラートに似ているために、彼が彼女の
『母親』に選ばれたのだが、彼自身もグレタの事は前から気にしていた節がある
このグレタ、父親によく懐いているためか?年々物事に対する反応が、有利に似てきているのだ。

名付け子LOVEのコンラートが、グレタを気に入らないわけがなかった。
特に母娘となってからは、ソレが一気に加速した風に見える。グレタはグレタでコンラートの
母親ぶりに、すっかり心酔している。今ではすっかり、お母さんっ子だ。

さて、そんなハッスル父娘の声援を受け、舞台上の彼(彼女)は、中央まで進むと、コンラートは
一礼して、その花束をスッっと高々と投げた。

銀の一閃!!

コンラートの剣がいつ抜かれたの?それが解った者は、この会場に一握りしかいなかった。その他の皆は
閃光が走ったか!? そう思った次の瞬間、薔薇の花は美しい花弁へと変わっていた!

コンラートの体が旋回し、剣が振られるとその剣圧に巻き込まれるように花びらが舞う。

剣舞・・その美しい剣の構え、一見優美にも見える動きであるのに、その回りに流れる旋風から
かなりの力量が有る事がうかがい知れる。彼は、この剣舞用に いつもの剣ではなく、装飾の施された
優美な・・それでいて身の丈近い長剣を使っていた。これは剣を扱うものなら誰でも知っているが、この剣は
両手で扱い、また、振り回すことは出来ても、使いこなすことは難しい剣である。それを、剣舞とはいえ
片手で振り回す彼女の剣士としての力量・・・審査員席にいたヒスクライフなどは、改めて彼の剣士としての
素晴しさに、感服するのであった。

それにしても、美しい・・深紅が舞う中に佇む麗人。優しげなその容貌から、派手さは無いと
思われていたコンスタンツェであるが、こうして佇む姿は、一種の迫力がある。


シン・・・と、会場が静まり返る。真剣な表情で剣を繰り出すその姿には、武人だけが持つ、
厳しいまでの精練な美しさであった。


やがて剣舞が終ると、一斉に割れるばかりの拍手が巻き起こる!それに、にこりと微笑む姿には
先程までの厳しさは無い。

さぁ、これで終りかと、おもいきや?突然、舞台の両袖からわらわらと男達が出てきた。
手にはみな剣を携えている。そして、戸惑うコンラートに いきなり切りかかってきた!

「なんだ?今度は、打ち合いでも見せてくれるのかな?」
観客は、これがまだ特技披露の一部だと思っていた。

「これは?」
村田はソレが、特技披露の演出でない事に、すぐに気がついた。誰かが、コンラートに邪魔に入ったのだ!
一瞬止めようかとも思ったが、コンラートが素早くそれを制した。観客も審査員も、彼が今襲われている
ということに気がついてはいないらしい。ならば!

折角、皆が楽しんでいるのだ。それにこれは、カヴァルケードが国の威信をかけて開いている記念大会。
そこで、出場者が何者かに襲われたなんて汚点としか言いようの無い事実を、刻むわけには行かなかった。

「ふふふ、コンスタンツェ・・この私をコケにした罪は重いわよ。」
舞台の裏からその様子を見て嗤うのはセロシア・・今大会の出場に当って、国から御付の者達が
派遣されてきている。その中から、腕に覚えのあるものを使って襲わせたのだ。

コンスタンツェの特技は剣舞。そこに剣を手にした男達をあげても、誰もがソレを演出だと思っている。
どんなに剣に自信があっても、一対一の対決ならまだしも、複数相手に勝てるものではない。
まして女の身だ。力も体力も男にかなうはずがないのだ。

「さぁ、服を切り裂いて、恥をかかせてお挙げなさい!おーほほほ!!」

しかし、そうは問屋がおろさなかった。

そう・・相手はルッテンベルクの獅子なのだ。セロシアは手練れを用意したつもりのようであったが、
コンラートにとってはたいした相手ではない、ただ剣がいつもの剣ではない上に・・普通の剣でもなかった。
剣舞の演出で薔薇を散らすためとはいえ、旋風が起こりやすいように、風圧のつくりやすい剣を選んだのだが、
その分実戦には向かないのだ。至近距離に入られたら、対処の仕様が無い。

普通の剣士ならば・・・だ。

コンラートの剣は、元々父ダンヒーリーから教わった、実戦本意の剣である。それは最初から、
対複数用なのである。それに、ギュンターから教わった技で洗練され、実戦を経て研ぎ澄まされた
物が、剣聖とまで高められた彼の今の剣技である。

男達が一斉にかかっては来たが、コンラートは慌てず殺気を飛ばしてその中の数人の男達の動きを
縫いとめた。おかげで揃って打ち出たはずが、バラバラと半数ほどが出たに過ぎなかった。
それを、一番手近に踏み出た男を、叩き伏せてその体の影に入り込むと盾代わりにして、次の男の背を
殴打した。そう、剣といえば、切り伏せるイメージが強いが、刃と言うものはすぐに切れなくなるのだ。
特に、すぐに手入れの出来ない戦場で、殴打方面で使われる事も多い。

「と・・いうか、戦場でもないこんな所で斬り臥すわけには行かないしね?」

コンラートは、その長さを利用して、ぶん!っと、ふりまわして男達の足並みをそろえさせない。
そこで足並みが一層乱れた所を、一人、また一人と倒していった。

そして最後の男が倒れるまで、僅か5分・・。

圧勝であった!

ヒスクライフは、すぐさま壇上に駆け寄り、男達の傷の具合を見たが、誰もが殴られて倒れていた
だけであった。彼も、これが余興ではない事にすぐに気がついたが、村田に止められていたのだ。
コンラートにすべて任せるようにと。

おかげで、大会中に出場者が暴漢に襲われたなどという事は、記録に残らないですみそうだ。

「おみごと!さすが、眞魔国で(魔王専属)護衛をなさっているだけは有りますね。」
「ほんの余興です。」

その間に、軽く当身を食らっていただけの男たちが息を吹き返した。慌てて立ち上がれば?
ズルリと落ちるズボン。先程、倒れた男達に剣先を付きたてていたのは、ベルトを切っていたようだ。
ちょっとした、おまけです。そう、悪びれもする事もなく言い放つコンラートに、彼も思わず噴出した。
ズボンを押さえて、舞台から逃げていく男達の姿が、あまりにも滑稽なのだ!

これも客には大うけである。再び、コンスタンツェに大きな拍手が贈られた。




もちろん、審査員も喜んでいる。
「いや〜、このコンスタンツェという令嬢は、無名の家柄ながら、中々やりますな。名だたる姫君の中で、
ここまで善戦するとは?」
「善戦といいますか、一次審査も2位と健闘していますし、その後も落ちるかと思われましたが、
それどころか票を伸ばしているような様子・・。優勝の本命と成りましょうぞ。」
特に料理対決では、間違いなく票を伸ばしているだろう?

「ですが、この後はダンス審査。ダンスといえば、セロシア嬢がすばらしい腕前だと聞いています。」
「それに、アグラーヤ嬢・バルバラ嬢も、何度か夜会で拝見したことが有りますが、両名とも素晴しい
踊り手ですよ。この三人が、確実に票を伸ばしてくるでしょう?あとは、あの眞魔国の元王子だと言う
ヴォルフラム閣下が、どこまでの踊り手かが問題ですね。」

舞台の上では、別の令嬢が出てきて、その美しい歌声を披露していた。


「今のは一体?」
ヴォルフラムが着替えて舞台の袖にきてみれば、コンラートが暴漢に襲われた後であった。
「姉上!?」
「いいから、騒ぐな・・。」
すぐさま、戻ってきたコンラートに駆け寄るが、コンラートは激しやすいヴォルフラムを制した。
「ですがっ!・・」
「カヴァルケードの威信がかかっている。俺のせいでこの大会に汚点を残すわけには行かないんだ。」
「・・・わかりました。」



だが、これだけでは終らなかった。

次のダンス審査のために衣装に着替えようとしたコンラートであったが、その衣装が・・。
純白にフリルがふんだんに使われたドレスが、誰の仕業か?裾からざっくりとはさみで切られていた!

「これは酷い!姉上!これでも黙っていろと!?」
「騒ぐなヴォルフ!」

だがその声を聞いて、アグラーヤが楽屋をのぞいて来た。
「どうかなされましたの?・・あっ!これは!?」
「アグラーヤ様?どうか・・まぁ!」
その上、バルバラまでもがその残状を見た。とても美しいドレスが、無残な姿になっていた。

これは、グレタとベアトリスが、自分のためにと選んでくれた衣装だったのにっ!

コンラートの瞳が怒りにメラメラと燃えた。


あんのぉ〜〜こむすめめぇ〜〜〜!


そう、しっかりとコンラートは気がついていたのだ。舞台の袖から殺気を飛ばすセロシアの存在に。

「ヴォルフ!姫君方、危ないですから少し下がっていてください。」

何をする気だ?

とにかく、ヴォルフラムは、怒りに染まったコンラートから二人を遠ざける。

すると、コンラートの腰が少し沈んで?

一閃!!彼の剣が煌めくと、ドレスが膝丈くらいにまで短くなっていた。

「急いで裾を直す、ヴォルフ。すまないけれど、どうにか時間を稼ぐようにヒスクライフ殿と、
猊下に連絡してくれ。」
「出るつもりか?コンラート?」
「あたりまえだ、俺はカヴァルケードの推薦枠で出場しているんだ。穴を明けるわけには行かない!」
「だが・・」
「それに、グレタとその友達が楽しみにしてくれているんだ。ここで、諦めるわけにはいかない。」
「・・・グレタか・・そうだな、わかった。すぐに、連絡してくる。」
「あの、わたくし、裁縫道具を貰ってきますわ。」
バルバラが、飛び出した。

「では、わたくしはそれまでに、髪のアップを手伝いますわ。」
アグラーヤは、コンラートを鏡の前に座らせると、ブラシを持った。

「アグラーヤ嬢、どうして・・。」
「何を言っていますの?わたくしも、名家といわれる家の出身、家名に恥じないよう生きて
まいりましたわ。この大会の出場も家名にかけて正々堂々と戦ってまいりましたのに、ここまできて
こんな酷いやり口!許せるものでは有りません!」

その涼しげな容貌とは裏腹に、結構熱い物をお持ちの令嬢のようだ。

「さすがは、あのお父上の娘さんですね。」
「・・・やはリ・・父をご存知なのですね?コンラート・ウェラー王子?」
「・・気付かれましたか?」
「えぇ、おかしいとは思っていました・・、その琥珀の瞳に銀の虹彩、シマロン人に多い薄茶の髪・・
シマロンの正式な王家・・本当のベラール王家の物が持つその色彩を持つ方は、今はこの世界に
コンラート王子以外にはいないとお聞きしていました。ですから、先程弟君がコンラートと呼ばれた
ときにやはりって・・・」

アグラーヤは、大シマロンの属国だった国の出身だ。ある日、シマロン本国の夜会から帰ってきた父が
興奮気味に話してくれた。真のベラール王家の王子に出会ったと!聡明で美しい魔族の青年、まさか
ダンヒーリー・ウェラーが先代魔王との間に王子をもうけていたなどと驚いたと。

「父は言ってましたわ。例え魔族の血を引くとしても、それはたいした問題ではない。彼には王としての
資質がある。もしもコンラート王子がシマロンの王となれば、自分は彼のために働いてみたいと・・。」
「光栄ですね。あの方にそこまで評価されるとは・・ですが、それは過大評価です。俺は、王には
なりません。俺は魔族・・ユーリ陛下に永遠の忠誠を誓う者です。」

「先程から、貴賓席より熱い声援を送ってくださる、あの可愛らしいお方ですか?」
「クスクス・・それもばれていましたか?えぇ、可愛いでしょう?」
「ふふ、もしかしてノロケられましたかしら?」
「すみません。」


そこに、バルバラと一緒にディアーヌ姫が飛び込んできた。

「まぁ、ひどい!!脇をこんなに切って!ですが・・えぇ、これなら、このフリルを使って・・
どうにかなりそうですわ。少しデザインが変わりますけど任せていただけますかしら?」
「ディアーヌ姫まで?どうして・・」
「私が頼みましたの、ディアーヌ様は家事一般が得意でいらっしゃるということでしたので、
裁縫もとくいかと?」
「コンスタンツェさま、困ったときはお互い様ですわ。ドレスは任せて下さい。それより、お支度を
急いで下さいませ。」
「あ・・ありがとうございます。」
コンラートは、嫉妬から彼女をライバル視していたことに、急に恥ずかしくなって頬を染めた。


ヴォルフラムが戻ってきたときには、アグラーヤに髪を弄られ、バルバラに化粧を施され、その横で
なぜかディアーヌ姫が目にもとまらぬ速さで、ドレスの裾上げをしているという。

「・・どうなっているんだ?」
「あ・・ヴォルフ・・どうだった?」
「ダイケンジャが他の出場者に『いんたびゅー』というものをしながら、時間を延ばしてくれている。
ダンスは一斉にする予定だったところを、三組に分けてくれるそうだ。」

途中に休憩を入れてくれるので、30分ほど時間が稼げるという。

「それだけ有れば大丈夫!」
ディアーヌ姫の針サバキは凄い!先ほどの高速掃除術も凄かったが、裾を纏ってゆくそのスピードも
はやい!針がくるくるっと回り布が巻き込まれてゆくようにまつられてゆく。

「ほぉ〜!なんて、すばらしい!」
「おほほほ、私の国は小さな国ですもの。王女といえど働かないものは食うべからずですわ。ドレスの
仕立ての内職をしたことも有りますのよ?」」

内職をする王女・・それは聞いても、よかったのだろうか?

「気になさらないでください・・貧乏なのは周知の事実ですわ。」
案外さばけた姫君の様だった。

「次は僕が踊ってきます。なるべく時間を延ばしてくるが・・コンラー・・じゃない、
コンスタンツェ姉上・・・。」
ヴォルフラムは、心配そうに姉を見る。

「ヴォルフ、ディアーヌ姫がついていてくれるし大丈夫だ。」
「そうですわ、では、コンスタンツェ様?髪はこれでよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます。アグラーヤ様」
先程の料理といい、彼女の仕事は繊細だ。コンラートの髪は、サイドにねじり上げられ綺麗に
髪を散らされている。うなじからの髪の流れがまた綺麗である。

「では、私も踊ってきますわ。なるべく時間を稼いできますから。」
「おねがいします。ヴォルフ、アグラーヤ様をちゃんとエスコートしてくれよ?」
「わかっています。では、アグラーヤ嬢、お手を。」

ヴォルフラムは、銀色の姫君をエスコートすると、舞台へとでていった。

「ヴォルフラム閣下とアグラーヤ姫がならぶと、金と銀でお綺麗ですわね。」
「本当、夢見るようですわ?魔族というのは、長い間化け物と伝え聞いていましたが、噂とは本当に
あてになりませんわね。こんなに美しい方ばかりなんて。」
バルバラが、うっとりと二人が出た後を見つめて言うと、ほぅ〜っとディアーヌもため息をつく。

「本当、私は色が黒いので・・皆様のように抜けるような白い肌という物に憧れますわ。」
「ディアーヌ姫の国は、たしか一年を通して暑い国でしたね?」
「えぇ、私の国には四季というものがございません。有るのは雨季と乾季です。一度雪の振る冬や
美しい春を見てみたいものですわ。」
「では、今度眞魔国へいらして下さい。雪もふりますし、綺麗な花の咲く春も楽しいですよ。
バルバラ様もぜひ^^b」
「まぁ、眞魔国へ?私も一度行ってみたかったのです。」
「では、決まりですね?」


さぁ、できました!

そう言うと、ディアーヌは、ふわりとドレスを広げてみせた。切られたフリルを使って、それを
くるくる丸めて花にして脇の切られた箇所に飾ってごまかした。これなら、最初からスリットが
入っているデザインにみえる。


「コンスタンツェさん、いる〜?」
ひょうっト控え室に顔をのぞかせたのは、司会役のロビンソンこと、村田ダイケンジャー。
「うわぁ、見事なミニドレスになっちゃったねぇ〜。」
コンラートの姿を見ての第一声がこれだ。
「猊下?すみません、油断しました。」
コンラートが、申し訳なさそうに、村田に謝る。それに、君のせいじゃないというと、これ持って
きたんだけれど?といって、白い編み上げのブーツと、地球から持ち込んだストッキングをみせた。

「パンプスだと重さのバランスが悪いし、素肌を露出させるのは、君も抵抗が有るだろう?」

そう、コンラートの体には、無数の切り傷が残っているのだ。男の時はまだしも、女性のドレス姿と
なると、コンラートも抵抗が有るらしい。それを解って、村田は急いで持ってきてくれたのだ。
なにせ、今回村田はサポート役として、地球から色々持ち込んでいた。あの、猫耳執事も彼の仕業だ。
このストッキングも、こちらには無いものなので、これは正直ありがたかった。

「猊下、ありがとうございます。」
「じゃぁ、僕は戻るから、急いで着替えてくれたまえ。妨害者の鼻を抜かしてやってくれよ。」
「はい、もちろんです猊下。」

村田が出てゆくと、コンラートは急いでそれを履き替えた。

「まぁ、これは素敵な靴下ですわね?見たことも有りません素材ですわ。」
「ほんとう、まるで最初からこの衣装だったようですわ。」
二人の太鼓判を貰って、コンラートは改めて気持を入替える。さぁ、これから最終審査・・。

これで、すべての審査が終わり、結果が出るのだ。

「緊張してきましたわ。私あまり夜会とか舞踏会とか、出席したことがありませんの・・。」
少し恥ずかしそうに、ディアーヌが告白する。
「大丈夫ですよ。運営委員会のほうで、リードの上手い男性を用意してくださいますから。」
「そうそう、あわせればいいんですよ。」

そして、3人は連れ立って舞台に出て行った。

舞台では、運営委員会のほうで用意された相手とダンスを踊る。舞台に出てきたコンラートを見て、
セロシアが驚いたようだが、軽く(←コンラート比/普通の人には殺気並)睨みをきかせると、
さっと顔色を変えた。

「ぎゃぁ!何でコンラッドが、お・・おみ足を出しているのぉ!?」
「ミツエモン様!コンスタンツェ様の衣装・・何かあったのではないですか?先程の特技披露と
いい、何かおかしいとおもいませんか?」
「ベアトリス?それどういうこと?たしかに、ドレスがちょっと変わっちゃっているけど・・。」
「だって、元々ダンス審査は一斉に踊るはずだったでしょう?それが、3組に分れて審査ですし・・
コンスタンツェ様の衣装は、足元が見えないほどのロングドレスのはずです。それも衣装換えした
というより作り変えた感じですわ。」

たしかに、衣装を事前に変えたというものではない。あれは、グレタとベアトリスがコンラートの
ために選んだ衣装だ。なのに、ドレスの丈が大幅に短くなっている。

何かあったのか?

有利たちの視線を感じて、コンラートが三人を見る。

にっこり♥

アレは大丈夫だよという事だろう。

「とりあえず、出てきたということは大丈夫だと思う。これが最終審査だし、ここは大人しく見守ろう?」
「お父様。」
「魔王陛下。」

が・・おとなしくというのは無理だったようだ。


「うわぁ!!コンラッドの綺麗な足が!あしがぁぁ!!」
「お父様!どうどう!!大人しく見守るんでしょう!?」
「きゃぁ!コンスタンツェ様キレーー!!」

白いドレスは元々軽い素材で出来ていて、コンラートの動きにあわせて広がるように出来ている。
それが短くなれば、当然足が・・太ももが見えちゃうーーー!!

「きゃぁぁ〜!コンスタンツェおねさまー!素敵ーー!」
「いやん、綺麗な御御足 (おみあし)ですわ。」
「あの靴下なんですの?とても綺麗な銀の刺繍ですわね?」
「薔薇じゃないかしら?」
「何にしても、さすがは私たちのお姉さまですわ。まるで蝶のように舞うとは、コンスタンツェ様の
ために有るようなお・言・葉♥」
観客席にいる、コンスタンツェお姉さまを応援する会のメンバーも、大ハッスルして声援をかけていた。


舞台上では、観客の目線は、一人の女性の舞姿に釘付けである。煌びやかなドレスの中で、一人とても
短いドレスを着たコンスタンツェであったが、当初その短さに驚いた観衆も、よくよく見れば、白い
編み上げのブーツは、淡い桜色がかったサテンのリボンで止められ可愛らしく、珍しいレースで
織られたような靴下は、リボンと同じ色で銀糸の入った薔薇がきれいにその足に咲いていた。

当初、薄茶の髪はサイドに結われ白いリボンでまとめられていたが、バルバラが白に縁がピンクの薔薇が
控え室に有るのを目にして、それを素早く飾ってくれたのだ。

スッと通った長身の美人だったコンラートを、そのピンクたちが可愛らしく演出している。

そして踊りだした彼女を見て、審査員も唸った。なんと軽やかに春の精霊のように踊るのだ?
相手役の男性をさり気なくリードして、複雑なスッテップを踏む足。それでいて、上半身は
揺れる事無く、あくまでも優雅だ。

一組目のセロシア・二組目のアグラーヤにヴォルフラムそして同じ組のバルバラも見事だが、彼女の
レベルはその一段上だ。こうなると、ちょっとかわいそうなのがディアーヌ姫だ。どうも、相手の男性が
リードし切れていないのもあるのだろうが、元々ダンスは苦手だといっていた。決して下手ではないが
他二組が上手すぎるのだ。

コンラートは、スッとディアーヌに近づいていった。

「ディアーヌ姫、変わりますよ?」

かわる??その意味が解らないでいると、コンラートは、いつの間にかディアーヌの相手役の男性と
背中合わせになると、くるんとターンをきめて、相手役の男性の手をとって回し、自分の相手役のほうに
押し出した。そして、ディアーヌの手をとると、巧みにリードをして、彼らから離れてしまった!

「あ〜!あれは、前に夜会の時に、グレタと踊ってくれた時に、ヴォルフと入れ替わったやつだよ!」
グレタが、きゃっきゃ!とはしゃいで手を叩いた。

舞台上では、男性パートを踊りながら、ディアーヌ姫をくるんと回すコンラートの姿があった。
一方お相手役だった男性二人はといえば?あわあわと、どっちがどっちを踊るんだろう?と組み手の
ようになっている。その慌てぶりがおかしく、ついつい観客は笑ってしまった。

「ディアーヌ姫、俺にあわしてくださいね?」
悪戯を成功させた子供のようにコンラートが笑うものだから、ディアーヌも力が抜けたように笑った。
二人で楽しそうに踊っていると、バルバラが近づいてきた。

「もう、お二人だけで楽しそうですわね!」
「では、バルバラ様も一緒に踊りますか?輪になって?」
「ふふ、輪になってですか?面白そうですね?」
「おまちください!私そういう高度の踊りはしたことが無い・・」
ディアーヌが抗議の声をあげる隙に、くるんと回ったバルバラが二人の中に入ってきてしまった!

「きゃーー!」
「あははは、大丈夫ですよ、ほらこうして?」
コンラートは、彼女の手をとって回してみせる。その間に体勢を入替えて、バルバラの手をとって
引き入れると、三人で輪になって踊り始めた。
「そうそう、ディアーヌ様、音楽に合わせてコンスタンツェ様に合わせて。」
バルバラも心得たもので、コンスタンツェの動きに合わせて見事に踊ってゆく。


「あはは、これはこれは!」
もはや、観客も審査員も微笑ましいものを見るように、三人の踊りを見てゆく。

「コンラッド!あのタラシ王子めぇ〜〜!」
「良いじゃないの、お母様楽しそうだし、もう、お父様のやきもち焼き〜。」
「ねぇねぇ、グレタ!この後の交流会で、私達もあれやってもらいましょうよ!」
「うん!やってもらおう!!」


司会のダイケンジャも、相手役だった男性達も、手を叩いて彼女等の踊りを見守る。

やがて、コンラートが真ん中になって、姫君達をターンさせると、フィニッシュ!

二人の手をとって、深々と礼をとる。


三人には、惜しみない拍手が贈られた。


「ありがとうございます、コンスタンツェ様、おかげで楽しく終わることが出来ましたわ。」
「私も、こうやって踊るなんて初めてですわ。とても楽しゅうございました。」
舞台の袖まで来ると、上気させた顔の二人は、コンラートに向かって礼を言う。
「いえいえ、こちらこそ助けていただいたのですから^^」

ニコニコと笑いあう三人に、ヴォルフラムとアグラーヤもかけよる。

「まったく仕方ない。」
「ごめんヴォルフ、でも面白かっただろう?」
姉の茶目っ気たっぷりの仕業に、ヴォルフラムは呆れ顔だ。

「今度は、私とも踊って下さいませね?」
「では、この後の交流会でなどいかがですか?ヴォルフもね。一緒に踊ろう?ね?」
にこっと、琥珀の瞳を輝かされると、ヴォルフラムが本当に仕方ないな〜といいつつも了解する。
その微笑ましい、兄弟愛に、アグラーヤを初めとする姫君たちもくすくすと笑った。

楽しそうなコンスタンツェ達を、悔しそうに見つめるのはセロシアだ。やることなすこと、裏目に出て
あの生意気な女官を追い落とすどころか、どんどん株をあげてやっているような気がする。

「きーー!悔しいですわ!どうにかして一泡吹かせられないかしらっ?」
「セロシア様・・もうそろそろやめませんか?なにか、あの女得体が知れなくて怖いですよー。」
まだ、何か仕掛けようとする彼女に、取り巻きの少女達が気弱に答える。
「そうですよ、審査も終ってしまいましたし・・。」
「何言っているのよっ!」


「本当に、何言っているんでしょうねぇ〜?」↓↓↓

ぎくり!!

な・・なに、このヒンヤリした空気はっ!?

体の回りに、ひんやりとした空気が纏わりついてくるようだ。不快だ・・だけれど、ここから動きたく
とも、まるで、何かに、絡め捕らわれたように、体がまったく動かない??

「あら?どうかしました?」
クスクスと官能的な声が聞こえる。女の声だ・・けれども、なぜだ・・
野生の獣を相手にしたかのような?原始の恐怖という感情が彼女等をその場に縫いとめた.

「くすくす・・こんなに怯えちゃって・・」

つつ・・・と。少女達の頬を細くて冷たい指がなでてゆく。

「「「ひっ!!!」」」

で・も?

何やら楽しげな響きが声に加わるのに、逆に背筋が寒くなるのはどうしてだろう?

「今更ですよね?・・俺の可愛い娘を散々いびって下さって?そのうえ、舞台の上で
人の服を剥ぎ取ろうとか?それが失敗したら、衣装を斬り裂くだなんて・・・」

ねぇ?

ひたひたと、手の甲で軽く頬を叩かれる。

「そこまでして、俺が許すような甘ちゃんに見えましたか?」

くすくすくす・・・・

今や、少女たちの頭にあるのは、逃げ出したいという生存本能のみだ!

なのにっ!!!

声も出なければ、動く事も叶わない。動いて後ろを振り返ったが最後!獣に喉笛を噛み切り殺されそうな?
そんな予感に、囚われてしまう。


「姉上?何をしているのですか?」
そこに丁度、黙っていれば天使と見紛うべき美少年が乱入してきた。

「うん?ちょっと、他の出場者とも親睦を深めようかと??」

う・・うそだぁぁーーー!!!

「・・・・姉上・・その者は、眞魔国の王女を愚弄した者ですよ?まったく、姉上は優しすぎます!」

何が優しいものですか?やさしいものが、脅しをかけたりいたしませんわっ!

何処を見ているのだと文句一杯に叫びたいセロシアであった。が・・実際には、怖くて後ろを振り返る事
すら出来ないのだけれど?

「まぁまぁ、それが、彼女のいいところじゃないか〜?それより、結果発表があるんで皆さん、舞台に
出てきてくださいね〜。」

司会者にそういわれて、出場者がわらわらと動き出す。

「姉上行きましょう。」
弟が自然にエスコートしようとしてくれるのを見て、コンラートはニコニコと、今度は本当の笑顔で
その手をとった。とりあえず、セロシア達を存分に怖がらす事もできたので、機嫌は治ったようだ。

結構、お手軽な所があるコンラート。

だが、その途端に金縛りが取れた少女達は、その場にへなへなっと座り込んだのだった。

「あぁ、そうだ?セロシア選手?いくらなんでも他の出場者の妨害はいけませんね〜♪」
全然いけない口調ではないが、司会の少年が、そう彼女に追い討ちをかけた。
「な・・何を・・・」

人を襲わせるときに、自国の付き人を使うなんて・・貴方もつめが甘い・・。

そういうと、何処からか現れたカヴァルケードの兵士によって、セロシアの取り巻きの少女達が
拘束される。

「コンスタンツェ嬢を襲った男達はすでに確保してあります。彼女らはさしずめ、舞台衣装を切り裂いた
犯人でしょうね?スタッフの数人が、彼女等がコンスタンツェ嬢の控え室から出てくるのを見ています。」

言い逃れなんて出来る隙を与えずに、ロビンソンはよどみなく追い詰める。

「そ・・れは・・そのっ・・。」


不正によりセロシア選手は失格!


「記念大会に泥を塗った事、自国で反省なさるがいい!!」





冷たく突き放されて、セロシアはその場に崩れたのであった。






1月26日UP
2ヶ月以上もたちました6から7の間・・おまたせしました。狂想曲の7をお贈りいたしました。
いかがでしたか?こちらも、離れすぎていて、出場者の名前を忘れちゃいましたよ。←おいおい
楽しんでいただけたらよいのですが?ちょっと、時間がたちすぎていて心配・・これはこのまま
一気に書いてしまいます。どうぞ、お付き合い下さい。