長編パラレル ママシリーズ 狂想曲
 第五幕 敵に回したくない人





パンパン!と、朝も早くから花火の音がする。ウッカリさんが、夜と間違えてあげたわけではない!

これは、本日より開催される競技会と、それに伴うお祭りの開催を知らせる合図である。



「とうとう今日からですわね!コンスタンツェ様ヴォルフラム様!」
朝から鼻息が荒いのは、競技会に出る選手二人でも、眞魔国一同でもなく、この国の王女殿下で
あった。

「おはようございます。ベアトリス様。」
「お・・おはようございます、王女殿下。」


対して二人は、兄の方は、いつもの爽やかスマイルで。弟の方は、多少王女の気迫におされ気味に
挨拶を述べたのであった。

「あはは、ベアトリスは気合満々だね〜。」
そこへ、魔王と娘のグレタが起きてきた。

「きゃ、おはようございます。陛下。グレタ。」
「おはよう、ベアトリス!ねぇねぇ、今日はお祭りに行くでしょう?」
「もう、呑気ね〜!グレタのご両親が出場なさるのよ。もっと、気合を入れなさいな!」
「だって、一次審査は、写真だもん。もう撮っちゃったし、二人の出番は本番なんでしょう?」
「なるほど・・呑気なわけではなく、お二人が一次審査に落ちるわけがないという、無意識の
余裕だったのね!?それにくらべて、私ったら・・そうよね、お二人が落ちるわけがないわよね!
と、なったら、前祝よグレタ!今日は、ぱーーっと遊びましょう!」


「すみません、お転婆な娘で。」
その様子を見ていたヒスクライフ婦人が、苦笑していうのをコンラートが微笑んで首を振る。
「元々は、グレタを心配しての行動です。人を思いやる気持ちを持つ王女を、近い将来王として
戴くこの国は、とても幸せですね。」
「まぁ〜!ウェラー卿に、そう言って頂けると、私も気が軽くなりますわ。」
ホクホクと、嬉しそうに笑う夫人。

コンラッド〜、人妻までおとすんじゃねーぞ!

ついつい、女性化しているとはいえ、心配になる有利であった。




さて、ヒスクライフ氏とムラタ特別顧問は、大会の実行委員の部屋にて、昨晩より詰めていた。
写真の順番で、自分の所の姫を目立つ所にしろと、いちゃもんつけてきた貴族の対応とか、投票権を
横流ししてくれという商人の対応とか、なにせ、前代未聞の方法にての選出を巡り、色々問題が
あがるのを対処しなくてはならないからだ。このクレームの対処という面でも、村田は、過去の
記憶と、その口先三寸とで右から左へと対処をしていく。

そして増々、実行委員の間では、やれ生き神様だのと、持ち上げられてゆくのであった。
たまたま、友人の様子を覗くにきた魔王とその愛娘とこの国の王女は、彼らの様子をまるで何かに
憑かれているようだと評した。つまり、徹夜だ何だと続いた結果、かなりのハイテンションに
陥っていたようだった。


祭りの一番の人気は、100回記念大会に出場予定の姫君達の《写真》だ。
まず、観覧者はその写真の精巧さに驚き、姫君たちの美しさに驚く2段がまえだ。写真居は番号が
ふってあるだけなので、誰がどの国の代表かすらわかりはしない。よって、純粋にその美しさだけで
決めなければならなかった。客は、どの写真がどこどこの評判の姫君ではないかと?推察し、
誰に投票するか?はたまた、誰が優勝するかを、評論しあうのであった。


「みて!2番の子ムチャクチャ綺麗じゃん!一体何処のお姫様だろうな?」

この2番はヴォルフラムだ。お姫様どころか、ワガママプーなんですよ、この人・・。
変装して、紛れ込んでいた有利が心の中でツッコミ。


「俺は、7番の人だな〜、なんか優しそうで、何でも許してくれそう。」

7番はコンラートだが、やはりこのコメントを聞いたヴォルフラム(もちろん変装中)は、
許してくれるどころか、剣で八つ裂きにされかねなかった・・と、ここ数日の、料理の特訓を
思い出してげっそりした。決勝戦に料理があると知ったコンラートは、弟が恥をかかないよう
にという、兄心から弟に簡単な料理を伝授しようとしたのだ。

が!わがままプーである弟は、宮廷料理を作りたいといって兄を困らせ、

「料理と言うものはそんな簡単な物ではないんだよ?」
と、諭された。しかし、どうしてもビーレフェルトの料理を広めたいという熱意に兄が折れ・・。

「いや〜、さすがのルッテンベルクの獅子も泣く渋谷と駄々を捏ねる弟にはかなわないんだねっ!」
なんて、ムラタ猊下に茶化されつつ始めたわけだが・・・度重なる失敗に、矜持の高い弟はキレタ!

「何で、僕の言う事を聞かないんだ此処の材料はっ!!」

と、材料のせいにしたところ、カチャ・・・とつば鳴りの音が聞こえ、ヒュンと鼻先を
銀の閃光が煌いた!

「カヴァルケードのご好意で分けて頂いた食材を散々駄目にした上に、自分の料理の腕を棚に
上げて、食材に当るなんてしちゃ駄目だよ?」

にこにこ♥

言い方は優しいが、剣の切っ先が鼻先に押しつけられては、うなずく事さえできない。

「俺は、ちゃんと簡単な物からはじめようって言ったよね?それを、どーーしても、ヴォルフが
ビーレフェルトの料理を作りたいって言ったから無理を承知でやっているのに。」

「す・・すみません、兄上!」
「じゃぁ、どうする?このまま材料を無駄にしつつ、ビーレフェルト料理を作るのかな?」
「いえ、自分の至らなさを重々承知しましたので、かかか簡単な物からお願いします!」
「うん、いいよ。」

その代り、作ったものは、全部食べてもらうからね?
げ・・・・。

有言実行の兄は、その後も失敗を続けた弟に、その始末を全てさせた。おかげで、料理は出来るように
なったが・・・・もう暫らく、芋なんて見たくないと思ったヴォルフラムであった。

皆、あの優しげな微笑に騙されているぞ!と、弟は叫びたい気分でいっぱいであった。




さて、写真が飾られている展示スペースの横には、応募箱なる物があった。
応募用紙に必要事項を書き、参加者の中で一人混じっている男性を当てるというものだ。
(本当は二人なのだが、そこはナイショだ。)ズバリ的中者の中から抽選で、眞魔国への観光旅行
2名一組×5組や出場各国の名産品などが貰えるのだ。
クイズで盛り上がり、各国の名産品をアピールし、なおかつ無償提供で懐も痛まないという、

「こんなあざといやり口は村田だな・・。」
有利大正解。きっと、あの眞魔国への観光旅行の大盤振る舞いで、各国のライバル心を、引き起こし、
名産品をもぎ取ったに違いない!

「そういえば、一人男性が混じっているって聞いたけど?どの人だ?」
「えぇ?あ・・あれじゃないか?15番。」
「いや、案外6番なんか怪しくないか?いかにもって言うドレスが引っかけと見た!」

ぷっっ!!と、同時に噴出したのは、グレタとベアトリスだ、6番・・その《いかにも》というドレス
を着込んでいたのが、セロシアなのだ。彼女は気負うあまりに、レースがふんだんな、真っ赤な
ドレスを着込み、宝石で飾り立てていた。綺麗といえば綺麗ではあるが・・ちょっとやりすぎ
という感もしなくはない。ゆえに、いかにも・・なのだろう。

しかし・・コンラートとヴォルフラムは、いつもの軍服ではないが、それに近い服装だ。なのに、
何故?男性と思わないのだろう?

「あぁ、きっとそれは、女性は自分より綺麗な男性は居て欲しくないという願望で、男性は、
この美少女が男性な訳が無いと言う逃避さ。」
と、ダイケンジャーが、ここにいたなら、そう評してくれるだろう。

さて、一次予選ではあるが、中々巨大ガラガラは好評なようだ。結果がわかりやすい上に、不正の
心配もない。そのうえ、回す時に球がガラガラなる様子が、胸の高鳴りを同調するのか?早く回して
みたり、逆にゆっくり回してみたりしながら、皆楽しんでいるようだ。

投票の方も、我等が魔族の兄(姉)弟をはじめ、プロイス家のアグラーヤ嬢・ビスマルク家のバルバラ
嬢オッフェンバッハ大公国セロシア嬢は、下馬評通りに順調に票を伸ばしていた。
決勝進出は、10名なのだが・・・午後になると、じわりじわりと、とある候補に票が集まり始めた。

眞魔国代表・フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムだ。やはり、正当派美少年は強かった!!


「ふふん、まぁ、人間共もそれなりに美しさを理解できるようではないか。」
それを耳に入れた当人の談だ。然も当然としながらも、心なし嬉しそうだった。

「まぁ、写真からは、性格まではわからないからね〜。あ、彼の場合、性別もムリか?」

とは、彼を引き連れているはずの大賢者様の談だ。ちなみに次点でウェラー卿こと、コンスタンツェ。
その後を、アグラーヤ・バルバラ・セロシアが追い、後はどんぐりの背比べ並みに、低い水準で
肉薄していた。



そして、一般投票の結果が出た。ぶっちぎりの1位ヴォルフラム 2位コンスタンツェ(コンラート)
3位バルバラ4位アグラーヤ5位セロシア・・と続く。やはり、《いかにも》ドレスが、実は男性では?
という疑念を呼んだのだろう。


これに喜んだのは、ベアトリス率いる(←いつの間にか率いている)“コンスタンツェお姉さまvを
応援する会”のメンバーだ。揃いのハチマキを作っている最中だ、当日はこれで出陣するのである!

「こうなったら、お姉さまに何としても勝っていただかなくてはっ!」
「そうですわね、・・それにしても、セロシア様が5位ですって。」
「やはり、男性に間違われたのが、痛手でしたわね〜。」
「ほ〜〜んと、おかわいそうに・・。」


ぷぷっ!!!


コロコロと少女達は笑いあい、夜は更けていった。





そして決勝戦当日の朝を向かえ。

カヴァルケードの城下街には、

どで〜〜〜〜〜ん!!!  と、


「何か、むちゃくちゃ大掛かりな舞台だな・・・。」
げっそりとして呟くのは、貴賓席にヒスクライフの客人として、グレタ・ベアトリスと並んで
座っている有利が呟いた。

やがて、ドラムが叩かれ、舞台の上空からゴンドラに乗って司会者である金髪の少年が降りてきた。
「ム・・村田!?お前は、新郎新婦のゴンドラ入場かよっ!また、なんつー派手な登場の仕方を・・・。」
「うわぁ、すごーい、あれ?ダイケンジャー?ユーリ、グレタもアレのってみた〜〜ぁい!」
「たはははは。」

日本で一時期、派手な結婚し気が流行った時には定番だったゴンドラ入場も、この世界の人には
斬新な演出であったようだ、のっけから、拍手喝采である。『や!どーも、どーも』なんて、舞台
中央の降り立ったムラタは、愛想よく手を振っていた。


ムラタ・・・だからなんでお前がそんなに目立っているの?


自国の大賢者様の活躍ぶりに、始まる前から疲れ気味の魔王陛下。早くも帰りたい気分で一杯だった。


そんな魔王様の内心は、まるっと無視して・・・スチャ!

金髪の少年司会者は、筒状の物を口元に当てた。アレは一体なんだろう?会場の人たちが見守る中、
スイッチを入れた少年が、筒に向かって話し始めた。


「みなさ〜〜ん、こんにちは〜!」

眞魔国・赤い悪魔性の声の拡張器・・・所謂メガホンである。会場一杯に響いた声に、集まっていた
人々はびっくり!? その様子を意に返さない司会者は、

「あれ〜?ど〜しました〜、声が聞こえないぞぉ?では、もう一度、こんにちは〜!」

「「「「こ・・こんにちは〜!!!」」」」

会場からちらほらと、声が戻ってくるが、未だ戸惑いのほうが多い。

「おや、カヴァルケードの皆さんは、女性のほうが元気がいいのかな?さぁ、男性の皆さんも、
男っぷりを込めて、轟かしちゃってください!もう一回、こんにちは〜〜!」

この言い回しに、どっと会場がわいた。今度のムラタの呼びかけには、会場から勢いよく掛け声が
返ってきた。

「いやぁ、さすが世界の最先端をいくカヴァルケードの皆さんですね。ノリがよくってらっしゃる。
ワタクシ、この100回記念大会の司会を努めさせていただきます。ロビンソンと申します。どうぞ
よろしくおねがいします。あ・・・特に、可愛らしいお嬢さん方宜しくね。」


「ムラタ・・・・。」
もはや、何も言う事の(でき)無い魔王陛下。


ではまず、今大会より大幅に選定方式が変わりましたので、ここで、競技会委員長の
ヒスクライフ殿下から、開催のご挨拶及び、大会のご説明を申し上げます。


村田が下がり、かわりにヒスクライフ氏が進み出る。

「世界中の美姫を集め、その美しさを競う、競技会も100回の節目を迎えました。この100回記念大会
を、我がカヴァルケードで行える事は、我々にとっても喜ばしい事でございます。この数年、世界は
激動を向かえ、色々な事が変わりました。多くの価値観が覆り、また、新たな世界が開けました。
そして今日迎えるこの記念大会も、今までの価値観を覆し新たな局面を迎えた大会として、必ずや
歴史に名を残すでありましょう!」

ヒスクライフ氏の力強い言葉に、カヴァルケードの民が《ウォォォ〜〜!!》と吠えて答える。
そうだ、このカヴァルケードの大会が、これからの大会の基盤となるのだ。


大会の決勝は、まずはその知性を謎賭け問答で審査させていただきます。
その後は、創作力と手先の器用さ計画性を、料理の実技で、次に、自己表現を拝見する為に
特技の披露を、最後に着こなしと品性を拝見させていただく為に、ダンスを披露していただきます。

各審査は、審査委員の持ち点20点を振り分けていきます。一人に振り分けられる最高点は10点。
最低3人には振り分ける事とし、それに、一次審査の点数を加え、一番点数の多いものを
今大会の優勝者として認めるものとします!


ほぉぉ〜〜っと、感心する声が、会場のあちらこちらからする。


中々面白いうえに、解りやすい。不正防止も考えられているようだ。


では、審査委員のご紹介です!


はっ!?


貴賓席の前にある審査員の席に座っていた者は、いきなりの紹介に驚いた。

実はこれも不正防止の抑制の一つだ。名前と出身国を知らしめて、なおかつどの審査委員が
どの出場者にどういった振り分けで採点したがわかれば、あからさまな自国びいきも、ライバル
落としも出来ないのだから、また、採点中はお互いの採点がわからないものも、みそだ。


前の競技で、どこの国の審査委員が、自国の出場者に入れてくれたから、お返しに次の審査で入れ
返すなどと言うまねも出来ない。多分入れてくれたはずだと、うっかり点をいれて、その国が入れて
くれなかった場合、相手国の出場者が優勝する恐れもあるのだ。

何分今回は、カヴァルケードの代表者はいない。主催国は、運営のみに力を入れるべきだという、
ヒスクライフ氏の信念だ。代わりにといってはなんだが、推薦枠からコンスタンツェを出場させて
いる。だが、彼女が優勝してもその栄冠は、本人と出身国である眞魔国へ行くので公正さは保たれる
というつもりだったのだが・・・・。

カヴァルケードの民は、事実上の自分達の代表と捉えたらしい。と、いうか?彼女のフェロモンに
やられたか?

いよいよ、代表選手達が、入場となる場が一斉に沸いた。入場は下位の選手からだ。二人づつ
出てきて、舞台中央まで進み、そこで両脇に分かれて一直線に並んでゆく。それが5組目。
1位と2位の選手の紹介のとき、最高潮に達した。

「続いて第一次審査、第2位・主催国特別推薦枠・眞魔国出身・フェラー卿コンスタンツェ嬢!
そして第1位・眞魔国代表・フォンビーレフェルト卿ヴォルフラム閣下!」

なに!!閣下って!?一位はおとこ??
うそだ〜〜!理想の美少女だと思ったのにぃ!

どよめきが、会場内を包んだ。まぁ、彼であっては欲しくなかったんだろうな。


「行くよ、ヴォルフ。」
「はい、姉上。」


カツ・・・ッ!!


どよめきの中を、二人が舞台裏から現れた。

カツ・・ッ!カツ・・ッ!カツ・・ッ!

美しい色とりどりのフワフワドレスの中、二人は揃いの軍服で現れた。

それも、黒と言う禁畏の色の軍服だ。立て襟や袖口、裾等には、コンラートが青・ヴォルフが赤の
縁取りがあり、肩章はそれにコンラートが銀。ヴォルフラムが金で刺繍とモールで飾られていた。
ブーツは揃いの白でいたってシンプルな物だ。

背を伸ばし、凛として舞台に向かってくる二人は異質であった。他の代表者が、優雅に笑顔で入場
してきたのと比べ、二人の顔には笑みはなく、まるで王者のようにその歩を進めていた。

・・・これが?魔族?


が・・二人が中央まで進み、ヴォルフがエスコートするように、傍らのコンラートの手をとると、
一変して、二人がふわりと微笑んだ。

そして、優雅に礼をするー


うわぁぁあ!!!


と、会場が沸いた!


これは、村田の作戦だった。元王子の二人、威風堂々と入ってくるなど造作もない事、あとは最後に、
ヴォルフラムの天使の笑顔と、コンラートのフェロモン入り笑顔を一変して振り撒けば、効果は
絶大なのだ。ようはメリハリだ。司会だなんだでおちゃらけているようで、きちんと指示だけは
出していたとは!さすがは、大賢者さまだ。


「きゃぁぁ!コンスタンツェお姉さまステキーー!!」

しかも、会場からは、揃いのハチマキをした、『お姉さまを応援する会』の黄色い声援も飛んで、
会場を驚かせた。一見して両家の子女である彼女らが、声を張り上げたのであったから。

その声に気付いたコンスタンツェこと、コンラートが、ひらりと手を振った。

「きゃぁぁ、気づいて下さいましたわぁぁ!!」

あれだけ大きな声と、揃いのハチマキで目立つのだ。むしろ気付かないって方がムリだ。


「まぁ、はしたない。貴女の応援団は、キーキーとおサルのようですわね?」
面白く無さそうに、コンスタンツェに絡んできたのは、やはりというかセロシアであった。


「では、彼女らのいる学校で御山の大将を気取っている貴女は、おサルの大将ですね。」
しらっと切り返すコンラートの言い様に、二人の間にいたバルバラが、ぷっ!!と噴出した。
「あら、わたくしとしたことが、失礼。」
セロシアは、睨みつけたくとも、舞台の上なので我慢している。だが、怒りで口元がひくついて
いるのは否めないのだが。


さて、では、このまま謎賭け問答に行きたいと思います。

司会のロビンソンは、壇上の攻防を丸ごと無視して、サクサク進行していく。まぁ、他の人だと
国際問題もあるから、中々こうは行くまい。村田の図太さを読んだ、カヴァルケードの実行委員に、

「山田くーーん!座布団一枚あげてーー!」
と、有利は心の中で言ってみた。


「あれ??」
壇上に助手らしい小さな女の子が上がったのだが?あの女の子?ベアトリスと、グレタ??
ふっとみれば、自分の横に居た王女様達がいない!?有利が、壇上の攻防戦を見ている間に、
村田に呼ばれて行ったらしい。たはは、全く気付かなかった。


二人の手元には、ノートほどの大きなカードが数枚あり、それを両端(下位)から順に引かせて
いった。カードを引いたら、見ないで後ろ手に隠す。
グレタは順々に引いてもらって最後の一枚を、コンラートに渡した。

「がんばってね、お母様。」
小さな声で、エールを送る娘に、ニコニコともちろんと答える。なんとも、ほのぼのとした二人。

一方・・反対側からきたベアトリスは、セロシアの前で止まっていた。こちらも小声で何やら
話している。

「さぁさ、どれでもお好きにお取りください。《5位》の方。」

ひくぅ〜と、セロシアの片眉が一瞬釣りあがったが、かろうじて、笑顔を崩さないでいた。


「ほぅ、かろうじてとはいえ、笑顔を崩さぬとは、中々見上げた根性の持ち主だな。」
と、それを見て感心したのは、ヴォルグラムだ。ちなみにこれは褒めているのだ。

が・・受けた方はそうとは思わなかったらしい。

「お・ほほ・・おほほ、その宣戦布告・・確かに買いましたわ。貴方は今からわたくしの敵ですわっ!」

キッとヴォルフラムをみすえていうと、コロコロとベアトリスが笑いながらー
「いやですわ。セロシア様ったら〜。今からも何も、こちらに並んでる方全員が敵ですのよ?」

ボケるには、ちょーと、早いですわね〜。

なんて、返したものだから、また間にいたバルバラが、堪えきれずに噴出した。しかも、今度は
一生懸命堪えているものの、肩が小刻みに揺れている。どうやら、この方は、笑い上戸のようだ。

「ご・・ごめんあそばせ。」
「いえ、私こそ、はしたない事を言いまして、バルバラ様もどうぞ一枚お引きくださいませ。」
ベアトリスは、先程とうって変わって、王女として気品に満ちたやり取りをする。

なかなか、堂に入った王女だと、参加者全員が思う。時期女王だというこの少女がこの国を率いる
時が楽しみだな〜と、コンラートはのんきにもそんな事を思った。

バルバラがカードを引いて、最後の一枚をベアトリスがヴォルフラムに渡す。

「閣下、頑張って下さいね」
「もちろんです、ベアトリス王女。」


では、どなたから行きましょうか?司会者が、全員にカードが渡ったのを見ると、誰から始めようか見回す。

そこに、はい!と、優雅に右手を上げたのは、バルバラ嬢であった。

「壇上で失礼をしたお詫びに、私から始めたいと思います。」
「わかりました、では一歩お進み下さい。」

ロビンソン促されて、バルバラが一歩前にでる。明るい栗毛のクリンッとカールした髪の、少し凛々
しげな少女である。瞳も明るい緑で、若草色のドレスが清々しい。バルバラは、持っていたカードを
司会者に手渡すと、それを彼が読み上げて言った。


まずは、有名な古典からの出題です。

さて、同時期に出産した二人の女性がいます。うち、一人の女性があやまって、子供を死なせて
しまう。だが、見れば隣に眠っている母子がいる、女性は、隣に寝ている女性に気付かれないように
生きている子供とその子を取り替えて、自分の子としてしまう。だが、取り替えられたほうもそれに
気付き、返してほしいとつめより、双方自分の子だと譲らなかった。夜中の犯行で目撃者はいない。
この難題が、役所に持ちこまれたが、役人でも裁けない、とうとう王の詮議を受けるところとなった!

・・ハイここからが問題です。

さて、この訴えを聞いた王様はどうしたでしょうか?

「バルバラ嬢、お答え願います。」


「王は、一振りの剣をかざし、子供を剣で切り裂き、半分にして片方づつをそれぞれに与えると
仰いました。すると、一方の母親は、早く切り裂いてお与え下さいと叫び、もう一方の母親は、
子供を切り裂くくらいなら、生きたままその女にあげて下さいと叫びました。王は、後から叫んだ女
に子供を与えました。子供の命を最優先に考えたその女性こそが、本当の母親だからと。子を思う
母心は、何時の世も同じなのでございますわね。」


おおおぉと、客席から唸る声が聞こえた。母親の子を思う心で、見事難問を裁いた話なのか〜。
この審査では、正解された者にのみ得点が振り分け加算されるそうだ。。

5人なら、一人頭60点というわけである。

何だかんだで一国の代表となる者が集う場所だ。此処で不正解者は一人もではしなかった。
会場は、その教養の深さに感じ入った。結局10人全員に30点が加算された。


続くは、料理だ。材料・調理具は持ち込み可、また、主催者側で用意された物も使って良い事に
なっている。御国料理になると、主催者の方で用意できるとは限らないからである。


流石にドレス姿では、料理は出来ない。此処で皆さんお着替えタイム。その間に、主催者側は
舞台に簡易キッチンや食材を用意した。そこへ、続々出場者がもどってくる。

そして、最後に戻ってきたのが、ヴォルフとコンラートであった。

「うぉぉぉぉ!!!!」

と、ほえたのは、会場にいる野郎どもだ。殆どの令嬢がワンピーススタイルの中、なんと・・

「なんで、あの二人だけ猫耳執事なんだぁぁ??」

そう、シンプルな白シャツ黒のギャルソンエプロンに、コンラートがふんわりした黒のリボンを
襟元に蝶々結びにし、、ヴォルフラムは逆にシンプルなタイを真ん中を宝石で止めただけで上品に
着こなしていた。

「猫耳かわいい・・だけどそれは、おれと、いる時だけにしてぇぇ!!」


そう、有利が心の声を叫んでしまったほど、その装いは可愛かった!肩までのかみをツインテールに
結び、真っ白な猫耳を生やしたコンラッドは、かわいい〜!

それに、真っ黒な耳を生やしたヴォルフラムだが、この装いは不本意だったようだ。何やら、姉に
向かって、抗議している。どうやら、この耳が御気に召さなく、渋っていて出てくるのが遅れた
ようだ。それを、頭をなでてコンラートが宥めている、その笑顔に毒気を抜かれて、ぷんぷん怒り
ながら、料理を始めたのだが・・・何やら顔が真っ赤だ。

なんだろう?ドキドキする!?

有利とグレタは、二人が兄弟で、弟に甘いお兄ちゃんと、意地っ張りで素直に甘えられない弟の図と
して、捉えているので気づかなかったが。会場はちょっと、桃色のオーラがにじみ出ている。
見目麗しいお姉さんとツンデレ美少女の、いけない秘密のやり取りのような香りがしたからだ。
現に、舞台上でも、目をそらす出場者たち。唯一本人たちが、気づいていないのが救いか?

コンラートは、我関せずで、舞台中央にある食材も見ておくかと?チェックに余念がなく。
ヴォルフラムは、覚えた手順を追うのに精一杯で、それどころではない。


「コンスタンツェ様は、ヴォルフラム閣下と仲がよろしいのですね?」

同じく中央の食材を見に来たのは、先程並んだ時に、コンラートのの隣にいた女性だった。
腰までもある流れるような銀糸に、知性をたたえた、湖水のような薄い水色の瞳の彼女は、確か
北の国の2つの王国の源流となった一族だったな。コンラートの脳裏に、前にシマロンにいた時に
得たデーターが閃く。彼女の父親とは、向こうの夜会で一度会っている。中々思慮深い男だったが、
娘も、先程の問答を見る限り、思慮と美貌を兼ね備えた素晴しい女性のようだ。

「えぇ、私は向こうではグレタ姫の母親代わりを務めていますし、閣下は姫の父親のお一人
ですから、親しくさせていただいているのです。そのうち何となく兄弟のようになりまして。」

ですので、先程も、つい弟のように構ってしまって。

「まぁ、わたくし、あまりにお似合いなんで、恋人かと思いましたわ?」
「そうですか?ヴォルフー!」

突然呼ばれて、ヴォルフラムが、コンラートのほうを見た。

「恋人に見えたってさ〜。」

それに、きょとんとしたヴォルフラムは、コンラートが、自分と彼を交互に指差すに、思い当たった
らしく、瞬間湯沸かし器のように真っ赤になった。

「何、馬鹿言っているんです、姉上ぇぇ!!」
と、つい叫んでしまった。

「ね?この通り、仲良し兄弟なんですよ?」


その様子を見ていた、ロビンソンこと村田は、その上手いかわし方に感心した。
先程のやり取りで、甘い雰囲気を出していた二人に、もしや?あの二人恋人??何て憶測が飛ぶと
票集めに支障が出るとも限らない。それに、ヴォルフラムは先程から、何度も姉上と彼女を
呼んでしまっている。何人かはそれを聞いただろう。それのフォローにもなっている。

「つくづく、キミは敵に回したくないな〜。」



「そういえば、先程カードを配っていた可愛らしい方は、貴方をお母様と読んでいらしたけど?」

ぴくり・・!

「えぇ、その飛び切り可愛いのが、うちのグレタです!」
どうやら、アグラーヤ嬢の一言がコンラートのママスイッチを押してしまったようだ。先程と
うって変わって、親ばか全開にしたコンラートに、少し押され気味のアグラーヤ。


「もう、お母様ったら!」
貴賓席で真っ赤になるグレタは、そう言いながらも、どことなく嬉しそうだ。


「まぁ、そうですの、ホントに愛らしくも利発そうな王女様でしたわね。」
「はい、ありがとうございます。」
にっこり

コンラートの満面の笑顔に、アグラーヤの顔に朱がさす。娘を褒められて嬉しかったらしい、
コンラートが、ついうっかり素で微笑んだからだ。つまり、天然フェロモン王子の大量の
フェロモンが、アグラーヤを直撃した。ドキドキと打ち出す鼓動をごまかすように、
アグラーヤは手近な材料をつかむと、自身の調理 スペースへと逃げるように戻った。


一方、その様子を貴賓席で見ていた魔王陛下は気が気じゃない。
こんなに美人ぞろいの中に、有利の王子様を投げ入れてしまったのだ。現に女性の姿であるに関らず、
たった今一人落とした模様・・。この調子で、大会中に他の出場者までも陥落しない事を、祈らず
には、いられない有利だった。


が、魔王の心、護衛知らず?コンラートは、彩の綺麗な食材を数点確保すると、ヴォルフラムの
調理台に置いた。

「ヴォルフ、盛り付けっていうのは、その人の芸術的センスを試される物なんだよ?ヴォルフなら、
簡単な料理も、一流シェフのように仕上げられるに違いないよね。^^b」

「そ・・そうか!?」

「これなら、さっと湯通しするだけで、いいから・・・うん、焼いたり、煮たりしないで、
湯通しだけで綺麗な色が出るよ。きっと、絵心のあるヴォルフじゃないと仕えない食材だよね。」

「なるほど、まぁな・・僕ならたしかに、最大限に引き出せるだろう!」

何気に、余計な調理はするなと釘を刺されたことを気づかない、わがままプーは見事コンラートの
術中にハマッタのであった。



「本当に、君だけは敵に回したくないよ・・・。」

司会者席で、げんなりとその様子を見ていた村田がこっそり呟いた。




2008.10・21UP
一ヶ月以上あいてすみません。美人コンテストってどう書けばいいんだろうと?
よくよく考えたら、見たことなかったぁぁ!!
色々調べたんですがネット上では、詳しくは乗ってないんですね。_| ̄|○il||li
それと、謎賭け問答・・問題が・・・右脳だけで生きている私にはよくわからん。
あの数行だけで何日かけたのかは秘密さ。
最近、書いているより調べている時間が多いです。