長編パラレル ママシリーズ 狂想曲
狂想曲 第参幕 先制攻撃






「その軍服・・もしや・・ウェラー卿コンラート閣下!?」
謁見の間、王座の横に立ったヒスクライフ氏は、進み出た魔族の女性を見て、我が目を疑った。
いや・・写真なるもので、その姿を見たことはあるのだが・・これは・・!


背に流れる少し癖のあるストレートの髪、涼し気な目元、薔薇色の唇をもつ文句なしの美女。
彼の知っているウェラー卿コンラートという青年は、美形ではあったが、軍人としての精悍さを
併せ持つ為、男前という表現が似合う青年だ。だが、その彼が女性化すると・・こうも化けるものか?

精悍さは凛々しさに変り、丸みを帯びた表情には、彼本来の穏やかな性格が現れて、甘さ
へとかわり、魅力的な女性へと変貌していた。これは、男性からも女性からも人気が出そうな・・。
現に、彼の女性が入ってきてからと言うもの、警備の兵士の目にはハートマークが、官僚連中は、
そろって口を半開きだし、女官までもが頬を染めている。無理もない、彼と面識のある自分でさえ、
胸が高鳴るのを抑えられない。もちろん、面識のない彼らにとっては、天女が目の前に舞い
降りたかのような衝撃だろう。


「おひさしぶりです、ヒスクライフ殿下。」
彼女・・いや彼か?そう挨拶をすると、少し困ったように小首を傾げて付け加えた。
「ちょっと訳ありでして、このような姿で失礼致します。」

イイ!守ってあげたーーーい!
困ったことなら、何でも相談してくれーーぇぇ!!

と、謁見の間を守っていた兵士の心の叫びが、ヒスクライフには聞こえた気がした。部屋の警備の
兵士が一番危ないと、ひしひしと感じた一瞬・・。ヒスクライフは、後でまとめて特別訓練(しごき)を
しようと心に決めた。


「あ・・いや・・訳と言うのは大体察しが・・たぶん家の娘もからんでいる事ですから、かえって
こちらの方が申し訳なく・・。」
そんな事を考えながら、しどろもどろででかえすと、突然自分の後ろから少女の形をした
突風が舞い込んできた。
「お父様!ウェラー卿がお見えになったって本当!?」
「これっ!ベアトリス。」
王座の後ろの扉から、謁見の間に飛び込んできた少女に、ヒスクライフは驚く。普段こんな無礼な
ことをする娘ではないのに。

「お久し振りです、ベアトリス王女殿下。」
しかし、コンラートの方は、さして気にする風でもなく、悠然たる微笑を浮かべると、この国の次期
女王陛下になる少女へと、臣下の礼をとった。

「きゃぁぁぁ!!すてきーー!グレタから聞いていた通りだわ。なんて素敵なお姉さまなんでしょう!」
「こ・・これ、ベアトリス!何をはしたない声を上げるんだ!」
いきなり、興奮した声を上げた娘に、ヒスクライフは完全に慌てふためいた。しかし、当事者二人は
いたって和やかだ。
「王女殿下に、そういっていただけるとは、身に余る光栄です。」
その優美な所作、甘い声、凛々しくも爽やかな風体。ベアトリスのみならず、謁見の間にいた兵士や
官僚までもが、魅了されたように彼女を見つめていた。はっと我に返ったベアトリスは、少し赤く
なった頬のまま、父親を見上げると、イタヅラっぽく問うた。
「ねぇ、お父様、ウェラー卿なら競技会も優勝できると思いません?」
それは、問う形はとっていたものの、確信に満ちた声であった。




「お母様!?」
グレタは部屋に入ってきた女性を見て、信じられない様子で ぽかーんと見上げた。
だって。ここは眞魔国ではない。なのに、いるはずのない人が、ありえない姿でいるのだ。纏っている
のは、いつものカーキ色の軍服で、浮かべているのは爽やかな微笑みだし、それはいつもどおりだ。
だけど・・


ありえない、細い肢体。長く風になびく髪。そして、胸に二つのふくらみを持つこの身体。


なんで、コンラッドが?女性になって?カヴァルケードにいるわけぇぇぇ??



そんなグレタにコンラートは近づくと、目の前で膝を突いて両腕を広げるて、愛娘の身体を抱きしめた。
「ひさしぶり、元気でいたようだね、グレタ。」
柔らかな身体からは、潮風の臭いにまじって、大好きな母親のいい匂いがした。
「お母様・・?」
「うん、なんだいグレタ?」
「本当にお母様?」
「うん、本当に俺だよ。」

ぎゅーーっと、グレタはコンラートにしがみ付くと、思いっきり優しい香りをかいだ。

「おかあさまだぁぁぁ!」

「当分、こちらにご厄介になるからね。一緒にいようね?」
「本当?一緒なの?・・あれ・でもなんで?お母様はユーリの護衛だし、いない時も国をあけること
なんて滅多にないのに??」
「あぁ、それは、おれが競技会に出るからだよ。」


・・・競技会?・・・って、競技会っていったら・・まさか!


「ココココ・・コンラッドが出るの??だって・・なんで急に?」

嫌だな〜グレタ・・そのときコンラートの後ろから何かがにじみ出た。えぇ、ナニかだ!

「娘をコケにされて、俺が黙っているわけないじゃないか〜?」


目がマジだ・・一見笑顔でも、目の奥が笑っていない。ここに彼の幼馴染がいたら、何が有っても
逃げ出していたろう。そんな黒いナニか!が、コンラートの背後からゆらりと立ち上がったのだ。

「どどど、どーーして、それをコンラッドが知っているの?」
「うん?何でだろうね?やっぱり、愛かな?」
黒いものを引っ込めて、さらり というが、愛でそんなことが判るわけがナイ。


でも、思わず納得するようなものを彼は持っていた。彼の蕩けるような慈愛に満ちた笑顔には、もれなく
大量のフェロモンが意識的に増加されていた。おかげで、グレタ付きの女官たちは、まぁ、母の愛って
偉大だわ!とか、美しい親子愛ねとか・・何故だかこの怪しい説明で感動の嵐を巻き起こしているのだ!
おそるべし!ウェラー卿コンラート(女性版)!!

さて、この感動的(?)な出来事によって、コンラートは無事、グレタの母親として、すこぶる好意的に
カヴァルケードの城で認知されてしまった。




そして、朝起きて、母親と手を繋いで朝食の席に来てみれば、なぜか当然のように、一応変装をしては
いるが、自分の父であり、国のトップである魔王陛下とその魔王と同等の重鎮であるはずの大賢者が
呑気にもお茶を飲んでいた。・・そして、ベアトリスと和やかに話しているのは、自分のもう一人の父で
母の弟に当るヴォルフラムではないか!?驚いているグレタをよそに、コンラートはヒスクライフ一家に
朝の挨拶を済ませると、いつもどおりに三人に話しかけた。

「お帰りなさい、陛下・猊下。それと速かったな、二人の護衛を苦労様、ヴォルフ。」
「ただいま〜、んでもって、陛下言うな名付け親!ひさしぶりグレタ!昨日はお母様と一緒に寝たのか?」
「お父様・・。」
なんで、そんな何時も通りなんだろう、自分の両親は・・。そして
「やぁ、ただいま〜ウェラー卿。うん、やはりその姿は麗しいね〜。朝から眼福眼福。グレタもおはよ〜。」
「がんぷくって・・・村田・・おまえいくつ・・?」
どこまでも、軽いと言うか・・明るいノリで話すダイケンジャーに、それまた、いつもどおりのツッコミを入れる父。

「おはようございます。『姉上』、兄上が高速艇を貸して下さいましたから。どこかの『姉上』が単身、
先に行かれてしまいましたので・・。」
「ヴォルフ・・だって、申し込みが昨日までだったから・・。ごめん、おこっている?」
トゲトゲしい言葉の中に、心配する響きが有ったので、コンラートは弟に素直に謝る。
「う・・怒っていたが・・無事ならいい。」
「うん、ありがとう。」
「でも、これからは、僕が護衛だからな!不貞な輩から僕が守るから!絶対に離れないように!」
うっすらと赤くなって、フンとふんぞり返るもう一人の父親に、本当に眞魔国にいるようだと、グレタは
おかしくなった。何で来たかなんて、どうでもいい・・彼らがいてくれる。それはとても嬉しいことだから。

こうして、朝から賑やかで楽しい食事は開始された。いつもなら、ヒスクライフの一家の中にグレタが
混じると言う感じだったが、今日は家族同士での食事という感じで数倍楽しかった。

特に、普段からお世話になっているヒスクライフ夫婦と親友のベアトリスに、自慢の母親を紹介できた
ことは、グレタにとってとても素晴しいことだった。すっかり浮かれていたグレタは、あのっ!・・家族達が
次におこすだろう行動の事を予測できたのに、すっかり思い至らなかった自分をちょっと後悔した。





その騒ぎは、突然起こった。

ダンスの教義の時間だった。二人一組になり、交互に男性パートと女性パートを踊りながら練習して
いたときの事、ざわり・・と講堂の後方にざわめきが起こった。


振り返るとそこには、にこやかに笑っている一人の女性と、サングラスをかけその美貌を隠している少年。
女性のほうは、いつものカーキ入りの軍服だが、何故か少年まで同じ色の軍服を着ている。
多分、今回は士官と部下の設定なのだろうか?


「お・・おかぁさま!!??(と、お父様・・)」
「コンスタンツェ様(コンラートの偽名)!?(と、魔王陛下・・)」
驚いたのは、二人の少女だ。朝の食事の時は、来るなんて言ってなかったのに!

「きゃぁぁ、あのかたが、グレタ姫のお母様ですの?」
「えぇ!あの方が?」
「えぇ、だって、写真と言うもので見たとおりの美貌ですわ。」

生徒達は大半が魔族を見るのは初めてだ。しかも、今話題の人である、グレタ姫のお母様である
女性が・・生で現れたのだ。講堂内は、一時騒然となった。

「うわ〜、コンラッド・・女の子達にもモテモテ〜。」
「あははは・・どちらかというと、珍獣ではないですか?」
コンラートが見たところ、始めてみる生物に好奇心を刺激されているような視線を感じる。

ふっと、その中に敵意に満ちた視線を感じた。コンラートは、そちらに視線を移す。
なるほど・・?この中では一際キレイな少女たちの集団。その中心にいる少女が自分を憎らし気に
見ていた。たしかに、美少女だ。数年すれば、名だたる美女の仲間入りをするだろう。
が・・その程度だとコンラートは判断した。

なにせ、コンラートのすぐ横には、今はその美貌を隠してはいるが、奇跡の美貌と謳われる少年王が
いるのだ。そう、彼女が美女の一人と名が売れる頃、間違いなくこちらは、世界一の美貌の主と
言われるだろう。しかも、彼の場合、さも美しいのはその内面だ。その、内面からくる輝きと比べ
彼女には、それらしき物を感じない。これくらいなら、主にお出ましを願わなくとも、自分と弟だけで
十分だろう。


そう、十分に、可愛い可愛い(以下略)愛娘を愚弄した分を、とくと後悔させてやろう。



ぞくり!

一瞬駆け抜けた悪寒に、セロシアとその取り巻きの少女達は身震いをした。



「ふーん、あの子達がグレタに、けんか吹っかけた連中か?」
「ゆー・・いえ、ミツエモン?」
「へ〜、たしかに皆、美少女だ〜。特に真ん中の子、なんか正当派美少女って感じだよね!」
ウキウキと、そんな事を言うユーリに、コンラートの殺気が増した。


前言撤回!後悔なんて生ぬるい・・・、徹底的に・・つぶす!


「ひぃ!?」
ぞぞぞぞぞぞ!!!!

先程の比ではない悪寒に、セロシアは襲われた。
(な・・なんですの?この寒気は?)

ふっと、視界に映ったのは、件の女性。目が合うと、にっこりと優しげな微笑をうかべる。
その余裕のある表情に、ムッとして視線をはずしてしまった。だから、気付かなかった。
件の女性の側で、真っ青な顔をしている少年の存在に・・・・。


「コココ・コンラッドさん、何を怒っていらっしゃるんですか?」
「いえ、怒ってなどいませんよ?はい、ぜんぜんっ!」

いやぁぁ!!怒っています!だって、殺気がビシバシ、横からあたるんだもん!!



「コンラッド、怒ったりすると、折角の美貌が台無しだぞ。」
えへへっと、へラッと笑って、ご機嫌を取ろうとする魔王陛下。ヴォルフのへなちょこーと言う声が
聞こえた気がするが無視だ!だって・・怖いモンは怖いんだぁぁ!!(号泣)
「美貌だなんて、口の上手い事を仰られるようになりましたね?」
ひぇ・・なんだか、殺気が増した気がする。なんでもいいけど、自在に殺気の方向を操るのは
ヤメテクダサイ。回りに気付かれないように、おれだけに怒りを向けないでぇぇ!!


「ねぇ、グレタ?気のせいか、魔王陛下のお顔の色が優れないようだけど?」
ベアトリスが、こそっとグレタに耳打ちをする。それに、思い当たる節でも有るのだろう。
グレタが疲れたように答える。
「多分、お父様がお母様の地雷をふんだんだよ。お母様は、殺気の方向性を操るから怖いって
ヴォルフが言っていたもの。」
きっと、有利がなにか、コンラートの気に触ることでも、発言しただろう。なにやら、一生懸命弁解
しているみたいだし。グレタは、人の観察眼が鋭い。
「でも大丈夫、あの二人は仲良しだし、お父様は無意識にお母様を喜ばせる天然のタラシ
だからって、ダイケンジャーが言っていたもの。」
しかも、周りの少年達から色々吹き込まれているようだ。では、そう評された夫婦はと言うと?


「口がうまいって・・なんだよそれ。おれは本心から言っているのに!」
「ふーん、ユーリはあの美少女達がお気に召したようでしたが?」
・・・しまった。つい、キレイな女の子達を見て、鼻の下を伸ばしたことが、妻の逆鱗に触れたようだ。
「い・・いや!それは一般論でして・・お・・おれは、コンラッドのほうが好みだしっ!!」
「え!」
「ん?・・・・・・」


ぎゃぁぁ、ナニ!力説しちゃったんだろう?


自分の台詞を反芻して、内容に真っ赤になる有利に、コンラートの機嫌は急上昇で良くなった。
「ふーん、そうなんだ
「う・・うん・・・・。コンラッドが一番キレイだもん・・。」
これは本心。どうみても、コンラッド以上にキレイな人はいなかった。彼に勝てる人材というと・・もう
正当派美少年であるヴォルフラムくらいだろう・・そのヴォルフラムは、村田と連れ立って出かけている。

今回の件でアドバイザーを買って出た、村田大賢者は、なにやら色々策が有るようだ。それには
ヴォルフラムが必須アイテムだそうで、・・つーか、アイテム扱いかよ・・ヴォルフ・・。

ちなみに、村田猊下に言わせれば、コンラートが先制攻撃でヴォルフラムがトドメであり、有利は
最終兵器だそうだ。トドメの後に出る最終兵器って何だろう??

「まぁ、僕に任せておきたまえ。だから、ウェラー卿、先制攻撃はキミに頼むよ。」
にこにこ♥
「・・はい、わかりました猊下。」
にっこり♥


あの時の二人の笑みは、なにやらそろって黒かった・・最近コンラートが村田の影響でどんどん黒くなっている
ような気がする。できれば、妻にはこのままでいて欲しい幼夫だった。




さて・・講堂の真ん中では、模範演技を見せるということで、誰か一曲相手をするという話になっていた。
その後数人踊って、このダンスのステップの注意点などを講義するらしい。
セロシアを取り巻く少女達が、すっと真ん中を空けた。なぜなら、こういう時は必ず彼女が踊るからだ。

講師に手をとられ、中央で踊る彼女は確かに上手い。さすが、大公国自慢の姫だ・・どうやら口先だけでは
ないようだな・・。所作も気位の高さが出ているが、品のある動きだ。・・・あぁ、そうか!どこかで見たことが
有ると思った・・・彼女はヴォルフに似ているのか?

あの、気位の高さ、意地っ張りな性格、口がちょっと悪いところなど・・昔のヴォルフにそっくりだ。

だけど・・決定的に違うことが一つだけある・・・・ソレがあるから、俺はどんなに疎まれようとも、弟を嫌いに
なることは出来なかったんだけど・・。


拍手がおこって、彼女達が踊り終わったことに気付いた。少し、考えに没頭してしまったらしい。
踊り終えたセロシアがこちらを見やると、ふふん!と、ばかりに、小ばかにした笑みを向けた。

ので・・悠然と、微笑んで見せる。案の定、気分を害したような顔をされた。まぁ、相手はヴォルフでは
ないから、俺にはドーデもいいことだ・・・が・・。(←有利の心配をよそに既に手遅れ気味のコンラートさん)

セロシアは、コンラートが食えない相手だとわかったのか?標的をよせばいいのにその娘へと変えた。
グレタは、パチパチとセロシアに対して惜しみない拍手をしていた。隣のベアトリスは、仕方無しに叩いて
いたようだが。そのグレタのほうへと、進み出ると

「次は、グレタ様が踊ってみましたら?」
「えぇ!!セロシア様の後なんて!グレタ、そんなに上手くないしー」
模範演技の後に踊るように勧められて、グレタはあわあわと慌てていた。普通、もっと年長のものが踊って
グレタたち年少の少女は、講義を聴いているほうなのに!
「あら?だから良いのではないですか?下手さが伝わって、何がおかしいかよく解るでしょう?」
コロコロと愉快そうに笑う美少女に、グレタの顔色がさっと変った。悪意に当てられ、真っ青になっている。


そして・・娘を馬鹿にされたコンラートの背負うオーラの色がさっと変る・・・純黒(じゅんぐろ)に!!


「陛下・・すみません、この喧嘩・・買ってもよろしいですか?」

いつもなら、それを止める有利も、相手は自分と同じくらいの年である少女が、まだ小学生の
年である娘を苛める図に怒り心頭になっていた。

「あぁ、子供の喧嘩にしては・・一方的過ぎだ・・加勢してもいいんじゃないのか?」
「では、陛下・・しばしお側を離れさせていただきます。」
「あぁ、存分にやって来い。」 ニッ!
「もちろんです・・。」 ふっ・・。




グレタは、ぎゅっと服の裾を掴んで、口を引き結んで嘲笑に堪えている。その手を、ふっと暖かい手で包まれた。
顔を上げると目の前に、慈愛に満ちたやさしい銀色の星が輝いていた。

「グレタ、おいで。」

コンラートが、グレタの手を引いて中央に進むと、少女達はざわめいた。一体何をする気だろうと?
すると、その女性は紳士が淑女にダンスを申し込む時のように、優雅に膝を折りグレタの前で
礼をとった。すっと、グレタのほうに向けた眼差しは、悪戯を仕掛けるように、キラキラ輝いていた。

ふっと、その目に肩の力を抜いたグレタは、淑女のようにドレスの裾をもって、ちょんと可愛らしくお辞儀をすると
コンラートの差し出した手をとった。すると、それを合図にしたように、楽団による演奏が始まり、


タンッ!!


と、二人が軽やかにステップを踏み始めた。ほぉ・・と周りの少女達から、羨望のため息が流れる。
軍服を凛々しくも纏う男装の麗人と、軽やかに舞う可愛い少女。先程の模範演技と、見劣り
することもないどころか、その優雅なステップに、時折混ぜられる遊び心のあるアレンジ、一度見た
だけのダンスを、その女性は見事に昇華し、一段上のダンスへと変えていた。

「な・・何者なの!あの女!?」
セロシアは、その動きのみで彼女がただの女官でない事を見破った。生まれながらの大国の姫である
彼女はコンラートの纏う元王子としてのオーラの輝きを察知していた。

そう、コンラートは、普段は庶民派と自負しているが、実際はどんなに崩していても、王子としての品位のよさが
所作ににじみ出ているし、あの!フェロモン女王ツェリ様より、三兄弟で唯一そのフェロモンと継いだ息子でも
あった。しかも・・女性化でそのフェロモンは、母親を凌ぐかと言うほど、増大している。そこに英雄としての
カリスマ性もあわせもつ、有利に言わせれば出来すぎた男だ。その、自分の要素をまったく隠そうともせず、
コンラートはこの場にいた。その結果・・。


そして・・二人が華麗にフィニッシュを決めると、わぁぁぁl!!!と割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響いた。

「さすが、ウェラー教・・教祖さま・・ここでもモテモテかよ・・ちくしょーうらやましー。」
そう、有利が嘆くとおり、コンラートの周りには、少女達が挙って押しかけ、我も我もとダンスの相手をせがんだ。

「うわー、お母様モテモテだね。」
「あははは、グレタ・・どうしよう?」
流石に、困った様子のコンラート。そこに、人垣を掻き分けて、ビー玉のような目をキラッと輝かせて、
ベアトリスが駆け寄ってきた。
「流石だわ、コンスタンツェさま!とても素敵な踊りでしたわ。」
「ありがとうございます、王女殿下。」
にっこり


コンラートが、ベアトリスに涼やかに微笑みかけると、さぁ〜と爽やかな涼風がふいたようだった。眞魔国名物
ウェラー卿のさわやかスマイル(女性版)である。すると、周りの少女達がきゃぁぁ!!と黄色い悲鳴を上げた。

「ベアトリス様!ベアトリス様の言うとおりですわね!あの方こそ、私たちが目指すべき淑女の鏡ですわ!」
「ふっふっふ、そうよ、当然よ。淑女たるもの、顔だけじゃね〜。ふふん!」
そして、何故か鼻高々なベアトリス。彼女としては、いつも自慢たらたらなセロシアに一泡食わせたことが
溜飲下がる思いだったらしい。なにせ、親友のグレタにさっきはあんなに酷い事を言ったのだ!先程は、
あまりの怒りで言葉が出なかったくらいだ。それを、コンラートは、言葉でも力でもなく、同じダンスを見事に
踊ることで正面きって、受けて立ってくれた。こんなに、正々堂々と勝利を収めてもらえて、もう喜び一杯だ!


「コンスタンツェさまは、グレタ姫のお母様ですもの、わたくし、グレタの親友として『競技会』では、
コンスタンツェ様を応援いたしますわ!!」

事実上、同じ学校から出場するセロシアを、誰が応援するモンカーー!と、喧嘩売った様なものである。

「ちょっと、ベアトリス様!いくらなんでもっ!」
その発言に、セロシアの取り巻きの少女が何かを言おうとしたが、それを遮った者がいた。

「わ!・・わたくしも・・だって、グレタ様には何時も優しくしていただいているもの!」
「私も、何時も庇っていただいているもの!」

年少の少女達だ。先日、賭けに巻き込まれた少女達。それに励まされたように、声を上げる者が
でた、殆どが年少のものであろ。日ごろ、セロシア一派に、大なり小なりやり込められた所を、グレタに
助けてもらったことがあるもの達だ。それと、年長のものでも、彼女らの行き過ぎを快く思わない者が
数人加わった。





「へ〜それが、『コンスタンツェお姉さまを応援する会!』かい?」
大賢者が、グレタとベアトリスの話を、面白そうに聞く。確かに先制攻撃をして来いと彼らを送り出したが
そんな面白そうなことにまで発展するとは?・・まったく、さすがはウェラー『教』だ。

彼のカリスマ性は、もはや宗教にまで発展しそうな勢いだね〜。

「まぁ、僕の方もうまくいったよ。やはり、フォンビーレフェルト卿がいると違うね〜。」
「ヴォルフが?? 村田?お前、一体何してきたの?」


ふっふっふ!実はね!僕は、競技会特別顧問になったんだ!!



「へぇ〜さすが猊下ですね。」(←コンラート)
「「うえぇぇぇ??」」(←色々な意味ー含・コンラッドの反応ーで驚いているユーリ・グレタ親子)


むらたーーー!本当にマジで何してきたのーー!!!??






8月24日UP
ども・・遅れていますね。まったく種類の違う小説を並行して書くと、頭が切り替わりにくいです。ぐはっ!
狂想曲も3になって、ウェラー卿のタラシの実力が発揮!お姉さまを応援する会が発足しました。
4では、村田猊下の暗躍部分を書くと思います。暗躍?というより・・悪戯を仕掛ける感じ?
次回・嬉々とした村田さんとげっそりしたヴォルフラムさんを、書く予定です。今回・・お庭番がいないので
犠牲は彼になるでしょう・・。アーメン!