長編パラレル   ママシリーズ 狂想曲11





魔族・・・それは恐ろしき闇の民。

この世の厄災は、全て闇の民である魔族の仕業であり、彼等は虎視眈々と光の民たる人間の世界を征服し、
この世界を忌まわしき闇の世界へと変えようとしているのだ。
あぁ、神の子たる人間よ!闇の王・・魔王を倒し、この世界を光で満ちる浄土へと導くのだ!



「と、4千年にも渡って伝えられていたことが、いかに馬鹿馬鹿しいことだったか、実感できる光景ですわね・・。」
と・・遠い目をしてつぶやいたのは、銀の髪を風になびかせているアグラーヤである。

「えぇ、本当に・・・誰が言い出したのか?魔族が闇の民ですって・・良く考え付いたものです・・。」
と、ありえませんわね〜〜と、乾いた笑いをこぼすのは、バルバラであった。

「本当に・・眞魔国の方は・・明るい方ばかりで・・・」
と、フォローを入れてくれたのは、ディアーヌである。

「すいません。能天気な国民性で・・。」
と、何やら申し訳なく謝ったのは、コンスタンツェこと、コンラートであった。その頬は、羞恥に赤く染まっている。


確かに、国賓であるお客様を、連れてかえるに当たって、迎えに来てほしいと、白鳩便を飛ばしましたよ?
でも・・・でも、なんで!?

横断幕やら!そろいの半被やらを着た連中で、港が埋め尽くされているんですかぁーーー!?

どういうことなのか!説明してもらいますよグウェン!!




慌しいが充実したカヴァルケードでの日々を終えて、再び船に乗って帰国を果たしたコンラートたちと、
招待されて、そのままついてきた三人の美女達は、ただいま笑劇の光景に出くわしていた。


海を抜けるとそこは?超ー!浮かれた国民がいましたトサ・・・?






妹(?)の殺気つきの視線を感じて、ピクリとグウェンダルのこめかみが震えた。
国賓である三人の美女を迎えるべく、馬車と共に来ているのだが・・・はっきり言って、国民の浮かれ騒ぎようで
何がなんだかわからない。

発端は、なんてことはない。競技会に眞魔国の代表が出ると聞きつけて、新聞社であるシンニチが取材ちーむを
送り込んだのだ。彼等から、ヴォルフラムとコンスタンツェの快進撃の様子が伝えられ、二人で1・2位を
独占したことで、国民が一気に祝賀ムードに盛り上がったのだ。

くわえて、ヴォルフラムは、元より麗しいとの評判も立っていたのだが、その彼を抑えて優勝した謎の美女(笑)の
絵姿が、眞魔国の王都を中心とする兵士(男性7割・女性3割)に出回っていたのが大騒ぎに発展した原因だ。

しかも、その絵姿を、シンニチが手に入れてしまったのだ!シンニチに特集が組まれ、表向きである
『グレタ付きの女官・フェラー卿コンスタンツェ』の経歴も広まってしまった。

グウェンダルは、すばやく血盟城内に戒厳令を発令し、彼女の正体・経歴について一切の公言を禁止した。
もし話したら、赤い悪魔の『一生もにたあ』に、されると聞いて、皆頑なに口を閉ざしたのであった。

だが、グウェンダルもここで大きな誤算があった。秘密にすることで彼女の神秘性が高まり、人気も高まって行ったのだ。
そしてできたのが、とある組織だ・・発起人は・・なんと、グリエ・ヨザック!

-- 確かにグリエは、私の部下だ・・だがな、その前にお前の幼馴染なのだから、断じて私のせいではないぞっ!!
グウェンダルは、眉間のしわを一本増やしながら、物騒な視線を投げる妹(?)に、心の中で反論していた。



「もう、酷いわ!隊長に猊下まで、俺が任務で居ない間に、こんな面白そうなことをして〜。」

そう、本大会が終わったあと、帰国したヨザックは、事の経緯を聞いて今からでも参加しようと、ファンクラブを
立ち上げたのだ!当然、コンラートのではなく・・コンスタンツェのである。

揃いのピンクの半被に、ピンクのハチマキ、手にはうちわで、それぞれがコンスタンツェ嬢に向けた熱いメッセージ!を
書き記している。その後ろに掲げられている横断幕には、『LOVE!コンスタンツェお姉さま』と書かれていた。

船が近づくに連れて、はっきりと見て取れるようになった浮かれた一団をみて、コンラートは内心上陸したくなくなった。
異様な集団の先頭に立っているのは、キレイに女装したグリエだ。何の対抗意識を燃やしているんだ?と、幼馴染は、
船上から胡乱気な目を向けていた。


「大体、ナニがお姉さまだ・・・俺はお前より年下だぞ。」
「ウェラー卿・・・怒るポイントは、そこじゃないから。」
「でも、半被とかうちわとか?これって、日本のものだよな?なんでヨザックが知っているの?」
もっともな疑問を、有利が口にするも、それは当然・・。

「えーと、やっぱり、僕のせいかな?」
はいっと、村田様が自主申告で手を上げた。以前、萌えの文化やアイドルについて、熱く持論を展開した時に、
FCという物の知識まで与えてしまったようだ。まさか、それを活用するなんて・・ヨザめ・・後でお仕置きだ。

「ねーねー、ダイケンジャー。ふぁんくらぶってなに?」
そう無邪気に聞いたのは、今回特別に一緒に帰国したグレタだ。
「そのヒトが好きで応援したい人々の集まりかな?そういえば、有利にもあったよね?ぞっこん!LOVEっていうのが。」
「村田・・・それはギュンターだよ・・。」
がっくりと、有利が肩を落とす。だが娘の方は、そんな父親よりも、岸に見える光景の方が気になるらしい。
「ねーねー、あっちのは、ヴォルフラムのファンクラブみたいだよ?」
「なにぃぃーー??」

そういえば、グウェンダルのいる馬車をはさんで、対抗するように、揃いのバンダナに、揃いのTシャツ、手には
こちらはどう見ても扇?に、やはりそれぞれの熱いメッセージを書いて手を振っているその後ろには・・・
『元祖・ツンデレ!プーを愛でる会』と書いてある横断幕が!?

「だれが、プーじゃり!!」
「それより見ろ!先頭にいるのは!?」
有利が指差す方向を見た、ヴォルフラムの顔色が青くなる!なんと、先頭に腕を組んで立っているのは、
軍曹モードのギーゼラ閣下ではないかーー!?

「ななな・・なんで、ギーゼラが・・。」

「そりゃ〜?」
「そうだよね〜?」
双黒二人が、気の毒そうに友人を見る・・・鬼軍曹が、ひそかに三男を狙っていると、アニシナから聞いたことが
あったのだ。長男が、毒女に・・三男が鬼軍曹に・・・それぞれ中々個性的な女性に見込まれている。

その真ん中の次男は、現在、己が女性だし・・・。

「いや〜、面白い、三兄弟だね〜。」
「他人事だからって、ナニを呑気な〜〜ぁぁ!!」


さて、いよいよ。上陸である。まずは、護衛の兵士に連れらて、双黒二人が降りる。その後ろには、護衛の
ヴォルフラムがついて歩き、その後に、国賓である三人の美女・・そして、一緒に帰国したグレタ姫の手を
引いて、噂の美女、コンスタンツェが降りてくる。

港にいた者達は、国の宝ともいえる双黒と、眞魔国代表で激戦を勝ち抜いたヴォルフラム、そして国交のない
人間の国から訪問してくれた三人の美姫にと、降り立つたびに歓声を上げる!

そして最後に、この世界一の美女の栄冠を眞魔国にもたらし、偉業をなしとげた自国の美女が降り立つと、
割れんばかりの歓声が響いた!

「まぁ・・すごい歓迎ですわね!」
「えぇ!まったく!」
お互いに怒鳴りあわないと、会話も出来ない中、一向はグウェンダルの元へとあるいた。
グウェンダルが、うるさいというように片手を振ると、それを見たグリエとギーゼラが指示を出したのか?
ぴたりと、大声援は止まる。



「お帰りなさいませ、陛下・猊下・王女殿下。それと、ようこそいらっしゃいました。アグラーヤ姫・バルバラ姫・
ディアーヌ姫、我々魔族は、貴方方の来訪を心より歓迎いたします。」

静まった中を、グウェンダルの威厳に満ちた重低音が流れると、港に集まった魔族たちが一斉に、異国からの
美しい訪問者に礼をとる。港には実は規制が張られており、前列を占めているのは全員軍人だ。
彼らが、壁の役目をしているのだ。本来なら、港自体に規制をはりたいところだが、民衆から楽しみを奪うのは
良くないだろうという、配慮からこうなった。

なによりも、真の魔族を解かってもらいたいという、王の意思を汲み取った結果がコレなのだろう?
コンラートは正しく兄の心のうちを読み取って、口元に穏やかな笑みを浮かべた。

姫君も、そのおつきの者達も、初めての魔族の土地へ降り立つというので、多少緊張した面持ちがあったのだが、
諸手を上げての歓迎振りと、その中でも理知的な対応を見せる男に、魔族は長年言われていたような野蛮でも
残酷でもない、明るく知的な文明国であることを感じて、胸をなでおろしていた。

頭でわかってはいても、それこそ生まれた時から刷り込まれている、恐ろしい魔族への不安は、どうにでも
なるものではないらしい。それが、肌で間違いであると感じられて、人々の間に余裕が出来た。
魔族の代表者による挨拶に、三人の姫君を初めとする人間たちも、自分達が国の代表であることを思い出し、
返礼の作法もそれぞれ違うが、きちんと礼を述べるのであった。


じゃぁ、紹介しますね。

「こちらが、コンラッド達の兄で、おれの摂政をしてくれているフォンヴォルテール卿グウェンダルです。グウェン、
こちらが競技会で仲良くさせていただいた方々なんだ。」

出迎えの挨拶をした摂政に、魔王がお互いを紹介した。

「姫君方は、コンラートとヴォルフラムと一緒の馬車に。二人とも、姫君たちの護衛を頼んだぞ。」
「わかりました兄上。」

「陛下と猊下、それに王女は、私とこちらの馬車に。」
「え〜、グレタも、お母様達とがいい。」
「グレタ・・お父様じゃ不満か・・がく・・。」

「各御国からの皆様は、それぞれ馬車を用意しました。船旅でお疲れでしょう、先に城へとご案内させましょう。」
すると、一行の内、年高の女官らしき女性が、すっと前に出てきた。

「あの、姫君方を、あの馬車に乗せるのですか?」
心配そうな視線の先には、自分達の姫様を乗せるという馬車がある。大きく美しい車体は、乗り心地も悪くは
なさそうだが、なんと屋根がなく高貴な姿をさらすようになっていた。

「警備に問題はないように配置されています。」
「いえ、そういうことではなく。」
「いいのよ、せっかくのご好意ですもの。私達はこの馬車で参ります。」
言い募ろうとする女官を、アグラーヤが押しとどめる。そして、他の二人の姫君と共に、馬車に乗り込んだのであった。

そうして、一行は王都を抜けてゆく。



所変われば、品変わるというが・・・。

魔族の王都というだけある、目抜き通りは整備されていて、建物の窓には色とりどりの花が育てられている。
その窓からも、王都の民達が手を振り、花を投げてくれている。

魔族というのは、こうも友好的なのだろうか?たとえば、アグラーヤの国では、名家でる彼女の一族それも
姫である彼女が道を通るときは、だれもが頭をたれて高貴な者に道を譲る。だから、先程の女官長も異議を
申し立てようとしたのだ。

なのに、この眞魔国では、先を走る馬車からは、王と王女がにこやかに挨拶を返すし、民の方も気さくに声を
かけている。かといって、彼らが王を蔑ろにしているかといえば、賢君と名高い王に人々は敬う気持ちもキチンと
もっているのだ。


ここまで、慕われる王が、人間の国には、いるだろうか?


「お国だと、こういった経験はないでしょうね?」
見透かしように、コンラートがアグラーヤに話しかけてきた。

「え・えぇ、このように、民に混じることもございません。」
「そうですね、殆どの国では、民は高貴な者の姿を見ることも許されないものです。」

「私の国でもそうですわね。身分が上の者に、下の者から話しかけることはございません。」
「すいません、うちは小さくて・・・皆一緒くたに働いていますので。」
バルバラも肯定すると、ディアーヌが恥ずかしそうに、うつむいた。

「ディアーヌさまの国は、国の気候が厳しい場所。国民が一致団結して力をあわせる必要がありましょう。
その中で民に混じり、引っ張り、指導力を発揮する貴方の父王は、素晴らしい方だと、俺達は思いますよ。」
にこにこと、コンラートが意見を入れる。相変わらず博識でタラシな兄だと、ヴォルフラムは舌を巻く。

「この国でも、ユーリ陛下が即位なさる前は、他の国と同じでした。ただ前を横切った・・そんな理由で命を
落とした者もいます。ですが、命に上下は無いといいきり、人の価値は生まれではなく、歩んできた道のりで
決まるのだと。そうして、民の中に混じり、民のためにある王となられる道を選び、実践いたしました。」

歴代の、どんな魔王でも成し遂げなかったことです。

民は、王や貴族の為にある。そう公言する物の多い中、まったく逆のことを成し遂げてゆくコンラートの唯一の王。


王は民の為にある!!

そう力強く宣言した、若干16歳の少年王・シブヤユーリ。

「この国は強いですよ。命令されたからではなく、慕う王の為に一人一人の民が動くからです。」

そのエネルギーが、今は発展にと向かっている。

「すべては、陛下が戦争はしない。人間との共存を掲げているから、民は安心して暮らせる。それが、
この国を支えている基盤です。」
「まぁ、アイツはへなちょこだが、我が王としては、アレ以外を掲げる気はない・・。」
ヴォルフラムが、少し誇らしげにそんなことを言う。

「それ、ユーリにちゃんと言ってあげればいいのに。」
「なっ!?・・いいんだ!それでも、まだまだへなちょこなのも、本当だからな!」
「はいはい。」
「言うなよ。」
「どうしよっかな〜?」
「姉上ぇ!!」
何やら馬車上で、楽しく戯れる兄弟達。だが、一般の民は、コンスタンツェが、コンラートであることなど
知るわけもなく。後日、この様子を見聞きしたシンニチにとんでもない記事を書かれてしまい、えらい迷惑を
こうむることになるのは、実は前の馬車に乗るこの人。

「何をやっているのだ、うちの妹と弟は?」
眉間に皺を増やしたグウェンダルの視線の先には、姉にじゃれつく弟のの横顔と、それをかわす妹の後姿だ。

「なになに?あ、ヴォルフめ!コンラッドに甘えているな。」
「まぁまぁ、しーぶや、あれはコンスタンツェさん。城の外ではいい間違えないように。」
「そうだよ、おとーさま。あれは、グレタのお母様なんだけらね!」
と、胸を張るグレタ。なにせ、世界一の母親だ。堂々と自慢できるので、うれしいのだろう。




やがて、小さな女の子が、コンラートたちの馬車に走りよった。
「お姫様!お花をどうぞ〜。」
馬上から警備についていたものが、すばやくそれを受け取ると、コンラートへと渡す。コンラートはさっと見て
異常がないと判断すると、花束を三人に渡した。

それは、小さな花束だ。きっと、一生懸命摘んだのだろう。すでに後方で小さくなった女の子に、三人が小さく
手を振ると、彼女は嬉しそうに大きく手を振りかえした。彼女の後ろで会釈するのは、その母親だろう。


その小さな花束をいじりながら、ディアーヌがぽつりと言った。
「きれいな花・・私の国にも花はありますが、こんなに色とりどりの花はありませんわ・・・。」
「国民にも見せたいですか?」
「えぇ・・・見せてあげたいですわ。でも・・あの国ではコレだけの花は望めませんわね・。」
彼女の国は、その三分の一が砂漠だ。

「では、その砂漠を緑に変えませんか?」
「!!そんなことが、魔族にはできるのですか?」
「いいえ、魔力は関係ありません。これは技術ですから・・。砂漠で草木が育たないのは何でだと思いますか?」
「土地がやせているから?」
「いいえ、土が動くからです。ですから、まずは土地が動かないように固定し、丈夫な草を植えます。草が定植し、
虫が集まります。その虫の糞や枯葉は肥えた土と変わりはじめたら、今度は動物を放します。草食動物の糞は、
栄養になり・・ここで、生命の循環が出来ます。やがて、木や花や野菜も植えられるだけの超えた土地へと
変わるのです。もちろん、5年から10年は掛かります。それでも、緑が増えれば土は水を蓄える力を得、やがて
国全体が、豊かな自然をえれるようになるでしょう。」
「ほんとうですか!?」
「理論上は可能です。詳しくは、猊下にお聞きください。猊下なら、お国にあった計画をも提示してくれるでしょう。」

「まぁ・・すばらしい。ディアーヌ様、早速お城に着きましたら、猊下に相談いたしましょう。」
バルバラは、自分のことのように、はしゃいだ。

「そんな技術まであるとは、眞魔国は、一体どれほど進んでいるのでしょう?」
アグラーヤが目を白黒させて、コンラートを見た。じつは、地球で仕入れたNASAブランドの知識なのだが・・・
それは、この際黙っておこう。

やがて、王都を抜け、王城へと差し掛かった。その途中には・・・。

「ヨザ・・・。」
「ギーゼラ・・・。」

思わず、兄弟二人が、苦笑にも似た呟きを漏らしたとしても、それは致し方ないだろう・・なにせ?

道の右側には、ピンクの半被の野郎共が、ずらーーと並び、反対側には、青いTシャツのお姉さまたちの集団が
これまた、ずら〜〜りと並んでいたのだ。

「きゃぁぁ!コンさま〜、優勝おめでとうございまぁぁーす。いやん、こっち向いてぇぇん♥♥」
「絶対にいやだ!!」
ぴょんぴょん跳ねながら、黄色い声援を送るのは、まさしく自分の幼馴染の男だ。揺れる鳩胸、見るに耐え難い
逞しい上腕2頭筋むき出しのミニドレス・・・すいません陛下、今すぐこの男を切っちゃってもイイデスカー?

「ヴォルフラム閣下ー!『準』優勝オメデトウございます♥」
「ギーゼラ・・今、準を強調したな・・。」

にこにこっと、手を振るギーゼラに、ヴォルフラムの顔が引きつる。
「こら!プー!人が祝辞を言ったら、礼くらいいわないかー!」
「はいぃぃ!!軍曹殿!有難うございます!」

思わず馬屋の上から、直立不動で立ち上がったヴォルフラム・・。
「ヴォルフ・・危ないから座りなさい。」ーー;


それにしても面白い、ピンクの半被を可愛く着ているグリエちゃん率いるCFCは、血盟城の兵士を中心に、ほぼ男性で
占められていた。逆に、ワイルドな いでたちのギーゼラ率いるPFCは、ほぼ女性で占められている。

二人の性別からすると、コレは当然のようだが・・・

PFCのメンバーは、「プー閣下を守って差し上げたーーい!」だの、「可愛いプー閣下を愛でたい〜♥」だの
という声が多い。
では、CFCといえば?「お姉さまに、鞭で打たれたい!」だの、「あのおみ足で蹴られてー」だのというM派な人から、
「微笑んでくれているだけで十分。」だの、「お嫁さんにしてー」だの夢見ている人々で構成されていた。

そんな、道の両側からの声援を浴びつつ、馬車はゆく。こうなれば、早くここを過ぎ去り、城の中に逃げ込みたい!!

えーーーと?
その二人の様子に、姫君たちは、ただならぬものを感じた。

「お二方とも、大丈夫ですか?」
「すいません、みっともない所を・・・。」
コンラートは、恥ずかしさで、やってられない気分になった。

「あの、あの方達は?」
「気にしないでくれ!いいや、いっそ記憶から消してくださるとありがたい。」
ヴォルフラムも、乾いた笑いを貼り付けつつ、沿道のPCFたちに手を振りながらも、言葉はむなしさに満ちていた。

「「「はぁ?」」」

魔族というものは、技術もさることながら、そのありようも自分達とは違うらしい。
唯一つ解かることは、この国相手に、いろいろな意味で勝てる気がしないということであった・・・。


姫君たちは、初日から、長い間常識とされていた魔族感を全てひっくり返され、圧倒されていったのであった。





それにしても、初日は驚きましたわね〜。

のんびりと、三人のお姫様たちと、すっかり友人になった母娘は、女5人で気兼ねなくお茶会を楽しんでいた。
入国から3日もたつと、それぞれが名家や王族の出、すっかり落ち着いてここの暮らしにも慣れてきた。

「わたくしなと、未だに驚きの連続ですわ。山一つがお城なんて、大きすぎて私迷いそうで怖いですわ。」
だって、この奥津の城部分だけでも、彼女の家であるお城が数個は入りそうだ。

「いいではないですか、ゆっくり慣れれば、ディアーヌ様は、こちらに留学をするつもりなのでしょう?」
「はい、その時は、よろしくお願いしますね。コンラート様、グレタ様。」


ディアーヌは、これから一度国に帰り、父王に砂漠の緑化をするために、眞魔国への留学の許しを貰って、再び
この国へと戻ってくることを決めた。

なお、身元引受人は、コンラートであり、彼女は普段は農作物の品質改良に定評のある、ルッテンベルクに
住むことが決まっている。あそこは、コンラートが地球から持ち込んだ、色々な作物があるのだ。

「えぇ、こちらこそ、よろしくお願いします。よかったね、グレタ、お姉さんが出来て。」
「うん、グレタ うれしい!」
にこにこ とした、ほほえましい二人に、場は なにやらほんわか〜と和む。


「わたくしも、見識を高めるために、こちらに留学しようかしら?」
そんなことを言い出したのは、バルバラだ。彼女は、ここのお菓子が気に入ったようなのだ。そういえば、
競技会でもお菓子を作っていたな。
「やはり、お菓子でフルコースをつくるには、数々の国のお菓子を習得しませんと、アグラーヤ様のカッティング
技術もぜひ!習得したいですわ!コンラート様の異国の料理というものも会得したいですし!ディアーヌさまの
刺激的な料理もぜひぜひ、自分のものにしてみたいですわ!!」
ふわふわの髪をなびかせながら、意欲に燃えるバルバラ。

「アラ?私も丁度、留学もいいわと思っていた所ですのよ。この国の経済や、数々の革新的な政策はわが国も
見習うべきだと思いますの。ぜひ、勉強してみたいですわね。」
アグラーヤは、こちらの政治に興味があるらしい、グウェンダルやギュンターと政策論議を戦わせている。

「だったら、みなさん、同時期にいらっしゃいませんか?そうすれば、バルバラ様もこちらで三国の
料理を一度に覚えられますしね。」
もちろん、身元保障はおれが引き受けますよと、にこやかにコンラートが請け負う。なにせ、彼の真のベラール王家の
唯一の直系という肩書きは、彼女等の国では絶大な力を発揮するのだ。

「グレタ、お姫さま達の国にも行きたいな〜。」
「そうだね、グレタはこの国の王女としてもだけど、人間としても多くの民とかかわった方がいい。」
色々な国、色々な風習、色々な人々。その人たちを関わりを持つことで、彼女はきっと素晴らしい女性へと育つだろう。

「でも、グレタは、お母様みたいになりたいの!」
「・・・俺?」

「だって、学校の皆も言っていたよ。お母様は、自分達が目指す淑女だって!」
「・・・・いや、淑女って・・・俺は男・・。」
「グレタ、うれしいな〜!」

「いいじゃないですか、なにせ、コンスタンツェさまは、世界一の美女なのだし・・。クスクス。」
「アグラーヤ様」
「そうですわ、私達を抑えての優勝ですもの、しっかりと淑女の見本になってください。」
「バルバラ様まで・・。」
「大丈夫ですわ、コンラート様は、あんなに熱烈なふぁんくらぶ?も、ついているじゃないですか?」
「ディアーヌさま!それだけは、どうか忘れてくださいーー!!」


「ほら、淑女の鏡ですわよ。よかったですわね、素敵なお母様で。」
「うんっ!!グレタのお母様は、最高なんだー!」



晴れやかな娘の笑顔に、まぁいいかと、コンラートも笑う。



ひょんな事からはじめた、ママ業であったが、新しい友人も増え、コレはこれで悪くないな〜なんて
思い始めたコンラートであった。



世界にまで進出した彼のママ業・・。

それも、愛娘が喜んでくれるなら厭わないという彼、確かに母親の鏡だ。
さて、世界一の母親の座を獲得したコンラート。これからどんな困難が待ち受けていても、この男なら
娘可愛さに全て蹴倒して乗り越えてゆくだろう。


行け行けコンラート!


彼のママ業は、今日も続く。






今日からママのつくシリーズ

狂想曲2009年4月4日完結 
皆様、長い間、有難うございました。本編が始まったのが、去年の今日。約一年で、続きのシリーズも
完結までこぎつけました。^^








おまけ・・・


『秘めたる恋を、弟閣下も応援!フォンヴォルテール卿とコンスタンツッェ嬢の、身分を超えた愛の軌跡!!』

と、シンニチにすっぱ抜かれたのは、コンラート達が帰国した次の日の朝刊であった。

「兄さん?これはナニかな?」
「わ・・私のせいではないぞ。元はといえば、お前とヴォルフラムが公衆の面前で、ヴォルフだの
姉上だの呼び合っていたせいではないかーー!?」
「あぁ、あの凱旋パレード?」

そういえば、ヴォルフラムが、自分のことをそう呼んでいたっけ?
それで、姉上=長兄の婚約者という図式が出来たわけか?

「と、いうことは、もしかして僕のせいとか?」
弟閣下は、姉の逆鱗に触れたかと?ビクビクッとした。

「いいんだよ、ヴォルフ、俺もヴォルフの名前で呼んでしまったみたいだし、このくらいなら、
もみ消すくらいできる男がいるから・・・な?ヨザック??」

ヤッパリ指名キタ━━━(;;゚;Д;゚;;)━━……ーー!!

執務室の隅のほうで、ビクビクと震えて小さくなっていた男が飛び上がった。

「やれ。」
「はい!隊長!!!」

短い命令に、とび上がって男はドアの向うへと走り去った。
それを、心底気の毒そうに見送るのは、双黒の二人の少年・・・。

「なぁ、コンラッド。やっぱり、あのファンクラブのこと、まだ怒っているの?」
「あれは、ヨザなりに、キミへ変なちょっかいを出そうとする奴を把握するために、作ったんだから・・ね?
許してあげなよ〜。」

そう、例のファンクラブではあるが、コンラートに熱狂的な思いを寄せる者達の受け皿を作ることで、彼というか
彼女に不埒な行いをするものが出ないように、監視体制の強化もかねているのだ。
現に、フォンヴォルテール卿の元には、ヨザックが作ったファンクラブの名簿が詳細に記されていて、特に
危険そうな者には、同じ会員が目を光らせている。互いに抜け駆けしないように見張らせることで、羊班の仕事も
減らそうという目論みもあったのだ。

「怒ってないですよ・・ぜんぜん!!」
にぃぃっこり!!

おこっているじゃん(ではないか)・・・×4人

この後、ヨザックの必死の働きにより、ゴシップの方は以後出ることはなかった。

かわりに?


『とうとう年貢の納め時?グウェンダル閣下赤い悪魔と近日入籍?永遠の被害者 具・上樽!は、
物語の中だけではなかった!?』

という、話題で盛り上がったそうな・・。なお、ヨザックは、この記事が出る前に、再び国外の任務に
旅立って行った。彼の帰国予定は・・・ない。