長編パラレル ママシリーズ 狂想曲 第十幕 小さな番犬 |
「おかあ・・じゃなかった!コンラッドは、だめったらダメーー!」
そう、コンラートは、自分の母親だ! 一度は失ったあの優しい手を、再び与えてくれたのは彼だ。本当は男の人だけど、そんなことを感じさせず 彼はグレタに母親として接してくれる。今回だって、彼女の窮状を知って、海をこえてやってきてくれた。 そのうえ、競技会で優勝までしてくれた。全部グレタのためだった。 グレタが自分のことを自慢の母親だって言うことに、誰にも文句をいえないような、対外的な裏づけを くれたのだ。 お母様だもん・・・コンラッドは、グレタのお母様なんだもん!! 今更、他の母親なんていらない!グレタは母親を守るために、立ち上がった!! ごぉぉおーー!!!っと、グレタから闘志が燃えあがった。 その声は、セロシアとのダンスが終わり、他の姫君たちに捕まっていたコンラートにも届いた。 素早く身を翻すと、コンラートは娘の元へと走った。 「グレタ!陛下!どうかなされましたか?」 「コンラッド!!大丈夫だよ!グレタがちゃんと守るから!!」 グレタが彼をかばう様に立ち、コンラートはどうしたのかと?有利を見た。視線の先では彼もまた 憮然としている。 「陛下?何でそんなに、二人とも機嫌が悪いんですか?」 「あ〜〜、コンラート兄上・・実は・・。」 説明しようとしたヴォルフラムを遮るようにその時、口を挟んできたものが・・。 「お待ちください!例え、眞魔国王女といえど、国同士の話に口を挟むものではございません。 それとも、我が姫に何か問題でもあるというのでしょうか?」 思いっきり大有りだーー!!ヾ(*`Д´*)ノ"彡☆ と、有利は思ったが、さすがに魔王である彼は言えない。 「ぶぅー!おおありだもん!コンラッドはねー!優しくって美人で料理もうまくって眞魔国一のモテ男なんだよ。」 がっ!その娘は素直に口にしてしまう。なにせ、彼女にとってセロシアは、母親を奪ってゆく敵なのだ! 敵に、学校の先輩も後輩もあるものかっ! 「ぐ・・グレタ様?ソレはどういう意味でしょうか?」 そこに、セロシアもきてしまった。まるで、そんなに魅力的な男性に対して、自分では役者不足ということなのか? ぎん!!っと、グレタがセロシアを睨んだ!うっと、つまる公女・・いつもは、ぼけぼけ〜〜っとした少女だと 思っていたのに、なんなのだろう?この妙な迫力は!? 「あのくりっとした目を怒りに燃やして睨む迫力・・・魔王様譲りだな〜〜。」 「大賢者!いつの間に?」 村田は、そんなところを感心してみた。どうやら、面白そうになってきたから、近くまで寄ってきたようだ。 思わず呆れるヴォルフラムであった。 そして、こちらでも? 「あれ?グレタ様たしか、セロシア様と仲良くするって言っていませんでしたっけ?」 「それとこれとは、話は別よ。セロシアをコンラート様のお相手ですってぇ!?そんなの私だって嫌よ!」 ベアトリスも、反感を持って成り行きを見守っていた。こんな場所では、この国の次期女王である自分は うかつな発言は出来はしない! がんばって!グレタ! 「たしかに、あの素敵な方とセロシア様では・・・私も・・。」 「あのお優しそうな素敵な王子様に、意地悪なセロシア様では・・私も嫌ですわ。」 それにしても意外だ、普段からベアトリスが暴走するのを、グレタが止める方だったのに。 今は王子を背に、セロシアと真っ向から対決モードだ。少女達も、二人の対決を固唾をのんで見守った。 「えっと、グレタ?何がどうしたのかな?」 コンラートが、いい加減この状況が何がどうなのか説明してほしいと思った。 「そうだ!オッフェンバッハだけが、シマロン王国だったわけではない!我が国も、シマロン の一部であった国、コンラート王をお迎えするなら、うちだって!ピッチピチの姫がいますぞ!!」 「は??」 なにやら、変な言葉が聞こえた?今、自分の名前の後ろの敬称がおかしくなかったか?? 「おまちなさい!我が姫とて、負けてはいませんよ、だいたい、そちらのセロシア様は競技会で 順位がついておられないじゃないですか?うちの姫は、最後まで残りましたぞ!」 と、名乗りを上げたのは、例のなべを飛ばしたお姫様の国。 「いやいや、うちだって!まだお若く、今回の競技会に出場できませんでしたが、次の競技会では 優勝することの出来る自慢の姫がおります!魔王陛下!どうか、コンラート様を我が国へ!!」 負けてなるものか?と、魔王陛下に直訴したのは、競技会の審査員の一人ではないか? 「ちょーーとまった!貴方のところは、まだ14歳ではないですか?まだまだ、お子様・・うちには 二十歳の教養豊かな姫がいますよ!」 「ええい!だったらうちは、数で勝負だ!10人いる姫全部つけます。」 「だったらうちは、種類で勝負だ、陛下!うちには、料理のうまいの、掃除が得意なの、芸術に教養が 深いのと、各種取り揃えています!!」 我も我もと、魔王陛下に陳情する各国大使たち。 「へ?ちょっとまって?各種ってなに?10人って何ぃーーー!?」 あれよあれよというまに、有利はおっさん・・いや、各国から集まった大使たちに取り囲まれた。 「いや〜〜すごいね、ウェラー卿・・なんか、ジャパネットタ○ダのように、おまけがどどーーんと ついてくるようだね〜?」 そこに、どう見ても面白がっているとしかいいようのない、大賢者さまがいらした。 ちなみに、ジャ○ネットタカダというのは、大賢者様が好きなTVの通販会社だ。本体に色々付いてくる おまけの分安くしろよ!とか、突っ込みを入れながら独特のしゃべりを堪能するのが好きなんだそうだ。 「・・・・・えっと・・・なんですか?この騒ぎは?」 コンラートは、まだ状況が呑み込めていないらしく、しきりに疑問符を飛ばしていた。 「これは、皆、お前を婿に欲しいと言う申し出だ・・。」 些か呆れて、ヴォルフラムが説明してくれた。 「はぁ?・・・・えっ!?」 やっとわかったらしい、まぁ、たしかに、10人つけるだ、各種とり揃えるだ言われて、それが 縁談だとは思うまい。 それにしても・・・なんかすごい混戦模様だ。 「芋洗い状態ってこんなかんじかな?」 「ウェラー卿、今のこの状況でその感想なのかい・・・・。」 「ちょっと、コンラッド!呑気なこと言ってないで、いい加減助けてーー!」 「魔王陛下!ぜひ、うちにコンラート様を!」 「てやんでぇ!うちのお嬢のほうが、お似合いでぇ!」 「うちのほうが、お買い得でっせ!?」 「いいや、うちの姫アルヨ!」 何か、新たな勢力が、混ざりこんできていないか?? 「なんなんだーーー!!」 「いいかげんにして!コンラッドは種馬じゃないんだからっ!!」 そこに、怒りに体を震わしたのは、グレタであった。 「人数だとか、種類だとかふざけないで!シマロン王国に正当な王だとか!皆、コンラッドの血ばかり見て! そんな人達にコンラッドは渡さないからね!!」 大人達に向かって、威嚇するように牙をむくと小さな王女は、コンラートの足にぴったりと張り付いた! お母様は、渡さないもん! 「グレタ・・・。なんでもいいけど、種馬は酷いんじゃ・・・。」(←そっちの方が気になったコンラートさん) 「そうですわね〜?私もそういう扱いは、どうかとおもいますわ?」 プロイス家のアグラーヤ様!?北の国二つの王国の源流となった名門貴族。そして、今回人間の国で唯一 三位に食い込んだ女性だ。 「皆様、ここは交流会・・・交友を深める場であって、争いあう場所ではないですわ。」 これは、ビスマルク家のバルバラ嬢だ。 「そうですわ。大体、初めてお会いする魔王陛下に対して、皆様失礼でしてよ?」 最後に、アンジュー王家のディアーヌ姫だ。 全員、競技会の上位入賞者達。今争っている女性の中でも、彼女達よりレベルの上の者はいない。 さすがに、彼女達を押しのけて、自分の娘やら自国の令嬢やらを、コンラートに薦めるのは憚れた。 大波クラスの人波に、椰子の実よろしくさらわれていた有利であったが、さざ波程度になって やっと自力脱出できた。いそいそと、コンラートのそばまで来ると、ピットリ ♥ とその腕にくっついた。 これはやらん!!! 父娘がぴったりとコンラートに張り付いて、両脇から大きな瞳を、ぎろりん!!と、睨みすえる。 ターゲットロックオンされた、セロシアは、何やらじりじりっと後ずさりそうになった。 いや・・だめよ、セロシア!貴方は、大陸でも一二を争う大国の姫のなのよ? 競技会では、魔族にまんまとしてやられたけれど、ここで引き下がってはだめ!だって・・・・。 じっと、セロシアがコンラートを見つめる。両脇に邪魔なこぶが付いてはいるが(誰がこぶだぁ!BY陛下) それでも凛々しい王子の美しさは損なわれはしない。 あんな父子の面倒をみせられて、本来ならば専属護衛などという低い地位ではなく、大陸一の王とも 名乗れるはずのお方が、なんとご不憫な!あの方を真のお姿に戻せるのは、きっと私しかいないのだわ。 そう、これはきっと!運命が私に与えた使命なんですわー!! 「勝手に、運命にしないでください、セロシア様〜?」 「きゃぁ!何で考えいることが!?まさか、グレタさま?あなた 実は魔力をもっているのね!?」 驚く公女に、脇からそっと外務大臣が進言する。 「セロシアさま。さっきから、全部、口からただれ漏れです。」 「はっ!わたくしったら、考えていることを口に出していたの!?」 なんだか、このセロシアという娘・・妄想癖までヴォルフに似ている・・これだと、暴走癖も持っていそうだな。 そう、呑気にコンラートが評しているとはしらず、こちらの舌戦はきっておとされた。 「とにかく、コンラッドは、王様なんてしないから!そんな運命思い込みデスーー!」 い〜〜〜だ!と、グレタが舌を出した。 「あら、ですが、かの王子は正当なるシマロンの王位継承者ですわ。それを、専属護衛になどさせて おくなんて、しかも、子守までなんて・・いくらなんでも扱いが酷いですわ。」 「ぶーー!コンラッドは、国内では十貴族と同じ権限を持っています!」 ちっちっち!とグレタは人差し指を立てて、左右に振ってわかってないな〜と、余裕をかます。 「ユーリ専属護衛はね?」 コンラッドの『趣味』なんだもん!(。*ゝω・*)b йё☆ 「グレタ・・・一応、仕事なんだけど。」 「グレタちゃん、うまいこというね〜。」 「趣味と表現するとは、グレタは観察眼が鋭いな!」 「猊下・・・ヴォルフまで・・・。」 たしかに、ユーリをかまい倒す様子は、趣味と実益を兼ねているようにみえる。 「趣味ですって?馬鹿お言いでないですわ!そんな趣味を仕事にしているなんて、聞いた事がないわ!」 と、いわれても、実際にここにいる人がそうです。 と、村田・ヴォルフラムは、心の中で突っ込んだ。 「いやー、こまりましたね?」 全然困ってないようにしか聞こえない声で言われても? 「コンラッド・・・・あの・・・本当におれの専属護衛でいいの?」 おずおずと、有利がコンラートを見上げた.やはり、他国の人からもコンラートの有能さはわかるらしい。 そんなすごい人に、護衛だけなんてさせといていいのだろうか? はっとした!村田が、ヴォルフラムの腕をつかむと、身を翻した!! 「うわぁ!何だ?ダイケンジャーー!」 「くるよ!!眞魔国新名物!悩殺ハニーフラッシュが!」 「なにぃ!!」 コンラートは、見上げてくる可愛い名づけ子と視線があうと、ほわり・・・と、その目を愛しさから 甘く蕩けさせると、優しく微笑んだ。 「ユーリ、おれにとって貴方の傍ら以外で、幸せになれることはないよ。」 「本当?でも、コンラッドはシマロンの正当な王だって・・・。」 「そんな、大昔の血筋なんて知りませんよ。第一、父にとってベラール王家の血など何も意味を持って いなかったですし、俺は魔族ですから。人間の王国の継承権なんて興味もありません。」 言ったでしょう?肩でも胸でも腕でも・・すべてを、我が王よ・・貴方に捧げると。 真摯な視線で、コンラートは、傍らの少年王を見つめる。 「貴方だけに・・・。」 キラキラキュラララァァ〜〜〜〜!!!! 掛け値なしの、コンラートの深い微笑が、有利に向けられた・・・全開のフェロモンと共に・・。 いやぁぁ〜〜〜ん、まぶしいくらいの笑顔♥♥ すてきーー! ばたり!ばたりと、有利の延長線にいた人間がまず倒れた。さすがは、悩殺フラッシュ! 余波でやられた模様・・・。が、コレを逃れたもの達にも第二派が襲いかかる。 「コンラッド・・♥♥」 それを受け止めて、うれしさに有利の目元が潤み、年上の恋人を見上げて、うん・・・と小さく頷いて 彼の袖をちょん・・とつまむと、はにかんで笑った。 うわぁ!かわえぇーー! なんて、初心で清らかな!! その乙女度130パーセントの初々しいお色気のハニーフラッシュ♥に、今度はコンラートの延長戦にいた者たちが倒れた。 「ユーリ♥」 「コンラッド♥」 途端に、かろうじて周りで生き延びていた人間にも、ハートの乱舞が襲い掛かる。 「「うっ!?」」 こ・・・これはっ!? そう、いうなれば、結婚式場で新婦から出される独特の『わたし達、今、しあわせでーーす♥』的な輝きが、 その場をキラキラと、何ともいえない甘酸っぱい空気に染め上げてゆく。 「あ〜〜、でたよ。新技が・・あれねー、彼のフェロモンと有利の色気がまざると、何であんなに 恥ずかしいんだろうね〜?あ・・また一人倒れた・周りの皆さん、ご愁傷様〜あはははは。」 遠くに逃げれてよかったと、大賢者様が乾いた笑いをこぼす。 「ユーリ、あのへなちょこめ!僕という婚約者がいながら!!」 ヴォルフラムは、コンラートとイチャツク有利にプンプン!と文句を言う。 「君も面白いね〜、お姉さんの時は、弟として有利を牽制し、お兄さんの時は、有利を心配するんだから?」 ビーレフェルト卿も、いい加減自分のスタンスきめたら? それにしても・・と、村田は はた迷惑なカップルを眺める。付き合い始めて、日の浅い二人。 出来立てほやほやのカップルは、自然と互いに向かって甘いものをだしてしまうのだ。 まぁ、それが、普通のカップルならばいい。 が、一人は、悩殺系のフェロモンを兄弟中ただ一人母親から受け継いだ青年であり、もう一人は、 天然乙女系の可憐で初心な色気を醸し出す少年なのである。 そんな彼らが無意識にただれ(←この辺りに非難が篭っている)流す互いへの甘い感情が、ハートと具現化して コツコツ頭に当たってくるような感じがするのは気のせいであろうか?? 現に一番近くにいたセロシアの口元が、ひくひくーぅ!!っと、引きつった。 これか!? 魔王が内面から輝くように綺麗に見えた原因は!? 彼に愛されている。そう全身で語る魔王のいうなれば、乙女オーラが、彼を数倍に輝かせていたのだ。 あまい・・あますぎて!! 「いやぁぁ、たえられませんわーーー!!!」 とうとう、あのセロシアさえも、一目散に逃げ出した!!しかも、涙目だ!! 「なんなの?何なんですの?あの二人は、男同士だというのに、何であんなに甘い空気を出せますの!?」 アレが魔王?アレが魔族?だとしたら、自分はとてもじゃないが、太刀打ちできそうもない気がする。 もう、自分のレベルを、すぽーーんと通り越していないか?? 競技会では、コンスタンツェとかいう、魔族に大差で負け、女としての力不足を露呈させられた上に、 その後の交流会では、その弟と見比べられ、それでも理想の伴侶を見つけたと思いきや?魔王に乙女力で 敗北を記してしまった・・・もしかして、自分はムチャクチャ女として無能なのでは?? よれ〜〜ぇ・・・〜〜(o_ _)oポテッ セロシアは、流石にダメージの大きさに、その場にへたり込んだのだった。 さて、その様子を見ていたのは、大賢者様。 どうやら、最終兵器の威力は、思った以上だったらしいね?これで、あのお姫様も、しばらくは 大人しくなるだろう? 当初の目的は、達したわけだ。 再び会場に視線を戻せば、コンラートがヴォルフラムに、無駄に色気を出すなとか厳重注意を受けていた。 結局、コンラートがいると、場が混乱するということで、彼は再びコンスタンツェの姿になって戻ってきた。 騒ぎの間に、彼女がいなかったことには、幸い気がつかれてないようだ。 「お母様、おかえり〜。」 「し〜〜、ただいま。気がつかれるといけないから、内緒でね?」 「コンスタンツェさま、お帰りなさいませ。」 ふふふっと、アグラ−ヤが、コンスタンツェを迎えてくれた。 「皆様、先ほどは、お助けくださり有難うございます。競技会に引き続き感謝します。」 「いいですのよ。アレくらいはたいしたことはないですわ。それに、コンスタンツェ様とは、 いい友人になれそうですしね。」 「えぇ、俺も、貴方方とは良い友情を育めそうでうれしいです。」 にこやかに談笑する美女二人。 「あら?先ほどって?」 バルバラとディアーナは、意味が良くわからない。そういえば、彼女らはコンスタンツェの正体を知らない。 「俺を縁談地獄からかばってくださったでしょう?」 縁談地獄?って、先ほどの騒動でしょうか? でも、あれはコンラート閣下の?? 「お二方とも、よくコンスタンツェ様の瞳を御覧くださいな?」 アグラーヤに言われて、よくみれば、前髪の奥から、琥珀に銀色に輝く美しい星が見えた。 コンラート王子と同じ色の・・・・。 「ねぇ、ディアーナ様・・・私今とんでもないことを思いついてしまいましたわ。」 「バルバラ様も?いやだ、私もですわ・・そんなこと・・あるわけないですわよね?」 そう、彼は王子だ・・男だ・・だが、目の前の美女は・・女・・・。 「えっと、多分その思いつきで、あっていますよ。」 「うん、グレタのお母様は、男だもん。」 え・・・・?? 「「えぇ・・もごもが!!」」 アグラーヤが、叫びだしそうな二人の口を間一髪押さえた 「コンスタンツェさまこそ、コンラート王子の仮のお姿なのですわ。」 冷静に告げるアグラーヤに、二人は二重に驚愕する。 「あ・・・。」 その時、コンスタンツェ・・いや、コンラートが、流れる楽曲が変わった事に気が付いた。 しっとりとした、チークの音楽から、軽妙な音楽に変わったのだ。 「アグラーヤ様、曲が変わりましたよ、お約束どおり一緒に踊りませんか?」 「まぁ!いいですわね。ほら、バルバラ様も、ディアーナ様も!」 コンラートがグレタをつれて、アグラーヤが呆気にとられている二人の王女を連れて踊りの輪の中に 入っていった。 あら? まぁ! 会場の中央では、愉しそうに女性陣が手をつないで輪を作って踊っていた。 話題の母娘を中心に、世界一の美女達が踊る様は美しくも微笑ましい。 「コンスタンツェさま、回しすぎですわ!」 「あははは、すみません、つい。」 王女達が年相応の少女の顔で、きゃぁきゃぁ言いながら踊るのは、実に愉しそうだ。それに、一人一人が 高いレベルの踊り手なのでそのダンスは華やかで目に麗しくも心に温かいものがくる。 先程のコンラート王子とセロシア公女の高レベルの完成度の高いダンスを温室の薔薇と例えるならば、 こちらは野原一面に咲くスミレのような・・・どちらも美しいが、趣が少し変わる。 「お父様達も踊ろうよ〜!」 グレタが少年達を呼ぶ、三人は顔を見合わせると、近くにいたベアトリスまでも引っ張り出すと、その輪の中に 加わった。すぐさま、コンラートがユーリの手をとると、踊りが苦手な彼をリードする。 楽団が、彼女達にあわせて、軽妙な音楽を続けて奏でると、おもしろがったヒスクライフ氏が夫人をぶんぶん 回しながら踊りだした。それを見ていた人たちも、一人また一人と、あちらこちらで同じように輪を作って複数で 踊りだした。人間も魔族も、平民も貴族も、大人も子供も、男も女もない。 「ねぇ、ユーリ見て?皆楽しそうだね?」 コンラートは、有利を回しながら話しかける。その瞳は、キラキラしてとてもうれしそうだ。 「うん、なんか、こういうのって良いよね!」 そう、そこには、長年コンラートが夢見てきた世界があった。数年前までは、考えられなかった、 魔族と人間が笑いあう世界。 狂うしいほど求めた時があった。魔族というだけで、人間というだけで互いに憎しみ合わねばならなかった時代。 では、両方の血が流れる己はなんなのだ? もちろん、自分は成人の儀の時に、魔族として生きる道を決めた。 それに、後悔などはない。 だけれど? 魔族であろうが、人間であろうが、心優しい人々がいる。それを種族が違うからといって、憎しみ合っていて 良いのだろうか?現に愛し合い、自分達のように混血児という存在がいる。 ただ、違うからと憎しみ合う双方の在り方に、コンラートは、ずっと苦しめられてきた。混血児など認めては ならないという人間に・・魔族に・・双方に存在を許されないで来た。 なぜだ?語り合えば分かり合えることもあるはずなのに!? そんな声さえあげることを許されなかった時代が、ほんの数年前まであったのだ。 それを変えたのは、この目の前の太陽のような少年王。 当たり前のように、コンラートの考えを具現化してしまった、そして・・今では当たり前のように 二つの種族が同じ場所で、笑いあい、語り合い、こうして手を携え合える・・・なんて素晴らしいのだろう! 「ユーリ。」 「なに?」 「ありがとう。」 透明な瞳でコンラートが有利にそう伝えた。 有利はその意味がわからなかった、え?なに?という目で、彼を見返している。 「なんでもありません、ただ・・・伝えたかっただけです。」 ありがとう・・こころから・・・ にっこりと、笑って見せれば、有利が途端に真っ赤になった。 「あれー?ユーリ真っ赤だよー?」 どうしたの?と、愛娘が見上げてきた。 「なんでもない・・なんでもないぞ!グレタ!」 ちょっと、間近で見たコンラートの笑顔が眩しかっただけだ・・なんていったら、自分の身が危ない! なにせ、目の前には、美女の皮をかぶった狼さんがいらっしゃるのだ。 だが、もちろん、有利のことは何でもお見通しであるコンラッドには、そんなごまかしは通じなかった。 「本当だ?ユーリ真っ赤ですよ?どうしたんですか?」 と、わざとらしくもツッコミを入れてきた。 「コンラッドォォ〜〜、アンタ、何気におれで遊ぶのやめろよなっ!」 「すいません、つい・・」 ユーリがあまりにも可愛くって♥ たらし全開で言うコンラートに、有利は間違えたふりをして、おもいっきり足をふんずけてやったのだった! ただ、同じ時を過ごし、笑いさざめき楽しく過ごす人々、この日の交流会は大成功を収めておわった。 なお、コレには後日談が付く。この後国に帰った出席者によって、一連の話が国許に広がり、眞魔国へは 国交を開きたいという申し出が、どっと押し寄せた。 人間と魔族が互いに共存し合える未来に、また一歩近づいたことに、魔王陛下とその護衛はいたく喜んだという。 2月25日UP これで一区切りが付きました。コン王子もコンスタンツェ嬢もご活躍でしたね。 |