10万打記念企画 逆転劇的・魔王誕生! |
やられた・・・・・。
摂政フォンヴォルテール卿グウェンダルは、きちんと積みあげられた書類の向うにいるべき人物が いないことに気がついた。 ほんの数分・・・別室で部下の報告を聞いていたというだけなのに・・。 「きゃぁぁーーー!陛下?陛下は、いずこーー!?」 丁度、そこに帰ってきた王佐であるフォンクライスト卿ギュンターが、奇声を上げて執務机の周りを 探している。しかし・・・。 机の下を探している同僚に、そんな所に魔王がいるわけなかろう?と、ついついこめかみを抑えて唸る。 「ギュンター無駄だ・・仕事はしていったらしい・・・あきらめろ。」 そう、仕事はきれいに終っていた。ということは、逃げる気満々で機会を伺っていたと言うことだ。 これは、早々帰ってくる気はないらしい。 「まったく、あの子は!魔王になれば少しは落ち着くかと思ったのですが・・。」 4000年続く眞魔国にて、初の混血の王である第27代魔王陛下は、麗しくも精悍なお姿であり、幅広い 知識に、思慮深くも大胆な発想の持ち主であり、行動力・決断力もよいのだが・・・ただお一つ・・ 臣下泣かせの癖の持ち主である。 いわゆる、それが、これ・・・脱走癖と放浪癖である。 放浪の方は、さすがに発揮されることはないのだが、脱走癖のほうは、度々発揮されている。 最初のうちは、軍を投入して探してはいたのだが、散々探して見つからないうえに、ちゃっかり いつの間にか戻ってきて、仕事をしているのだから、あれは一種の息抜き・・仕事もしていくのだから 後は臣下の方でどうにかしようという風調に変わった。 「それに、今日は午前中、貴族との謁見があったからな・・陛下もお疲れなのだろう・・・。」 「そうですね・・・。」 そのころ、コンラートはというと? お忍び服に着替えると、色ガラスを瞳に入れ、その特徴ある瞳を隠すと、愛馬を駆ってとある場所を めざしていた。それは・・・王都を見下ろせる場所にある記念碑。 20年前の戦争で犠牲になった者たちへ慰霊碑であった。 ここには、コンラートの仲間が眠っている。 彼は、何かあると ここに来ては、仲間の御霊に話しかけていた。 あの戦争から20年がたった・・・俺が即位して15年か・・。 今のところ、国内は順調に回復を見せていた。だが、それだからこそ気が抜けない。 散々、混血風情がと、辛く当たられてばかりであった100年の歳月は長かった。コンラートの心に 深い傷を残すほどに・・・それが魔王になった途端に手の平を返された。 だからといって、コンラートはそれで手放しで喜んだりはしない。自分が失敗すれば、再び混血の 危機が来るのだから・・・。 未だに、混血で魔力を持たない自分が、王として君臨することを良しとしない連中がいる。 今日の謁見もそんな一人だった。隙を見せてはならない!相手が何を言い出しても、即座に返さなければ! 「疲れた・・・。」 ぽつり・・と、コンラートは本心を零すと、静かに目を閉じた。 彼の父親は、人間であり旅の剣士であった。ゆえに彼は、国内に後ろ盾を持たない。また、混血である 彼の後ろ盾になろうと言う者もいなかった。それ故に、20年前の戦争時、王子であるにも関らず、混血の象徴で あった彼は、決して生きて帰ることは出来ないだろう最前線へ送られた。それも、物資も乏しく、補給も 望めず、ただ死ぬ事を望まれて混血児のみの部隊を引き連れて向かわされたのだった。 だが、彼は自らも生死を彷徨いながらも、敵を退け、眞魔国に勝利をもたらした。 結果、混血達のその部隊と指揮を取った王子は英雄となり、民の信頼を得た彼らに、貴族達もうかつに 手出しが出来なくなった。 そして彼にはこの戦争の成果により、この国の最高の貴族、十貴族と同等の権利を与えられた。 が・・コンラートは、自分お役目は終わったとばかりに、ふらりと旅に出てしまった。 人々は、ウェラー卿は、この国に愛想を尽かしてしまわれたに違いないと、不遇な王子に同情をし、 対する貴族達の仕打ちに嫌悪をつのらしたのであった。 そんな中、国内がやっと平穏になってきた頃・・・彼の母親であった26代魔王は、いきなり退位を 発表した!それこそ、長年頼みとしていた兄であり、摂政であったフォンシュピッツヴェーグ卿 シュットフェルにさえ、相談もせずに! おかげで、シュットッフェルは何の根回しも出来ない前に、ツェツィーリエは退位して自由恋愛旅行と 称して姿をくらましてしまったのであった。 こうなっては仕方ない・・。 国の重鎮達は、新たな魔王を迎えるしかなかった。 この国では、王都にそびえる魔王の居城・血盟城から、少し離れた山間に眞王廟なる、この国を建国された 始祖・眞王陛下をまつる場所がある。男子禁制のそこは、言賜巫女ウルリーケを初めとする魔力の高い 巫女達によって守られている。 眞王陛下の御霊は、4000年の長きに渡りこの国を見守り、唯一魔王の選定の時のみ、その言葉を彼らに 伝えるのであった。 次代魔王は、息子たちの誰かか?長男であり、次代魔王に相応しいと常々噂されていた、 王太子フォンヴォルテール卿グウェンダルか?はたまた、年は未だ幼いがその分可能性のある 三男フォンビーレフェルト卿ヴォルフラム王子か? 貴族達はどちらに付いた方が得か?己の利権を絡めて、始祖眞王陛下からの神託を待った。 しかし、今回に限って魔王となるべきものは、未だその時を迎えていない・・そう言うと、 始祖たる偉大な王は沈黙してしまった。 さぁ、こうなると、その真意をめぐって、貴族達は色めきたった! 王太子グウェンダルについていた者はあわてた、彼はもう王として十分にやっていけるだけの器量も才覚も 持っていたし、国民からの信頼も厚い。年齢も100を超えていた。 魔王は、その時を迎えていない? つまりは、グウェンダルではないのか? 逆に、勢い付いたのがヴォルフラム派である。彼は、グウェンダルに比べて63歳とまだまだ子供とも いえなくもない年齢で、性格も素直な反面、短慮なところがあり、性格的にはグウェンダルと比べて 未熟といえる。 つまり、ヴォルフラムが魔王に相応しく成長すれば、その時任命されるということか?? いや、それは違うという者もでた。まだその時を迎えていない・・つまりは、まだ王はお生まれに なっていないのだ。これから生まれる赤ん坊の中にきっと魔王陛下が居るに違いない! 憶測が憶測を呼び、それなりに良好だった渦中の兄弟達の仲は、次第に冷え切っていった。 そんなある日、ひょっこりとコンラートが帰ってきた。 戦争の後の虚脱な影は、なりを納め、明るい笑顔を見せるようになって・・。 「それで、何をしているんです?兄さん?」 帰ってきたコンラートは、グウェンダルをそう呼んだ。 それまで彼は、兄と弟とはいえ相手は血統正しい十貴族の父を持ち・・自分は父親が人間・・ それも旅の剣士だった為に、貴族といっても末席にお情け程度に居る身・・普段から兄だとか呼ぶことも、 こうして自室まで来て、グウェンダルと会うこともなかった。 それが、帰ってくるなり自室を訪ねて、苦笑してそう切り出した。 「何って・・・お前こそ、勝手にいなくなって!いつ帰ってきた?」 「えーと、一年前かな?」 「何?一年!?何でもっと早く知らせに来ない?」 「うん、ちょっと子育てしていてね。忙しかったもので・・それに、魔王選定になんて、 俺は関係ないですし〜。」 のっほほ〜〜んと、どこ吹く風の弟。これがあの!戦時中、獅子と謳われたウェラー卿だろうか? 「コ・・コンラート、お前結婚したのか?」 「いいえ、養いっ子が一人出来たんです。おしめ変えて、ミルクを与えて、あやして・・ 毎日めまぐるしくって楽しいですよ。兄上もアニシナと結婚して子供を作ったらどうです? 権力争いなんて暇ないんですよ。」 「ぐ・・・。」 私とて、したくてしているわけではない! つい、のほほんとした口調の中に、非難めいた棘を感じて、グウェンダルが言い返す。 そう・・・何が悲しくって、末の弟と権力争いなど しなくてはならないのかと、自分だって言いたいのだ! そうですか?では? それを聞くと、ぐいぐいっと、コンラートは笑顔で兄を引っ張り出した。 「まて!コンラート!どこへつれてゆく!?」 ざわり・・! 久々にその姿を見た、国の英雄ウェラー卿コンラート王子が、王太子であり兄であるグウェンダルを 首根っこを捕まえて引っ張っていった。向かう先は、気のせいでなければ? フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムの部屋である!? これは魔王候補同士の直接対決か!?色めきだつ周囲。救国の英雄・ウェラー卿は王太子についたのか? いや、それにしては様子がおかしい、きっと昔、可愛がっておられた弟王子に付いたに違いない! どちらにしろ、英雄・ルッテンベルクの獅子が付く陣営のほうが、国民に広く支持を受けることは 間違いない!これは、勢力図が変わるかもしれない!? その場に居合わせた者達は、二人の行く先を見ながら、これから起こるだろう事に不安と期待を滲ませた。 コンコンッ! 形ばかりのノックをすると、入室の許可も待たずに、コンラートは ズカズカと入ってゆく。 「な!お・・お前は、ウェラー卿!?いつ帰って・・いや、その前に誰が入って良いなどと!」 「ヴォ〜ルフ?お兄ちゃんに向かって、お前とか言っちゃぁ いけないよ?」 にっこり♥ 爽やかに微笑まれて、ヴォルフラムは一瞬言葉を失う。前の彼ならば、そう言えば何も映さない瞳を こちらに向けて、ただ一礼をしてヴォルフラムの前からいなくなっていたというのに。 その度に・・・ヴォルフは、僅かな胸の痛みを覚えるのだ。 なのに・・・ 「だ・・誰が兄だ!卑しい人間のくせして、僕はお前など!兄と・・」 習慣とは恐ろしい、ヴォルフラムはまたもや、つい悪態をついてしまった。 「俺は、魔族だよ?いやだな〜?もうその年でぼけたのかい?」 ニィィィッコリ♥ 「「ひっ!?」」 今度の笑みは、なにやら怖い?つい、自分に向けられたのでもないのに、グウェンダルまで 顔が真っ青になった。 ちょっと来てもらおうかな? ニコニコニッコリ♥ その顔は笑っているのに・・・いるのにぃぃ??何でこんなに怖いんだ?? 同じく弟の耳をつまむと、そのままグウェンダルと一緒に引っ張ってゆく。 着いたのは中庭。ここは、母であるツェリが花の改良に勤しんで、己の息子達の名前を関した 花を育てている場所だ。 「いや〜〜、外は気持ちがいいね?」 たしかに日差しは暖かい・・だけれど・・ ((コンラートの笑顔の冷気はそれ以上だぁ!!)) 「さて、ヴォルフラム?先ほどの発言についてだけれどね?」 ごぉぉーーーー!!!! コンラートから発する冷気が、ブリザード並みに吹き荒れる!? そういった生意気な口はね?せめて、何かしてから叩いた方がいいんじゃないかな? この前の戦争?ヴォルフの年で出ていたものもいたよ?でも、お前は王都から出ることはなかったよね? なのに?俺たちがやっと勝ち取ってきた勝利の上に胡坐をかいて?指名されてもいないのに、 王座をめぐって兄弟で争っているんだってねー?噂だと、内戦が始まるかもしれないんだって? 「グウェンダル兄上?」 「はい!?」 急に呼ばれて、グウェンダルは思わず直立不動で返事をした。 「内戦が始まれば、人間の国は嬉々として再びこの国を攻めましょうぞ?」 「それは!わかっている・・・だから、私も内戦だけは避けようと努力を・・。」 ほう? 「では、ヴォルフラム?お前はこの国が再び戦火に巻き込まれたとき、一体どうするつもりだ?」 「どうって、決まっている!僕自ら勇猛果敢なるわが国の兵を率いて。」 それに、コンラートは、ふっと鼻で笑った。馬鹿にされたと思ったヴォルフラムは、彼に向かって 噛み付くように言った。 「それに僕は、僕には理想がある!魔王となって、この国を・・眞魔国をこの世界一の王国にするという! そして世界に君臨し、真に優秀な種族である魔族が、愚かな人間を導いてこの世界を平和にするのだ! そうすれば魔族の歴史に輝かしい時を刻むことができる!」 どうだ?参ったか!というように、ふんぞり返る弟にコンラートは、にこやかに笑った 理想?で?その理想とやらのために、国民をどのくらい殺すつもりかな? 「な!?」 そんな、勇猛果敢とか美辞麗句を尽くすってことは、戦争を知らない・・または、自分の手を 汚すことのないものが言う言葉だ。 「うっ!?」 たしかにヴォルフラムは、上の兄二人と違い戦場に出た経験はない。まして英雄であるすぐ上の兄・ ルッテンベルクの獅子とまで呼ばれたコンラートのような才覚があるかといえば、それは疑問だ。 魔術は国でも有数の使い手である自信はある。だが、戦争において、魔術も法術も互いに抑えられて しまうし、まして国内ならともかく、人間の国に行けば、法力の満ちる場所では、自分達純血魔族は 足手まといにしかならないことは、明白であった。 「やめろ、コンラート!」 ヴォルフラム・・お前のために何人が戦ってくれるんだ?そして、お前は、王座に付くために何人 魔族を殺すんだろうね?そうやって得た王座に、お前は何日座れるかな?侵略国シマロンは、着実に 戦争から復興し、成長の早い人間は兵士を新たに増強している。その中で、国内で争っていて、敵国が その好機を黙って見守ってくれるとでも思っているのか? お前が王となってもそこに王座がないとしたら、お前はどうする?国が滅びたら?お前達は、 どう責任をつるつもりだ!?その時、お前は最低最悪の王として、魔族の歴史に名を刻むだろう! 「う・・・ぁぁ・・・ぼく・・は・・。」 がっくりと崩れ落ちたヴォルフラム・・・まだ年若く、理想に燃える少年には、コンラートの現実を 帯びた言葉は重すぎた。 「そんなやつの事を聞かなくても良いぞ、ヴォルフラム殿下。」 「叔父上。」 そこに現れたのは、現ビーレフェルトの当主・フォンビーレフェルト卿ヴァルトラーナだ。 「27代魔王には、お前が一番ふさわしい。お前が魔王になれば、国民は麗しく理想に燃えた王を頂き、 自然と王の為に働くであろう。」 「叔父上!」 けっ・・・。 「「「け??」」」 今?けっとか言ったのは?まさか・・目の前でにこやかに微笑んでいる彼であろうか? 「俺の弟を、変に洗脳しないでもらおうかな?」 「なんだと?誰に向かって?」 「貴方に言っているのです、ヴァルトラーナ閣下?」 お忘れですか?俺は、十貴族と同じ権限があると・・・。それを頼みもしないのに下さったのは? 貴方方、十貴族でしたよね? にこにこにこ・・・・ こ・・こわい・・。 廊下で固唾を呑んで見守っていた兵士も、運悪く通りかかってしまった貴族も・・皆コンラートの 笑顔になにやら、底知れぬ怖さを感じた。 これが、ルッテンベルクの獅子!! かつて、もはや陥落寸前のアルノルドに赴き、わずか4000の兵で20000の大群を退けた英雄ルッテンベルク師団! その指揮官であり、剣聖と呼ばれた凄腕の剣士でもある、コンラート王子。 その髪を振り乱し戦う姿は、いつしか敵味方問わず獅子と呼ばれるようになった。 「ルッテンベルクの獅子だ・・。」 「ルッテンベルクの獅子が戻ってきたんだ・・。」 「ヴォルフラムは返してもらいます。」 「な・・それは私の甥で・・」 「この子は、俺たちの弟だ!グウェンダル兄上、ヴォルフラムを連れて行きますよ。」 「あ・・あぁ・・。」 「ちょっとまて・・!コンラート!ぼくはっ・・」 ヴォルフラムは、叔父に視線を走らせる。だが、その間に、コンラートが割って入った。 「ヴォルフは本当に、グウェンと争いたいのか?兄上ってあれほど慕っていたじゃないか?」 「・・・それは・・。」 迷いを見せる弟に、諭すようにコンラートはたたみ掛ける。 「残れば、グウェンと戦うことになるよ。それで、彼を殺すの?」 「僕は、そんなことはしない。兄上には、摂政となっていただいて、未熟な僕を導いていただくつもりだった。」 「そんなこと、シュットフェルが許さないよ。このまま争ってお前が王になれば・・・政敵である俺たちは 二人とも殺される。」 「そんな!本当ですか?叔父上?」 うそだといってください!そう、すがる様に振り向けば?彼の敬愛する叔父は、それがお前のためだ・・ そう苦くつぶやいた。 「ヴォルフラム・・・・一緒に行こう?」 にっこりと、やさしく微笑むのは小さいころ、大好きでいつも付いて回っていた、すぐ上の兄。 いつでもかならず、自分が困っていると助けてくれたのは、この兄であった。 「ちっちゃい兄上・・。」 それは昔、幼いころ呼んでいたコンラートの呼び名。 「ヴォルフラム・・まて!!」 ヴァルトラーナが、静止するも、ヴォルフラムは二人の兄の元に飛び込んでいった。 それを、二人は手を広げて受け止めた。兄弟三人が数十年ぶりに抱き合った瞬間である。 「こうなれば!」 ヴァルトラーナが魔力をため始める。 が、そんなこと、コンラートが許すはずもなく。 どごぉぉーーー!!! 思いっきり空中とび蹴りが、男の額に炸裂した。 「俺の邪魔をするな!」 お前らのせいで・・・俺は! 憎らしげに、コンラートがつぶやく。 そうだ・・彼は、かつて、ヴォルトラーナやシュットフェルなどに、最前線へと送られ、大切なものを 失っていた。その責任は、グリーセラ卿がかぶって罰を受けたが、彼の真の敵たちはのうのうと権力を ほしいままにしているのだ。 「俺は、お前らが馬鹿な争いをしているおかげで、母上に泣きつかれて、可愛いユーリの 子育てを中止して、ここまで来ているんだからな!もしも、帰ったときにユーリが泣いてたりしたらぁぁ! お前ら全員血祭りだ!」 はい??なんですかそれ?? 「ユーリって・・誰ですか兄上?」 「コンラートが今育てている養い子らしい・・。」 そこへ、タイミングよく うぇうぇっ!!と、微妙にシャウトしながらなく幼児のの声が! 「コンラート!どこなのぉ?もう、ユーリちゃんが泣き止まなくって・・。あら、ここにいたのね?」 「「は・・ははうえ?」」 あまったるい声で乱入してきたのは、彼ら三兄弟の母親で、騒動の発端となったくせに、恋愛旅行と称して 行方をくらましていた、26代魔王陛下だ。 「母上!ユーリをこちらに。」 コンラートは幼児を受け取ると、優しい声で子守唄を歌い始めた。すると、あれ程泣いていたユーリは ぴたりと泣き止み・・・にっこぉぉーーと、名づけ親に笑いかけた。 「きゃぁぁ、かわいいーー!」 「でしょう?俺のユーリは、国一番の愛らしさです!!」 知らなかった・・・どうやら、コンラートは、親ばかだったらしい・・・・。 それにしても・・・ 「母上、今までどちらに?」 「あらん、どちらもこちらも、次の魔王がうろちょろして捕まらないから、ちょっと合間に 殿方との恋愛を楽しんでいただけよ〜?」 「「「次の魔王?決まっているんですか?」」」 「ええ。」 こともなげに言ったツェツィーリエに、周りが一斉に驚く!決まっているなら早く言ってくれ! この険悪な数年間を返してほしいと、その場にいたものは誰もが思った。 「それは、本当か?ツェリよ。」 そこに、彼女が戻ったという知らせを受けて、シュトッフェルが駆けつけた。彼にとって、 ツェリは可愛い妹であり彼の権力の後ろ盾でもあるのだ。 「えぇ、本当よ?皆様、眞王陛下のお言葉を覚えているかしら?」 魔王となるべきものは、未だその時を迎えていない。 それはつまり、彼がまだ魔王になるべくして、必要なものが欠けていたのよ。 それは? 「えぇ、開き直りよ!」 ひらきなおり?? そ・・そんなものでいいのか?? 「もう、うろちょろするから、中々捕まえられないし、あたくしも苦労したのよ。なにせ、この子ったら 獣道をこえて、旅をするものだから・・まったく、そういったところはダンヒーリーにそっくりね?」 「ええっと、すみません?もしかして、母上は俺を探していたんですか?なんでまた?」 「だって、貴方が27代ですもの。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 「だから、27代魔王陛下の指名は、貴方だったのよ!」 ・・・・・・えぇぇぇぇえ〜〜〜〜〜!? 新魔王陛下が、王太子でもなく・王子ヴォルフラムでもなく? 第二王子ウェラー卿コンラート殿下!? 「・・いやです。」 え・今断ったか?? 「そう言うと思った。だけど、眞王陛下のご指名なのよ?」 だから?なんです?俺は子育てで忙しいんです!こんな権力争いしている連中の面倒まで見れません。 と、コンラートは、シュットフェルら、その腰ぎんちゃく達をあごで指す。 「大丈夫よ、お兄様たちは、あたくしがやめれば自動的に降格ですもの?貴方は、好きに側近を 集めればいいわ。それこそ、混血でも純血でも貴族でも平民でもいいわ。」 「ツェリ!お前なんていうことを!」 シュットフェル達は、驚いて口をぱっかり空けたまま固まった。だが、ツェツィーリエは、そんなことには 頓着しない、サクサクと話を進めてゆく。 「だぁって〜。お兄様達ったら、あたくしの息子をいじめてばかり、いい加減あたくしだって怒りますのよ?」 「そ・・そんな〜。」 この瞬間、彼らの失脚は決まった。 どう?っと、ツェツィーリエは、息子を見た。彼女は知っていた、彼がひそかに野望という名の 理想と持っているということを・・・。 「それに、ユーリちゃんは、大丈夫よ?フォンウィンコットで預かってくれるそうだから。 私の友人のジュリアがね、この子を引き取ってくれるそうよ。」 「スザナ・ジュリア・・・って?あの、眞魔国三大魔女の白のジュリアですか?」 「そうよ、見ればこの子は、巨大な魔力を持っているわよ。彼女くらいの魔力がなければ、 この子の力を制御して育てるのは、きっと難しいわ。」 「魔力!?ユーリが?でも、この子は混血です!母親は確かに、人間だったのに!?」 それは、一年ほど前のことだった。 戦争で部隊の9割を失い、なのに自分は生き残り、英雄とまで言われ、地位まで得てしまった。 それなのに、故郷や生き残った部隊の者は、誰一人コンラートを責めずに、逆に感謝されることが 辛くて・・国を出て人間の国を旅していた。 それが一年前に、眞魔国に近い人間の国で、赤ん坊を託された。人がまったく通らないような山奥で、 その声を聞いた時、猫の子供でもないているのかと思った。だが、猫とも違う・・弱々しい声に、 惹かれるように彼は歩いていった。しばらく歩いた先には、小さな洞窟があり、泣き声はそこからしていた。 「だ・・・・れ・・・?」 しわがれた声を掛けられたのはその時。 「俺は旅の者だ・・・貴女は?」 はっとした!そこにいたのは、もう助からないだろう女性と・・生まれたての赤ん坊。 「しっかりして!」 コンラートは、その女性を抱き上げた。ぜぃぜぃっとする息も苦しそうだ。 彼はすばやく、皮の水筒を口元に持ってくると、ゆっくりと傾けて慎重に水を中にと流し込んだ。 はぁーー。 おいしい・・・ 満足そうに彼女は息をつくと、腕の中の赤ん坊を彼へと差し出した。 コンラートが、その子を受け取ると、お願い・・そういい残して彼女は息を引き取った。 コンラートはその亡骸を、埋めると簡単な墓を作って・・困った。 自分は、母乳などでないし、かと言って・・ミルクの持ち合わせもない。そこで、森を分け入り果物を 取るとつぶして果汁を与えた。 とにかく、どうにかしてミルクを与えないと!だが、人里に下りるのもまずそうだ。 何故なら・・?この赤ちゃんは自分と同じ混血らしい。 先ほどの母親らしい女性は、間違いなく人間であった。だが、この子は・・この子の持つ色は 人間ではありえない色。黒・・魔族の貴色であり、人間では忌み色であるこの色を・・よりによって 髪と瞳・・両方に持ち合わせていたのだ。 それは双黒といい、4000年前、建国の始祖眞王陛下の下、その英知を使って彼らを導いた偉大なる 双黒の大賢者がなくなりし後、一人としてこの世界に生まれてきていない。もはや、黒髪でさえ 滅多に魔族の間でさえ生まれてこなかったのに。 この子は、この小さい身で、双黒というだけで人からは厭われ、魔族からは崇められ、中には利用 しようとするものもいよう?そんな中で暮らしていくのは、あまりにも不憫だ。 俺が守ろう。この子を・・・。 「大丈夫だからな・・・俺が、君が大人になるまで守ってあげるよ。」 そう決心して腕の中の子供に告げると? にっこぉぉーーー!!!と、かわいらしい笑顔で、コンラートに笑いかけたのであった。 どっきゅーーん!♥!その無垢な笑顔に、コンラートは一発でやられた。 「そうだ、7月生まれだからユーり!って、どうかな?夏に生まれた子は、暑い盛りを乗り越えるから祝福される。 きっと、ユーリも幸せにするからね!」 こうして、最愛の名づけ子を得たコンラートは、密かに眞魔国へと戻りユーリを育てていたのである。 混血児のはずだ。あの時、確かに彼女はあそこで子供を生んだはずだ。現に、成長したユーリには、 母親の面影がある。だから、彼女の子供であることは間違いない。そして・・彼女は人間だった。 「あら?しらないの?混血が魔力を受け継がないか、巨大な魔力を受けつぐかどちらかなのよ?ほとんどが 前者なのだけど、ユーリちゃんは、どうやら後者だったようね?多分、わが国最高の術者になるわよ。」 「巨大な魔力?ユーリが・・。」 彼は、腕の中の赤子をみつめる。この小さな体に、そんな大きな力を秘めているなんて。 「コレだけ大きな力だと、魔力を制御するのも大変よ。それこそ、小さいときから教え込まなければ。 この子の為を思うなら、しかるべく相手に任せなさい、そして貴方はこの子の未来の為にやるべきことが あるでしょう?」 「・・・それは・・魔王になれと?」 「えぇ、そして、混血も純血もない世界を築くのです。」 本当は、貴方はそれがやりたかったのでしょう? 「!!」 まさか、この母がそれを知っていたなんて!? 「ごめんなさい、コンラート・・・あたくしには、貴方の夢をかなえる力はないわ。」 だから、貴方にこの座を譲るだけ・・・。 「母上・・・?」 「あぁ、誤解しないで、あたくしが無理に頼み込んだわけではないわ。眞王陛下も元々貴方を次の王にと 考えていたらしいの。これからの時代には、混血の力が必要になる。そして、その力を扱えるのは・・ コンラート、貴方しかいないのだそうよ。」 「俺しか?」 「コンラート、少しでもやりたい気があるなら、やってみるがいい。」 「兄さん?」 確かに、もしも自分に力があったなら、変えてやりたい事はあった。だけれど・・・。 「あるのだな?ならば、コンラート、私がお前の力となろう。私が、これからは、陛下を支える柱となる」 「!!」 「わたくしも、手伝いますよ。」 「ギュンター先生!」 「もちろん俺もですよ!ひさしぶり?たーいちょ!」 「ヨザ!!」 いつの間に現れたのか?かつての師匠と、幼馴染の親友がそろって手を振っていた。 「コン・・コン!」 はっと、コンラートが腕の中を見た。にこにこと、ユーリがコンラートに向かって手を伸ばしていた。 「ユーリが、しゃべった?」 そう、まだ一歳であるユーリが、はじめてしゃべったのである。それも、自分の名を呼んだのだ。 「コン・・こん!・・・きゃぁう!」 まるで、自分も力になると言っているようであった。 「ユーリ・・・。」 すりりと、その柔らかな頬に、己のを重ねる。温かな命・・・この命が健やかに育つために・・。 わかりました。 コンラートは、ゆっくりと前を向く。その瞳には、確固たる覚悟が芽生えていた。 「27代魔王、確かにお受けします。」 こうして、史上初の魔力を持たない王。混血の魔王が誕生した。 2月27日UP 魔王誕生秘話です。こんなそんなで彼が魔王です。すでに、ユーリにメロメロですね。 ところで・・こんなコンラッドさんでいいのでしょうか?ちょいと、シリアス〜♪ |